外国人が同国人を安心させてぼったくりするのは「同胞ぼったくり」なんて呼ばれている。
「韓国人や中国人が同胞をだますのが多いですね。たとえば、『私が出資しているから大丈夫』とか『観光ガイドにはない裏情報で長い間、日本にいる僕しか知らない』として、ぼったくり店にぶちこむ。出てきた客に文句を言われる前に姿を消す」と韓国人キャッチ。

影野臣直氏氏。20歳の頃、大学生ながら歌舞伎町でぼったくりを始める

◆歌舞伎町の「食物連鎖」

こうした「ぼったくり」は、歌舞伎町ならではの「食物連鎖」だと影野氏は指摘する。

「ホステスがホストに金をつぎこむ。そしてホストが遊んでぼったくりに遭う。ぼったくりで儲けた男の連中がホステスにつぎこむ、という風に回転する。私は、ぼったくりが減らないひとつの原因はキャッチが増えたことによると考えています。昔は脱サラで一攫千金を夢見てキャッチになりたがる人がたくさんいたんですが、最近は、ほかの業界で使いものにならなくなった連中にくわえて、半グレのような不良が『ひとまずキャッチでもやるか』と気軽に入ってくるようになった。僕らがぼったくりをしていた時代はそれが本業なのでもう少し人情もあったものです。客が数十万円を払ってショックを受けているところへ、私たちも立場があるから、せめて泣き半にして、半分にしましょう。30万なら15万に、という人情があった。それに比べるといまのぼったくりは、すぐ暴力をふるってしまい、まるで余裕がないのです。それが、まるで弱肉強食の『食物連鎖』、キャッチの声のかけかたも強引になる。それで警察がさらにきつくマークする」

不良少年たちが安易にキャッチになることが確かに増えた。歌舞伎町では、未成年との淫行をガイドする連中も増えているという。

◆事件性があれば警官はいつでも容疑者をパクれる

今年6月10日、歌舞伎町交番に「ぼったくり被害に遭った」と駆け込んできた客を警察が保護し、新宿署へ搬送、そして加害者側の店員を取り調べた。この手の弁護士に強いぼったくり側の弁護士が登場しても警察は怯まなくなっている。

「飲食店がこれまでバカのひとつ覚えみたいに『民事不介入』を振りかざして調子にのっていたからです。いくら民事不介入といっても、事件性があれば警官はいつでも容疑者をパクれる(逮捕できる)。これは借金の取り立て、地上げの立ち退き、どんな民事上の事件でも、いきすぎた行為には恐喝等で、事件送致できますし、これは僕らが逮捕された時代からあまり高圧的な態度で相手を畏怖させたり暴力行為、また「飲み代を払え」と強く請求することは犯罪となります。私自身も強盗と恐喝2件で逮捕されたのですからね。これまで逮捕された店側の人間は、略式起訴で罰金50万円以下程度だったところ今後は正式な起訴(地裁での公判請求)もありうるので、そうなれば店員は20日間の検事勾留もついて身柄拘束されるでしょう」

これまで「文句があるなら警察に行きましょう」と自ら客を連れて交番前に行き、警察が対応しないことを嬉々として見せつけていた連中がいたが、これだけ警察が本気になると交番前のパフォーマンスもできなくなる。

こうなるとキャッチは立場がますます弱くなり、最近は「4000円ぽっきりだというなら証拠に一筆書いてくれ」とスマートフォンで顔を撮影されることもあるという。

「ただ、こうなると店側もまた新しい抜け道を探すでしょう。警察にもメンツがありますから街頭の防犯カメラでキャッチと客のやりとりを無断で録音したり、客を装って店内に潜入する囮捜査など、不当捜査があるかもしいれませんし、泥沼のいたちごっこになる可能性もあります」と影野氏。

苦しいキャッチはさらに悪質化。「私に前金を払ってください。追加一切なし」といって、客から路上で料金を受け取り店に紹介。店側は後に「金をもらってない」と再請求するケースもある。

「あまりに極端なぼったくりが頻発すると、今後は条例を強化した改正もありうるでしょう。たとえば料金表について営業許可を申請する際に東京都公安委員会に届け出る仕組みとか。国家権力が店の営業にも関与するようになると、歌舞伎町の飲食店は成立しなくなりますよ」(影野氏)

今日もまた、歌舞伎町では多くのキャッチが「4000円ぽっきり」などと客に声をかけているが、その動向は歌舞伎町の治安に直結している。

◆警察監視強化で歌舞伎町から池袋、上野、錦糸町にシフトするぼったくり店

10月上旬、ある土曜に歌舞伎町を歩いていると、まったくキャッチを見かけなくなった。見かけるのは、居酒屋のユニフォームを着て「3000円で飲み放題、いかがですか」と声をかけている“合法な声かけ”の店員たちだけ。

歌舞伎町のスナックのバーテンが言う。
「もう、キャッチをしていると、すぐに二人組で赤いベストを着た警官が『やめなさい』と止めに入る。常に見張られているのです。歌舞伎町でぼったくりは難しくなったと思います」

そして、クラブ店員が言う。
「10月上旬に、警官たちがぼったくり店やキャッチを徹底にパトロールした。『このままだと摘発されるぞ』と。それで、逮捕されては叶わないと、ぼったくり店はあわてて池袋、上野、錦糸町などに散ったのです」。 [完]

歌舞伎町ーセントラル通り(撮影 小林俊之)

(小林俊之+影野臣直)

小林俊之+影野臣直!強力タッグの短期連載ルポ[全8回]
新宿・歌舞伎町ぼったくり裏事情──キャッチ目線で見た「警察の対応変化」
《1》「ぼったくり店」はどうやって生まれるのか?
《2》なぜ銀座のクラブにはゴタがないのか?
《3》メニューに金額明示があれば違法性はない?
《4》東京五輪を前に警察が浄化作戦を始動?
《5》御一人様51万円「クラブ・セノーテ」事件の衝撃
《6》ベテランキャッチが語る「ぼったくり」の世界
《7》「ガールキャッチ」復活と増えるプチぼったくり
《8》警察の弾圧が盛り場の「食物連鎖」を増殖させる

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