産経新聞と曽野綾子といえば「差別主義者」の代表格だが、その両者が結び付くと差別エネルギーが二乗になり事件が起きる。産経は経営状態が悪いから積極的にYahoo!やネットに記事提供を行っているのであたかも世間で相応の認知がなされた新聞のように誤解されやすいけれども、あんなものは一部偏執狂が意地で出し続けている同人誌のようなものだ。
◆産経新聞は「近視眼、気味悪い、気が小さい」=「3K」新聞
産経新聞は自民党応援団であり、昨今の「嫌韓」を牽引してきた犯人でもある。産経を正しく標記すれば「3K」で「近視眼、気味悪い、気が小さい」の頭文字に由来する。「近視眼」は韓国に対する態度で窺い知れる。今でこそ「韓国叩き」の先頭を走る「3K」だが、ノテウ(慮泰愚)大統領時代までは日本の新聞の中で最も「親韓」を露わにしていたのが「3K」だ。
軍人出身で民主主義を掲げてはいるが軍国主義の血を引く共産主義に対峙する人物だったからだろうか。世論や他の新聞が韓国政権に一定の批判を保持していたのとは対照的にもろてをあげて「ノテウ万歳」だった。
その「3K」系列のフジテレビはつい数年前まで午後ほとんどの時間に韓国ドラマを流しっぱなしだったくせに、潮目が変わると見るや転身の早いこと。これを「近視眼」と言わずに何と表現できよう。「気味悪い」は今回のように国際的にも批判を浴びることが必至な記事を平気で載せてしまう「ネトウヨ」並みの神経だ。
さらに、あまりの偏見に読者が離れてしまい夕刊を発行することすら出来なくなった青色吐息なのに、まだ「これでもか、これでもか」と差別を売り物にしようとする執着心である。「気が小さい」は弱いものや直接批判を浴びない勢力には罵倒を浴びせる癖に、真っ当な批判を正面からされると逃げるか、嘘をついて責任回避をしようとしかしない態度だ。「強きを助け、弱きを挫く」のが「3K」だ。
◆「アパルトヘイトは素晴らしかった」と言っているに等しい曽野綾子
一方、曽野綾子はこれまた堂々たる差別者にして、政府の手先で裏社会の仕事も引き受ける輩だ。愛情だの、母性だの聞こえは優しい言葉を多用しながらも結論は「女は女らしくいなさい!子供を産んだら会社を辞めなさい!」平然と発言したのは数年前だったが、今回の本音に対する批判は国内だけに収まらないだろう。
「3K」は2月11日付朝刊に曽野綾子の「労働力不足と移民」と題したコラムを掲載した。曽野は労働力不足を緩和するための移民の受け入れに言及し、「20~30年も前に南アフリカ共和国の実情を知って以来、私は、居住区だけは、白人、アジア人、黒人というふうに分けて住む方がいい、と思うようになった」などと書いている。
こういうことをあたかも独自の視点のように書き、公表をはばからないのが曽野綾子という人間の本性だ。これは「アパルトヘイトは素晴らしかった」と言っているに等しい。この老婆は原則的な差別主義者のくせに驚くべき二重基準を平然と実行する不思議な人物でもある。日本財団(旧日本船舶振興会)代表の椅子に長く座っていた事実がそれを物語る。
と言っても、若い世代にはピンとこないだろう。この団体はモーターボートレースを牛耳っていた笹川良一が設立した団体で、古くから陰に陽に自民党政権を資金的に支えてきた。笹川について書き出すと本が1冊出来てしまうが、40代以上の方々は高見山と一緒に拍子木を打ち鳴らしながら「戸締り用心火の用心、一日一善!」とテレビCMに出ていた老人と言えばご記憶の方も多かろう(笹川は「ファシスト」を自認していたから存命ならこの時代、さぞ生き生きしていただろう)。曽野は笹川の遺産である「日本財団」(この名前も一民間団体にしては随分とずうずうしい)の会長時代に言い逃れのできない犯罪をおかしている。もっともも共犯が日本政府だから検挙されることはなかったが。
2000年アルベルトフジモリが現職のペルー大統領のまま日本に事実上の亡命をしてきた。ペルー検察は後に「殺人罪」容疑者としてフジモリを追及することになるが、2000年フジモリが日本へ逃げてきた際に保持していたパスポートはペルー国籍のはずだ。というのはフジモリの両親が日本国籍であるので、出生届を日本の役所に出してれば「二重国籍だった」可能性は排除できないからだ。仮に「二重国籍」であればフジモリはペルーで大統領になることはなかった。ペルーでは「二重国籍」者が大統領になることを法律で禁じている。
ところがあろうことかフジモリは2007年に日本新党から参議院選挙の比例代表候補として出馬する。何たることかと呆れた記憶がある。日本政府は「二重国籍」を認めていない。この国は国籍に関してはとりわけ神経質であり、他国で大統領をまで上り詰めた人間に日本国籍を「進呈」するなどその他の差別的行政態度からは考えられないことだ。
おそらく、曽野らは日本財団による過去の「貸し」や、裏社会の装置を使って政府を裏から動かしたのだろう。フジモリは実際に当選するあてもない選挙に出馬したのだから。
◆曽野綾子×3K新聞の「誤った言説」に対して日本の中で徹底批判が必要だ
そんな「3K」と曽野の合作に国内からは大小批判が上がっていたが、当の南アフリカ政府からも強烈なパンチが飛んできた。モハウ・ペコ駐日南アフリカ大使が「『アパルトヘイトを許容し、美化した。行き過ぎた、恥ずべき提案』と指摘。アパルトヘイトの歴史をひもとき、『政策は人道に対する犯罪。21世紀において正当化されるべきではなく、世界中のどの国でも、肌の色やほかの分類基準によって他者を差別してはならない』」とする批判文を「3K」に送っていたことが明らかになった。さあどうする、「3K」よ。
アパルトヘイト(Apartheid)は1994年に撤廃されるまで、南ア以外の白人国家でも大変な非難の的になっていた。実際の人種差別が世界中にあっても法律による差別は訳が違う。だから非難されていたのだ。欧州諸国をはじめ米国までが経済制裁を行っていた。日本も名ばかり制裁に参加はしていたけれども、多数の商社や宝石関連企業が取引を続けていたので国際社会で非難を浴びていた。だいたいApartheidを「アパルトヘイト」と日本では発音・表記するが「アパタイト」と発音しないとよその国では通じない。
「3K」の小林毅・執行役員東京編集局長は「当該記事は曽野綾子氏の常設コラムで、曽野氏ご本人の意見として掲載しました。コラムについてさまざまなご意見があるのは当然のことと考えております。産経新聞は、一貫してアパルトヘイトはもとより、人種差別などあらゆる差別は許されるものではないとの考えです」と「気が小さい」を地で行くコメントを出している。嘘つけ!お前たちは連日「人種差別」を煽る記事を掲載しそれを売りにしているじゃないか!今回は相手が韓国ではない。国際社会で非難されていた「アパタイト」擁護は小さな問題で収まりはしまいだろう。
拙稿「多様性に不寛容な日本が『外国人』を無原則に受け入れるとどうなるか?」(2015年2月4日付)で指摘したのは正に曽野のような考え方の人間が闊歩している現状を憂いたためだ。国際的に明らかな差別として指弾された「アパタイト」にすらいまだに賛意を示す時代錯誤は外的圧力によってしか是正出来ないのだろうか。情けない国だと思われないために「誤った言説」には日本の中で徹底した批判が加えられなければならない。
▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ
◎多様性に不寛容な日本が「外国人」を無原則に受け入れるとどうなるか?
◎イスラム国人質「国策」疑惑──湯川さんは政府の「捨て石」だったのか?
◎人質事件で露呈した安倍首相の人並み外れた「問題発生能力」こそが大問題
◎2015年日本の現実──日本に戦争がやってくる