「今年はオリンピックだっちゅうのに、いったい何やってんのやろ」
それほどスポーツ好きではないのに、日の丸・君が代が問題になると、決まってオリンピックを持ち出す友人が言う。口元チェックで話題になった大阪で、国歌斉唱で起立しなかった教職員が29人いたことを嘆いているのだ。
「ワールドカップの時にたまたま見たんやけど、スペインの選手は誰も国歌を歌ってなかったで。愛国心がないさかい、あんなに国がガタガタになるんや」
「ちょっと待てよ。スペイン人が国歌を歌わないのは当たり前だよ」
「なんでやねん?」
「スペイン国歌には、歌詞がないからな」

「国王行進曲」は、18世紀後半からスペインの国歌と見なされるようになった。アルフォンソ13世の時代、そしてフランコ独裁政権下の2度、歌詞が制定されたことがあるが、75年の王政復古後はいずれの歌詞も非公式のものとなっている。
国歌に歌詞も付けられないのが愛国心のない証拠だ、と友はひとしきり負け惜しみを言った。

府立高校で国歌斉唱で起立しなかった教員17人は、戒告処分となった。約30分間の研修の後「今後は上司の職務命令に従う」という誓約書に署名・捺印を求められた。3月23日に大阪府議会で可決された職員基本条例案では、職務命令に違反した教員は現場から外して研修を受けさせ、誓約書の提出を求め、同じ命令に3回違反すれば免職としている。

大阪府の今年度の公立学校教員採用選考では、合格者2292人のうち284人(12.4%)が3日までに辞退した。記録の残る過去5年間の最終辞退率は9~10%で、過去最高の辞退率だ。

大阪府立和泉高校の卒業式で、君が代斉唱の際に、教員が実際に歌っているかどうか口元を監視することを、中原徹校長が指示していたことが問題になった。
橋下市長はツイッターの発言などで、「教育現場こそ、子どもを扱う場であるがゆえに一定のルールが必要。校長はそのルールを守らせる責任がある」とこれを擁護した。

発言を追っていくと、こんなことも言っている。
「非難されるとしたら君が代の起立斉唱を定めた条例とそれを命じた教育委員会だろう。批判の矛先を誤ってはならない」
しかし、式典などでの君が代斉唱時に教職員に起立・斉唱などを義務付ける条例を提出したのは「大阪維新の会」の府議団であり、主導したのは橋下氏本人だ。

橋下氏は、大手メディアの弱点をうまく突いている。
多くのメディアが、口元をチェックするのは行き過ぎだと批判したが、君が代斉唱そのもの是非にまではほとんど踏み込まなかった。

橋下氏は、こんなことも言っている。
「朝日新聞は起立斉唱がおかしいと言うなら、2002年に府教育委員会の決定とその後の職務命令を徹底批判したらいい。しかしそれはできないはずだ。だってそれこそ教育の専門家の集団である教育委員会が決定したことだから」

だが大手メディアが批判できない理由は、そこにはない。
「君が代」の「君」が何を指すのか? 天皇なのかyouなのか、と以前は論議があった。だが国旗国歌法の制定の際に「君」は天皇のことであり、天皇の世が長く続くように願う歌だ、と明言された。
平等主義が重んじられてきた、日本の学校。平等の考えに反する、特権的な立場である天皇を称える歌など歌いたくない、という考えがあってもいいはずだ。
だが憲法第1条で、天皇は日本国民の統合の象徴と定められている。
リベラルなメディアほど護憲であるから、そこまで本質に遡って批判することはできないのだ。

日の丸・君が代の強制と闘ってきた日教組だが、国旗国歌法の制定以後、起立もやむなしと態度が軟化しているという。今、不起立をした教師たちの多くは、組合の後押しもなく個人の信念を貫いている。彼らの肉声に、耳を傾けていきたい。

(FY)