5月21日の本コラム「『医薬分業』や『お薬手帳』で利を得ているものは誰なのか?」でこの制度への疑問を述べた。22日の各紙朝刊は「かかりつけ薬局」制度導入を政府が模索していることを報じた。
共同通信によると、「厚生労働省は21日、全国に約5万7千カ所ある薬局を、2025年までに患者の服薬情報を一元管理できる『かかりつけ薬局』に再編する検討に入った。薬の飲み残しや重複を防ぎ、膨らみ続ける医療費の抑制にもつなげる狙い。患者各人がかかりつけ薬局を決め、どの病院を受診してもその薬局に処方箋を持ち込める環境を目指す。24時間調剤に応じたり、在宅患者に服薬指導したりする機能も整備する。塩崎恭久厚労相が26日の経済財政諮問会議で、将来に向けた『薬局構造改革ビジョン』(仮称)を作成すると表明する。16年度の診療報酬改定で、かかりつけ薬局普及に向けた考え方を反映させる」そうだ。
先の記事で私は「医薬分業により薬の過剰投与が抑制されることはない」と指摘したが、この疑問に答える形で「かかりつけ薬局」制度が準備されようとしているらしい。
◆「かかりつけ薬局」制度で投薬の一元管理が進み「国による個人の監視」は強化される
だが、何気ない記事の中でさらりと言及されているが「かかりつけ薬局」導入の目的は「患者の服薬情報を一元管理」することだ。これは一見合理的で患者本位のようにも受け取られるかもしれないがその実「国による新たな個人の監視」に他ならない。
個人の健康状態や通院、服薬状態が包括的に把握された上での処方は「過剰投与」防止の観点から一定程度は有効だろう。しかしそれを国に管理される理由はないし、これぞ正に秘匿性が高い「個人情報」ではないのか。また「どの病院を受診してもその薬局に処方箋を持ち込める環境」は現状の制度でも全く問題なく行える。処方箋を受け取った患者のほとんどは実質的な「かかりつけ薬局」を既に持っているだろう。
◆医薬をめぐる一連の流れは個人の「健康」に主眼を置いたものではない
ここで厚労省が目指しているのは現状のような「選択的かかりつけ薬局」ではなく「どの病院を受診しても特定の薬局に処方箋をも持ち込まなければならない」制度だ。投薬の一元管理により個人の健康、通院、服薬状態を国が把握しようとするのが真の目的である。
国が目指す「かかりつけ薬局」制度導入の背景には前述の通り、「医薬分業が実質的には過剰投与や薬価抑止にはつながらない」という明白な批判をかわす狙いがあろう。また「医薬分業」自体が厚労省、製薬会社の牽引の元推進され、それに文科省も大学に「薬学部」の新設を促す形で便乗し進められてきた「国策」との背景を見れば、一連の流れが個人の「健康」に主眼を置いたものではないことは明らかだ。
しかし、「医薬分業」は当初「どこの薬局でも処方された薬がもらえるようになります」とその利便性を広報していたではないか。患者にとって最も役に立つと宣伝されてきた「どこの薬局でも」は早々に姿を消して、「かかりつけ薬局」という名の「特定の薬局」へと患者は囲い込まれようとしている。
外資系の製薬会社に勤務する知人によると「薬価」自体が実はかなりあいまいで、発売直後(特許有効期間)の薬は開発費や諸経費で高価だけれども、いわゆる「ジェネリック」になると価格が大幅に下がる。さらに「ジェネリック」の価格であっても利益率は途方もなく高いらしい。「どう転んでも大手製薬会社は儲かる仕組みになっている」と知人は言う。利益率に費えは企業秘密だそうだ。
◆来年1月から始まる「癌登録制」──どう転んでも大手製薬会社が儲かる仕組みは変わらない
一方「癌登録制」が来年から始動することを読者はご存知だろうか。「国立がん研究センター」によると、「『全国がん登録』とは、日本でがんと診断されたすべての人のデータを、国で1つにまとめて集計・分析・管理する新しい仕組みです。この制度は2016年1月から始まります。『全国がん登録』制度がスタートすると、居住地域にかかわらず全国どこの医療機関で診断を受けても、がんと診断された人のデータは都道府県に設置された「がん登録室」を通じて集められ、国のデータベースで一元管理されるようになります」とのことである。
「かかりつけ薬局」強制を前に、来年度から癌患者の情報は国に一元管理されることになる。「癌登録制」には様々導入理由が述べられている。どれもこれも「ああ、そうなのか」と一見合理的にその利点を述べてはいるが、その全てが本音ではないだろう。
完全な私見だけれども、福島原発事故による癌患者増加とその動向を国は「観察」したがっているのではないか。純粋に癌治療の向上を目指すのであればともかく、この議論が原発事故後俄かに盛り上がり、ほとんどの国民が認知しない中で来年早々に導入されるのはあまりにもうさん臭くはないか。福島だけでなく食物の流通により内部被曝は全国に拡散している。その結果を探りたいのではないのか。
医療と、製薬・薬局業界は利にまみれている。彼らの本音を見抜いておかないと我々は必ず美名を冠した制度の犠牲者となろう。
▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。
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