『ジャニーズ50年史』(2014年12月鹿砦社)

このほど鹿砦社より、日本の男性アイドル市場に君臨するジャニーズ事務所の歴史を採り上げた『ジャニーズ50年史 モンスター芸能事務所の光と影』(ジャニーズ研究会=編著)が刊行された。

早速、拝読したが、読み応えは十分。豊富な資料と写真により、半世紀にわたるジャニーズの歴史を余すところなく描ききり、圧巻の内容だった。

私も5月に刊行された拙著『芸能人はなぜ干されるのか? 芸能界独占禁止法違反』(鹿砦社)で、ジャニーズ事務所について1章を設けている。ジャニーズの歴史についてはそれなりに調べたつもりだったが、それでも知らないエピソードが同書には多数収録され、ジャニーズ事務所の巨大さを改めて思い知られた。

2011年、ギネス・ワールド・レコーズは、ジャニーズ事務所総帥、ジャニー喜多川を「最も多くのコンサートをプロデュースした人物」「最も多くのナンバーワン・シングルをプロデュースした人物」として認定した。日本の男性アイドル市場に一大帝国を築いたジャニーズの功績は、あまりに大きい。

◆ジャニーズ=Johnny’s=ジャニーさんの所有物

だが、光があれば影がある。ジャニーズの栄光の陰で、ジャニーズ事務所所属タレントの多くは、ジャニーからホモセクハラ行為を強要され、金銭的にも搾取され、用済みとなれば容赦なく使い捨てにされた。同書は、そうしたジャニーズの闇についても、遠慮なく踏み込んでいる。

かつて芸能ジャーナリストとして活躍した竹中労は、1968年刊行の『タレント帝国』(現代書房)で、こう指摘している。

「ジャニーズ、英語で書けばJohnny’sである。Johnnyは人名で、’sは“所有”を意味する」

筆者はこれがジャニーズのすべてを物語っていると思う。ジャニーズ事務所所属タレントは、ジャニーの所有物なのだ。だからこそ、ホモセクハラや金銭的搾取が可能となる。

◆ジャニー喜多川を覚醒させた郷ひろみの独立劇

それが嫌ならば、逃げればいい。だが、ジャニーズ事務所所属タレントにはそれができない。なぜなら、ジャニーズ事務所は、日本の男性アイドル市場を完全に牛耳っているからだ。男性アイドルとして生きる道を選んだジャニーズ事務所所属タレントは、ジャニーから逃げることはできない。

ジャニーズ事務所が業界を独占する原動力となったのは、75年に起きた郷ひろみのバーニングプロダクションへの移籍事件だったと思う。

ジャニーにとって郷は理想とする少年アイドルであり、マネジメントにのめり込んでいた。だが、ジャニーが十二指腸潰瘍で赤坂の山王病院に入院している間に、郷の移籍は決まってしまった。移籍の原因は、金銭的不満とホモセクハラ行為にあったと言われる。

とはいえ、ジャニーは郷をスターにしようと全身全霊で取り組んでいたことは間違いない。それでも、郷は逃げてしまった。「主力商品」である郷を失ったジャニーズ事務所は倒産説も流れるほど経営が傾いた。

では、どうすればタレントに逃げられないようにできるか。その答えは、業界の完全支配しかない。郷の移籍事件以降、ジャニーズ事務所は矢継ぎ早に男性アイドルを世に送り出し、遂に業界を独占する力を持つに至った。

◆クライアントの商品にまで異を唱えた飯島三智×SMAPの全盛時代

ジャニーズ事務所の最盛期は、SMAPがもっとも人気を博し、今よりCDの市場規模が大きかった90年代末から2000年ごろだと思うが、当時のSMAPの力を象徴するエピソードを大手広告代理店関係者から聞いたことがある。

缶コーヒーの新CMの打ち合わせの席上、大手広告代理店の社員がSMAPのチーフマネージャーである飯島三智に今度、売り出すことになった缶コーヒーを試飲してもらったところ、飯島がこう言い放ったという。

「これはSMAPの味じゃない!」

大手広告代理店関係者は、こう言う。
「その後、缶コーヒーの味を変えたかどうかは分かりませんが、飯島さんの要求を受け入れて変えたとしてもおかしくないぐらい、当時のSMAPには勢いはありました」

有力タレントを擁する大手芸能事務所が番組のキャスティングや内容に口を出すという話はよく聞かれるが、CMで売り出す商品にまで口を出したのは、後にも先にも例がないのではないだろうか。

だが、そこまでSMAPが力を持っていたとしても、SMAPのメンバーが権力を持っていたわけではない。あくまで、SMAPを“所有”する飯島とジャニーズ事務所が力を持っていたということだ。

◆中居正広が木村拓哉よりも高所得である理由

そうした事務所による支配に嫌気が差したのか、SMAPでもっとも人気を獲得していた木村拓哉は90年代後半にジャニーズから別の大手事務所に移籍を画策し、騒動になったことがあった。そして、ジャニーズ事務所の意向を体現し、SMAPの分裂を抑えつけていたのが、SMAPのリーダー、中居正広だったと言われる。2005年に公表された芸能人長者番付によれば、前年の推定年間所得は、木村が2億7100万円、中居が5億1300万円だった。ジャニーズ事務所が査定で評価したのは、日本を代表する男性アイドルの木村ではなく、ジャニーズ事務所にとって都合のよい中居だった、ということではないだろうか。

タレントの盛衰は、単に実力で決まるのではなく、所属事務所の政治力や事務所間の談合がモノを言う。その象徴の1つがジャニーズ事務所による男性アイドル市場の独占だ。

だが、そうした不自然なシステムは、いつまでも続かないと筆者は考えている。日本の芸能界に変化が訪れるとしたら、ジャニーズも必ず激震が走るだろう。現在、83歳のジャニーが、いつまで事務所経営の陣頭指揮に当たれるか、という問題もある。今後もジャニーズの動きを注意深く観察してゆきたい。(評者=星野陽平)

 

『ジャニーズ50年史』(鹿砦社2014年12月1日発売)

『ジャニーズ50年史 モンスター芸能事務所の光と影』
2014年12月1日発売!!
ジャニーズ研究会=編 B6判 / 288ページ / カバー装 定価:本体1380円+税
【主な内容】
第1章 ジャニーズ・フォーリーブス時代 1958-1978
第2章 たのきん・少年隊・光GENJI時代 1979-1992
第3章 SMAP時代前期 1993-2003
第4章 SMAP時代後期 2004-2008
第5章 嵐・SMAPツートップ時代 2009-2014

▼[評者]星野陽平(ほしの ようへい)
フリーライター。1976年生まれ、東京都出身。早稻田大学商学部卒業。著書に『芸能人はなぜ干されるのか?』(鹿砦社)、編著に『実録!株式市場のカラクリ』(イースト・プレス)などがある。

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