昨年、アニメフェアの分裂騒動があった。「条例に反対するならどうぞおやりください。吠え面かくのは向こうだ」と石原慎太郎知事が吠えたが、東日本大震災の発生によってどちらも中止になった。今年はどうなったのかと思っていたが、やはりアニメフェアは2つ開かれる。
東京都主催で、石原知事が実行委員長のアニメフェアが、3月22日~25日、東京ビックサイトで開催。コミック10社会(秋田書店、角川書店、講談社、集英社、小学館、少年画報社、新潮社、白泉社、双葉社、リイド社)主催のアニメコンテンツエキスポが3月31日~4月1日、幕張メッセで開催される。

昨年の分裂の発端は、一昨年の12月に「東京都青少年の健全な育成に関する条例」、いわゆる青少年健全育成条例の改正が可決されたことだ。
これに怒ったコミック10社会を始め数十社がアニメフェアへのボイコットを決め、別個にアニメコンテンツエキスポを開催することを決めたのだ。

問題は何かといえば、そもそも青少年健全育成条例は、おかしな条例だ。
マンガとアニメに限らず、図書一般に対して、「青少年に対し、性的感情を刺激し、残虐性を助長し、又は自殺若しくは犯罪を誘発し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあるもの」を青少年に見せないよう、書店などに義務づけているのだ。

中学生くらいになれば、性欲があるのが当たり前だ。その性的感情を刺激してはいけないとは、食欲のある人間に食物を与えないのと同じ。青少年に飲酒や喫煙を禁じるのとは訳が違う。
また、「性的感情を刺激する」というのは解釈によっては水着写真やミニスカート姿まで含まれるかもしれないわけで、なんでも規制できてしまうウルトラスーパーな条例だ。

改正点は、法に反する性交を賛美・誇張するように描写しているマンガなど規制する、という内容。改正せずとも、それまでの条例で性交の描写そのものが規制できるのだから、いったい何を規制するのか、と出版社がいきり立ったのは当然だ。
字義通り解釈すれば、近親相姦の場面が美しく描かれている、手塚治虫の『火の鳥』なども規制対象に入ってしまう。

だが、今年のアニメフェアの分裂は、怒りが持続してのことではないらしい。
コンテンツエキスポ側は「条例論議とは別」を強調するし、石原知事も「両方ともよければいいじゃないか」と、分裂と見られることを否定する。

改正された条例は昨年7月から施行されたが、新基準に該当するというマンガは出てきていない。不健全図書に指定されているのは、改正前の基準によるものだ。
これを、条例改正に当たって激烈な反対運動があったため、都側も慎重になっている、と見るべきか。あるいは、出版社やマンガ家が萎縮してしまっていると見るか。

反対運動の中で注目されたのが、『ぬきまん。』などの作品がある、エロマンガ家の浦嶋嶺至氏だ。
一昨年の12月に猪瀬直樹副知事がTwitterで、「ネットで騒いでないで夕張に行って雪かきをしてこい。そうすれば話を聞いてやる」という趣旨の発言をしたところ、昨年1月、浦嶋氏は夕張で雪かきを実行。その後、会談が実現した。
浦嶋氏は、猪瀬氏のサイン本を直々にもらって、笑顔で出てきた。
今は「猪瀬副知事とは友達」と公言している。

石原も猪瀬も作家だ。表現の自由を侵す条例改正だというのは、それなりに手痛い批判だったろう。
猪瀬副知事は、コミックマーケットには規制を掛けないなどと明言して、その後のフォローに努めていた。浦嶋氏との会談は、話の分かる副知事という、かっこうのパフォーマンスになった。
一方で、条例を改正したということで、警察官僚への顔は立てた。
改正後の1年間の動きは、石原と猪瀬にとっては、してやったりといったところだろう。

条例改正反対の運動は「祭りの後」となっている中、2つのアニメフェアが開かれる。

(FY)