国土の広さなどの要因で全部の国には該当しないけれども、一般に経済成長を遂げた国ほど人口は増えない傾向にあり、貧困に苦しむ国ほど多産である。貧しい国では衛生状態の悪さや、栄養不足で乳児死亡率も高いが、たくさん赤ちゃんが産まれるから結果として人口は増えてゆく。

◆日本の少子化に拍車をかけた3.11以後の状況

日本は精一杯経済成長を遂げたので教育費や住居費が高騰し、それに対して若年層の収入は一向に増えないから、子供を産み育てるどころか、家庭を持つことすらに諦めを感じている20代、30代が少なくない。幸運にも結婚ができても、放射能被害に敏感な人は出産をためらうだろう。

放射能被害を心配しないで生活が出来た(2011年3月11日前)から、経済的要因以外に子供を欲しいと願ってもなかなか実現しない悩みを抱く女性の数は潜在的に多かった。現実にどれくらいの割合で女性(あるいは夫婦)が不妊に悩んでいるかと言えば、国立社会保障人口問題研究所「第14回出生動向基本調査」(2010年6月)によれば6組に1組とされているので約17%となるが、私の知る産婦人科医や複数の医師の話を総合するとこの数字は実態の「半数ぐらいではないか」という。

不妊の定義は「通常の生活をしていて2年以内に妊娠しないこと」となっている。産婦人科医は妊婦さんのだけでなく、不妊に悩む女性の治療にもあたるので、受診者、治療者の数を数えれば不妊の実態がわかる。不妊治療を受けている女性の数は現在50万人と言われているが、これも実態より大幅に少ない数だと推測される。

臓器移植などで有名な関西のある病院の産婦人科医は私に「今生まれてくる子供の4人に1人くらいは不妊治療のお蔭でしょう。広義の不妊治療には人工授精なども含みます」と教えてくれた。とすると25%の子供たちが最先端医療技術が無ければ生まれてこれなかったことになる。

不妊に悩む女性やご家族には、これほど不妊の数が多いということを是非知って頂きたい。今日でも女性は「産むための装置」との考えは依然根強く、都議会で自民党議員は「なぜ産まないんだ!」との罵倒を女性議員に浴びせた。子供が出来ない女性への風当たりは身内からも陰に陽にプレッシャーとなる。でも、不妊はもう珍しい現象ではなく4人に1人という時代になっているのだ。

その原因が大いに気にかかるところだが、残念ながら明確な科学的結論は今のところ確認されていない。

◆毎年約22万人づつ減少する日本社会を受け入れる

分かっているのは、年々不妊の女性(あるいは夫婦)の割合が増加しているということのみだ。

とすれば、この国に独特な因子が原因となっているだろうことは推測できる。子供のころからの食べ物、生活のあり様(運動時間や睡眠時間)、体格の変化などが影響しているのだろうか。明言は科学者ではない私には出来ないが、一つだけ推測できる仮説がある。

個体として不妊をとらえると、その人の体の分析により回答を見出すことになるが、この島国全体の人口増減と食物の生産量を考慮してみるとどうだろうか。

日本の総人口は総務省の統計によると、1億2712万2千人(2015年8月1日)だ。毎年約21-22万人づつ減少している。減少の割合は今後加速化し、2030年頃には1億人を割り込む概算だ。でもこの計算は幾分政治的である。上記で述べたような不妊の実態や、ましてこれから多発確実な放射線被害による人口減少は当然含まれていない。

私の暴論だが、生物としてこの島国に住める数を人間は超過してしまっているのではないだろうか。それを感知した生物「ヒト」属が総体としてこれ以上個体数を増やす事を抑えるために何らかの回路で人口抑制(妊娠の難化)にスイッチがオンになったのではないだろうか。

生物は生きる上で空気と水そして食物が欠かせないが、例えば東京都の食物自給率は0%だ。食べるものがないところに生物は生きられない。例えを動物にとって恐縮だが、ウサギやネズミもある特定の地域で個体数が増えすぎると理由不明な多量死が起きることはよく知られている。

この島国で生きながらえようとするのであれば、面積に応じた人口と食物自足をバランスよく実現するのが肝要なのだろう。

それは「経済第一」や「景気回復」といったフレーズと正反対にある思想だ。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ

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