「まさか警察が犯罪の証拠として重要なブツを処分していたとはね。あきれるを通りこして悲しいね」(弁護士)
大阪市平野区で平成14年に起きた母子殺害放火事件の判決が、法曹界のみならず世間をにぎわせている。
事件は2002年4月14日に起きた。大阪府大阪市平野区のマンションで、主婦(当時28歳)が犬の散歩用のひもで首を絞められて殺害され、長男(当時1歳)は浴槽に沈められて水死。その後に部屋に放火された。
2002年11月16日、被害女性の義父の森健充(たけみつ)氏(54)が殺人容疑で逮捕され、12月に殺人罪と現住建造物等放火罪で起訴された。1審は無期懲役、2審は死刑という判決。最高裁は事実誤認の疑いがあるとして差し戻し、大阪地裁で審理されていた。検察は死刑を求刑していたが、3月15日、水島和男裁判長は無罪を言い渡したのだ。
森氏は一貫して無罪を主張。直接証拠はなく、状況証拠による立証の評価が焦点だった。
事件直後、マンション踊り場の灰皿にあったたばこの吸い殻72本、その中の1本から森氏のDNA型が検出されたことが、1、2審では有罪の最大の根拠とされた。
森氏は、愛に満ち溢れたメールを義理の娘に送っていた。
「義理の娘を月にたとえて求愛ともとれるメールの内容を送っていた。この状況証拠からも、かなり森は疑わしいと検察は見ていた」(法曹関係者)
しかし最高裁は22年4月、問題の吸い殻が茶色く変色していたことから、事件以前に捨てられた可能性を指摘。さらに状況証拠による有罪認定について「被告が犯人でなければ説明できない事実が含まれる必要がある」と新たな基準を示し、審理を差し戻したのである。
「72本のうち、1本の色が変わっていたとするなら、残りの71本の色が重要となる。ところが警察はこの重要な証拠を紛失。もしかしたら捨てていたのです」(警視庁詰・全国記者)
検察側は差し戻し審で、さまざまな条件でたばこを吸う実験を行い、「短時間でも変色はあり得る」との結果を提出。森氏の靴の中から採取された犬の毛のDNA型が被害者の飼い犬と同型だとする新証拠とも併せ、「被告が事件当日に現場にいたことは明らかだ」とした。
弁護側は喫煙実験を「非科学的」と一蹴するとともに、犬の毛のDNA鑑定についてもその精度や毛の採取・保管過程を問題視。さらに最高裁が差し戻し審で鑑定するよう求めた残る71本の吸い殻を大阪府警が紛失していたことを、「無罪証明の機会が失われた」と批判している。
「年末にオウム真理教の元信者で指名手配がかかっていた平田信の出頭を見逃すなど、まさに警察のゆるんだ体質を浮き彫りにする事件でした」(警察関係者)
警察は本当に大丈夫なのか。長崎で起きたストーカー殺人事件では「習志野警察署が『人手が足りない』と被害届を受理しなかったのは、北海道旅行が控えていたため」と報じられた。
ある小学生に対してのアンケートでは「なりたくない職業」で警察官がトップ3に入ったという。痴漢、強盗、窃盗、強制わいせつなどなど、警察官の不祥事は連日報道されている。「警察官が逮捕」という文字を見ると、警察官が逮捕したのではなく、逮捕されたのだと思うのが普通になっている。なんとかしていただきたいものである。
(渋谷三七十)