資金ショートに止まらぬスタッフ流出! 広島エキキタ巨大「湯崎病院」は砂上の楼閣! 筆者に関係者から公益通報も! さとうしゅういち

◆「全国トップレベル」「若手医師を集める」……美辞麗句を並べ立てる湯崎英彦知事

広島県の湯崎英彦知事は、「県立広島病院」(いわゆる県病院)、「JR広島病院」(2025年度から「県立二葉の里病院」に改称)、「中電病院」並びに「広島がん高精度放射線治療センター」の4病院を統合し、広島市東区の広島駅北口(エキキタ)に1000床規模の巨大病院を造ろうしています。「若手医師を集める、トップレベルの医療を提供する、断らない救急、中山間地域へ医師を派遣する、小児救急を充実させる」など美辞麗句を並べています。

◆早くも25億円の資金ショートで議会でも炎上

2025年度からは、その前段階として県病院とJR広島病院改め県立二葉の里病院、そして県立安芸津病院を運営する「地方独立行政法人」を発足させようとしています。総事業費は総務省が管轄する特別地方交付税や消費税を財源とする厚労省の補助金などを財源に1300-1400億円。病院の統廃合事業としても破格の予算規模です。ところが、昨今の建築費の高騰などで、事業費が大幅に上振れし、新病院の規模の縮小が必至となっています。さらに、その地方独立行政法人の資金不足が発覚。県が25億円を貸し付けなければいけない状況になっています。

県議会でも〈炎上〉しています。知事と距離のある保守系会派は、「しょっぱなから運転資金が足らないような事業はやるべきではないというのが最初にある。『面積が変わるんですか?』『さぁ……』『駐車場はいくらかかるんですか?』『さぁ……』って財政的にも要件的にも何も決まっていない」(東広島市・井原修議員)とバッサリ。知事に近い自民党系会派の議員からも「本当にこのまま計画通りに進めても大丈夫なのか?」(佐伯区・宮崎康則議員)という疑問が呈される始末です。

◆最近まで県立広島病院で勤務していた関係者から「公益通報」

こうした中、広島瀬戸内新聞は2月26日までに「最近まで県立広島病院で勤務していた関係者」(県立広島病院の将来を考える会 様)からこの問題についての「公益通報」を匿名の文書でいただきました。

「県立広島病院の職員の大部分は移転に断固反対しています。しかし関係者が内部から声を上げることは難しく、関係者各位のお力をお借りしたいと考え、投稿する次第です。匿名である点はご容赦ください。」

県立広島病院で勤務していた関係者からの「公益通報」の一部

広島瀬戸内新聞では、今回頂いた文書については、公益通報者保護法上の行政機関以外の外部への通報、いわゆる3号通報として取り扱っております。湯崎英彦知事らが犯人探しなどをした場合は同法違反となります。

文書では問題点についてA4ページ8枚と別紙の資料12ページにわたって取り上げています。本紙では「県病院潰し」「巨大病院への集約」構想の問題を指摘してきましたが、今回、改めて内部の声が明らかになりました。

この「文書」の方も「新病院移転構想が始まったときから計画の意義に対して疑念を抱いてきましたが、それでも現状より広くて充実した設備ができるのであればと受け入れてきました。」という立場だったそうです。ところが、ここへきて、建築資材高騰の影響で、予算大幅オーバーとなり、その影響で「建設図面素案を見ると、その内容はかなり厳しいと言わざるを得ず、なんのための移転かわからなくなってきました。」ということです。

以下、公益通報文書(文書、と略します)に沿って、巨大病院計画の問題点を明らかにします。

◆広電比治山線大混雑! 道路渋滞も悪化!「超過密地区に大規模病院をつくる日本初めての試み」の無謀

文書は、今回の計画を「超過密地区に大規模病院をつくる日本初めての試み」と指摘。日本における1000床以上の病院はそもそも郊外化か都市部であっても周囲を広大な緑地に囲まれた敷地内に建設されている、と指摘。高層建築物が立ち並ぶ超過密地区に大規模病院を造る「湯崎病院」構想の異常さを指摘しています。

これにより、ただでさえ激しい周辺部の渋滞が悪化すること、現在宇品周辺に居住している県病院職員は、移転後は、広電宇品線を使うことになるために、同線は大混雑になること。周辺道路も渋滞の悪化で救急車のアクセスは悪く、高層ビルと山に挟まれてドクターヘリも近づきにくいことなどを指摘しています。

◆予算高騰→規模縮小でスタッフも患者も窮屈な病院

そして、文書は予算高騰により「病院規模縮小による諸問題が発生する」と指摘。当初の計画は地下1F、地上16Fだったのが地上14Fのみになり、「診察スペースは非常に狭い」「内科・外科の診察室の総数は今の県病院より少ない」「外来の2フロアをつなぐエスカレーターがなくなる」「待合室の椅子も驚異的に少ない」「憩いの場となるようなスペースやレストラン、喫茶店などはない」ことを告発。

医局の部屋も非常に少なく、先生の個人の机も確保できるかどうか微妙、ということです。職員の休憩スペースも少なく、患者も職員も踏んだり蹴ったりです。

◆「広大ふるさと枠」失敗の総括なき湯崎県政

広島では無医地区が全国ワースト2の状態が続いています。県も手をこまねいているわけではなく、広大医学部では、2009年度から卒業後に知事が指定する医療機関に9年間勤務すれば、奨学金の返済が免除される「ふるさと枠」制度を導入しています。

しかし、過疎地の病院と言っても本当のへき地ではなく、三次市や庄原市、安芸高田市などの中心部の病院への赴任の場合が圧倒的に多いのです。自治医科大学と違って、総合診療医になる必要はありません。ふるさと枠で157人中総合診療医になった先生はたったの3人だそうです。

現在の施策の効果が出ていないのに、その総括もなく、今度は巨大病院。文書は「現在までのふるさと枠運用にも関わらず、中山間地域に医師が不足し、無医村地区全国ワースト2位の記録を更新し続けている理由について、税金を払わされてきた県民に説明するのが先ではないでしょうか?」と指摘していますが、全く同感です。

◆画餅の「トップレベルの医療」「断らない救急」

巨大病院が掲げる「トップレベルの医療」については、統合される4病院の中に「全国トップレベルと言える医師は私の知る範囲では数えるほどしかいません」「かといってトップレベルの医師を招聘するような動きは全くなく、広島大学の関連病院のひとつとしか機能しないことは確実です」と指摘。

「断らない救急」についても、これを掲げている神戸市民病院がブラック職場として有名だと、指摘。

県病院でも、「夜間受診する患者の一部はクレーマーあるいはモンスターが多く、暴言暴力も横行していることから、常時、警備員が診察室内に配備されているような状況」で今でさえ疲弊している現場がさらに疲弊し、さらには職員の離職につながる、と指摘しています。

◆旧設備の更新はままならぬ一方JR広島病院など新しい建物を壊そうとする不可解さ

当初の巨大病院計画案では、2016年1月に新築したばかりのJR広島病院を壊して駐車場に使用としていました。ただし、これは、最初にご紹介した建築資材費の高騰を受けて、病院施設として存続させる方向も検討されています。このほかにも県病院内には2004年新築の緩和ケア支援センターが独立した棟であります。

また、県病院にはハイブリッド手術室も着工中ですが、数年後には取り壊すのでしょうか?

「その一方で、古い設備の更新は、予算がないから、という理由で拒否される状況が長年続いています。」と文書は批判します。特に内視鏡部門に関してはその傾向が顕著であり「一世代以上前の内視鏡で検査させられている場合も多く、機械は破損するまで更新してもらえ」ない、酷い状況だそうです。

「未来の全国トップレベルを目指すより、現在の全国標準レベルを目指すべきではないでしょうか?新病院建築に必要な予算のせめて1000分の1でいいので既存の古い設備の更新に予算を回していただきたい」と文書は訴えています。

JR広島病院(2025年度から「県立二葉の里病院」に改称)

◆研修医に独身寮なし! 若手医師が集まるの?!

湯崎知事は「全国から若手医師を引き寄せる」と言っておられます。だが、福利厚生の面でも、研修医に普通なら用意される独身寮もない、ということ。現在の県病院は、近くに駐車場込みで家賃1万2000円の官舎があります。

しかし、新病院に移行後は、自己責任で住宅を用意させるため、人が集まるかどうか?も怪しいのです。

◆独法化で職員動揺!「巨大病院」どころかスタッフ流出!

文書では独立行政法人への移行で、スタッフが辞めていく問題も指摘されています。

「現在の勤務環境は非常に過酷ですが、定年まで頑張って働けば、と言う思いで頑張ってきたスタッフ」が多かったのに「2025年度から独立行政法人に移行することで公務員としての身分保障がなくなることになり、多くの職員は動揺」しているそうです。

公務員宿舎から数年以内の退去を求められる、移転で満員電車通勤になるなどの不安が鬱積。「スタッフの離職は既に始まっており、病床数が維持できず2025年2月から一病棟を閉鎖しました」とのことで「新病院発足時には極端なスタッフ不足に陥っている可能性があります」と警鐘を鳴らします。

◆「現在地で改築・高層化」が無難

その上で、この方は代替案として、南区宇品の現在地の県病院のうち、1981年の新耐震基準以前の建物(東棟と南棟、北棟)を改築し、JR病院や中電病院の急性機能を移転すれば良いのではないか?と提案しています。

東棟、南棟はまとめて新病棟に。管理棟を高層化し、北棟の機能を集約。北棟を立駐に変更することを文書では提案しています。

確かに、広島市宇品の現在の県病院の位置なら、島しょ部からもアクセスは維持できますし、交通渋滞の心配もありません。

湯崎知事は、現在地は津波の心配があるとして、現在地での県病院の建て替えをかたくなに拒否してきました。一方でエキキタのすぐ北側に迫る二葉山は、豪雨時だけでなく、巨大地震の時も含めた土砂災害のリスクも大きいのです。文書でも「尾長天満宮には埋もれた鳥居があるなど、過去に土石流があった形跡が残って」いるのです。

もちろん、現在地でもどうせ、老朽化に伴い建て替えが必要です。それでも、新病院にすることによる問題点は避けられます。

◆それでも新病院にこだわるなら「湯崎退場」一択だ!

湯崎英彦知事! これでもあなたは、新病院にこだわるのですか? このままでは、新病院どころではありませんよ?

そもそも、県立広島病院=県病院は国の統廃合計画でさえも対象外。それなのに、貴方の功名心で、それこそ、角を矯めて牛を殺すことになりかねません。

「多額の税金が投入される以上、それを支払っている県民の方々は、きたるべき未来を知る権利があるのではないか」と文書は指摘します。その指摘に応えられないのであれば、知事は今すぐお辞めになるべきです。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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