いったい事故の真相はどうなっているのだろうと気がかりで東電に電話をかけてみる。ネット上で東電案内窓口と示されている案内一般のフリーダイアルに電話を掛けると「申し訳ございません」、「この度は大変ご迷惑をおかけしました」と言葉と態度は平身低頭だが、肝心の内容には全く回答してくれないオペレーターが応対に出てくる。

これは2011年事故直後からしばらく続いた東電の「電話対応」体制だ。当時この電話対応を請け負っていたは「TEPCOコールアドバンス」でこの会社は名前が示す通り東電の子会社だ。マスコミや記者を相手にした「記者会見」でもまともな発表を行わない東電が個々の電話問い合わせに真っ当な回答をする道理はないのだが、遠隔地に住む人間としては毎日東電記者会見に通うわけにもいかないから時々、東電に電話をかけて情報収集の真似事と、対応がどう変化してゆくかを追っていた。

◆「正社員は誰も責任を取らず傷つかない」仕組みとしての東電コールセンター

ある時期から東電HP上では一般問い合わせのフリーダイアルがなくなり、賠償対象者のみにフリーダイアルが公開されている。試しにこの番号へかけて事故の内容などを質問すると別の電話番号を案内される。その番号は050からはじまる「ナビダイアル」と呼ばれる番号で、電話をかけた方が通話料金を負担するようになる。

まあ、こちらは質問をしたいので、番号が無料であろが、有料であろうが文句を言う筋合いはないのだが、問題はそこで出てくる人間の応対だ。前述の通り東電は当初(事故前は不明)「TEPCOコールアドバンス」から派遣された電話応対部隊を使っていたのだが、理由は分からないもののある時期にオペレーターの総入れ替えを行う。「TEPCOコールアドバンス」は撤退し、代わって「KDDIエボルバーコールアドバンス」社が電話応対業務にあたるようになる。「エボルバーコールアドバンス」とは何とも強い怪獣のような名前だが、業務自体が変わったわけではないのでこちらが電話をかけた際の応対にさしたる変化は見られない。

この体制を敢えて短い言葉で表現するとすれば「正社員は誰も責任を取らず傷つかない制度」と言えよう。

私を含め東電に電話を書ける人の中には質問や、怒りが煮えたぎっている人が多かったに違いない。それを受け止めるのは正社員ではなく子会社もしくは、別会社で専ら電話受け付けのみを担当する人だ。

その人々には何の権限がないことは言うまでもなく、また「貴重なご意見として承り、必ず上司に伝えておきます」と決して実現することのない慣用句を口にするが、あの電話は直接、東電社員や幹部が時には体験してみるべきだ。そうしない限りいつまでたっても東電正社員の傲慢さと責任感のなさが改めれれることはないだろう。

◆日立システムズが原子力安全規制委員会のコールセンター業務を請け負う

電話対応で、これまた東電以上にえげつないのが「原子力安全規制委員会」だ。「原子力に関するお問い合わせはこちら 03-5114-2190」とHPに電話番号が載っている。こちらは官庁なのでフリーダイアルでないのは当たり前だが、ここへ電話をかけても「絶対」と言ってよいほどに公務員へつないでくれることはない。ここもコールセンターなのだ。「あなたは公務員のですか?」との質問に「こちらはコールセンターです」と答えをはぐらかす回答をするので、こちら意地になり同じ質問を5分ほど続けたことがある。

意固地な女性のオペレータはこれでもか、これでもかと私が質問を投げかけても「こちらはコールセンターです」の一点張りで機械のように回答を続けた。「あなたの所属する会社はどこですか」との質問へも「私はコールセンターの人間です」としか答えなかった。「ややこしい質問へはすべて『私はコールセンターの人間です』と回答しなさい」とのマニュアルがあったのだろう。

その応対が数か月前から変わった。現在「原子力安全規制委員会」コールセンター業務を請け負っているのは「株式会社日立システムズ」だ。こちらは日立の子会社と言うには規模が大きく、資本金が190億円もある大会社だ。その「日立システムズ」から派遣された6、7人が「規制委員会」コールセンターの電話受付業務にあたっている。「どこの会社か」と聞けば正直に答えるし、以前よりも多少人間らしい対応にはなっている。

しかし、原子力安全規制委員会と日立である。

余りにも怪しい組み合わせではないか。オペレーター氏に聞くと「契約は入札で行われた」という。原子力安全規制委員会にアクセスする方法がこちない以上、オペレーター氏の答えを信用するほかない。

日立は福島第一原発原子炉の設計にかかわったていた。原発を売って儲け、爆発させてもまだ儲ける。

公平な入札で「規制委員会」の仕事を日立が落札したとすれば、両者の因縁は断ち切りがたく深いと言わねばならない。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ

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