《2月のことば》敗北における勝利 鹿砦社代表 松岡利康

《2月のことば》敗北における勝利(鹿砦社カレンダー2025より。龍一郎揮毫)

もう半世紀余りも前のことになるが、1972年2月1日、学生運動も最盛期から後退期に入る時期、前年から全国の大学で学費値上げが発表され、これに抗議する学生によって反対闘争が盛り上がっていた。

学生運動が後退期に入るのを見計らったかのような時期だった。

例えば関西大学もバリケードストライキに入っていたが、前年12月、革マル派が、対立する中核派の活動家を急襲し2人が殺された。こんな有り様なので、反対運動は自然消滅した。年を越したのは私のいた大学と、あと数えるばかりだったと記憶する。

私たちは、断固として身を挺し学費値上げを阻止せんと徹底抗戦し学費値上げ阻止の意志表示をした。

百数十名の無差別検挙で40数名逮捕、10名が起訴された。裁判は数年を費やしたが、結果は1人が無罪、あと9名は微罪だった。

学費値上げはなされ、阻止できなかった。──

値上げを阻止できなかったという意味では、私たちの敗北である。

しかし、その敗北は決して無駄ではなかったし無意味でもなかったと今でも思っている。長い人生には勝ちもあれば負けもある。

敗北の中にも、自分なりになんらかの意味を汲み取り、後の人生に活かせればいいんじゃないか ──

〈敗北における勝利〉── いつこの言葉を知ったか記憶が定かではないが、私たちの世代には馴染みが深い、アイザック・ドイッチャーのトロツキー伝の中にあった言葉ではないかと微かに覚えている(違っているかもしれないが)。ドイッチャーのトロツキー伝は三部作の大部の本で、人に貸したまま手元にはない(この言葉の由来を知りたいということもあるが、無性に再読したくなり古書市場で見つけ注文したところだ。高価だと思っていたところ3冊で3000円! そういえば、正月休みに街に出たら古書展をやっていて、吉本隆明の本が1冊500円、3冊も買ってしまった。われらが青春の隆明が1冊500円とは。  

あれから半世紀余りが経った。あっというまだったな。敗北だらけの人生で満身創痍だが、その敗北を教訓化して、果たして勝利への途は見つかったのか――。

【追記】

上記した、古書市場で注文したアイザック・ドイッチャー著トロツキ伝第3巻『追放された預言者・トロツキー』が届いた。早速紐解くと、記憶通り、その末尾に「六 後書 敗北における勝利」とあった。なんともいえない感動!

青春時代のほろ苦い体験が脳裏に過(よぎ)る。──

そのほろ苦い体験とは、同じ大学の先輩の詩人の次のようなものだ。

「不世出の革命家に興味を持った一人の貧乏学生は ひどく暗い京都の下宿で汗のふとんにくるまりながら やたらに赤線をひっぱっていた ついには革命的情熱とやらの蜘蛛の巣のような赤線にひっかかり くるしんでいる夢をみた ほそい肉体をおしながら漆黒の海流 亡命舟は灯を求めて盲目の舟首を軋ませつづけた」(清水昶「トロツキーの家」)

『LGBT問題 混乱と対立を超えるために』女性スペースを守る諸団体と有志の連絡会=編著 定価990円(税込み)