2004年1月、陸上自衛隊はイラクに派兵された。名目上は「PKO」を名乗っていたけれども、滞在地サマワではロケット砲が飛び交う、実質的な戦地だった。
この派兵は当時の首相小泉によって決定されたものであるが、現首相安倍は自衛隊派兵中に官房長官に就任している。
米国を中心とする「多国籍軍」によるイラク攻撃は「大量破壊兵器所持の疑い」が理由であったが、そんなものは実際にはなく、主犯格のブッシュはイラクをめちゃくちゃにした後に「あの戦争は間違っていた」と述べている。日本は同様にイラクが「大量破壊兵器所持の疑い」があるとして米国のイラク攻撃を支持するにとどまらず、実質的な戦地に自衛隊を派兵した。
◆思い込みだけで冤罪イラクを崩壊に追いやった多国籍軍・日本の責任
ブッシュが「間違っていた」と認めたイラク攻撃理由について安倍はどう考えているのだろうか。昨年5月28日衆院予算委員会での関連質問に「大量破壊兵器がないということを説明できるチャンスがあるにもかかわらず、それを証明しなかったのはイラクであったということは申し上げておきたい」と述べている。
イラクは当時何度も「大量破壊兵器など保持していない」と表明していた。それでも「いや、信用ならない。必ずイラクは持っている」という思い込みか、言いがかりかわからないけれども「多国籍軍」はとてつもない爆撃を行い、果てはフセイン大統領を殺してしまった。フセインの独裁政治に問題があったとしてもそれは内政問題であり、攻撃の理由などには到底ならない。その結果イラクはどうなった? イスラム国や米国傀儡政権、さらにはクルド民族勢力やアルカイダ系組織が戦闘を繰り返し泥沼の内戦が続いているではないか。
明らかな犯罪じゃないか。
いや犯罪などという言葉では軽すぎる。これは国家抹殺の大虐殺だ。であるのに安倍の見解は上記のとおりだ。冤罪で睨まれた容疑者と同じでいくら事実がなく「やっていません」といったところで「じゃあお前やっていないことを証明しろ」といわれてどうやって証明するのだ。犯罪が存在した事実を証明する義務を負うのは捜査当局であるし、この場合であれば米国や多国籍軍にその責任がある。
だが、主犯格の米国が「イラク容疑者は冤罪でした」とフセインを死刑にした後誤りを認めた。多国籍軍は向くのイラクに大虐殺を犯しただけのことなのだが、その責任があたかもイラクにあるかのごとき発言をいまだに安倍は行っているのだ。安倍はブッシュよりさらに悪質極まりない。
◆安倍の狂気で真っ先に犠牲になる自衛官たち
その安倍の狂気により最も生命の危機が脅かされているのは自衛官の皆さんだ。安倍が気まぐれに「シリアへ行け」、「イエメンへ行け」と言い出せば自衛隊の方々は拒否できない。もちろん現行法では戦地に自衛隊は赴けないけれども、解釈改憲を平然と行うような人間が安倍だ。憲法だって読み替えるのだから、法律などいくらでも屁理屈をこねて解釈を捻じ曲げるだろう。
こういった話を「物語」的に語れないのは不幸のきわみだけれども、真っ先に犠牲になるのは繰り返すが、自衛官の皆さんだ。そしてその対象が一般国民に広がるのにもこのまま行けばたいした時間はかからないだろう。
◆イラクから帰国後5年内に自衛官29名が自死した事実
実は、イラク現地での戦死者は出なかったけれども、実質的な戦死者は既に出ている。イラクから帰国後5年以内に確認されているだけで、陸上自衛官21名、航空自衛官8名合計29名が自ら命を絶っているのだ。
安倍は言うだろう「自殺と任務の因果関係は証明できない」と。
自衛隊は「交戦地帯」には赴かなかったはずだ。勿論実際の戦闘にも加わらなかったはずだ。にもかかわらずこれほど多くの自死者が出ているのは何故だ。報道されていたようにサマワで道路建設だけに従事していたのであれば自らを死に至らしめるような苦しみに苛まれるだろうか。派兵された自衛官の皆さんは公にされていないが心に熾烈な傷を負う経験をさせられたに違いない。そうでないというのであれば、安倍がイラクに求めたように「そんな苛烈な状態はなかった」ことを証明してみろ。
「安保法制の整備」などつまるところ「どうやって合法的に自衛隊をはじめとする国民を戦地に引きずり出すか」悪知恵の出し合いだ。
交戦なくして29名もの自衛官の戦死者が出ていることを国民は広く知るべきである。
▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ
◎基地も国民も「粛々」と無視して無為な外遊をし続ける安倍の「狂気と末期」
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