◆『グレタ たったひとりのストライキ』という本

グレタはその後も気候運動を続けている。

私は最近、書店で『グレタ たったひとりのストライキ』(海と月社)という本を見つけて購入し読んだ。この本はグレタの母親であるマレーナ・エルンマンが、グレタが学校ストライキを始めるまでの背景と家庭環境などについて書いた伝記である。スウェーデンでは2018年に、日本では2019年に出版された。この本の226ページ以降には、学校ストライキを始めたグレタが両親と交わした会話が以下のように紹介されている(下線引用者)。 

グレタはカーペットの上に座っていた。……

「それから、原子力について話す人たち」と彼女は続ける。「あの人たちは、原子力のことしか話題にしない。気候危機や環境危機なんて存在しないかのように、原子力のことだけしゃべりたいの。だから事実を知らない。もっとも基本的なことについても耳にしたことがないんだって。ただ、「じゃあ、原子力についてどう考えるのか? 」って言いたいだけ。そして、未来社会の問題を全部自分の手で解決したかのような笑みを浮かべる。だけど恐ろしいのは、多くの政治家も同じってこと。内心では、原子力ではもう解決できないって知っているのに、同じことを繰り返してる」

「科学者はどう言っているの?」と私が聞くと、スヴァンテが答えた。

「IPCCは、原子力は大きな包括的解決策の小さな部分にはなりうると言っている。でも、エネルギー問題は再生可能エネルギーでしか解決できないとも言っている。どっちにしても、決定するのは科学者の仕事じゃない。気候研究の科学者たちは、政治や現実の条件を考慮しない原子力に置き換えるなら、明日にでも何千もの発電所が必要になる。だけど、原子力発電所は完成までに10~15年はかかる。そんな事実は反映されてないんだ」……

「そう、私たちには新たな非化石燃料が膨大に必要。それも、いますぐ」とグレタは言った。「いちばん安くて早いベストの代替手段に投資する必要がある。それなのに、どうして建設に10年もかかるものに投資しなくちゃいけないの? 太陽光や風力を利用した発電所なら数ヵ月で完成するのに、どうして、どの会社も投資したくないほど費用のかかるものに投資しなくちゃいけないの? 太陽光や風力ならずっと安いし、しかも分単位でコストが下がっている。全然リスクがないものがほかにあるのに、どうしてリスクが高いものに投資しなくちゃならないんだろう? 既存の核廃棄物の最終処分の問題だって解決してないのに。それに、すべての化石燃料を原子力に置き換えるとしたら、今日から毎日ひとつずつ原子力発電所を完成しなくちゃ間に合わない。建設に必要なエンジニアを教育するだけでも100年単位の年月が必要なのに。だから原子力は実現可能な代替手段じゃない。そんなことはとっくにわかってる。なのに、どうしてその話ばかりする人たちがいるの? 私、ほんとうに怖い。政治家って、こんなこともわからないほど馬鹿なの? それとも、時間を無駄にしたいの? どっちがひどいことなのかわからないけど」

「原子力の問題は、多くの人たちにとって、すごく大きなシンボルなんだろうね」とスヴァンテが言い、アイランドキッチンのスツールに座った。「もし気候の話をしたくないんだったら、原子力の話題を持ちだすことだ。そうすれば、そこで話が止まってしまうから。原子力は、気候問題の解決を遅らせたい人たちにとって最良の友だ。自分もそうだったから、よくわかるよ。原子力発電を続けることはいい解決策だと、僕も以前は考えていた。それを完全に閉鎖しろと主張する環境活動家たちに対し、なんて後ろ向きなんだとうんざりしていた。人類は常に問題解決できるんだと、僕は信じたかったんだと思う。これまでだって、どんな解決策だって見つけてきたじゃないかってね。だから、現状の社会秩序を変える必要もないし、行きたい場所に旅行に行けばいいって。こっそり憧れていたレンジローバーも買えるって」……

君は原子力を話題にするのを絶対に避けたほうがいい。人々が完全な解決策について話さないのは、それに興味がないからだろう。5年や10年前だったら、また違ったかもしれない。そのころには、原子力発電の拡大は解決策の一部だという気運がまだあった。でも、べつの危機が起こってしまった

◆グレタの原発観

私はこの本を読んで、グレタさんに手紙を書いた時の自分の認識が誤りであったことに気付かされた。両親との会話の中で、グレタは「全然リスクがないものがほかにあるのに、どうしてリスクが高いものに投資しなくちゃならないんだろう? 既存の核廃棄物の最終処分の問題だって解決してないのに。……だから原子力は実現可能な代替手段じゃない。……私、ほんとうに怖い。」と言っている。

グレタに手紙を書いた時私は、彼女が原発の危険性や害悪についての認識が不十分なために原発を容認するような発言をしているのだと思っていた。しかし、この会話からは、グレタは原発のリスクも害悪も充分認識していることがうかがえる。

しかし父親のスヴァンテは「君は原子力を話題にするのを絶対に避けたほうがいい」とアドバイスする。その後に続く「人々が完全な解決策について話さないのは」以降の父親の発言は、何度読んでも意味がわからない。

彼が「別の危機が起こってしまった」と言っているのはもしかしたら福島原発事故のことを指しているのかもしれない。だとしても、そのことをもってなぜ「原子力を話題にするのを絶対に避けたほうがいい」ということになるのだろうか? そして彼は「原子力発電を続けることはいい解決策だと、僕も以前は考えていた」と言いながら、その考えがどう変わったのかについては具体的に何も語っていないのである。

両親との会話の中でグレタは「それから、原子力について話す人たち……は、原子力のことしか話題にしない。気候危機や環境危機なんて存在しないかのように、原子力のことだけしゃべりたいの。」と言っている。ここでのグレタのコメントは事実に反している。

グレタがここで「原子力について話す人たち」と言う対象が原発反対派のことか推進派のことか、あるいは両者を指しているのかは明確ではない。いずれにしても、原発推進勢力は「気候危機や環境危機なんて存在しないかのように、原子力のことだけ」話してきたわけではない。彼らは地球温暖化が世界的な共通認識になった1980年代以降1貫して、CO2を排出しない原発は温暖化対策に有効であり、気候危機対策のためにこそ原発が必要だと主張し続けてきたのである。グレタはなぜか、その重要な事実をオミットしている。

この本の読者の多くは、グレタは原発に反対だという印象を持つだろう。確かにグレタはこの本の中で原発に批判的な発言をしている。しかしグレタが本当に原発に反対であるなら、日本の一部の環境団体のように「原発にも化石燃料にも反対」と唱えるべきなのだが、彼女は運動の中では原発への反対は1切主張せず、もっぱら化石燃料反対を訴え続けている。彼女は理由不明な父親のアドバイスに忠実に従っているのだ。

2021年9月24日、グレタはドイツに乗り込み、「ドイツは気候変動の最大の悪者の一人だ」と演説した。ここでのグレタには、福島原発事故の教訓に学び脱原発を決めたドイツ政府の功績など眼中にないかのようである。

◆原発の「救世主」となったグレタ

こうして、グレタ・トゥーンベリは原子力発電の「救世主」となった。2011年の福島原発事故によって深刻な打撃を受け息をひそめていた原発推進勢力は、グレタが火をつけた気候運動によって反転攻勢の足掛かりをつかんだ。

グラスゴーでのCOP26開催中の2021年11月9日、フランスのマクロン大統領は「他国に依存せず、温室効果ガスも排出しない電源を確保していくため」福島原発事故以来ストップしていた原発の新設を再開する方針を発表した。

2022年1月1日、欧州委員会はEUタクソノミーに原発を含める方針を打ち出し、7月6日の欧州議会で最終決定した。韓国では2022年5月に発足した尹錫悦政権が、前政権の脱原発政策を転換し、脱炭素推進のためと称して原発回帰にかじを切った。

岸田政権はGX(グリーントランスフォーメーション)を推進して脱炭素社会を実現するという名目で、2023年5月12日にGX推進法を、5月31日にGX脱炭素電源法を、それぞれ国会で可決・成立させた。すべて気候危機対策を謳った原発推進である。

グレタはそうした原発推進の動きに対して反対を表明しない。それどころか2022年10月、ドイツ公共放送ARDのインタビューで、気候保護のために原発は現時点でよい選択かと問われ、「それは場合による。すでに(原発が)稼働しているのであれば、それを停止して石炭に変えるのは間違いだと思う」(『毎日新聞』電子版2022年10月14日付)と答えたことが報じられた。

この発言は原発の積極推進を主張するものではない。しかし世界的な環境活動家グレタが気候危機対策に原発が有用だと改めて認めたことは、世界の原発推進勢力にとって絶大な激励のメッセージとなったはずだ。

2021年に私がグレタさんに1通目の手紙を書いてから2年近くが経つ。返事はまだ来ない。かつて自分自身が語った「原子力は実現可能な代替手段じゃない」という言葉とは真逆の方向に向かっている今の世界の状況を彼女はどう見ているのだろうか。あるいは、これは彼女自身の当初の目論見通りの結果なのだろうか? グレタの運動は、原子力を「実現可能な」代替手段として蘇らせる上で、大きな役割を果たしてきたように見える。

私は折りを見て、彼女に2通目の手紙を書きたいと思っている。「あなたが本当に地球環境を憂うるなら、原発廃絶のためにこそ運動してほしい」と。(完)

気候危機運動の旗手 グレタ・トゥーンベリさんへの手紙
〈前編〉彼女がダボス会議で行った演説内容への疑問
〈後編〉そして彼女は原子力発電の「救世主」となった

本稿は『季節』2023年秋号(2023年9月11日発売号)掲載の「グレタ・トゥーンベリさんへの手紙」を本通信用に再編集した全2回の連載記事です。

▼原田弘三(はらだ・こうぞう)
翻訳者。学生時代から環境問題に関心を持ち、環境・人権についての市民運動に参加し活動している。

『季節』2023年冬号

〈原発なき社会〉を求めて集う
不屈の〈脱原発〉季刊誌
『季節』2023年冬号通巻『NO NUKES voice』Vol.38
紙の爆弾2024年1月増刊
2023年12月11日発行 770円(本体700円)2024年の大転換〈脱原発〉が実る社会へ《グラビア》
「東海第二原発の再稼働を許さない」11・18首都圏大集会(編集部)
福島浪江「請戸川河口テントひろば」への道(石上健二)《インタビュー》小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
必要なことは資本主義的生産様式の廃止
エネルギー過剰消費社会を総点検する

《インタビュー》井戸謙一(元裁判官/弁護士)
「子ども脱被ばく裁判」と「311子ども甲状腺がん裁判」
法廷で明らかにされた「被ばく強制」 山下俊一証言のウソ

《報告》後藤政志(元東芝・原子力プラント設計技術者)
【検証】日本の原子力政策 何が間違っているのか〈1〉
無責任な「原発回帰」が孕む過酷事故の危険性

《報告》木原省治(「原発ごめんだ ヒロシマ市民の会」代表)
瀬戸内の海に「核のゴミ」はいらない
関電、中電が山口・上関町に長年仕掛けてきたまやかし

《報告》山崎隆敏(元越前市議)
関電「使用済燃料対策ロードマップ」の嘘八百 ── 自縄自縛の負の連鎖

《インタビュー》水戸喜世子(「子ども脱被ばく裁判の会」共同代表)
反原発を闘う水戸喜世子は、徹底した反権力、反差別の人であった
[手記]原発と人権侵害が息絶える日まで

《インタビュー》堀江みゆき(京都訴訟原告)
なぜ国と東電に賠償を求めるのか
原発事故避難者として、私が本人尋問に立つ理由

《報告》森松明希子(原発賠償関西訴訟原告団代表)
原発賠償関西訴訟 提訴から10年
本人調書を一部公開 ── 法廷で私は何を訴えたか?

《報告》平宮康広(元技術者)
放射能汚染水の海洋投棄に反対する理由〈前編〉

《報告》山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
「核のゴミ」をめぐる根本問題 日本で「地層処分」は不可能だ

《報告》原田弘三(翻訳者)
「気候危機」論の起源を検証する

《報告》三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
汚染水海洋放出に対する闘いとその展望

《報告》佐藤雅彦(ジャーナリスト/翻訳家)
フクシマ放射能汚染水の海洋廃棄をめぐる2つの話題
映画になった仏アレバ社のテロリズムと『トリチウムの危険性探究』報告書

《報告》板坂 剛(作家・舞踊家)
再び ジャニーズよ永遠なれと叫ぶ!

《報告》山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈22〉
甲山事件50年目を迎えるにあたり
誰にでも起きうる予期せぬ災禍にどう立ち向かうか〈上〉

再稼働阻止全国ネットワーク
岸田原発推進に全国各地で反撃中!
沸騰水型の再稼働NO! 島根2号、女川2号、東海第二
《東海第二》小張佐恵子(福島応援プロジェクト茨城事務局長/とめよう!東海第二原発首都圏連絡会世話人)
《福島》黒田節子(原発いらね!ふくしま女と仲間たち/「ひろば」共同代表)
《東京》柳田 真(たんぽぽ舎共同代表)
《浜岡原発》沖 基幸(浜岡原発を考える静岡ネットワーク)
《志賀原発》藤岡彰弘(命のネットワーク)
《関西電力》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
《島根原発》芦原康江(さよなら島根原発ネットワーク)
《中国電力》高島美登里(上関の自然を守る会共同代表)
《川内原発》向原祥隆(川内原発二〇年延長を問う県民投票の会事務局長)
《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)

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米国の外交政策を考えるときに、欠くことができない視点がある。それは全米民主主義基金(NED = National Endowment for Democracy)による世論形成のための工作である。

NEDは1983年に当時のロナルド・レーガン米国大統領が設立した基金で、ウエブサイトによると、「海外の民主主義を促進する」ことを目的としている。言葉を替えると、米国流の価値観で他国の人々を染め上げ、親米政権を誕生させることを目的に設立された基金である。そのための助成金を、外国のNGO、市民団体、それにメディアなどに提供してきた。「第2のCIA」とも言われている。

台湾政府とNED(全米民主主義基金)の面々。台湾のIT大臣・オードリー・タンの姿もある

NEDの活動の範囲は広く、毎年100カ国を超える国と地域のさまざまな組織に対して、2,000件を超える助成金を拠出している。NEDの財源は米国の国家予算から支出されるので、助成金の支出先、支出額、支出の目的は年次報告書で公開されている。従って年次報告書を見れば助成金の中身が判明する。(ただし、支出先の団体名までは追跡できない。)

2021年11月18日付けのキューバのプレンサ・ラティナ紙は、NEDによる助成金の特徴について、次のように述べている。

「米国民主主義基金(NED)が2021年2月23日に発表した昨年のキューバ向けプログラムに対して割り当てられた資金についての報告書によると、42のプロジェクトのうち、20がメディアやジャーナリストの活動に関連するものだった。割り当て額は、200万ドルを超えている」
 
NEDが採用したのは、キューバの左派政権を転覆させるための世論形成にメディアを動員する戦略だった。メディア向けのプロジェクトが全体の半数近くに及ぶ事実は、親米世論の形成が米国の外交戦略に組み込まれていることを示している。実は、この傾向は他の地域におけるNEDの活動でも変わらない。

台湾はNEDの活動が最も活発な自治体のひとつである。今年の1月に行われた総統選挙に焦点を合わせ、NEDと台湾政府の間でさまざまな工作が行われた。この点に言及する前に、助成金の支出先と金額をいくつか紹介しておこう。

◆世界各地で親米プロパガンダ

西側メディアは報じていないが、香港の雨傘運動のスポンサーはNEDであった。たとえば2020年度には204万ドルの助成金が、2021年度には43万ドルの助成金を支出している。日本の主要メディアは周庭を「民主主義の女神」と報じていたが、とんでもない話である。

また、中国の新疆ウイグル自治区と東トルキスタンの反政府運動を支援する団体に対しては、2021年度に258万ドルの助成金を提供している。「中国政府によるジェノサイド」というプロパガンダを拡散するための資金だった可能性が高い。

ちなみに少数民族に接近して、親米世論を形成する手口は、わたしが知る限りでは1980年代にはすでに始まっている。83年にNEDが結成されたちょうどそのころ、ニカラグアのサンディニスタ政権が、同国のカリブ海沿岸に住む少数民族・ミスキート族に迫害を加えているというニュースが盛んに流された。そしてサンディニスタ政権に異議をとなれる反政府ゲリラ・コントラが、ミスキート族の若者を軍に勧誘する事態が生まれた。

当時のNEDの年次報告書は確認できないが、最近の年次報告書では、ニカラグアの反政府組織向けの助成金も確認できる。たとえば2018年には約128万ドルが、2020年には157万ドルが支出されている。

ニカラグアでも香港の雨傘運動に類似した過激な「市民運動」が広がり、2018年にはクーデター未遂事件が起きた。ニカラグア政府が首謀者らを逮捕・投獄したところ、今度はニカラグア政府による「人権侵害」がニュースとして世界へ拡散された。

ベネズエラの反政府運動に対しても、NEDは助成金を支出している。2018年は201万ドルが、2020年には、323万ドルが提供された。

ロシアの反政府運動へも多額の助成金が支出されており、2021年の金額は約1,384万ドルである。この中には、もちろんメディア向けのものも含まれており、「反プーチン」の世論形成を意図した可能性が高い。

1979年7月のニカラグア革命。ニカラグアに反米政権が誕生した

◆だれが台湾海峡の火種なのか?

台湾の民進党とNEDは兄弟のように親密な関係にある。2019年、台湾の蔡英文総統は、NEDのカール・ジャーシュマン代表に景星勳章を贈った。これは台湾の発展に貢献した人物に授与されるステータスの髙い勲章である。2022年11月、NEDは台北で世界民主化運動第11回世界総会を開いた。さらに2023年7月には、蔡英文総統に対して、NEDは民主化功労章を贈った。同年、台湾のIT大臣オードリー・タンは、NEDの設立40周年に際して、ビデオでお祝いのメッセージを送った。

しかし、NEDは台湾に対しては、直接の助成金は支出していない。両者の関係は次のような構図になっている。

2002年、台湾外交部は台湾民主基金会(TFD)を設立した。「世界の民主主義ネットワークの強力なリンクになる」というのが、設立目的である。運営予算は台湾の国家予算から支出される。

その見返りとして、アメリカ政府は巨額の資金援助を台湾政府に直接与えている。例えば、日本の代表的な新聞である日経新聞によれば、アメリカ政府は2023年7月、台湾政府に3億4,500万ドルの軍事援助を行った。

1978年の米中共同声明の中で、米国は中華人民共和国が中国の唯一の合法政府であることを承認した。従って中国政府にとって、台湾におけるNEDの活動は内政干渉にほかならない。

中国は世論誘導などしなくても、台湾を統合する自信を持っていると推測される。と、いうのも経済的に台湾が中国に依存しているからだ。台湾の輸出の3割から4割は中国向けであり、多くの台湾人が中国本土で事業を展開している。経済関係が、そのほかの関係も決定づけるのは、自然の理である。

こうした状況に焦りを募らせるのが、台湾政府と米国なのである。

NEDから民主化功労章を授与された蔡英文総統

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu

黒薮哲哉『禁煙ファシズム-横浜副流煙事件の記録』(鹿砦社)

黒薮哲哉のタブーなき最新刊!『新聞と公権力の暗部 「押し紙」問題とメディアコントロール』

昨年3月7日の”黒船”襲来(つまり英公共放送BBCによるドキュメント放映)以来、わが国の芸能界のみならず社会全体が震撼させられている。言うまでもなく、これまでわが国芸能界を支配してきたジャニーズ帝国の崩壊である。これはその後、宝塚歌劇団の若き劇団員の自死、さらにダウンタウン松本による「性上納」問題へと拡がった。どれもまだ現在進行形で終わりが見えない。

 

『ジャニーズ帝国 60年の興亡』鹿砦社編集部=編

1995年、ジャニーズ事務所による理不尽な出版差し止めによって惹起されたスキャンダル暴露攻勢を始めた際には、まさかここまで来るとは想像だにしなかった。かつてベルリンの壁崩壊が東欧の民主化、そうして巨大なソ連崩壊へと繋がったことを想起する。何度も繰り返して言ってきたが、蟻が象を倒すこともありえ、また針の一穴がダムを崩壊させることもありえるということだ。

四半世紀余りも前からジャニー喜多川による未成年性虐待(当時の言葉で言えば「ホモ・セクハラ」)やジャニーズ事務所による理不尽な芸能界支配を批判、告発してきたわれわれとしては、やはりその〈集大成〉、あるいは〈総決算〉を行う必要がある。

しばらくは事態の推移を眺め、マスメディアからの取材協力要請に協力しつつも、途中からそれに違和感を覚え、『文春』よりも以前から立て続けにスキャンダル暴露に務めてきた立場は、これだけでも自負できることで、今夏から急遽集大成的な書籍をまとめる作業に集中した。

私は長年の不摂生が祟り目の疾患で編集実務が十分にできなくなり編集者としては役立たずになっているが、そうも言ってはおれず執念でことに当たった。

そうして世に送ったのが『ジャニーズ帝国60年の興亡』だ。A5判、2段組み、320ページの大部の本になった。東京新聞紙上で斉藤美奈子さんが「労作」と正当に評価してくれた。他にも幾つか正当に評価してくれた記事を見た。

『東京新聞』2023年11月22日付け

ところで、鹿砦社に対して斉藤美奈子さんにしても栗原裕一郎氏にしても「イエロージャーナリズム」といったイメージで見てきたようだ。2人ともみずからそう言っている。「イエロージャーナリズム」の対極に立派な本来の「ジャーナリズム」なるものがあるのかわからないが、立派な本来の「ジャーナリズム」がこれまでジャニー喜多川による未成年性虐待を放置し隠蔽してきたことに比べればマシだと思う。

また、栗原氏は「小出版社の孤独な奮闘が見直されることにもなった」と評価する一方で、「夥しく出版されたジャニーズ関連本にも怪しげなものが多い」とも詰る。これらジャニーズ関連本、とりわけスキャンダル系、告発系のものには直接私がすべてにわたり精魂込めて編集に関わったので、一冊たりとも「怪しげなもの」はないと自認する。

『週刊読書人』2024年1月5日号

思い返せば、ジャニーズ関連本にも、パチスロ界の雄・アルゼ(現ユニバーサルエンターテインメント)に対する本(4点)でも、さらに大学院生リンチ事件(しばき隊リンチ事件)に対する本(6点)でも、力を抜いたものはなく、生来鈍愚な田舎者である私は精魂込めて「奮闘」した。

その〈返り血〉は、決して小さくはなかった。逮捕・勾留(192日)もされ有罪判決も受けた(このことにより新規の銀行口座も作れなくなった。複数の金融機関を提訴し争ったがすべて敗訴)し巨額な賠償金も支払った。賠償金含め訴訟費用は1億円を越す。安全圏から、あれこれ講釈を垂れるのではなく、みずからが当事者となり身銭を切って「奮闘」してからものを言って欲しいものだ。

鹿砦社のアルゼ告発書籍

いわゆる「イエロージャーナリズム」には「イエロージャーナリズム」の意地がある。元々「芸能人にはプライバシーはない」とする私(たち)にとって、芸能人のプライバシーを時に侵害するのもやむをえない。芸能人たる者、みずからそういう職業を選んだのだから──。

最近、同世代の死が相次いでいる。齢72、もうわれわれの時代ではない。『ジャニーズ帝国60年の興亡』は、私の拙い出版人生の〈集大成〉の一つである。

今、まことしやかで、きれいな言論が増え、「怪しげな」「イエロージャーナリズム」はほとんど見当たらなくなった。そうした中で「孤独な奮闘」をするのもおつなものだ。われながら特異な出版人生だったな(苦笑)。

(松岡利康)

鹿砦社編集部編『ジャニーズ帝国 60年の興亡』A5判 320ページ 定価1980円(税込み)

【主な内容】
Ⅰ 苦境に立たされるジャニーズ
  2023年はジャニーズ帝国崩壊の歴史的一年となった!
  文春以前(1990年代後半)の鹿砦社のジャニーズ告発出版
  文春vsジャニーズ裁判の記録(当時の記事復刻)
 [資料 国会議事録]国会で論議されたジャニーズの児童虐待

Ⅱ ジャニーズ60年史 その誕生、栄華、そして……
1 ジャニーズ・フォーリーブス時代 1958-1978
2 たのきん・少年隊・光GENJI時代 1979-1992
3 SMAP時代前期 1993-2003
4 SMAP時代後期 2004-2008
5 嵐・SMAPツートップ時代 2009-2014
6 世代交代、そしてジュリー時代へ 2015-2019
7 揺らぎ始めたジャニーズ 2020-2023

◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/4846315290/

◆核兵器禁止条約発効から3年

2024年1月22日。核兵器禁止条約発効からちょうど3年になります。核兵器禁止条約は、市民運動が国際的にスクラムを組んで、国家を動かしてできた条約です。1月15日にサントメ・プリンシペが批准し、70か国が加わる条約となっています。

米露中英仏や印パ、朝鮮、イスラエルの核兵器保有国を市民の横のつながりで包囲していく。その先頭に立たなければならないのは、やはり広島です。最近の広島市の松井市長は、平和記念公園とパールハーバーの姉妹協定など、原爆投下の反省がいまだない米国政府に忖度する方向に走っています。

しかし、広島市がリードする平和首長会議には、ホノルルはじめ多くの米国など核保有国の自治体も参加しており、核兵器禁止条約を推進しています。こうした自治体やそこに住む市民の横のつながりを大事にしたいものです。

◆四国電力側は「爆睡モード」(?!)の弁護士も 原告本人最終尋問

その1月22日、広島地裁では筆者も原告である「伊方原発運転差止広島裁判」の原告本人最終尋問が行われました。

原告を代表して広島市在住の会社員・森本道人さんと福島県南相馬市から京都に避難中の福島敦子さんが出廷し、原告・被告双方の弁護士からの尋問を受ける予定でした。

しかし、実際には、原告側の弁護士による主尋問のみが行われました。その間、被告の四国電力側の弁護士の中には居眠りどころか爆睡モードではないかと疑われる状態の方もおられました。

そして、裁判長に「被告側、反対尋問はありませんか?」と聞かれると、原告側の主任弁護士が「ありません」と答え、あっさり、二人の最終尋問は終わりました。

◆広島市民/フクシマからの避難者 それぞれの立場で熱弁

被告弁護人の一部が爆睡モード(?)だからと言って、原告弁護士による尋問への回答という形での原告お二人の訴えに迫力がなかった、というわけではありません。それぞれの立場で熱弁を振るわれました。

森本道人さんは広島市在住。一部上場の大手化学会社の製造設備の技術者で、2011年3月11日には千葉県市原市で東日本大震災に遭遇しました。地震の翌日、広島に帰る新幹線の中でニュースのテロップで原発の爆発を知ります。そして、屋内退避指示などのニュースを見て「原発とは、放射線とは、恐ろしい、許しがたい」と思ったと振り返りました。

そして、その後、自分なりに勉強され、日本の放射線規制はICRP(国際放射線防護委員会)の勧告をもとにしていて、それは広島のABCC(現・放影研)の調査をもとにしていること、内部被ばくを過小評価していること、欧州放射線リスク委員会などからは見直しを勧告されていることなどを知りました。そして、経産省のエネルギー白書でも電気の消費量が下がり続けていること、使用済み核燃料の最終処分場も決まっていないことなどをあげ、伊方原発の停止を求めました。

福島敦子さんは2011年当時、原発から20kmの福島県南相馬市に在住。下水処理場の水質分析の仕事に従事していました。年収300万円くらいで正社員、職場環境は良好だったそうです。二人の娘は小学生で、福島さんの両親も歩いて15分の所に在住で、5人で仲良く生活していました。

しかし、3月11日に地震が発生。その日は、職場の片づけや、地震で壊れた下水処理場への対応などで帰れず、帰宅は12日の午前0時過ぎに。翌日も午前中は出社し、午後は自宅の片づけをしていたところ、突然、防災無線が鳴り、避難を呼びかけてきたのです。

しかし、屋内退避のほかはどこへ避難しろという指示も行政からはなく、そうした中で、車でその夜には娘二人と両親と5人でまず飯館村へ避難。しかし、飯館村へ向かう道は大渋滞で、同村の道の駅も長くとどまれる状況ではなく、押し出されるように川俣町の警察署へ移動し、そこの駐車場で一夜を過ごしたそうです。

そして、翌13日に福島市の飯坂温泉に避難。そこでは、「死ぬときは死ぬんだ」があいさつ代わりになっていたそうです。

ただ、なぜか、福島さんが避難していた福島市などは放射線量が高かったのです。のちに、SPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)で、福島第一原発から北西方向の飯館村―福島市に放射能が濃く飛び散ったことが明らかになったのですが、そんなことも知らずに、当時の福島さんたちは放射線が高い地域に長くいてしまったわけです。

その後、14日に3号機爆発、15日に4号機爆発、そして、19日に職場の元上司からプルトニウムが原発敷地外で発見されたことを聞いて、さらなる遠方避難を決断。京都へ移り、南相馬の会社は退職。京都府内で非正規公務員を経て、就活に苦戦しつつも契約社員として働くようになったのです。

両親とは別れ別れになってしまった。子どもたちも祖父母とは別れ別れになってしまいました。

現在、国は避難区域の人たちへの医療補助を削減しようとしています。また、福島さんが原告団長となっている京都での避難者訴訟では、国や東電は、なんと「賠償金を払いすぎたので返してほしい」ということまで言いだしたのです。

だが、現実には、現在でも現地では山火事が起きれば、放射線量が一挙に上がる状況もあります。福島さん自身も一度、南相馬に車で帰り、放射線量を測定し、福島市でも1mSV/年を余裕で超えてしまう場所もあることを確認したそうです。また、能登北陸大震災で北陸電力による志賀原発のトラブル隠しに対して、2011年の東電と同じことを繰り返している、と断罪しました。

二度と、自分と同じ思いをする人が出てほしくない。原告となった理由を福島さんはずばり述べられました。

広島の被爆者が、核兵器に反対するのと同じ理由です。

◆7月17日(水)、最終弁論へ

尋問終了後、大浜寿美裁判長は、原告・被告双方に、新たな主張は4月26日までに提出すること、7月1日を最終準備書面の期日とし、7月17日(水)を最終弁論とする、と言い渡しました。

◆「元日大震災」で破綻明白な地震想定・避難計画 見直し迫る判断を

さて、この間、1月1日には、M7.6の北陸能登「元日」大震災が発生しました。能登半島の広い範囲で地盤が4mも隆起しました。志賀原発の過酷事故は避けられたものの、復旧までに半年以上かかる大ダメージを受けました。能登半島ではもっとも壊滅的な被害が出た珠洲市にも2003年までは原発計画が存在していました。しかし、地元の住民の反対運動で撤回されました。

その原発予定地は、今回の大震災で孤立集落になっています。孤立集落が生じるということは、原子力防災計画も機能しないということです。福島の場合は、そうはいっても道路などは崩れていませんが、能登半島のように崩れていれば避難も出来ません。

また、原発が孤立すれば、震災で原発にダメージがあっても、電力会社の社員も応援に駆け付けられず、それこそ、フクシマを上回る事故になっていた可能性が高かった。

被害に遭われた地元の皆様には心からお見舞い申し上げるとともに、しかし、皆様が「珠洲原発」を阻止したことが、大げさではなく日本を救ったと言わざるを得ません。

今回の「元日」大震災では、3つ以上の向きも角度も異なる活断層が同時に動きました。今までは、向きや角度が異なる活断層が連動するということは国も想定していませんでした。

しかし、そうした地震が実際に起きてしまった以上、地震動についての基準も見直す必要があります。ひずみが近くに溜まれば、あまり注目されていない断層も動いて大地震を引き起こす。そもそも、日本列島自体が、地震で地形ができているようなものである。

当然、伊方原発についても、それは見直される必要があります。国に、伊方原発についても基準を見直すよう迫る判断を裁判所には求めます。

◎伊方原発運転差止広島裁判 https://saiban.hiroshima-net.org/

◎原発賠償訴訟京都原告団を支援する会 http://fukushimakyoto.namaste.jp/shien_kyoto/ 

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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◎広島瀬戸内新聞ニュース(社主:さとうしゅういち)https://hiroseto.exblog.jp/

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌 『季節』2023年冬号

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2024年2月号

広島市長、教育勅語引用の抗議に反論 『使い方とかけ離れた議論』」と1月19日付の朝日新聞の記事を目にした。

見出しだけではさっぱり意味が分からない。まさか「平和都市」を標榜する原爆被爆地の市長が、21世紀に「教育勅語」を真顔で持ち出すことなどはあるまい、とは思ったが時代が時代であるので、真相がわからない。広島市役所に電話をしてことの次第を聞いた。

◆広島市長は「温故知新」の解説例として「教育勅語」を利用した?

広島市の代表番号に電話をかけ、問い合わせ内容を伝えたら、教育委センターに繋がれた。

── お待たせしました。広島市研修センターのキョウゴクと申します。

鹿野 お邪魔します。市長が職員の研修に「教育勅語」を使っていると報道で知りました。事実でしょうか。

── はい。

鹿野 どのように「教育勅語」を使っているか、教えて頂けますか。

── 研修の中でということですかね。

鹿野 はい。

── 市長としましては職員研修の中で、市長が大事にされている考えがありまして、それが「温故知新」という考え方なんですけど。それでまあ、先輩が作り上げたものや良いものはしっかりと受け止めて、後輩に繋ぐことが重要であるということともに、一つの事象の中に「良い点と悪い点」が混在していることもあるので、全体を捉えて「良い」とか「悪い」を判断するのではなく、中身をよく見てから、多面的に物事を捉えることが重要です、ということを説明する中で、その中で、教育に関する一例として「教育勅語」を紹介している、と伺っております。

鹿野 ということは「温故知新」を解説される例として「教育勅語」を利用されているということでしょうか。

── ええ。

鹿野 引用されている「教育勅語」を市長はどのように解釈なされているのでしょうか。

── 解釈をしているというのは……。市長としましては、まず「教育勅語」そのものを評価する、ということではないんですけども。また研修の中ではですね、「教育勅語」自体は国会において排除などが決議されたもの、とは紹介はしているのですが、そういったものであったとしても自ら検証をすること、考えてみることを通じて「温故知新」を極めることに繋がるのではないか、と考えているのが市長の思いの一つではあるんですよ(注:太字は筆者)。

鹿野 「教育勅語」はそれほど長い文章ではありませんが、どの部分を「温故知新」と関係あると考えて引用なさっているのでしょうか。

── どの部分をということですかね? 新人研修で引用している部分ですけども、

「爾臣民父母ニ孝ニ兄弟ニ友ニ夫婦相和シ朋友相信シ
恭儉己レヲ持シ博愛衆ニ及ホシ學ヲ修メ業ヲ習ヒ
以テ智能ヲ啓發シ德器ヲ成就シ進テ公益ヲ廣メ……」

この部分を載せているという状況です。

鹿野 それは「温故知新」とは関係ない部分です。

── あ、あ、あ、貴重なご意見ありがとうございます。

鹿野 「爾臣民父母」からの部分は、父母に敬意をもって、兄弟仲良くして、という文章です。

── ええ。

鹿野 当該部分の言葉はそれ以外の解釈は出来ません。

── あ、ああ。貴重なご意見ありがとうございます。

鹿野 意見ではありません。日本語ですから。文字通りに理解すれば「温故知新」とはまったく関係がありません。

──  あの「教育勅語」自体を一例として取り上げるために、一部を抜粋してここに載せている、ということだと思うのですけども。

◆「良いものです」とか「悪いものです」と画一的にとらえて判断することではなくて……

鹿野 市長は「温故知新」を大切にしているので、それを説明する資料として「教育勅語」の一部を使っている。

──  いや、あのー、こちらがお伝えしたいのは「温故知新」の考え方が市長にとっては大切だということですけど、その中で一つの事象があった時に、その事象を、たとえば「良いものです」とか「悪いものです」と画一的にとらえて判断することではなくて、中身を自分の目で検証する行為。で、多面的に物事を考えることが重要だということを説明するということで、そういったことを受講者に伝えたいということで、例としてですね、一部抜粋という形ですが、全文を載せるということではなく抜粋して、「教育に関する勅語」を一例として紹介しているということです。

鹿野 市長は正しいかそうでないか「自分で検証しなさい」と研修対象者の方に語っている。

── ええ、そうですね。

鹿野 わたしは市長が語っていること(自分で検証する)を今しているのです。そもそも「温故知新」をどのように理解なさっていますか。

── 以前学んだことですとか過去、昔の事柄をもう一度調べ直したり、考え直すことによって、新しい道理とかそういった知識を深堀したり、とかですね、そういったことかなと思ううんですが。間違ってますでしょうか。

鹿野 「温故知新」四文字です。理解の幅はあるかもしれませんが、文字通り解釈をすれば、「故きを温ねて新しきを知る」との故事と解釈いたします。

── 文字通りの意味ということですね。

鹿野 「温故知新」を大切にしている市長が、先ほど聞いた部分を引用されたうえで、研修をなさっている。

── そうですね。講義をしているということです。

◆「教育勅語」は世界的に民主主義が勃興していている状況を、日本語にして民主主義を謳ったもの?

鹿野 引用された「教育勅語」が「温故知新」とどのように関連するのですか。

── どの部分が、ということですかね。

鹿野 引用されている箇所は「爾臣民父母ニ孝ニ兄弟……」ですね。

── ええ、ええ。

鹿野 この部分のどこにも「故きを温ねて新しきを知る」部分は見当たらないのではないですか。

── あ、ああ、そういうご理解をされているということですね。

鹿野 いえ、理解ではなく文言だけを読んでです。この部分をどう理解すれば「故きを温ねて新しきを知る」を見いだせるのか分からない。

── 「教育勅語」は戦争が終わった後に、日本人を戦争に持ち込んでいく、という表現が正しいかどうか、あれなんですけども。そういった中で「教育に対する勅語」が戦争が終わった後に、国会において排除等が決議された過去のものということ、を伝えてはいるんですけども。その中で「教育勅語」の言葉の一部を引用しているんですが、抜粋してあるものと、その上に英訳も書いてあるんですよ。実際の資料の中には。市長としましては英訳文とですね、幕末から明治期にかけて世界的に民主主義が勃興していく時代にかけて、「教育勅語」を日本語に訳して漢文調にしたと、説明をしているのですが。(注:太字は筆者)

鹿野 ということは、「教育勅語」は世界的に民主主義が勃興していている状況を日本語にして、民主主義を謳ったものだと、取りあげられていらっしゃるのですか。

── うーん、そういう……どういったらいいでしょうか。

鹿野 あなたのおっしゃったことを復唱しているだけです。

── あの……お伺いしたいいですけれども、よろしいですか?

鹿野 はい。

── あなた様の希望としましては現在「教育に関する勅語」を広島市において新規職員採用研修で一部を引用している、という状況があるのですが、その引用を止めてほしいということですか?

鹿野 いいえ。先ほど来申し上げている通り、お尋ねをしたくて電話しています。まったく意味が理解できない。だからわたしの疑問点をお尋ねしているだけです。

── 疑問を感じているということですか。

鹿野 わたしは、わからないのです。

── は、はあ。それは「教育に関する勅語」を一部引用している箇所が、「温故知新」に合う考え方ではないからわからないと。

鹿野 いいえ。「温故知新」を市長が大切にしていることも電話するまで知りませんでした。

── あ、あ、はい。繰り返しで申し訳ありませんが、あなた様がわからないと言われているのは、「教育勅語」を引用している部分について、なぜこの部分を引用していることが分からない、ということですか。

鹿野 先ほど仰った「教育勅語」は一度国会で排斥された歴史があること、及びわたしは「教育勅語」全文を暗記しております。その経緯を鑑みて「教育勅語」を、どのような意図で引用されどのような目的で研修でお使いになったか、それが知りたいのでお尋ねしています。

── 研修資料にそのように使っているとお伝えしました。

鹿野 はい。ただ市長が「温故知新」を大切にされているから、その資料にだと。

── はは、そこで「教育勅語」とどう繋がっているかが分からい、ということですか。

鹿野 そうです。

── (しばらく無言)

鹿野 いかがでしょうか。

(中略)

── この文(「教育勅語」)からは「温故知新」が読み取れないということですね。

鹿野 引用箇所として教えて頂いた部分に、日本語の解釈上「温故知新」に関わる文言はありません。

── こちらが引用している部分について「温故知新」に関わる部分はない?

鹿野 「こちら」ではなく、市長が引用しているのではないですか。

── ええ、そうです。(無言)

◆「教育勅語」の文章の全ての主語は「朕」ですから

鹿野 再度伺いますが「教育勅語」から引用している箇所に、「温故知新」と結びつく部分はありますか。

── 引用している部分が直接「温故知新」のものかどうかは解釈が、感じ方や捉え方はあると思うんですけど。「教育勅語」自体が過去に国会で排除等の決議がされたものであったとしても、それ自体をも自ら検証して考えるという行為が「温故知新」を極めてゆくことに繋がるんじゃないか、という思いを込めて説明をしていたんですけども(注:太字は筆者)。

ただ、引用箇所についてのご意見を今頂きましたので、それはこちらの職場の中でもでも共有はさせていただきたいと思います。

鹿野 はじめのお答えと違いますね。一度国会で排斥されたものであって、もう一度検証することによって「教育勅語」の正当性があると市長は考えていると。

── 自ら考えてみることが「温故知新」を極めることに繋がっているということで……・

鹿野 天皇の命令により人々を従わせた文言が、敗戦により国会で排斥された。「教育勅語」がです。その中にもう一度価値を見出せ、ということですね。

── いいえ「朕は」という部分は除いた部分で……(注:太字は筆者)。

鹿野 そのような解釈は無理です。この文章の全ての主語は「朕」ですから。

── ご意見ありがとうございます。

鹿野 意見ではありません。もう結構です。

※   ※   ※   ※

勅語(文部省より全国の諸学校に交付されたる教育に関する勅語)

まったく話にならない。「主語」の意味すら理解していない広島市役所の職員は、市長の行為にもかかわらず「教育勅語」を研修で用いることの正当性を、職務上の義務であるかのように、支離滅裂な回答を続けた。

まさか、とは思ったが広島市長は新人職員研修に、なんの躊躇もなく「教育勅語」を利用している。しかも調べてみると松井一実は広島市長に就任した翌年の2012年から昨年まで10年以上「教育勅語」を使い続けている。

わたしの問いに応じた教育センターの「キョウゴク」氏の言葉は、あたかも「教育勅語」の不当性を指摘することが不当であるかのように、不思議。不満気であった。キョウゴク氏の応対は新人職員研修が論理破綻した人間を創り上げることの証左と見るべきか。

「教育勅語」には評価すべき点などまったくない。なぜならば、本文でいくら美談が述べられようとも、この文章全体の主語が「朕(天皇)」だからである。天皇は私人や一般の公人、貴族とも違い、明治憲法上「不可侵」であり「神」扱いされていた存在だから(こんな基礎的な事実は繰り返す必要もないだろうが)天皇の発語は批判を許さない、絶対語だったのだ。

時代錯誤も甚だしい、皇国史観の片鱗(教育勅語)を平然と原爆を落とされた広島市長が使い続けるている。第二次世界大戦敗戦による「戦後」は、広島市においても広島市民みずからのの手(市長選挙)で蹂躙され、時代は既に「戦中」である。呆れてしまうが、呆れている場合か。

広島市長、松井一実が「教育勅語」を10年以上にわたり職員研修に利用している事実は、まず広島市民によって、最大級に指弾されなければならない。

◎[関連記事]これで「平和都市広島」を名乗れるのか? 新人研修に「教育勅語」を11年以上使用してきた松井一實市長にびっくり仰天!(さとうしゅういち)

▼鹿野健一 (しかの・けんいち)
1965年兵庫県西宮市生まれ。複数の企業と大学に勤務の後、現在はフリーライター。国際情勢・政治・教育・冤罪・原発などに関心を持つ。反原発季刊誌『季節』副編集長。単著『大暗黒時代の大学』(鹿砦社)。共著『オイこら!学校』(教育資料出版会)、『1970年端境期の時代』、『抵抗と絶望の狭間/1971年から連合赤軍へ』(鹿砦社)など。

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◆気候危機運動の旗手 グレタ・トゥーンベリの誕生

グレタ・トゥーンベリは、オペラ歌手のマレーナ・エルンマンと俳優スヴァンテ・トゥーンベリの長女として2003年1月3日ストックホルムで生まれた。2011年に気候変動について初めて知り、なぜ気候変動の対策がほとんど行われていないのか理解できなかったため、落ち込んで無気力になり、その後アスペルガー症候群と診断された。

2018年8月、15歳のグレタは「気候のための学校ストライキ」という看板を掲げて、より強い気候変動対策をスウェーデン議会の前で呼びかけを始めた。他の学生も自分のコミュニティで同様の抗議活動に参加し、「未来のための金曜日(Fridays for Future)」の名前で気候変動学校ストライキ(School Climate Strike)運動が組織された。グレタが2018年12月のCOP24で演説して以降、学生ストライキは世界各国に広がり、世界の若者の間に気候危機運動が大きな広がりを見せた。

◆「グレタ・トゥーンベリ 気候変動の最前線をゆく」というTV番組

私は2021年7月18日にBS朝日から放映された「グレタ・トゥーンベリ気候変動の最前線をゆく」という番組を視聴した。この番組はBS朝日のホームページで以下のように紹介されている。

「世界で最も影響力を持つ環境活動家、グレタ・トゥーンベリ。その力強いスピーチで、人々の心を動かしてきた彼女は、次のように打ち明けます。『私の声ではなく、科学に耳を傾けてほしい』。この番組は、18歳を迎えた彼女が、大学を休学して世界中を旅した1年間に密着。各地の国際会議に赴き、演説を行う舞台裏や、気候変動の実態に触れるため、世界中の様々な土地を訪ね、科学者たちと対話を重ねる姿を記録します。……英国BBCが制作した最新の2作を解説情報とともにお届けします。」

番組ではグレタが、①カナダ・ジャスパー国立公園、②カナダ・アサバスカ氷河、③アメリカ・カリフォルニア州パラダイス村、④スウェーデン・ヨックモック、⑤ポーランド・ベウハトゥフ石炭発電所、⑥スイス・ボンド村などの気候変動の現場を訪ね歩く姿が映し出されていた。

⑤ポーランド・ベウハトゥフ石炭発電所の場面についてBS朝日のHPでは「EU域内で最大の石炭発電所であり、最もCO2を排出している施設を訪ね、当事者と対話する。化石燃料からの脱却の難しさを学ぶ。」と紹介されている。

グレタはポーランドの火力発電所を視察し、それに続いて廃坑になった炭坑を訪れ元炭鉱労働者たちと交流する。炭坑の中でグレタは元炭鉱労働者たちに歓待され、「私たちはエネルギー転換のために職を失ったが、私たちはあなたの考えは正しいと思う。今後もぜひ頑張ってほしい」といった励ましの言葉を受ける様子が映し出される。

その後、その体験を踏まえてダボス会議(2020年1月21日)で演説し、以下のように言う。

「先週私は職を失ったポーランドの炭坑労働者の方々と会いました。彼らでさえ諦めていませんでした。むしろ変わらなければならないという事実をあなたたち以上に理解していました。」

私はこの発言に問題を感じた。なぜなら、グレタが訪れたポーランドでは再生エネルギーに加えて代替主力電源として原発の建設が進められており、将来的には代替電源の約5割を原発でまかなう予定になっているからである。その事実と考え合わせると、彼女の発言は代替電源としての原発の推進を擁護しているように聞こえる。

◆グレタ・トゥーンベリさんへの手紙

彼女の発言の背景には、原発の危険性や有害性の認識の不足があると考え、私は彼女に手紙を書くことにした。そして以下の手紙を英文で書いて2021年9月1日に送った。

 グレタ・トゥーンベリ様

 私は日本の東京に住む市民です。

 今回お手紙を差し上げたのは、最近日本で放映された、あなたの活動を紹介するテレビ番組を見て思うことがあったためです。番組の中であなたはポーランドの石炭火力発電所を視察し、続いて廃坑になった炭鉱を訪れ、元炭鉱労働者たちと交流されていました。そしてその体験をもとにダボス会議で演説し以下のように発言されました。「先週私は職を失ったポーランドの炭坑労働者の方々と会いました。彼らでさえ諦めていませんでした。むしろ変わらなければならないという事実をあなた達以上に理解していました。」私はあなたのこの発言に疑問を感じました。なぜならポーランドでは代替電力源として原発の建設が進められており、将来的には代替電源の約5割を原発でまかなう予定だと聞いているからです。その事実と考え合わせると、あなたの発言は代替電源としての原発の推進を擁護しているかのように聞こえてしまいます。

 ご存じのように、日本のフクシマでは2011年に深刻な原発事故が起きました。事故後、放射能汚染から逃れるため何万もの人々が避難生活を余儀なくされ、10年経った今もその多くが故郷に戻れないままなのです。私たち日本人の大多数は、もうあのような恐ろしい事故被害をもたらす原発は使用したくないと思っています。そして私はまた、他のどの国においても原発を推進してほしくないと思っています。なぜなら原発事故がひとたび起きれば、放射能汚染が国境を越えて広がるからです。1986年のチェルノブイリ事故の際そのような事態が起きたことをあなたもご存じのことと思います。

 私はあなたが、地球環境の向上のために勇気ある行動を続けてこられたことを知っています。しかし今私があなたに知っていただきたいと思うことは、日本に住む人々にとって環境への最大の脅威は原子力発電だということです。私は先日のテレビ番組の中であなたが世界各地の気候変動の現場を訪ねて歩く姿を拝見しました。私は、機会があればぜひあなたが日本に来てフクシマの現状を見ていただくことを希望します。そして、原発による環境破壊の実態を直接見ていただき、原発により苦難を味わっている多くの日本人の願いを感じ取っていただきたいと思います。

どうか、今後あなたが活動を進める際、深刻な環境破壊の実例であるフクシマを念頭に置いてください。そして、あなたの発言や行動が原子力発電の推進につながることがないよう配慮してください。そのことを私は日本の一市民として切に望みます。      敬具

(つづく)

本稿は『季節』2023年秋号(2023年9月11日発売号)掲載の「グレタ・トゥーンベリさんへの手紙」を本通信用に再編集した全2回の連載記事です。

▼原田弘三(はらだ・こうぞう)
翻訳者。学生時代から環境問題に関心を持ち、環境・人権についての市民運動に参加し活動している。

『季節』2023年冬号

〈原発なき社会〉を求めて集う
不屈の〈脱原発〉季刊誌
『季節』2023年冬号

通巻『NO NUKES voice』Vol.38
紙の爆弾2024年1月増刊
2023年12月11日発行 770円(本体700円)

2024年の大転換〈脱原発〉が実る社会へ

《グラビア》
「東海第二原発の再稼働を許さない」11・18首都圏大集会(編集部)
福島浪江「請戸川河口テントひろば」への道(石上健二)

《インタビュー》小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
必要なことは資本主義的生産様式の廃止
エネルギー過剰消費社会を総点検する

《インタビュー》井戸謙一(元裁判官/弁護士)
「子ども脱被ばく裁判」と「311子ども甲状腺がん裁判」
法廷で明らかにされた「被ばく強制」 山下俊一証言のウソ

《報告》後藤政志(元東芝・原子力プラント設計技術者)
【検証】日本の原子力政策 何が間違っているのか〈1〉
無責任な「原発回帰」が孕む過酷事故の危険性

《報告》木原省治(「原発ごめんだ ヒロシマ市民の会」代表)
瀬戸内の海に「核のゴミ」はいらない
関電、中電が山口・上関町に長年仕掛けてきたまやかし

《報告》山崎隆敏(元越前市議)
関電「使用済燃料対策ロードマップ」の嘘八百 ── 自縄自縛の負の連鎖 

《インタビュー》水戸喜世子(「子ども脱被ばく裁判の会」共同代表)
反原発を闘う水戸喜世子は、徹底した反権力、反差別の人であった
[手記]原発と人権侵害が息絶える日まで
       
《インタビュー》堀江みゆき(京都訴訟原告)
なぜ国と東電に賠償を求めるのか
原発事故避難者として、私が本人尋問に立つ理由

《報告》森松明希子(原発賠償関西訴訟原告団代表)
原発賠償関西訴訟 提訴から10年
本人調書を一部公開 ── 法廷で私は何を訴えたか?

《報告》平宮康広(元技術者)
放射能汚染水の海洋投棄に反対する理由〈前編〉

《報告》山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
「核のゴミ」をめぐる根本問題 日本で「地層処分」は不可能だ

《報告》原田弘三(翻訳者)
「気候危機」論の起源を検証する

《報告》三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
汚染水海洋放出に対する闘いとその展望

《報告》佐藤雅彦(ジャーナリスト/翻訳家)
フクシマ放射能汚染水の海洋廃棄をめぐる2つの話題
映画になった仏アレバ社のテロリズムと『トリチウムの危険性探究』報告書

《報告》板坂 剛(作家・舞踊家)
再び ジャニーズよ永遠なれと叫ぶ!

《報告》山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈22〉
甲山事件50年目を迎えるにあたり
誰にでも起きうる予期せぬ災禍にどう立ち向かうか〈上〉

再稼働阻止全国ネットワーク
岸田原発推進に全国各地で反撃中!
沸騰水型の再稼働NO! 島根2号、女川2号、東海第二
《東海第二》小張佐恵子(福島応援プロジェクト茨城事務局長/とめよう!東海第二原発首都圏連絡会世話人)
《福島》黒田節子(原発いらね!ふくしま女と仲間たち/「ひろば」共同代表)
《東京》柳田 真(たんぽぽ舎共同代表)
《浜岡原発》沖 基幸(浜岡原発を考える静岡ネットワーク)
《志賀原発》藤岡彰弘(命のネットワーク)
《関西電力》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
《島根原発》芦原康江(さよなら島根原発ネットワーク)
《中国電力》高島美登里(上関の自然を守る会共同代表)
《川内原発》向原祥隆(川内原発二〇年延長を問う県民投票の会事務局長)
《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)

反原発川柳(乱鬼龍 選)

書=龍一郎

龍一郎揮毫

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◆頭と頭がぶつかる原因

偶然を装うヘッドバッティングについては、「キックボクシング、勝ちたい一心の反則行為」でも少々触れましたが、プロボクシングでもキックボクシングでも起こり得る戦略でしょう。また、故意ではなくても試合早々、バッティングで試合が終了してしまう事態も多くありました。

杉山空の鼻が則武知宏にぶつかったバッティング(2022.10.29)

 

バッティングで瞼を切った杉山空はこの後、試合を止められた

その一例は1983年(昭和58年)7月10日のプロボクシング世界戦、渡嘉敷勝男vsルペ・マデラ、因縁の第3戦(渡嘉敷氏のV6防衛戦)では、偶然のバッティングでルペ・マデラが試合続行不可能に陥り、渡嘉敷勝男が第4ラウンド1分50秒、TKO負け裁定。当時は第3ラウンドまでの採点による判定(3ラウンド以内は負傷引分け)。期待された決着戦はあっけなく終了。こんな試合終了は選手当人や応援するファンとしても残念でならないでしょう。

プロボクシングでバッティングが起こる原因は、クラウチングスタイルが多い為、踏み込む足より頭が前に出る選手は、互いに打ち合いに行った際、頭同士がぶつかる場合が起こり得ると言われます。

キックボクシングでは蹴りに移る為、重心が後方に掛かりアップライトスタイルが普通。例えとして「パンチは頭をぶつけるように突っ込んで打て!」といった指導もあったようで、キックボクサーがボクシングを習って、パンチだけで頼っていくのは重心が前に掛かって、蹴りとパンチのコンビネーションブローが崩れると言う元・選手もいます。

◆切られる外傷より怖い眼窩底骨折

現在レフェリーを務める中山宏美氏は選手時代、偶然のバッティングで負傷。ドクターチェックで「相手が二人に見える」と言ったらレフェリーストップとなり、診察では眼窩底骨折が判明したと言います。

ドクターチェックにより杉山空は試合続行不可能へ、幸い負傷判定勝利

格闘群雄伝登場の赤土公彦氏は現役時代、蹴りに忠実なスタイルのせいか、「幸いバッティングの経験は無かったです。」という。しかし、20年以上前に弟さんがデビュー戦での第1ラウンドに偶然のバッティングが起こり、インターバル中、「相手が二重に見える」と言われ、「そんな強い攻撃を受けた感じもなかったので『気合いを入れろ!』と昭和チックな檄を飛ばしたのですが、試合後、検査をしたら眼窩底骨折という事で、すごく責任を感じた経験があります。」と語られました。

タイでの試合で、ある日本人選手のセコンド陣営の話では、「バッティングが起こった第3ラウンド終了後、選手がコーナーに戻って来た際に焦点が合っていない状態で『相手が二重に見える』と訴えるものの、会場のギャンブラーも陣営のタイ人トレーナーも異様に盛り上がっていて、試合を棄権させる判断が出来ませんでした。」という。幸い、視力は何事も無く徐々に回復したようでしたが、脳震盪や視界の異常はセコンド、トレーナーとしてどうすべきか、周りの盛り上がりに圧されず、危険なスポーツである認識を持って判断しないといけないと反省していた様子でした。

眼窩底骨折は眼窩の奥や底は薄い骨で、頬骨や目の周りの骨は丈夫でも、打撃の衝撃で眼窩壁が骨折し、眼球陥没等が起こる現象があります。ヒジで斬られる外傷と違って、リング上では選手が本音で「相手が二重に見える」等を言わない限り、レフェリーやドクターが目視では判断し難い状況でもあるでしょう。

初回早々、偶然のバッティングで倒れ行く花澤一成、ダメージ深く立ち上がれず負傷引分けとなった(2023.3.19)

 

この画像はバッティングではないが、傷が深い頭部の負傷は痛々しい (2023.5.21)

◆昔の選手は偶然のバッティングの経験が無い!?

昭和の選手ではバッティングで試合中断やTKOという経験が少なく、テレビ放映でも殆ど見なかった感じがします。

昭和のレジェンド達の話では、藤原敏男氏は「俺なんか意識的に頭から突っ込んで行ったよ!」という発言自体も過激ながら、試合もそういうアグレッシブな展開ではありました。

現レフェリーで、高橋宏(当時全日本フライ級チャンピオン/東金)とタイトルマッチ経験ある仲俊光氏は「現役時代、バッティングはあったかもしれないけど殆ど記憶に無く、“ちょっと頭当たったかな”ぐらい!」と言い、増沢潔氏も思い出せないほどバッティングの記憶が無い様子でした。

歳取って記憶力が衰えた訳ではなく、それほど過激な試合展開で、投げられて転ばされ、踏み付けられたり顔面蹴られたり、反則スレスレの何でもあり過ぎて、偶然のバッティングはよほどの衝撃か故意でない限り、印象に残らない様子の昭和の選手達。

少し時代が後の船木鷹虎氏は「バッティングは経験無いけど、斎藤京二さんに投げられて倒された際に顔面にヒジ落とされました。流れの中では何でもあった時代だけど、そういう事態に陥る方が悪いからね。相手より下になってはその場は負けです!」と懐かしく語られました。

 

流れの一瞬の中、接近戦での頭を押し付ける攻防。菊地拓人vs隼也JSK(2023.11.26)

◆テクニックの進化が原因!?

ムエタイの首相撲では両腕で首を掴み、頭をアゴに押し付けてロックするやるやり方はテクニックの一つですが、「意図的に頭部を使っているので厳密には反則」という意見がある一方、「戦略として頭を押し付けて行くのは有り」という意見もあります。

対首相撲のヒザ蹴り選手に対する戦法として、偶然を装うバッティングを教わった選手は頭部の使い方をしっかり伝授されているようで、ムエタイは反則スレスレの技まで奥が深いものです。

昔に比べ、バッティングで試合続行不可能になる展開が増えた近年は、ルールの徹底で負傷による早めのストップが掛かり易いこと、多彩なテクニックを学ぶ機会は増えたものの、タイ選手のように器用ではない等、ヒジ打ちや蹴りとのコンビネーションでのバランスの狂いがあるのかもしれません。

現在においては比較的背の高い選手はバッティングは起こり難いようです。階級的には長身だったNJKFの若武者役員、桜井洋平氏や若林直人氏もバッティングは経験が無いと言われました。

パンチでノックアウトされるよりダメージが深い場合もあるバッティングで、名勝負があっけなく終わることが極力無いように願いたいものです。今回のプロの意見も十人十色なので、ここでの意見は参考までに、一例として捉えてください。

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
昭和のキックボクシングから業界に潜入。フリーランス・カメラマンとして『スポーツライフ』、『ナイタイ』、『実話ナックルズ』などにキックレポートを寄稿展開。タイではムエタイジム生活も経験し、その縁からタイ仏門にも一時出家。最近のモットーは「悔いの無い完全燃焼の終活」

昨年12月24日、大阪ピースクラブで「冤罪と司法を考える集い」が開催された。そこでの井戸謙一弁護士のお話を全4回に分けて紹介する。

井戸謙一さん(ぴのさん撮影)

◆代用監獄問題

今、国際的に日本の刑事司法の何が批判されているかというと、「代用監獄問題」と、それから取り調べへの弁護士の立ち合い問題です。代用監獄問題というのは、ご存じの方もかなりおられるんじゃないかと思いますけど、本来は、被疑者を逮捕したら警察の手元に置いていてはいけない。拘置所に入れなければいけない。しかし今の日本では、98%ぐらいは警察の留置場に入れられるんです。

被疑者と弁護人、それから警察捜査側というのは対立当事者ですから、その一方の警察の手元、警察の留置場に被疑者を置いておくのは根本的に間違えてるわけです。そこでは、警察が自由にいつでも取り調べができる。カツ丼を食わしたりとか色んな利益供与も行える。そんな状況は嘘の自白の温床になるわけで、そんなことはしてはいけないというのが、国際的な常識なのです。しかし日本だけは、警察の留置場に置いている。どこに勾留するかというのは、裁判官が決める事だから裁判官がきちんと拘置所に勾留したらええやないかという話なんです。

しかし、これが実は難しい。なぜかというと警察は予算がついてるし、留置場の設備がとても良い。新しくて冷暖房完備です。それから警察の留置場はたくさんある。例えば私の事務所は滋賀県ですが、滋賀県でも警察署ごとに留置場はあります。

一方で、拘置所には予算がつかない。古い建物で設備が良くない。それから、場所が非常に限られている。今、滋賀県では、滋賀拘置所がJR琵琶湖線の石山から歩いて20分ぐらいの所に滋賀刑務所があって、その中に拘置所があります。彦根にも拘置所がありましたが、今は廃止されました、

最近では石山の拘置所も廃止されて、京都刑務所の方に移されるという話が出ています。そうすると、例えば長浜など滋賀北部の警察で逮捕されると、弁護士はそこの弁護士がつく。しかし毎日接見に行くとなると、長浜警察署の留置所に入れておいてくれたら長浜の弁護士は毎日接見に行けますが、石山とか京都に入れられるとそこまで行かなくてはいけなくて、なかなか弁護士はそんなに時間がとれない。

だから弁護士も警察の留置場を希望する。本人も設備が良いから警察の留置場を希望する。そういう中で裁判官が、いや法律上これはおかしいから拘置所に勾留するという事は中々できない、要するに単なる理屈だけではなくて、拘置所の設備にきちんと予算を入れなくてはいけないし、拘置所をたくさん作らないと、本来「被疑者は拘置所に入れる」という法律の原則が実現できないのです。そういう形で留置場へ入れざるをえないという状況が作られているのです。こうした事も社会的に批判していく必要があります。

◆弁護士の立ち合い問題

取り調べに弁護士が立ち会うというのも、今の日本ではほとんど実現していません。例えば西山美香さんのような供述弱者は、ある意味、自由に警察官の手の上でもてあそばれたような事になりましたが、こういう事を防ぐには、取り調べの時に弁護士が立ち会うしかないのです。これは日本では突飛な話と思うかもしれないけど、国際的には当たり前の話なんです。

今、国連人権理事会で日本政府に勧告されているのは、この代用監獄問題と弁護士の立ち合い問題で、これを改善する事を求められています。だけど、こういう事はメディアもほとんど伝えないし、ほとんどの方は知らないと思います。国際的な人権のレベルからすると非常に遅れているのです。

◆人質司法問題

それから人質司法問題、これは元日産のゴーンさんが逃げ出して、大きな問題、話題にはなりましたけど、(起訴内容を)認めないと裁判所は保釈しない。こんなに酷いことはないのです。

身柄が拘束される。要するに警察の留置場や拘置所から出れない。普通の市民がある日突然逮捕されてから、(留置場や拘置所から)もう出れないというのがどれほど大変な事なのか。会社もダメになるし、家族もばらばらになる。自分の人生がどうなるかわからないわけです。

その時に「認めたら、保釈がきくよ」と言われたら、取り敢えず認めて保釈で外へ出て、仕事の立て直しとか家族との修復などをして、裁判では真実を言ったら裁判官はわかってくれるだろうと思う。それはむしろ普通だと思うのですね。それでもやってない人が否認を続けることは本当に鉄の意志がないとできない。

多くはそう思って嘘の自白をして保釈してもらって、裁判であれは嘘でしたと、本当はやっていませんと言っても、裁判官は「いや、やっていない人間がやったなんて言うはずないだろう」という事で有罪判決をする。こういう形で冤罪がどんどん作り出されているわけです。

だからこの人質司法問題は非常に深刻な問題で、これについては私が刑事裁判をやっていた頃の感覚より、かなり裁判官は後退していると思います。本来、保釈するのが原則のはずなのですが、今は非常に保釈率が低くなっています。これも社会的な批判を強めていかなければいけない。

こうした刑事司法が抱える諸問題を法律家だけの問題意識に留めるのではなくて、広く社会一般の人が認識して、これを変えていかなくてはいけない。こうしたことを変えていかないと冤罪はなくならない、という認識を持つという事が大事です。そのために今の再審法改正運動、まず再審法改正実現するというのが当面の課題ですけれども、それとあわせて刑事司法全体の問題意識を広く社会一般のものにしていくという事が、日本の刑事司法をもう少し良くする。冤罪被害者をなくしていくために一番必要な事だと思っています。

その意味でも今回尾﨑さんが出された『日本の冤罪』は非常にわかりやすく、その事件ごとに尾﨑さんが「これが一番問題や?」と思った事を取り上げて説明してますから、非常に時宜を得た、そして問題意識を広めていく武器にするという意味でも、非常に有益な書物であるという風に思いますので、ぜひこれを皆さん、ご自身が読むだけではなくて、周りにも広めていっていただければと思います。

まあこういう形でまとめると今日の趣旨にぴったりと合うのではないかと思いますので(会場から笑い)、これで終わらせていただきます。ありがとうございました。(終わり)


◎[参考動画]冤罪と司法を考える集い(大国町ピースクラブ)/たぬき御膳のたぬキャス(2023.12.24)

◎井戸謙一《講演》「冤罪」はなぜ生まれるか 元裁判官の経験から
〈1〉80年代、刑事裁判の変質 
〈2〉青法協問題と日本会議 
〈3〉湖東記念病院事件の西山美香さんの場合 
〈4〉代用監獄、弁護士立ち合い、人質司法という問題 

 

◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/4846315304/

◎鹿砦社HP https://www.rokusaisha.com/kikan.php?bookid=000733

2024年も残念ながら、新年早々、広島県の湯崎英彦知事と広島市の松井市長の暴走が加速しています。

◆マリーナホップ取り壊し、後継施設は黒塗りだらけ文書公開

まず、湯崎英彦知事率いる広島県庁の暴走です。広島市西区観音新町のショッピングモールであるマリーナホップ。水族館など、こどもたちも楽しめる施設もあります。2005年3月に県有地を借りて開業しましたが、2025年の3月末で土地の賃貸借権が期限切れになるため、2024年12月1日で閉館する予定です。

そして、後継には、自動車用品事業などを手掛ける「トムス」などが、車をテーマにした体験型エンターテインメント施設を計画しています。

ところが、この計画について、中国新聞が情報公開請求したところ、なんと、71か所もの黒塗りがあったそうです。こういうのは、情報公開とは言わず、隠ぺいというのではないでしょうか?

黒塗り部分を公開すれば、トムスの企業秘密を暴露することになり、トムスに損害を与えるから、というのが理由です。しかし、そもそも、本事業も広島県民の財産である県有地を貸し出して行う事業です。持ち主である県民に対して何か隠すべきことがあるのでしょうか? 筆者も、県庁職員時代に、行政財産使用許可を担当したこともありました。きちんと情報公開請求されても良いように、起案をし、決裁をもらい許可を出す。これが当たり前のことです。

このマリホの後継事業については、2022年に公募を実施。当初はトムスとともに、広島トヨペットも手を上げていました。しかし、辞退しました。さらに、マツダも手を上げましたが、これも辞退。地元を代表する錚々たる企業が、辞退するという異常事態にあるのです。

何か、不都合なことを広島県、さらには湯崎英彦知事が隠したいのではないか? そういう疑惑が浮上します。

湯崎英彦知事は、2009年の初当選直後は例えば鞆の浦埋め立て架橋問題において、賛否両派の住民による対話集会を開き、最終的に山側トンネルに事業変更するなど、開かれた県政を目指す姿勢はありました。しかし、4期目に入った今は、県民に対して説明責任を果たさず、逃げ回る姿勢ばかりが目立ちます。筆者も2009年の県知事選挙では湯崎さんに投票しましたが、ガッカリです。

「マリーナホップは広島市内で子供連れで出かけられる数少ない娯楽施設の一つでした。小さな子が遊べる遊園地があり、できたばかりの素晴らしい水族館があります。そうした施設が簡単に壊されてしまうのはとても残念です。」と5人の子どもを持つ広島市内の女性は残念がりますが、湯崎知事はそうした声には耳を傾けません。

なお、筆者が繰り返し取り上げてきた三原本郷産廃処分場問題では進展がなく、汚染水垂れ流しが続いていることもご報告しておきます。

◆市長公舎跡地に新施設?! 迷走する中央図書館移転計画

 

市長公舎の正門。建物は佐々木禎子さんで有名な幟町中学校の建物

続いて広島市の松井一實市長も暴走ぶりでは引けを取りません。中央公園にある中央図書館を住民の声や議会の懸念も無視をして、広島駅前のエールエールA館への移転強行を突き進んでいます。それどころか、ここへきてさらに驚くべき「暴挙」に出ています。

中央図書館の中には広島の旧藩主・浅野家が作った浅野文庫があります。また、被爆作家を含めた広島文学関連の資料があります。それを、なんと、広島市中区の市長公舎を壊してその跡地に新施設を建設して移設するというのです。

要は、中央公園の現在地にある中央図書館の資料を、駅前のエールエール館(一般図書)と市長公舎跡地の新施設(浅野文庫と広島文学関連資料)にバラバラにしてしまうということです。

そもそも、中央図書館を現在地で建て替えずにエールエール館に移すというのは、コストが安いから、というのが大義名分でした。むろん、その大義名分でさえ、怪しいのです。なぜなら、エール館も1999年開館ですでに25年が経過しており、35年後にはまた建て替えることを考えると安いとは言えないからです。その上さらに、市長公舎跡地に新しい建物をつくるとなれば、コストはさらにかさみます。何のために、現在地から中央図書館を追い出したのか? これでは意味不明です。
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◆教育勅語使用は継続!

その松井市長。新入職員研修、新人課長研修で教育勅語は使い続ける、と開き直っておられます。もはや、教育勅語の時代である戦前の官尊民卑を続ける気満々ということです。

教育勅語には松井市長の言うような民主主義的なものではありません。プロイセン的な専制君主寄りの立憲君主制とセットで官尊民卑だった明治時代の文書です。市長が引用した「学を修める」とかのフレーズもそういう文脈です。

松井市長の理屈は、喩えるならば「ナチスにも良いことがあった論」にも似ています。しかし、そもそも大恐慌直後のあの時代のそれなりに経済政策に通じた為政者なら積極財政を取るのは当然です。

例えば、同時代には日本の政党政治家・高橋是清(インフレ傾向がみられたときには引き締めに転じようとしたため、2・26事件で陸軍の凶弾に斃れた)による財政出動、米国のフランクリン・ルーズベルト大統領によるニューディールなどもあります。ナチスの経済政策がことさらにそれらと比べてすぐれていると思えません。

◆知事・市長になめられない県民に!

ともかく、そんな湯崎英彦知事、松井一實市長の暴走は当然起きるべくして起きたと言えます。広島市民、広島県民もいい加減、市長や知事に舐められない市民、県民になるべきときではないでしょうか?

筆者は、私は東北や関東、四国、山陰、九州など全国各地で国政や地方選挙の応援に入らせていただいた経験があります。応援させていただいたのは市民派無所属の方が多いのですが、旧民主党や日本共産党、社民党と言った野党から維新系や自民党(ごく少数の女性限定だが)応援させていただいた経験もあります。

そこで経験した、他地域の政治文化と比較しても広島選出の岸田総理、湯崎知事、松井市長は市民、県民を舐めきっています。広島市民・県民も「平和」には関心が高くとも、足元の行政や政治腐敗に感心が薄かったのは否定できません。

ここらで、エライ人から広島を市民の手に取りもどさなければ、大変なことになる。新年早々の湯崎英彦県政、そして松井一實市政の暴走を見て改めてそう感じました。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
◎Twitter @hiroseto https://twitter.com/hiroseto?s=20
◎facebook https://www.facebook.com/satoh.shuichi
◎広島瀬戸内新聞ニュース(社主:さとうしゅういち)https://hiroseto.exblog.jp/

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2024年2月号

今年は辰年です。辰年には大きな事件が起きると言われています。76年のロッキード事件も88年のリクルート事件も辰年でした。

そして元旦には能登大震災が起きました。亡くなった方々に哀悼の意を表すると共に、一日も速い復興を願っています。

それにしても心痛むのは過疎化した能登の光景です。見捨てられ置き去りにされたような光景は能登ばかりではありません。こうした「冷たい政治」を何としても変えなければならない。その思いで、今回の寄稿をさせて頂きます。

◆「日米統合」の下、国民の財産が米国に売られている

この間、貴誌への投稿で、日米統合の問題を何回かに渡って述べてきた。それは、日本の財産、日本国民の財産を米国に売るものとして進んでいる。

先の投稿では、法廃止問題を取り上げ、国の財産、国民の財産である日本の通信インフラが米国に売られようとしていることを述べた。

その内容を再度確認すれば、NTT法は、「日本電信電話公社」を米国の要求に応じて民営化(株式会社化)する時に、電信電話事業の公共性を維持するために定めた法律であり、そのため、そこには「国による株式の3分ノ1保有」「外資規制」「総務省による経営計画や人事の承認」などの規定があること。したがって、これを撤廃しなければ、米国企業に売却することも売却後に、米国外資が自分の意のままに、これを経営することができない。だからNTT法を廃止するということだ。

NTT法には又、「固定電話をユニバーサルサービスとして全国一律に提供する」という規定があり、離島や過疎地でも低価格でサービスを保証することが義務化されている。

これが如何に大事なものであるかは、今回の能登大震災を見ても分かる。今回のような大災害では、固定電話によるサービスが多いに役立ったことは想像に難くない。 

しかしNTT法を廃止すれば、それもなくなる。その代わりに移動電話でサービスを保証するというが、経営権を握った米国企業がそうしたサービスを保証するとは思えない。

岸田内閣はこうした国民の貴重な財産までも米国に売ろうとしているばかりではなく、日本国民が保有する2000兆円もの金融資産をも米国に売ろうとしている。

昨年6月の骨太方針で岸田首相は、「資産運用立国」を掲げたが、12月13日には、それを具体化した「資産運用立国実現プラン」なるものを発表した。

それによれば、「日本のメガバンク3社や大手証券会社に運用力の向上と企業統治の改善に向けた計画の公表」を求め、「海外の資産運用会社が進出しやすいように英語で行政手続きができる『資産運用特区』を創設する」、「機関投資家に新興運用会社の活用を要請する」などとなっている。

この資産運用会社が米国の会社であることは、岸田首相がニューヨークで米国の金融関係者を前に「資産運用特区創設」とこれへの参入を要請したことを見ても明らかだ。

その具体化として岸田政権は、12月に220兆円もの世界最大の年金基金GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の運用会社を拡大するという方針も打ち出している。

そればかりではない。岸田政権は、国家予算の立案執行まで米国ファンドにやらせようとしている。

今、岸田政権は、様々な政策執行で「基金」方式を導入している。卓越大学創設の「教育基金」、原発維持の「GX推進基金」、「中小企業イノベーション創出推進基金」などなど、今や基金は50事業にもなるという。

昨年12月、岸田政権は関係省庁にその運営を広告大手、民間シンクタンク、人材派遣会社など民間企業に委ねる通達を出したが、その民間企業が米国外資系や米国の意を汲んだ企業であることは言うまでもない。

国家経営で最も重要な予算の立案執行の多くを米国外資が握るようになれば、日米統合は決定的に進み、日本は最早、国とは言えない「国」になってしまう。

◆米国外資による企業支配、そして経済のバブル化

岸田政権の「資産運用」政策で注目すべきは、「企業統治の改善」が強調されていることである。それは「企業は株主のもの」だとする米国式の「企業統治」を意味し、米国外資が日本の企業の経営に介入し、終局的には、その経営権を握るものとなる。

昨年1月から日本の株価が急上昇している。それを主導しているのは米国外資である。そして彼らは「物言う株主」として日本の企業の人事や経営にまで口を出すようになっている。

昨年5月からの株主総会シーズンに、彼らは、現経営陣の退陣要求と社外取り締まり役の導入を提案した。その多くは否決されたが、今年の株主総会では、その攻防がいっそう激しくなると予想されている。

米国は自国のファンドや資産運用会社を使って、日本企業を支配しようとしているのだ。

そして、そのために米国の「投資助言会社」までが動いている。彼らは、取り締まり役に女性がいるか、温暖化対策を進めているかなどを判断基準にして、米国ファンドの投資の助言をするという。その中には日本的な「株の相互持ち合い」解消の基準もある。

日本の「株の相互持ち合い」は元来、外部からの株式買い占めに対抗するための「日本式」対応策であった。米国は、これを解体しようとしているということだ。

米国外資は日本の企業支配を進めながら日本経済をバブル化している。

今年1月の連休明けの9日、東京証券市場ではバブル期1990年3月以来の最高値3万3763円を記録し、その後も高値を更新しつつある。まさに米国外資による日本経済のバブル化。しかし、それは30年前に破裂したバブル経済の再演であり破裂は必至だ。

確かに、2000兆円ものカネを注ぎ込めば、しばらくは、株式相場は活性化しバブル化するだろう。しかし、バブルは必ず破裂するのが経済法則であり、30数年前に現実に起こったことである。

その破綻後、米国が要求してきた構造改革、その新自由主義改革によって、「失われた30年」になり、格差拡大し、多くの地方が衰退し、国民の多くが貧困化に追いやられた。

これを又やるのか。米国外資は頃合を見て売り逃げする。残るのは紙屑なのであり、国民の生活に責任をもつべき政府がやることではないだろう。

◆根強い、抵抗勢力の存在

こうした政策に対して、日本の経済界、自民党内部にも強い抵抗があるのは当然である。

NTT法廃止の動きで甘利プロジェクトチームが最終報告でこれまで「25年まで」としたのを「25年をメドに」とし、来年8月の国会で「研究成果の公表義務」を撤廃するという一部改正、迂回案を提案したのも、自民党や総務省の中にある「抵抗勢力」の存在を念頭において、彼らとの衝突を避けながら、あくまでも廃止を実現するということだ。

この1月、トヨタは御三家と言われるトヨタ自動織機、アイシン、デンソーなど持ち株会社への出資を10%削減することを発表した。それは今後、株主総会などで「株の相互持ち合い」が問題視されることを見越した対応策であろう。

それは、他の日本の企業も分かっており、それぞれ対抗策を打ち立てている。それは、日本の企業の多くが「抵抗勢力」であることを示している。

こうした「抵抗」はクラウドをめぐっても起きている。

今日、デジタル化なくして社会の発展はないと言われる中、データを集積利用するクラウドは決定的に重要である。しかし日本のクラウドは、アマゾン、マイクロソフト、グーグル、オラクルなど米IT大手4社が70%のシェアを占めている。

岸田内閣は、各自治体にクラウド導入を25年までに行うよう通達を出したが、それに対し、地域の自治体から「重要な個人情報を他国企業のクラウドで保管する状態でいいのか」「サイバー攻撃やデータ流出時の対応に懸念がある」「米企業が撤退した場合、どうするのか」、又、米国の「クラウド法」との関係で、米国政府の要求があれば、クラウド企業はそのデータを政府に提出しなければならないということへの懸念の声があがった。

クラウドを巡って上がる懸念の声は地方にも「抵抗勢力」があることを示している。

◆米国の焦りと政界再編策動

「抵抗勢力」の存在、それは米中新冷戦の最前線に立たされることへの「抵抗」、「日米統合」への「抵抗」が根本にある。これまで私が述べてきた「抵抗」は、直近の岸田政権の政策に対する「抵抗」を私なりに示したものだが、それは自民党や企業、自治体にとって具体的で身近な切迫した「抵抗」となっているということだ。

そういう中で、米国は何としても「日米統合」をやり抜かねばならない。

何故か、それは米国の覇権回復戦略で日本の米国への統合が決定的だからだ。

米国は米中新冷戦を掲げ、日本をその最前線に立たせるために日米統合を進めているが、その肝心の米国覇権がますます弱化している。

イスラエルのガザでの虐殺蛮行を見て、世界では人権や法の支配を掲げながらイスラエルの蛮行を承認する米国、米国覇権への非難の声が高まっている。またウクライナでのゼレンスキー政権の敗勢も明らかになってきた。こうした中で、グローバルサウスを始め世界の多くの国々が非米・離米の姿勢を強め、それが時代の流れになってきているのだ。

この流れに日本が合流すれば、米国覇権は最終的に崩壊する。米国としては何としても日本を統合しなければならない。

その期限は25年。軍事費倍増も25年までであり、クラウド導入も25年、NTT法廃止も25年をメドに、である。

そのためには、日本の経済界、地方を後ろ盾にした自民党内の「抵抗勢力」を何とかしなくてはならない。

自民党の献金問題での地検特捜部の動きは、その反映ではないだろうか。

54年の「造船疑惑」を契機に「大悪を暴く」として発足した地検特捜部の背景に米国があることは政界では常識である。

それが岸田政権を瓦解させ自民党を解体させるかのような動きをしている。米国は「日米統合」に「抵抗」する勢力を排除し、「統合」を促進するための「政界再編」「政治改革」を狙っているのだと思う。

◆米国主導ではなく日本国民主導の政治改革、自主的な政権樹立を

米国主導の政界再編、政治改革ではなく、これと真っ向から対決し、日本のための、日本国民のための日本国民主導の政界再編、真の政治改革が求められている。それは単に岸田政権批判、自民党政治批判に止まるだけでなく、対米追随、米国覇権追随ではない日本の自主的な政権樹立を視野に入れた戦いでなければならないと思う。

米国が25年までに「日米統合」の基礎を固めようとするなら、24年は、それを見越した闘いの年にしなければならない。

その主体は主権者である日本国民である。

勿論、米国主導の「改革」に対し、経済界や自民党などにも根強い「抵抗勢力」があることは事実である。しかし、それは、あくまでも「抵抗」に過ぎない。だからこそ日本国民が主体になって、日本のための、日本国民のための「改革」を主導し、選挙を通じて自主的な政権を樹立しなければならないし、それが出来る時代だと思う。

それは米国覇権が失墜し世界の大部分の国々が離米・反米を模索し始めているという時代の流れに合致するものだからであり、日本人であれば誰もが、米国の下に統合され、国とはいえない国にされるようなことを望まないからだ。

 

魚本公博さん

その戦いは左右の違いを乗り越え、党派の違いを乗り越えた日本という国、民族という自らのアイデンティティをどう守るのかという戦いになる。

左右の垣根、党派の垣根を越え、たとえ自民党であっても、大企業であっても、日本というアイデンティティを基礎にして国民が変革主体になり、すべての抵抗勢力を合流させ、日本のための、日本国民のための政治を実現する。

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24年は辰年の中でも甲辰の年だそうだ。甲辰には暗きを暴き出すという意味があって、甲辰の年にはこれまでの悪が暴き出され変革が起きるのだとか。24年はそういう闘いの年になる。私たちも老骨の身だが、この闘いに少しでも寄与したいと思っている。

◎ピョンヤンから感じる時代の風 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=105

▼魚本公博(うおもと・きみひろ)さん
1948年、大分県別府市生まれ。1966年、関西大学入学。1968年にブントに属し学生運動に参加。ブント分裂後、赤軍派に属し、1970年よど号ハイジャック闘争で朝鮮に渡る。現在「アジアの内の日本の会」会員。HP「ようこそ、よど号日本人村」で情報発信中。

『一九七〇年 端境期の時代』

『抵抗と絶望の狭間~一九七一年から連合赤軍へ』

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