NJKF CHALLENGER 今回のメインイベンターはONEから凱旋帰国の大田拓真! 堀田春樹

NJKFに初登場のクン・クメール実力発揮。大田拓真は実力上回るも倒し切れない判定勝利。
吉田凛汰朗vs基山幹太は興行MVPとなる激戦を吉田凛汰朗がノックダウン奪って判定勝利。

 
大田拓真のヒジ打ち、切られたら切り返すもインパクトあるが惜しくも切れず

◎NJKF CHALLENGER 2024.3rd

6月2日(日)後楽園ホール17:20~21:30
主催:TAKEDA GYM / 認定:ニュージャパンキックボクシング連盟

◆第9試合 58.0㎏契約 5回戦

NJKFフェザー級チャンピオン.大田拓真(新興ムエタイ/1999.6.21神奈川県出身/ 57.9kg)
37戦28勝(8KO)7敗2分
      VS
オウ・テリット(カンボジア/ 58.05→57.9kg)103戦77勝(20KO)21敗5分
勝者:大田拓真 / 判定3-0
主審:多賀谷敏朗
副審:児島50-47. 少白竜50-48. 中山50-47

初回、オウ・テリットとのパンチと蹴りのオールラウンドな攻防は、大田拓真が手数と的確差でやや優るもオウ・テリットは下がらない。

第2ラウンドには大田拓真がパンチ中心に攻勢を掛けるが、オウ・テリットは攻められても体幹がブレない。アグレッシブな展開は続くが、第3ラウンドにはオウ・テリットが左ヒジ打ちで大田拓真の左瞼をカット。オウ・テリットが勢い増すも大田拓真も応戦。ヒジでも切り返そうとする。

第4ラウンド以降は両者失速した感があるが、ラストラウンド終了まで互角の攻防が続き、試合全般で見れば大田拓真のテクニックが優った流れだが、オウ・テリットを捻じ伏せるには至らない無念さが残った。すでにクンクメールの実力は高いレベルにあることは広く知られているが、NJKFでも荒々しさと迫力が証明された試合だった。

大田拓真が前蹴りで頑丈なオウ・テリットのリズムを崩す
 
激戦を制した大田拓真、次はより倒せる躍進を見せるか

大田拓真は「映像でオウ・テリットはタフなのは分かっていたんですけど、1ラウンドから飛ばして2~3ラウンドで結構詰めたので倒したい気持ちが強くて、効いていた様子で倒しに行こうと何回も攻めても倒せずに自分が疲れちゃって、やっぱり倒し切れるようになりたいですね。タフな選手にも倒し切れるよう頑張ります。」

5回戦については「ちょっとは様子は見ようかとは思ったんですけど、やっぱりメインイベンターなので、そういう訳にもいかないと思って攻めたんですけど、そんな倒しに行く姿勢は良かったかなと思います。」と語った。

やっぱり昨年から続く武田幸三興行でのメインイベンターとしての自覚が強かったのと、3回戦の戦いが身に付いてしまっている感じはありました。

◆第8試合 64.0㎏契約3回戦

NJKFスーパーライト級チャンピオン.吉田凜汰朗(VERTEX/2000.1.31茨城県出身/ 63.75kg)25戦12勝(3KO)9敗4分 
      VS
SB日本ライト級2位.基山幹太(BELLWOOD FIGHT TEAM/2001.12.24兵庫県出身/ 63.85kg)20戦13勝(1KO)7敗 
勝者:吉田凜汰朗 / 判定3-0
主審:椎名利一        
副審:児島29-27. 多賀谷29-28. 中山29-28

蹴りとパンチの攻防から吉田凛汰朗の右ストレートヒットで足が揃ったタイミングの基山幹太があっさりノックダウン。すぐに立ち上がり、ダメージは小さいがやや驚いた表情。その後も蹴りを交えたパンチの打ち合いが繰り広げられ、手数足数減らない両者のアグレッシブな攻防はノックダウンを奪っているポイント差で吉田凛汰朗が判定勝利。

吉田凛汰朗の右ストレートヒットで基山幹太がこの直後ノックダウンする
打ち合いの中、基山幹太の左ストレートヒット、一進一退の攻防が続いた

吉田凜汰朗は「右ストレートはずっと狙っていたんですけど、2ラウンド目は巻き返されましたが、でも集中切らさずに勝つというところでリズムがバッチリ嵌って行きました。基山選手は気持ちが本当に強くて戦っていてもメチャメチャパワーもあって強かったです。また絶対再戦もあると思うので、基山選手がシュートボクシングでチャンピオンに成った時、自分もずっと上に行ってシュートボクシングのリングでも戦いたいと思います。」と語った。

接近戦の中、吉田凛汰朗の一瞬のヒザ蹴りヒット

◆第7試合 ライト級3回戦 

NJKFスーパーフェザー級チャンピオン.龍旺(Bombo Freely)脱水症状により棄権、中止
      
代打出場:テーパプット・シンコウムエタイジム(タイ)
VS
KNOCK OUT-BLACKライト級チャンピオン.久井大夢
(TEAM TAIMU/2005.9.23大阪府出身60.9kg)11戦9勝(3KO)2敗
勝者:久井大夢 / 延長判定1-2
主審:少白竜
副審:椎名29-29(9-10). 多賀谷29-29(9-10). 中山30-29(10-9)

積極的に前に出てパンチと蹴り、後ろ蹴りも見せる久井大夢。テーパプットは組み技とヒザ蹴りで対抗し、まともに貰わない老獪さを見せる。互いのインパクトあるクリーンヒットは無く引分けとなり延長戦。

「テーパプットは同日別興行で2試合こなしての代打出場で、懸かるタイトルも無い試合で延長戦は必要か?」と思わせた。

延長戦は手数増やし、攻めて出た久井大夢と下がるテーパプットはロープを背にするシーンが増えるも組み合った際のヒザ蹴りがあって延長戦は2-1のスプリットデジションで久井大夢が勝利者となった。

テーパプットの内股の腫れは昼興行の傷、久井大夢も果敢に攻める

◆第6試合 61.20㎏契約3回戦(延長1R)

NJKFスーパーフェザー級1位.山浦俊一(新興ムエタイ/ 61.3→61.23→61.19kg)
34戦17勝(3KO)15敗2分
      VS
スックワンキントーン・ライト級チャンピオン.小林司(sports24/ 1997.05.16千葉県出身/ 61.1kg)11戦9勝1敗1分 
勝者:小林司 / 判定0-3
主審:児島真人
副審:椎名27-29. 多賀谷27-29. 少白竜28-29

初回、蹴りとパンチの主導権争いから小林司の長身を活かした強い右ロングフックが山浦俊一の顔面にヒットしグラッと来る山浦俊一。やや攻勢を維持した小林司は第2ラウンドにも右フックで山浦俊一をバランスを崩させるヒットの後、飛びヒザ蹴りやコーナーに詰める流れでパンチ連打でノックダウンを奪った。

しかしここからしぶとくジワジワ前進して来たのは山浦俊一。ラストラウンドはやや巻き返して終了。ノックダウンが勿体無かった。

小林司の右フックが何度かヒットも踏ん張った山浦俊一

◆第5試合 女子(ミネルヴァ)52.0㎏契約3回戦(2分制)

女子S-1世界ライトフライ級チャンピオン.真美(Team ImmortaL/1990.2.19神奈川県出身/ 51.5kg)21戦16勝(4KO)5敗 
      VS
ノヴ・スレイ・ポヴ(カンボジア)怪我の影響で欠場
代打出場:サーオムアンペット・ポー・ムアンペット(タイ/52.85→52.65kg=650グラムオーバー)計量失格、減点1
勝者:真美 / TKO 1ラウンド 3分7秒
主審:中山宏美

代打出場のサーオムアンペットはミドルキックやヒザ蹴りの上手さは見せたが、真美はその勢いを殺してコーナーに詰めてパンチ連打からヒザ蹴り、更にパンチ連打で第1ラウンド終了と同時にスタンディングダウンを宣せられた。そのままカウント中のレフェリーストップ。この興行唯一の完封TKO勝利。真美の圧勝となった。

欠場のノヴ・スレイ・ポヴは、5月上旬に膝を負傷して1試合のキャンセルがあったが、今回の試合までにも回復しなかった模様。

この日の唯一のノックアウト(TKO)決着となった真美のパンチ連打

◆第4試合 スーパーフライ級3回戦

NJKFフライ級9位.悠(吉仲悠/VALLELY/2003.10.25北海道札幌市出身/ 51.9kg)
11戦4勝(1KO)6敗1分
         VS
柚子貴(京都野口/ 2008.2.3京都市出身 51.85kg)3戦2勝1敗 
勝者:柚子貴 / 判定0-3
主審:多賀谷敏朗
副審:児島29-30. 少白竜28-30. 中山29-30

柚子貴のやや上回る攻撃力とヒザ蹴りが目立った攻勢。第2ラウンドにはジャッジ三者とも柚子貴に付ける勢いがあった。悠もアグレッシブに攻めたが巻き返しならず。

◆第3試合 59.0㎏契約3回戦

匠(KING/ 58.65kg) 6戦4勝(2KO)1敗1分 
       VS
脩真(Y’s glow/ 58.9kg)5戦3勝(1KO)2敗
勝者:匠 / 判定3-0 (30-29. 29-28. 30-29)

◆第2試合 56.0㎏契約3回戦

藤井昴(KING/ 55.4kg)3戦2勝(1KO)1分
      VS
井原駿平(ワイルドシーサーゴザ/ 55.65kg)10戦2勝6敗2分 
勝者:藤井昴 / 判定3-0 (30-29. 30-28. 30-28)

◆第1試合 女子(ミネルヴァ)48.0kg契約3回戦(2分制)

杉田風夏(谷山・小田原道場/ 47.65kg)2戦1勝(1KO)1敗
      VS
堀田優月(闘神塾/ 47.3kg)1戦1勝
勝者:堀田優月 / 判定0-3 (27-30. 28-30. 27-30)

《取材戦記》

予定されていたNJKFウェルター級タイトルマッチはチャンピオンの青木洋輔(大和)が体調不良による欠場で中止。

挑戦者だった1位.小林亜維二は城戸康裕(元・MA日本ミドル級Champ/谷山)とエキシビジョンマッチ2回戦(2分制)を行なった。計量をパスし、NJKF規定でチャンピオンに認定された亜維二は「タイトルマッチという形で試合していないので、チャンピオンとは思っていないし、資格も無いと思っています。なので、次の防衛戦でチャンピオンに相応しい選手になるよう頑張って行きます。」とコメントした。

エキシビジョンマッチについては、「これまでずっと対戦相手ばかりを意識した試合で、今回は周りの観てくれる人を意識して本当に凄く楽しんで出来ました。」
更に「次は防衛戦でチャンピオンの実力証明したいと思います。」と語った。

やはり勝って王座戴冠したい気持ちは強かった。それが防衛戦を強く意識している様子が窺えました。

エキシビジョンマッチを戦った亜維二と城戸康弘

坂上顕二代表は、「今回は土壇場でマッチメイクが幾つか変更になり、サーオムアンペット選手も2日前のオファーで無理に来てくれたのに減量失敗で減点というのも可哀想で、反省しています。大田拓真が無難に勝ってくれて、彼はその時その瞬間やるべきことをやれるから結果が良かったのかなと。吉田凛汰朗選手が良い試合してくれて、セコンドの指示どおり2ラウンドに右ミドルキックを蹴っていれば3ラウンド目で倒せたかもしれないですね。やっぱりパンチを当てる為に蹴りを出していればね。でもメインクラスが充実して皆勝ったので興行として良かったですね。」と語った。

久井大夢と対戦したテーパプット・シンコウムエタイは、同日新宿フェースでのスックワンキントーン興行昼の部(12:00~)で、在日タイ人選手4人制ワンデートーナメント、初戦3回戦判定勝利、決勝戦3回戦を判定負けした後、後楽園ホールへ移動。久井大夢と延長第4ラウンドまで戦い、1日で10ラウンドを戦った。5回戦にしても2試合分。新宿フェースで足に蹴られた傷を負っての出場だった。

真美と対戦したサーオムアンペットも代打出場で、以上の亜維二へのチャンピオン認定、テーパプットの2試合後の代打出場などは、興行的に苦しい裏事情があったとは推測できますが、正規に機能するプロボクシングのコミッション管轄下では認められない事象だったでしょう。ここは公正な競技として、クン・クメールやONEに負けない体制が欲しいところです。

小林亜維二選手は2019年のWBCムエタイジュニアリーグ当時からセンスある戦いで成長してきた選手です。今後、更なる上位王座も勝って獲得してくれることを期待したいものです。

◇     ◇     ◇     ◇     ◇     ◇     ◇

4月19日、ルンピニースタジアムで行われたONE Championship「ONE Friday Fights 59」に於いて、NJKFフェザー級チャンピオン、大田拓真はコプター・ソー・ソンマイ(タイ)に右ヒジ打ちで第2ラウンドKO勝利。昨年9月に続きONE Championshipでは2連勝となっています。

ONE Championshipはムエタイルール、キックボクシングルール、総合格闘技(MMA)ルール等の試合も行なわれているアジア発祥の総合格闘技の団体です。

カンボジアのクン・クメールは、現地で毎週6~7回の興行数とテレビやSNS配信を行なって人気上昇中。興行の多さから選手の試合間隔も短いという。オウ・テリットは5月5日にカンボジアのKrud Kun Khmer 57㎏級王座戦で判定負けを喫しているという情報。

オウ・テリットが大田拓真と激戦をこなせるほどのレベルの高さが感じられるクン・クメールでした。

クン・クメールは“カンボジアのムエタイ” と訳すのが分かり易いでしょう。ルールはそれぞれ違いはありますが、ラオスでは“ムエラーオ” 、ミャンマーでは“ラウェイ”と言われる競技名となっています。

NJKF次回興行は6月16日(日)に大阪府堺市産業振興センター・イベントホール(開場12:30)でNJKF 2024 west 3rdが開催。
8月4日(日)にはGENスポーツパレスに於いてDUEL.31が開催。
9月14日(日)には後楽園ホールに於いて本興行NJKF CHALLENGER 4thが開催予定です。

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
昭和のキックボクシングから業界に潜入。フリーランス・カメラマンとして『スポーツライフ』、『ナイタイ』、『実話ナックルズ』などにキックレポートを寄稿展開。タイではムエタイジム生活も経験し、その縁からタイ仏門にも一時出家。最近のモットーは「悔いの無い完全燃焼の終活」

M君暴行事件を「なかったこと」にする動きが顕著に ── 本当に事件は無かったのか?〈1〉 事実の凝視 黒薮哲哉

カウンター運動の市民運動体が、2014年12月の深夜に大阪市の北新地で起こした暴力事件は、メディア黒書で報じてきたこともあって、読者の記憶に残っているのではないか。内輪のもめごとが高じて、暴力沙汰に発展した事件である。

暴力の標的になったのは、大学院生M君である。全治3カ月の重傷を負い、トラウマにも悩まされて、生活に支障を来たすようになる。M君を精神鑑定した精神科医で作家の野田正彰氏も、鑑定書の中で事件がM君に及ぼした負の影響に言及している。

[左]有田芳生議員による2013年7月12日付ツイッター書き込み [右]暴力の標的になった大学院生M君。全治3カ月の重傷を負った(高島章弁護士によるツイッター書き込み)

市民運動体は、広義にしばき隊と呼ばれている。しばき隊のメンバーとM君、あるいは事件後にM君を支援するようになった鹿砦社との間で、これまで数々の裁判が争われてきた。

2024年になってからも、新しい裁判が提起された。しばき隊のE氏が作家の森奈津子氏と鹿砦社に対して、110万円の損害賠償を求める名誉毀損裁判を起こしたのだ。E氏は、M君に対して40分に渡り殴る蹴るの暴行を加えた人物である。

裁判の争点になっている請求の内容については、鹿砦社の松岡利康社長の筆による次の記事を参考にしてほしい。

本稿では、暴力事件そのものに関する評論に言及したい。事実とは異なる主張が独り歩きしているきらいがあるからだ。最新の裁判の中で、E氏側(代理人は、自由法曹団常任幹事の神原元弁護士)が、そもそも「リンチ事件」は発生していないと主張しているのだ。鹿砦社や森氏が指摘している「リンチ事件」は、単なる喧嘩だったというである。

「リンチ事件」はなかったという主張は、神原弁護士がしばき隊関連の他の裁判の中でも展開してきた主張なので驚きはなかったが、最近、わたしは個人的に「南京事件は無かった」と主張する人と話す機会があったこともあり、重大な事実を堂々と否定する風潮について考えるようになっていた。

日本軍による戦争犯罪を歪曲するメンタリティーと、神原弁護士らのメンタリティーが重なって、わたしは考え込んでしまった。ちなみに神原弁護士は、みずからもしばき隊のメンバーであることをツイッターで公表している。【下写真】

神原元弁護士による2015年2月26日付ツイッター書き込み

自由法曹団といえば、日本を代表する人権擁護団体である。そのメンバーには、わたしが尊敬する弁護士らが多数含まれている。その自由法曹団の常任幹事を神原弁護士で務めている事実と、神原氏がしばき隊を擁護している事実が、整合しない。自由法曹団に敬意を表している多くの人々が、わたしと同じ違和感を持っているのではないか。

もっとも「リンチ事件」をどう定義するかにより、「リンチ事件」はなかったという主張が成立する可能性もあるが、少なくともM君が40分に渡って暴行を受け、現場に居合わせた李信恵ら数人の隊員が、Mを救済しなかったことは紛れもない事実である。また、李信恵がM君の襟を掴んだことも紛争当事者の間で争いのない事実として認定されている。

E氏がM君を暴行する際の録音も残っている。この録音は、身の危険を感じたM君が録音したものである。暴行する際の音や、E氏による罵倒も記録されている。暴行を受けた直後のM君の顔写真も、暴力の凄まじさを物語っている。

◆事件の隠蔽工作

この事件が単なる小さな喧嘩であれば、事件後、組織的に事件の隠蔽工作がおこなわれることもなかったはずだ。事件の隠蔽工作については、複数の裏付けがあるが、代表的なものとしては、神原弁護士と同様にしばき隊の支援者である師岡康子弁護士が知人に充てたメールがある。

事件が起きた2014年12月は、折しもヘイトスピーチ規制法の成立が秒読みに入っていた時期である。当然、しばき隊による事件が報道されていれば、国会での動きにも変化が生じた可能性があった。

とりわけM君がE氏らに対して刑事告訴に踏み切った場合、ジャーナリズムの話題として浮上する可能性もあった。そこで事件の隠蔽に走ったのが師岡弁護士だった。みずからの知人でもあり、M君とも面識のあるCさんに次のようなメールを発信したのである。

「今日はひさしぶりにゆっくり話せてうれしかったです。ヘイト・スピーチ規制法制化の具体的な内容について、Cさんほど真剣に取り組んでいる人はなかなかいません。これからもいろいろ協力してぜひ国で、地方で実現させていきましょう。

しかし、その取り組みが日本ではじめて具体化するチャンスを、今日の話の告訴が行われれば、その人(M君)は自らの手でつぶすことになりかねません。」

「その人は、今は怒りで自分のやろうとしていることの客観的な意味が見えないかもしれませんが、これからずっと一生、反レイシズム運動の破壊者、運動の中心を担ってきた人たちを権力に売った人、法制化のチャンスをつぶした人という重い批判を背負いつづけることになります。」

「Cさんは、運動内部での解決が想定できないと言っていましたが、私は全部の事情を詳しくは知りませんが、聞いている限りでは双方の謝罪や治療費支払いなどによる和解が妥当な解決だと思います。Cさんは前、運動内部での争いを解決する機関が必要だと言っていましたが、まさに今回はそのようなケースだと思います。コリアンNGOセンターの人たちが調整してくれるとよいのですが、無理なら他の適任者がいないでしょうか。今日も言いましたが、私でよければ、その人を説得しに行きますが、まったく見知らぬ私より、双方の友人であるCさんが心から説得するのが、一番の解決策のように思えます。どうそ考えてみてください。私ができることは何でもやります」

師岡弁護士は、Eによる暴行を、日本の反差別運動にも影響を及ぼしかねない重大な事件として捉えているのである。引用した書簡を検証するだけでも、北新地での事件が単なる街角の喧嘩ではなかったことが十分に推測できる。

実際、この事件は数多くの著名人の耳にも入っているようだ。(つづく)

本稿は黒薮哲哉氏のHP『MEDIA KOKUSHO』(2024年6月1日号)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu

《関連過去記事カテゴリー》
 M君リンチ事件 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=62

『紙の爆弾』2024年7月号に寄せて 『紙の爆弾』編集長 中川志大

5月号に続いての登場となった政治経済学者の植草一秀氏は、本誌や著書『資本主義の断末魔』(ビジネス社)で「WPS」に警鐘を鳴らしています。すでに巨大企業や権力者への資本の集中は行きすぎるまでに進み、資本主義そのものが破綻に向かっている現在、展開されている「断末魔のビジネスモデル」を指し、その筆頭が「W=War(戦争)」。今月号は目次に目を通していただければわかる通り、またタイトルに銘打っていないものでも、「戦争」につながる話題が多くを占めました。残りの「P」「S」については、本誌や著書をお読みください。

その中でも特に、民間施設(港湾・空港)の軍事拠点化には、最大限に注目する必要を感じています。生活の中に戦闘機や軍艦が現れてもそれが日常であり、人々が“映える”とばかりSNSにアップする時代がそこまで来ています。「今からでも止めなければならない」ということは、あらゆる問題において強調すべきことです。

国会での審議を経ずに、様々なことが決定されています。また国会で審議されても、憲法違反の法律が成立しています。法律や政策に限らず、JR東海が乗客の利便性どころか自社の経営すらかなぐり捨てて進めるリニア新幹線や、カジノのための大阪・関西万博がそうであるように、その計画が経済的・科学的・論理的に破綻しているとしても、止まる理由にはなりません。

なおリニアについては、その首謀者だったJR東海の葛西敬之元名誉会長や、昵懇だった安倍晋三元首相が2年前に相次いで亡くなっても、なぜ計画見直しとならないのか。その背景に、今月号で迫っています。

6月号では半導体工場によるPFAS汚染をはじめ「健康被害」を特集。そこで採り上げた小林製薬の「紅麹」問題は、コロナワクチンによる健康被害が注目されるようになった中、免疫づくりに有効な発酵食品の危機として捉える見方が少なからずあります。

続いて、猶予期間が五月末で終了した改正食品衛生法も、食と健康の危機につながる問題です。漬物を販売するのに専用の調理場など基準が厳格化、農家や飲食店の“手作り”が食べられなくなるものです。工場でロボットにより製造された食品しか口にできなくなる、そんな時代の到来も想起してしまいます。

「食料危機」という言葉は、すでに一般化。今国会で可決・成立が目指されている「食料・農業・農村基本法」改正案では「食料安全保障」なる怪しげな言葉まで使用されています。本誌記事で執筆者の高野孟氏が、「食料をめぐる本源的な問題」について、重要な指摘をしています。

7月号ではスポーツ界の話題も採り上げました。この事例に限らず、目立って問題のある人物が放逐された後にどうなるかというのは、注視する必要があると思っています。また米国マイクロソフト頼みの日本政府「デジタル・ニッポン」構想の危険性、ワクチン強制接種と政府宣伝以外の情報を統制する「新型インフルエンザ等政府行動計画」、大川原加工機冤罪事件と経済安保法の密接関係など、必読のレポートを満載してお届けします。

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「食料・農業・農村基本法」改悪「食料自給率」を捨てた農水省の愚 高野孟
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まけへんで!! 今月の西宮冷蔵

◎鹿砦社 https://www.kaminobakudan.com/
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福岡地裁の「不当決定」 飯塚事件の再審開始は認められなかった 尾﨑美代子

飯塚事件の再審開始は認められなかった。女児2人が何故殺害されたかはわからぬまま。

1992年、福岡県飯塚市で女児2人が通学途中何者かに連れ去られ遺体で発見された。この「飯塚事件」で久間三千年さんが逮捕・起訴され裁判で死刑が確定。わずか2年で死刑が執行された(執行時久間さんは70歳)。遺族が裁判のやり直しを求めていた第二次再審請求で、5日午前10時福岡地裁は再審開始を認めないという不当決定を下した。

久間三千年さんの遺族が裁判やり直しを求めた第二次再審請求を、福岡地裁は5日認めなかった(撮影=青木恵子さん)

今回新たな証拠となっているのは2点。1つは、久間さんではない若い男性が、車に女児2人を乗せているのを目撃したという木村泰治さんの証言だ。木村さんは、第二次再審請求を提訴した3年前の7月の記者会見に顔出し・実名で出席し、事件当日、飯塚市の八木山バイパスを走行中に白い軽自動車とすれ違った。その際、車の後部座席に幼い女児が2人乗っていたのを見たと証言した。

一瞬誘拐ではないかと疑ったが、2人で乗っているので違うだろうと考えたという。「うら悲しそうな顔をしていた」女児の顔が印象に残ったと語っていた。白い車を運転していたのは丸刈りで色白、30歳代の若い男で、眼鏡をかけ恰幅の良い久間さんとはまったくの別人。夜のニュースで女児2人が行方不明になっていることを知り警察に通報。

しかし、警察が木村さんを訪ねてきたのは数日後、それもたった一人の警察官がやってきて、木村さんの話をメモ帳に書き込んでいたという。しかし、その後、警察からの連絡は全くなかった。

報告集会で。左端でマイクを持つ男性が、事件当日女児2人を乗せた白い車を見たと証言した木村さん(撮影=青木恵子さん)

もう一つの新証拠は、事件当日、女児2人を三叉路で見たという女性の証言だった。女性は実は、女児を見たのは別の日だったが、警官に「その日(事件当日)に違いない」としつこく言われ、そのような間違った調書を作られてしまったと証言した。当時20代の女性はその後関東に引っ越したらしい。過去に警察でそのような調書を取られていたことを忘れていたかもしれない。

しかし、何かの拍子で久間さんに死刑判決が下され、しかもあっという間に死刑が執行されたことを知り、自分の曖昧な供述が久間さんを死刑にしてしまったのではないかと自分を責めていた。そして遺族が久間さんは無罪であると訴え、弁護士と共に再審を闘っていることを知り、2018年弁護士事務所に連絡をしてきたという。
三叉路で女児を見たのは事件当日でなかったという女性の証言は、これまで検察の書いてきたストーリーを覆すとともに、弁護団が気になっていた問題が解決したという。判決では、女児2人が失踪した現場を三叉路近くと特定していた。同じ頃、久間さんが乗っていた紺色のワゴン車と似た車を見たという証人もいた(5月21日掲載の「正義の行方」の記事で、西日本新聞が探し出した男性)。

女児らの遺留品が見つかった現場でも似た車が目撃されていた。そこからこれと似た車を持つ久間さんが疑われたのだった。しかし、もとの「事件当日三叉路で女児らを見た」との証言が間違っており、別の日であるならば、当日、女児らは三叉路近くで失踪したというストーリーは全く違ってくるのだ。

しかもこの証言で、弁護団はそれまで抱えていた矛盾を解決することができたという。それは、事件当日、三叉路近くにはほかにも数人の人がいたが、女性以外に女児らを見た人は誰もいなかったことだ。その問題・矛盾が解決できたということだ。

判決で女児2人が何者かに連れ去られたとされた三叉路。しかし、今回新たな証言で、ここではない可能性が強まったのに……(撮影=青木恵子さん)

第二次再審請求で新証拠として出されたのは以上の2つだが、この事件、調べれば調べるほど、1から10までいい加減、ずさんな捜査だったことがわかる。なぜこんなことになったのか?

飯塚市ではこの事件の3年前にも女児が失踪した事件が発生し未解決のままだった。そこに飯塚事件が発生し、福岡県警は一層世間の非難に晒される。今回はどうしても犯人逮捕にこぎつけたい。その思いは理解できる。そこで福岡県警は、3年前の事件でも犯人視された久間さんに目をつけたのではないか。

警察が出してくる証拠のどれもが、久間さんを犯人と決めつけたものだ。例えば、女児らの遺留品がみつかった近くの峠で久間さんの車と似た車(紺色のワゴン車)を見たと証言した男性の話。すれ違いざまの一瞬の出来事なのに、その車について、①やや古い型、紺色、②トヨタ、ニッサンではない、③ホイルキャップの中に黒いライン、④車体にラインが入っていない、⑤窓ガラスにフィルムを貼っていた、⑥後部タイヤがダブルタイヤ、⑦ラインは入っていない、などの情報のほかに、目撃した人物についてもめちゃくちゃ詳しい。そんなことってある?

特に車に「ラインが入ってない」については、先日、甲南大学で講演をお聞きした厳島行男教授は「普通ないものをなかなかないと報告することはない」という。なぜ男性はそんな供述をしたのか? 

じつは久間さんの乗っていた車の標準の仕様だとラインが入っているのだが、久間さんはそれを剥いでいた。男性の供述をとる前に、警察が久間さんの車を確認しラインがないことを確認していた。そして男性の供述を取る際「目撃した車にラインは入っていたか?」とわざわざ聞いたのだろう。本当にずさん過ぎる。

 
午後から支援者に案内され、事件に関係する様々な場所を訪れた青木恵子さん。女児らの遺留品が見つかった場所近くに作られたお地蔵さんに手を合わせてきた(撮影=青木恵子さん)

これも桜井昌司さんが良く言っていた「歪んだ正義」によるものだろう。警察、検察はこの事件を解決したいと考えている。できれば3年前の事件も……。そのため、久間さんをターゲットにして、久間さんだけを決めつけ、捜査を続けてきた。

だから、木村さんが不審車を見たと通報したが、木村さんの話を聞いて白い車、丸刈りの若い男を捜査することはなかった。捜査して白い車に乗る、丸刈りの若い男を探せて、その結果「ええ、あの日は僕の子どもと友達の2人が学校に遅れそうなので送ったのですが」と間違いであるとわかったら、それはそれで良いではないか。

冤罪の陰には必ず真犯人がわからないまま放置された遺族がいる。「うら悲しそうな目をしていた」女児らの遺族は、今、どう思っているだろうか?

そんなとき、今日午前中から、地裁前の写真などを送ってくれた青木さんから午後に支援者に案内してもらった現地の写真が届く。そのなかに、女児の遺体が置かれていた場所の近くに置かれたお地蔵さんの写真があった。

「うら悲しそうな目をしていた」女児らはどんなに怖くてつらかっただろうか。 そう考えて、初めて涙がこぼれてきた。

▼尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

尾﨑美代子著『日本の冤罪』

松本人志はやっぱり宇宙人だったのか?〈前編〉 板坂 剛(作家・舞踊家)

◆「あいつは宇宙人だ」と若者が叫んだ!

もう遠い昔の話だが、たまたま独りで立ち寄った足立区の中華料理店で、店内に設置されたテレビの画面に突然松本人志の姿が現れた時、私より先に食事をすませてビールを飲んでいた若い男が叫んだ。

「あいつは宇宙人だ」

驚いて彼の方を見ると、目が合った私に向かって、また同じトーンの声が発せられた。

「あいつは宇宙人なんだよ。判るんだ、俺には」

そう言われてテレビの画面に見入ると、大写しになった松本人志の顔は、バルタン星人とまでは言わないが、確かに地球上の生態系から生まれた人間のものとは思えない奇怪な形相を呈していた。

十数分後、私の隣の席に移動してきたその若い男は、自分はあるスピリチュアルな団体に属して「人類の中には、実は他の星のシステムから地球に来た訪問者が潜んでいる」と教えられ、ネイティブな地球人と宇宙人のまま人間に化身した生物と識別する能力を身につけることが出来たという。

「そんな馬鹿な」と反論しなかったのは、論より証拠、松本人志の顔が宇宙人にしか見えなかったからである。

若い男はこうも言った。

「あいつ(松本人志)はきっと大物になるよ。お笑い芸人として第一人者になるだろうな」

当時の松本人志はまだ第一人者にはほど遠い存在だったのではないかと(お笑いの世界には無知な私だが)思っていた。そんな人材をいきなり「きっと大物になる」と評されても納得は出来なかったが、今はあの時の彼の見立ては正しかったと思うしかない。

あの時以降、地球上に宇宙人が既に棲みついているという説もちらほらと耳にすることがある。人間の皮をかぶった彼等は大変優秀で、どの分野でもトップに立つ実力者になるとも聞いた。

肯定も否定も出来なかったが、いつか松本人志が自作自演したにもかかわらず、全く不評で興業的にも大失敗だったというワケの判らないSM映画(『R100』)を観た時、なるほど宇宙人ならこういうモノを創るだろうと思った。

監督として彼自身が試写室で完成された作品を鑑賞し、同席していたスタッフや映画評論家らしき人物が「もうダメ」と棄てゼリフを残して退席した後も、一人で興奮状態に陥っている場面が、彼の正体を表現していると思える作品だったのだ。好意的に解釈しても「天才の自爆」悪く言えば「単なる独りよがり」でしかなく、はっきり言って駄作である。

『R100』(監督=松本人志/製作=吉本興業/2013年10月5日公開)より
 
『R100』(監督=松本人志/製作=吉本興業/2013年10月5日公開)より

特にSM映画という前宣伝に煽られたその種のマニア諸氏には、さぞ期待外れであっただろう。主役のパッとしない男性がスタイル抜群の半裸の美女に暴力的に虐げられる場面もあることはあったが、恐らく松本人志にはマゾヒストとしての素質は皆無に等しいと思わせるほど、どの場面もつまらな過ぎた。

更に後半SM映画ならぬSF映画的な展開になると殆どの観客は試写室の場面での映画評論家らしい人物のように「もうダメ」と言い棄てて退席したくなったことと思われる。(ちなみにこの人物の最後のセリフは「(こんな映画)公開すんなよ」であったと記憶する)

しかし、私はむしろ後半のSFもどきのあり得ないシュール・レアリズムに、宇宙人的なセンスを感じて少しばかり感動した。たかがお笑い芸人が、もしかしたら宇宙人かという荒唐無稽な妄想を抱かせる……。スピリチュアルの世界は奥深いと言わなければならない。

◆宇宙人が心配する地球の惨禍
 
ここで話を持ち出すのは却って信憑性を欠くことになると思うが、敢えて書く。あの福島原発の事故の前後、原発附近の上空にUFOが頻繁に出没したというニュースを覚えてる人はいらっしゃるだろうか。

当然フェイク・ニュースとして扱われてしまったようだが、UFOキャッチャー(ゲームの達人ではない)を自認する知人が、確かに原発事故の際、異常な数のUFOが出現したのは事実だと自信を持って語っていた。

また彼はUFOに乗って地球にやって来る宇宙人の多くは、将来地球の住人になるつもりでその時のために下見に来ていると断言していた。従って宇宙人が地球人を攻撃することはなく、むしろ平和に共存する方法を模索しているのだという。

そういうわけで地球上で地震や戦争等の惨禍が起きた際には、心配した宇宙人がUFOに乗って現場を視察することになっているらしい。珍説と笑って黙殺すべきかもしれない。

しかしここ数年、海外で戦争が続発している状態の中でUFOに関する話題がまたチラホラとメディアの片隅に登場しているが、その出所が大半アメリカであるところが気になる。なにしろ謀略が大好物の国である。周期的に大衆の不安をかきたて抑止力(軍事力)を強化する伝統的な国策は建国以来のもので、決して自分たちに危害を与える存在ではなかった北米大陸の原住民を凶暴な「土人」と決めつけて虐げ、社会から排除した。

1960年代、テレビで放映されていたアメリカの西部劇で、白人のガンマンたちが「土人」という言葉を口にするのを何度も聞いた。もちろん邦訳の吹き替えで、実際に俳優が何と言っていたかは判らない。ただストーリーの展開と彼等がそのセリフを口にした時の表情から、相当に差別的な発言があったのだろうと想像出来る。

当時、名画と称された西部劇の劇場用映画の中で、白人が乗った駅馬車が「インディアン」の集団に襲撃され、駆けつけた騎兵隊に救出されるという場面が、そのままテレビにも流用され、何度となく放映されたのを記憶している。

元々先住民であったにもかかわらず「インディアン」は盗賊、白人の開拓者はロマンチスト、騎兵隊は正義の味方と公的に定められているような構成だった。こういう常識が大衆に浸透している国だから、UFOも地球人類に対する潜在的驚異と位置づけて世界中の人々に緊張感を与えようとするのだろう。

数々のUFO目撃談、どうもアメリカの自作自演のような気がしてならない。そう考えると原発事故の際に出現した多数のUFOは、当時福島沖に展開していた米空母ドナルド・レーガンから発進した偵察用のドローンではないかと疑いたくもなる。東日本大震災当時は、一般の市民にとって「ドローンって何?」という程度の認識しかなかったと思うが、米軍ではとっくに兵器として活用することを前提にした開発研究が行われていたはずである。

ただ原発の上空に現れたUFOが、地球上の惨禍を心配して飛来した宇宙人の運航する物体であるという説も私は棄てきれない。そっちの方が気持ちが安らぐのだ。

地球人が醜い争いに没頭したり、自然災害に苦しんでる様子を観察していると思うと、いつか地球人になって生きて行こうという彼等の意欲を損なうには忍びないという自制心が働くではないか。

そして思う。宇宙人だのUFOだのという観念的事実が、たとえ完全な夢想だとしても、そこにはアメリカ軍とその背後にいる産軍共同体の思惑とは真逆に、不安がいっぱいの現実からの救済を求める民衆の願望を感じるのである。(つづく)

本稿は『季節』2024年春号(2024年03月11日発売号)掲載の同名記事を本通信用に再編集した記事の前編です。

▼板坂 剛(いたさか・ごう)
作家、舞踊家。1948年福岡県生まれ、山口県育ち。日本大学芸術学部在学中に全共闘運動に参画。鹿砦社より『三島由紀夫と1970年』(2010年、鈴木邦男との共著)、『三島由紀夫と全共闘の時代』(2013年)、『三島由紀夫は、なぜ昭和天皇を殺さなかったのか』(2017年)、『思い出そう! 1968年を!! 山本義隆と秋田明大の今と昔……』(紙の爆弾2018年12月号増刊)等多数。

鹿砦社編集部編『ジャニーズ帝国 60年の興亡』

ピョンヤンから感じる時代の風〈45〉「国の指示権」それは何のためか 地方自治法改正が意図すること 魚本公博

今、国会で、地方自治法を改正し、地方自治体に対する「国の指示権」を新設する審議が行われている。それは何のためか。それを考えてみたい。

◆「国民の生命等保護のため」の「想定外の事態」とは?

この改正案は、大規模の感染症や大災害などで想定外の事態が起きたとき、国が自治体に対応を指示できるように、地方自治法に「国の指示権」を新設するというもの。

改正の趣旨説明では「国民の生命等の保護のために特に必要な場合に限る」とし、「非常時の危機対策の法制は個別法で大半がカバーされている。それがカバーしきれない『法の穴』を埋めるためのもの」としながら「想定外の事態を具体的に示すのは困難」(田中聖也・行政課長)と言っている。

今、この論議は、国と地方の関係をどう見るかの論議になっている。反対論も2000年の地方分権改革で、「地方公共団体の自主性及び自立性に配慮しなければならない」と規定されたものを「国が地方の上に立つ」「上下関係」の時代に逆戻させようとしているのではないかというものになっている。

しかし、ここで先ず議論すべきは、そもそも政府が言う「国民の生命等の保護のために特に必要な場合」とは何か、「具体的に示すのは困難」とボカす「想定外の事態」とは何なのかを考えることではないだろうか。

「国民の生命等の保護」が問題になるような「想定外の事態」となれば、その最大のものは戦争を置いて他にない。

戦争をやる場合、戦前の「国家総動員体制」のような戦争体制を作らなければならない。地方末端までの全国民、全国土、全資産を戦争に動員する体制作りのために地方自治体に対して「国の指示権」を発動する。

自治法を改正し「国の指示権」を新設する最大の狙いは、そこにあるのではないか。又、そのように見てこそ自治法改正の問題点や悪辣さも浮き彫りになるのではないだろうか。

◆「地域が対中戦争の最前線に立たされる」状況の中で

4月13日、大分県の湯布院で自衛隊のミサイル部隊である「第二特科団」新設の式典があった。第二特科団の本部は湯布院駐屯地に置かれ、沖縄九州に展開するミサイル部隊を統括する司令部になる。そして大分市には、大型の地下弾薬庫2棟が建設中であり、ここには「スタンド・オフ・ミサイル」を保管することができるという。

米国は今、有事には自衛隊を指揮できるように策動している。ハワイにあるインド太平洋軍司令部が持つ指揮統制権限の一部を在日米軍司令部に付与することで、24年度中に作られる自衛隊の「統合作戦司令部」を有事には米軍が指揮できるようにする「緊密な連携」を日本と合意した。

4月には、フリン・インド太平洋軍司令官が「中距離能力を持つ発射装置が間もなく、アジア太平洋地域に配備される」と発言。それは、巡航ミサイル「トマホーク」、新型迎撃ミサイル「SM6」などを搭載するミサイルシステム「タイフォン」を指すものと見られ、有事の際、自衛隊のミサイル部隊は、このミサイル体系の指揮下に組み込まれる。

すでに、昨年10月には、湯布院に隣接する日出生台演習場で国内最大規模の日米共同演習「レジュート・ドラゴン」が離島防衛訓練という名目で行われている。

こうした中、大分では「大分が安全保障の最前線に立たされる」の声が上がっている。

大分ばかりではない。それは全九州的な、更には全国的な声になっている。

今、政府は防衛力強化のために「公共インフラ」を整備するとして、全国38の空港・港湾を「特定利用空港・港湾」に指定しており、3月には、その第一弾として7道県の16の空港・港湾の整備が始まった。

この38施設の内、7割に上る28施設が九州沖縄に集中している。そして、第二特科団の本部が置かれる大分県、その部隊が展開する熊本県、オスプレイ基地を建設中の佐賀県など、「対中戦争の最前線に立たされる」という懸念は深刻さを増して全九州に広がっている。

こうした中、九州では全九州の自治体議員が超党派で「戦争だけは絶対ダメ」という有志の会を作る動きが出ている。

九州以外の地域でも「特定利用空港・港湾」が「有事には攻撃対象になるのでは」との懸念が広がっており、「戦争だけは絶対ダメ」という動きは全国的な動きになっていくだろう。

この5月、米国のエマニュエル駐日大使が与那国島、石垣島を訪れ自衛隊基地を視察した。この時、米軍機を使って与那国空港に降り立ったことに対し、玉城知事が「大変遺憾である」とコメントした。沖縄県は県内の民間空港に米軍機使用を「自粛」するよう要請しており、それを無視し、対中対決の最前線を視察するかのような行為への抗議である。

沖縄県は、空港・港湾の整備でも「運用に不明な点が残されている」と断っている。

今後、対中戦争準備が進められ、戦争が現実化していく中で、地方の「戦争反対」の声は、首長、議会を含む地域ぐるみの声となり、地域を戦争に使わせない条例が各自治体で作られる可能性もある。

まさに「国の指示権」新設は、こうした声を押さえて戦争を遂行するための戦争体制作りのためだと見ることができるだろう。

更には、全国末端までの人員、国土、資産、食料などの動員という戦時体制作りも考えられているのではないか。まさに戦前の「国家総動員体制」であり、「国の指示権」新設の自治体法改正は、その重要な一環と見なければならないと思う。

◆すべては米国との約束から始まった

一昨年の年末に閣議決定した「安保3文書」をもって、翌年早々(1月19日)訪米した岸田首相は、軍事費倍増、敵基地攻撃能力の保持を米国に約束した。そして、今年4月の訪米では、「日米同盟新時代」を謳い、「グローバル・パートナー」として、米国覇権とその覇権秩序を積極的に支えることを約束した。

それは米中対決の最前線に日本を立たせようとする米国に、それをやり遂げますという約束であり、「国の指示権」新設のための自治法改正、「第二特化団」の創設、「特定利用空港・港湾」の整備など地域を「対中戦争の最前線に立たせる」動きも、そこから始まっている。

岸田首相は、訪米で「今日のウクライナは明日の東アジアかもしれない」と語ったが、ウクライナは米国の代理戦争をやらされているのであり、東アジアでは、日本が中国を相手に代理戦争をやらされるということである。

 
魚本公博さん

代理戦争は、米国覇権回復の重要な手段になっている。しかし、それは中東においても、ウクライナにおいても破産しつつある。ウクライナは防戦一方であり、中東ではイスラエルの「ガザ虐殺」に抗議する米国の大学生から始まった抗議運動が世界的に波及し、米国覇権を揺るがしている。

こうした中で、日本が米国覇権を支えるとして、対中対決、対中戦争準備に熱を上げて一体どうするというのか。何としても、米国ばかりを向いて、地域に、国民に戦争の災禍を強いるような政治を止め、国民に向き合う国民のための政治を実現しなければならないと思う。

そういう意味でも岸田首相の訪米時の態度を痛烈に批判し、「明石から日本を変える」として地域の力を重視し、そうした「国民の味方」チームで選挙に勝って「救民内閣」を作り「令和維新」を断行するという泉房穂さんへの期待は大きい。

◎ピョンヤンから感じる時代の風 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=105

▼魚本公博(うおもと・きみひろ)さん
1948年、大分県別府市生まれ。1966年、関西大学入学。1968年にブントに属し学生運動に参加。ブント分裂後、赤軍派に属し、1970年よど号ハイジャック闘争で朝鮮に渡る。現在「アジアの内の日本の会」会員。HP「ようこそ、よど号日本人村」で情報発信中。

『抵抗と絶望の狭間 一九七一年から連合赤軍へ』(紙の爆弾 2021年12月号増刊)
『一九七〇年 端境期の時代』

釜ヶ崎の野宿者追い出し裁判、最高裁が上告棄却 今の大阪に必要なのは万博やカジノでなく、生活困窮者のセーフティネットの町「釜ヶ崎」です 尾﨑美代子

 
シャッターの閉められたセンター西側には野宿する人たちがいる。行政はわざとゴミを放置し、「野宿者がいるからこんなに汚いのだ」とアピールする

釜ヶ崎の野宿者追い出し裁判、最高裁が5月27日付で上告を棄却しました。

長い裁判のこれまでの経緯を説明します(不足している部分もありますが)。

JR新今宮駅前にドンと建つ「あいりん総合センター」(以下、センター)は長年西成の日雇い労働者の労働・生活の中核となり、野宿者にとっては最後のセーフティネットの場になっていました。

ところがセンターを管理する国と大阪府は、センターの耐震性に問題があるから解体し建て替えるとして、2019年4月に強制的に閉鎖しました。しかし、その後も周辺には多くの人たちが野宿していました。

すると、国と府はそれも認めないと、2020年4月22日、野宿者と、センターに誰でも泊めれるようバスを置いている釜ヶ崎地域合同労組の稲垣浩氏ら22人に対して立ち退きを求める裁判をおこしました。しかも、そのわずか数か月後の7月、本訴が終わるまで時間がかかるから緊急に立ち退かせる必要があるとして断行の仮処分命令を訴えてきました。

これに対して稲垣氏は、仮処分命令が決まって野宿者らがセンターからばらばらに追い出されては、その後本訴を闘うにも団結することが困難だと考え、断行の仮処分命令にも毅然と闘うべきだと訴え闘ってきました。これと闘わなければ、次の闘いも闘えない、当然の判断だと思います。

センターに停めてある釜ヶ崎地域合同労組の車両。24時間誰でも休めるようになっている
 
明らかにヨソから持ち込まれた粗大ゴミ。行政、西成警察はこうした「不法投棄」を取り締まる気もない

この裁判で大阪地裁は12月1日、国と府の断行の仮処分命令を却下しました。野宿者ら被告側の勝利です。却下した理由ですが、国と府は早く立ち退けとの理由に、2008年から「センターの耐震性に問題がある」と主張していましたが、そのセンター問題を考える「まちづくり会議」などで、肝心の耐震性問題が「喫緊の課題」として論議された形跡がないからだというのです。至極真っ当な理由です。しかもこの時点では、センター解体後の跡地をどうするかも具体的な計画案も決まっていないのでした。

その後、本訴である土地明渡訴訟が始まりました。2021年12月2日、大阪地裁は国と府の主張を認め立ち退きを認める判決を下しました。但し、原告(府)が求めていた、全ての裁判が終わるのを待たずに「すぐに立ち退け!」とできる仮執行宣言は認めませんでした。被告側は敗訴しましたが、実質強制排除されることはなかったのです。これもある意味「勝利」でした。

その間、大阪市や西成区は野宿者に対して、生活保護を受けさせ立ち退かそうと説得などを行ってきました。普段は生活保護を受けさせない、あるいは受けたのちにもあれこれ難癖つけて保護をうち切ろうと必死の行政側も「今なら簡単に保護が受けれますよ」と甘い言葉をかけまくってました。

もちろん生活保護を受けるか否かは本人の自由で、受けたい人は既に受けています。それでもなお、様々な理由で野宿にとどまる人がいることも事実です。しかもこの間には、コロナ禍で職を失い困窮し新たにセンターに来た人を何人も見てきました。釜ヶ崎のセンターは社会的に困窮する人たちの最後の砦になっていることは明らかなのです。

人の背丈の3倍ほどに積み上げられたゴミ。行政は「釜ヶ崎をきれいな町に」とほかでは熱心に清掃してるのに

一審で敗訴した稲垣氏と野宿者らは、大阪高裁に控訴しました。大阪高裁は2022年12月14日、地裁判決を支持し、野宿者側の控訴を棄却しました。一方で地裁判決と同じく、最終的な判決が確定する前に強制退去が可能である「仮執行」(強制排除)は認めませんでした。

弁護団によれば、このような事態は極めて異例であるとのことです。野宿者の強制排除を許さないという主張を訴えてきた被告側の闘いの大きな成果でした。その後、被告らは最高裁に上告していましたが、最高裁は5月27日付で上告を認めないという判決を下した、という経緯です。  

現在、野宿者らはいつ強制排除されるかもしれない事態に晒されています。この問題に関心を持たれるみなさんには、ぜひ、今後の動向に注目して頂きたいと思います。

前述したように、大阪府はセンターを解体して出来た更地に何を作るかの具体案も決めていません。私が一番許せないのが、国と府は、耐震性に問題があるとしてセンターの入っていた第一市営住宅を解体しようとしていますが、同時に耐震性に問題のない第二市営住宅まで公費で解体しようとしていることです。

それは駅前により大きなきれいな形の台形を確保することで、一層儲けることが出来るからです。万博、カジノ同様、大阪維新とその仲間たちだけが儲けようという魂胆です。この間の物価高などで困窮者はますます増えていくでしょう。そんななか、生活保護者、野宿者含め生活困窮者が誰に遠慮なく、堂々と生活していける町、それが釜ヶ崎、こういう地域は本当に必要ではないでしょうか。

みなさん、ぜひご支援とご注目を!

▼尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

尾﨑美代子著『日本の冤罪』

新人からベテランまでドラマチックなDUELも30回目! 堀田春樹

昼はアマチュアキックボクシング、EXPLOSIONの戦い、夜はプロ興行DUEL.30。

宗方888はパンチと蹴りの前進で古庄洋将を圧し切る判定勝利。

JUN DA LIONはスタミナ切れもノックダウン奪ったポイント勝ち。マリモーは飛びヒザ蹴りでJUN DA LIONを追い詰めた。

◎DUEL.30 / 5月26日(日)GENスポーツパレス19:00~20:43
主催:VALLELY / 認定:NJKF
前日計量は12時よりVALLELYジムにて実施。

◆第6試合 65.0kg契約3回戦

NJKFウェルター級5位.宗方888(KING/31歳/65.0kg)12戦5勝6敗1分 
   VS
古庄洋将(正心会/31歳/64.7kg)14戦6勝7敗1分 
勝者:宗方888 / 判定3-0
主審:多賀谷敏朗
副審:少白竜30-29. 椎名30-28. 宮沢30-28

パンチと蹴りの攻防は宗方の勢いが増して行く展開。最後は古庄洋将のヒザ蹴りも目立ったが、宗方が蹴りとパンチで圧し切って第2ラウンドはジャッジ二者、最終第3ラウンドは三者とも10対9での流れで完勝。

宗方888のハイキックで古庄洋将を追い詰める

◆第5試合 65.0kg契約3回戦

NJKFスーパーライト級3位.マリモー(KING/39歳/64.75kg)38戦14勝(6KO)23敗1分 
      VS
NJKFウェルター級3位.JUN DA LION(=松本純/E.S.G/37歳/64.35kg)
39戦9勝(1KO)23敗7分 
勝者:JUN DA LION / 判定0-3
主審:中山宏美
副審:少白竜27-28. 椎名27-29. 多賀谷27-28

マリモーは評判どおりのガンガン前に出るアグレッシブな前進を見せるが、JUN DA LIONは長身を利したパンチと上下の蹴りが攻勢を維持。第2ラウンドには右フックがタイミングよくマリモーにヒットしノックダウンを奪った。しかしあまり効いていないマリモーはジワジワ前進。第3ラウンドにはJUN DA LIONが失速。度々スリップダウンするが、スタミナ切れで立ち上がりが遅くなる。ノックダウン扱いされても仕方無い展開で10対8を付けるジャッジが二名。それでも逃げ切った形のJUN DA LIONが僅差判定勝利した。

JUN DA LIONのハイキック、前半は攻勢を維持したが……
マリモーも攻められてもガンガン前に出る体勢

◆第4試合 68.0kg契約3回戦

風成(エス/ 67.5kg)3戦1勝1敗1NC
     VS
兼山宏武(正心会/ 67.55kg)1戦1敗
勝者:風成 / 判定3-0
主審:宮沢誠
副審:中山30-28. 椎名30-27. 多賀谷30-28

初回から風成が蹴りでやや優り、攻勢を強めた第2ラウンド、ヒザ蹴りの圧力が優ったが、兼山宏武のヒジ打ちで眉間辺りを切られた。第3ラウンドは風成がローキックで兼山宏武を追い詰める展開で終始主導権を奪った流れで大差判定。

風成のミドルキック、パワフルな攻めが続いた
 
梅沢遼太郎の右ストレートはノックダウンに繋げていく

◆第3試合 65.0kg契約3回戦

上杉恭平(VALLELY/ 64.65kg)4戦2敗2分
      VS
梅沢遼太郎(白山道場/ 64.4kg)7戦3勝(1KO)1敗3分
勝者:梅沢遼太郎 / 判定0-3 (27-30. 27-30. 27-30)

パンチと蹴りの攻防はやや梅沢遼太郎のヒットが目立つ中、徐々に攻勢を強め、第3ラウンドに右ストレートでノックダウンを奪い大差判定勝利となった。

上杉恭平も打ち返すパンチヒットもあったが巻き返すに至らず。

◆第2試合 72.0kg契約3回戦

長岡巧真(VALLELY/ 70.8kg)1戦1敗
      VS
翁長将健(真樹ジムオキナワ/ 72.0kg)4戦2勝(1KO)2敗
勝者:翁長将健 / KO 3ラウンド1分11秒 /

初回に翁長将健が右ストレートでノックダウンを奪いパンチで攻勢を維持するが、長岡巧真も粘って蹴りで距離を保つも、第3ラウンドに翁長が蹴りから再び右ストレートでノックダウンを奪い、カウント中にタオルが投入されるとレフェリーが認め翁長将健のKO勝利となった。

翁長将健が航空便遅延で上京遅れも、KOに繋げる攻勢を維持

◆第1試合 56.0kg契約3回戦

山本龍平(拳粋会宮越道場)1戦1敗
      VS
久住祐翔(白山道場)3戦1勝2敗
勝者:久住祐翔 / 判定0-2 (29-30. 29-29. 29-30)

アグレッシブな攻防ながら初回にやや優勢だった久住祐翔がポイントで逃げ切る形で僅差判定勝利。手数が減らない両者のアグレッシブな展開に第1試合からボルテージが上がった会場内だった。

第1試合からアグレッシブな展開を見せた山本龍平vs久住祐将
 
風成のヒザ蹴りはノックダウンに繋がるような勢いがあったが倒すに至らず

以下2試合は板谷航平、紗彩の練習中の怪我による欠場により中止
・62.5kg契約、須貝孔喜(VALLELY)vs板谷航平(チームゼロス)
・女子(ミネルヴァ)51.0kg契約、松藤麻衣(C吉祥寺)vs紗彩(Dシャカリキ)

《取材戦記》

午前は9時より、NJKFのアマチュア部門、EXPLOSIONが行われました。「WBCムエタイ ジュニアリーグ&EXPLOSION」全国大会代表者決定トーナメントが、小学校低学年(22kg以下)からU15中学生までと、一般男性はヘビー級まで、一般女性枠も設けられています。

小学生レベルも実力向上が見られ、先日、王座獲得祝賀会が開かれた坂本嵐(キング)もEXPLOSION出身でしたが、実行委員長の米田貴志氏に「将来有望な選手はいますか?」と尋ねてみると、アマチュア時代の坂本嵐レベルはザラに居て、特に誰が一番とは言い難いという。昭和や平成初期には考えられないほど、幼少期から鍛えられたテクニシャンが今後プロデビューすることでしょう。

プロ部門では、セミファイナルで対戦したマリモーとJUN DA LIONは、両者とも40戦近いベテラン対決ながら、大きく負け越す戦歴を持つ。あまり注目を浴びる存在ではないが、大きな声援を受けるインパクトある展開を見せた。

 
古庄洋将のヒザ蹴りも効果的にヒット、宗方もパンチを合わせる

メインイベントで勝利した宗方888はリング上で、「自分のリングネーム、皆さん覚えて帰って欲しいんですけど、数字の8三つで“ハチミツ” と言います。覚えて頂けたら凄く嬉しいので宜しくお願い致します。」と勝利での初めてのマイクアピールは何を話せばいいか考えていなかったと言い、名前の紹介で終えた様子。

リングを下りてから勝因については、「セコンドの言うことに従って、それがバッチリ当て嵌まったということですね。パンチに対して古庄選手はヒザ蹴りとかで来る想定と、最初の1ラウンドで打ち合う気が無さそうで蹴る方向でシフトした感じですけど、もっとKO狙ってパンチ出したかったですね。」と語った。

対する古庄洋将は元・J-NETWORKスーパーフェザー級2位という肩書き。現在は不動産会社に勤めるサラリーマン。5年ぶりの試合という。

古庄洋将はリングを下りた後、応援団の声援に感謝と、「このままじゃ終われないので、また頑張るのでお願いします。」という語り掛け。

作戦については、「ヒザ蹴りで倒すはずだったんです。最後にヒザ蹴り出せて宗方選手は効いた様子でしたけど、手が痛くて組みに行く力が足りなかったですね。」と5年ぶりの試合を振り返ってくれました。

NJKF次回興行は次週6月2日に後楽園ホールに於いて「NJKF CHALLENGER 2024.3rd」が開催されます。

今回のメインイベンターはNJKFフェザー級チャンピオン,大田拓真は、4月19日、タイ・ルンピニースタジアムで行われた「ONE Friday Fights 59」に於いて、大田拓真(新興ムエタイ)はコプター・ソー・ソンマイ(タイ)に右ヒジ打ちで2ラウンドKO勝利。35万バーツ(約150万円)を獲得。

6月2日はカンボジア・クンクメールとの対戦。東南アジア競技会(SEA Games)アマチュアボクシングで金メダルも獲得しているオウ・テリットを迎え撃ちます。連続KO勝利に期待が掛かります。

勝利した宗方“ハチ三ッツ” ラウンドガールとツーショット

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
昭和のキックボクシングから業界に潜入。フリーランス・カメラマンとして『スポーツライフ』、『ナイタイ』、『実話ナックルズ』などにキックレポートを寄稿展開。タイではムエタイジム生活も経験し、その縁からタイ仏門にも一時出家。最近のモットーは「悔いの無い完全燃焼の終活」

《6月のことば》まっすぐ生きろ 胸張って 鹿砦社代表 松岡利康

《6月のことば》まっすぐ生きろ 胸張って(鹿砦社カレンダー2024より。龍一郎揮毫)

6月に入りました。

速いもので今年もあっというまに5カ月が経ちました。

今夏もこれから猛暑のようですね。

大学の後輩で、魂の書家・龍一郎の書によって鹿砦社カレンダーを制作始めてもう13年になります。

当時、3・11東日本大震災に接し少しでも励まし、共に在るよとの意志表示のためでした。

爾来ずっと続けています。

まずは書店さんに配布、そして『紙の爆弾』や『季節』(前身の『NO NUKES voice』)の定期購読の方々へ配布、そして友人、知人へ配布し続けてきました。特に『季節』の寄稿者、定期購読者や関係者の方々は被災者の方も多く喜んでいただいております。

もちろんタダ!

好評で、「俺も欲しい」「私にも送って」との声があり、今では当初の倍ほどの部数になっています。

開始した頃は会社も好況で負担になりませんでした。

しかし、コロナによって不況になると正直負担になってきました。

「そろそろやめたら」と仰る方も少なくありません。

しかし、実際に、私も含め龍一郎の言葉に励まされるという方も多いです。後輩に励まされるというのも不本意といえば不本意(苦笑)ですが……。

特に今月の言葉のように短くスパッというものが好評ですしダイレクトに琴線に響きます。

おそらくカレンダーを受け取られたた少なからずの方々もそうだと思います。

「まっすぐ生きろ 胸張って」

(松岡利康)

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2024年6月号

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌『季節』2024年春号 能登大震災と13年後の福島 地震列島に原発は不適切

戦後日本の革命inピョンヤン〈4〉「戦後日本はおかしい」どころじゃなくなった〈日米攻守同盟・新時代〉 ── 人の眼を欺く「9条平和国家」転じて9条否定 「同盟のための戦争国家」に 若林盛亮

◆「いつまで“子分”のつもりや」!── 泉房穂の嘆き

4月の岸田国賓訪米、米議会でのスタンディング・オベーション演説を評して前明石市長・泉房穂さんは「ケンカは勝つ」(『週刊FLASH』2024年5月7・14日合併号)でこう断じた。

「いつまで“子分”のつもりや」!

泉さんは次のように嘆いた。

「今回の訪米で首相は自国よりもアメリカの方を向いていることが判明した」

「日本では拍手されないと自虐ネタを披露する前に、日本国民のためにアメリカにものを言うのが、本来の仕事やったんとちゃうんか。とても日本の首相とは思えん」

その嘆きの根拠を泉さんはこう述べた。

「議会演説では“米国は独りではない。日本は米国と共にある”と強調したが、“共にある”べきは、まず国民のはず。首相の発言はアメリカの要求する防衛費の増額を受け入れ、“貴国のために我が国民の血税を使います”と宣言したに等しい。 だが、日本にはそんなカネはない。岸田首相は日本の事情を説明し、過度に防衛費を使うわけにはいかんと突っぱねるべきやった。 」

長々と泉房穂さんの言葉を紹介したが、野党を含めて岸田訪米、日米同盟・新時代批判をここまでハッキリ言った政治家はいなかったし、とても的をついた評価だと思ったからだ。

「よう言うてくれはった」! というのが私の率直な感想だ。

前回の「戦後日本の革命inピョンヤン〈3〉」で「“無理心中”誓約の岸田・国賓訪米」と書いたが、泉房穂さんの指摘はそれに通じるものを感じる。

私の「京都青春記」、「ロックと革命in京都」で一貫して述べた「戦後日本はおかしい」、それがいまどんどんおかしくなってきている。一極覇権瓦解の米国に「米国は独りではない、日本は米国と共にある」と米国と覇権衰亡の運命を共にする「無理心中同盟」を米議会で誓約するまでに至った。

「戦後日本はおかしい」どころじゃないレベルにまで来ているように思う。

だから私も言いたい、「いつまで“子分”やってるんや」! 


◎[参考動画]【LIVE】バイデン大統領主催の夕食会 岸田首相が国賓待遇で訪米 ホワイトハウスから生中継(ニコニコニュース 2024/04/11)

◆あのコロンビア大学から始まった「“米国の正義”はおかしい」学生運動

いま世界中で「世の中、なんかおかしい」というムードが日を追って広がっている。

かつて1960年代末のベトナム反戦・学生運動を扱った映画「いちご白書」の舞台として有名なコロンビア大学からいままた始まった米国の学生運動はその象徴的出来事だ。

長周新聞(2024年5月1日付)によると事態はこのような展開を見せている。

アメリカのコロンビア大学(ニューヨーク)で4月18日、イスラエルのガザでの大量虐殺に抗議しパレスチナ人と連帯する学生たちの学内での活動に対して、警察を導入して強制排除し150人以上の学生が大量逮捕される事態となった。アメリカ議会の公聴会でミノーシュ・シャフィク学長が学生たちの言動が「反ユダヤ主義」だと認めたその翌日の出来事だ。

大学当局は学生達を停学処分とし、出席するには年間6万ドル(約930万円)以上という途方もない授業料を支払うという条件を付けた。


◎[参考動画]米大学での「反ガザ攻撃デモ」、キャンパス内で何が 学生らの思いは(BBC NewsJapan 2024/04/25)

この事態が報じられるや、ブラウン大学、イェール大学からハーバード大学までアイビーリグ(米東部の主要私立大学)の学生たちはそれぞれのキャンパスでの座り込み、ハンガーストライキ、授業ストライキ、異宗教間の祈りを展開し、米国のイスラエル支援と大量虐殺に学術機関が共謀することをやめるよう訴えている。

ノースカロライナ大学チャペルヒル校(UNC)の学生も学内にテントを設営し、集会でハーバード大学の学生が発言し、「堅実なコロンビア大学の学生と連帯してストライキをおこなう」と語った。ボストン大学やマイアミ大学、オハイオ州立大学でも緊急抗議活動がおこなわれた。

すでに2000人以上の逮捕者の出ている米国の学生運動は、いまやパリ、ロンドンなど欧州全体に拡散しつつあり、日本でも京都大学、早稲田大学、東大でも集会が持たれたという。

ウクライナ支援に血道を上げる一方で、大量虐殺反対のガザ支援、連帯の運動には「反ユダヤ主義」だと排斥するような政府の口にする「人道や正義」の二重基準の欺瞞、それが自分たちの大学の体質に関わる問題だと学生たちは声を上げたのだ。
これは米国の正義、自国政府の正義への「おかしい」という運動でもあると思う。
50年前、「京都の青春」渦中にあった私も「9条平和国家日本」が日米安保のためにベトナム戦争荷担国家になっている、そんな「戦後日本はおかしい」と思った。そして羽田闘争での「山崎博昭の死」、ジュッパチの衝撃を契機に学生運動に参加するようになり、その延長上に現在の私がある。

いまの日本は50年前の「ベトナム反戦」どころではない、タモリの言った「新しい戦前」という危惧が「日米同盟・新時代」という現実の実体として姿を現しつつある。

かつての私たちの闘いは敗北と未遂に終わった。その結果として現在の日本がある。いまの「新しい戦前」という事態の責任の一端は私たちの世代も負っている。「だからこそ私にはこの道を歩み続ける責任がある」との瀬戸内寂聴さんのお言葉が改めて胸に響いてくる。

これから書くのは「いつまで“子分”やってるんや」ということだが、いまの若い人たちの奮起を促すものになればとの思いも込めたい。もちろん同世代の爺さん、婆さんたちにも。

◆これは本当におかしい!── 9条改憲もせず「同盟のための戦争国家」誓約

岸田首相が米国で誓約した日米同盟・新時代で表面化した「新しい戦前」の実体とはどのようなものだろうか?

一言でいって日米同盟における日本の役割がこれまでの憲法9条の制約を受ける片務同盟、「有事の際、米国は(一方的に)日本を守る義務を負うが日本には米国を守る義務はない」同盟から9条の制約から離れ「日本にも米国を守る義務」が生じる双務同盟に変わったことだ。

その本質をより正確に表現すれば「日米同盟の攻守同盟化」、「同盟のための戦争」義務を日本が受け入れた、日本が「同盟のための戦争国家」に転換することを誓約した。それが今回の岸田国賓訪米で始まった大きな転換、日米攻守同盟・新時代だということではないだろうか。

岸田首相は米議会演説でこう述べた。

「米国は助けもなくたったひとりで国際秩序を守ることを強いられる理由はありません」と。

そして「日本が最も近い米国の同盟国としての役割をどれほど真剣に受けとめているかを知っていただきたい」と続けた。

これを要約すれば、米単独で支えきれなくなった覇権国際秩序を守るために「最も近い同盟国・日本」がその国際秩序を守るための相応の役割を果たす、具体的には対中対決を念頭に「同盟のための戦争」を日本が担う覚悟があるということを約束したのだ。

その具体的表現が岸田訪米直前に公表された、自衛隊の統合作戦司令部と米インド太平洋軍から指揮機能を一部移管された在日米軍司令部との連携を可能にする合意だった。

これは対中有事には在日米軍指揮下で自衛隊が戦争を行う体制を整えたということだ。

自衛隊はすでにスタンドオフ・ミサイル(中距離ミサイル)部隊を陸自に新設するなど敵基地攻撃能力を備え、今回、有事の際の戦争作戦指揮権を持つ「総参謀部」、統合作戦司令部を持つようになった。それも在日米軍司令部の指揮下で。

自衛隊は専守防衛、国土防衛の武力ではなくなり、米覇権秩序を守る「同盟のための戦争」を行う武力、すなわち交戦権、戦力を持つ外征戦争武力に大きく形を変えた。

これは交戦権否認、戦力不保持の日本国憲法9条第二項を否定する違憲行為であり、そもそもが憲法9条改憲なしにはできないことのはずだ。

岸田首相は9条改憲もしないで米国に約束した。つまり国の基本法を無視し国民に何の相談も議論もなしに日本を「同盟のための戦争国家」に変えた、これこそ「日本はおかしい」の最たるものではないだろうか。

◆“人の眼を欺く「9条平和国家」”のなれの果て

「ロックと革命in京都」で述べたこと、「平和と民主主義」で飾り立てられた戦後日本、それは「人の眼を欺くもの」じゃないのか? そんな疑問を抱いたのが私の「戦後日本はおかしい」の芽生えだった。それはいま思えば、小学5年の時、「戦後民主主義教育のリーダー」と言われた教師から「中国人捕虜刺殺要領」を聞かされた違和感から漠然と意識されてきたことだったが、日米安保のためにベトナム戦争荷担国家になった「9条平和国家」の欺瞞を知ってハッキリと「おかしい」と意識した。あれから50数年を経てそれが誰の目にもハッキリ目に見える形になったように思う。

一言でいって、“人の眼を欺く「9条平和国家」”のなれの果てが、“9条改憲なしの9条否定・「同盟のための戦争国家」”=「新しい戦前」に変わろうとする今日の日本の姿なのだと思う。

そもそも「9条平和国家」そのものが「人の眼を欺く」ものだったのだ。

「戦後、自衛隊は一人も人を殺すこともなく一人の戦死者も出さなかった」と言われる。たしかにそうだろう。でも在日米軍基地は「共産主義の脅威を防ぐ」ベトナム戦争、アフガン、イラクへの「反テロ戦争」などの米軍の戦争拠点となり、「反テロ戦争」では特措法をつくって自衛隊は戦争する米軍の後方支援を現地で行った。

それらの米軍の戦争は今日では「間違った戦争だった」と言われており、事実、いずれの戦争でも米軍は無惨な敗退を余儀なくされた。そんな米国の「間違った戦争」に日本は手を貸し続けてきた。けっして「9条平和国家」だと胸を張れなかった。それは日本が“人の眼を欺く「9条平和国家」”だったことの一表現であろう。

その「なれの果て」として今日の日米攻守同盟・日米新時代のわが国がある。

なぜこんなことになったのかをわれわれ日本人は深く考えてみる必要があると思う。

惨めな敗戦国国民になって大人たちは「軍国主義者にだまされた」「もう戦争はこりごりだ」的なことを幼い私たち戦後世代に愚痴ったが、そんな「大人たち」にならないためにも……

◆「日米安保基軸=日本国憲法<日米安保」こそ「戦後日本はおかしい」の元凶

「戦後日本はおかしい」の元凶、それは歴代自民党政権の日米安保基軸路線、口にこそ出さないが「日本国憲法よりも日米安保が上位」という位置づけ、いわば戦後日本では「国体は日米安保」という暗黙の不文律にある。

日米安保基軸を図式化すれば「日本国憲法<日米安保」ということだ。

それを明確に示すものとして戦後日本の安保防衛政策がある。

それは「日米安保・矛の米軍+憲法9条・盾の自衛隊」の二本立てだが、「矛」の米軍が基本、日米安保基軸だとされてきたことだ。

一般に「米軍なしに日本は守れない」と言われるが、それは「矛の米軍」があってこそ日本の防衛が成り立つという考え方から来るものだ。つまり日本の防衛は「矛=攻撃武力」なしには成り立たないということ、ゆえに日米安保軍「矛の米軍」が主で憲法9条・「専守防衛」の制約下にある「盾の自衛隊」は従、つまり日米安保基軸が戦後日本の防衛政策の基本路線とされてきた。

それは「矛=抑止力」、相手を圧倒する攻撃武力なしに国の防衛はないという「抑止力理論」を根拠に置くものだ。

抑止力とは「敵対国に戦争を起こせば、逆に報復攻撃を受けて自国に破滅的結果をもたらすという恐怖を与えることによって、戦争を起こすのをためらわせるだけの相手を優越する攻撃能力」を指す用語だが、「相手を優越する」抑止力、その基本は核武力保有ということになる。この抑止力理論に従えば、日本の防衛は日米安保の米軍によって成り立つ、専守防衛の自衛隊では日本を守れない、という結論になる。

抑止力とは言葉を換えれば、外征戦争能力、侵略武力だが、それは露骨すぎるのでソフトに表現したものだろう。強力な外征戦争能力、侵略武力を持つというのは帝国主義、覇権主義の防衛理論だが、その現代版が「抑止力理論」ということだと思う。

この「抑止力理論」は「利益線の防護」という防衛概念に基づくものだ。

◆帝国主義の遺物「利益線の防護」から「主権線の防護」へ

日本が外征戦争能力を持つことを初めて言い出したのは、「富国強兵」を唱えた山県有朋首相だ。

1890年、史上初の帝国議会で山県有朋首相は軍事費増額を説くに当たり、「主権線」「利益線」という用語を用い、国境という「主権線」だけではなく「その主権線の安危に、密着の関係にある区域」という「利益線」という概念を用い、この「利益線」を保護しなければならず「巨大の金額を割いて、陸海軍の経費に充つる」のはその趣旨からだ、と説いた。

これは当時あった国土防衛軍構想を排除し、外征戦争をも可能にする大規模の軍事拡張路線、「富国強兵」を明確に打ち出したものだった。

この「利益線の防護」という防衛概念は、わが国最初の帝国主義戦争である朝鮮半島権益を巡る清国との戦争、日清戦争を前にして打ち出された概念だ。

「利益線」という概念は、「主権線の安危に、密着の関係にある区域」ということだが、これをわかりやすく翻訳すれば海外植民地という「日本の海外権益線」のことを指す。したがって「利益線の防護」とは「植民地権益の防護」を指す。平たく言えば、列強との植民地争奪戦争に打ち勝つ軍事力、外征戦争能力、侵略武力を保有するための防衛概念だ。

戦後日本にも「利益線の防護」思想は継承されている。

元陸上幕僚長、富澤暉(あきら)氏は自著で次のように述べている。

「既に帝国主義は消滅したわけですが、それにも関わらず、この利益線という考え方は国益を守る上で意味を持ち続けています。一時、マラッカ海峡防衛論といった『シーレーン防護』や『中東の平和(石油)維持』が話題になったことがありますが、これらは『新時代の利益線防護』の思想から出てきたものといっていいでしょう」(『逆説の軍事論』バジリコKK

続けて富澤氏は「(利益線は)もはや一国で守るのではなく他国と協力した共同防衛、集団安全保障の形で守らざるを得ないというのが現在の安全保障に関する考え方の主流になっています」と述べている。富澤氏が言うように、かつての帝国主義的な植民地争奪戦の時代が終わっても「新時代の利益線防護」の思想は生きている。

それは、戦後日本において「米中心の国際秩序」を日本の「利益線」とし、これを日米安保基軸という「集団安全保障の形で守る」、このような防衛路線として具体化された。

「利益線の防護」からすれば「矛」、外征戦争能力保有は不可欠であり、米軍の「矛」基本、日米安保基軸が日本の防衛路線の基本となるのは必然であろう。

憲法9条より日米安保が優先される。これこそが“人の眼を欺く「9条平和国家」” の正体であり、「戦後日本はおかしい」の元凶だと言える。

そして今回の訪米で岸田首相は日本の国会ではなく米議会演説で「米国は助けもなくたったひとりで国際秩序を守ることを強いられる理由はありません」と自衛隊が「米覇権秩序の防護=利益線の防護」を担う「矛」、外征戦争能力を持つことを約束、そのための防衛予算倍増をバイデンから誉められた。

山県有朋は少なくとも日本の国会で「利益線の防護」の必要を唱え、「巨大の金額を割いて、陸海軍の経費に充つる」ことを国民に訴えた。しかし岸田首相は「利益線の防護」の必要というその根拠を国会にも国民にも何も説明しないまま米国の要求(日米同盟新時代の要求)に応え外征戦争能力保有とそれに伴う防衛予算倍増を米国に約束した。

これこそ究極の「おかしい」ではないだろうか。泉房穂さんの言葉を借りれば、「今回の訪米で首相は自国よりもアメリカの方を向いていることが判明した」。

日米同盟・新時代の“9条否定・「同盟のための戦争国家」”という危機的事態を前にしたいま、日米安保基軸の防衛政策からの転換を果たす時が来たのだと私たちは腹を括(くく)る必要があるだろう。

日米安保基軸からの転換は、すなわち大日本帝国の山県有朋演説以降、堅持されてきた「利益線の防護」から「主権線の防護」への質的転換であり、それを具体化する防衛政策を明らかにすることが必須不可欠の課題であると思う。これについては別途、考えていきたい。

◆「自信あるなら正々堂々と9条改憲を国民に問え!」── 先手必勝の攻勢

 
泉房穂×鮫島浩『政治はケンカだ! 明石市長の12年』(講談社 2023/5/1)

泉房穂さんの持論は「政治はケンカ」、そして「ケンカは勝つ」だ。必勝を期すのが政治だということだろう。

攻撃は最大の防御、攻撃の要は敵の弱点を突くこと、これがケンカの要領だ。

岸田政権の弱点は「国民に黙って決める」ことにある。言い換えれば「国民に知られては困る」政治という弱点を持つ。

今回、米国と約束した日米同盟・新時代、「日米安保の攻守同盟化」に伴う自衛隊の「矛」化という違憲の外征戦争能力、「交戦権、戦力保有」を憲法9条改訂もなしに決めた。その憲法9条否定の違憲政治が「国民に知られては困る」からだ。

ならば岸田政権が困ることをやればいい。

国民の側から「自衛隊の矛化は交戦権否認、戦力不保持の9条違憲行為ではないか」、「やるなら正々堂々と9条改憲を国民に問え!」と岸田政権に迫るなら彼らは窮地に陥るだろう。

なぜなら彼らはそれはゼッタイ避けたいことだからだ。閣議決定だけで決めた「敵基地攻撃能力保有」という自衛隊の矛化も「専守防衛の範囲内」という詭弁でごまかし9条論議になるのを避けたことがそれを示している。

9条以外の改憲論議には世論も反対しないようだが、9条については「改憲反対」が絶対多数を占める。「平和主義が崩れる」「戦争に巻き込まれる」と危惧する世論が多数派だ。

閣議決定ですませた「安保3文書改訂」も、米国で約束した「日米安保の攻守同盟化」もいずれも「自衛隊を矛化する」という9条違憲行為だ。

だから「こそこそするな、自信あるなら正々堂々と9条改憲を国民に問え!」の声を国民の側から上げる、ならば岸田政権は窮地に陥る。

こんな先手必勝の攻勢をかければ岸田政権との「ケンカは勝つ」と思う。

ピョンヤンからの「遠吠え」かもしれないけれど、ぜひ検討願いたいと強く思う。

若林盛亮さん

◎ロックと革命 in 京都 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=109

◎ピョンヤンから感じる時代の風 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=105

▼若林盛亮(わかばやし・もりあき)
1947年2月滋賀県生れ、長髪問題契機に進学校ドロップアウト、同志社大入学後「裸のラリーズ」結成を経て東大安田講堂で逮捕、1970年によど号赤軍として渡朝、現在「かりの会」「アジアの内の日本の会」会員。HP「ようこそ、よど号日本人村」で情報発信中。

『抵抗と絶望の狭間 一九七一年から連合赤軍へ』(紙の爆弾 2021年12月号増刊)
『一九七〇年 端境期の時代』