1999年、当時勤務していた大学である企画を準備していた時、私は携帯電話による通話を「盗聴」されたことがある。ややデリケートな国際問題にも関係する企画だったので、外務省や政治家との折衝のため霞が関や永田町に何度も出向かねばならなかった。ある時通話が明らかに「盗聴」されたと分かった時には本当に驚いた。まだ「盗聴法」もなかったし、そもそも「携帯電話の盗聴技術」は相当な資力と技術力のある団体でなければ無理だろうと考えていた時代だった。私の通話を「盗聴」したのは、某国の諜報機関であった。日本の捜査機関ではない。わざわざその証拠を私達に解る形で残して行ったから間違いない。
◆1999年にはすでに確立されていた携帯電話の「盗聴」技術
その時、私は議員会館の某議員の事務所で通信社の記者と待ち合わせする予定になっていた。私と彼は共に周りに誰もいない場で、携帯電話により落ち合う場所と時間を確認していたから当事者2人以外にその打ち合わせ時刻と場所を知る人間はいないはずだ。しかし議員の事務所に定刻の15分ほど前に見知らぬ人物が現れて「ここに田所さんが来ると聞いたんですけれども」とだけ言い残し去っていったと秘書に伝えられた。打ち合わせは議員を含め1時間を超えたがその間その人物が戻って来ることはなかった。
私も通信社記者も、もう一度その待ち合わせについて誰か他人に話をしていなかったかを思い返した。かなりセンシティブな内容でもあったので誰にも話していない事が再度確認された。そうであれば可能性としてはどこかで通話を聞かれたと考えるしかない。固定電話の「盗聴」はいとも簡単だけれども、1999年の時点で携帯電話の「盗聴技術」もその筋では確立されていたわけだ。
◆威嚇するかのように尾行され、通信妨害も企てられた
「盗聴」はともかくその時は打ち合わせを終えて、私は次の場所へ徒歩で移動した。ところがどうも背後が気になる。普段感じた事のないような視線のようなものが、勘違いかもしれないが背中に張り付いている。霞が関の昼間は大きなビルが林立する割に舗道を歩く人の数はさほど多くはない。幾度か後ろを振り返るとかなり後方にだが2人が等距離で付いてきている。試しに地下鉄の階段を下るとやはり彼らも距離を詰め、後ろからやってきた。
明らかな尾行であることが判明したが、いかんせん人目の多い場所だ。精神的に圧迫を加えるのが目的だろうが、それ以上に手出しは出来まいと考えたし、実際にそうだった。私は地下鉄のホームから再び地上に上がり次の目的地へ向かった。
だが彼らの攻撃はそれでは終わらなかった。イベント当日私達はゲストの移動や進行の把握に携帯電話での通話を予定していたのだが、電波が弱い地域でもないのに、いくらダイアルしてもどこにもかからない。私の携帯電話だけでなく、連絡を取り合うことになっていた全ての携帯電話(皆至近距離にいたのだが)が通話不能になっていた。
電話会社のシステムトラブルであろうかと、最初考えたが身内の関係者が複数のアンテナを車の後ろに立てた不思議な自家用車が周辺を行き来しているのを発見した。その不審な自家用車が遠ざかると携帯電話の発信が可能となる。また近づいてくると全く携帯電話は使い物にならない。いわゆる「妨害電波」を発信することによって彼らは我々の通信妨害を図っていたのだ。
と、ここまでは私の昔の経験である。読者の中にこれまで「盗聴」をした(されたではない)経験の持ち主はいるであろうか。仮にいても「あるよ!」と名乗り出られることはないであろう。
◆「盗聴」されていることは固定電話よりも携帯電話の方が分かりにくい
私も「盗聴」ではないが、法で定められた範囲で他人の電話会話を「傍受」した経験がある。
日本に電話会社が一つしかなかった時代、そこへ勤務していた時のことだ。当時は電話局と呼ばれていたその場所には「局内」と呼ばれる場所が主として地下に位置していた。電話回線を交換機に結ぶいわば電話機能の心臓部があり、「ジャンパー」と呼ばれる細い線が「収容位置」により各固定電話が認識され、交換機と接続され通話が可能となる仕組みであった。当時電話の交換機には旧型の機械的なものからコンピュータ化された最新型への入れ替えが盛んであり、古い交換機は中国などへ輸出されてもいた。
電話回線は自然災害や不慮の事故がない限り概ね安定的なものであったけれども、時にそれを確認するためにランダムな電話番号を短時間「チェック」(傍受)して安定性を確認する業務があった。勿論「通信の秘密」を厳守すべきことは先輩方から厳しく指導され、その上で業務にあたるわけだが、同時にその場所は新たな固定電話を設置した際に現場から回線が問題なく開通しているかなどの試験を行う場所でもあり、その確認作業も行うので、そこそこ賑やかな場所でもあった。
通話が安定的に保たれているかは交換台に座り所定の手続きを行えば、特定の電話番号を一時的に傍受が可能となり、それにより問題がなければ速やかに切断することになる。私がこの仕事に従事していたのは「盗聴法」が施行されるはるか昔のことだで、この業務は「盗聴」ではなくあくまでも通信回線の安定性を確認するためのものだった。
実は警察や捜査関係者あるいは「犯罪者」でなくとも、固定電話の「盗聴」は技術的にはたやすい。少し電気の知識と技術それに簡単な器具が準備できればさほどの困難なく「盗聴」は可能だ。実際私も前述の企画を進行中に関係者宅が一斉に「盗聴」されて困惑した経験がある。詳細は犯罪防止のために省くが特定の方法で「盗聴」をされると通話の音質が変わり、エコーのような反響が起こるので、予備知識のある人間には直ぐに判明する。だが、「局内」からの「傍受」の際にはそのような通話状態の変化は起こらない。
他方、今日は固定電話よりも携帯電話が主流となっている。携帯電話の「傍受」技術はとうの昔に確立されているだろうが、固定電話と異なり、携帯電話は電波により通話をしているため、話者が「盗聴」をされていても通話音質の変化などで「盗聴」に気が付くことはない。
「通信傍受法(犯罪捜査のための通信傍受に関する法律)」により理由づけが行われば誰の電話が「盗聴」されても、技術的にも法的にも不思議ではない時代になった。万が一程度の可能性だろうが注意をするに越したことはない。
▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。
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