実時間の進行速度はいかなる場所でも時代でも、人間の意思などとは全く無関係に、平等に、中立に、正確に不変であるはずだ。
「ヒト」という一生物種として400万年程の歴史しかない人間が、一見地球上全生物の支配序列の頂点に立っていると私達は日々無感覚に勘違いしているけれども、高度に機械化された文明が今、目前で創造しつつある近未来の像は、人間の進歩を示すそれとなるのだろうか。
こんな漠然とした物言いから始めたのは、直接語ればどうあろうと荒っぽい単語だけの羅列になってしまいそうな、自身の内心を警戒してのことである。「実時間の進行」などと大上段に切り出したが、他でもないこの島国の為政者達が行っている乱暴狼藉を目の前にして、私はそれに全く同意しない。だが問題はその意を表明するにあたり、この状況に即した適切な「言葉」が見つけられないことだ。専ら自身の不勉強に起因するのだが、私の獲得した語彙ではもう追いつかないのではないかという焦りが日々高じる。
書き出せばテーマは掃いて捨てるほどある。そのどれを採ってもニッコリとした表情になれるような穏便な話題はなく、ひたすら暗渠に留まり「時間進行」に対する自分の感覚が、いつの頃からかおかしくなったのだろうかと繰り返し反芻してみるしかないのだ。だが、どうやら「時間進行」と自身の不調和を感じているのは私だけではないようだ。「おかしいよな」の声は確かに広がってはいる。
○1999年05月28日──「周辺事態法」成立(後方支援の法的枠組みを整備)
○1999年08月13日──「国旗及び国歌に関する法律」公布・即日施行
○1999年08月18日──「住民基本台帳法」改正(住基ネットの導入決定)
○2002年08月05日──住民基本台帳ネットワークシステム(住基ネット)稼動
○2003年05月23日──「個人情報保護法」成立(2005年4月1日に全面施行)
○2003年04月01日──郵政民営化(郵政事業庁が特殊法人日本郵政公社に改組)
○2003年07月26日──イラク特措法(時限立法。2009年7月に延長期限切れで失効)
○2006年12月22日──新「教育基本法」公布・施行
○2007年01月09日──防衛庁が防衛省へ昇格 ……
◆小泉政権と比べても転げ落ちる速度が速すぎる安倍政権
20世紀末から一連のキナ臭い流れの一部を参考までに抽出したが、「周辺事態法」から「防衛庁の省への昇格」までは8年を要している。主としてコイズミというあのペテン師が躍った8年間だって「時間の速度が増してやしないか?」と感じたものだが、その当時と比較してすら眩暈がしそうなほど、仮に「国家」と言う名の「石」があったとすれば、それは「ゴロゴロ」と轟音を鳴らし急傾斜を転げ落ちながら、地響きをここまで伝えて来ている。
○2011年03月11日──東日本大震災・福島第一原発事故
○2012年06月16日──大飯原発再稼動を正式決定
○2012年12月26日──第2次安倍内閣成立(~2014年9月3日)
○2013年03月15日──TPP交渉参加表明
○2013年12月13日──「特定秘密保護法」公布(2014年12月10日施行)
○2014年04月01日──消費税8%へ引き上げ
○2014年04月01日──「武器輸出三原則」が撤廃され「防衛装備移転三原則」制定。
○2014年06月29日──トルコとの原子力協定発効
○2014年07月01日──解釈改憲閣議決定・集団的自衛権容認
○2014年07月10日──UAE(アラブ首長国連邦)との原子力協定発効
○2014年09月03日──第2次安倍改造内閣成立
○2014年12月24日──第3次安倍内閣成立
○2015年06月04日──衆院本会議で選挙権18歳へ引き下げ(公職選挙法改正案)可決
○2015年06月17日──参院本会議で公職選挙法改正案可決成立
○2015年06月現在──有事関連法=戦争準備法成立の画策が進行中
※[参考資料]平成27年1月から現在までに公布された法律一覧(内閣法制局)(2015年6月5日現在)
◎[参考動画]SEALDs戦争法案に反対する抗議行動での小林節=慶応大学名誉教授(2015年6月5日国会前)
◆3・11による放射能被害を大音響で消し去るかのように転げ落ちる安倍政権という「狂乱の石」
4年前、3・11による放射能の影響はどんなに深刻化しているだろうか、とチェルノブイリを知る人々は心配したものだった。が、あろうことか、その深刻な懸念を大音響で消し去るかのように「起きることが前提とされた戦争」が目の前に堂々たる「既成事実」として据えられて、為政者達や武器商人は既に武器の商談に忙しい。一刻も早く「集団的自衛権」と言う名の「自爆行為」に自衛隊を参加させたくて、関連法案の審議では「参考人」の憲法学者が「違憲だ」と声を揃えても「賛成の学者もいる!」(菅官房長官)とガキ大将並の屁理屈を堂々と披歴して恥じることさへない。支配しているのは「狂乱」と言うほかない。
「国家」と言う名の「石」は4年間で以前は8年掛かった距離の何倍もを転がり落ちている。
加速度を増す「石」の転落に対して、この島国に住む人々はどう反応しているだろうか。誰もが無関心でいる訳では勿論ない。いや、形に見える為政者達・権力者達への異議申し立て行動は3・11後確実に増加してはいる。いささか俄かに過ぎる態度の変化と言えなくもないけれども、「破滅を目指す」為政者への対抗行動が強まるのは当然過ぎるほど当然だ。だが、対抗行動の量は勿論必要だけれども、質はどうだろうか。
権力者や武力強者間による執権の移行は、歴史上数限りなく経験しているこの島国だが、残念ながら庶民が旧体制を転覆させた経験は持ち合わせていない。2015年6月、「戦争を前提とした」法制審議にあたり、対抗言語や行動の「質」は「狂乱」に見合っているだろうか。
論理上、為政者達の破綻を看破するには「憲法違反だ!」の一言で十分足りる。何のことはない。立憲制の国にあり根本法を犯すことは行政、立法にとっては明確な「禁じ手」なのだから。
だが、奴らに正論は通じない。「解釈改憲」などという「反則」を平然と行う連中とは、整然とした論理だけでは戦えない。では何が必要なのか。推測するにそれは恐らく、もっともっと真剣かつ冷徹な「怒り」だ。極普通の生活を送ることすらままならない収入を得る事しか出来ていない非正規労働者、増税により生活苦を強いられている低所得層や、「戦争」に駆り出されることが必至な若年層が、感応しなければ、転落を加速させる「石」は止めることは困難だろう。
そのために一体自分には何が出来るのかを行動しながら考え続けたい。
◎[参考動画]小林節=慶応大学名誉教授、長谷部恭男=早稲田大学法学学術院教授「憲法と安保法制」①(2015年6月15日日本記者クラブ)
▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。
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