2015年日本の現実──日本に戦争がやってくる

1月7日発売の『紙の爆弾』で詳しく紹介されるが、本山美彦京都大学名誉教授に「アベノミクス」を中心にお話を伺った。大学で長く教壇に立った方には独特な語り口がある。とりわけ自由な学風の大学で文科系の学生を育ててこられた先生方には共通する「語り口の優雅さ」を感じる。本山先生も語り口はそのように穏やかではあったけれども、語られた内容は極めてショッキングな内容だった。私のような知識の浅い者にもわかり易くなおかつ「許しがたい」、「憤慨ものだ」、「金につられる経済学者が多すぎる」と熱く語っていただいた。是非『紙の爆弾』2月号を拝読されたい。

◆どうして原発が爆発しても日本はまだ原発を続けるのか?

本山先生をはじめ、この2年ほどその世界で最先端の方々のお話を伺う中で、共通していることがある。外国の方々は「どうして原発が爆発しても日本はまだ原発を続けるのか。そしてどうしてアメリカの尻馬にのって戦争をしたがるのか」と異口同音に仰る。日本の方々は「もうすぐ『憲法改正』となるだろう。そして遠くない将来、日本は戦争に巻き込まれるだろう」と暗い顔でつぶやいていた。

“Twitter”というSNSがある。私は当初よりその語感が気持ち悪かった。なぜに「つぶや」かなければならないのか。だれに「つぶやき」を聞いてほしいというのか。140字余りでまとまった考えなど述べられるはずはないではないかと訝っていた。「つぶやく」とは大声で主張をすることではない。だから”Twitter”の機能を日本語で正確に訳せば「つぶやく」は不適当だ。

◆米国の戦争に巻き込まれる日本

話がそれたが、「戦争に巻きこまれるだろう」と語っていただいた方々はいずれも65歳以上の方々で、大声を張り上げたり、「俺の言うことを聞け!」という姿勢の方は一人もいなかった。むしろ残念至極、己の恥でも語るように苦渋の表情で私に目を合わせず語られる方が多かった。

「何を大げさな」と訝る方々も少なくなかろうが、私も「戦争」は遠くないと思う。

だから、順番が逆のようではあるが遠くない将来、戦争に巻き込まれる若い世代に、あらかじめお詫びしておこうと思う。

「本当に申し分けない。私たちの世代の怠慢のために、君たちに迷惑をかけてしまった。許してくれなどと言うつもりはない」

こんなしみったれた話、20年前には多くの人が、確定しない「未来の可能性」としてのみ語っていた。残念ながら今日、それを語るのは各学問分野の良心的最先頭に立つ方々であり、情報に敏感な市民たちだ。皆さん「戦争が来るぞ!」と大声で語るわけではない。それこそ、こんな話などしたくはなかったとつぶやくように。

断言する。戦争がやってくる。

正確に言えばもう戦争は始まっている。ウジウジ細かい議論を避けるなら、自衛隊をイラク派兵した時から(戦死した自衛官は出なかったけれども、帰国後自殺した自衛官の数は相当数に上るという)戦争への参加は明確に始まっている。21世紀、日本の戦争、始まってもすぐに日本国土が爆撃を受けたり、原爆が落とされたりという姿では進まないだろう。たぶん自衛隊が日本から距離のある地域(中東やアフリカ)に派兵され、そこで戦死者が出ることから国民総動員が完成されるだろう。

イラク派兵時に日本の自衛隊を守るオランダ軍に攻撃があった際は「駆けつけ警備という形で戦闘を行いたかった」と自衛隊の隊長であった髭を生やした現自民党国会議員は堂々と述べていたではないか。イラクに自衛隊を派兵した政府の狙いは「駆けつけ」ではなく「巻き込まれ」によって「戦死者」の実績を作りたかったのではないか。そしてその戦死者を靖国神社に祀りたかったのだ。

◆日本は米国の戦争に一度も反対をしたことはない

カンボジアにPKOを派遣して以来、自衛隊は気が付けば地球の裏まで毎年出かけていっている。軍事行動をするのではない(できない)のだから民生部門の支援(道路建設やインフラ整備)が主たる任務だ。ならば軍隊まがいの自衛隊ではなく民間企業に委託してODAとして行えばいいものを、政府は一貫して自衛隊、海外派兵にこだわってきた。そして「集団的自衛権」である。

「集団的自衛権」は日本が攻撃されなくても、「アメリカが戦争をすればついていかなければならない軍事同盟」と理解すればよい。政府はあれこれ事例を挙げて「この条件が満たされた時だけ」とか「ますます平和になる」など赤ん坊でも呆れるような嘘を平気でつきまくっているが、要はそういうことである。アメリカ合州国という国は建国以来200回以上にわたる海外派兵を行い、(9・11を除き)一度も本土が戦場になったことのない国だ。また、戦争を反省(ブッシュがイラク戦争における「大量破壊兵器はなかったので攻撃は間違っていた」)まがいのことをしたことはあっても、金輪際謝罪や補償をしたことのない国である。その国の戦争(外国攻撃)に日本は一度も反対をしたことはない。

◆WWⅡ時に匹敵する総量の爆弾を小国アフガニスタンに投下する米国

アメリカは毎年のように戦争をする。戦争と呼ぶのが相応しいかどうか微妙だが、現在もシリアに爆撃を行っている。常にイスラム革命後のイランを睨み、フセインを傭兵として育成したけども言うことを聞かなくなったので、殺してしまった。今でもイランを睨み、パレスチナを潰そうとしている。

アフガニスタンの政府の国家予算は年間205億円だ。1ドル110円で換算すると2兆2550万円。日本の国家予算の約50分の1。そんな国に第二次世界大戦中に投じた爆弾の総量に近い爆弾を投下して「戦争に勝った!」と喜んでいるのがアメリカ合州国である。最近はあまり見かけなくなったが、街で言いがかりをつけてくる「ゴロツキ」のような振る舞いををして戦争を行うのが彼の国だ。

繰り返すが、不可逆的に日本は必ず戦争に巻きこまれる。お子さんが、お孫さんが、お知り合いが心配な方は対策を準備したほうがいい。

とても残念ではあるが私たちの生きている2015年とはそういう時代だのだ。そう、つい最近日本を襲った台風並みの寒波のように。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ

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国松警察庁長官狙撃事件発生20年、今年こそ「真犯人」の悲願は叶うか

新年を迎えると、誰もが心を新たに今年の目標や誓いを立てる。志望校への合格、就活の成功、結婚、妊娠、商売繁盛、禁煙、ダイエット……。定める目標、誓いは人それぞれだろうが、おそらくは人生で残された時間が短いという意識が強い人ほど、定めた目標や誓いを実現したい思いは強いのではないだろうか。

事件現場の国松長官が住んでいたマンション。長官は出勤のために出てきたところを狙撃された。

そんな話を持ち出したのは、ある高齢の男性受刑者の悲願が今年こそ叶って欲しいと他人事ながら思っているためだ。中村泰(ひろし)という。現在84歳。あの歴史的未解決事件、国松孝次警察庁長官狙撃事件の「真犯人」とめされる男である。

1995年3月、地下鉄サリン事件の10日後に発生したこの事件では、捜査を主導した警視庁の公安部がオウム真理教の犯行を執拗に疑い続けた一方で、刑事部は中村を本命視していたと伝えられている。中村は別件の現金輸送車襲撃事件の容疑で身柄拘束中、国松長官狙撃事件の犯行を詳細に自白。さらに獄中にいながらマスコミの取材を受け入れ、自分が国松長官を撃った真犯人だと認めたに等しい証言を重ねていた。だが結局、警視庁は中村の逮捕に踏み切らず、2010年3月に時効が成立した。

筆者は一昨年の秋頃、岐阜刑務所で無期懲役刑に服している中村に取材を申し込み、手紙のやりとりをさせてもらうようになった。この間、中村の証言に基づいて関係現場の状況も検証し、やはり中村は国松長官を狙撃した真犯人なのだろうという思いを強めている。

◆医療施設で闘病中

中村によると、国松長官の狙撃を企てたきっかけは、地下鉄サリン事件発生後、オウム真理教の捜査に及び腰だった警察に業を煮やしたことだった。オウム信者の犯行を装って警察組織のトップを狙撃すれば、警察はオウム制圧に動くと考えたという。中村は元々武力革命を志向する人物で、実際に長年そういう活動もしていた。

ただ、国松長官を狙撃後、警察が自分の予想以上に奮起してオウムを制圧したのをうけ、中村は身を挺して実行し、大成功した作戦が人知れず消えていくのを残念に思う気持ちになったという。それが、犯行を告白するに至った理由なのだそうだ。

そんな中村の悲願とは、言うまでもなく自分のことを国松長官狙撃事件の犯人だと世間に広く知らしめることだ。そのために中村はマスコミとの接触を続けた。昨年8月、取材協力したテレビ朝日の「世紀の瞬間&日本の未解決事件スペシャル」という特番で真犯人同然の扱いを受けた際にはとても嬉しそうだった。だが、実を言うと、現在は心配な状況にある。中村は病に冒され、移送された医療施設で闘病中なのである。

その連絡は昨年12月中旬、代理人の弁護士を通じてもたらされたのだが、中村は闘病中であることと共に「このような事情で取り込み中ですので、年賀のご挨拶は失礼いたします」ということまで律儀にことづけてくれた。事件は3月30日で発生20年を迎えるが、中村がそんな人間味のある人物だからこそ、筆者は願わずにいられないのだ。中村が命あるうちに少しでも多くの人に国松長官を撃った「真犯人」だと認知されて欲しい、と。

▼片岡健(かたおか けん)1971年、広島市生まれ。早稲田大学商学部卒業後、フリーのライターに。新旧様々な事件の知られざる事実や冤罪、捜査機関の不正を独自取材で発掘している。広島市在住。

下関女児殺害事件──最高裁が懲役30年の「冤罪判決」疑惑

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《大学異論24》日本テレビが喧伝する「箱根駅伝」の不平等

箱根駅伝は正月恒例のイベントとして、日本テレビ系列が全国に放送する。関東地方の読売新聞勧誘業者は、12月に契約を結ぶ新規購読者にかなり高価と思われる「箱根駅伝」の文字が大きくプリントされたウィンドブレーカーがプレゼントされる。読売新聞では戦況予想や選手のプロフェールが連日誌面を埋める。

だが、「箱根駅伝」は関東大学の間でだけ競われる「地方大会」だ。あたかも日本で一番駅伝の強い大学を決める競技会のように放送され、見る側もその気になっているかもしれないが、あんなものがあるがために大学陸上部の勢力図が歪められてしまっているのだ。

高校時代に優れた成績を残した選手には、関東の大学からの勧誘が相次ぐ。「練習環境がいい」、「全国から強豪が集まる」そしてきめのセリフが「箱根を走れるよ」だ。

でも大学のリクルート(高校生募集)担当者は1年の半分以上を東海より西の地域で過ごすことになる。陸上競技に興味をお持ちの方であればご存知だろうが、高校の長距離、特に駅伝は近年圧倒的に西日本が強い。特に関西や中国、九州から地力のある選手が例年出ている。今年の全国高校駅伝の優勝は広島の世羅高校だった。

だから、箱根駅伝で各大学から出場している選手の出身校を見ると圧倒的に東海より西の選手が多い。開催地である東京や神奈川出身の選手など数えるほどしかいない。走り始める前の選手たちの間では関西弁が飛び交ていることだろう。

もう何十年もテレビで放送され、あたかも実力日本一を決める大会のように、読売新聞、日本テレビをはじめとするメディアが大きく扱うから、それが悪影響を及ぼし、実力のある選手が東京一極集中という現象が定着してしまった。これは大変不公平な現象である。

全国の大学に出場資格があり(勿論地区大会を勝ち残った上でだが)公平に日本中の大学の実力が競われるのは「全日本大学駅伝大会」だ。選手層が厚い関東勢が近年は必ず優勝するし、上位を占める。それでもこちらは日本中どの大学にでも予選会への出場資格があるという点で、公平な大会といえる。逆に箱根駅伝は関東圏の大学にしか予選会への出場資格がない。

何のことはない。関東周辺の「地方大会」を大騒ぎしているだけのことだ。

その証拠に、こういったスポンサーや大会運営会社の意向がまだあまり及ばない、大学女子駅伝では全く異なった勢力図が展開されている。女子駅伝は高校レベルでは男子ほど「東西格差」が定着していないものの、やはり「西高東低」の傾向は同じだ。そして大学レベルではその勢力図がそのまま反映されている。つまり東海以西、西日本の大学に強豪が多いのだ。

女子駅伝は歴史が浅いこともあり「箱根駅伝」に相当するような特定スポンサーが我儘を通す土壌はない。これは幸いなことだろう。

更に箱根駅伝にケチをつければ、この大会ではあまたの「ヒーロー」が生まれたが、その選手が後に大成したためしがない。近いところでは4年連続往路の山登りで驚異的な走りを見せ、新記録をたたき出し続けた東洋大学の柏原竜二選手が有名だが、彼は普通のトラックやマラソンを走らせても凡庸な記録しか出せない。古いところでは瀬古利彦も箱根を走った。瀬古は最長区間である「4区」を毎年快走したけれども、彼の活躍は箱根駅伝以上に「福岡国際マラソン」で学生として優勝を果たしたことから始まっていたのだ。

このように正月のおとそ気分に付け込んで、読売が仕掛ける悪辣なバイアスがかかった大会が恒例となっている。走る選手に罪はないが、箱根駅伝は、正月早々毎年歪な日本の一面を象徴している。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ

◎病院経営の闇──検査や注射の回数が多い開業医は「やぶ医者」と疑え!
◎速報!『革命バカ一代』塩見孝也氏が清瀬市議選に出馬へ!
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宮沢賢治の宇宙観と透明感と共に──災禍少なく爽やかな1年でありますように

日付が一つ進んだからといって、自然界に何ら変化があるわけではない。我々が今日世界の支配的時間軸として使っているのはグレゴリオ暦こと「太陽暦」である。他にも「太陰暦」や「ヒジュラ暦」など世界にはいくつもの時間の物差しがある。「暦」によって祝賀の日も当然異なる。

まあ、そういった面倒くさい話は抜きにしよう。昔ほどではないにしろ、日本にとって「お正月」は現在でもやはり一年を通して特別に違いない。

喪中の方々を除いては、とにかく「おめでとうございます」だ。今日に限っては「口うるさい」私も邪魔くさいことは言わない。

新年あけましておめでとうございます!!

さて、お正月である。柄にもなく読者の皆さんに私からのささやかなプレゼントをお届けしたい。といっても人からの借り物だけど・・・。

生徒諸君

諸君はこの颯爽たる
諸君の未来圏から吹いて来る
透明な清潔な風を感じないのか
それは一つの送られた光線であり
決せられた南の風である

諸君はこの時代に強ひられ率ゐられて
奴隷のやうに忍従することを欲するか
今日の歴史や地史の資料からのみ論ずるならば
われらの祖先乃至はわれらに至るまで
すべての信仰や特性は
ただ誤解から生じたとさへ見え
しかも科学はいまだに暗く
われらに自殺と自棄のみをしか保証せぬ

むしろ諸君よ
更にあらたな正しい時代をつくれ

諸君よ
紺いろの地平線が膨らみ高まるときに
諸君はその中に没することを欲するか
じつに諸君は此の地平線に於ける
あらゆる形の山嶽でなければならぬ
宙宇は絶えずわれらによって変化する

誰が誰よりどうだとか
誰の仕事がどうしたとか
そんなことを言ってゐるひまがあるか

新たな詩人よ
雲から光から嵐から
透明なエネルギーを得て
人と地球によるべき形を暗示せよ

新しい時代のコペルニクスよ
余りに重苦しい重力の法則から
この銀河系を解き放て
衝動のやうにさへ行はれる
すべての農業労働を
冷く透明な解析によって
その藍いろの影といっしょに
舞踏の範囲にまで高めよ

新たな時代のマルクスよ
これらの盲目な衝動から動く世界を
素晴らしく美しい構成に変へよ
新しい時代のダーヴヰンよ
更に東洋風静観のキャレンヂャーに載って
銀河系空間の外にも至り
透明に深く正しい地史 と
増訂された生物学をわれらに示せ

おほよそ統計に従はば
諸君のなかには少くとも千人の天才がなければならぬ
素質ある諸君はただにこれらを刻み出すべきである

潮や風……
あらゆる自然の力を用ひ尽くして
諸君は新たな自然を形成するのに努めねばならぬ

ああ諸君はいま
この颯爽たる諸君の未来圏から吹いて来る
透明な風を感じないのか

宮沢賢治

私は宮沢賢治の宇宙観と透明感が好きだ。押しつけがましかったらご容赦頂きたい。

たぶんかなわないだろうけども、読者諸氏に災禍少なく爽やかな1年でありますように。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ

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新年のご挨拶

昨年は「デジタル鹿砦社通信」のご拝読、ありがとうございました。

本年も、皆様方のご期待に応え、もっと激しく展開したいと思っております。
既存のメディアが権力のポチ化し劣化していく中で、私たちは独立独歩、
タブーなき言論を堅持する決意を更に固めています。

旧年に倍するご支援のほど、よろしくお願い申し上げます。

2015年1月1日

「デジタル鹿砦社通信」編集部/執筆者一同

読者の皆様、本年は大変お世話になりました。幸多き2015年を!

ほとんど想像するのが不可能である人々の群れがある。その方々はたぶん、世間で言われる「普通」より敏感な感性の持ち主で、個性が強い人達だろう、というくらいは見立てがつく。しかし、正直なところその方々の真の「属性」のようなものが掴めない。

私がその姿をあれこれ思い浮かべているのは、ほかでもない「デジタル鹿砦社通信」の読者、つまり「あなた」のことだ。勘違いしないでほしいが私はあなたの年齢や思想傾向、性別などを個人的な趣味で知りたがっているわけではない。

本コラムを読むにあたって、鹿砦社トップページをまず開くと、「デジタル鹿砦社通信」と並んでいるのがいかにも似つかわしくない「ジャニーズ研究会」の見出しが目に入る。どうにも奇異なこの組み合わせだが「ジャニーズ研究会」の読者数はここだけの話、腰を抜かしそうな数にのぼるそうだ。そしてその読者像はだいたい見当がつく。

他方、毎日(毎日ではなく、「時々」であっても)本コラムを読んでくださっている「あなた」の姿は、こちら側からは想像するのがひどく難しいのだ。

毎日更新ながら一貫した主張があるわけでもなく、極めて深刻な冤罪事件から、週刊誌では読めない芸能ネタ、またパロディーや、アジビラかと見まがう内容までを拝読いただいている「あなた」。「あなた」はいったい、どんな方々なのだろうか。

こんな疑問が湧いたのにはそれなりの理由がある。本コラムは2011年に開始され、幾度か執筆陣の入れ替えなどを経て、本年8月から現体制で再スタートしている。現体制での発足後半年にも満たないわけだが、無事年を越せることについて、「あなた」をはじめとする関係各位に年末のご挨拶を申し上げたいのだ。

不肖私ごときが他の執筆者の方々になり替わわるのははなはだ僭越と分かりつつも、本年このコラムをご拝読頂いたことに対して御礼を申し上げたい。

「鹿砦社」というアナーキーな出版社が許容してくれているから本コラムは成立しているが、それにもまして拝読頂ける「あなた」があってのことである。

だから、私は「あなた」のことに興味がある。「あなた」がわかれば、来年はもう少し「あなた」に興味を持っていただけるように、「あなた」に知って頂けるように、「あなた」に怒ってもらえるように、そして「あなた」に笑っていただけるように工夫が出来るのではないかと。

でも、誤解なきようお断りしておかなければならない。仮に「あなた」が分かっても、私は(きっと他の執筆陣も)工夫することはあれ、主張を変えることはないだろう。

自由な言論の領域がみるみる狭まる時代の中で、何のタブーもなく、方針もない本コラムは世間から「尊敬」される存在でありたいなどという勘違いは端から微塵も持ち合わせていない。むしろ権力者や大きなツラをした連中から「鬱陶し」がられ「顰蹙を買う」存在を貫徹したい。

本年は大変お世話になりました。皆様にとりまして幸多き2015年となりますよう祈念いたします。来年も「デジタル鹿砦社通信」をより一層よろしくお願いいたします!

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ

いつも何度でも福島を想う

 

田所敏夫の《大学異論》──もうひとつの大学を求めて
○140819《01》「度を越した」改革で立命館が一線を越える日(前編)
○140820《02》「度を越した」改革で立命館が一線を越える日(後編)
○140821《03》職員の7割が「非正規」派遣・契約のブラック大学
○140822《04》志ある「非正規」は去り、無責任な正職員ばかりが居坐る
○140823《05》私が大学職員だった頃の学生救済策
○140824《06》「立て看板」のない大学なんて!
○140826《07》代ゼミと河合塾──予備校受難時代に何が明暗を分けたのか?
○140904《08》5年も経てば激変する大学の内実
○140922《09》刑事ドラマより面白い「大学職員」という仕事
○140929《10》公安警察と密着する不埒な大学職員だった私
○141007《11》「草の根ファシズム」の脅迫に抗した北星学園大学にエールを!
○141016《12》大学ゴロ──学生確保の裏で跋扈する悪徳業者たち
○141025《13》学園祭で「SMショー」は芸術か?ワイセツか?
○141030《14》学園祭のトラブルは大学職員が身体を張って収束させる
○141104《15》北星学園大学を追い詰めた「閾下のファシズム」
○141106《16》京都大学が公安警察の構内潜入を拒否するのは100%当たり前!
○141112《17》学園祭の「ミスコン」から芸能界へ、という人生
○141114《18》「過激派」は学生でなく今の日本・安倍政権!──京大集会見聞記
○141115《19》警察が京大に160倍返しの異常報復!リーク喜ぶ翼賛日テレ!
○141119《20》過去を披歴しない「闘士」矢谷暢一郎──同志社の良心を継ぐ
○141210《21》本気で学ぶ大学の選び方─「グローバル」より「リベラルアーツ」
○141220《22》真っ当に誠実さを貫く北星学園大学の勇断に賛辞と支援を!
○141226《23》青山学院大学──経営者自らがぶち壊す「青学ブランド」

《脱法芸能34》石川さゆり──ホリプロ独立後の孤立無援を救った演歌の力

長年、所属していたホリプロから独立した石川さゆりも、干されたタレントのひとりである。

石川さゆりは、小学生の時に観た島倉千代子の歌謡ショーに感動し、歌手を志した。中学生になると、牛乳配達のアルバイトをして貯金を貯め、歌謡教室に通った。14歳の時にフジテレビの『ちびっこ歌謡大会』で優勝し、それがきっかけとなって、1973年、『かくれんぼ』でアイドル歌手としてデビューを果たした。所属事務所は、ホリプロだった。

そして、77年に『津軽海峡・冬景色』が大ヒットとし、レコード大賞歌唱賞を始め、歌謡賞を総ナメした。演歌歌手として一気にスターとなった石川は、その後も『波止場しぐれ』『天城越え』など、ヒット曲をコンスタントに出し、『紅白歌合戦』でもトリを務めるほどの実力派に成長した。

◆96年独立後の試練──民放各社が「さゆりはずし」の包囲網

明日大晦日の「紅白歌合戦」に出る女性歌手の中で石川は和田アキコ(38回)に次いで出場回数が多い37回目。紅白曲は『天城越え』(1986年7月日本コロムビア)

石川は96年いっぱいで、24年所属していたホリプロから退社し、個人事務所、ビッグワンコーポレーションを設立した。独立の構想は長年温めていたもので、満を持しての再出発となるはずだった。だが、大手事務所から独立した他のタレントと同様、石川にも大きな試練が待ち受けていた。

97年1月23日、石川は事務所開きのささやかなパーティーを開いたが、案内状に名前があった統括プロデューサーが欠席した。そのプロデューサーは、前日に「一緒にはやっていけない」と、突然、通告してきたのだという。数日前まで新しい仕事の打ち合わせで燃えていたプロデューサーの脱落により、パーティーはまるでお通夜のように静まりかえってしまった。

さらには、NHK以外の、決まっていたテレビの仕事も相次いでキャンセルとなった。「構成上の理由」とのことだったが、何者かが糸を引いているのは明白だった。

『女性セブン』(97年4月17日号)に「あるテレビプロデューサー」の談話として次のようなコメントが紹介されている。

「10日ほど前のことなんですが、社の上層部の方から、“石川さゆりを使わないように”という話が降りてきたんです。それも歌番組だけじゃなく、バラエティーやワイドショーに至るまで同じことが伝えられたんです。驚きましたね、あまりの徹底ぶりに。

知り合いの他局のプロデューサーなんかも同じ事をいわれたみたいで、どうもNHKを除く全民放で、“さゆりはずし”が進行しているんですよ」

それと同時に、「石川は自己主張が激しく、スタッフ泣かせで有名だった」という報道が増えていった。ホリプロとの確執の発端は、81年に石川がホリプロの社員と結婚したことだったという。芸能界には「社員は“商品”に手を出してはいけない」という掟がある。ホリプロは石川に思いとどまるよう説得したが、石川は「結婚させないなら事務所を辞める」と主張し、結婚を強行した。

石川にとって苦しい芸能活動が続いた。テレビに出られなくなったため、「演歌の女王」としてのプライドを捨て、ミニコミ誌の表紙モデルや地方でのサイン会など、どんな小さな仕事でもやった。

97年の秋には、石川の窮状を見かねた民放キー局のプロデューサーが芸能界との手打ちの席を設けようとしたが、石川は「こちらは円満退社しているのに、どうして頭を下げなくてはいけないの?」と言って拒んだ。

◆99年の紅白出場危機──国民銀行のカミパレス不正融資事件への関与で揺れる

芸能界では孤立無援の状態が続いたが、カラオケでは石川の人気は根強く、97年末には『紅白』に20回目の出場を果たした。これに芸能界は、いらだちを強めていった。

だが、99年には、その『紅白』への出場に黄色信号が点った。その年の『紅白』は50回目という記念すべきものであり、NHKとしても人気のある石川を出したいと願っていたが、土壇場で起用を決めかねていた。

というのも、その年の4月に経営破綻した国民銀行のカラオケ会社への乱脈融資疑惑に石川の名が出ていたからだった。

国民銀行は、経営難に陥っていたカミパレスというカラオケボックスチェーンの倒産を回避するため、迂回融資や飛ばしなどの手段を使い、270億円もの不正融資を行っていたが、このうち120億円が焦げ付いていた。カミパレスは、80年代に石川の個人事務所が立ち上げた事業で、後に石川のスポンサーだと言われていた、実業家の種子田益夫が関与した。また、迂回融資に使われた7社の中にも、石川が社長を務める個人事務所の名前が出ていた。カミパレスは99年10月20日に破産宣告を受け、石川も迂回融資に協力していたのではないかと目され、警察から事情聴取を受ける可能性があった。

石川を起用して後で問題が発覚すれば、『紅白』の権威に傷が付くことになる。NHKは社会部を動員して、石川が事件に関与しているかどうか取材したという。『紅白』の出場歌手発表は、遅れに遅れた。当初は、11月11日に発表される予定だったが、3週間も遅れた。

ワイドショーも週刊誌もこぞってこの問題を報じたが、芸能界では「事務所を独立した石川を快く思っていない勢力が情報をリークしたのではないか」という説まで流れた。

結局、石川は出場を決めたが、当初は大トリの有力候補だったが、スキャンダルの影響もあり、最後から3番手となった。大トリに起用されたのは、ホリプロ所属の和田アキ子だった。

99年は、石川にとって受難の年で、『紅白』出場だけでなく、レコード会社移籍問題も騒がれた。石川が所属していたポニーキャニオンが売上の低迷する演歌部門から撤退を表明し、石川もリストラされることになったのだ。本来ならば、石川ほどの実力があれば、どこでも引く手あまたのはずだが、独立問題はまだくすぶっていた。各レコード会社は、ホリプロの機嫌を損ねることを恐れ、石川獲得になかなか名乗りを上げられなかったという。

多数のヒット曲を持ち、長年、『紅白』に出場する実力派の石川ですら、所属事務所から独立した途端に、このような辛酸をなめるのである。

アイドルの独立問題に関する報道で必ずといっていいほど「芸能プロダクションはタレントに投資をしていて、それを回収しなければならないのだから、勝手な独立や移籍は許されない」という芸能評論家のコメントが出てくるが、これはまったくの嘘である。

そもそも「投資」というものが何なのかが不明だし、アイドルだけでなく、投資の回収が終わったはずのベテランでも、大手事務所を敵に回して独立すれば一律に干されるのだ。

石川さゆりオフィシャルウェブサイト

▼星野陽平(ほしの ようへい)

フリーライター。1976年生まれ、東京都出身。早稻田大学商学部卒業。著書に『芸能人はなぜ干されるのか?』(鹿砦社)、編著に『実録!株式市場のカラクリ』(イースト・プレス)などがある。

『芸能人はなぜ干されるのか?』大晦日紅白のお供にこの一冊!在庫僅少お早めに!

 

星野陽平の《脱法芸能》

爆笑問題──「たけしを育てた」学会員に騙され独立の紆余曲折

中森明菜──聖子と明暗分けた80年代歌姫の独立悲話(後編)

中森明菜──聖子と明暗分けた80年代歌姫の独立悲話(前編)

松田聖子──音事協が業界ぐるみで流布させた「性悪女」説

薬師丸ひろ子──「異端の角川」ゆえに幸福だった独立劇

《書評》『ジャニーズ50年史』──帝国の光と影の巨大さを描き切った圧巻の書

《脱法芸能33》浅香唯──事務所と和解なしに復帰できない芸能界の掟

加勢大周の独立事件で司法は、タレントに芸名の使用を認める判断を下した。だが、その後も芸名使用問題はくすぶり続け、1994年、浅香唯の芸能界復帰で、再び注目を集めることとなった。

浅香唯は、もともと芸能界には関心がなかった。芸能界入りのきっかけとなったのは、84年に『少女コミック』(小学館)主催のオーディションでグランプリを獲得したことだった。応募したのは優勝者に贈られる「赤いステレオ」が欲しいためだったという。だが、その後、多くの芸能プロダクションからスカウトの電話があり、芸能界入りを決めた。六本木オフィスに所属し、翌年、中学校を卒業し『夏少女』で歌手デビューした。

◆ファンクラブ会員数が山口百恵に迫る勢いだった88年の全盛期

TVドラマ「スケバン刑事Ⅲ」主題歌『STAR』(1987年1月マイカルハミングバード)

86年、テレビドラマ『スケバン刑事3 少女忍法帖伝奇』(フジテレビ系)で主役を務めると、ブレイクし、たちまちトップアイドルの座を獲得した。ピーク時の88年にはファンクラブの会員が2万8000人を超え、全盛期の山口百恵の2万9000人に迫る勢いだった。だが、次第に六本木オフィスとの関係が悪化していった。

六本木オフィスとの関係がこじれるきっかけとなったのが、89年9月発覚したバックバンドのドラマーで7歳年上の西川貴博との交際だった。2人の関係を知った六本木オフィス側は、西川に音楽活動を支援しようという名目でお金を支払った。これを知った浅香は、マネージャーにお金を返したが、結局、社長から浅香のところに戻ってきてしまった。

この頃を境に浅香と六本木オフィスとの関係がギクシャクするようになってしまった。六本木オフィスは「そろそろ年齢相応にセクシーな面を打ち出すべきだ」と言って仕事を持ってきたが、浅香はすべて断った。

荒木経惟撮影による川崎亜紀 (浅香唯) 写真集『FAKE LOVE』 (1994年KKベストセラーズ)

そして、93年2月末に六本木オフィスとの契約が解消となり、浅香は活動休止を宣言した。引退説も流れたが、94年1月、アラーキーこと写真家の荒木経惟が撮影した浅香の写真集『FAKE LOVE』(ベストセラーズ)が出版された。

六本木オフィスは、この写真集を問題視した。浅香は独立にあたって六本木オフィス側と「1年間は芸能活動をしない」「芸名の浅香唯を使用しない」という約束を交わしていたが、写真集の発売は契約切れから1年未満だったし、写真集の名義は本名の「川崎亜紀」だったが、帯には「浅香唯」の名があった。

◆「事務所と和解なくして復帰なし」が音事協の本音

六本木オフィス側が問題とした「芸名の使用禁止」については、加勢大周に対して元所属事務所が起こした裁判で争点となり、93年6月に言い渡された高裁判決で加勢に芸名の使用を認められていた。また、そもそも、「浅香唯」の名前は、『少女コミック』に連載されていた『シューティングスター』の主人公の名前であり、六本木オフィスの所有物ではない。

だが、六本木オフィスは、これが「道義的」に問題だとして、音事協に提訴した。これを受けて、音事協は「この問題は双方でよく話し合い、発展的に事を進めてほしい」と提案した。これに基づいて、六本木オフィスは、復帰のための条件を出したが、浅香はこれを拒絶した。

一見すると、音事協の裁定は和解を提案しただけにすぎないようにも見えるが、実際のところは「六本木オフィスと和解しなければ復帰は認めない」ということに等しい。もちろん、法的な拘束力があるわけではないが、業界は音事協を中心に強いつながりがあり、その裁定には絶対的な力がある。芸能界で孤立した浅香は、何年も自宅にこもってパソコンをいじって暮らした。

当時の浅香は雑誌のインタビューで、こう語っている。
「自分を哀れだと思ったら何もできない。自分を哀れむこと、哀れまれることだけはしたくないと思って……」
「結局、私が芸能界の仕組みやオキテそのものをわかっていなかったってことですね。本当、芸名のことにしても、後になって人づてにこういうことだと教えてもらいましたし、いろんな事務所がわかるにつけて、前の事務所には迷惑をかけたんだが、申し訳なかったと……」(『微笑』95年12月16日号)

浅香が芸能界に復帰したのは、六本木オフィスとの和解を経て、休業宣言から4年が過ぎた97年のことだった。

▼星野陽平(ほしの ようへい)
フリーライター。1976年生まれ、東京都出身。早稻田大学商学部卒業。著書に『芸能人はなぜ干されるのか?』(鹿砦社)、編著に『実録!株式市場のカラクリ』(イースト・プレス)などがある。

星野陽平の《脱法芸能》
加勢大周[Ⅲ]──悪名に翻弄され続けた二人の「加勢大周」
加勢大周[Ⅱ]──裁判で事務所社長に芸名を奪われる
加勢大周[Ⅰ]──独立で勃発した竹内社長との「骨肉の紛争」
爆笑問題──「たけしを育てた」学会員に騙され独立の紆余曲折
中森明菜──聖子と明暗分けた80年代歌姫の独立悲話(後編)
中森明菜──聖子と明暗分けた80年代歌姫の独立悲話(前編)
松田聖子──音事協が業界ぐるみで流布させた「性悪女」説
薬師丸ひろ子──「異端の角川」ゆえに幸福だった独立劇
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『芸能人はなぜ干されるのか?』大晦日紅白のお供にこの一冊!在庫僅少お早めに!

 

《紫煙革命15》発がんリスクが低い「スヌース」は煙草より健康的か?

前回の記事で、スウェーデンで伝統的に愛用されてきた嗅ぎタバコ「スヌース」を紹介しました。唇と歯茎の間に挟んで口の粘膜でタバコを楽しむものですが、「煙を吸わないので健康的だ」とでもいうような能書きが多いので非常に胡散臭いのもまた事実です。

◆EUではスヌース販売禁止

スウェーデン以外のEU欧州連合加盟国ではスヌースは販売禁止されています。理由は「公衆の健康に脅威である」ということです。ASHスコットランドが2007年に発表した『欧州連合はスヌース禁止を取りやめるべきか?』という調査報告からいくつか紹介していきましょう。

スヌースは口に入れて使用する無煙タバコ製品であり、現在ヨーロッパ連合全域で販売が禁止されている。しかしスウェーデンはこの禁止措置を免除されている。スヌースが harm reduction の方策として役立つかどうか、およびヨーロッパ連合が現在行っているスヌースの販売禁止を解除すべきかどうかについて世界中のタバコ規制運動陣営の中で論争が巻き起こっている。

※harm reduction=ダメージを軽減するという意味のドラッグ用語。肺ガンなどのリスクが指摘されている紙巻きタバコの代替品として有効かどうかを議論しているということ。

ASH(Action on Smoking and Health)=禁煙健康増進協会。喫煙の危険を訴える広告キャンペーンなどを展開している団体。1967年設立。本部はワシントン。

◆スヌースの有害成分

スヌースには、発ガン性タバコ特異的ニトロソアミン類(TSNAs)をはじめ多くの有害な物質が含まれており、(中略)スウェーデンのスヌースは北アメリカ、スーダン、インドで売られているさまざまな無煙タバコ製品よりもTSNAs含有量が少なくなっていることがわかっている。

スウェーデン・マッチタバコ会社は、自社のスヌース製品に関して、硝酸塩やTSNAs、鉛、ヒ素、ニッケル、クロムなどの「望ましくない」成分の許容上限値をはじめとした GothiaTek standard 35という品質基準を作り公表している。

スウェーデンのスヌースはニトロソアミンという発ガン性物質が生成されないように製造方法に工夫がなされているということのようです。

嗅ぎタバコに含まれる有害物質のポスターを紹介したサイトがあったのですが、なんだかもう笑っちゃいます。無煙タバコが危険だというよりも、工業化による環境汚染と農業の危険を喧伝しているように思いましたが一応紹介しておきます。

無煙たばこは口腔ガン発生の最大の引き金

ポロニューム210(放射性物質)
ウラニューム235(核兵器の原料)
ニトロサミン(発がん物質)
アセタルデハイド(刺激物質、炎症起爆物質)
カドミウム(自動車のバッテリー剤)
ヒドラジン(毒薬)
ニコチン(中毒性麻薬)
ホルムアルデヒド(防腐薬、シックハウス原因薬)
ベンゾフィレン(発がん物質)

◆肺ガン以外はどうよ?

ASHの報告によると、

・スヌースは紙巻きタバコに比べて、ガンを発生させるリスクは極めて低い。肺ガンリスクを増やすという報告は見られない。

・スヌースと口腔癌に関する研究には明確さが欠けているが、先に述べたように、紙巻きタバコをやめてスヌースに切り替えた喫煙者が喫煙を続けた者より口腔癌リスクが低くなることを証明した研究はない。

・スヌースと膵臓ガン、心臓血管疾患、糖尿病との関連については今までのところ明確な結論が出ていない。

・現在までに発表された研究結果に一貫した結論が出ていないため、スヌース使用者において膵臓ガン、糖尿病、心臓血管疾患が増える恐れを否定することはできない。

大雑把にまとめると、「スヌースによる健康被害を証明できるような証拠はまだない」ということのようです。

リック・ベンダーという口腔ガンの手術で下顎を切除した男性の写真を紹介しておきます。「スヌース 害」で検索したサイトでは必ずこの人の写真が登場します。

口腔ガンの手術で下顎を切除したリック・ベンダーさん

◆結論=ASHの論文は面白い

健康リスクを評価するにあたって、「科学的な証拠」よりも「政治的な運用」が優先されているということを理解するのが重要だなと納得するような文があったので紹介しておきます。

研究者が無煙タバコ会社あるいはそれより大きなタバコ産業とのつながりを申告しているため、それによって生じうるバイアスにより、スヌース使用に伴う健康リスクについての調査結果の透明度と明確さが損なわれている。タバコ産業の資金援助を受けたあるいはタバコ産業と明確なつながりを持つ研究者が行った研究を真の意味で独立の研究とみなすことはできない。それゆえ、研究結果を慎重に解釈する必要がある。起こりうるすべての健康影響についての理解を今後手に入れるには、スヌース使用がもたらす健康影響を検討するために完全に独立の立場で行われた研究を実施する必要がある。

政府も規制官庁も医療業界も、国民の健康よりも企業との利害関係を優先するものであるということですね。世に溢れる「科学的」とされているもののほとんどは、あくまで「意図的で政治的」な何かだと断言します。

それでは次回お楽しみに!

▼原田卓馬(はらだ たくま)
1986年生まれ。幼少期は母の方針で玄米食で育つ。5歳で農村コミューンのヤマギシ会に単身放り込まれ自給自足の村で土に触れて過ごした体験と、実家に戻ってからの公立小学校での情報過密な生活のギャップに悩む思春期を過ごす。14歳で作曲という遊びの面白さに魅了されて、以来シンガーソングライター。路上で自作のフンドシを売ったり、張り込み突撃取材をしたり、たまに印刷物のデザインをしたり、楽器を製造したり、CDを作ったりしながらなんとか生活している男。早く音楽で生活したい。
ご意見ご感想、もしくはご質問などは?twitter@dabidebowie
このコーナーで調査して欲しいことなどどしどしご連絡ください

《紫煙革命14》スウェーデンに学ぶスヌース──煙ばかりがタバコじゃない
《紫煙革命13》世界の男女別喫煙率から見えてくるカラフルなタバコ・カルチャー
《紫煙革命12》実録!タバコ工場見学の巻(後編)
《紫煙革命11》実録!タバコ工場見学の巻(前編)
田中俊一委員長自宅アポなし直撃取材を終えて

いつも何度でも 福島を想え! 『NO NUKES voice』Vol.02

 

《脱法芸能32》加勢大周[Ⅲ]──悪名に翻弄され続けた二人の「加勢大周」

◆93年6月の控訴審判決──加勢側が逆転勝訴

1993年6月30日、加勢大周の独立に絡んで提起されていた訴訟の控訴審判決が言い渡された。控訴審判決では、業界中から大きく注目されていた争点であり、1審では認められた「加勢大周」の芸名使用禁止が覆り、加勢側が逆転勝訴した。

加勢を訴えた元所属事務所、インターフェイスプロジェクトの社長、竹内健晋は、雑誌のインタビューで「そのときほど、人を殺したいと思ったことはなかった」と明かしている。判決に反発した竹内は、新たな対抗策をぶち上げた。

「加勢大周という芸名はわたしが付けたもの。ウチに所属するタレントを“加勢大周”の芸名で近々デビューさせる!」

7月7日、竹内は港区白金台の八芳園にNHKを含めた80人の報道関係者を集め、元祖加勢大周と同姓同名の「新加勢大周」をお披露目した。

◆デビュー会見20日後に「新加勢」は「坂本一生」に芸名を変更

「新加勢大周」こと坂本一生

元祖加勢大周に勝るとも劣らない二枚目の新加勢大周は180センチで72キロの20歳で、高校時代には水泳をでインターハイにも出場したというスポーツマンだという。竹内はたまたま東京近郊にあるスポーツジムにいた彼を発見して、スカウトしてきたという。

「歌もうたえるし、英語にも堪能。スポーツで発散するタイプですから、川本くん(加勢の本名)のように“女性に走る”ということはない」
と、竹内は自信満々に豪語し、黒いタンクトップを着た青年を紹介した。

元祖加勢大周は、この報道にうろたえ、「第2の加勢クンがボクより売れたらまずいよなァ。名前の1字を変えてほしい。裁判を何回もやったんだから……」と困惑気味にコメントした。

元祖加勢側は、新加勢の動きを封じようと手を打った。「加勢大周」「元祖加勢大周」「東京加勢大周」の4つの名前を商標登録し、新加勢の出鼻をくじいたのだった。

7月27日、竹内は再び記者会見を開き、「川本伸博クンに『加勢大周』の名前をプレゼントする!」と宣言した。新加勢は登場してから20日後に「坂本一生」に芸名を変更し、芸名戦争は一応の決着を見た。だが、加勢と竹内の確執は続いた。

◆「新加勢」坂本一生も竹内との金銭トラブルで移籍独立

だが、新加勢大周こと坂本一生も、95年4月、竹内のもとを去り、他の事務所に移籍してしまった。原因は金銭トラブルだった。坂本はこう語っている。

「ただ働きでした。はっきりいって、(竹内社長のもとにいるときは)ただ働きだったんです。もちろん、通常のタレントの方と同じで、給料はギャラの何パーセントといった形式で、契約を交わしていました。でも、1度もギャラとしておカネをもらったことはなかった。

おカネがないので、仕事のないときは部屋にひとりでこまりっきりで、宅配ピザやカップラーメンをすすってました。ホント、毎日が不安で、みじめで……」(『アサヒ芸能』95年6月8日号)

坂本は、2年間、肉体派タレントとしてテレビのバラエティ番組で活躍してきたが、給料が支払われないどころか、600万円もの持ち出しを余儀なくされたという。竹内にギャラについて尋ねても、「次の仕事をとるために金が必要なんだ」と言うばかりで埒があかなかった。

もっともショックだったのは、坂本が番組のゲームで優勝し、100万円の賞金を獲得したときのことだった。坂本は他のチームのキャプテンと相談し、賞金を山分けすることにしていた。番組が終わって楽屋で他の出演者とともに和気あいあいと待っていたが、とうとう賞金は届かなかった。

給料を払わないだけでなく、竹内は坂本に女性との交際を禁じた。それが高じて、坂本のホモ説まで報じられる事態となった。心底うんざりした坂本は、事務所を飛び出す決意をした。

◆「いわく付きの名は更正の原動力になった」──服役を終えた元祖加勢の告白

一方、加勢の方も竹内との抗争で疲弊し、芸能活動は長期間低迷し、その挙げ句、2008年10月5日、覚せい剤取締法違反(所持)と大麻取締法違反(所持)の現行犯で逮捕され、芸能界を引退した。

服役を終えた加勢は、都内でバーテンとして働いた。『週刊新潮』(11年12月29日号)に新加勢大周騒動を振り返り、こう語っている。

「こんなエピソードをほかに誰も持っていないでしょうから、ボクが死ぬとき、生きていておもしろかったことのひとつに挙げられると思います。『加勢大周』はいわく付きの名前になってしまいました。それを使ってまた仕事を始めることは、今は考えられません。ただ、この名前は自分のモノだという思いはあります。こんなボクでも、待ちで『加勢大周さんですよね。一緒に写真撮ってください』と話しかけられることがあります。こうして覚えていてくれる人がいることが、いい意味で足かせになり、更正の原動力になる」

▼星野陽平(ほしの ようへい)
フリーライター。1976年生まれ、東京都出身。早稻田大学商学部卒業。著書に『芸能人はなぜ干されるのか?』(鹿砦社)、編著に『実録!株式市場のカラクリ』(イースト・プレス)などがある。

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