米国のトランプ大統領は、2025年1月20日に就任すると、(ある程度就任前から予告していた)とはいえ、世界を震撼させる外交方針を打ち出しました。
◆火事場泥棒にも程がある! トランプ大統領
一つは、ガザ停戦。米国がガザを所有し、巨大リゾート開発を行う、という、奇想天外なものです。これが火事場泥棒と言わずしてなんというのか? そして、〈ハマス壊滅〉でイスラエルは徹底的に支援するという点は、バイデンと変わりはありません。これでは和平など夢のまた夢でしょう。
二つ目は、ロシア・ウクライナ戦争の終戦です。トランプ大統領はICCから国際指名手配中でもあるロシアのプーチン大統領と電話会談。終戦への協議を開始しました。これについては、選挙公約通りです。ただし、終戦のやり方が問題です。
筆者は、今回の戦争で、先に手を出したロシアが悪いと考えています。他方で、ロシアが侵攻する前のドンパス戦争については、ウクライナ側にも一定の問題がありました。100%ロシアが悪いわけでもなく、また、平和記念式典に広島市長がロシアを招待しないのはおかしいと考えています。
とはいえ、今回のトランプ大統領による和平案は明らかにおかしい。仲介者でありながら、最初からウクライナに領土をあきらめるように迫っています。さらには、レアアースなどの天然資源を米国にいわば「献上」するように求めています。
三つ目には、ロシアのプーチン大統領や、ガザにおける大虐殺でイスラエル首相のネタニヤフ被疑者に逮捕状を出していたICC(国際刑事裁判所)=赤根智子所長に対して、トランプ政権は制裁を科しました。
ガザにせよ、ウクライナにせよ、火事場泥棒と言う言葉がトランプ大統領には良く当てはまります。こんなことを放置しておけば、そのうち「尖閣、竹島、北方領土は米国が所有」とでも言いだしかねません。
◆「米国自身が戦争」から「ブローカー」へ
米国自身が戦争をするスタイルの帝国主義はおそらく、2021年8月15日、アフガニスタンからバイデンが撤退したことで、実は終わったとみられます。ウクライナにしても、バイデン政権は武器を送るだけでした。
もちろん、核保有国であるロシアとの直接対決を避けたかったことはありますが、それだけではない。米国自身にもう、余裕がないのです。そこで、企業でいうと総会屋みたいな感じで紛争の仲介でぼろ儲け。そういうビジネスモデルの転換があるのではないでしょうか?
◆第二次世界大戦以降のダブスタ国家からダークサイドで筋通すトランプへ?!
第二次世界大戦以降、バイデンまでの米国、特に民主党政権や共和党でもジョージ・ブッシュらネオコンは、人権や民主主義を「錦の御旗」に掲げつつ、自分たちの都合の悪いことには口をつぐむ。そういう意味では偽善的であり、ダブスタなところもありました。
第二次世界大戦までは、米国はいわゆるモンロー主義が強く、第一次世界大戦でも、自分たちが大きな被害を受けてから参戦するくらいでした。第二次世界大戦が開始されるまでもその空気は強かった。だが、日本軍の真珠湾攻撃がある意味それを変えてしまった。
第二次世界大戦では米国は「民主主義とファシズムの戦いだ!」と言いながら、当時の戦時国際法に反するような民間人爆撃、広島・長崎への原爆投下を行ったのは米国、それも民主党政権でした。
冷戦期には、ソビエトを悪に見立て、民主主義の守護者を自称しつつ、ベトナム戦争などで蛮行を繰り返してきました。あるいは、イランの民主政権をクーデターで倒し、皇帝独裁を復活させるなど、ご都合主義的な面も目立ちました。それでも、「人権」「民主主義」は米国の点前でした。
そして、1989年に冷戦が崩壊すると、しばらくは米国の「一人勝ち」状態になった。1990年代は国連のお墨付き付きで、ブッシュジュニア政権以降は「有志連合」方式で、「米国の気に食わない政府は武力で倒して民主化する」方向で暴走。オバマ政権も実は、これを継承していました。オバマが広島に来た時「死が舞い降りてきた」などと他人事のような演説をしていましたが、オバマとはそもそもそういう人です。期待する方が間違いです。
バイデン政権は、ロシア・ウクライナ戦争では、ロシア非難、ウクライナ支援。一方で、パレスチナ問題についてはネタニヤフによるパレスチナ侵略や虐殺を支持し、パレスチナ支持の学生運動を弾圧しました。これがダブスタと言わずなんというのでしょうか? 他方で、トランプ政権1.0を受け継いで、アフガンから撤退する、保護貿易を進める、前後のトランプ政権との連続性も見受けられます。むしろ、このころには米欧日vs中露の新冷戦と言われる時代に突入したかに見えました。
しかし、2025年発足のトランプ2.0政権は、ロシアーウクライナ戦争で、ウクライナに領土放棄や天然資源の献上を迫っています。一方で、パレスチナ問題では、米国がガザを所有という、パレスチナ人を人とも思わない態度はバイデンから受け継いでいるとも言えます。ある意味、悪い意味で筋が通るようになったとも言えます。
◆〈法の支配〉では筋通すICC
ICCは、プーチンとネタニヤフ、両方に逮捕状を出しています。従って、プーチンを支持する一部日本の左翼の方々、ネタニヤフ被疑者を支持する日本の右派の方々両方から評判が悪い。
しかし、新冷戦における東側=ロシア、西側のイスラエル双方の戦争責任を問うているわけで、極めて公平です。ただ、それは、実はプーチン、ネタニヤフ両方と仲がいいトランプにとっては、不都合であり、今回の制裁になったのです。
◆米露権威主義の枢軸で戸惑う日本政府
日本政府は、バイデンまでの米国が建前「法の支配」を主張しており、その尻馬に乗る形で、「自由で開かれたインド太平洋」とか「法の支配」「力による現状変更を許さない」とオウム返しで言ってきただけではないか? 〈法の支配〉の大切さを本当に理解していたわけではないでしょう。
しかし、冷静に考えると、日本も軍拡では中国に対抗し続けるのは土台無理です。〈法の支配〉しかないのです。ネタニヤフもプーチンも、逮捕状が出たことで、外交に制約がかかり、だいぶ堪えています。習近平主席だって、それを見たら、うかつなことは控えるでしょう。
日本は、ICCの赤根所長を守っていくべきです。ただ、トランプによるICC制裁に反対する独仏英などの声明に日本政府は参加しませんでした。情けない。もちろん、イギリスにはパレスチナ問題の原因として、ドイツには、いままでさんざん、イスラエルを支持してきたことの反省は求めたいですが。かくなるうえは、市民や広島市などの平和行政のレベルで、ICCの姿勢を支持することを呼びかけます。
◆ゼレンスキーはパレスチナに謝罪し、共同して〈米露権威主義の枢軸〉に当たれ!
さて、ウクライナのゼレンスキー大統領は2023年10月7日のハマス政権によるイスラエルへの〈攻撃〉(恒常的に続いてきたネタニヤフ被疑者による侵略・虐殺への報復)を受けて、ネタニヤフ被疑者を全面支持してしまいました。
しかし、これを契機に、ゼレンスキー氏は、インド(パキスタンと険悪な関係で、反イスラム色が強い)以外のグローバルサウスからドン引きされてしまい、旗色が悪くなったのです。もはや、トランプになって米国はウクライナのはしごを外しました。
また、ネタニヤフ被疑者率いるイスラエルはロシア制裁に加わらないほぼ唯一の西側国家です。ゼレンスキー氏は潔くネタニヤフ被疑者支持が誤りであったことを認め、パレスチナに謝罪されたらどうでしょうか? その上で〈米国によるガザ所有にもウクライナ領土のロシアへの割譲および、トランプの火事場泥棒的なウクライナ天然資源巻き上げに断固反対する〉共同声明を出し、世界中の市民、グローバルサウスやEU諸国、あるいは日本や中国などに支持を呼び掛けるのです。
もはや、ゼレンスキーがロシアとまともに武力で闘っても勝てません。消耗戦なら人口が多いロシアが有利に決まっている。それを直視した上で、各国政府だけでなく、市民レベルでの国際政治での多数派工作に徹し、米ロとイスラエルの〈権威主義の枢軸〉に対抗すべきだ。この場合、中国も米露側においやらない柔軟さが求められます。
◆日本・広島は〈法の支配〉軸に横の連携で〈米露権威主義の枢軸〉けん制を
また、日本も他人事ではない。それこそ、トランプが〈尖閣・竹島・北方領土を所有〉などと言いだしたらどうするのか?そうさせないためにも、裏で良いのでウクライナとパレスチナの首脳会談をセットするなどしても良いでしょう。官房機密費とはこういう時のためにあるもので、自民候補の選挙費用ではないのです。
米欧日vs露中の〈新冷戦〉から 米露中の権威主義の枢軸vs市民が進める法の支配へ、対立軸は変化しています。大国間の戦争は起きづらくなるが、大国政府の談合で市民が犠牲になりやすい時代にもなりかねない。
日本政府は、核兵器禁止条約締約国会議にオブザーバー参加をしない、と2月18日決めました。しかし、再考願いたい。岩屋外相の発言を意訳すると米国が核兵器の先制使用をしてくれることも日本政府は当てにしているから、というのが不参加の理屈です。だが、そうなると、ロシアの核威嚇も否定できなくなる。そして、いまや、米露が談合して、ロシアによる核威嚇も不問に付している。そういう状況の下で、過度な米国忖度は無意味です。
こうした中、広島はどう対応すべきか? まず、平和首長会議など横の連携重視に徹するべきです。オバマやバイデン相手の米国忖度路線は通用しません。核兵器禁止条約批准国や平和首長会議加入自治体と広島はスクラムを組み、核兵器保有国の首脳を突き上げていく。それしかないのではないでしょうか?

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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