心が疲れてしまった時、「元気だせよ」を聴く。
受刑者のアイドル、として知られる2人組、「Paix2」(ぺぺ)の歌だ。
刑務所や少年院などでの矯正施設でのコンサートを、12年続けてきて、300回を超えた。彼女たちの「元気だせよ」の声は、ひたすら優しく美しいが、幾多の困難を乗り越えてきた力強さが秘められている。
だから本当に、パワーがもらえる。

Paix2の軌跡をまとめた、『逢えたらいいな プリズン・コンサート三〇〇回達成への道のり』(鹿砦社)が発売された。
めぐみ(Megumi)と真奈美(Manami)が、それぞれ音楽と出会い、2人が出会い、Paix2を結成、デビュー。倉吉市警察一日署長を2人で勤めたことがきっかけとなり、鳥取刑務所でコンサートしたのが、彼女たちの長い道のりのスタートだった。

舞台から会場を見ると、グレー一色の服に身を包んだ坊主頭の囚人が何百人も座っている。一切の動きがなく、時間が止まったよう。私語はいけない、よそ見をしてはいけない、声を出してはいけない、など厳しい規則が刑務所にはある。拍手はいいが、コンサートなのに手拍子はいけない。リズムに合わせて体を動かすのはいけない。立ち上がったりしたら、連れて行かれてしまう。

そんな中でのコンサートだが、Paix2は、受刑者たちとの心の交流を創りだしていく。
函館少年刑務所のコンサートで、めぐみさんは看護師をしていた時に感じたことを話す。
「たくさんの身内の人たちに看取られて旅立つ患者さんと、家族が誰も来なくてたった一人で旅立つ患者さん。人は生きてきたように死んでいくんだなあと思いました。これは、すべての人に当てはまるわけではありませんが〝人間の一生は生き様は死に様なんだ〟と私は思いました」
客席は水を打ったように静かになり、してはいけない話をしてしまった! と、めぐみさんはあせる。だが、目を凝らして会場を見渡してみると、涙を拭っている人がたくさんいた。刑務官からも、感謝される。

プリズンコンサートを始めて3年近く経った頃、鳥取市のコンサート会場で、50代の男性が花を持ってきた。「まじめになった自分を見てほしい」と。2人の歌を刑務所で聴き、自分も頑張らねばと感じて、出所後に会社を興したのだという。
NHK歌謡コンサートに出た時には、「同房のみんなと正座をして、身内のようにドキドキしながら観ました」と、受刑者から手紙が来た。

全国の刑務所をほとんどくまなく回っている。音響機材を積み込んだ車に2人も乗り込んで、刑務所に向かう。九州の大分刑務所から、北海道の網走刑務所まで縦断ツアーした時にも、車で移動した。
プリズンコンサートはボランティアなので、少しでもお金を節約するためだ。

「私がどん底にいた時にどれだけ勇気をもらったかわかりません。ぜひこのお金を使ってほしいのです」
佐賀少年刑務所を出所した男性が会いに来て、服役中に得た作業報奨金を差し出したこともある。
1カ月当たりの報奨金は平均4200円ほど。男性は4年間の服役で受け取った報奨金を、出所時に受け取った封筒のまま持ってきていた。彼が渡してくれた手紙には、社会復帰への強い意志が綴られていた。

昨年は、茨城、気仙沼など、被災地でもコンサートを行った。
「元気だせよ」を歌うことに最初ためらったが、勇気を出して歌ってみると、腕を突き出す振り付けで、皆が応えた。
身内を亡くし、家もなくし、すべてをなくしている皆に、元気だそうよ、ということをずっと言いたかったけど、言えなかった。それが、今日、口に出せた。ありがとう。そういって、何人もの人から感謝された。

『逢えたらいいな』には、「特別記念限定版」としてミニライブのDVDもついていて、Paix2の歌う姿も見られる。
この時代に、少しでも勇気を出して一歩前に進みたいというあなたに、ぜひ手に取っていただきたい一冊だ。

(FY)