滝本太郎編著『トランスジェンダー神話 幻想と真実』をお届けするにあたって 鹿砦社代表 松岡利康

本年はオウム真理教事件から30年が経ち、メディアでもいろいろと報じられております。その詳細はここでは置いておきまして、殺気立ったオウムに敢然と立ち向かいカルトとの命を懸けた闘いを行った一人、滝本太郎弁護士が、ご存知のように、ここ数年闘っているのが新たなカルト=トランスジェンダリズム(性自認至上主義)です。

当社は、森奈津子編著『人権と利権 「多様性」と排他性』を、一昨年のLBGT法案が国会で審議―採択されるにあたり上梓し、以降、医師としての専門知識、堪能な語学力を駆使した女医・斉藤佳苗著『LGBT問題を考える 基礎知識から海外情報まで』、女性スペースを守る諸団体と有志の連絡会編著『LGBT異論 キャンセル・カルチャー、トランスジェンダー論争』、同『LGBT問題 混乱と対立を超えるために』、そして今回の『トランスジェンダー神話 幻想と真実』と5冊のLGBT問題関連書を発行してまいりました。累計5冊目となりますが、どの書も、決してLGBT関係団体や当事者といたずらに対立するのではなく、当事者の方々の声を盛り込みつつ、混乱を乗り越えるにはどうすべきか、問題提起をしてきました。

本書は、滝本太郎弁護士が、みずからの論考を数編収めつつ、単独で編纂されましたので、これまでの書とはまた違う趣きがあるものと思います。

当社は、LGBT諸団体や活動家におもねるのではなく、少しでも多角的に、提起された諸問題に取り組むために、今後もこの問題に切り込む書を漸次発行していきたいと考えています。月刊ペースは物理的に厳しくとも年間5~6点ほどの発行を考えています。

LGBT問題についての出版物のほとんどが「性の多様性」の名のもとにLGBT諸団体や活動家の主張礼賛の中で、これに異議を唱える出版物は極めて少ないです。「多様性」というのであれば、「多様」な意見を出し合い対話や議論しなければ混乱は収まりません。というと、「ノーディベート(議論しない)」と逃げるのなら話になりません。

皆様方には、私たちがなぜこの問題に関わり始めたのかご理解いただき、何卒ご購読をお願い申し上げます。(松岡利康)

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トランスジェンダー神話 幻想と真実

滝本太郎=編著
A5判 総164ページ(巻頭カラー4ページ+本文160ページ)
定価990円(税込み)3月27日発売!

オウム事件から30年 ──
命をかけてカルト=オウム真理教と闘った弁護士・滝本太郎が今、
新たなカルト=トランスジェンダー神話と闘う渾身の書!

1 座談会 ホルモン治療の現実 ── 当事者が語る身体的・社会的影響
2 美山みどり 私のこと ── 性同一性障害特例法を守りたい
3 浅利 進 性同一障害は「思い込み」なのか?
4 性同一障害特例法を守る会 最高裁へのメッセージに現れた「当事者のホンネ」
5 美山みどり 「性別」を変えることの難しさ
6 性同一障害特例法を守る会 [書評]『「性別」医療現場の苦悩——「手術なし」をどうやって…』
7 滝本太郎 トランス女性が希望するトイレ ── TOTOアンケートから
8 滝本太郎 外観要件は合憲である ── 広島高裁
9 滝本太郎 極端な主張と日本学術会議・関東弁護士会連合会(関弁連)の責任
10 滝本太郎 清水晶子氏の論理不明
11 森谷みのり 女性スペースを守る会の闘い ── 裁判の陳述から
12 滝本太郎 東京高裁——「悪質トランス差別団体」との表現は違法な名誉毀損
13 田中あつこ 性犯罪被害の支援者が、なぜこの問題にかかわるのか ── 参加者の発言をきっかけに
14 森 奈津子 トランス男性活動家の運動手法を問う
15 岩佐 凪 公共空間における多様性や安全性、オールジェンダートイレや女性専用スペースに関する課題
14「女性スペースの安心安全確保法案」の説明

小説家51名、映画監督97名の声明責任 ─ 李琴峰氏のカミングアウト ─ 滝本太郎(弁護士)

去る11月20日、小説家51名、映画監督97名の、トランスジェンダーにつき「苛酷な差別言説が氾濫」などという2つの声明が出た。前者は、同日発売の『小説新潮』12月号にも掲載され、その問い合わせ先として指定されている柚木麻子氏、山内マリコ氏の対談がある。

対談から分かることは、発案者は李琴峰氏で、米国保守派が、同性婚が実現したので次の標的としてトランスジェンダー差別をし、その波が日本に上陸、翻訳して拡散させている、と説明している。

偽りである。女子トイレを男性器ある人の一部が利用公認される考えなぞは、外国の動きと関係なく多くの人が反対する。筆者も孫娘らを心配し、酷い刑事事件も扱ってきたから、少しでも女子トイレに入りやすくなってはならず、反対している。考えてみればトランス女性は男性の多様性であり、男子トイレを「共用に戻して」解決できるものでもある。

声明は第十稿目で完成したという。山内氏いわく「メッセージはマイルドにしつつ、メッセージは伝わる形に落とし込んでいく ── その塩梅に気を遣いました。」「世界的には、ブラック・ライブズ・マター以降、声を上げないと差別に加担していると受け取られても弁明できない流れがあると感じています」という。

声明には、肝心な「何をもって、差別とするか」の記載がなかったが、対談でも分からない。対談は、性自認至上主義での論争点である「女性スペース」や「女子スポーツ」という単語さえもない代物である。そして、李氏はこの対談でも自らが生得的男性であることは述べていない。

その李氏は、この2つの声明が発表された同日、自らインターネット上のnoteに、強いられてトランスジェンダーであることをカミングアウトする、として6400字程の声明を出した。中国語と英語での文章も出した。

驚くべきは、その中では、生得的には男性であることを中国語で示した市井の女性の、名前、住所街区が示され、その他の人についても情報を下さい、としたことである。ドキシング「身バレ攻撃」である。

李氏は、この女性を被告としてプライバシー侵害を理由に台湾の地方裁判所に提訴していたのだが、10月31日に全面敗訴したところだった。李氏は同様に筆者に対しても東京地裁に提訴しているが、11月13日李氏代理人にも生得的男性であることの様々な証拠を出したところだった。このnoteは、こんな個人情報を示したからだろう、翌日には運営側から閉鎖された。が、李氏はフェイスブックに更に台湾女性の誕生日や出身大学まで書いたものを掲載した。

筆者は、李氏が架空のものである小説でどのように記述しても問題としない。しかし、李氏は、エッセイや新聞記事への寄稿において、性自認至上主義を進める立場の者としての見解を示している。そこには、女性、レズビアンとの紹介があるだけである。多くの人は芥川賞を受賞した著名な「生得的女性の意見だ」と誤解する。
実は李氏は、多くの文章で様々な立場の「真ん中だ」として、トランス女性であることも匂わし、いわばそれをウリもしてきた方でもある。更には女性の買春の事実などまでエッセイ「愛おしき痛み」に書いている(リレー・エッセイ集『私の身体を生きる』、2024年5月文藝春秋社)。李氏は、リアルの世界でも性自認至上主義を進めようとするならば、「生得的男性だ」と指摘されても、受忍すべき立場ではなかろうか。

「性同一性障害特例法を守る会」の代表で、李氏と同じく法的女性になっている美山みどり氏は、こう述べている。

「意見はそれを言った人とは切り離して扱われるべきだ」という考え方もありますが、しかし、そういう客観性を破壊して「当事者でなければわからない現実がある」などと「立場理論」を振りかざしてきたのは、李氏を含むトランス活動家の側なのです。二重の意味で「誰が言っているか」がきわめて重要な問題なのです。私自身、李琴峰氏と同じく、男性から女性へと性別移行した者として言います。議論の当事者として、自らの立場を隠して議論するのは、アンフェアで不誠実なやり方であると。

◎美山みどり「李琴峰氏のカミングアウト問題について」 https://note.com/gid_tokurei/n/n49907a16cdbf
 
今回の、「苛酷な差別言説が氾濫」といいつつ、何をもって差別とするのか書かない、書けない各声明は、「トランス女性は女性だ」と言う思想運動に対して疑義を述べるな、議論拒否という雰囲気づくりの役目をはたす。あわせて、その中心人物である李琴峰氏のこのような不誠実な姿勢を、ガードする役目を果たす効果をもつこととなった。李氏が「強いられた」とするカミングアウトの露払いのような声明だった。

小説家は子どもではない、映画監督も子どもではない。この148名は責任をもって、これらの疑問について答えなければならない。

LGBTQ+差別に反対する小説家の声明

トランスジェンダーを含むLGBTQ+差別に反対する映画監督有志の声明

▼滝本太郎(たきもと・たろう)
1957年神奈川生。市井の弁護士。オウム真理教と闘う。信者との話し合い活動や被告人らとの面談によりカルト心理を知る。脱会者の集まり「カナリヤの会」窓口、日本脱カルト協会の元事務局理事。女性スペースを守る諸団体と有志の連絡会世話人。共著に『宗教トラブル110番』(2015年民事法研究会)、『LGBT異論』(女性スペースを守る諸団体と有志の連絡会=編著/2024年鹿砦社)

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