すっかり影が薄くなった小沢一郎が自民党の幹事長時代に記者団に向かって「君たち、『反権力』っていきまいてるけど、この国の権力は国民にあるんだ!何を勘違いしてるんだ!」と怒鳴ったことがあった。当時の小沢は田中角栄の後釜よろしく、土建屋政治の継承者。少なくとも評価に値する人間ではなかったが、今となってはこの恫喝が新鮮に響く。
湾岸戦争(1990年)に90億ドルを支出した小沢にしたところで、立憲政治の根本が「国民主権」にあることは意識されていた、と解釈することができなくもない。無法、乱暴をを働きながらも「建前」としての「国民主権」を否定することは自民党幹事長として許されなかった。
◆「教職員組合に便宜供与を禁じる」条例を成立させた大阪市の「違憲」性
さて翻って毎度、毎度で恐縮だが、大阪市長の橋下である。
11月26日、またしても裁判所から断罪された。今回は教職員組合に「便宜供与を禁じる」条例に基づき大阪市教組に小学校を使わせなかったことが大阪地裁で「違憲」(違法ではない)と認定された。教員が組合活動に学校を使うのが「便宜供与」とする条例自体の違憲性も指弾されたわけだが、この判決も当たり前と言えば、当たり前過ぎる判決である。
学校の教諭が職場で組合活動を禁じられたら、どこで組合活動を行えというのか。工場労働者が工場で組合の会議を開こうとして経営者から「工場を組合活動に使ってはいけない」などと明言したら、労基局は即座に「不当労働行為」として経営者に指導若しくは勧告を行うだろう。
時代の風とは恐ろしいもので、「教職員組合に便宜供与を禁じる」という趣旨の条例が大阪市では成立してしまっているのである。何が「便宜供与」だ。
労組は職場に存在するのであり、そこでの活動を「便宜供与」などと言い換えるのは詭弁でしかない。このような条例は「違憲立法審査権」により本来速やかに廃止されるべき性格のものであるが、橋下のやりたい放題はあまりにもえげつなく、多岐にわたったし、マスコミの応援もあり、こと手の「違憲」行為を2,3年前まで連発していた。
◆橋下市政は「反中央」でなく、ただの「無法」
もっと悪質かつ分かりやすい「違憲行為」に、市職員への「思想調査」があった。これを主導したのは橋下と中央大学教授の野村修也である。野村は弁護士資格も有しているが、橋下と同様に憲法の基礎さえ理解できない人間だ。「政治運動にかかわったことがあるか」、「どの政党に投票したか」などを実名記入の上全職員に提出を義務づける「アンケート」と称する「思想調査」を行ったのである。こんな無茶は民間企業でも余程の独裁経営者でなければ行いないだろうに、マスコミはその当時橋下に対して大した批判も行わず、むしろ後押しとも取れる報道がほとんどだった。野村は今でも平然とマスコミに登場しているようだが、マスコミの諸君もこの大罪人を少しは批判しようとは思わないものか。
前後するが大阪市の労組も情けないことに、知事から市長へと橋下が転じた直後、組合幹部が頭を下げ、橋下に握手を求めに行っていた。「何をしとんねん!このドアホ幹部が!」と頭に来たのを記憶している。
その後、どう考えても「違法」かつ「違憲」な行為を連発する橋下に対して、ようやく反撃が始まる。しかしその間大阪市は教育委員長に民間出身で公募で公立高校の校長も歴任した大ばか者を就任させている。この人物は高校の校長時代に教員が卒業式、入学式の際に「君が代」しっかり歌っているかどうか、口の動きを監視させ人物だ。さらに「平和教育を実践する」として生徒を自衛隊に体験入隊までさせている。橋下の言う「開かれた学校」とは「戦争に」が主語につくことを忘れてはいけない。
大阪は「浪速文化」とか「反東京、反中央、反権力」とか言われることもあるけども、こと行政の内部に限ってはこの数年「無法、無憲法」状態に置かれていたといってもいい。
◆大阪に橋下のような「偏狭なファシスト」はいらない!
前述した教職員組合への弾圧に対して橋下は「労組を弱体化させる意図があれば労使交渉していない」とか「むしろ労働組合法の原理原則にかなっている」などと「バカもたいがいにしとけよ」としかコメントできない言い訳を並べている。この男、気ままに知事から市長へ、そして無意味な辞職で再選挙、さらには「大阪都構想」(大阪ファシズム化構想)が進展しないので総選挙への出馬もにおわせたが、公明党から裏取引の申し出があると直ぐに出馬を引っ込めた。
橋下はことあるごとに「人、モノ、金を大阪に集めて!」と連呼する。で、どうなるのだ? 大阪が人、モノ、金の集積都市になれば大阪市民は幸せになるのか? 朝夕の地下鉄御堂筋線に乗ってみろ。あれ以上人間が乗車できるのか? 大阪(梅田)駅周辺に百貨店や大規模商業施設を乱立させたが、既に大阪駅上の商用施設で閑古鳥が泣き始めているじゃないか。大阪駅前の第一から第四ビルも空室だらけだ。
在特会会長桜井誠と共同で猿芝居を演じた橋下が共同代表の「維新の党」に、間違っても期待などしてはいけない。自民、公明は勿論論外だし、民主だって前科者だ。が、橋下は絶対に許せない。
大阪が必要としているのは橋下のような偏狭なファシストではない。
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▼田所敏夫(たどころ・としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しない問題をフォローし、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心が深い。