ベネッセの会長兼社長で日本マクドナルドホールディングス並びに日本マクドナルドの取締役会長の原田泳幸が3月25日の定時株主総会後に辞任することを明らかにした。

◆従業員を使い倒す“ピープル・ビジネス”のどこが「お客様第一」か?

原田は2月20日、マクドナルドを辞任するにあたってこんなコメントを発表している。

「私のマクドナルドでの歩みは常に変革・改革の連続でしたが、マクドナルドは“ピープル・ビジネス”、常に人材を礎としビジネス基盤を強固にしてきたことで成長してきたものと確信しております。幾度のビジネスの危機も、『お客様第一』であり、目の前のお客様に誠心誠意対応させていただくことを肝に銘じてまいりました。『お客様第一』を徹底して追求していく事こそがお客様への価値向上につながり、企業を成長させる最も重要な事であると考えております。日本マクドナルドは真摯な気持ちでふたたびお客様の店舗体験の価値を高めることと私は確信しております。」

原田らしいコメントだと思う。原田の言う「“ピープル・ビジネス”」とは「人々のための仕事」ではなく「従業員や消費者を使い倒す」手法である。元からアルバイト中心で少数の正社員で構成されていたマクドナルドに更なる「合理化」=「搾取」と「競争」原理を持ち込み、自分の人脈の人間を多量に雇い入れ、その連中とも反りが合わなくなり追放し、内輪のゴタゴタが凋落に繋がって行った。「ビジネス基盤を強固にしてきたものと確信して」いるのは原田だけだろう。

「『お客様第一』を徹底して追及してゆく事こそがお客様への価値向上につながり」とはこれと正反対の方針を取る経営者の常套句で「お客様第一」を考えていたらあんな体に悪い商品を臆面もなく売ることなどできないはずだ。あれこれ言いつくろってもジャンクフードの王様、マクドナルドで利益を上げようとした経営者に「お客様第一」を語る資格などない。

◆外資を渡り歩く経営者にありがちな「自己利益と身分確保」優先主義

読者は意外に思われるだろうが私は原田と面識がある。もっとも私が原田と知り合ったのは彼が日本アップルの社長だった頃でまだ白髪も目立たなかった。

その数年後、ある企画で原田に協力を頼めないかと日本アップルに連絡をしたところ原田は既に社長ではなかった。電話に出た人間に転職先を聞いても答えないので調べるとなんとマクドナルドに移っていた。「マック」(アップル製PCの略称)から「マック」へと冗談のような転身だなぁと驚いた記憶がある。が、経営者が大企業を渡り歩くこと自体は珍しくもないので原田の手腕が買われたのだろう程度に考えてた。だがその後マクドナルド内ではかなりえげつない合理化により、内紛と言っていいほどの混乱が起きる。ジャンクフードの売り方よりも自身の利益や身分の確保に凌ぎを削る争いが起きて、一部フランチャイズ店からは訴訟も起こされる。

たぶん原田の運はこのあたりから下降線をたどっていたのだろう。

◆マクドナルド凋落はベネッセでも繰り返される

ベネッセで社長兼会長に就任するとニュースを聞いたときは「いくらなんでもそれはやりすぎだろう」と感じた。ベネッセは福武書店が「進研ゼミ」の商標と名乗っていた岡山に本社がある教育関連企業だ。長く株式を公開せず、社員持ち株を続けていたが株式公開と同時に高騰し、社員が皆「億万長者」になったという噂を持つ会社だ。模擬試験や通信教育から始めた事業は「幼児から取り込めば大学受験まで顧客にできる」と着眼し、「シマジロウ」という虎の縫いぐるみを中心に幼児向けのビデオ教材でも成功を収める。

「幼児から取り込めば大学受験まで顧客にできる」これどこかで聞いたフレーズに似てはいまいか。そうだ。日本マクドナルド初代社長藤田田は「親の舌をハンバーガーに馴染ませたら、子供も食べに連れてくる。徹底的に日本人の舌を変える」と言った。「味覚の強制破壊」とも言うべき手法に限りなく似ている。ベネッセの幼児教材は、ほとんど玩具なのだが研究し尽してあり幼児が喜ぶ材料を毎月送って来る。ビデオなどは幼児のツボをついているらしく、一度見せると「もう一回!」と幼児が何度も繰り返し見たがる光景を私は各所で何度も目にしている。

だから、先ごろ起きた情報流出事件のように膨大な顧客を抱えることに成功していたのだろう。漏えいした個人情報の数はベネッセによると、実に3504万件に上る。大雑把に言えば国民3人に1人の割合だ。情報の内容や区分はともかくこれだけの情報を保持するほどに事業が拡大していたことは驚きに値する。売り上げを見ても2014年3月末で4663億円に上っている。経営も多角化し同時に混乱も多角化している様子が想像される。

そこに現れたのが原田泳幸だ。原田のベネッセ社長兼会長就任は2014年6月21日だからまさにベネッセ社内は情報漏えいでテンヤワンヤの時期だったろう。原田がこの漏えい事件にかかわったわけでは全くないけども、ベネッセに移籍するにあたりこのような混乱の渦中に放り込まれるあたりで原田の運がとことん尽きていることが伺い知れる。

ベネッセは昔通りに進研ゼミの「赤ペン先生」と「模試」を丁寧に行っていれば良いものを、「幼児から取り込めば大学受験まで顧客にできる」などとよこしまな考えを起こしたことがそもそもの過ちだったのだ。そこへ原田の登場である。マクドナルド凋落がベネッセでも繰り返されるだろう。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ

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