横浜副流煙事件「反訴」、平田晃史裁判官に対する忌避申立で中断 黒薮哲哉

横浜副流煙事件が、原告による忌避(きひ)申立で中断している。忌避申立とは、裁判官が公平中立に裁判を進行させない場合、裁判官の交代を求める法手続きである。

既報してきたように横浜副流煙事件は、煙草の副流煙による健康被害をめぐり、同じマンションに住む住民同士が、横浜地裁を舞台に繰り広げている事件である。発端は2017年11月。Aさん一家(夫、妻、娘)は、下階に住む藤井将登さんに対して、副流煙で健康被害を受けたとして4518万円の支払いを求める裁判を起こした。警察もこの住民トラブルに介入した。

黒薮哲哉『禁煙ファシズム-横浜副流煙事件の記録』(鹿砦社)

しかし、横浜地裁はAさん一家の訴えを棄却した。Aさん一家の体調不良の原因が、将登さんの煙草の煙に因果するという証拠がないのが棄却理由である。Aさんは東京高裁に控訴したが、高裁も訴えを棄却した。

将登さんと妻の藤井敦子さんは、勝訴が確定した後、Aさん一家と裁判に積極的に関与した日本禁煙学会の作田学理事長に対して、不当な裁判提起により経済的・精神的な苦痛を受けたとして、約1000万円の支払を求める裁判を起こした。俗に言う反スラップ訴訟で、現在、横浜地裁で審理が続いている。

ちなみに将登さんが煙草を吸っていた場所は、自宅の音楽室である。ベランダで煙草を吸っていたわけではない。音楽室は防音のために二重窓になっており、煙は外部へはもれない。しかも、1日の喫煙量は、2、3本程度である。

◆尋問に耐えうる客観的な証拠

この裁判を担当しているのは、平田晃史裁判官である。裁判は順調に進み、2023年2月には、作田医師と藤井敦子さんに対する尋問が行われた。当初、平田裁判官は、A夫も尋問の対象にする予定だった。ところがA夫の代理人である山田義雄弁護士が、A夫の体調不良を理由に尋問の免除を申し出た。

これに対して平田裁判官は、A夫の出廷が困難であることを立証する診断書を提出するように命じた。しかし、山田弁護士は診断書を提出しなかった。その理由を、「車椅子で生活している」とか、「家の中で這うように生活している」などと説明した。医療機関を受診できる状態ではないという。山田弁護士が提出したのは障害者手帳だった。平田裁判官は、事情を理解してA夫を尋問の対象から外した。

そこで藤井敦子さんは、山田弁護士の説明の信ぴょう性を確かめるために、「張込み」を行った。自家用車の中に身を潜めて、A夫を待った。そしてビデオカメラにA夫が歩いている場面を撮影したのである。

古川弁護しは、敦子さんが撮影した動画を平田裁判官に提出して、A夫の尋問を行うように求めた。しかし、平田裁判長は、尋問を実施しなかった。

忌避申立の理由は、平田裁判長がA夫の尋問を行わないという判断をするにあたり、A夫に対して客観的な証拠の提出をあくまでも求め続けなかったことである。尋問を実施しなかったことではない。

忌避申立の理由は次の通りである。

忌避申立書(本画像をクリックすると全文のPDFにリンクします)

しかし、横浜地裁は5月22日に、忌避申立を棄却した。これを受けて、藤井さんは、異議を申し立てる。裁判は中断して、現時点では再開の目途は立っていない。

◆裁判の公平性の欠落

ちなみに前訴の中で、A夫に約25年の喫煙歴があったことが判明している。それを知っていながら、隣人の副流煙で健康被害を受けたとして、藤井将登さんに対して4518万円を請求したのである。つまりA夫は、能動喫煙で体調を崩した可能性が高いことを知りながら、その責任を将登さんに押し付けたのである。

A夫に対する尋問を免除するのは、著しく公平性に欠ける。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
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黒薮哲哉『禁煙ファシズム-横浜副流煙事件の記録』(鹿砦社)
黒薮哲哉『新聞と公権力の暗部 「押し紙」問題とメディアコントロール』

横浜副流煙事件(反訴)、藤井敦子さん支援についての真実と誤解 黒薮哲哉

最近、横浜副流煙裁判(反訴)の原告である藤井敦子さんに対すツイッターによる攻撃が許容範囲を越えている。攻撃してくるのは、喫煙撲滅運動を推進している作田学医師や、化学物質過敏症の権威として知られている宮田幹夫医師の患者らである。

『窓』というタイトルで映画化された横浜副流煙事件

作田医師は、藤井さんが起こした裁判の法廷に立たされ、宮田医師は、4月末でみずからが経営してきたそよ風クリニックを閉鎖する。

後者の原因は、宮田医師の医療行為を批判する記事を書いたわたしにあると考えている人もいるようだ。

ツイッターによる攻撃対象は、副次的にわたしや、わたしの記事を掲載してきた鹿砦社にも及んでいる。さらに作田医師や宮田医師の医療を批判している舩越典子医師も攻撃対象になっている。

攻撃に加わっている人物の中には、元毎日新聞の辣腕ジャーナリストも含まれている。この先生は、なぜかわたしと鹿砦社に絡んでくる。

攻撃者らは、連携プレーのようなかたちで次々と攻撃を仕掛けてくる。ネットウヨやカウンター運動の面々によるSNS攻勢を同じパターンである。

これに対して藤井さんは、裁判の支援者などによる加勢を得て応戦している。後に引かない姿勢だ。

わたしはツイッターによる議論には積極的ではないが、コミュニケーションを図るという観点からすれば、まったく無意味なことだとは考えていない。しかし、議論の前提事実が間違ってしまうと、議論そのものが実のないものになってしまう。

◆わたしが藤井さんに行った支援

藤井さんを攻撃している人々による誤解の最たるものは、横浜副流煙事件をめぐる訴訟など一連の動きを背後で牛耳っているのは、わたし(黒薮)であるという勘違いである。中には、わたしの「鶴の一声」で藤井さんらが動いているとツイートしている高齢者もいた。そこでわたしが横浜副流煙事件にどこまで関与したかを正確に示しておこう。

「黒薮氏の鶴の一声で君達はそう連呼し……」などと述べている

横浜副流煙事件の提訴は、2017年11月である。藤井さんと同じマンションの2階に住むA家が、藤井さんの夫が吸う煙草で病気になったとして約4500万円の損害賠償を求めた裁判である。

わたしがこの事件に関わり始めたのは、その翌年、2018年の秋である。マイニュースジャパンから取材依頼があり、藤井さんが住む団地へ足を運んだり、A家の弁護士に接触するなど、綿密な取材活動を展開して記事を書いた。

その後、藤井さんが弁護士を解任して本人訴訟に切り替えたので、支援に乗り出した。司法ジャーナリズムをインターネットに載せる実験に興味があったからだ。そこでわたしが裁判書面の草案を作成して、藤井さんや支援者らと協議した。書面の校閲は、石岡淑道さんという元法律事務所の職員が行った。リサーチは、藤井さんと支援者が行った。このようなプロセスを経て裁判所へ提出した書面は、わたしがインターネットで公開した。

藤井さんの夫は横浜地裁で勝訴し、東京高裁でも勝訴した。裁判は藤井さんの夫の勝訴で終わった。

◆わたしは「反訴」にはかかわっていない

勝訴判決の確定を受けて藤井さんは2つの対抗措置を取った。ひとつは、前訴にかかわった作田学医師とA家に対する損害賠償である。「反訴」である。これについては、わたしは前訴が進行している時期から、繰り返し実行に移すように勧めていた。非常識な裁判提起に対しては、制裁を課すべきというのが、わたしの強い信念であるからだ。

藤井さんが取ったもうひとつの対抗措置は、作田医師に対する刑事告発である。これについては、わたしは積極的に進めたことはない。告発状が受理されないと思ったからだ。しかし、藤井さんの支援者に告発すべきだとの声が多く、藤井さんは告発に踏み切った。

最初、わたしは告発人のひとりに名を連ねていたが、公式に取り下げた。以後、ほとんど支援していない。

告発に向けて取材を重ね、重要情報を入手したのは藤井さんである。作田医師が在籍していた日本赤十字医療センターを何度も取材して、作田医師が作成した診断書交付のプロセスを解明した。作田医師がA家の娘を診察することなく、公的機関に診療報酬を請求していた事実を突き止めたのも藤井さんである。情報公開制度を利用したのである。

作田医師に対する刑事告発は受理され、警察が調査した後、横浜地検へ書類送検された。しかし、横浜地検は作田医師を不起訴とした。そこで藤井さんは、検察審査会に審査を申し立てた。その際に、理由書の草案を作成したのは、わたしである。これがわたしが藤井さんに対して行った最後の支援である。以後、何もしていない。

藤井さんが作田医師とA家に対して起こした「反訴」については、わたしは単なる取材者であり、裁判の方針には一切かかわっていない。書面を作成しているのは古川健三弁護士である。藤井さんと支援者は、書面を作成するためのリサーチを続けている。

◆理不尽な裁判を起こされて

わたしが横浜副流煙事件に関する藤井さんらの運動に背後にいるという想像は間違いである。

藤井さんは、横浜副流煙事件を通じて成長された。取材する力は、平均的なサラリーマン記者よりもはるかに勝っている。文書も立派に書けるようになった。

藤井さんは、自分の家族に対して4500万円もの請求が行われた結果、生死をかけて戦わざるを得なくなり、結果として著しく高い取材力や文章力を身に付けたのである。人間の知力がどのような外的条件の下で発達するかを示したとも言える。知力というものが、実生活(実践)との結合の中で飛躍的に発達することを示したのである。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
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黒薮哲哉『禁煙ファシズム-横浜副流煙事件の記録』(鹿砦社)
4月25日発売!黒薮哲哉『新聞と公権力の暗部 「押し紙」問題とメディアコントロール』

市民運動体によるネット炎上、怒りの鉾先を藤井敦子さんと舩越典子医師へ向けて爆発 黒薮哲哉

このところインターネット上で、化学物質過敏症の診断書交付をめぐる問題が炎上している。一部の医師たちが、問診を重視して「化学物質過敏症」の病名を付した診断書を交付することの是非をめぐる議論である。発端は横浜副流煙裁判だ。デジタル鹿砦社通信で報じてきた「禁煙ファシズム」をめぐる一連の報道である。

議論とも罵倒ともつかないツイートの集中砲火を浴びているのは、藤井敦子さんと舩越典子医師である。藤井さんは、横浜副流煙事件の被告の妻で、裁判に勝訴した後、作田医師らに対して約1000万円の損害賠償を請求する「反スラップ」訴訟を起こした。みずからのブログでも裁判の経緯を発信し続けている。

また、舩越医師は、化学物質過敏症の専門医である宮田幹夫医師による診断書交付を告発した経緯がある。この2名が、ネット上の「袋叩き」のターゲットになっている。2人に対するツイートは、もはやわたしとしても傍観できない領域に達している。プライバシーにまで踏み込んで、罵倒を吐き散らしているからだ。

たとえば、次のような調子である。

私、英語の教員免許持ってるけど、YouTubeで聞いた限り、あの人(藤井さんのこと)の発音って、ネイティブ並ではないよね。所詮、日本人英語。人のこと言えないけど。 あの程度で発音を堂々と教えられるなら、私でも教えられそう。(いち)

藤井氏は(注:煙草の被害を訴えている隣人の症状について)心因性のものだと主張していますが、もしA家の人が本当に化学物質過敏症でなく心因性で妄想が入った統合失調症なら命の危険がありませんか?
どちらがいい悪いでなく精神病の人に目をつけられたら全力で逃げた方がいいです。でないと殺傷事件に巻き込まれるかも。(いち)

「いち」なる匿名人物による藤井敦子さんに対する罵倒・中傷ツイートの一例

これらのツイートを読むだけで投稿者の情緒が不安定であることが感じ取れる。発達障害かも知れない。投稿者が青少年であればともかくも、おそらく分別があるはずの成人である。

議論が炎上している背景に、4月末で宮田幹夫医師がそよ風クリニックを閉鎖するに至った事情があるようだ。閉鎖に伴い、患者は従来どおりに診断書交付を受けられなくなる可能性がある。診断書がなければ、障害年金の更新手続きもできない。その怒りが、藤井さんと舩越医師に向かって爆発しているのである。攻撃は終わる気配はない。はからずもわたしは、禁煙ファシズムの実態を目の当たりにすることになった。

過去にもSNS上の炎上現象はある。故三宅雪子氏による炎上、ネットウヨによる炎上、カウンター運動による炎上などである。このうちカウンター運動による炎上には、わたしも巻き込ま荒れ、「差別者(レイシスト)」のリストに入れられた。反共の極右主義者ということになっているらしい。

◆作田医師、「事務の女の子ににおいをかいでもらいました。」

炎上の中心にいるのはたいてい市民運動を展開している人々である。市民運動は、共通した趣味や思考を持つ人々の集合体で、同じ社会運動体と言っても、地域社会に根付いた住民運動とは根本的に性質が異なる。市民運動は、無責任で軽薄で感情的というのがわたしの評価である。社会通念からずれた要素があり、病的なものさえ感じる。

 
日本禁煙学会の作田学理事長(写真出典:日本禁煙学会ウェブサイト)

たとえば、喫煙撲滅運動の先頭に立ってきた日本禁煙学会の作田学理事長は、2月8日に行われた横浜副流煙裁判(反訴)の本人尋問で次のような奇妙な証言をしている。証言そのものが正気とは思えない。証言を引用する前に、若干事情を説明しおこう。

横浜副流煙事件の審理が進んでいたころ、藤井敦子さんは、近隣住民の酒井久男さんの協力を得て、作田医師の外来へ潜入した。酒井さんに繊維に対するアレルギーがあるので、作田医師の診断を受けてもらい、同伴して問診の様子などを「取材」するのが目的だった。被告家族としては、当然の情報収集だった。提訴の前提となった診断書を交付した作田医師の力量を見極める必要があった。

作田医師は、酒井さんが繊維に対するアレルギー体質を訴えたのに、「受動喫煙症」の病名を付した診断書を交付した。

以上の経緯を前提に、法廷での作田医師の証言を引用しよう。

弁護士:あと、サカイさんの診断書というのがちょっと問題になっているんですけど、お分かりになりますか。

作田医師:うさんくさい患者さんでした。

弁護士:記憶は、残っていますか。

作田医師:はい。

弁護士:どういう記憶として残っていますか。

作田医師:患者さん(酒井さんのこと)が退室しまして、書類を整理しているときに、ふわっとたばこのにおいがしたんです。それで、ひょっとして間違いかと思って、外から事務の女の子を呼んで、それで、一生懸命においをかいでもらいました。そしたら、やっぱりこれはたばこのにおいだと。それで、これはいけない、(略)1丁目1番地が間違えた診断書を出しちゃったということで、すぐに戻ってもらうように探してくれと言って、そうしたら、事務の女の子は、一生懸命小走りになって外へ出ていきました。それで、私は、そこにある使用モニターを準備して待っていましたが、いつになっても帰ってこないので、恐らく医事課、あるいは全館コールもしたと思います。しかし、いなかった。それで、これはもううさんくさい人だなあと思いました。

作田医師は、書類の整理をしているときに、煙草の匂いがしたので、「事務の女の子を呼んで、それで、一生懸命においをかいでもら」ったというのだ。たとえ一瞬、煙草の匂いがしたことが事実であっても、自分が感じた匂いを、呼びつけた「事務の女の子」にかいでもらって確認できるはずがない。まして酒井さんが退出して若干の時間が経過しているのである。匂いをかぎ分けることなど、警察犬にしかできないだろう。人間にはそれほど繊細な臭覚がない。

作田医師の証言は、わたしには奇行としか思えない。勝手な思い込みをしているのである。

このように裁判の証言にもツイッターの内容にもわたしはどこか病的なものを感じる。しかし、これが市民運動の実態なのだ。

市民運動が常道を逸している理由は、運動目的が団体や個人の利益獲得に結び付くからだろう。会員を増やすことで、組織の会費収入を増やすとか、診断書交付を容易にするとか利己的な目的があるからだとわたしは思う。

その構図にメスを入れようとすると、舩越医師や藤井さんのように袋叩きにあう。暴力が行使されないのは、まだ不幸中の幸いである。

◆無資格者が生理検査

ちなみにそよ風クリニックにも、市民運動に特徴的な問題がある。それはクリニックと自然食品の会社が親密な関係にあることだ。そよ風クリニックの下階には、自然食品の商店がある。当然、その風クリニックを受診する患者は、この店の格好の客となる。しかも、宮田医師は化学物質過敏症は完治しないという立場を取っているわけだから、自然食品店にとっては、これほど好都合なことはない。

また、そよ風クリニックでは、眼球運動などの生理検査を栄養士が実施している。当然、正確に生理検査が行われているのかという疑問がある。横浜副流煙裁判に提出された宮田医師による患者のカルテを、舩越典子医師は次のように批判する。

「裁判に提出されたカルテによると、眼球運動の検査は、検査器機の不調を理由に目視で行っています。目視での検査結果は信頼性が低いため、器機の修理が終わった段階で検査器機を用いた検査を行うべきであったと考えます。検査器機の不調についてカルテ記載はありませんでした。敢えて目視による検査を採用した疑いも否定できません。そよ風クリニックにおける神経性学的検査は栄養士のAさんが実施しています。彼女は医師でも臨床検査技師でもない、管理栄養士です。無資格者による検査は違法です。違法行為により得られた検査結果を横浜副流煙裁判の証拠として用いる事は言語道断です」

これに対して宮田医師は、書面で次のように反論した。

「この病気の患者さんは体に薬を付けたりすることを極端に嫌がります。眼球運動の測定では通常の方法では薬剤を塗るか、コンタクトレンズを装用するかの方法ですが、単に眼鏡を掛ける様に改造した装置を使用しています。眼鏡屋さんの眼鏡の試着と同じ程度の負荷しか患者に掛からない装置ですので、まったく問題ないと思います。もちろん私の指揮下です。」

◎禁煙ファシズム関連過去記事 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=114

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
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黒薮哲哉『禁煙ファシズム-横浜副流煙事件の記録』(鹿砦社)
月刊『紙の爆弾』2023年4月号

遠慮・忖度一切なし!《本音の対談》黒薮哲哉×田所敏夫〈03〉禁煙ファシズムの危険性 ── 喫煙者が減少したことで肺がん罹患者は減ったのか?

◆禁煙ファシズムと複合汚染

田所 違う角度で伺います。タバコについては昨年ニュージーランドで首相が、近い将来18歳以下の人に喫煙をさせないとの法律を作ると報道されました。たしかにタバコは健康への一定の害はあるでしょう。私は現在タバコを吸いませんがかつては喫煙者でした。私が大学生時代は男女含め6~7割の人間はタバコを吸っていた記憶があります。黒薮さんは喫煙歴はないですか。

 
田所敏夫さん

黒薮 20代の初めの頃、合計3年くらい吸っていました。

田所 ですから継続的な喫煙者は減少しているにしても、タバコを吸う習慣は100年、200年ではなく、相当大昔から習慣としてあったですね。嗜好品としては世界的に酒と同様に嗜まれていた。今はタバコが「健康に悪いから止めましょう」と言われていますが、一方、肺がん罹患者の数が減っていません。タバコが直撃する臓器は肺だと言われています。喫煙者が減り副流煙もほとんどないのに肺がんが増えている。これを医学的に説明している証拠はあるのでしょうか。

黒薮 医学的な説明はないけども、一般的に考えればそれだけ化学物質による空気の複合汚染が進んだ結果、肺がんが増えた可能性が高いでしょう。

田所 タバコだけが原因であれば、肺がんの数は減るはずです。けれども喫煙者、受動喫煙も激減しているのに肺がん罹患者が増加するのは化学物質や環境ホルモン、または黒薮さんが追っていらっしゃる「電磁波」などタバコ以外の要因を求めないと合理性が保てない。

 
黒薮哲哉さん

黒薮 ブラジルの大学が携帯電話の基地局でどれぐらいのガンが発生しているか、という統計を取ったことがあります。有名な疫学調査が、発表されたのは2011年です。病気の種類別の統計が出ていましたが、多かったのが肺がんと胃がんでした。化学物資による大気汚染に加え、電磁波などの要素が重なっていると考えられます。空気がおかしくなっているから肺にがんが増えたと言えるかもしれません。複合汚染の結果だと思います。

◆厚労省はなぜ「国民の二人に一人はガンに罹ります」などと予想できるのか?

田所 24時間呼吸をして肺は空気を取り入れているのですから、空気になにが含まれていて、どうして発病するかのメカニズムを明示してもらわないと「タバコが悪い」という単純なものではないでしょう。胃ガンにしても乳ガンも減っていない。ガンの総数が増えていてこれから先は「国民の二人に一人はガンに罹ります」と早くから厚労省が言っていました。どうしてそんな予想ができるのか不思議です。

黒薮 私はタバコを吸わないし、嫌いなんだけどもそれを前提にしても、タバコだけを取り締まってなにかが解決するのではなく、規制するのであれば化学物質による汚染や電磁波による被曝などを総合的に見直さないと、何の解決にもならないでしょう。

田所 サンプルとしては疫学統計が充分とれる肺がん患者の症例数は整っていると思いますから、肺がんが発病する本当のメカニズムを解明して欲しいです。薬はかなり開発されましたが、本当の発病メカニズムが解明されてないことの課題が、この問題と様々な社会問題との共通項です。(つづく)

◎遠慮・忖度一切なし!《本音の対談》黒薮哲哉×田所敏夫
〈01〉「スラップ訴訟」としての横浜副流煙事件裁判
〈02〉横浜副流煙事件裁判のその後 
〈03〉禁煙ファシズムの危険性 ── 喫煙者が減少したことで肺がん罹患者は減ったのか? 
〈04〉問題すり替えに過ぎない“SDGs”の欺瞞
〈05〉「押し紙」は新聞にとって致命的

▼黒薮哲哉(くろやぶ てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
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黒薮哲哉『禁煙ファシズム-横浜副流煙事件の記録』(鹿砦社)

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。著書に『大暗黒時代の大学──消える大学自治と学問の自由』(鹿砦社)がある。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

田所敏夫『大暗黒時代の大学 消える大学自治と学問の自由』(鹿砦社LIBRARY007)
月刊『紙の爆弾』2023年3月号

横浜副流煙事件の本人尋問、「俺、食い逃げかよ?」、作田医師の証言に疑問が続出 黒薮哲哉

横浜副流煙裁判の本人尋問が2月9日に横浜地裁で行われた。筆者は、これまで何度も尋問を傍聴したことがあるが、この日の尋問は恐らくブラックユーモアとして記憶に刻まれるだろう。(事件の概要は、後述)

問題の場面は、日本禁煙学会の作田学理事長(医師)が、証人席に付いているときに起きた。作田医師の弁護人は、藤井敦子さんと酒井久男さんによる「作田外来」(日本赤十字センター内)への「潜入取材」を取り上げた。2019年7月のことである。

潜入取材の目的は、藤井さんにとっては情報収集である。4518万円の損害賠償を求められたわけだから、その原因を作った作田医師についての情報を集める必要があった。そこで藤井さんは、作田医師による診断書交付の実態を自分の眼で確認するために、酒井さんに付き添って「作田外来」を訪れたのである。診断書交付の様子を確認する必要があった。新聞社やテレビ局に40年勤務しても出来ない取材を、普通の主婦が自分の判断で簡単にやってのけたのである。

たまたま酒井さんには、衣類の繊維に対するアレルギーがあり、藤井敦子さんの目的とも合致したので、2人で東京都渋谷区の日本赤十字センターへ向かったのである。

この件は、筆者が『禁煙ファシズム』の中で暴露したので、作田氏らはこの本を通じて、入念な情報収集が行われていたことを知った可能性が高い。

 
作田医師の証言に抗議している酒井久男さん

◆作田医師、「ニコチン検査」に応じず

9日の尋問で、藤井さんと酒井さんの行動について作田医師は、次のような趣旨の証言をした……。

胡散臭い人間だと思った。二人が診察室をでたあと煙草の臭いを感じたので、職員に二人の後を追わせた。構内放送もしてもらったが2人は見つからなかった。

傍聴席の酒井さんは、仰天したように目を大きく見開いてあたりを見回した。唇が震えていたが言葉はでなかった。筆者は、酒井さんが喫煙者だと疑われているのだと思った。ところが作田医師が、原告席の藤井さんを指さして、喫煙者とは「あなただ」と断言したのだ。

作田医師の代理人は、藤井さんに対して、藤井さんが喫煙者かどうかを調べる検査(唾液にニコチンが含まれているか否かを調べる検査)を要求した。藤井さんは即座に検査に応じると言ったが、作田医師の側が検査を実施することはなかった。閉廷後に藤井さんが再度検査を求めたが、やはり応じることなく法廷を去った。

後日、酒井さんはSNSで呟いた。

「俺、食い逃げかよ?」

◆被告のA夫は出廷せず、診断書も未提出

被告のA夫は、9日の尋問に出廷しなかった。(A娘とA妻については、もともと尋問の予定がなかった)A夫は尋問の対象になっていたが、前回の弁論準備で代理人が、A夫が体調不良なので出廷できない旨を報告していた。裁判官は出廷が不可能であることを示す診断書を提出するように求めた。

しかし、弁護士は診断書を提出しなかった。車椅子で生活しており、外出できる状態ではないという。裁判官もそれを認め、結局、A夫の尋問は実現しなかった。25年の喫煙歴がありながら、作田医師から「受動喫煙症」の診断書交付を受け、それを根拠に高額訴訟を起こしたわけだから、藤井家としてはA夫から直接事情を聞きたかったはずだが、尋問そのものが実現しなかった。

※長期喫煙者が禁煙した後、煙草に対するアレルギー症状を呈することはよくある。しかし、長期の喫煙が人体に悪影響を及ぼしている可能性が高い。25年の喫煙歴がある患者を「受動喫煙症」と診断するには無理がある。

 
黒薮哲哉『禁煙ファシズム-横浜副流煙事件の記録』(鹿砦社)

◆『禁煙ファシズム』を厳しく批判

藤井敦子さんに対する尋問の中で、被告弁護士がメディア黒書と『禁煙ファシズム』を批判する場面もあった。報道目的で裁判を起こしたのではないかと言うのだった。これに対して藤井さんは、「海外のメディアにも接している。上質なジャーナリズムに情報を提供しただけ」と答えた。

被告代理人が問題視した『禁煙ファシズム』の記述は、前訴の途中で藤井さんが、代理人を解任して本人訴訟に切り替えることを決め、筆者が支援の意思を表明した箇所である。

本人訴訟には興味があった。弁護士の大半は、早期の事件解決という観点から、事件を拡大することを嫌うが、本人訴訟になれば事件を拡大できる。裁判をジャーナリズムの土俵に乗せて、世間に訴えることもできる。裁判の進行に合わせて裁判書面をインターネットで公開することで、裁判の舞台を全国へ広げることができる。それは新しい司法ジャーナリズムの方法だった。それを実践してみたいとわたしは思った。

作田医師の弁護士には、こうしたジャーナリズムの手法が異常に感じられるのだろうが、現在の司法界の不透明な状況を見る限りでは必要な措置である。裁判の提訴と判決しか報じないジャーナリズムの方が未熟なのである。

媒体を「紙」から「電子」に切り替えても、「電子」の利点を最大限に利用しなければまったく意味がない。「電子」では、PDFなどで裁判資料の公開ができる。ウィキリークスのように。

横浜副流煙事件の「反訴」は、4月に結審する予定だ。

【横浜副流煙裁判の概要】

2017年11月、横浜市青葉区のすすき野団地に住むAさん一家(夫、妻、娘)は、階下のマンションに住む藤井将登(ミュージシャン)さんに対して、煙草の煙で「受動喫煙症」になったとして、約4500万円の損害賠償を求める裁判を起こした。しかし、将登さんの喫煙場所は、防音構造になった「音楽室」に限られており、煙は外にもれない。しかも、煙草の本数も1日に2、3本程度だった。横浜地裁はA家の訴えを棄却した。しかも、作田医師の医師法20条(患者を診察せずに診断書を交付する行為の禁止)違反を認定した。東京高裁でも将登さんは勝訴した。

判決が確定した後、将登さんと妻の敦子さんは、前訴そのものが「訴権の濫用」にあたるとして、約1000万円の支払いを求める反スラップ裁判を起こした。作田医師は、前訴の原告ではないが、少なくとも5通の意見書を提出するなど、裁判を全面的に支援した。そもそも作田医師が医師法20条を犯してまで診断書を交付しなければ、前訴は提起できなかった。こうした観点から、藤井夫妻は、反スラップ裁判の被告としてA家の3人と作田医師を提訴したのである。

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黒薮哲哉『禁煙ファシズム-横浜副流煙事件の記録』
最新刊! 月刊『紙の爆弾』2023年3月号

遠慮・忖度一切なし!《本音の対談》黒薮哲哉×田所敏夫〈02〉横浜副流煙事件裁判のその後

◆裁判を起こされて何もしなければ、同様のスラップ裁判が起きる可能性がある

田所 結局高裁勝訴で藤井さんは上告なさらなかったのですね。

 
黒薮哲哉さん

黒薮 そうです。原告被告双方上告しませんでした。

田所 あの裁判は確定しましたが、逆に藤井さんが原告になり裁判を提訴されていると伺っています。

黒薮 藤井さんが被告の裁判をやっていた時から、もし勝つことが出来たら損害賠償請求をやりましょう、と話はしていました。その理由はこのような裁判を起こされて何もしなければ、同様のスラップ裁判が次々と起きる可能性があると考えたからです。ですから藤井さんにけじめはしっかりつけましょうと話はしていました。ただ裁判のことですので勝訴できる確信はありませんでした。幸いに横浜地裁と東京高裁で勝訴したので、前訴が終わった後、藤井さんが元被告を不当訴訟(訴権の濫用)で提訴に踏み切った訳です。

◆日赤病院のウェブサイトから作田氏の名前が消えた理由

田所 現在横浜地裁で係争中ですが、黒薮さんの情報によれば、展開は藤井さん有利に進行していると。

黒薮 訴権の濫用を認定させるハードルは非常に高いですから予断は許しませんが、いい方向へ展開していると思います。というのは藤井さんが日本赤十字病院を何度も取材して情報を引き出していたからです。どういう経緯で作田氏の関与した事件が起こったのかを追及しました。最初はあまり相手にされなかったようですが、裁判の判決が確定した後に、藤井さんらが作田氏を刑事告発して受理されたころから態度が変わりました。横浜地検は「不起訴」と判断したのですが、検察審査会が「不起訴不当」の判断を出したことが日赤を動かしたようです。日赤病院は、藤井さんに協力するようになったのです。

田所 検察審査会で「起訴相当」の判断が出るのは相当珍しいことですね。

黒薮 めったにありません。日赤病院は作田氏の診断書の作成プロセスを藤井さんの現代理人にしっかり説明をしました。しかも説明した内容について「事実に間違いありません」と記した書面に捺印したのです。作田氏にとっては非常に不利な情報が裁判所に開示されたわけです。日赤病院のような大きな病院では、診断書を交付するための基本的な方向性が定められており、それに沿って交付手続きをしなければなりません。ところが作田氏が横浜地裁に弁護士を通じて出した診断書は日赤病院が定める公式の手続きを取っていませんでした。

作田医師は、診断書をコピーして院外へ持ち出していました。これは日赤病院にとっても問題です。2019年11月に横浜地裁判決が原告・藤井将登さんを勝訴させた翌年の3月末、作田氏は日赤を除籍になりました。

田所 定年ではない?

黒薮 そこはわかりません。定年で辞めたのか、自主的に辞めたのか、日赤病院が除籍にしたのかはわかりませんが、日赤病院のウェブサイトから作田氏の名前が消えました。日赤病院が一つけじめをつけた可能性が高いと思います。

 
田所敏夫さん

◆4500万円請求の不自然

田所 それで藤井さんが損害賠償請求に踏み切った。被告は誰ですか。

黒薮 被告は作田医師と藤井さんを提訴した元原告。前訴を起こしたA家のお父さん、お母さん、娘さんです。ただA家の人たちが本当に物事を理解して裁判を起こしたのかのかどうかはわかりません。周りから「やりましょう」と言われて裁判をした可能性もあります。横浜地裁も、喫煙者の撲滅という政策目的で起こされた裁判である可能性を認定しています。

田所 その可能性のほうが高いと感じます。25年喫煙歴のある人が団地の斜め下の住民に4500万円の請求を求める裁判を起こすとは、印紙代だけでも相当かかりますから不自然ですね。私怨や思い込みだけではない可能性を感じます。

黒薮 横浜地裁の判決言い渡しには作田医師が姿をみせました。その理由はやはり「家の中でタバコを吸っても罰を受けるのだ」という判例が欲しかったのでしょう。その判例さえあれば家の中でタバコを吸っている人を、次々に裁判にかけることができる、という頭があったのだと思います。喫煙者を社会から容赦なく撲滅するための判例がほしかったのでしょう。(つづく)

◎遠慮・忖度一切なし!《本音の対談》黒薮哲哉×田所敏夫
〈01〉「スラップ訴訟」としての横浜副流煙事件裁判
〈02〉横浜副流煙事件裁判のその後 
〈03〉禁煙ファシズムの危険性 ── 喫煙者が減少したことで肺がん罹患者は減ったのか? 
〈04〉問題すり替えに過ぎない“SDGs”の欺瞞
〈05〉「押し紙」は新聞にとって致命的

▼黒薮哲哉(くろやぶ てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu

黒薮哲哉『禁煙ファシズム-横浜副流煙事件の記録』(鹿砦社)

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。著書に『大暗黒時代の大学──消える大学自治と学問の自由』(鹿砦社)がある。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

田所敏夫『大暗黒時代の大学 消える大学自治と学問の自由』(鹿砦社LIBRARY007)
最新刊! 月刊『紙の爆弾』2023年3月号

遠慮・忖度一切なし!《本音の対談》黒薮哲哉×田所敏夫〈01〉「スラップ訴訟」としての横浜副流煙事件裁判

2023年を展望という大上段な気分ではなく、現状確認とこれからの方向性を探るために、一度黒薮哲哉さんとじっくり時間をかけて直接お話がしたい、と昨年後半から感じていた。1月20日私の希望は実現した。3時間半にわたって休憩をはさむことなく、「横浜副流煙事件裁判」、「押し紙」、「中南米情勢」など各論から「ジャーナリズム」の課題や新自由主義の諸問題まで話題は広がった。3時間半あれば深くはないにせよ一応語り尽くすことはできるだろう、との計算はわたしのミスだった。時間が圧倒的に足りなかったのだ。だぶん黒薮さんも同様にお感じではないだろうか。

いずれにせよ、以下は黒薮さんにわたしが伺う形を基本とした、2023年1月における「現状確認」と「方向性」の模索である。お忙しい中時間を割いていただき、原稿の校正にも快く応じてくださった黒薮さんに感謝するとともに、この対談(インタビュー?)が、読者のみなさんにとって何らかの示唆となれば、幸いである。(田所敏夫)

◆横浜副流煙事件裁判 ── なぜ原告の訴えは棄却されたのか?

田所 藤井さんの事件についてあらためてお伺いいたします。横浜副流煙事件裁判は、藤井さんが提訴されて一年目くらいから黒薮さんは取材を始められ、藤井さんが元の代理人を解任された後、黒薮さんも加わっての本人訴訟に切り替わったのですね。

黒薮 厳密にいえば藤井さんがご自分の判断で元の弁護士を解任し、ご自分で書証の準備をされていました。それをチェックしてほしいと要請があったので読んでいる中で、これは支援しようと私も思い立ち支援に加わりました。最初に取材した時は、支援に加わるつもりはなかったのですが。

田所 そうですか。そして結論は地裁判決で完全勝利のうえ、診断書を書いたとされる作田学医師の行為が医師法20条違反との判断を得られました。高裁でも原告の訴えが完全に棄却され、藤井さんが勝訴が確定したわけですね。

 
黒薮哲哉さん

黒薮 そうです。

田所 事件についての裁判所の判断は、極めて妥当だと思いますが、この事件は多様な問題を含んでいるように思います。「禁煙ファシズム」や「スラップ訴訟」の側面もありますし、映画化で焦点化された「化学物質過敏症」の問題にも関わります。

黒薮 この事件について知った時、最初に感じたのは訴訟自体がおかしいということです。約4500万円を藤井さんは請求されていたわけで、これは一般に言われている「スラップ訴訟」だと感じました。厳密にいえば「スラップ訴訟」は住民運動などに対する大企業による訴訟を指しますが、日本では広く「不当な訴訟」と理解されています。それが問題だと思ったのが藤井さんを支援した理由の一つです。また禁煙ファシズムの問題も感じました。

田所 その時点でこの事件が映画化されることは予想されましたか。

黒薮 映画になることは予想はしなかったです。ただ、最初藤井さんにお会いした時に書籍にまとめるべき重いテーマだと思いました。藤井さんにも、書籍にすれば広く訴えることができますよ、と伝えました。


◎[参考動画]映画 [窓] MADO 予告篇

 
田所敏夫さん

◆スラップ訴訟の後ろに宗教団体?

田所 この事件で原告を支えたのは日本禁煙学会とその理事長である作田学氏ですか。

黒薮 日本禁煙学会は、原告を組織的に支援したということは否定していますが、作田氏は5本も意見書を裁判に書面を出しています。意見書などですね。一般的に専門家に意見書を書いてもらうには1通につき30万円位かかると言われています。そうすると常識的には個人が負担するには過重ですよね。ですから何らかの組織が原告支援に関わった可能性は高いと思います。

田所 聞き及ぶところによると何某教の方々と仲のいいかたがただと伺いました。

黒薮 そうですね。

田所 藤井さんも、田所の認識と同じだ、とおっしゃっています。

黒薮 私もそうだと思います。本当のところはね。

田所 「宗教と政治」が昨年大きな問題になりました。もしも宗教がスラップ訴訟の後ろにいることが事実であれば、大変なことですね。

黒薮 宗教団体、とくに新興宗教の人たちは自制心なしに感情に任せて行動してしまう人が多いです。そのような流れが背景のひとつにはあったと思います。(つづく)

◎遠慮・忖度一切なし!《本音の対談》黒薮哲哉×田所敏夫
〈01〉「スラップ訴訟」としての横浜副流煙事件裁判
〈02〉横浜副流煙事件裁判のその後 
〈03〉禁煙ファシズムの危険性 ── 喫煙者が減少したことで肺がん罹患者は減ったのか? 
〈04〉問題すり替えに過ぎない“SDGs”の欺瞞
〈05〉「押し紙」は新聞にとって致命的

▼黒薮哲哉(くろやぶ てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
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黒薮哲哉『禁煙ファシズム-横浜副流煙事件の記録』(鹿砦社)

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。著書に『大暗黒時代の大学──消える大学自治と学問の自由』(鹿砦社)がある。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

田所敏夫『大暗黒時代の大学 消える大学自治と学問の自由』(鹿砦社LIBRARY007)

化学物質過敏症をめぐるツイッター「炎上」、知的な人々による軽い言葉の発信、毎日新聞の元記者も 黒薮哲哉

デジタル鹿砦社通信(1月14日付け)で紹介したYouTube番組に、SNS上で波紋が広がっている。ニューソク通信が配信した須田慎一郎さんの下記インタビュー番組である。既にアクセス数は、10万件を超えた。


◎[参考動画]内部告発で医療界に激震!!安易な診断書交付が悲劇を生む!!化学物質過敏症の深い闇!!横浜副流煙裁判との共通点とは…?

配信直後からSNS上で、出演者に対する批判が広がった。それ自体は、議論を活性化するという観点から歓迎すべき現象だが、ツィートの内容が事実からかけ離れたものがある。わたしに対する批判のひとつに、「取材不足」という叱咤があった。化学物質過敏症がなにかを理解していないというのだ。

 

◆「その他のご質問に関しましては、回答を控えさせて頂きます」

この番組は、化学物質過敏症の専門医である宮田幹夫医師による診断書交付に科学的根拠が乏しいという主張を、舩越典子医師が展開したものである。患者の希望に応じて、宮田医師が診断書を交付している節があるという告発である。

告発の根拠となったのは、宮田医師が舩越医師に送付した書簡だった。そこには舩越医師が宮田医師に紹介した患者についてのコメントが記されている。患者が精神疾患なのか、それとも化学物質過敏症なのか診断できないのに、「エイヤア」の精神で診断書を交付した経緯を宮田医師が自ら記している。舩越医師はそれを医師としての重大な過ちと受け止めたのである。

既に述べたように、SNS上で炎上しているわたしに対する批判のひとつに「取材不足」という指摘がある。わたしが宮田医師や他の専門医を取材していないという批判である。たとえば網代太郎氏の次のツイートだ。

黒薮氏は、おそらく宮田医師へ取材していない。他のMCS専門家へも取材していないであろう。舩越医師一人の見解を検証もせずに、たれ流している。
彼が、自称ジャーナリストに過ぎないことは、以前から分かっていることであるが。

 

わたしは11月30日(2022年)に、宮田医師に対して書面で質問状を送付した。それに先立って取材を申し込んだが、宮田医師に応じる意思がないことが分かったので、書面での質問状送付に切り替えたのである。質問事項に関しては、プライバシーにかかわることが含まれているので公表しないが、回答(鹿砦社のファックスで受診)は極めて単純なものだった。次のような文面である。

 この度は取材のお申し込みを頂き、ありがとうございました。
 お問い合わせのありました化学物資過敏症の診断基準については、1999年に米国国立衛生研究所主催のアトランタ会議において、専門家により化学物質過敏症の合意事項が設けられております。こちらをご確認頂ければと思います。
 その他のご質問に関しましては、回答を控えさせて頂きます。
 ご理解頂きますように宜しくお願い申し上げます。

網代氏は、わたしが宮田医師以外の専門医を取材していないと述べているが、これも事実ではない。たとえば数年前に内田義之医師に対するインタビューを「ビジネスジャーナル」に掲載している。

※黒薮哲哉「芳香剤や建材等の化学物質過敏症、急増で社会問題化か…日常生活に支障で退職の例も」(2018年5月11日付け「ビジネスジャーナル」)

内田医師は、次のように日本の診断基準を批判している。

私は、日本も米国の診断基準を採用すべきだと考えています。グローバルにデータを比較するという意味でも、日本の診断基準は問題があります。これでは化学物質過敏症の実態を、ほかの国と比較することはできません。ですから専門家が議論して、新たに診断基準を決めるべきでしょう。これは国の役割であると考えます。

化学物質過敏症に罹患した患者の声については、別の機会に紹介しよう。

◆ツィッターの社会病理

ちなみに網代氏は、毎日新聞の元記者である。この問題についてわたしや舩越医師を批判するツイートを多数発信している。

投稿者は頭に閃いたことをそのまま発信してしまう傾向がある。新聞記事を執筆する際には、十分な裏付けを取るが、ツイッターとなると網代氏のような中央紙の記者経験者でも、安易に言葉を発信する傾向があるようだ。

余談になるが、わたしはツイッターの「中毒」になった人達を何人も見てきた。その中には政治家や弁護士、大学教授なども含まれている。若者もいれば、高齢者もいる。軽薄な言葉を吐き散らしていて、言葉に対する感性の鈍さを見せ付けられた。

◎[過去記事リンク]禁煙ファシズム http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=114

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
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黒薮哲哉『禁煙ファシズム-横浜副流煙事件の記録』
タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2023年2月号

ニューソク通信が不正な診断書交付の問題を報道、舩越典子医師が実名・顔出しで内部告発 黒薮哲哉

YouTube配信サイトであるニューソク通信は、1月8日、診断書の不正交付をめぐる問題をクローズアップした。タイトルは、「内部告発で医療界に激震!! 安易な診断書交付が悲劇を生む!! 化学物質過敏症の深い闇!! 横浜副流煙裁判との共通点とは…?」。

番組のキャスターはジャーナリストの須田慎一郎さんで、出演者は舩越典子(典子エンジェルクリニック、大阪府堺市)医師と筆者(黒薮)の2名だった。

周知のように横浜副流煙裁判では、日本禁煙学会の作田学医師が原告のために交付した診断書が問題になった。客観的な事実とは異なる所見が記された診断書が争点のひとつに浮上した。しかも、その診断書を根拠に、被告に対して原告が4500万円を請求したのである。

この裁判では、宮田幹夫・北里大学名誉教授(そよ風クリニック)も、原告のために診断書を交付していた。それは「化学物質過敏症」の病名を付したものであった。

この診断書自体に何か問題があるわけではないが、昨年の暮れごろから、舩越典子医師が、宮田医師の診断書交付行為そのものを疑問視する声を上げた。

「化学物質過敏症」の病名を付した診断書を容易に交付しているというのである。筆者も、このような宮田医師に対する評価は、取材先でよく聞いていた。

「宮田先生のところへ行けば、診断書を交付してもれる」
 と、言うのである。

◆そよ風クリニックへ患者を送れ

発端は、舩越医師の外来を受診した女性患者だった。舩越医師は、問診や眼球の動きをみる検査などを実施した。検査結果の評価については、外部の専門家にも相談した。その上で化学物質過敏症とは診断しなかった。それでも念のために患者を宮田医師に紹介した。宮田医師はこの患者を診察して、化学物質過敏症の病名を付した診断書を交付した。

患者に対する所見は医師によって異なるのが普通だから、最初、舩越医師は宮田医師による診断を疑問視することはなかった。ただ、宮田医師が実施した検査の結果を知りたいと思ったという。

ところがその後、宮田医師が舩越医師に対して書簡を送付し、その中で前出の患者について、精神疾患か化学物質過敏症かを判断できないまま、「化学物質過敏症」の病名を付した診断書を交付した旨を伝えてきたのである。しかも、今後、舩越医師が化学物質過敏症の診断に迷う時は、患者を自分のクリニックへ送るように言ってきたのである。検査結果は添付されていなかった。

昨年末、筆者は現場に足を運びそよ風クリニックを確認した。左の建物の2階がクリニックで、右の1階がコインランドリー

◆顔出し・実名による内部告発
 
わたしは、横浜副流煙裁判(反訴)の原告・藤井敦子さんを通じて舩越医師と面識を得た。藤井さんは、不正な診断書交付により被害を受けたこともあって、この診断書の不正交付には敏感だった。そこでニューソク通信にネタを持ち込んだ。

ニューソク通信は、宮田医師の診断書交付をテーマとしたYouTubeを制作することを決めた。最初は筆者がひとりで津田信一郎さんのインタビューを受ける予定になっていた。と、いうのも舩越医師が顔出し・実名による内部告発を嫌ったからだ。

しかし、藤井さんが、実名で告発するように舩越医師に強く勧めた。それに応じて、舩越医師がカメラの前で実名を名乗り、事件の詳細を語ることを決意したのである。

◆日本の言論の自由度

いつの時代からか、メディアに登場する際には、顔と実名を隠すのが半ば当たり前になってしまった。ドキュメンタリーの原則が無くなっていた。その悪しき影響をわたしも受けていたのか、最初、舩越医師の名前を匿名にすることに疑問をさしはさむことはなかった。

しかし、冷静に考えてみると、特別な事情がある場合は別として、実名で顔をだして内部告発するのが常識なのである。何も悪いことはしていないうえに、他人を批判するときは、自身の責任を伴うからだ。

ちなみに横浜副流煙裁判(反訴)の原告・藤井夫妻は最初から実名主義を貫いている。それが功を奏して、裁判を通じて禁煙ファシズムに対する批判はどんどん拡散している。強い説得力を発揮している。

舩越医師が藤井さんとコンタクトを取れたのも、実名を名乗り素顔を出していたからにほかならない。こんな当たり前のことが困難に張っている背景に、日本の言論の自由度が現れていないか。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
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黒薮哲哉『禁煙ファシズム-横浜副流煙事件の記録』
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知覚できない新世代公害の顔、『[窓]MADO』が16日から池袋HUMAXシネマズで上映 黒薮哲哉

たとえば隣席の同僚が使っている香水が神経に障って、使用を控えるように要望する。同僚は、取り合ってくれない。けんもほろろに撥ねつけた。総務部へも相談したが、「あの程度の臭いであれば許容範囲」と冷笑する。

次に化学物質過敏症の外来のあるクリニックを訪れ、すがるような気持ちで診断書を交付してもらい、それを持って再び総務部へ足を運ぶ。やはり拒絶される。そこでやむなく隣席の同僚に対して高額な損害賠償裁判を起こす。

化学物質過敏症を訴える家族が団らんする場面

夜が深まると壁を隔てた向こう側から、リズムに乗った地響きのような音が響いてくるので、隣人に苦情を言うと「わが家ではない」と言われた。そこでマンションの管理組合に相談すると、マンションに隣接する駐車場の車が音の発生源であることが分かった。「犯人」の特定を間違ったことを隣人に詫びる。

新世代公害の正体は見えにくい。それが人間関係に亀裂を生じさせることもある。コミュニティーが冷戦状態のようになり、住民相互に不和を生じさせるリスクが生じる。

◆実在の事件をドラマに、ロケは事件現場

 
左から主題歌「窓」の作曲者:Ma*To、主題歌を歌う小川美潮、音楽を担当した板倉文の各氏。Ma*To氏は横浜副流煙裁判の被告として法廷に立たされた。

デジタル鹿砦社通信でも取り上げてきた横浜副流煙裁判をドラマ化した『[窓]MADO』(監督・麻王)の上映が、池袋HUMAXシネマズ(東京・池袋)で12月16日から29日の予定で始まる。

煙草による被害を執拗に訴える老人を西村まさ彦が演じる。また、煙草の煙で化学物質過敏症になったとして隣人から訴えられ、4500万円を請求されるミュージシャンを慈五郎さんが演じる。慈五郎さんは、上映に際して次のようなメッセージを寄せている。

「煙草がメインテーマになってくる話なのですが、今、煙草自体を吸うシーンが、あまり見られなくなっています。コンプライアンスの問題だと思いますが。その意味で、こんなに真っ向から煙草をテーマにした映画っていうのは、勇気もいるだろうし、共感できる部分も色々あります」

この映画は実際に起きた事件をベースにしたドラマである。ロケも事件現場となった横浜市青葉区のすすき野団地で行われた。その意味では、事件をドラマで再現したと言っても過言ではない。

しかし、法廷に立たされた被害者であるミュージシャンを擁護した映画ではない。ミュージシャンを訴えた家族の立場からも事件を考察して、新世代公害の複雑な側面を描いている。その意味では客観性が強い作品である。

◆新世代公害という未知の領域

かつて公害といえば、赤茶けた工場排水が海へ放出されている光景とか、工場の煙突から黒々としたスモッグが立ち昇る場面など、具体的なイメージがあった。従ってカメラは問題の所在を特定することができた。それゆえに映像化も容易だった。

ところが新世代公害は正体が見えにくい。それゆえにマスコミの視点もなかなかそこへは向かない。が、水面下では公害の世代交代が急速に進んでいて、新しい形の被害を広げている。コミュニティーの破壊をも起こしている。

米国のCAS(ケミカル・アブストラクト・サービス)が登録する新生の化学物質の件数は、1日で1万件を超えると言われている。複合汚染を引き起こす。

新世代公害の実態は大学の研究室の中ではある程度まで解明されていても、どのように人間関係やコミュニティーを分断していくのかという点に関しては考察されてこなかった。映像ジャーナリズムも、この点を凝視することを怠ってきたのである。背景に利権があるからだ。

『[窓]MADO』は、この未知の領域に正面から挑戦した作品である。


◎《予告編》映画 [窓]MADO 12/16(金)公開 @池袋HUMAXシネマズ

■『[窓]MADO』の公式サイト https://mado-movie.jp/

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
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黒薮哲哉『禁煙ファシズム-横浜副流煙事件の記録』
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