8月27日14時から「安保関連法案を阻止し、安倍政権打倒」を訴えてハンストに決起した学生達の闘いが開始から121時間(9月1日15時現在)を経過してもまだ続いている。8月中旬までの猛暑がうそのように東京は朝晩「寒い」と感じるほど温度が下がることがある。あいにく雨天も多く寒暖の差が激しい条件の中、学生達はまだ闘い続けている。災害時など行方不明者の生死を分けるのは事故後72時間といわれている。120時間超のハンストが如何に激烈な行動か想像いただけるだろう。
寒さは普通に生活していても体力を奪うが、水分とスポーツドリンク、わずかの塩以外、一切固形物を口にしないという方針での「ハンガーストライキ」。学生達の体力消耗と疲労はすでに「限界状態」(学生達の健康状態を管理している医師)に達している。学生達はただ黙して、座っているのではない。毎日何度も集会を開き彼らの訴えを語っている。
◎[参考動画]「安保法案阻止」学生ハンスト6日目・二人の思い(2015年9月1日レイバーネットTV公開)
◆ハンスト続行の最中に井田敬さんが極限状態で語ってくれたこと
8月30日国会に12万人が集結した際には、ハンストの場所を国会議事堂前に移し、そこで彼らも集会に参加した。内外多くのメディアからの取材があり、彼らが配布するビラはほとんどの人が快く受け取ってくれるという。特に中国のテレビ局は現場からの生中継も行ったそうだ。
しかし、体力には限界がある。彼らは大丈夫だろうか。そこで、1日午前ハンスト参加学生の井田敬さんに電話で取材した。井田さんによると彼らが本当に極限状態であることが伝わって来る。
「ハンスト参加学生のうち1名が昨日医師から『生命の危険がある』と警告されたために、開始から101時間で本人の希望に反する形になりましたが終了させました。また、もう1名も昨夜から体調不良を訴えていましたが、今朝医師から『きわめて危険』と判断され、開始から113時間で終了させました」
「私も数日前から医師には『いつ何が起きても不思議ではない』状態と言われていますが、何とか頑張っています。反応が鈍くなったり、疲労もありますが、それにもまして、私達の訴えを一人でも多くの人々に伝えたいとの気持ちがあります。30日には本当にものすごい数の人たちが国会を包囲しました。私は7月15日委員会で強行採決された日にも国会に来ていたのですが、比較にならない熱気でした。とても意義深かったと思います」
「でも、大切なことは国会を包囲した、あの『熱気』を家庭や職場、学校に持ち帰って、そこで広めていくことだと思います。そのために残った二人で頑張ってさらに訴えを広めたいと思います」
◆なぜ安保法案に反対し、ハンストを行っているのか?─いま一度、彼らの宣言を読んでほしい
そう語ってくれた井田さんからは彼らの訴えを「是非読んでほしいです」との要望があったので、以下に全文引用する。
私たちはなぜ安保法案に反対し、ハンストを行うか (学生ハンスト実行委員会)
私たちの安保関連法案に対する考えと、ハンスト戦術の持つ政治的な意義について以下のように述べておきたいと思います。是非ご一読ください。
安保体制への私たちの評価
まず安保法案の是非を論じるにあたって、その不可欠な前提をなす戦後安保体制に対する評価は避けて通ることができません。
植民地争奪戦としての第二次世界大戦終結後、朝鮮戦争を始めとした米ソ冷戦構造において日本は東アジアでの「防共の砦」の一員となり、1951年、日米安保条約(日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約)を締結しました。かかる条約はアメリカとの実質的な軍事同盟として、日本の緩やかな武装化をともないつつ軍事的牽制を基軸とした東・東南アジアの「秩序」を形成してきたと言えます。しかし、この条約に基づく「秩序」は、アメリカ主導の侵略戦争に日本が加担することで成立した欺瞞的な平和であったと言わざるを得ない、と私たちは考えます。
例えば朝鮮戦争においては、日本はGHQ公認の下で兵器製造・輸出を媒介とした「朝鮮特需」といわれる利潤を一方的に享受し、経済発展を遂げました。また他方で1960年代には、ベトナム戦争において、主に沖縄に米軍出撃拠点としての役割を強制するなど積極的な兵站支援を行ってきました。もちろん上記代理戦争の相手方たるソ連を支持できるものではありませんが、日米安保体制下の「平和」や「豊かさ」は他地域の民衆に犠牲を強いることで成り立ってきたことは否定しえない事実です。
そして冷戦終焉後、21世紀に入った現在も、イラク戦争に見られるような「対テロ戦争」を名目とした非対称戦争を主導する根拠として安保体制が機能していますし、国内でも、沖縄に在日米軍基地の74パーセントが押し付けられていることから考えると、日米安保体制の本質は変化していないといえるのではないでしょうか。私たちはそのような戦後体制を変革する必要があると考えています。
安保法案と安倍政権
しかし、安倍政権が押し進める安保法案は、この戦後体制を改善するどころか悪質に転換し、日本の軍事大国化を志向するものです。独力で覇権を維持できなくなってきたアメリカは、日本にさらなる軍事的貢献を要請してきており、日本は今回の法案によって自衛隊の海外派兵を含む直接的な戦争支援を可能にしようとしています。
アメリカが遂行している「対テロ戦争」や他国への軍事介入は、集団安全保障を名目に多国籍企業の利益を擁護するものとして、米ソ冷戦終結以前の「集団的自衛権」に基づいた戦争と比しても、その本質に変わりありません。
例えば中東「イスラム国」への掃討戦は、有志連合の集団的自衛権の発露として行われていますが、20世紀に行われた帝国主義国による中東の人工的分割の生んだ矛盾を温存し、クルド人をはじめ抑圧された民族の抵抗を圧殺する役割を果たしています。「イスラム国」が悪辣な体質を有しているとはいえ、現状の「集団的自衛権」がさらなる戦争の火種を生んでいる側面は否定できません。今回の安保法案はそうした戦争に日本が直接に参加することで支配的な地位を獲得しようとするものであり、上記のような戦争の性質に鑑みれば非難せざるを得ません。
また対内的には閣議決定による集団的自衛権の合憲化と軌を一にして、日米合同の戦争のために、沖縄へさらに米軍基地・自衛隊基地を押し付けようとしています。2014年の沖縄県内の各種選挙において辺野古新基地反対派が軒並み勝利したにも関わらず、政府が新基地建設工事を強行しようとしている現状は、最低限の議会制民主主義のルールすらも否定するものと言わざるを得ません。
さらに安保法案の制定を目指して行われた安倍政権下での数々の立法と「解釈改憲」(特定秘密保護法の制定・集団的自衛権の閣議決定に基づく合憲化)は、おおよそ立憲主義を無視しており、安保法案はまさにそうした立憲主義破壊の集大成と言わざるを得ません。安倍政権がこういった違憲立法を行うことは、アメリカなどが主導する侵略戦争に一主体として参加していこうとする意志の表れであると私たちは考えます。
上記の理由から、私たちは安保法案の制定に反対し、これを阻止するために行動します。
ハンスト戦術について
安保法案に反対する私たちがなぜハンガーストライキという戦術を採用し、これからいかなる戦略をもって安倍政権に反対していくのか、以下に述べたいと思います。
現在、衆参両院の議席の過半数は自民党と公明党に保有されています。政府与党は選挙の結果を以て彼らの安保政策は「民主的に」支持されていると主張していますが、はたしてこれは正しいのでしょうか。選挙による選任は、政策の白紙委任を意味しません。選挙で多数派の得票を得たからと言って、自由に政治的決定を行っていいわけはありません。
しかし、政府与党は多数派の威力によって強行的に安保法案を通そうとしています。この局面において、ただ間接的な手法で抗議するだけでは法案成立を阻止できないと、私たちは考えます。
そもそも民主主義とは全員参加の意思を決定するプロセスで、多数派の専制を防ぎ、少数派を見捨てることがあってはなりません。議会の多数決だけで物事を決めることは民主主義の否定と言うべきでしょう。そして、現在、反対派の意見は見捨てられ、強行的に法案が成立されようとしています。すなわち、民主主義が機能していないからこそ私たちは直接的に民意を反映させようと試みる必要に迫られています。
代議制だけでは、民主主義を機能させるには不十分です。直接行動は民主主義を機能させるうえで絶対に不可欠なのです。
私たちは今回、こういった危機的局面においてハンガーストライキという手法を使って安倍政権に抗議します。私たちは無駄に身体を傷つけ命を粗末にしたいわけではありません。ハンスト中は医師についてもらい、体調管理をしていただきます。確かに行動に伴うリスクは低くはありません。しかし、私たちはこういったリスクを冒してでも訴えたいことがあります。戦争とは、自分が命を落とすと同時に他者を殺すことです。戦争に反対するとは単に自分が命を落としたくないという表現であるだけでなく、他者を殺すことを拒否するという宣言でもあります。今現在、この瞬間にも世界中で武力紛争は続いており、犠牲者は増え続けています。数えきれないほどの難民が日々命を脅かされながら生きています。このような世界で、いま私たちはこういった戦争への加担を準備するのか、それとも戦争を止めるために行動するかの選択を迫られています。ハンスト実行委員会は殺すことの拒否、人殺しによる繁栄の拒否をハンガーストライキという形で明確に示していきます。
私たちはかかる見解に基づいて、8月27日よりハンガーストライキに突入します。
学生ハンスト実行委員会
ブログ ? ? ? ? http://blogs.yahoo.co.jp/hansutojitsu
Facebook ?https://www.facebook.com/Hungst.co.jp
もう十分に闘った。学生達のハンスト闘争は「勝利」だった。もう何時終結しても胸を張れる。彼らの体を賭した行動に再度最大級の賞賛と敬意を伝え、そして、無力な私は頭を下げたい。
◎[参考動画]「安保法案成立阻止 安倍政権打倒」学生の無期限ハンスト(2015年8月27日レイバーネットTV公開)
▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。
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