「カウンター大学院生リンチ事件」(「しばき隊リンチ事件」)から10年(中・補)── あらためてその〈意味〉と〈責任〉を問う 鹿砦社代表 松岡利康

昨年2月以来、くだんの大学院生リンチ事件の主たる暴行実行犯・金良平(ハンドルネーム・エルネスト金、略称エル金)が鹿砦社と森奈津子さんを提訴し係争中のところ、私たちの代理人を務めていただいていた内藤隆弁護士が、去る1月6日急逝された。

内藤弁護士には1996年以来約30年近く、主に東京での訴訟や法律問題でお世話になった。最初の案件は、大相撲の八百長問題で日本相撲協会から東京地検特捜部に刑事告訴された件だった。内藤弁護士のご尽力で不起訴となった。

また、大手パチスロメーカー・アルゼ(現ユニバーサルエンターテインメント)からの、「名誉毀損」に名を借りた言論・出版弾圧事件の民事訴訟をご担当いただいた。損害賠償請求額、なんと3億円! 最終的には600万円で確定したが、私たちは減額されたとはいえ不当判決と認識している。刑事事件のほうは懲役1年2月、執行猶予4年で確定した。これも不当判決だ。これにも弁護団の一員として名を連ねていただいた。

ちなみに、刑事事件で主任弁護人を務めていただいた中道武美弁護士も、一昨年亡くなられた。謹んでお二人のご冥福をお祈り申し上げ、大学院生リンチ事件の‟延長戦”として係争中の対エル金訴訟勝利の決意を固めるものである。無抵抗の大学院生М君に長時間卑劣な暴行を加えた徒輩に負けるわけにはいかない。

リンチ直前の加害者ら(左から李信恵、金良平、伊藤大介)

◆社会運動内部における暴力の問題 ── 私の体験から

前回、反差別運動や学生運動など社会運動内部における暴力の問題について私的体験を少し記した。もう少し詳しく聞きたいというリクエストが複数あった。ここに私が本件リンチ事件に、被害者の大学院生М君の側に立って関わった要因もあると思うので、私がなぜ金良平らによる集団リンチ事件に怒り、なぜ真剣に取り組んだかを、予定を変更して今回、前回の「中」を補完するもの(「補」)として申し述べておきたい。

私は1970年(昭和45年)に大学に入ってから、当時の多くの若者同様、ノンセクトの学生運動に関わった。最盛期(1968年~69年)は過ぎたとはいえ、まだ集会やデモには多くの若者が参加していた。そして、運動内部における暴力事件を直接的、間接的に体験したり見聞きしてきた。

なにより私自身が対立する日本共産党(以下日共と略記する)・民青(日本民主青年同盟の略。日共の学生青年組織として当時権勢を誇った)のゲバルト部隊に襲撃され1週間ほど入院した経験がある。

1971年春、大学3回生の時だ。早朝3人でビラ撒きをしようとしていた矢先、突然に多勢の短い角材を持った集団に急襲された。たった3人なので捕捉され袋叩き、激しいリンチを受けた。しばらくして助けにきた仲間によって近くの病院に運ばれた。この前年師走には、のちにノーベル賞を受賞する作家の甥っ子で同じ自治会の先輩が、やはり同じ日共のゲバルト部隊によってリンチされ一時は医者も諦めたほどの危篤状態になった(奇跡的に回復)。

2件目は、時々ビラ撒きで顔を合わせていた中核派の活動家だった大学の先輩、正田三郎さんが、71年暮れ、泊まり込みで支援に行っていた関西大学で深夜、当時内ゲバを繰り広げていた革マル派の秘密部隊に襲われ、仲間の京大生Tさんと共に亡くなった事件を知った時には動転した。私が日共ゲバルト部隊に襲われて半年余り後のことだった。

3件目。私は大学時、定員30名ほどの小さな寮にいた。先輩に藤本敏夫(故人)さんがいる(私が入った時にはもういなかった)。

私が在学中(70年代前半)は、比較的平和な時期だったが、卒業後(70年代後半)、学生運動は混乱と対立、分裂の時期になる。私のいた大学や寮も、それに巻き込まれ、遂には学友会、自治会の解散ということに繋がっていったが、79年3月、突然深夜に対立する勢力に襲撃され寮生が監禁され椅子に針金で縛られ激しいリンチを受けているという連絡があった。

寮母さんは、お母さんの時代(戦前)から母子で寮に住み込みで働いており学徒出陣で戦地に赴く学生を見送ったという。だからすごく反戦意識の強い方でデモに行かず寮に残っている寮生には「なんでデモに行かないの?」と叱責されたというエピソードがある人だった。私が学費値上げ反対闘争で逮捕された際には身元引受人を買って出てくれた。

79年3月31日で退職という直前の3月19日、黒百人組(この組織の創設者は元社民党代議士Hだ)的グループによる武装襲撃事件は起きる。寮母さんから悲痛な電話があり、仕事も途中で抜け駆け付けた。そして、後日開かれた寮母さんの退職記念会には、生前の藤本敏夫さんも駆け付けた。

4件目は、前回も触れた「八鹿高校事件」である。70年代、部落解放運動をめぐって部落解放同盟と日共は激しい対立関係にあった。新左翼系は、反日共という立場から解放同盟を応援していた。私たちもそうだった。ところが、私と一緒に自治会運動に関わり、いろいろ指導してくれた先輩が、卒業後教師になり、赴任した高校が、なんと兵庫県立八鹿高校だった。

私の先輩は反日共系だったので、当初日共から殴られたと思っていたが、事実はそうではなく解放同盟からだったので私も混乱した。この情報は水面下で同志社関係者に広まった。この事件で同志社では解放運動は浸透しなかったと私は思っている。先輩が、社会的に大きな話題となったこの事件に巻き込まれ激しいリンチを受けたことを知った時には大きなショックを受けた。いつかネットで凄絶な暴行を受けている場面(裁判資料)を見た時のショックは言葉にならない。

こういうことも、かつては解放同盟の行き過ぎた糾弾闘争もあって表立っては言えなかった。部落解放運動、この中心的担い手組織・部落解放同盟も、時代と共に社会が、こうした暴力を排除する雰囲気になるにつれ、このことを反省したからか、現在ではこうした暴力によって糾弾することをやめている。

かつて解放同盟による糾弾闘争がまだ収束していないさなか、私は出版企画で、当時の解放同盟の幹部であった師岡佑行氏(京都部落史研究所所長。故人)、土方鉄氏(作家で『解放新聞』編集長。故人)の対談をやったことがある。お二人は公の建物である京都部落史研究所内で大声で糾弾闘争を激しく批判され、組織内部に向けても暴力的な糾弾闘争の是正を訴えられていたそうだ。その後、お二人の努力は報われていき、今では(完全ではないが)、解放同盟が糾弾闘争を行うことはなくなった。

さらに、これは私が直接体験したわけではないが、1972年に早稲田大学で起きた川口大三郎君リンチ殺人事件で、昨年映画にもなり話題になった。この大学を暴力的に支配していた革マル派が、文学部の自治会室で、川口君を対立する党派の活動家と見なしリンチ殺人を行った事件だ。

なぜ私がこの事件に戦慄を覚えたかというと、私が通っていた高校は大学の付属高校だったが、この上部の大学が革マル派の拠点で、当時隣接していた女子大もそうだった。両大学とも地方組織ながら、革マル全学連の中央委員を出していたほどの強固な拠点だっだ。

日常なんらかの形で接していたので、この革マル派に違和感はなかった。そして、私は早稲田大学の文学部を第一志望で受験し、地方出身者は素朴なので身近な党派、その大学の主流派の組織に入りやすく、おそらく私は早稲田の文学部に入っていれば革マル派に入り、そのリンチ事件に関わったのではないかと震え上がった。幸か不幸か早稲田には落ちて、殺人犯にならずにすんだ。

この時の、その大学のキャップは草創期からの黒田寛一(故人。同派の創設者)の愛弟子で、九州の同派のトップをも務め、中核派に襲われ、半身不随の障がい者となりその後の人生を送り数年前に死亡した。

◆リンチに連座した者、加害者を擁護した者、被害者を追い詰めた者、事件を闇に葬ろうとした者らを許してはならない!

M君に対する集団リンチ事件の件で相談があった際に、前述したようなことが心の中を過り、「これもなにかの縁、この若い研究者の卵を助けてやらないといけないな」という気持ちになった。

この集団リンチ事件を顧みるに、民主主義社会を自認する、この国の社会運動から暴力はなくなっていなかったということだ。あれだけの凄惨なリンチを行っていながら金良平らは、あろうことか、いったん出した謝罪文を反故にし、約束した活動自粛も撤回し開き直った(このことが被害者М君に更に大きな精神的打撃を与えた)。「エル金は友達」なる村八分運動もなされ、これもМ君の精神を追い詰めていったことはМ君本人が言っている。挙句、リンチの場に連座した伊藤大介はのちに、深夜右翼活動家を呼び出し暴行に至り有罪判決を受けている。

金良平近影。今でも現場で凄んでいる
リンチ被害者М君を精神的に追い詰めた村八分運動「エル金は友達」
同上

金良平の蛮行は、厳しく弾劾されるべきであり、真摯な反省もなく開き直り、被告(森奈津子さんと鹿砦社)らによってみずからの犯歴が暴露されたと、被害者顔して提訴に及んだことは全く遺憾至極だ。М君は、金良平による長時間にわたる激しい暴力によって人生が狂わされたことを決して忘れてはならない。

ことは金良平にとどまらず、このリンチの現場に連座した李信恵ら4人、さらには加害者に加勢し事件の隠蔽に努めたり被害者М君を精神的にも追い詰めた徒輩(有田芳生、岸政彦、中沢けい、香山リカ、安田浩一、神原元、辛淑玉、野間易通、師岡康子ら)の所業を決して許してはならない。リンチ事件は、たとえ10年経ったにせよ、本質的にはなんら終わってはいないのだから──。(本文中、一部を除き敬称略)

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