支離滅裂、『週刊金曜日』の「モンロー主義」の解釈 黒薮哲哉

『週刊金曜日』(7月26日)の記事「バイデン撤退ハリス後継でトランプ優勢変わらぬが……」(編集部の本田雅和氏の署名)に、基本的な事実関係が間違っている箇所がある。現代史の中で重要な分部なので、指摘しておこう。米国大統領選における、トランプ候補の政治姿勢について述べた箇所である。次の記述である。

 

もう一つ、米国社会を歴史的に貫く大きな潮流として「対外関与を忌避し、自国政治に専念すべきという独立主義」の伝統がある。かつてはモンロー主義と呼ばれた、19世紀からの伝統だ。

ウクライナ戦争やパレスチナ・ガザにも「無関心」で、「日米安保条約は不平等条約」と言って「破棄」さえしかねないトランプの米国第一主義は、この孤立主義を体現している。トランプになれば、日本や韓国に対する軍事費負担増などの軍事強化要求がさらに強くなるのは必至だ。

「米国社会を歴史的に貫く大きな潮流として『対外関与を忌避し、自国政治に専念すべきという独立主義』の伝統がある」と述べているが、この記述が誤っていることは、米国によるウクライナやパレスチナへの関与を検証すれば一目瞭然だ。

ラテンアメリカ諸国に対する内政干渉も甚だしい。戦後だけを見ても、1954年のグアテマラに始まり、その後、キューバ、チリ、ニカラグアなど中米へ介入している。現在では、ベネズエラの左派政権に対する敵視政策は目にあまるものがある。次に示すのが、米国によるラテンアメリカへの軍事介入の実態である。

『週刊金曜日』が提示したモンロー主義の解釈も間違っている。モンロー宣言(1823年)に象徴されるモンロー主義は、確かに内政不干渉を基本とする文書だが、宣言が行われた背景に、ヨーロッパ諸国によるラテンアメリカ諸国への内政干渉があった。米国は、欧州に対抗するために、モンロー主義を宣言し、ラテンアメリカが自国(米国)の「裏庭」にあたるとする立場を前提に、米国こそがこの地域を支配する権限を有することを宣言したものなのである。モンロー宣言は、むしろ米国によるラテンアメリカへの内政干渉を正当化するための宣言なのである。実態としては、「対外関与を忌避」したものではない。

実際、米国はモンロー主義を口実として、ラテンアメリカ諸国への内政干渉を繰り返してきた。内政干渉は現在も続いている。

『週刊金曜日』は、このような脈絡を無視して、トランプが政権を執れば、米国による内政不干渉の政策が導入され、その反動で日本や韓国の軍事負担が増えると、論じているのだ。支離滅裂な論考である。西側を世界戦略に巻き込もうとしている米国の基本的な対外戦略を無視して、トランプを論じているのである。これでは既存メディアと同じレベルではないか?

本稿は『メディア黒書』(2024年07月30日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu

黒薮哲哉『新聞と公権力の暗部 「押し紙」問題とメディアコントロール』(鹿砦社)
黒薮哲哉『禁煙ファシズム-横浜副流煙事件の記録』(鹿砦社)

《8月のことば》平和とは…… 鹿砦社代表 松岡利康

《8月のことば》平和とは世の中が笑顔で満たされること(鹿砦社カレンダー2024より。龍一郎揮毫)

今年も‟暑い夏”がやって来ました。── 鎮魂の8月、ウクライナ、パレスチナでの戦火は一向に収まりません。亡くなった無名・無数の市民、軍人、その家族のみなさん方に心より哀悼の意を表します。戦争が‟対岸の火事”ではなくなった今、ありていな言い方ですが、私たちはあらためて平和であることの意味を問い返さないといけません。

戦後79年間、まがりなりにも日本が再び戦場にならなかったのには、先の戦争の反省から世代世代に引き継がれた反戦の闘いがあったからだと、(異論はあるでしょうが)私なりに思っています。

かつて「平和ボケ」という言葉が否定的な意味で使われていました。しかし、私はいつまでも「平和ボケ」でいたい。

私たちが若かった頃、ベトナム戦争が身近にありました。それは沖縄から直に、あるいは日本国内からも米軍がベトナムに出兵したからであり、傷病兵が日本国内に運ばれ治療したり亡くなったりしたからです。実際に日本の首都東京周辺で、亡くなった米兵の死体処理のアルバイトをした人もいました。

そうしてベトナム反戦運動は、日本のみならず世界的なうねりとして拡がっていきました。

当時若かった私たちも今や高齢者の部類です。年老いた私たちにできることは少なく、また小さいです。若い頃のようにはできませんが、反戦の意志をのちの世代に語り継ぐことだけはやっていきたい。

最近、偶然にYou Tubeで、俳優の藤田まことさん(故人)が生前、歌番組で、『さとうきび畑』を歌った場面を観ました。藤田さんのお兄さんは17歳で沖縄の海の底に亡くなったそうです。藤田さんは『さとうきび畑』を朗々と歌い終えると、最後に「兄貴、沖縄の海の底から大きな声で世界に言うてくれ。戦争はもうええ、戦争はやめてくれ、と」と言って舞台を去りました。去る際に、藤田まことさんの、なんともいえない真剣な眼差しが印象的でした。これまで知らなかった、藤田まことさんの知られざる一面を見たようでした。

この夏、偶然に最近読んだ、幼くして異国の地で終戦を迎え一時強制収容所に送られつつも、命からがら故郷・熊本に生き帰った従兄(60年安保世代)の手記など紹介し、あらためて平和の意味を問い返したいと思います。

(松岡利康)

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戦後日本の革命 in ピョンヤン〈6〉老衰化の「例外主義の米国」が迫る9条改憲と非核の放棄 若林盛亮

◆“ノレハジャ キム・ジョンウン”TikTok再生1,100万“大バズリ”!

朝鮮のミュージックビデオがTikTokで260万再生の“大バズリ”!

こんなネット記事が送られてきた。この記事が5月17日付けだったが、朝鮮の労働新聞の「正論」記事には「世界で1,100万回再生」との引用があった。これが7月初旬だから1ヶ月半余で5倍近くに増えたことになる。労働新聞という固い党機関紙に載るほどだから朝鮮でもよほど異例の「事変」だったのだろう。

この歌の題名はキム・ジョンウン総書記を謳(うた)い上げる「チングンハン オボイ」、直訳すれば「親近な父」だが、「慕わしい父」と言った方が実感に近いと思う。

少しネット記事を引用する。

“この曲に合わせてダンスなどをする動画を欧米の若者がSNSに数多く投稿し、中には再生回数が260万回を超える動画もあるということです。SNSでは、「この曲にはグラミー賞が必要」「完璧な曲を出した北朝鮮に行きたい」という声もあがっています。高麗大学ピーター・ムーディ氏は、「この曲はABBAの曲調に似ている。軽快で耳なじみの良いオーケストラサウンドが際立っている」と分析しています”

“ノレハジャ キム・ジョンウン”[左]養老院のオバアちゃんらも“いいね!”/[右]真ん中にはあの女性アナウンサーが

この歌は「ノレハジャ(歌おう) キム・ジョンウン」の「ノレハジャ!」節に来て最高にノレる曲作り、自然にダンスしてしまうようにできている。昔、日本にスマイリー・小原という歌番組で「踊る」指揮者がいたが朝鮮のオーケストラ指揮者も腕をぐるぐる回したりであたかもダンスしてるよう。朝鮮では子供たちも登下校時にこの歌を歌っている。

私がこの曲を視聴したのは、新しい1万世帯ニュータウン入居式典が盛大に行われた際の音楽公演舞台だった。ノリのいい曲調に会場の聴衆は湧きに湧いた、特に若い大学生などはリズミカルに身体を揺すってノリにノッテていた。バックに映る動画も異色のもの、いつもの重大ニュース発表時の日本でも有名なおばちゃんアナウンサーも同僚たちと親指を突き立てる「イイネ」ポーズ、陸海空軍兵士、医者看護婦、スチュワーデス、労働者、農民、子供ら各界各層が次々にそれぞれの「イイネ親指突き立て」! 動画で面白かったのは養老院のお婆ちゃんたち、欠けた歯で笑って「イイネ」ポーズ。TV画面を観て私も思わず笑ったが、踊りたくなるようなアップテンポの曲、たしかにABBAのダンス曲に近いかも知れない。

こんな曲が生まれる空気感がいまの朝鮮の「現住所」だろう。こう書くと宣伝っぽくなりそうだけれど、以下は事実そのままを書く。

首都ピョンヤンでは2025年までに完成のモダンな高層ビル群のニュータウン、5万所帯住宅建設真っ最中、年に1万所帯づつだから超高速度戦、これで市内の住宅問題が解決する。また「日本人村」からほど近いところには「IT化」された超モダンな世界的にも希有と言われる大規模温室農場が1年足らずで完成、これでピョンヤン市民の野菜供給が全面的に解決される。そして農村文化住宅建設が全国で展開されていてピョンヤンのモダンな新築アパート生活と変わりのない住居条件で農民も生活する。むろん光熱費だけで住居費は無料。これが春頃から連日、2件づつほど地方農場の入居式風景がTV放映されているから、もうかなりの数に上るはずだ。

また「20×10」政策と称して今年から全国の200ほどある郡に地方工場コンビナートを20件/年、それを10年で終える、だから「20×10」政策。その地方で消費する食品、衣服、靴、学用品、家庭用品などの軽工業工場地帯をつくる。「地産地消」だから原料確保も技術者、技能工も地方で全て解決する。工事は人民軍の専門部隊が担当する。セメント、鉄骨材、水回り品、そして工場に設置する機械製品など基本資材は中央が保障、他の建材、建具などは地方で解決する。

これで都市と農村、首都と地方との生活条件での格差解消、これを全国の「全面的、均衡的発展」としている。日本の「地方消滅」とは対照的に「地方活性化」をやっている。

「社会主義万歳の声が全国でわき起こるようにする」というのが政府方針だから、実際の「変革実体」を国民が生身の生活体験によって「社会主義のありがたさ」を実感するようにということだろう。

米国による長年の制裁、それに加えてここ数年に及ぶコロナ禍で国境封鎖が続く中、「制裁を奇禍に自力更生で苦難を正面突破!」がスローガン。この自力更生も昔の「土木工事」式の人海戦術的なものじゃなくて、「知識経済時代の自力更生」、「科学技術、人材重視の自力更生」と言われる。中央のセンターからネット網を通じて全国の企業、農場、学校の「科学技術普及室」で、またスマホで適時に双方向での自分に必要な「最先端の科学技術情報」が学べる。また教育革命の一環、「学校前2年教育を含む」12年制義務教育も10年目を迎えて「科学技術人材」も順調に育っている。

国産品もいいのが出てきている。「世界的ブランドをめざせ」がスローガンで、例えば化粧品やスポーツ用品の企業にある見本展示場には“CHANNEL”“Dior”“SHISEIDO”そして“addidas”“NIKE”などの有名ブランド品も自社製品と共に並べられている。有名デパートや大規模商業施設にも世界のブランド品が国産品と共に陳列されている。「朝鮮の地に足をつけ、目は世界を見よ」! これ以上の高品質製品を! 将来は「朝鮮ブランドを世界ブランドにする野心を持て」ということだろう。

望んだことではないだろうが、極論すれば「国連制裁」下で事実上の「鎖国」状態、でもほぼ全部、自分の原料、技術、人材で上記の「社会主義万歳の声が全国に満ちる」ようなことをやっている。

「いまは社会主義全面的発展期」という位置づけだ。

超円安の直撃を受ける日本の「常識」では「そんなバカな!」というところだが、事実だから仕方がない。まさに「事実は小説よりも奇なり」。

「ノレハジャ!」に老いも若きも、男も女も自然に踊り出し、「イイネ」の親指突き立てポーズを決める。こんな曲が生まれる楽しくも自信満々、そんな社会的ムードになっている。

朝鮮はバイデン大統領の言う典型的な「権威主義国家」ということだが、彼は「1,100万再生大バズリ」をどう思うのだろう? バイデン爺さんよ! 朝鮮は核とミサイルだけじゃないんだよ。

以上は本論に入る前のちょっと楽しい「イントロダクション」。これからは「戦後日本はおかしい」が究極に来つつあるという、ちょっとどころじゃない厳しい今後の日本の現実、でも「希望はある」の本論。

◆“老衰度争い”の米大統領選討論会

バイデンの言う「民主主義国家」「普遍的価値観の模範国家」米国で、「老衰度」を争う大統領選を前にした討論会が世界の話題になっている。この討論会以降、民主党内からは「認知症気味のバイデンではダメだ」という大統領候補交代論がわき上がった。だからといって代わる候補がいるかというと、それも見あたらない。どれもこれも「帯に短し襷に長し」。(※バイデン大統領は7月21日、大統領選からの撤退を表明。新たな大統領候補としてカマラ・ハリス副大統領を指名した。)

政策論議よりも「老衰度争い」という大統領選討論会がいまの米国の「現住所」を示しているように思う。

「対ロ対決の主戦場」ウクライナでは自分がケンカを売った相手、プーチンの先制的軍事行動によって米国自身が窮地に陥った。

徴兵から逃れようと多くのウクライナの若者がルーマニア国境越えを試み「山岳地帯で凍死」「河で溺死」の危険を冒してまで軍への参加を忌避。とうとう刑務所の囚人を徴兵するしか手がなくなったゼレンスキー政権。そのゼレンスキーの妻はランボルギーニというイタリアの最高級車を最近、買ったという。誰が何を買おうと自由だが、徴兵忌避の若者の凍死、溺死続出という難局に大統領夫人がそんなぜいたくというのは、どんな神経かと疑われる。

ちなみにロシアは徴兵制ではなく志願制だ。有給制ということもあるが兵役志願の若者で兵員不足とならないのも代理戦争ウクライナに対する祖国守護戦争ロシアの強みだ。

ゼレンスキー人気もこのところ急落し始めている。国民もこの戦争が愛国の祖国守護戦ではなく、米国(NATO)の代理戦争だということを薄々感じ始めているからだろう。

そもそも反転攻勢ができないのは、米欧からの最新兵器支援が足りないからだと「もっと兵器をくれ」と大統領が駄々をこねるような戦争は、民族解放戦争でも祖国守護の愛国戦争でもない。最新兵器物量作戦の米軍を相手に戦った朝鮮戦争やベトナム戦争で指導者も人民も「最新兵器がないから勝てない」などという弱音は一言も吐かなかった。朝鮮では「原子爆弾に歩兵銃が勝った」戦争と言われている。ベトナムも同様だろう。

他方、ガザ戦争でも米欧支援のイスラエルが窮地に陥っている。

「ハマス壊滅までガザでの戦争(民間人大量虐殺)を止めない」とするネタニヤフ首相に対して軍の報道官が「ハマスは思想だから壊滅は不可能だ」と反論した。戦時内閣からガンツ前国防相が離脱、シオニスト極右だけが残ったネタニヤフ政権はますます強硬姿勢を取るしかないが、それが却(かえ)って窮地を招きそうになっている。最近の北部レバノンからのヒズボラの大規模攻撃激化でガザ地区との2正面作戦を強いられるようになった。ヒズボラはハマスよりも装備兵器も兵員数もはるかに優る軍事組織だから、「北部戦線」はイスラエルには多大の負荷になる。米国は軍事支援を継続するというが心中は「おっかなびっくり」というところだろう。

「対中対決に集中する」という「いまトラ」米国だが、それも結果はほぼ明白だ。前号に書いた「長州征伐戦争が“幕府ご瓦解”の前兆になった」、その二の舞になるだろう。

覇権政治も老衰化、覇権軍事も老衰化、そして覇権経済も……それがいまの米国だろう。

◆米国の「例外主義」 もう誰も認めない

戦後世界の「常識」、「パックス・アメリカーナ」(米国による平和)と称する米一極覇権秩序を支えてきた米国の外交理念、イデオロギーが「例外主義」だ。それは次のように規定されている。

“米国は物質的、道義的に比類なき存在で世界の安全や世界の人々の福利に対して特別な使命を負う”

米国は「物質的に豊か」で「自由と民主主義」チャンピオンの国、普遍的価値観の模範国家、まさに「比類なき存在」、ゆえにこの普遍的価値観が世界を支配する世界秩序、米中心の国際秩序維持に「特別な使命を負う」。このイデオロギーが戦後世界を支配してきた。

「米国についていけば何とかなる」が戦後日本の常識、生存方式とされてきたのは、この米国の例外主義を戦後日本が認めてきたからだ。

1947年2月の敗戦直後に生まれた団塊世代の私も子供の頃は米国が憧れの的だった。

TVドラマ「パパはなんでも知っている」や映画で観る米国の豊かな中流家庭、電化製品の整った白亜の瀟洒な二階建てに住み、息子娘たちは週末はオープンカーでデートを楽しむ、そんな子供たちの自由奔放な青春に理解心のある両親、それは敗戦直後の日本の少年にとってはまばゆいばかりのものだった。

アメリカのポップ音楽を聴く姉、それが耳に馴染んだ私は南春男や橋幸男が歌う演歌など日本の歌謡曲はいかにもダサイと思った。

高校生の頃、大統領就任式のケネディ演説が「朝日ソノラマ」で発売されたが、若者に呼びかけた「フロンティア・スピリット」(開拓者魂)などにクラスの多くがしびれていた。日本の首相や政治家はダサイと私も思った。

あの頃はたしかに米国は「比類なき存在」に思えた、いやそう思わせる「魅力」があったのは確かだ。まだ日本は貧しく、軍国主義から民主主義への激変中の日本の大人たちの価値観はまだ混沌としていて、そんな大人たちも米国の大人たちよりダサイと思った。

高三頃になって「米国はおかしい」「戦後日本はおかしい」ことに気づき始めた私だが、昼間の日本社会は「アメリカに追いつき追い越せ」、高度経済成長の日本に浮かれていた。

ベトナム反戦、反安保の闘い、学生運動で私たちは正義感から激烈に闘ったけれど、運動自身の内包する限界性によって、東京万博から一億総中流に向かう「昼間の明るい日本」の波に飲み込まれてしまった。一言でいって「比類なき存在」の米国、「米国についていけば何とかなる」式の生存方式そのものにうち勝つことはできなかった。高度経済成長、お金や立身出世に浮かれる日本社会を批判したり、「反帝」だとか「反対」は叫んでも、こうすれば日本はもっとよくなるという日本人への提案、政治構想が何もなかった。当然の事ながら「革命」は敗北と未遂に終わった。

あれから半世紀を経て世界の様相はがらり変わった。米国の例外主義は地に落ちた。

もう “米国が「比類なき存在」で「特別な使命を持つ」”に誰もが疑問を感じるようになった。その端的表現が今年の米調査会社ユーラシア・グループ公表の「世界十大リスク」のトップに「米国というリスク」、「米国の民主主義の危機」が上げられたことだ。

米国のZ世代と呼ばれる新しい若者たちも自分たちの国が「比類なき存在」だと思えなくなっている。「反ユダヤ主義」と非難されようが「停学処分」で脅されようが、「ガザ虐殺反対」「イスラエル支援糾弾」の抗議運動をやめない学生たちはその一例だろう。トランプ支持の貧しい白人たちは「世界に対し特別な使命」を果たすより「アメリカ国民に対する初歩的な使命」を果たすのが第一じゃないかと「アメリカ第一」のトランプに喝采を送る。

もう米国の例外主義を世界の誰も認めない。

日本では「米国についていけばなんとかなる」から「米国についていけば大変なことになる」に、私式に言えば「戦後日本はおかしい」どころじゃない、「戦後日本は革命すべき」時に来ている。この手記で何度も訴えてきたが、このように問題が提起される時点に来た。

◆「持たず、作らず、持ち込まさせず」から「持たず、作らず、撃ち込まさせず」へ

そんな老衰化一方の米国が覇権秩序の瓦解阻止、「回春」の期待をかけるのが日本だが、それは迷惑千万どころか、わが国にはとても危険なことだ。

兼原信克“持たず 作らず 撃ち込ませず”

フジTVのプライム・ニュース(6月26日)、テーマ「中国・核戦力の実力と核大国化の狙い」に出演した兼原信克・元国家安全保障局次長(現在同志社大学特別客員教授、笹川平和財団特別理事)は番組最後の中国の核に日本がどう向き合うべきかの提言にこう書いた。

「持たず 作らず 撃ち込まさせず」

日本の非核3原則「持たず 作らず 持ち込まさせず」に引っかけたものだが、「持ち込まさせず」からの転換を訴えて「撃ち込まさせず」を提案した。要は「核持ち込みを認めよ」という主張だ。

兼原信克という人物はこの間、「非核の国是見直し」を日本人に説いてきた「安全保障問題の第一人者」だ。

昨年、G7広島サミットを前に持たれた広島での読売新聞主催のシンポジウムでは「日本の最大の弱点は“核に対する無知”だ」と言い切った。そしてあるTV番組でずばり語った。

「非核の国是を守ることが大切か、国民の命と安全を守ることが大切か、議論すべき時が来た。答は明らかでしょう」

産経新聞の今年の元旦社説は「米核戦力の配備や核共有、核武装の選択肢を喫緊の課題として論じる」必要を説いた。

この通信に何度も書いたので繰り返さないが、「老衰化」軍事の米国は対中・劣勢挽回のために日本に「非核の国是」放棄を迫っている。

その狙いは、「対中対決の最前線」と位置づける「日本列島の中距離“核”ミサイル基地化」、その具現として日米「核共有」による「陸上自衛隊のスタンドオフ・ミサイル(中距離ミサイル)部隊の有事の“核”武装化」だ。

昨年5月掲載のこの通信に書いた「対日“核”世論工作」は2年ほど前から執拗に行われている。それだけ広島、長崎の被曝体験者である日本人の非核世論を崩すのが容易でないこと、しかし「老衰化」軍事の米国が対中・中距離“核”ミサイル劣勢を挽回するためには「非核の国是放棄」は譲ることのできない必須条件であることを示すものだろう。

◆「アメリカ以外の国と連携を組んでいく」 そのための憲法改正議論が必要

朝日新聞デジタル版はこのような記事を伝えた。 

“日本、フィリピン両政府は7月8日、自衛隊とフィリピン軍が共同訓練などで相互に訪問しやすくする「円滑化協定(RAA)」に署名した。東シナ海、南シナ海で海洋進出を強める中国に対抗するため、日日本は米国とともにフィリピンとの安全保障面での連携を強化しており、同国との関係を「準同盟」級へと格上げを図る。”

日比両国の国内手続きを経てRAAが締結されれば、日本にとって「準同盟国」と位置付ける豪州、英国に続く3カ国目。締結により、両国共同の軍事演習などに際し相手国への入国のためのビザ取得や、武器弾薬を持ち込む手続きなどが簡略化される。

このところ日本はインド太平洋地域で「準同盟国」を増やす動きを見せている。いずれ「準同盟国」から「同盟国」への格上げが追求される、「準同盟国」形成はその地ならしだと言えるだろう。

こうした日本政府の動きの背景には米国の同盟関係転換政策、“ハブ&スポーク状”同盟から“格子状”同盟への転換がある。

“ハブ&スポーク状”同盟とは、自転車の車輪の中心部のハブ、そのハブにつながる無数のスポークが車輪を支える構造に譬えた同盟構造を指す。ハブとなる中心に米国があってその中心から伸びるスポーク(同盟)で各国がつながる、つまり米国が各国個別に同盟を結び、各国が軍事大国、米一国に依存する同盟関係を指す。

“格子状”同盟とはインド太平洋地域の日韓、日比、日豪が格子状に重なるような同盟構造への取組を行うことだ。もちろん各国は米国と同盟関係にある、だが「米国だけに頼るな」ということ、この地域各国が相互に「独自の同盟関係」を結びアジアでの米覇権秩序を守れということだ。もちろん、この同盟の矛先は中国だ。

このわかりにくい同盟構造をオースチン国防長官は「同盟国や友好国同士が相互に結びつきを強める“新たな集約”に移行した」と説明した。これを小野寺五典・自民党安全保障調査会議議長は「いままではアメリカが後ろ盾になって“俺についてこい”だったのが、“みんなで一緒にやろうよ”に変わった」と表現した。

「老衰化」の米軍事力だけでは国際秩序を支えきれなくなったから「みんなで一緒にやろうよ」だが、各国が米覇権秩序維持のための相互の二国間軍事同盟を結ぶこの格子状同盟の全てに日本が噛まされる。

インド太平洋地域の格子状同盟構築の上で問題はその核になる日本だ。

先の小野寺氏は「アメリカ以外の国と連携を組んでいく、仲間づくりをたくさんやっておく」と述べながら、一つの懸念を表明した。「日本は憲法の制約がある」と。

小野寺氏は従来の「日本の日米安保は片務的」としながら、でも他の国は「片務的同盟」を受け容れてくれないだろう、「だとすると憲法改正の議論が必要」と述べた。これはどういうことなのか?

日米安保同盟は米軍が圧倒的強さで世界を支配できた頃のものだから「軍事は米軍に任せる」片務的同盟関係でよかったが、他の国とはそうはいかない。格子状同盟の要求からすれば、日本が韓国やフィリッピン、オーストラリアなどと安保同盟を結ぶべきだが「戦争のできない」憲法9条が障害になる。韓国やフィッリピン、オーストラリアにとっては、「日本も戦ってくれる」のでなければ軍事同盟を結ぶ意味がない。当然、「日本は戦ってくれない」憲法9条の制約があれば、米国の望む格子状同盟関係構築は不可能となる。

この米国の“格子状”への同盟関係変容要求からも9条改憲が日本に迫られるのは必至だ。

その一方で5月掲載の「戦後日本の革命inピョンヤン」(4)に書いた岸田国賓訪米時に米国と約束した日米同盟・新時代だが、その核となる「日米安保の攻守同盟化」に伴う「国際秩序維持のための戦争」義務を日本が負うこと、つまり「戦争のできる自衛隊」にすること、「交戦権、戦力保有」を憲法9条改訂もなしに岸田首相は米国に誓約した。けれどその本格始動のためには、いずれ9条改憲は必至だ。

「日米安保の攻守同盟化」への転換、「格子状同盟」への転換という二つの必要性から9条改憲は必須課題として日本に迫られる。

◆でも希望はある!

次期自民党総裁候補で国民的人気ナンバーワンの石破茂氏は、あるTV番組で自分の国家観は「主権独立国家だ」と述べながら「重要なのは憲法だ」とのみ語った。石破氏が「重要なのは憲法」と言ったのは「憲法9条第二項の交戦権否認・戦力不保持」の改正の必要があるということを言外に匂わせたのだろう。石破氏は安倍元首相が提起した「9条に“自衛隊合憲”を書き込む」という現自民党政権の姑息な改憲案に対して「9条第二項改憲を正々堂々と国民に問うべき」だと説いてきた人物だ。

気脈の通じるおふたり

また彼は以前、「自主防衛策」として「核武装論」も説いていた人物でもある。当然、「非核の放棄」も念頭に置いている。

上記の米国が日米同盟新時代の要求としてわが国に迫る「9条改憲」と「非核国是の放棄」を石破総裁、そして石破首相が実現すれば彼がそれを実行するであろうことは明らかだ。

他のTV番組では石破氏と野田佳彦・立憲民主党最高顧問は互いに気脈が通じるとしながら岸田政権後の次期政権構想を語り合った。この政権の第一課題として立民の野田氏は「日米基軸」を上げた。石破氏はこれを高く評価した。

また次期立憲民主党代表に立候補意思を表明した枝野幸夫氏は最近、こんなことを言い始めた。

「海兵隊機能、米軍依存でいいのか。自衛隊が持つべき」だと。

枝野氏は沖縄の南西諸島の対中防衛を念頭に置いたものとしているが、海兵隊というのは敵国侵攻の先頭に立って上陸作戦を行う最精鋭部隊、外征戦争の突撃部隊だ。対中・対朝鮮最前線の沖縄に米海兵隊基地が集中しているのはこのためだ。「海兵隊機能を自衛隊が持つ」ということは「戦争のできない」憲法9条を改正するということと一体だ。

うがった見方をすれば次期政権は自民・立民の挙国一致政権、「新政権の課題は9条改憲」、「非核の国是放棄」、これがあながち邪推とは言えない時代が来たと思う。実際、日米基軸という点では与野党に大差はない。

この政治状況ではお先真っ暗に思えるが、希望はある。

先の東京都知事選にその一端を見ることができる。

その第一は、自民党や立憲民主党といった与野を問わず既存の政党に都民が「NO!」を突きつけたことだ。小池百合子都知事も政党色を出さず「東京都政」を全面に出して勝った。二位の石丸伸二さんは既存政党を痛烈に批判し「新しい政治」を押し出して「泡沫候補」から一躍二位に躍り出た人物だ。この人物に関しては厳しい評価もあるが、人物評価は別として注目すべき現象だと思う。

実際、今の政治に、右も左も、与党も野党も、自民党も立憲民主党もない。皆似たり寄ったりになっているではないか。問題は、「われわれが住んでいる東京、日本」だ。東京をよくし、日本をよくしてくくれる人、政党、それがよい人、よい政党、よい政治家だ。都知事選での東京都民の投票行動には、今、世界に広がる「自国第一、国民第一」の流れにも通じるものがあるのではないかと私は思う。 

もう一つ今回の都知事選から見えてきたことがある。

それは、若者だ。若い人たちが重い腰を上げだし投票率を大きく上げた。蓮舫さんを破って165万票を得て二位に躍り出た石丸伸二さんは41歳。今回15万票を集め、5位につけた安野貴博さんは33歳だ。今回の選挙で、この二人がSNSを駆使し、広く若者たちにアピールして、彼らから人気を大きく集めたのは、特筆すべきことだったと思う。これまでの無党派層、選挙にも行かなかった若者の政治への当事者意識が動き始めたというのは大きいと思う。

これらはあくまでいまは「希望的観測」に過ぎないけれど、この「希望」を政治の力にできれば、「戦後日本の革命」は夢ではなくなる。そんなかすかな「希望」が見えてきたわが国、日本に勇気を得ながら、ピョンヤンからの発信を続けていきたいと思う。

若林盛亮さん

▼若林盛亮(わかばやし・もりあき)
1947年2月滋賀県生れ、長髪問題契機に進学校ドロップアウト、同志社大入学後「裸のラリーズ」結成を経て東大安田講堂で逮捕、1970年によど号赤軍として渡朝、現在「かりの会」「アジアの内の日本の会」会員。HP「ようこそ、よど号日本人村」で情報発信中。

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『抵抗と絶望の狭間 一九七一年から連合赤軍へ』(紙の爆弾 2021年12月号増刊)
『一九七〇年 端境期の時代』

戒厳令が敷かれたような8月6日の広島平和記念式典 権威低下が著しい米国に「忖度」し過ぎて、広島の平和行政が自滅する さとうしゅういち

◆平和記念式典 ── これではまるで戒厳令だ!

8月6日に行われる平和記念式典2024の準備が広島市中区の平和公園周辺で進んでいます。右の写真をご覧ください。

 

この写真の立て看によると、なんと、原爆ドーム周辺も含む平和公園の入場口では手荷物検査を行い、さらに、平和記念式典のメイン会場になる参列者席では金属検査まで行うというのです。プラカードや幟の持ち込みも法的根拠もなく禁止し、従わない場合は、排除されるということです。平和記念式典どころか、戒厳令です。

2023年の平和記念式典の際、原爆ドーム前で新左翼系の市民団体と広島市役所の職員が押し合いになり、職員が尻もちをつくという「事件」が発生。当該新左翼の事務所などが警察に強制捜索を受け、暴力行為法違反で逮捕者が出るという事態になっています。

「暴力行為法違反」というとまるで、TVで良く報道されるフランスでの暴動などを思い起こしてしまう人も多いのではないでしょうか? しかし、実際にはそういうことではなく、現場で、左派系市民団体にプラカードで「静粛に」と抗議する右派系市民団体との間に入った市職員で、尻もちをつかれた方がおられたということです。正直、かなり、強引な法適用でした。そもそもこの規制自体が「平和記念式典の最中に新左翼系の団体が大声で演説しているので自粛してほしい」という話から出てきたものです。それ自体も表現の自由から慎重になるべきところです。

2021年に平和推進条例で厳粛に式典を行うということが盛り込まれましたが、規制の根拠はありません。ところが、2023年の「事件」を契機に、これまで規制のなかった原爆ドーム前も含めて規制区域にするという流れが加速。議会でも、社民党と保守系無党派の一部議員の反対だけで、規制を推進する決議が可決された経緯があります。(日本共産党は、委員会レベルで対応が分かれており、本会議では賛成に。どなたか議員が除名されるかと思っていたのですがそういうことはおきなかったようです。最近流行?の松竹伸幸さん、鈴木元さんらの共産党員の除名・除籍騒動は、志位和夫さん・田村智子さんらに反抗した場合にのみ適用されるのでしょうか?)

ともかく、まるで戒厳令です。法的根拠もなくこんな規制をする。松井一實市長の独裁的な姿勢に懸念を抱きます。こんな窮屈な平和記念式典なら、参加したがる人が減ってしまうのではないか? そう懸念します。

◆湯崎英彦知事が建設の「G7広島サミット記念館」で被爆アオギリが衰弱

下の写真をご覧ください。奥の建物は、湯崎英彦広島県知事が公園の所有者の広島市(松井市長)の許可を得て原爆資料館の北側に建設した「G7広島サミット記念館」です。ところが、その工事の過程で手前の木=アオギリの根が切断され、衰弱してしまいました。このアオギリは、元々は、爆心地から1.3kmの中国郵政局内にあったもので、被爆時には爆心地側の半分が焼けただれてしまった。

しかし、見事に、生物としての復元力を発揮し、焼けただれた側も、新たに生えた細胞が覆い、元気に伸びていきました。1973年5月にこの平和公園の原爆資料館北側に移植されました。被爆証言で有名な沼田鈴子さん(2011年、87歳で逝去)がこの木の下で証言をされたことでも知られています。

また、アオギリの衰弱については、当初、太陽光線がG7広島サミット記念館に反射して起きたという見方もあり、記念館の壁には光を吸収する黒いシートが貼られています。

また、同時に、アオギリの歌が流れてくるパネルも故障中でした(7月25日現在)。

さて、ご紹介した平和記念式典の過剰警備。そして、アオギリの衰弱。これらは、米国忖度の末にあるのではないか? その結果、広島自身の価値を暴落させ、広島の自滅につながっているのではないか? そのことを象徴しているのではないか?と思います。
 

[左]衰弱した被爆アオギリ。[右]アオギリの歌が流れてくるパネルも故障中(7月25日現在)

◆国力低下と「ダブスタ」で権威低下の米国

パレスチナにおけるイスラエルによる侵略・虐殺(実際はガザだけではない)を放置する一方で、ロシアは非難し、ウクライナ支援という、米国政府のダブスタは、さらに米国の権威を低下させています。

米国自身もいわゆる「ポリコレ」を推進する一方で、国内の経済格差が拡大・放置され、矛盾・不満が蓄積しています。正直、インド、中国と言ったアジア諸国が勃興する中で米欧の相対的な地位の低下は避けられなかったが、パレスチナ問題でのダブスタぶりはさらに傷を深くするでしょう。

さて、米国の三大黒歴史といえば、先住民虐殺・アフリカ系(黒人)奴隷問題・核兵器使用です。事実を率直に申し上げる。中国もロシアも朝鮮も核兵器は持っているけど使ったことはございません。ところが、米国は二度も使っているのです。これは、動かせない事実です。

そうした中で、米国はG7広島サミットという機会になんとか、核兵器使用を黒歴史でなくそうとしている。具体的には米国側のきちんとした謝罪も反省もない形で広島にうやむやにしてもらうことです。

それなら、「核兵器使用なんてたいしたことなかった」ということにできます。広島市はG7広島サミットを前にしてはだしのゲンや第五福竜丸を削除しました。諸説あるが、G7広島サミットでお見えになるバイデン大統領のお目を汚さぬように、と見るのが素直な見方でしょう。

そして、広島サミット2023で、採択された「広島ビジョン」。結局、米国の核兵器保有を正当化するものでした。否、オバマ政権が一時期積極的だった核兵器の先制不使用すらない酷いものでした。しかし、米国側からいれば、米国にゴマをする宣言を広島で出させたことに意味があります。そうしておいて、サミット一年後の2024年5月にバイデンは核実験を行った(情報を漏らした)。完全に広島はバイデンに舐められています。

また、米国政府は、広島市に「パールハーバー記念公園」と平和記念公園の姉妹協定を申し込みました。松井市長は議会にも諮らずに突然、この協定を結ぶことを発表。エマニュエル駐日大使と締結しました。2024年度からは関連予算が執行されています。

米国政府は繰り返すが、ヒロシマ・ナガサキと言う原爆使用はまったく反省も謝罪もしていません。その状況で広島が米国政府と結んでしまうということは、米国政府の大きな外交的勝利です。すなわち、極論すれば、今後の核兵器使用について広島からお墨付きをもらった、ということです。

◆日本政府以上に米国忖度「HIROSHIMA」に変質する松井広島市政

そして、広島市は2024年の平和記念式典にイスラエルは呼ぶ一方で、ロシア・ベラルーシは2022年、23年同様、呼ばない。そしてイスラエルに侵略されているパレスチナは呼ばないという。

まさに、米国政府が大喜びの対応だ。日本政府ですら、いまや、パレスチナの国連加盟は支持している。先日、イスラエル人入植者=侵略者への経済制裁も決めた。広島市は、日本政府以上に米国に忖度している。

「米国忖度のHIROSHIMAへ」変質です。岸田総理でなければこういうことはなかったでしょう。広島でサミットを開かないからだ。安倍でも高市でもあり得ない展開だった。岸田総理と言うのは、米国側にとって大チャンスだったのです。そのチャンスをものの見事にものにしたのです。

逆に、広島で安倍晋三さんを支持していたような右寄りの方の中には原爆慰霊碑の解釈は『米国が謝罪する内容だと解釈すべきだ。日本人まで主語と言うのは自虐だ』という方も多くおられます。ただ、そういう方も松井市長が教育勅語を利用していることで、松井市長への批判を緩めている部分があります。松井市長は、米国忖度への右派からの批判を緩めるために教育勅語を使っている可能性もあります。

◆米国ら大国指導者の独善を自治体の横の連携で抑えるのが広島の役目

しかし、米国の独善が「対広島」で通ったように見えても、落とし穴が待ち構えています。それは 「核兵器を使用した米国すら広島に許されるなら俺たちだって核を持っても、軍拡をしても許されるだろう」という方向で、ロシアも中国も朝鮮もインドもパキスタンも、今渦中のイスラエルも、加速しかねないということです。

松井市長は市民社会、と言うことを良く強調される。それなら米国政府と結ぶのではなく、既存の平和首長会議を強化すれば良いだけだ。ホノルル市も平和首長会議に入っている。核兵器禁止条約推進で頑張っている。自治体同士のスクラムを強めて、国家の指導者に迫っていく。それが地方行政としての平和運動の王道です。いくら広島が世界の広島といえども、たかが一市長が単独で超大国米国をどうこうしようとしても利用されるだけです。

そして、繰り返しますが、松井市長は市民社会とおっしゃる割には、法的根拠もなく、平和記念式典に入場するときの手荷物検査、さらにはプラカードや幟の禁止区域を広げた。騒音が問題だと言いながら、いつのまにか、サイレントで平和を訴えることも禁止と言うことです。

◆アジア大会でのパレスチナ参加・一国一館運動はどこへ

さて、30年前の1994年、広島広域公園をメインに広島アジア大会が開催されました。いわゆる1993年のオスロ合意でパレスチナ和平が盛り上がったかに見える中で、パレスチナ代表も来られた。「これからはアジアの時代だ。」当時の平岡敬市長や藤田雄山知事もそういう雰囲気でした。

ところが、現在の松井一実市長は、どう見ても米国忖度の行動ばかりです。そして、湯崎英彦知事も、平和記念公園の原爆資料館の近くに「G7広島サミット記念館」を建設。ところがその作業中に被爆アオギリの根っこを切ってしまうという失態で、アオギリが衰弱しています。

米国忖度で広島の価値が暴落している現状を表しているようにも思えます。

◆米国の権威低下の中でいかに人権や環境を守っていくか

次期米国大統領にトランプがなろうがハリスがなろうが、米国の権威低下は避けられない。ハードランディングかソフトランディングかの違いはあるだろうが。広島は広島で米国の力低下を見通して、いかに人権や環境を守っていくか。そういう議論を発信していくべきです。

たしかに米国、とくに民主党は、人権とか環境を表面重んじてきましたが、他方で戦争しまくり、経済侵略しまくりでした。(トランプはアンチ・ポリコレの反面、戦争を新たに仕掛けることはなかった)。戦争こそ最大の人権侵害であり、環境破壊であることは論を待ちません。

とはいえ、米国の権威の低下により、とくに女性の人権、あるいは環境と言った価値が「米国の道連れ」で低下しかねない懸念はあるのも現実です。とくに、日本は米国に人権を与えられた、という神話(本当にそれが事実かは別問題。戦前から「虎に翼」に見られるように頑張っておられた先輩もたくさんいたのだが)が強い国です。米国の権威低下の中で、どう一人一人の権利を守っていくか、環境を守っていくか。そういう議論を発信していくことは大事です。

また、元日に大震災に見舞われた日本だけでなく、パレスチナの豪雨、中国の豪雨や米国のハリケーンなど、世界的に豪雨、熱波、そして地震や火山など自然災害が大きな犠牲を起こしています。そして、食料や水の安全保障に暗雲が垂れ込めています。そういう部分で世界が協力していき、信頼醸成を図っていくということが今緊急課題です。本当は戦争なんぞしている場合ではない。この10年で何度も豪雨被害に遭った都市でもあり、世界最初の被爆地でもある広島からそういった議論を展開していくことが重要ではないか?

しかし、残念ながら、広島市長は米国忖度で暴走。広島県知事も8.6の平和記念式典のあいさつは悪くはないものの、肝心の「本業」の県政で、産廃問題について放置プレイなど「平和」とは言えない状況がある。足元から広島の政治を市民、県民の手に取りもどしていく。その取り組みが必要ではないでしょうか?

まず、原爆ドーム前でFREE GAZAのスタンディングをされている団体が8月6日の夜、パレスチナ駐日大使をオンラインで招待しています。こちらにもお時間があえばご参加お願いします。

◆FREE GAZA RAVE
 8月6日 広島平和公園
 原爆ドーム 向かいの川岸
 19:30 start – 23:00 end
 #StopGenocide #freepalestine
 8月6日 19:30-20:00

FREE GAZA RAVEのオープニングにパレスチナ大使がエジプトからオンライン参加決定! スピーチと市民とのコミュニケーションを予定しています!19:30-20:00で市民集会をやりたいです!ご協力よろしくお願いします!

当面、筆者と広島瀬戸内新聞は署名運動に取り組むとともに、勉強会なども開催していきたいと考えています。

署名運動は以下です。筆者が個人で呼びかけています。

このオンライン署名に賛同をお願いします!「広島市長への要請:2024年の平和記念式典にパレスチナ国代表を招待してください」
https://chng.it/RFChMmQyFc @change_jpより

7月中に一度集約し、広島市長と議長に提出。その後も、来年以降のことがあるので、継続して取り組んでいきます。

勉強会としては以下を予定しています。

◆楾大樹先生「檻の中のライオン」講演会WITHお好み焼き

 

広島県前教育長の官製談合。兵庫県知事のパワハラ、おねだり。鹿児島県警本部長による不祥事隠ぺい疑惑。権力のある人による暴走のニュースが相次いでいます。こうしたことを防ぐにはどうすればいいのか?

権力のある人をライオンにたとえ、対処法を皆様に全国1000か所でお話ししてこられた弁護士の楾大樹先生。今回は、お住いの地元・祇園でお好み焼きを交えながら、楾大樹先生のお話をうかがいませんか? お待ちしております。

日時 8月31日(土)12時-15時
場所 鉄板焼き居酒屋じゅげむ 広島市安佐南区祇園2-2-2
料金 2500円(クリアファイル、お好み焼き、ウーロン茶付)

楾大樹先生の「檻の中のライオン」講演会を「じゅげむ」にて開催予定です。お好み焼き+ウーロン茶+クリアファイル付きです。お待ちしております!

ビールなども飲んでも構いませんが(笑)、それは別料金です。人数確認の必要があるため、お申し込みは8月27日(火)までに佐藤まで。
090-3171-4437 hiroseto2004@yahoo.co.jp

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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福島の小児甲状腺がん検査は本当に「過剰診断」なのか ── 《書評》高野徹他『福島の甲状腺検査と過剰診断』批判〈1〉 大今 歩

◆はじめに 甲状腺全摘4人、片側切除2人……

2022年1月27日、小泉純一郎、細川護熙、菅直人、鳩山由紀夫、村山富市の5人の元首相はEU(欧州連合)の欧州委員会が「(『脱炭素』のため)原発を環境に配慮した投資先」のリストに加えようとしている動きに対して、福島原発事故によって「多くの子どもたちが甲状腺がんに苦しんでいる」などを理由にこれに反対する書簡を送った。

この書簡に対して政府、自民党、福島県は5人の元首相に抗議・避難の文書を出した。例えば、山口壮環境相(当時)は、「福島県の子どもに放射線による健康被害が生じているという誤った差別や偏見を助長することが懸念されます」と指摘した(佐藤和雄『金曜日』2022年2月18日号)。小泉らの書簡は「風評被害を助長する」というのである。

書簡と同日(1月27日)、17歳~28歳の男女6人が福島原発事故のため、甲状腺がんに罹ったとして東電に損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした。訴えによると、原告のうち、2人は甲状腺の片側を切除。4人は再発によって甲状腺を全摘した(2022年1月28日付朝日新聞)。

5月26日、東京地裁で第1回口頭弁論が開かれ、原告が意見陳述を行った。原告Aさんは「この裁判を通じて、甲状腺がん患者に対する補償が実現することを願います」と締めくくった(松本徳子『人民新聞』2022年6月20日)。

小児甲状腺がんは通常100万人に1~2人程度の割合で見つかる稀少ながんである。ところが、人口約200万人の福島県では事故後、今日まで約300人に発見された。小児甲状腺がんは「風評(うわさ)」ではなく、福島の子どもたちを襲う現実に他ならない。原発事故を起こした国や東電の責任が問われねばならない。

「風評被害」の根拠は「過剰診断論」である。精密な検査により、治療の必要のないがんを多数見つけているため患者数が多いというものである。本書では5人の著者が「過剰診断」が福島の子どもたちに「被害」を及ぼしているとして、福島県による甲状腺検査の中止を求めている。本書の主張である「過剰診断論」について検討したい。

◆福島県における小児甲状腺がん検査

1986年、ソ連チェルノブイリ原発事故後、周辺地域の住民に小児甲状腺がんが多発した。IAEA(国際原子力機関)など国際機関とウクライナ、ロシア政府は事故と小児甲状腺がんとの関連を認めた。

これを受けて、2011年の福島原発事故後、福島県は事故当時18歳以下であった県民約38万人を対象に2年ごとの甲状腺検査を開始した。昨年からは5巡目の調査に入った。前述のようにこの調査によって約300人が甲状腺がんと診断されたのである。

◆本書の概要 「過剰診断論」「検査縮小論」の主張者・高野徹を中心に

 
高野徹・緑川早苗・大津留晶・菊池誠・児玉一八著『福島の甲状腺検査と過剰診断 子どもたちのために何ができるか』(あけび書房 2021年)

本書の主著者である高野徹は大阪大学講師で2017年11月、福島県民健康調査検討委員会(以下、検討委)及びその甲状腺検査評価部会(以下、評価部会)のメンバーとなった。高野を推薦した日本甲状腺学会は、かつて検討委の座長であった山下俊一が理事長を務めていた。山下は事故直後に福島県放射線健康リスク管理アドバイザーに就任し、「100ミリシーベルトまでなら全く心配はいりません」などの放言で知られる「被爆安全神話」の主唱者である。

高野徹は以後、評価部会や検討委において繰り返し「過剰診断論」や「検査縮小論」を強く主張してきた。

本書では高野を始め、緑川早苗(宮城学院女子大学教授)や大津留晶(長崎大学客員教授)など検討委のメンバーが「過剰診断論」を唱える。まず、本書の大きな流れを示したい。

①福島原発事故はチェルノブイリ原発事故に比べてヨウ素131の放出量は10分の1程度である。

②事故による被曝とがん多発の因果関係は考えにくいのに「過剰診断」によって小児甲状腺がんが多数見つかっている。

③小児甲状腺がんの性質は大人しく悪性化しないのに、がんと診断されて、子どもは進学・就職・結婚のハンディを持つため、検査は中止すべきである。
 次に順を追って「過剰診断論」について検討したい。

《1》福島原発事故によるヨウ素131の被曝量はチェルノブイリ事故に比べて低かったのか
 
本書は「福島第一原発事故によるヨウ素131の大気放出量はチェルノブイリ原発事故の放出量と比較して約10分の1程度であった」として「事故で放出された放射性物質によって健康影響が出ると考えられる量の放射線被曝はしていない」(児玉一八「はじめに」)とする。

しかし、初期被曝のデータは極めて少ない。2011年3月20日以降、国は甲状腺の被曝量の計測を実施したが、1080人というわずかな人数を計測したものに過ぎなかった。しかも限定的な検査は意図的なものだった可能性が高い(榊原崇仁『福島が沈黙した日』集英社新書)。

また「健康被害が出ると考えられる量の放射線被曝はしていない」のか。甲状腺がんが多く見つかっているベラルーシ・ゴメリの事故後1年間の平均実効線量は3.65ミリシーベルトだった(UNSCEAR報告書2008年版)。これに対し、福島事故のデータをまとめた同20年報告書によると、福島市の平均実効線量は5.3ミリシーベルト。郡山市は5.0ミリシーベルトだった(白石草『週刊金曜日』2021年3月26日号)。このようにゴメリよりも福島市や郡山市の方が線量が高いのである。健康影響が出ないと断定することに大いに疑問がある。(つづく)

本稿は『季節』2022年秋号(2022年9月11日発売号)掲載の同名記事を本通信用に再編集した全3回の連載記事です。

▼大今 歩(おおいま・あゆみ)
高校講師・農業。京都府福知山市在住

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格闘群雄伝〈38〉勝又厚男 ── 伝説の黒崎道場の厳しさと温かさを実感し、人生を戦う男 堀田春樹

◆黒崎道場への憧れ

勝又厚男(かつまたあつお/1961年3月12日、東京都武蔵野市出身)は、藤原敏男がまだ現役時代の活気ある名門・黒崎道場に入門。凄味ある先輩方に揉まれ、新格闘術バンタム級1位まで上昇。キックボクシング業界低迷期に差し掛かった時代で輝かしいタイトル歴は残せなかったが、藤原敏男、斎藤京二に続く黒崎道場第三の男と将来を有望視された存在だった。

 
まだまだ戦いです。勝又厚男氏も完全燃焼を目指す人生(2024年3月2日)

キックボクシングを始める切っ掛けは、テレビ各局で放送されブームとなったキックボクシングと黒崎道場の存在だった。

勝又厚男は「タイの一流選手のヒザ蹴り、廻し蹴りに芸術的な魅力を感じ、日本の選手でも錦利弘選手のローキック、沢村忠さんの飛びヒザ蹴りと魅せられ、中でも黒崎道場の大沢昇さん、藤原敏男さん達多くの選手は勝負に対する真剣さ、リング上での立ち振る舞い、一挙手一投足に他のジムの選手とは違う“何か”を感じました。」と語る。

1979年(昭和54年)3月、高校卒業も大学受験に失敗し浪人生活に入って1年近く経ったある日、テレビで観たキックボクサーの闘い様に心揺さぶられ、いても立ってもいられなくなって黒崎道場の門を叩いた。

ジムの門(扉)をノックして開けて初対面となったのはテレビで観た齋藤京二選手だった。嬉しさと緊張の中、入門手続きを済ませた翌日にも斎藤京二氏に声を掛けられ、
「キミ、試合出る気あるの?」と問われ、「ハイ、やってみたいです!」応えると、
「ちょっとこっちに来い!」と外の郵便受けを開けて、
「鍵はここにあるから明日から好きな時に来て好きなだけ練習やって帰る時に鍵を元の位置に戻しておくように。来月から月謝は要らない!」と言われてキョトンとしてしまったという。浪人として金欠だったので有難い待遇だった。

翌日から毎日練習に通い、半年先に入門して熱心に練習に励んでいた杉山という先輩とよく時間を合わせての練習だった。

当時の黒崎道場は一人練習もあったが、誰か試合が決まると厳しい先輩方との練習が多かった。

◆辛い戦い

入門して半年ほどの1980年9月28日にデビュー戦を迎え、花澤道場の選手に判定勝利。メインイベントは藤原敏男先輩の新格闘術世界ライト級タイトルマッチ。その前座に出場することが嬉しかったという。

ファイトマネーはマネージャーから3000円チケットを10枚渡され、売れた分の半額だったが、高校時代の仲の良かった友人に1枚タダであげたのみで残りの9枚は売ることなく手元に残ったままだった。

試合の数日後、一人で練習していると藤原敏男先輩が現われ、「オイ、半額をジムにバックしたか?」と聞かれ、正直に1枚友人にあげただけのことを話すと、「しょうがねえなあ!」と自分の財布から千円札を数枚「ホレッ!」と渡された。

ジムへのバックは免除。初のファイトマネーは3.000円だったが、金額よりも憧れの藤原先輩から貰ったことが嬉しくて、封筒に入れて大事にしまっておいたが、結局使ってしまったという。

黒崎健時先生とはデビュー以降に度々事務所に呼び出されるようになっていた。1年半くらいは氣構え心構えを聞かされたという。
「勝又、キックボクシングは難しいか?」
「押忍、難しいです!」
黒崎先生は怖い顔でニヤッと……「難しくなんかないんだ。試合でもそうだけどね。練習でも一旦始めたら真面目だなんていう範疇じゃないんだ。傍で見ていてコイツは気が狂っているんじゃないかと。こんな選手とは二度とやりたくない。今度やったら殺されてしまうんじゃないかと思わせないと駄目なんだ。狂気を持つ、狂ってしまえ!ってことなんだよ。何かを真剣にやるっていうことは!」

確かに大沢昇先輩をはじめ、黒崎道場の選手の試合に漂う“何か”はこんなところにあったんだと実感したという。

入門当時に一緒に練習していた杉山先輩はデビューから6戦ぐらいまで連勝街道を走っていた選手で、ミット打ち、マススパーリングとよく教えてくれたとても面倒見の良い先輩だったが、暫くして日本系の目黒ジムに移籍してしまい、何と杉山先輩との対戦が組まれてしまった。

「最近まで一緒に練習や指導してくれた杉山先輩。その試合は辛いものがありました。ジムの看板に懸けて負ける訳にはいかないと強く感じつつ、相手を睨み付けることなど出来ず、目倉めっぽうに思いっ切り拳を振り回し判定勝ち出来たものの、いろいろと教えて貰った人間と殴り合うことの辛さ。同じ階級の選手とは絶対に仲良くならないとこの時、胸に固く誓いました。」と語る。

◆育ての神様

デビューから3年目の1982年に入ると黒崎健時先生からはトレーニング法、技についてアドバイスを頂く。

腕立て伏せ二千回、スクワットは20分で千二百回、三点倒立二時間とか、スクワットは先輩方は一万回やっていたと聞いたので自身もやったというかなりのキツさ。

そのキツさを乗り越え、亜細亜プロ拳法フライ級チャンピオンの紅闘志也(士道館)との対戦が決まった。“紅闘志也”とは梶原一騎氏作の劇画主人公の名前だが、このリングネームの使用許可を求めて現在まで三人ぐらい居たという。

当時の紅闘志也は士道館が売り込んでいた存在感があったが、勝又厚男は第4ラウンドにパンチで初のノックアウト勝利を収めた。試合2週間前に同門の柳田光廣先輩が「必ずKOで勝たせてやる!」と後押し。柳田氏は妻子を親戚に預け、柳田先輩宅に寝泊り合宿で、パンチの打ち方を本格的に教えてくれた恩人でもあった。しかし、試合が終わって数日後、ジムに入った電話に「柳田先輩が交通事故で亡くなった!」と連絡が入った。

ショックでそのままロードワークへ、止まらない涙と共に夜の河原をどこまでも走り抜けたという。

「リングに上がったら自分のコーナーポストで、ブッ殺してやる!ブッ殺してやる!ブッ殺してやる!と3回念じろ!」と叩き込んでくれたのは柳田先輩だった。

紅闘志也に勝って新格闘術バンタム級の王座挑戦は近くなったが、定期興行は安定しない時代でタイトルマッチは実現しないままだった。

紅闘志也戦、黒崎健時代表、梶原一騎氏の顔も見える。レフェリーはウクリットさん(1982年)

同年9月12日には初のタイ遠征を前に、丹代進(早川/後の日本バンタム級Champ)と引分け。蹴りもパンチもタイミングをずらされ、ベテランのしぶとい蹴りに苦戦した。

タイ遠征前の1ケ月は黒崎先生の御自宅で合宿しリビング、外の公園で練習に励み、「小便チビるまで帰って来るな!」と言われ激しく練習してもチビるには至らなかった。

「簡単じゃないことを黒崎先生はよく解っていた。やはり黒崎先生のアドバイスが心に火をつけた千差万別の指導、選手育成の神様だったと思います。感謝の氣持ちが湧いて来ます。」と懐かしく語る。

小俣洋戦、セコンドは斎藤京二氏(1983年6月17日)
小俣洋に左ストレートヒット、レフェリーは島三雄さん(1983年6月17日)

1983年6月17日、藤原敏男引退興行では藤原氏を盛大に送る好カード勢揃いの第1試合で小俣洋(士道館)と対戦。パンチで圧しての判定勝利も、これが国内では最後の試合だった。2ヶ月後にはタイでの試合でシャヤプーンという選手に判定負けでこれが事実上ラストファイトとなった。勝又厚男も小俣洋も大学生で就職活動に入った時期であった。

戦績17戦12勝(3KO)3敗2分

◆人生のラストファイトへ

引退後、東洋大学を卒業し、大手通信会社で営業、設計なども携わったが、就職後は目的ある人生ではなかったという。

1997年に13年ぶりに黒崎健時先生と再会。戸田市の格闘技スクールに汗を流しに行き、藤原敏男氏とも再会。若手と一緒に汗を流す中、フッと目に留まったのは、13年前に使っていた自分の赤いネーム入りのメキシコ製16オンスグローブとヘッドギアがピカピカに磨かれて棚に置かれていたという。

「眺めていると思わず頬擦りするほど、13年も俺の使っていたグローブを道場に置いてくれていたのかと胸にジーンと来る熱いものがありました。」と語る。

その日、黒崎健時先生の書斎の書物を読み、日本はすっかりアメリカンナイズされ、経済以外、特に精神が衰退したことに黒崎先生は危惧されていたことも有って本を読み漁り、諸々のセミナーを受けたりと勉強する中、自身でもセミナー講師を目指し、1年半ほどかけて実現に至った。

その後も講師業を続ける中、2019年には年老いた父母とも入院してしまい、1年7ヶ月の看病、介護も及ばず両親とも他界。

ここから更に予期せぬ不運が起こった。母の告別式から1週間後、2021年8月7日、今度は勝又厚男氏自身が脳梗塞に罹り入院となった。

理学療法士から「車椅子生活を考えてくれ!」と言われても、左半身が麻痺してしまっても、一度たりとも精神が落ち込むことはなかったという。

講演会で自身の脳梗塞からの復活を語る勝又厚男氏(2024年3月2日)
リハビリテーションの一環、椅子を使ったトレーニングを再現(2024年3月2日)

「ここで寝たきりなんかに、ましてや死ぬ訳にはいかないと心の奥底から込み上げて来ました。回復して社会の役に立ちたい。国の為に命を燃やし尽くしたいと強く願いました。」と語る。

5ヶ月後に退院した現在までの2年半、当初の車椅子生活を考えるところから座れるようになり、立てるようになり、歩けるようになり、生活独立も出来て社会復帰。そして今回の脳梗塞から回復までの自身の体験談の講演や、多くの研修活動に力を注いでいる。

講演は日本の食物の危機、戦後の日本の在り方など、今後の日本が進む道などテーマは多い。この勝又厚男氏の講演模様はまた掲載したいと思います。

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
昭和のキックボクシングから業界に潜入。フリーランス・カメラマンとして『スポーツライフ』、『ナイタイ』、『実話ナックルズ』などにキックレポートを寄稿展開。タイではムエタイジム生活も経験し、その縁からタイ仏門にも一時出家。最近のモットーは「悔いの無い完全燃焼の終活」

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北國新聞社に対する「押し紙」の排除勧告、原文の全面公開 黒薮哲哉

新聞業界の「押し紙」問題の本質を考える上で欠くことのできない公文書の原文を公開しておこう。この文書は、公正取引委員会が1997年(平成9年)12月22日付けで、北國新聞に対して交付した「押し紙」の排除勧告書である。

この事件を契機として、公正取引委員会と日本新聞協会(新聞取引協議会)は、「押し紙」問題解決へむけた話し合いを始めた。そして約2年後の1999年に、独禁法の新聞特殊指定の改訂というかたちで決着した。

ところが不思議なことに改訂された新聞特殊指定は、「押し紙」問題の解決への道を開くどころが、逆に「押し紙」をより簡単に強要できる内容となっていた。実際、その後、「押し紙」率が50%を超えるケースが、「押し紙」裁判の中で判明するようになった。

本稿で紹介するのは、この問題(新聞業界の「1999年問題」)の発端となった公文書である。事件の概要については、下記のURLからアクセスできる。

■北國新聞に対する勧告書(全文)
http://www.kokusyo.jp/wp-content/uploads/2024/07/IMG_0001.pdf

■北國新聞社に対する勧告について(プレスリリース)
http://www.kokusyo.jp/wp-content/uploads/2024/07/IMG_0002.pdf


◎[参考動画]Collection of unopened bales of newspapers – possible oshigami

本稿は『メディア黒書掲載の記事を本通信用に再編集したものです。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu

黒薮哲哉『新聞と公権力の暗部 「押し紙」問題とメディアコントロール』(鹿砦社)
黒薮哲哉『禁煙ファシズム-横浜副流煙事件の記録』(鹿砦社)
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政府「エネルギー基本計画」における「原子力の位置付け」の嘘八百〈後編〉  立地妥当性や経済性を「対象外」とした規制基準 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)

◆環境適合性は最悪の原発

「環境(適合性)」については唯一「発電段階で二酸化炭素を出さない」この1点だけだ。

日本の発電所から排出される二酸化炭素は全放出量の4割程度である。

この4割のうち半分以上は石炭火力なので、これを全部廃止し、天然ガスまたは最近注目を浴びるアンモニア(混焼を含む)などを使えば、4分の1以下にできるという。火力の全部を原発にすることは不可能だが、石炭火力を全部天然ガスやアンモニアにすることは現在の技術でも十分可能だ。

二酸化炭素だけをとっても原発でなければならない理由はない。もちろん、再生可能エネルギーに置き換えることが最も重要だが。原子力の環境問題と言えば、もっと重大なもの、放射性物質(廃棄物を含む)による被ばくの問題は無視されている。

原発は運転中にも大量の放射性物質を海や大気に放出しており、例えば加圧水型軽水炉の玄海原発では10年間に約800兆ベクレルのトリチウムを放出してきた。これは福島第一原発で今問題となっている汚染水に含まれる量に匹敵している。ほかにもセシウムやヨウ素なども一定量を排出している。

さらに重大なのは、エネ基でも「推進する」とされている核燃料サイクルのうち「原発が1年で放出する放射能を1日で放出する」とされる再処理工場だ。

一般に、原発には「五重の壁」があり、放射性物質はそれに封じ込められているから人体や環境に影響を与えないと宣伝されている。再処理工場ではこの壁をことごとく取り去って使用済燃料を硝酸に溶かし、ウランやプルトニウムを取り出す。この工程で大量の放射性物質を海中や大気中に放出している。

事故が起きなくても再処理工場の沖合や周辺敷地にはヨウ素、セシウム、ストロンチウム、トリチウム、ルテニウム、コバルト、プルトニウム、ウランなどの放射性物質が蓄積している。これが環境汚染でなくて何であろうか。

さらに、福島第一原発事故のような大事故を起こせば、その何百倍もの取り返しのつかない環境汚染を引き起こし、回復には膨大な時間がかかる。これに対して責任を取れる会社などない。

国も責任を取れない(取らない)のは、現状を見れば明白だ。

◆安全性は誰も保証していない

「安全」については電事連は新規制基準をクリアしていれば安全と主張する。しかし規制委は「安全性を保障するものではない」と否定している。

この関係については、阿部知子議員(立憲民主党)による質問主意書(2014年10月7日)に対する答弁書が明らかにしている。

質問「なお、田中規制委員長が一貫して述べている『規制基準の適合性審査であって、安全だとは言わない』との表現と9月10日会見での『運転にあたり求めてきたレベルの安全性』との表現とは同じ『安全(性)』という語を用いているが、その意味するところは異なると思われる。それぞれの表現における『安全(性)』の定義と相互の関係を示されたい。」に対して、

答弁「御指摘の『規制基準の適合性審査であって、安全だとは言わない』という発言の趣旨は、『いわゆる安全神話に陥ることなく、最新の科学的知見に基づき、不断に向上させるべきものである旨を述べたもの』さらに、『運転にあたり求めてきたレベルの安全性』が確保されることが確認されたとは、規制委が九州電力から提出された川内原発の設置変更許可申請について、原子炉等規制法の設置変更許可基準に適合していることを確認したことを述べたものである。」としている。

これは閣議決定を経た文書であり、政府の公式見解だ。

「安全性の確保」には2つの意味がある。狭義には原子炉等規制法の求める基準を満たすこと。しかしこの基準は現在の知見や福島の経験に依拠しているので、新知見や新発見そして想定外の事態があれば未達成になる可能性は国も否定しない。

それに対して広義の安全性は、「不断の努力により向上させることで達成する」との考え方だ。

重要なのは「最新の科学的知見」が反映され、常に更新され続けて初めて、新知見や新発見を取り込んだ水準になるから、新規制基準適合性審査が常に安全性を担保するものではないことだ。

なぜならば、規制委以外に「更新されているかどうか」を判断する機関や組織がない。震災以前は、原子力安全委員会と原子力安全.保安院という組織がありダブルチェックする建前になっていたが、 今はそれさえなくなった。

新規制基準では、火山ガイドや基準地震動の見直しなどを適宜しているとされるが、安全を保証できるものではない。そもそも新規制基準で対象としているのは一定の自然災害と、従来の想定を超える過酷事故への対策(テロを含む特定重大事故)にとどまり、例えば立地地点の妥当性(地質、地盤、断層以外)や経済性は審査済として対象外にされている。

当然ながら経済性が悪化すれば安全対策の劣化にもつながるのだが、審査対象外だ。

唯一、日本原電の東海第二原発で「経理的基礎」が審査対象とされた。このため日本原電は東電、東北電に支援の意思を示す文書の提出を要請し、関西、中部、北陸を加えた5社で合計で3500億円が安全対策費用として資金支援されることになった。

規制委が問題にしたのは新規制基準で追加設置を余儀なくされた防潮堤などの津波対策費や特定重大事故等対処施設関連の費用だった。

これまでも日本原電に対して5社は年間約1000億円を設備維持費用として支払ってきた。しかしこれではまったく足りないため、東電に対しては電気料金の前払いとして支払いを求めている。これがなければ東海第二の再稼働はできない。

資金支援はいずれ清算される。一部は再稼働後の電気料金として充当されるが、原発が動かなければ債務不履行となり倒産する。日本原電の「経理的基礎」はきわめて脆弱だ。これでは安全の足を引っ張るのではとの危機感は、規制委にも電事連にもない。

◎山崎久隆 政府「エネルギー基本計画」における「原子力の位置付け」の嘘八百
〈前編〉原発を「準国産エネルギー」と呼ぶ欺瞞
〈後編〉立地妥当性や経済性を「対象外」とした新規制基準

本稿は『NO NUKES voice』(現『季節』)30号(2021年12月11日発売号)掲載の「『エネルギー基本計画』での『原子力の位置付け』とは」を本通信用に再編集した全2回の連載記事です。

▼山崎久隆(やまざき・ひさたか)
たんぽぽ舎共同代表。脱原発東電株主運動、東電株主代表訴訟に参加。共著に『核時代の神話と虚像』(2015年、明石書店)ほか多数。

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鹿砦社出版弾圧事件の張本人=岡田和生(旧アルゼ〔現ユニバーサル〕創業者)、 今度は巨額脱税発覚!   こういう輩に嵌められた悔しさと怒りを振り返れ! 鹿砦社代表 松岡利康

本日の朝日朝刊を見て驚いた。19年前に「名誉毀損」に名を借りて私を逮捕、鹿砦社に壊滅的打撃を与えた岡田和生が、今度は脱税! 

朝日新聞(大阪本社版)2024年7月24日朝刊

実は岡田は以前も脱税で有罪判決を受けている。1981年、当時の金で1億円。

その後、岡田(と、この会社アルゼ=現ユニバーサル)はアメリカに進出しゲーム機の製造、販売を行うに至る。しかし、アメリカでは、有罪判決を受けた者にライセンスは許可しないという法律がある。にもかかわらず、アルゼは、そのことを秘匿しライセンスを得て来ていた。

その公聴会の記録、そして脱税事件の判決文を取得し、われわれは公益目的、公共性のもとに、これらを暴露したのだった。これまでマスコミタブーでメディアはどこも触れなかったのである。

警察癒着企業アルゼを告発し弾圧の元になった4冊の本[4冊とも品切れ]

ライセンスを下し続けてきた米賭博規制局にも通告し、同局の係官は来日、われわれは弁護士立ち合いで面談に応じたのである。

危機感を持った岡田らは、事件を指揮し、のちに逮捕され失職する大坪弘道検事(当時、神戸地検特別刑事部長。のちに大阪地検特捜部長)らと組んでわれわれを嵌めたのだ! 

人を嵌めた者は、いつかは自らも嵌められることを実証した。”立派”な徒輩らに嵌められたものだ。地獄に堕ちろ! 

(松岡利康)

◎関連記事 松岡利康「名誉毀損」に名を借りた出版弾圧から19年 ─── 怒りを込めて振り返れ!(2024年7月12日デジタル鹿砦社通信)

【お知らせ】関係書籍として、一部品切れの本がありますが、『紙の爆弾2005年9月号』『パチンコ業界のアブナい実態』『パチンコ業界 タブーと闇の彼方』は僅かながら在庫あります。当時の雰囲気や弾圧の実態を知っていただきたく、ぜひご購読お願いいたします。
パチンコ業界のアブナい実態[在庫僅少 お早めに]
パチンコ業界 タブーと闇の彼方[在庫僅少 お早めに]

出版弾圧事件を記録した本、『パチンコ業界のアブナい実態』と、この続編『パチンコ業界 タブーと闇の彼方』
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ピョンヤンから感じる時代の風〈47〉 欧州での「右翼」進出をどう見るのか  赤木志郎

◆右翼の進出が台風の目

EU議会選挙でフランスをはじめ各国での右翼政党の大幅な進出が大きく取り上げられている。とくにフランスでは右翼の国民連合が第一党となり、危機意識をもったマクロン大統領は国民議会を解散し、総選挙を実施した。その結果、第一回目の選挙では国民連合が大きく票をのばし、決選投票でも国民連合が第1位となり過半数を占めるかどうかが焦点になった。国民連合が過半数を占めればマクロン大統領は国民連合党首に首相を指名しなければならず、混乱を避けることができない。ところが、第2位の左翼連合の「新人民戦線」と第3位の与党連合が組んだ結果、第1位は新人民戦線、第2位が与党連合で国民連合は第3位に後退した。左翼連合と与党連合の一人に候補者に絞る作戦が効を奏し、国民連合を封じ込めるのにかろうじて成功したのである。

それは一つの政治劇だった。しかし、政権を握っているマクロンの中道左派が孤立し、右翼の国民連合が支持率で第1党になっていることは変わらない。国民連合の目標は大統領選での勝利だ。

右翼の進出はフランスだけはない。右翼が政権を握っているのはイタリア、ハンガリー、連立で政権に参加しているオランダ、オーストリアなどがある。まずハンガリーでオルバン首相率いる右翼政党「フィデス」が、今回の欧州議会選と地方選の両方で勝利し議席数を増やした。ウクライナ支援に反対し、ロシアとの関係を維持している。

イタリアではメローニ首相率いる「イタリアの同胞」はEU議会選挙で得票率は29%に上り、2022年総選挙での同党の得票を上回った。オーストリアは、右翼の自由党がEU議会選挙で第1党を占め、秋の総選挙で首相になることを狙っている。オランダでも右翼政党が昨年11月の総選挙で第1党となり、連立政権を発足させた。ベルギーでもEU議会選挙と同時におこなわれた選挙で前首相が右翼政党に敗北し首相を辞任した。

ドイツでも今回の選挙で「ドイツのための選択肢(AfD)」は得票率15.9%で国内2位となり、ショルツ首相の「社会民主党」は同13.9%で3位だった。トップは同30%の保守政党「キリスト教民主同盟」だった。

EUから脱退したイギリスは、今回、下院総選挙を実施し、スナク前首相率いる保守党は惨敗し、労働党が大躍進し労働党政権が発足した。ところがここでもファラージ率いる新たな右翼政党「改革党」が移民阻止、環境規制反対など保守党の「イギリス第一主義」の頓挫にたいしその徹底化を主張し、2割の支持を受けており、支持率で政権を握っていた保守党をすでに凌駕している。

スウェーデンでは右翼政党の「民主党」が第2党となり閣外協力をおこなっている。

これらの右翼政党は一様に自国第一主義をかかげ自国の利益を守ることを優先させ、EUのウクライナ軍事支援、環境政策、移民政策などに反対し、ロシア、中国との関係を強めている。それゆえ、右翼の進出がEU支配の欧州を揺るがせる台風の目になっている。ハンガリーのオルバン首相はチェコ、オーストリア、フランスの国民連合と組み、EU議会で3番目に多い「欧州の愛国者」という会派を7月に発足させた。

では、右翼政党が反対するEUとは何か? 欧州各国とEUとの関係はどうなっているのだろうか。

◆グローバリズムの欧州版であるEU

欧州では各国の主権があり、政治もその枠内で各政治勢力が、たとえばフランスでは今回のように国民議会選挙でマクロン派、右翼の国民連合、左翼連合、共和党などが争いながら、一方でEU(ヨーロッパ連合)のもとに各国がありEU議会選挙に参加している。だから5年に一度のEU議会選挙があり、各国ごと大統領制や議会で首相を選ぶ制度など独自的な政治制度がある。

EUは半世紀をかけてECSC(ヨーロッパ石炭鉄鋼共同体1951年)、EEC(ヨーロッパ経済共同体1958年)、EC(ヨーロッパ共同体1978年)を経て1993年に発足した欧州における超国家機構・共同体だ。域内での市場の単一化、通貨の統合、人の自由な移動、物の自由な移動を実現し、域外からは共通の関税を課し、欧州の経済発展と平和をはかった。EUは機構としてEU議会(比例代表制)、EU理事会(各国の首脳・外相が参加)、そして行政的な指揮をおこなう欧州委員会がある。

EUは上で見たようにグローバリズム(国境を越えた地球統合主義)の欧州地域版である。EUはASEANやAU(アフリカ同盟)のような各国の主権の尊重にもとづいた地域組織ではない。各国はEU委員会の指示を受けて国内政策をおこない、各国の主権は3割しかないと言われている。EUは実質、ドイツとフランスが主導権を握り、欧州の支配層が握った政治機構だということができる。欧州各国は国があっても国の主権がない状態におかれた。関税や通商政策、漁業資源保護はすべてEU基準、エネルギー・環境政策などはEU法が優位。ここから、イギリス、ドイツなどが東欧諸国と移民の安い労働力を使い本国の労働者が雇用を失うという問題が起こったり、農業で欧州委員会の厳しい環境規制を受けて不満を呼び起こす問題などが不可避的に生じ、EUの指示に従うのではなく自国の実情、利益に合わせていこうとする自国第一主義がうまれるようになった。

数年前から各国でEU脱退の要求が起こり、EU本部があるブッリュセルのエリートにたいする激しい反発が生まれた。「渦巻くエリート支配にたいする嫌悪感」、ある新聞の欧州総局長はこう表現していた。今回のフランスでのEU議会選挙で国民連合が第1党に躍り出たとき、パルデラ国民連合党首は「これはブリュッセルに対するメッセージだ」と勝利宣言をした。ハンガリーのオルバン首相は「現在のブリュッセルのエリート層から得られるのは戦争・移民・停滞だけだ」と非難した。

とくにこの間、ウクライナ戦争の勃発を契機に、ウクライナにたいする軍事支援およびロシアにたいする制裁にともなうエネルギー価格、食料価格の高騰による生活難がEUにたいする反発と右翼進出に拍車をかけた。

EUは米軍から司令官をだすNATO(北太西洋条約機構)という軍事組織との密接な関係がある。NATOはアメリカの直接の覇権軍事機構だ。NATOはセルビアにたいする空爆、東欧諸国にたいする政権転覆であるオレンジ革命、イラク、アフガニスタンなどへの介入などアメリカの侵略策動に大きな役割をになってきた。EUは軍事的にNATOの軍事的基礎に築かれた欧州機構だということができる。だから、周辺諸国を経済的利害からEUに加盟させ、最終的にはNATOに加入させ、アメリカの勢力圏を拡大してきた。

今、ウクライナでの戦乱もウクライナをまずEUに加盟させ、つぎにNATOに加盟させようとするところからロシアとの摩擦、衝突が起きてきた。ロシアにとってはウクライナをめぐってアメリカ、NATO、欧州諸国の介入に反対し自国を守る戦いとなる。ロシアがウクライナにたいする軍事行動を起こしたとしてそれを侵略だといえない理由がここにある。NATOがアメリカの覇権のための欧州における軍事組織だとしたら、EUはアメリカの覇権のための政治組織であるといえよう。

EUがもたらしたもの、それは自国第一主義の欧州での台頭だということができる。

◆右翼か左翼かが問題ではなく、自国の主権を守るかどうかが根本問題

欧州で右翼か左翼かが問題にされている。フランスでの国民議会選挙で得票率2位の左翼連合と3位のマクロン派が組んで、決選投票で国民連合を1位から3位に転落させたのは、右翼に政権をとらせないという点で左翼連合とマクロン派が一致したからだ。

日本で進歩的学者として有名な森永卓郎氏が大竹まことのラジオ番組(文化放送)で、つぎのように述べている。「これがもう一つ気になっていることで、実は今日本だけではなくて、世界の先進国がみんな議会選挙で右派勢力が議席を伸ばしているんですよ。世の中が平和なときではないと左派勢力って勢力を維持できなくて。……

第一次世界大戦、第二次世界大戦が起こった原因もみんなが自分の国のことだけを考えるようになったというのが発端となっているわけですよね。だからこういう状態で少し刺激が加わると本当に戦争が起きかねないんですよね……」

果たして森永氏の言う「自分の国を考えることが戦争の原因だ」といえるだろうか。第一次大戦、第二次大戦すべて独占資本家が起こした植民地再分割戦争ではないだろうか。

今回、欧州で右翼が進出した直接の原因は、貧困化した大衆の不満をくみ上げたからだと言われている。貧困問題をとりあげたのが極右と極左といわれる政党だった。新自由主義のもと格差がいっそう広がる中で大衆にとって貧困が耐えがたいものとなっていた。それをウクライナ戦争と移民問題が拍車をかけたのである。従来の左派は中道左派を呼ばれ新自由主義に染まっていって大衆から孤立してしまった。

貧富の格差を拡大してきた根本要因は、EUやマクロンがすすめてきたグローバリズムと新自由主義政策にある。そのもとでフランスをはじめ各国は自分の国そのもの、そのアイデンティティまで失ってきた。パルデラ国民連合党首は集会で「フランスの消滅はすでにさまざまな地域で始まっています。私たちの文明は衰退してしまうかもしれません。……フランスを愛してください。私たちの仲間になってください。私たちと一緒にフランスを守り伝えていきましょう」と訴え、人々の心をとらえていた。

 
赤木志郎(あかぎ・しろう)さん

もちろん右翼の国民連合は、「不服従のフランス」党の最低賃金引き上げなどの政策を拒否しマクロン派に賛成し、パレスチナのハマスの蜂起を反ユダヤ主義として激しく非難するという問題点も有しているが、EUに反対し愛国心に訴え国を守ろうとする主張では正しいといえる。大衆の貧困化、ひいては国の消滅化の根源はEUのグローバリズムと新自由主義政策にあり、その解決の途も各国の主権をとりもどし、国の指導的役割を高めるところにあるはずだ。

フランスの国民連合など欧州の今日の右翼は、かつての右翼とは異なっている。それはEU脱退などのスローガンをおろしソフトなイメージ戦略で臨んだからだけではない。かつての右翼は愛国を掲げて侵略戦争の手先、体制側になったが、今日、愛国を掲げ、国を守れと主張することは反米、反グローバリズム、反体制派になる。それとは反対に国を否定し階級を掲げた左翼の多くがグローバリズムを支持し大衆から遊離していったのと対照的だ。フランスでは社会党がそうだった。

このことは日本の政治を考える上でも大きな示唆を与えているのではないだろうか。

たしかに右翼といえば宣伝カーで大衆の運動を妨害し、侵略戦争の反省を否定し、アメリカの従属に反対せず、体制側の手先の役割を果たしてきた。もし真に愛国をかかげるならば日本の自主独立のために闘っていかなければならないだろう。そのような右翼は日本では少ない。

現在、日本の支配層がアメリカの覇権主義との一体化を機軸に据え、日本という国をなくしていっているもとで、右翼が愛国をかかげるならば日本の自主独立のために闘い、左翼が格差に反対し階級をかかげるならば日米一体化に反対し闘うことだ。右翼か左翼かを区別する意味は久しくなくなっている。重要なのは、底辺の国民大衆の要求に応えるか、国民にとってもっとも重要な国の主権を守りその役割を高めていくかであると思う。そのスローガンは自国第一、国民第一だと思う。

▼赤木志郎(あかぎ・しろう)さん
大阪市立大学法学部中退。高校生の時は民青、大学生のときに社学同。70年赤軍派としてハイジャックで朝鮮に渡る。以来、平壌市に滞在。現在、「アジアの内の日本の会」会員

『抵抗と絶望の狭間 一九七一年から連合赤軍へ』(紙の爆弾 2021年12月号増刊)
『一九七〇年 端境期の時代』