広島駅北口巨大「湯崎」病院構想に暗雲 さとうしゅういち

湯崎英彦・広島県知事が広島都市圏の病院を統廃合して2030年度の開院を目指している、広島駅北口の巨大病院構想に暗雲が垂れ込めてきました。

湯崎知事は、広島市南区宇品にある県立広島病院=通称・県病院=、広島市中区にある中電病院、そして広島市東区の広島駅北口のJR広島病院及び広島県立広島がん高精度治療センター(これ自体が、湯崎英彦知事の肝いりで出来ました)の4病院を統合し、独立行政法人の巨大病院を1300~1400億円かけて開設しようとしています。

JR広島病院はまだ新しい建物になって10年も経過していないのですが、新巨大病院の立体駐車場に作り替える計画でした。ところが、このところの建築資材や工賃の高騰で、1300~1400億円とされていた事業費が「大幅に増える」見込みとなったのです。

広島駅北口にあるJR広島病院(広島市東区)

これを受けて、これまでは、このいわゆる「湯崎病院」推進一辺倒に近い論調だった地元マスコミにも変化がみられます。

統合予定JR病院 引き続き医療関連施設とする案が浮上(NHK 広島県のニュース)

解体予定のJR広島病院 整備費高騰で建物活用に変更も 広島県新病院計画

◆若い医師を引き寄せる?!

そもそも、県立広島病院=県病院は、国の公的病院の再編計画の対象外です。現状で何か問題があるわけではないのです。ただ、湯崎知事ら県幹部は、『新病院を東京や大阪と肩を並べる高度医療・人材育成の拠点とする』『最新鋭の機械で若い医師を東京などから引き寄せる』と豪語しておられます。

随分と挑戦的な取り組みです。そもそも、医師に限らず、若者の多くは広島からいったん出て行く。東京でいわば煌びやかなことも経験して、しかし、東京の悪い部分も知って、30代、40代、50代で広島に戻ってくることも多い。身近な例で恐縮ですが、筆者の父親も今年84歳になりますが60歳で東京から福山市内の実家に戻るようになり、現在は東京と広島両方で仕事を続けています。

医師とて一人の若者。若い先生方を引き留めようというのも無理があるでしょう。筆者自身は逆に、大学まで東京ど真ん中を堪能したからこそ、広島での生活が長続きしているのかもしれない、と思っています。ですので、東京や大阪と同じ土俵で競うことは自滅の道でしかないと考えています。最近の広島の問題はむしろ、中堅世代も人口流出に転じている点です。

◆地域医療の現場を支える先生方にこそ報いを

さて、事業規模を見直せば、東京の若手医師を満足させるには余計に不十分なものになるでしょう。また、最新鋭の機械にあこがれて来るような先生方と地域医療のしんどい部分をになう先生方では人物像が異なってくるでしょう。地域医療のしんどい部分を担う先生方を確保するのであれば、東京から一定程度経験を積んだ先生方にUターン、Iターンしていただきやすいような環境整備をすればよいことです。

具体的には、第一に収入のアップです。第二に、労働環境の改善です。例えば、今、ペイシェントハラスメント(患者や家族による暴言・暴行など)がようやく注目されてきてはいます。埼玉県ふじみ野市では2022年1月27日、渡辺宏被告人が「母親を生き返らせろ」などと理不尽な要求をした挙句にドクターや介護士を殺傷した事件が起きました。その事件を教訓に『ふじみ野市地域の医療と介護を守る条例』が制定されました。こうした他地域の例も参考にしながら、先生方が働きやすい環境をつくっていけばいいのです。巨大病院をつくる必然性は何処にもない。
 
◆チェックが効きにくい独立行政法人方式

もう一つの問題は、この病院の運営主体は独立行政法人であるということです。県の直営=地方公営企業法全部適用=であれば、議会のチェックが効く。逆に民間企業であれば株主のチェックが効く。ところが独立行政法人はチェックが効きにくい組織形態です。

また、県の直営であれば、大震災や大規模感染症などの非常にも対応しやすい。湯崎知事らは、独立行政法人の方が予算は弾力的に運用しやすいと主張するが、県の直営でも知事が専決処分で補正予算を組めばよいだけです。

実際に、過去の大水害やコロナなどの非常には、専決処分と言う例も各自治体ではあります。専決処分乱発はデモクラシーの観点から問題はありますが、あくまで非常時対応なら、選挙で直接選ばれている首長がかなり自由に予算を動かせます。

◆利便性が低下する島しょ部や安芸郡

また、そもそも、県病院の地元住民や県病院を利用してきた島しょ部のみなさま、あるいは、県病院を救急利用することも多い安芸郡などの住民の納得が得られているとはとてもではありませんが思えません。

一方的に、当局のエライ人がしゃべるようなセミナーは何度か開催されていますが、ガチンコの議論が地域でされたわけではない。

◆ますます栄える広島駅周辺に巨大病院、混雑は大丈夫か?

そもそも、この広島駅周辺は2025年3月の新駅ビルのオープンなどでさらに混雑が予想されます。すでに、新しい駐車場が広島駅北側に完成しています。また、『湯崎』病院に近接してプロバスケチーム『ドラゴンフライズ』本拠地構想も持ち上がっています。

現在でもカープやサンフレッチェ広島の試合時には人や車で混雑する広島駅周辺ですが、激化が予想されます。救急車は入れるのか? 通院患者は無事に到着できるのか? そもそもこんな混雑したところに巨大病院と言うのは相性が悪すぎます。

◆消費税も多額投入

また、この巨大病院構想には、地方消費税や国税の消費税を財源とする補助金が注ぎ込まれます。消費税は社会保障のために使うという建前と裏腹に、むしろ地域医療の利便性を壊しかねない構想に使われることに筆者は反対です。
 
◆兵庫県見習い、広島市各区に非常時に対応しやすい公営病院を

もちろん、もうJR西日本から予定地を購入する債務負担行為を県は起こして議会の議決も経てはいます。ただ、例えば、JR広島病院をそのまま県の直営病院にすると言う手もあります。兵庫県では阪神淡路大震災の教訓から、公的病院の再編に当たっては、再編後の病院は基本的には県立病院としています。

それこそ、JR広島病院をそのまま県立病院にしてしまうという手もある。中電病院についても同様です。例えば、能登半島大震災や阪神淡路大震災のような大震災が広島で起きる可能性は低くありません。その場合は、川の中州で構成されている広島は分断されかねないのです。各区に非常に対応しやすい公営病院があった方がよいと考えます。

◆『湯崎病院』構想は白紙から見直し、県民的議論を踏まえた医療行政を

『湯崎』病院構想は『詰み』つつある。いまこそ、白紙から見直すべきです。その上で、県は、県民的な議論を踏まえ、今後の医療の在り方をつくっていくべきです。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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