2月10日の本コラムで4月1日から「健康な食事を普及するマーク」が導入されることを紹介した。この制度は販売者が「勝手に」自分の売る商品に「健康な食事マーク」を表示できるという、あまりにも無責任かつ無意味な制度で、消費者に誤解を与えることが必至であることを批判した。

ところが3月22日になって厚生労働省は「基準や認証に関する議論が不足している」との批判をが相次いだのを受け4月からの制度導入を先送りすることを決定した。

ほらみたことか。

しかし導入間近になっての「ドタキャン」だ。弁当会社やコンビニチェーンでは既に「マーク」の印刷などを終え準備してた業者もあろう。

「何やってんだ国は!」と無駄な業務に追いまくられた担当者の恨み節が聞こえてきそうだが、一般の消費者にとっては必ず誤解を生む迷惑以外の何ものでもない「健康マーク」導入が延期されたことは、当たり前とは言え歓迎すべきニュースだ。

◆4月1日実施の「機能性表示食品」は「特定保健用食品」となにが違うのか?

ところが、国が同時に導入を決めていて既に4月1日から実施された同様の制度がある。「機能性表示食品」がそれだ。現在、食品について効果や機能を表示することは原則として認められていない。「健康食品」と呼ばれる類で、国がそれを認めているのは、「特定保健用食品」(トクホ)と「栄養機能食品」だけだ。そこに「機能性表示食品」が加わった。これはいったいどんな代物だろう。

「特定保健用食品」(トクホ)は国の販売許可を得る必要がある。材料や栄養価などの資料を国に提出し、許可を得ないと「トクホ」を名乗ることは出来ない。時間もかかるしメーカーとしては費用もかさむ。一方の栄養機能食品は、国の基準さえ満たせば使えるが、成分ごとに使える文言が決まっている。そこに登場したのが「機能性表示食品」だ。届出制ではあるが、国による個別審査はなく、企業自身の責任で科学的根拠のある機能性を食品に表示できるのが最大の特長とされている。つまり「トクホ」よりも手続きが簡素で、「栄養機能食品」よりも表示の自由度が高い、これまた「あやふや」な制度である。

「○○をたくさん含んでいて、胃腸の働きを良くする効果があると言われています」

といった具合の表現で商品を宣伝することが可能になるらしい。だが、これはあくまで、「健康」に関してだけであり「病気」の治療や予防に効果があるといった表現は認められないようだ。

しかしこの制度も一見「健康」という隠れ蓑を被っていながら、やはり導入の動機は不純なものだ。「栄養機能食品」は安倍政権の成長戦略の一環と位置付けられているのだ。おいおいまた「経済かよ」とげんなりする。

◆成長市場の健康食品分野で許認可や届出制度を増やし、利権を漁る政官癒着

健康食品関連市場は年間売り上げが二兆円ともいわれる成長分野だ。農産物の海外展開も視野に入れたいとの腹黒い思惑で「機能表示制度」制度は、米国の例を参考に導入が決まったのだ。1990年代に同様の緩和を行った米国でサプリメントや健康食品市場が拡大したことを、安倍の取り巻きの誰かあざとい奴が耳打ちしたのだろう。

決して「健康」や「体にいい」ことを真剣に精査しようというのが制度導入の理念ではない。検討委員会の議事録にはあれこれ御託が並べられているけれども、あくまで「売上増加」のためのいわば「広報戦略援助」として同制度が導入されることを私たちは知っておいたほうがよい。

◆新自由主義者は何でも米国のまねをしたがる

新自由主義者は何でも米国のまねをしたがるし、すれば成功すると思っている。しかしそれは勘違いも甚だしい。これも以前、本コラム(粗悪な食文化の伝道企業=マクドナルドの衰退は「自然の理」)で述べたが、米国には「アメリカ料理」と呼ばれるようなものはない。その代りにスーパーマーケットに行けば夥しい量の缶づめや冷凍食品が売られている。生鮮食品も売られてはいるがバランス良い料理を自分で上手に料理できる人は少ない。

だから肉食に偏りがちで、カロリーを摂取し過ぎ高血圧や肥満が横行するのだ。そこでバランスのとれた栄養を得ようとビタミンやミネラルのサプリメントが80年代前半から売り上げを伸ばし始めた。同時期に健康に良さそうな豆腐など日本食への興味も高まった。そして90年代の制度変更で更にサプリメントの売り上げが上昇した。背景にある食文化が日本とは全く異なるのだ。

「機能性表示食品」は、表示の科学的根拠を示す臨床研究結果や論文を、販売の60日前までに消費者庁に届け出るだけでいい。お手軽な制度だ。「食」に関してこの国は健康や「体に良い」ことよりも明らかに「経済効果」を中心に考えている。

政府の物差しを信じていると健康さえもどうされるかわからない。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ

◎制度は作るが責任は取らない厚労省「健康な食事を普及するマーク」の怪
◎粗悪な食文化の伝道企業=マクドナルドの衰退は「自然の理」
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