話題の「全裸監督」は原作もいいが、著者の「その前の2作」も名著過ぎる!

AV監督・村西とおる氏の半生を描いたNetflixのオリジナルドラマ「全裸監督」があちらこちらで大絶賛されている。筆者も観てみたが、「地上波では放送できない」とのフレコミ通り、性描写は過激だし、有名俳優が多数出演しているし、素人目にもセットやロケ地に手間や金がかかっていることはわかる。ストーリーも中毒性があり、たしかに楽しめる作品だ。


◎[参考動画]『全裸監督』予告編 2 (Netflix Japan 2019/07/24公開)

そんな話題作は、文筆家・本橋信宏氏の著作「全裸監督 村西とおる伝」(太田出版)が原作。712ページから成る分厚い本で、村西とおるという「絶対教科書に載らない偉人」の半生を克明に記録し、後世に残そうという著者の執念や使命感が感じられる一冊だ。ドラマのヒットでこの本にも注目が集まっているようなのは、喜ばしいことである。

もっとも、ほとんど予備知識がない人がこの本をいきなり手にとると、ボリュームがあり過ぎて、最後まで読み切るのがしんどいのではないかと思われる。そこで、筆者が「初学者」にお勧めしたいのが、著者の本橋氏が「全裸監督」以前に村西氏のことを書いた2作、1996年12月発行の「裏本時代」と1998年3月発行の「アダルトビデオ 村西とおるとその時代」(いずれも単行本の版元は飛鳥新社)だ。

本橋信宏「裏本時代」(1996年)

◆「裏本の帝王」だった村西氏

この2作は、「全裸監督 村西とおる伝」に比べると、ボリュームが少なく、一人称の小説のような文体で書かれているので、たいへん読みやすい。それでいながら、1つ1つのエピソードも詳細に綴られており、時代の空気もよく伝わってきて、端的に言えば名著である。

まず、「裏本時代」。これは、村西とおる氏がアダルトビデオに進出する前、草野博美という本名で「裏本の帝王」として君臨していた頃の生きざまを活写したノンフィクションだ。本橋氏が当時の村西氏を取材して知り合い、関係を深め、やがて、村西氏が営む新英出版が創刊した写真週刊誌「スクランブル」の編集長となって奮闘する日々が描かれている。

インターネットは影も形もなく、ビデオデッキを所持する一般家庭もまだ少数だった80年代初頭、世の人々がビニ本や裏本に熱を上げ、FOCUSの成功に端を発する写真週刊誌ブームが過熱したりした時代の空気も行間からあふれ出ている作品だ。

ちなみに同書によると、書店を全国展開し、多数の営業マンを雇ってビニ本、裏本を売りさばいた当時の村西氏は、「流通を制する者が資本主義を制する」と言い、ビニ本、裏本の販売ルートを使って「スクランブル」を日本一の写真週刊誌にしようとしていたという。

結局、新英出版が資金繰りに窮して倒産し、スクランブルも廃刊となってしまった。とはいえ、30年余り経った現在、インターネット企業やコンビニが「流通」を制し、隆盛を極めているのを見ると、当時から流通を重視していた村西氏はやはり慧眼の持ち主だったのだと改めて感心させられる。話題の「全裸監督」にしても、地上波のテレビ局では「流通」させられないドラマをNetflixというインターネットメディアが「流通」させているのだというとらえ方もできる。

本橋信宏「アダルトビデオ 村西とおるとその時代」(1998年)

◆ジャニーズ事務所との攻防

一方、「アダルトビデオ 村西とおるとその時代」は、裏本が摘発され、服役した草野博美氏が出所後、AV監督の村西とおるとなり、今度は表社会でのし上がっていく様を描いたノンフィクションだ。この時代も本橋氏は村西氏と行動を共にし、村西氏の成功と挫折のすべてを間近で観察し続けている。それだけに描写は細部に至るまで迫真性に富んでおり、実にエキサイティングなのである。

そしてその中では、地上波のみならず、Netflixでも描くのは難しかったのではないかと思えるエピソードも頻出する。中でも最大の見せ場は、ジャニーズ事務所とのガチンコバトルだ。

その発端は、村西氏の作品に出演したAV女優が、当時人気絶頂だった田原俊彦氏との情事を週刊誌で告白したことだった。ジャニーズ事務所側からそのことについて抗議され、村西氏は逆に激怒する。そしてジャニーズ事務所のスキャンダルを集めようと躍起になる中、かつてジャニーズ事務所に所属した元フォーリーブスの北公次氏と出会い、北氏に告白本を書かせたり、マジックをやらせたりするのである。

当時も今も全マスコミが及び腰になるジャニーズ事務所相手に、このように村西氏が何ら臆することなく、真っ向から喧嘩をふっかけていく様は実に痛快だ。

本橋氏は同書において、「この男のやることはいつも退屈な現実を『少年ジャンプ』のような世界に変えてしまう」と評しているが、村西氏はまさにその通りの人なのだろう。だからこそ、本橋氏はずっと村西氏のそばにいたし、村西氏の記録を残そうと、この2作を書き残し、さらにあの大部な本「全裸監督 村西とおる伝」まで上梓したのだと思う。

そう書いて気づいたのだが、ドラマ「全裸監督」もどこか『少年ジャンプ』のようである。それが中毒性の秘密かもしれない。


◎[参考動画]The Naked Director(全裸監督)- Kaoru Kuroki(黒木香) Real Life Character(Coconut Omega 2019/8/11公開)

▼片岡健(かたおか けん)
全国各地で新旧様々な事件を取材している。著書『平成監獄面会記』が漫画化された『マンガ「獄中面会物語」』(著・塚原洋一/笠倉出版社)が発売中。

創業50周年 タブーなき言論を! 月刊『紙の爆弾』10月号絶賛発売中!
「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

福島民報、福島民友が紹介しない飛田晋秀さんの写真集「福島の記憶 3.11で止まった町」に写る福島復興の真実 『NO NUKES voice』ルポ〈7〉

1947年、福島県三春町に生まれた写真家の飛田晋秀さんは、2009年全国の職人さんを撮って欲しいと依頼され、翌年から北海道を皮切りに全国の職人を撮って回り、最後に長崎から九州を一回りしたのち、いよいよ編集作業に入ろうとしていた矢先、東日本大震災と原発事故にあった。当初「報道カメラマンでもないから」と、被災地の写真を撮ることを躊躇していた。しかし4月中旬、小名浜に訪ねた知人から、津波で7名の仲間を亡くした話を聞き、こうした記憶を風化させてはならないと、写真を撮ろうと決めた。

帰還困難区域に初めて足を踏み入れたのは2012年の1月。しかし、変わり果てた町並みを目の当たりにした飛田さんはシャッターが押すことが出来なかった。そんな飛田さんが、今では既に100回以上、帰還困難区域などに入り、写真を撮り続けている。

富岡町。車も人もいない街路、信号だけが機能している(2012.1.31)
富岡町。国道6号電光掲示板2.409マイクロソフトシーベルト(2018.4.11)

そのように変わったのは、2012年8月、避難所で会った小学2年生の女の子に「大きくなったら、お嫁にいける?」と聞かれたからだ。心臓が止まりそうになったという飛田さん。しばらく何も言えず、ようやく口にできたのは「ごめんね」のひとことだった。

号泣しながら車で帰りながら「自分には何ができるのだろうか?」と悩み続け、飛田さんは決意した。「命がある限り、被災地に入り、人がいなくなった街を撮り続けていこう。あの女の子のような若い人たち、それから後世に生きていく人たちに、福島の真実を伝えていくために…」と。

国道6号線、放射線量は、電光掲示板でも0.92マイクロシーベルト~2.409マイクロシーベルトの場所があり、福島第一原発に近くなる程高くなる。国道脇の民家に人が侵入しないよう、バリケードが設けられているが、警備する警察官は防護服もマスクも着けていない。富岡から浪江までの14.1キロは、歩行もバイクも禁じられている。車で走行中も車外に長く留まってはいけない。

除染で出た汚染物を入れたフレコンバックを、中間貯蔵施設(大熊町、双葉町)に搬入する作業が急ピッチで進む。昨年1200台から、今年は倍近い2400台に増えたトラックが、粉塵を撒き散らしながら走っている。国道6号線と同じく、一部が帰還困難区域を走行する国道228号線で、3月27日、大きな交通事故が起きた。写真では、車が脱輪しているのがはっきりわかるが、環境省は東京新聞の記者の取材に、「脱輪はしていない」と頑なに否定した。高線量のため、長時間車外にいてはいけないことになっているが、警察官らは、レッカー車が到着するまで4時間も道路に立ち続けていた。全員マスクもなしに。

大熊町。事故を起こして脱輪してしまった大型ダンプ(2019.3.27)

4月に町の一部が避難指示解除された大熊町役場の新役場の建設現場(施工は鹿島建設)。1月3日、役場前で0.35マイクロシーベルトを計測した。7月12日に完成した新役場の総工費用は約31億円。町には事故前、11000人いたが、戻るのはわずか約25名程度だと町会議員の人がいう。(ただし、役場近くの大河原地区の東電社員寮の社員と、住民票を町に移している建設現場の作業員を含めて『帰還者数』は700人プラスしてカウントされるという)

役場職員は会津若松市を朝5時半に出て車で通う。他の職員も郡山、いわき、南相馬などから通っているという。住民には「帰れ!帰れ!」と言うくせに…。今後31億円かけた新役場をどう維持していくのか?

1月3日撮影。大熊町大川原地区、役場から1.5キロ、福島第一原発から9キロの場所に、2018年に完成した給食センター。地元の人を中心に100人雇用すると言われた。福島第一原発の作業員に、1日3000食の給食を提供している。空調設備の整った調理場は、0.07マイクロシーベルト程度だろうが、工場の外は1.1マイクロシーベルト。給食を福島第一原発に運ぶ作業員の被ばくはどうなるのか?あるいは運搬する途中、給食への影響はないのだろうか?影響があるとしたら、被ばくを強いられながら作業をする労働者を一層被ばくさせることにはならないか?

大熊町役場建設中(2019.1.3)
大熊町に建設された給食センター。1日3000食の給食を作っている(2017.1.3)
雨どいの線量27.4マイクロソフトシーベルト(2014.3.27)

帰れない、入ってはいけない帰還困難区域を、防護服もマスクもつけずに除染する作業員。飛田さんの線量計は、車中で0.5マイクロシーベルト。「入れないところをなぜ除染するの?そこで何を作るの?」。飛田さんは現場の監督に聞いた。「(上から)やれと言われたことをやっているだけです」という返事が返ってきた。

帰還困難区域の飛田さんの知人の家。2014年から2018年の4年間で、玄関に入るのが困難なほど木が大きくなった。2014年撮影時、玄関先で2.24マイクロシーベルト、線量が高くなりやすい雨どい付近は、27.4マイクロシーベルトだった。同じ雨どい付近で昨年は測ったら、なんと43マイクロシーベルトと倍近くあった。国は徐々に下がってくると言うが、逆に上がる場所もある。

大熊町。帰還困難区域の田んぼを除染してどうするのか(2018.7.27)
大熊町。4年前に撮影。木が背丈よりも伸びている(2018.7.26)
飯舘村。除染作業員が昼寝被爆が心配(2015.8.4)
一時帰宅してくると斑点ができ物凄く痛痒い。原因は解らない。避難先に戻ると4.5日位から消えていく(2017.1.6)

飛田さんの車中で0.96マイクロシーベルトもある場所で、休憩中の除染作業員が道路で昼寝している。被ばく防護の安全教育はきちんと受けているのだろうか? 今後、被ばくが原因の健康被害は増えるだろうが、そもそも「放射能は危険」の教育も受けていなければ、体調を崩しても、除染(被ばく労働)が原因とは思いつかないのではないだろうか? 

50代男性の知人は、帰還困難区域の自宅に戻ると、必ず腕にぶつぶつが出る。かゆくて痛い。60代女性の知人も、このように赤くなる。線量の低い自宅に戻ると何日かで、すーと治る。病院でも原因はわからないという。こういうことはマスコミには一切でない。すべて隠されてしまう。

飛田さんの写真展は、地元紙(福島民報、福島民友)では掲載されないし、取材もされない。地元紙に掲載されるのは「復興した」という記事ばかり。2020東京五輪に向け、「復興した」と演出される被災地には、しかし、多くの戻れない、戻ってはいけない場所がある。飛田さんの新しい写真集「福島の記憶 3.11で止まった町」が訴えるのは、多くのメディアがもう伝えなくなった、そうした福島の「真実」だ。

飯舘村(2014.11.21)
 
飛田晋秀写真集『福島の記憶 3.11で止まった町』(2019年旬報社)

▼尾崎美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。最新刊の『NO NUKES voice』21号では「住民や労働者に被ばくを強いる『復興五輪』被害の実態」を寄稿

※本記事掲載の写真はすべて福島県三春町在住のカメラマン、飛田晋秀さんによるもので、飛田さんはこの2月に写真集『福島の記憶 3.11で止まった町』(旬報社)を出版している。

9月11日発売!「風化」に楔を打ちこむ『NO NUKES voice』21号 創刊5周年記念特集 死者たちの福島第一原発事故訴訟


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NO NUKES voice 21号
創刊5周年記念特集 死者たちの福島第一原発事故訴訟
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[グラビア]
福島で山本太郎が訴えたこと(鈴木博喜さん
原発事故によって自殺に追い込まれた三人の「心象風景」を求めて(大宮浩平さん

[報告]野田正彰さん(精神科医)
原発事故で亡くなった人々の精神鑑定に当たって 死ぬ前に見た景観

[インタビュー]伊藤さん(大手ゼネコン下請け会社従業員、仮名)
福島第一原発事故後の現場で私が体験したこと

[報告]伊達信夫さん(原発事故広域避難者団体役員)
《徹底検証》「東電原発事故避難」これまでと現在〈5〉
事故発生直後の中通り・会津地方の住民の受け止め方と、浜通りから福島県内に避難した人々の避難生活

[報告]鈴木博喜さん(ジャーナリスト/『民の声新聞』発行人)
「希望の牧場」吉沢正巳さんが語る廃炉・復興のウソ

[報告]尾崎美代子さん(「西成青い空カンパ」主宰、「集い処はな」店主)
住民や労働者に被ばくを強いる「復興五輪」被害の実態

[報告]本間 龍さん(著述家)
原発プロパガンダとはなにか〈16〉
酷暑下の東京五輪開催に警鐘を鳴らさないメディアの大罪

[報告]佐藤幸子さん(「子どもたちのいのちを守る会・ふくしま」代表)
福島の教育現場の実態 文科省放射線副読本の問題

[報告]山崎久隆さん(たんぽぽ舎副代表)
東海第二に経済性なし 原電の電気を買った会社も共倒れ

[報告]平宮康広さん(元技術者、富山在住)
僕たちが放射性廃棄物の地層処分に反対する理由

[報告]三上 治さん(「経産省前テントひろば」スタッフ)
選挙が終わって急に暑い日がやってきたのだけれど

[インタビュー]本誌編集部
志の人・納谷正基さんの生きざま〈3〉最終回

[報告]山田悦子さん(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈5〉記憶と忘却の功罪(前編)

[報告]板坂剛さん(作家・舞踊家)
悪書追放キャンペーン 第四弾!
ケント・ギルバート『「パクリ国家」中国に米・日で鉄槌を!』

[報告]佐藤雅彦さん(翻訳家)
原発“法匪”の傾向と対策~東電・国側弁護士たちの愚劣を嗤う~

[報告]再稼働阻止全国ネットワーク
原発は危険!「特重ない原発」はさらにもっと危険! 安全施設(特重)ができていない
原発を動かしていいのか? 安全施設ができるまでは動いている原発はすぐ止めよ!
《首都圏》柳田 真さん(たんぽぽ舎、再稼働阻止全国ネットワーク)
「特定重大事故等対処施設」のない各地の原発の即時停止を!
《北海道》佐藤英行さん(後志・原発とエネルギーを考える会)
泊原発3号機 再稼働目指せる体制か
《新潟》佐々木 寛さん(市民連合@にいがた共同代表、新潟国際情報大学教授)
参議院選挙 新潟選挙区について
《福島》宗形修一さん(シネマブロス)
「福島原発事故から遠く離れて」2019年参議院選挙福島選挙区からの報告
《東京》久保清隆さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
11・27ヒューマンチェーンで日本原電を追いつめよう 首都圏の反原発運動の現状と課題
《関西》木原壯林さん(若狭の原発を考える会)
来年4月から、原発稼働は電力会社の意のまま?
《福島》けしば誠一さん(杉並区議会議員、反原発自治体議員・市民連盟)
オリンピック前に終息も廃炉もできない福島第一原発
《香川》名出真一さん(伊方から原発をなくす会)
原発のない社会のために 蓮池透さん四国リレー講演会報告と今後の課題
《鹿児島》江田忠雄さん(脱原発川内テント)
いま、川内原発で何が起きているか
《規制委》木村雅英さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
東海第二の審査請求から逃げ、原子力緊急事態宣言を隠す原子力規制委員会
《書評》天野恵一さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
安藤丈将の『脱原発の運動史 ── チェルノブイリ、福島、そしてこれから』(岩波書店)

私たちは『NO NUKES voice』を応援しています!

『NO NUKES voice』Vol.21 https://www.amazon.co.jp/dp/B07X3QHYV6/

「風化」に楔を打ちこむ『NO NUKES voice』21号、本日9月11日発売!

◆9.11〈戦争の世紀〉と3.11〈原発の世紀〉

 
9月11日発売!「風化」に楔を打ちこむ『NO NUKES voice』21号!

「戦争の世紀」と呼ばれた20世紀が終わり、21世紀は少しはましな時代になってほしい。口には出さずとも、世界で多くのひとびとが、内心そう祈念するなか、2001年9月11日、米国への同時多発ゲリラ攻撃が、何者かにより敢行された。米国政府や、主たる国際メディアは「アルカイダ」の犯行説を吐き続けたが、事件以前、以後の様々な検証から、この同時多発ゲリラ攻撃は、米国による、自作自演ではないかとの疑義が今日でも根強い。

米国が、アフガニスタン、イラクへと一方的に戦争を仕掛けていったのは、この同時多発ゲリラ事件の反撃が名目だった。しかしの反撃はイスラム社会のひとびとにたいして、そもそも全くいわれのない侵略戦争であり、弁明の機会すら充分には与えられなかった。そして日本=小泉政権は、どさくさ紛れで自衛隊を派兵し、実質的な「参戦」に足を踏み入れた。イラク、サマーワ「参戦」で現地の指揮を執った人間が、現在の外務副大臣であることを、読者は御存知であろうか。

かくして、世界も日本も暗雲の中で21世紀の幕開けを迎えたのだ。今日に至るも中東では、相変わらず戦火が絶えない。軍産共同体は当面の武器消費地を、20世紀に引き続き、中東と定めたかのようだ。

あの日から18年経ったきょう、『NO NUKES voice』21号が発売される。冒頭米国への同時多発ゲリラ攻撃を取り上げたのは、昨日の本通信でも私見を述べた通り、「原発問題」の背景には目前の経済利益だけではなく、中長期的な国家や武装国家群、あるいは白衣を着た科学者然とした軍事研究者たちの思惑などの目論見が複雑に絡み合い、背景も非常に厄介な問題っであると認識するからだ。

◆蜃気楼の向こうに実在する希望を目指す

 
『NO NUKES voice』21号 グラビアより

20世紀終盤から米国の2大原発メーカーであるGE(ゼネラル・エレクトリック)とWEC(ウエスティングハウス・エレクトリック)は新規受注を得るのに、非常な困難に直面していた。もう原発の新設で利益は出ない、と考えた米国はこの2つの会社を日本に売り払った。GEは日立に、ウエスティンハウスは東芝に化けることにより、減益必至部門の切り捨てに成功する。

製造業のトップに君臨する日立、東芝がこのような愚か、かつ無益な選択をしていたからかどうかはわからないが、1995年の阪神大震災以来、地震の活動期に入っていた日本で、ついに賢人たち懸念していた「震災原発事故」が起こった。想定外でも、2万年に一度でもない。放置していれば必ず起こることが、やはり起こってしまった。

だが、福島原発第一原発事故が発生した2011年には、前述の自衛隊のイラクへの派兵、1995年阪神大震災発生から2か月で起こったオウム真理教によるサリン事件などを経て、マスメディアの神経中枢はすでに脳死しており、若手の記者は正確な情報の掌握方法すらわからない。わかったとしても伝えない。そしてどこにも法案化されてはいないが、独裁国家でもないのに、世界で一番ではないかと思えるほどに「従順化」した国民は、抗議の声すらあげはしない。

だから『NO NUKES voice』は砂漠を独歩で進むような、殺風景な時代にあっても、必ず蜃気楼の向こうに実在する希望を実現するために、歩みを進める責任がある。

◆熾烈を極める現場の状態

 
『NO NUKES voice』21号 グラビアより

今号の特集は《死者たちの福島第一原発事故訴訟》だ。

巻頭の野田正彰さんによる長編レポート「原発事故で亡くなった人々の精神鑑定に当たって 死ぬ前に見た景観」については、昨日、本通信でご紹介した。伊藤さん(仮名)の「福島第一原発事故後の現場で私が体験したこと」は、是非、注意深くお読みいただきたい。インタビューでお伺いした内容の相当部分は、伊藤さんの個人特定につながるので掲載していないが、それでもお答えの端々から、熾烈を極める現場の状態が伝わる。

伊達信夫さんの「《徹底検証》「東電原発事故避難」これまでと現在〈5〉 事故発生直後の中通り・会津地方の住民の受け止め方と、浜通りから福島県内に避難した人々の避難生活」は事故直後に地元の人々の受け止め方、と行動についての貴重な記録の第5弾である。今回は中通りと会津で起きていた、混乱と戸惑いなどについて詳細に報告がなされている。こういった具体的な記録を、定期的に掲載し、いわゆる「風化」に楔を打ちこむのも『NO NUKES voice』の役割だと認識する。

「『希望の牧場』吉沢正巳さんが語る 廃炉・復興のウソ」で行動の人、吉沢さんに話を聞いていただいたのは、鈴木博喜さんだ。吉沢さんは次々に現実を説明し、解説を加える。事故現地生活者であるだけではなく、分析者でもあり、運動家でもあるが、なによりも酪農家であることが、吉沢さんの地面から足が生えているような、肉声を造り出しているのかもしれない。

◆2020年復興五輪の欺瞞

 
『NO NUKES voice』21号 グラビアより

「住民や労働者に被ばくを強いる『復興五輪』被害の実態」は、大阪釜ヶ崎で安価な、おいしい食堂を切り盛りする尾崎美代子さんのレポートだ。内容は詳しく紹介しないが、日雇労働者の被爆問題に寄り添い、東京五輪の欺瞞を徹底糾弾する尾崎さんは、どのような社会問題を論じても、決して立脚点がずれることがない。こういうひとが町内に一人でもいれば、日本も少しは変わるであろう、と常々エネルギッシュな行動には、敬服させられる。本論考も鋭敏さに一寸のブレもなしだ。

本間龍さんの「原発プロパガンダとは何か? 酷暑下の東京五輪開催に警鐘を鳴らさないメディアの大罪」。やはり「反(脱)原発」を語るひとびとにとって「東京五輪」は避けて通れない、大難物であることが再度実感される。編集部が「東京五輪についてお願いします」と依頼したわけではないが、本号では多くのかたがたが「東京五輪」を指弾している。本間さんは冒頭「私が何度も五輪を取り上げる理由は、原発とマスコミの関係と、五輪とマスコミの関係は同じだからだ(注:著者要約)」と、実に明快に批判する理由を述べている。余計な言葉は不要だろう。

◆原発に無駄金を捨てている社会

佐藤幸子さんの「福島の教育現場の実態―文科省放射線副読本の問題」では、本誌に度々ご登場いただいている佐藤さんが、今回は文科省が副読本として配布している「放射能安全洗脳」の問題点を指摘する。この副読本は、福島県内だけではなく、全国の小中学校で配布されている。佐藤さんが指摘する問題点は明確だ。

山崎久隆さんは「東海第二に経済性なし 原電の電気を買った会社も共倒れ」で、日本一危険と言われる東海第二原発の問題を経済的な観点から指摘する。要するに無駄金を捨てている、に等しい論拠は読者の皆さんがお読みいただいて、ご確認いただきたい。

元技術者、平宮康広さんの「僕たちが放射性廃棄物の地層処分に反対する理由」は、独自の視点からの懺悔からはじまり、高レベル廃棄物の地層処分問題への提言で結ばれる。果して平宮さんが問いかけている問題はなんなのであろうか。そして回答はあるのか。

◆もう、それほど時間はない

常連執筆陣、三上治さんは「選挙が終わって急に暑い日がやってきたのだけれど」で、東京五輪問題、韓国との関係悪化、淵上太郎さんのご逝去など、この短かった夏(また再び暑さが戻っているが)の出来事を振り返る。

「志の人・納谷正基さんの生きざま」〈3〉は本誌に連載を寄稿して下さっていた納谷正基さんへ編集部が行ったインタビューの最終回だ。納谷さんのご逝去は本誌にとって大きなダメージ。それをあらためて印象付けさせられるお話だ。読者にも納谷さん「志」の真骨頂が必ず伝わることだろう。

山田悦子さんには「記憶と忘却の功罪」をテーマに原稿をお願いした。甲山事件の冤罪被害者にして、世界で最も長い21年の刑事裁判の被害者にとっての「記憶と忘却の功罪」とは。大きなテーマであるため、本号では「前編だけ掲載したい」との山田さんからのリクエストに沿う掲載となった。

板坂剛さんの「悪書追放キャンペーン 第四弾 ケント・ギルバート著『「パクリ国家」中国に米・日で鉄槌を!』」。いつのまにか、ケント・ギルバードに狙いを集中したのか? 板坂流は「ルパン三世」に登場する石川五右衛門が持つ「斬鉄剣」。なんでも切れるのであるから、連続攻撃も読み応えがあるが、一原稿での「10人斬り」など、離れ業も見たくなってきた(贅沢か?)。

なんでも知っている人を「博覧強記」と表現する。佐藤雅彦さんのことである。「原発〝法匪〟の傾向と対策 ~東電・国側弁護士たちの愚劣を嗤う~」では、板坂流と違い、持論の展開を最小に抑え、事実を重ねながらそれで諧謔も同時に演じる。これがわたしの佐藤雅彦評である。板坂論考は爆笑できる。佐藤論考は含み笑いを狙っているとみた。的外れか。

その他、全国各地からの現状報告やお知らせも、欠かしていない。数日前には高浜原発が煙を出した。伊方でも事故があった。おそらくわれわれにはもう、それほど時間はない。渾身の胆力と全国で頑張る皆さんへのエール、そしてスパイス代わりのユーモア精神で走ってきた。これからも走り続ける。是非、書店へ!

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。


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NO NUKES voice 21号
創刊5周年記念特集 死者たちの福島第一原発事故訴訟
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[グラビア]
福島で山本太郎が訴えたこと(鈴木博喜さん
原発事故によって自殺に追い込まれた三人の「心象風景」を求めて(大宮浩平さん

[報告]野田正彰さん(精神科医)
原発事故で亡くなった人々の精神鑑定に当たって 死ぬ前に見た景観

[インタビュー]伊藤さん(大手ゼネコン下請け会社従業員、仮名)
福島第一原発事故後の現場で私が体験したこと

[報告]伊達信夫さん(原発事故広域避難者団体役員)
《徹底検証》「東電原発事故避難」これまでと現在〈5〉
事故発生直後の中通り・会津地方の住民の受け止め方と、浜通りから福島県内に避難した人々の避難生活

[報告]鈴木博喜さん(ジャーナリスト/『民の声新聞』発行人)
「希望の牧場」吉沢正巳さんが語る廃炉・復興のウソ

[報告]尾崎美代子さん(「西成青い空カンパ」主宰、「集い処はな」店主)
住民や労働者に被ばくを強いる「復興五輪」被害の実態

[報告]本間 龍さん(著述家)
原発プロパガンダとはなにか〈16〉
酷暑下の東京五輪開催に警鐘を鳴らさないメディアの大罪

[報告]佐藤幸子さん(「子どもたちのいのちを守る会・ふくしま」代表)
福島の教育現場の実態 文科省放射線副読本の問題

[報告]山崎久隆さん(たんぽぽ舎副代表)
東海第二に経済性なし 原電の電気を買った会社も共倒れ

[報告]平宮康広さん(元技術者、富山在住)
僕たちが放射性廃棄物の地層処分に反対する理由

[報告]三上 治さん(「経産省前テントひろば」スタッフ)
選挙が終わって急に暑い日がやってきたのだけれど

[インタビュー]本誌編集部
志の人・納谷正基さんの生きざま〈3〉最終回

[報告]山田悦子さん(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈5〉記憶と忘却の功罪(前編)

[報告]板坂剛さん(作家・舞踊家)
悪書追放キャンペーン 第四弾!
ケント・ギルバート『「パクリ国家」中国に米・日で鉄槌を!』

[報告]佐藤雅彦さん(翻訳家)
原発“法匪”の傾向と対策~東電・国側弁護士たちの愚劣を嗤う~

[報告]再稼働阻止全国ネットワーク
原発は危険!「特重ない原発」はさらにもっと危険! 安全施設(特重)ができていない
原発を動かしていいのか? 安全施設ができるまでは動いている原発はすぐ止めよ!
《首都圏》柳田 真さん(たんぽぽ舎、再稼働阻止全国ネットワーク)
「特定重大事故等対処施設」のない各地の原発の即時停止を!
《北海道》佐藤英行さん(後志・原発とエネルギーを考える会)
泊原発3号機 再稼働目指せる体制か
《新潟》佐々木 寛さん(市民連合@にいがた共同代表、新潟国際情報大学教授)
参議院選挙 新潟選挙区について
《福島》宗形修一さん(シネマブロス)
「福島原発事故から遠く離れて」2019年参議院選挙福島選挙区からの報告
《東京》久保清隆さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
11・27ヒューマンチェーンで日本原電を追いつめよう 首都圏の反原発運動の現状と課題
《関西》木原壯林さん(若狭の原発を考える会)
来年4月から、原発稼働は電力会社の意のまま?
《福島》けしば誠一さん(杉並区議会議員、反原発自治体議員・市民連盟)
オリンピック前に終息も廃炉もできない福島第一原発
《香川》名出真一さん(伊方から原発をなくす会)
原発のない社会のために 蓮池透さん四国リレー講演会報告と今後の課題
《鹿児島》江田忠雄さん(脱原発川内テント)
いま、川内原発で何が起きているか
《規制委》木村雅英さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
東海第二の審査請求から逃げ、原子力緊急事態宣言を隠す原子力規制委員会
《書評》天野恵一さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
安藤丈将の『脱原発の運動史 ── チェルノブイリ、福島、そしてこれから』(岩波書店)

私たちは『NO NUKES voice』を応援しています!

『NO NUKES voice』Vol.21 https://www.amazon.co.jp/dp/B07X3QHYV6/

〈原発なき社会〉を求めて創刊5周年『NO NUKES voice』21号が明日発売!

本文に入る前に、台風15号により、9月8-9日関東地方を中心に、各所で大きな被害が出た。被災された皆様へお見舞いを申し上げます。

 
9月11日発売〈原発なき社会〉を求めて創刊5周年『NO NUKES voice』

あす、『NO NUKES voice』21号が発売される。2014年8月、それまでも福島第一原発事故に関する書籍を多数出版していた鹿砦社は、「反(脱)原発」を目的に据えた季刊誌の発刊に踏み出した。商業的な勝算があったわけではないし、お恥ずかしながら現在も本誌は「赤字」である。

だが、ほとんどのひとびとが、その危険性すら知らずに、暮らしてきた「確実な危険が収められた、パンドラの箱」の蓋は、あいてしまったのだ。原発に関する書籍が本屋の書架に、並ぶ中、鹿砦社も独自の書籍を何冊も発刊してきた。当時は、がむしゃらに警鐘を鳴らし続けた。一定の意味はあったのであろうと思う。だが、なにか物足らない。問題の巨大さと危険の大きさ、生物・生命への危険性を考えると、「単行本で追いかけきれる問題だろうか」との思いが募った。

そこで、継続的に「反(脱)原発」を問い続ける季刊誌の発行に思いが至ったのだ。

と、あたかもわたしが「主語」であるかのように書いているが、これはこれまで『NO NUKES voice』誕生にかんして、わたしが鹿砦社代表・松岡利康から、断片的に聞いた話を繋ぎ合わせたに過ぎない。しかし松岡が『NO NUKES voice』発刊にかけた思いは理解できる。創刊号から6号までは松岡自身が編集長をつとめた。

7号からは原発問題への造詣・人脈が豊富な小島卓が編集長に就任した。1号から6号までを「黎明期」とするならば、7号以降は、今号までは「成長期」と位置付けられるであろうか。贅肉は削ぎ落とし、より問題に直接的に肉薄することができる方向性が模索され続けている、と感じる。不思議なことに原発問題は、核心に迫れば、迫るほど、沖縄の基地問題、差別、司法そして思想哲学などとの関連が、切りようがないことをわたしは実感してきた。

そのことを踏まえれば、あす発売の『NO NUKES voice』21号は、これまで培ってきたわれわれの力を、いったんすべて出し切り、その価値を世に問う内容と言っても過言ではないだろう。通常発売前に書籍の内容をそのままご紹介することはないのだが、今回は特別に21号の「巻頭言」をご紹介する。

《2014年8月創刊の本誌は、今号で五周年を迎えました。本誌の役割は、脱原発に向けての各種情報を、読者の皆様にお届けすることと、本誌発刊の契機となった福島第一原発事故について、福島現地の方々に寄り添いながら、「事実」を掘り起こし、「被害の現実」をお伝えすることであると考えます。
 創刊5周年記念の特集では、福島第一原発事故による被害者の方、なかでも、もうご自身で語ることが能わない「自死」された方々へ視線を向けました。精神科医であり多くのノンフィクション作品を手掛けられている野田正彰先生に「自死」された方々が、亡くなる前におられた場所で、なにを考え、感じておられたのか、を考察頂きました。非常にデリケートで抜き差しならない重大なテーマです。本誌をおいてこの問題に、事故後八年経過して踏み込む媒体はないでしょう。「福島第一原発事故で死者は出ていない」などと、とんでもないことを平然と口にする人々がいます。被害者を冒涜するデマです。
 第二次世界大戦で侵略を行った日本が、あたかも被害国であったかのように、責任が隠蔽され忘却される犯罪的行為が進むなか、同様の現象に異を唱える意味でも、渾身の思いでこの企画には取り組みました。
 また事故現場での収束作業にかかわっておられた方のお話を伺うこともできました。選挙公約で気軽に「脱原発」とは口にしますが、その実、どこまで本気なのか怪しい政治家が大半を占める中、原発立地現地で、または避難先で地道に闘っておられる方々と、本誌はますます連帯を深めたいと考えます。
「復興五輪」という欺瞞の冠詞をいただく来年の東京五輪は、福島第一原発事故とその被害を隠蔽するために、準備されている「虚構の祭典」です。本誌は、これまで何度も批判をぶつけてきましたが、ますます過熱する「虚構」の喧伝に対しても反撃を続ける所存です。
「命にかかわる」暑さの続いた夏でした。人間の力で自然の温度は調整できませんが、人工物は取り除くことができます。そのために必要なのは「知恵」と「理性」だけではないでしょうか。原発の罪(その意味は深淵ですが)の表層に触れていただく。決して楽しく、愉快な内容ではありませんが少しでも多くの方々に、本誌が、お届けしようとする現実が伝わることを期待いたします。季節の変わり目です、読者の皆様におかれましてはご自愛くださいますように。》

野田正彰さんの《原発事故で亡くなった人々の精神鑑定に当たって 死ぬ前に見た景観》は、野田さんにしかなしえない論考だ。刑事事件の被告を含め、精神鑑定を多数行ってきた豊富な経験と知識。それらと無縁に「死者の目から見えた世界の再現」が、知識や経験のないひとが行えば、軽率で、場合によっては亡くなった方に対する侮辱にもなりかねない。そのようなギリギリの鑑定に、野田さんはどうして踏み出そうと考えたのか。

自死者の家族援助や、東京空襲による孤児の問題に長年取り組んできた、野田さんだからこそなしえた「原発事故で亡くなった人々の精神鑑定に当たって」は、超重量級のレポートだ。

断言する。今後どのような媒体でも、「原発事故で亡くなった人々の精神鑑定に当たって」に肩を並べるレポートを読むことはできないであろう。

『NO NUKES voice』21号、5年間の、中間総括として本特集は是非お読みいただきたい。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。


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NO NUKES voice 21号
創刊5周年記念特集 死者たちの福島第一原発事故訴訟
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[グラビア]
福島で山本太郎が訴えたこと(鈴木博喜さん
原発事故によって自殺に追い込まれた三人の「心象風景」を求めて(大宮浩平さん

[報告]野田正彰さん(精神科医)
原発事故で亡くなった人々の精神鑑定に当たって 死ぬ前に見た景観

[インタビュー]伊藤さん(大手ゼネコン下請け会社従業員、仮名)
福島第一原発事故後の現場で私が体験したこと

[報告]伊達信夫さん(原発事故広域避難者団体役員)
《徹底検証》「東電原発事故避難」これまでと現在〈5〉
事故発生直後の中通り・会津地方の住民の受け止め方と、浜通りから福島県内に避難した人々の避難生活

[報告]鈴木博喜さん(ジャーナリスト/『民の声新聞』発行人)
「希望の牧場」吉沢正巳さんが語る廃炉・復興のウソ

[報告]尾崎美代子さん(「西成青い空カンパ」主宰、「集い処はな」店主)
住民や労働者に被ばくを強いる「復興五輪」被害の実態

[報告]本間 龍さん(著述家)
原発プロパガンダとはなにか〈16〉
酷暑下の東京五輪開催に警鐘を鳴らさないメディアの大罪

[報告]佐藤幸子さん(「子どもたちのいのちを守る会・ふくしま」代表)
福島の教育現場の実態 文科省放射線副読本の問題

[報告]山崎久隆さん(たんぽぽ舎副代表)
東海第二に経済性なし 原電の電気を買った会社も共倒れ

[報告]平宮康広さん(元技術者、富山在住)
僕たちが放射性廃棄物の地層処分に反対する理由

[報告]三上 治さん(「経産省前テントひろば」スタッフ)
選挙が終わって急に暑い日がやってきたのだけれど

[インタビュー]本誌編集部
志の人・納谷正基さんの生きざま〈3〉最終回

[報告]山田悦子さん(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈5〉記憶と忘却の功罪(前編)

[報告]板坂剛さん(作家・舞踊家)
悪書追放キャンペーン 第四弾!
ケント・ギルバート『「パクリ国家」中国に米・日で鉄槌を!』

[報告]佐藤雅彦さん(翻訳家)
原発“法匪”の傾向と対策~東電・国側弁護士たちの愚劣を嗤う~

[報告]再稼働阻止全国ネットワーク
原発は危険!「特重ない原発」はさらにもっと危険! 安全施設(特重)ができていない
原発を動かしていいのか? 安全施設ができるまでは動いている原発はすぐ止めよ!
《首都圏》柳田 真さん(たんぽぽ舎、再稼働阻止全国ネットワーク)
「特定重大事故等対処施設」のない各地の原発の即時停止を!
《北海道》佐藤英行さん(後志・原発とエネルギーを考える会)
泊原発3号機 再稼働目指せる体制か
《新潟》佐々木 寛さん(市民連合@にいがた共同代表、新潟国際情報大学教授)
参議院選挙 新潟選挙区について
《福島》宗形修一さん(シネマブロス)
「福島原発事故から遠く離れて」2019年参議院選挙福島選挙区からの報告
《東京》久保清隆さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
11・27ヒューマンチェーンで日本原電を追いつめよう 首都圏の反原発運動の現状と課題
《関西》木原壯林さん(若狭の原発を考える会)
来年4月から、原発稼働は電力会社の意のまま?
《福島》けしば誠一さん(杉並区議会議員、反原発自治体議員・市民連盟)
オリンピック前に終息も廃炉もできない福島第一原発
《香川》名出真一さん(伊方から原発をなくす会)
原発のない社会のために 蓮池透さん四国リレー講演会報告と今後の課題
《鹿児島》江田忠雄さん(脱原発川内テント)
いま、川内原発で何が起きているか
《規制委》木村雅英さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
東海第二の審査請求から逃げ、原子力緊急事態宣言を隠す原子力規制委員会
《書評》天野恵一さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
安藤丈将の『脱原発の運動史 ── チェルノブイリ、福島、そしてこれから』(岩波書店)

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『NO NUKES voice』Vol.21 https://www.amazon.co.jp/dp/B07X3QHYV6/

安倍「国益毀損」外交から進次郎・滝クリ結婚異常報道、ジャニーズ、N国、吉本まで、同時多発で権力を撃ち続ける月刊『紙の爆弾』10月号、本日発売!

 
創業50周年 タブーなき言論を! 月刊『紙の爆弾』10月号本日発売!

巻頭は「安倍外交の『国益毀損』」(横田一)である。国益というと、国の利害あるいは国家としての損益と解釈しがちだが、国民経済という観点から発されるのが正しい。たとい一時的な他国への譲歩や妥協で、見た目には「国益」を損していると見えても、他国との国際協調によって自国の国民経済が安定・発展すれば、それは「国益」に反しているとはいえない。

これとまったく逆の意味で、安倍政権の対韓外交は、おおきく国益を損なうものと言うしかないのだ。今回、山本太郎の試算では6兆円の経済的な損失(輸出総額)が生じたという。とりわけその目的が、参院選時の政治的パフォーマンスとして、あるいは感情的に行われたものならば、まさに政治の私物化がもたらす、最悪の「国益毀損」である。

安倍外交による損失は経済だけではない。「日本の暴走が韓国GSOMIA破棄を招いた」(高嶋信欣)は、外交的な損失にもかかわらず、ひたすら反韓キャンペーンに走る安倍政権の姿を喝破する。その姿は「感情的民主主義」であると。

◆やはり小泉進次郎がキーマン

今号も政界再編の分析が誌面をうめる。
「与野党それぞれの『地殻変動』進次郎“ポスト安倍”へ、立憲・国民合流の“その先は”」(朝霞唯夫)。
「首相『アンダーコントロール』デマに加担 進次郎・滝クリ結婚マスコミ報道の異常」(浅野健一)。

このうち、浅野氏は滝川クリステルの所属事務所フォニックスに対して、質問状を送っている。小泉進次郎にも取材を申し入れたという。こういう行動力こそ、浅野氏ならではのものだ。その内容は、私的な結婚を官邸に出向いて報告した件である。事前に菅氏をつうじて連絡が行っていたのか? 安倍総理が原発事故を「アンダーコントロール」状態で東京に影響がないと公言したことについて。この件での沈黙には連帯責任が生じる。フランス警察が竹田恆和JOC会長が捜査し辞任した件、である。8月25日現在、両氏からの返答はない。

「『N国』とは何なのか『ワン・イッシュー政党』の素顔」(藤倉善郎)は、同党のネトウヨ的な素顔を暴いている。同党の「私人逮捕」の実態がすさまじい。

インタビューでは、渡辺てる子(れいわ新撰組新人立候補者・シングルマザーで元派遣労働者)を小林蓮実がレポート。このシリーズで、れいわの素顔も明らかになる。つづきが楽しみだ。

◆ジャニーズ圧力問題と吉本“反社”問題

「ジャニーズ『圧力問題』で滝沢秀明に“追い風”」は芸能取材班によるもの。ジャニーズ事務所の子会社の社長である滝沢氏に、相対的にいい環境が生まれているとのこと。吉本騒動も元の鞘に収まりそうな昨今、滝沢氏のうごきに注目だ。
その吉本騒動だが「吉本興業“反社”問題で得をしたのは誰か」(片岡亮)は、問題の本質を「反社」との付き合いとしつつも、吉本興業の6000人いるというタレントの無契約問題に誌面を割いている。フリーランスの弱い立場とともに、スポットライトを当てるべき問題だろう。

◆「元『S』(スパイ)が語る警察『偽造調書作成』の手口」の圧巻!

「元『S』(スパイ)が語る警察『偽造調書作成』の手口」(林克明)が圧巻だ。公安警察が左翼組織にS(情報協力者)工作をするのは、よく知られている。ここで紹介されているのは、生活安全課(覚せい剤や風俗産業などを管轄)の刑事によるS工作だ。おどろくべきことに、覚せい剤の取り締まりで囮捜査を行うことだ。ようするに、犯罪を教唆しているのと同じなのだ。

◆東海第二原発『いばらぎ原発県民投票』で暴かれる原発の玉砕主義

「東海第二原発を問う『いばらぎ原発県民投票』」(島村玄)では、原発の玉砕主義が暴かれている。危険性を無視した稼働延長、採算無視の再稼働である。3月に「県民投票の会」が発足し、14万筆の署名を目標に活動をつづけているという。

◆「遺骨がカネになる? 『残骨灰』をめぐる論点」

「遺骨がカネになる? 『残骨灰』をめぐる論点」(杉田研人)は、ちょっショッキングだ。違背に混ざっている金や銀、パラジウムなどを採取するのが目的で、業者が争奪しているというのだ。死んでもカネの対象にされるとは、人間の業には深いものがある。

◆「公判廷の『手錠・腰縄』は違法である」

司法では朗報だ。「日本司法の人権無視に画期的判決 公判廷の『手錠・腰縄』は違法である」(足立昌勝)。ご存知ない方のために言っておくと、裁判の時は手錠も腰縄も解かれるが、入退廷時に傍聴席から手錠・腰縄を隠してくれないことが争点だったのだ。判決が出るまで、被告といえども推定無罪である。

◆“国旗・国歌”で洗脳する文科省・新たなる臣民教育

「文科省により雁字搦め“国旗・国歌”の洗脳教育」(永野厚男)は、日の丸・君が代教育の現場強要を批判する。前号につづいて、各教科書会社の教科書を悲観検討する。駆け足になったが、議論を呼ぶ内容の記事満載の「紙の爆弾」ぜひお読みください。

▼横山茂彦(よこやま しげひこ)
著述業、雑誌編集者。近著に『ガンになりにくい食生活』(鹿砦社ライブラリー)『男組の時代――番長たちが元気だった季節』(明月堂書店)など。

創業50周年 タブーなき言論を! 月刊『紙の爆弾』10月号本日発売!

好評の『紙の爆弾』9月号は参院選挙総括号! 安倍政権の終わりの始まり

『紙の爆弾』9月号が好評発売中だ。帰省中の時間の余ったひとときに、休みではない方は仕事中のリラックスタイムに、ぜひ一冊。マスメディアではわからない政界事情、政治情勢を把握するには、話題を追うばかりの週刊誌では足りない。

 
好評発売中!『紙の爆弾』9月号

というわけで、参院選挙後の政治再編が特集の大ネタである。

朝霞唯夫氏は、れいわ躍進によって始まる次の展開を、政治再編としてぶった切った。まず自民党は実質的に敗北したのであって、とくに改憲発議に必要な3分の2をうしなったことで、公明党の山口那津男の「憲法を改正する必要は今、どこにあるのかはっきりしません」という言葉をすっぱ抜いている。改憲をねらう安倍政治が行き詰った以上、秋の内閣改造で今回の「小敗北」を糊塗するしかない。

はたして朝霞氏が記事で予告したとおり、小泉進次郎への入閣要請が「結婚ご祝儀」として、このかん明らかになった。まことに慧眼である。初入閣が小泉進次郎にとって、試練になるのも当然のことだが、安倍にとっては政権批判を封じる一手となる。安倍は当面の敵を入閣することで封じ、小泉進次郎の人気を取り込むことで、政権の延命をはかろうとしているのだ。

小林蓮実氏は、れいわ新撰組の選挙に貼りついていた立場から、選挙運動の実態を伝えてくれる。今後とも、山本太郎が総理大臣になるまで、ともに闘ってほしい。大山友樹氏は、公明党・創価学会の得票数の低下、得票率の低下に助けられた「勝利」をあばいてくれた。組織力の低下とともに、れいわ新撰組への現役創価学会員・野原候補への衝撃がすさまじい。いずれ、執行部は憲法問題で追い詰められるとしている。もともと平和の党なのだから。

浅野健一氏は、公安警察とメディアによる「安倍自民党勝利」が「創作」されたと指弾する。今回の選挙で顕著だったのが警察によるヤジ封じであった。大音量で演説を妨害するのならともかく、いっさいの批判を封じるやり方は独裁国家のものである。その公安警察の街頭ヤジを封殺する「警護」はメディアでも報じられたが、そのメディア自体がキシャクラブをテコに安倍応援団にまわった。とくに、れいわ新撰組をブラウン管からパージすることで、政権の意に沿おうとした。しかしその目論見は、れいわの躍進によって覆されたというべきであろう。

◆メディアの政権賛美こそ、民主主義の危機である

平岡裕児氏は「2000万円不足問題」はフェイクであり、今回の報告書は金融業界の要請にほかならないと喝破する。横田一氏は秋田県民の選択、すなわちイージスアショアを焦点にした参院選で、配備に反対する野党統一候補が自民現職を破った壮挙をレポート。巨像をアリが倒した原因を、安倍のフェイク演説にあると指摘する。

政治のフェイクを見破るほど、選挙民は成熟しているというべきであろう。問題なのは、政治離れを促進するメディアの安倍政権賛美と忖度、そして政権の顔色をうかがうメディアの体質にある。井上静氏は、ハンセン病国賠訴訟の政府側控訴断念を、安倍総理の「司法の政治利用」として批判する。NHKが安倍政権に忖度しつつ、参院選挙前の政権評価にうごいたのは紛れもない事実だ。韓国に対する「禁輸措置」とともに、これら選挙用のメディア政策があったにもかかわらず、国民が安倍にNO!を突きつけたことは明記されるべきだろう。

以上は選挙特集のうちに数えられるが、紙爆ならではの芸能ネタも健在である。本誌芸能取材班は「ジャニーズ・吉本興業・ビートたけし“事件”で見えた芸能界の真相」をレポート。片岡亮氏は「芸能人と反社」の現在をレポートしている。とくに暴力団幹部の誕生会への潜入取材は白眉である。最大の問題は、反社と手を切れない吉本興業に安倍総理が肩入れをし、あまつさえ「クールジャパン関連事業」として、100億円規模の資金調達が行われようとしていることだ。

ほかに、西山ゆう子氏の「本当に殺してないのか? 『殺処分ゼロ』の嘘と動物愛護の現実」、本誌編集部による「役員総入れ替え『エフエム東京』の内紛劇」は」スクープである。FM東京およびMXで、いま何が起きているのか? 佐藤雅彦氏の「偽史倭人伝」は、「トランプのババ抜き、安倍のスッポン抜き」日米外交のバカさ加減を喝破する。

マッド・アマノ氏の「世界を裏から見てみよう」は、大評判の映画「新聞記者」をテーマに。この「新聞記者」は、昼時のランチの場で、あるいは夕方の居酒屋で、サラリーマンたちの話題トップだ。西本頑司氏の連載「権力者たちのバトルロワイヤル」は第三回「株式会社化する世界」。巨大ITメジャーによる国家買いである。

足立昌勝氏は、刑務所医療の実態を暴露する。死刑制度をめぐる新たな動きは拙稿、8月31日に開催される「死刑をなくそう市民会議」の設立集会とその背景にある運動のうごき、および死刑問題議連について簡単なレポート。水野厚男氏は、小6社会科教科書の「天皇への敬愛の念」教化をもくろむ、文部省のうごきを批判する。主要教科書三社の記述を分析する。読み応え満載の「紙と爆弾」9月号をよろしく!

▼横山茂彦(よこやま しげひこ)
著述業、雑誌編集者。近著に『ガンになりにくい食生活』(鹿砦社ライブラリー)『男組の時代――番長たちが元気だった季節』(明月堂書店)など。

月刊『紙の爆弾』9月号「れいわ躍進」で始まった“次の展開”
安倍晋三までの62人を全網羅!! 総理大臣を知れば日本がわかる!!『歴代内閣総理大臣のお仕事 政権掌握と失墜の97代150年のダイナミズム』

参院選挙戦の今こそ、タブーなき言論誌、月刊『紙の爆弾』8月号に注目を!

 
創業50周年!タブーなき言論を! 月刊『紙の爆弾』8月号絶賛発売中!

参院選挙戦もたけなわのいま、『紙の爆弾』8月号が7日に発売され、書店の総合雑誌コーナーで注目を浴びている。政治がらみの記事だけ挙げてみると、目を惹くラインナップだ。

●年金詐欺「2000万円問題」の影響は? 自民党を襲う〝想定外〟の逆風 朝霞唯夫

●統一地方選で「実質敗北」〝集票力低下〟に焦る創価学会・公明党 大山友樹

●丸山「戦争発言」でも負けない理由 「維新」とは何なのか 吉富有治

●イージス・アショア配備という安倍〝米国下僕〟政治 故郷よりも米国優先の菅官房長官 横田 一

●海外メディアが皮肉った国辱接待「外交の安倍」という捏造  浅野健一

●トランプ訪日、イラン訪問の「属国外交」日本の「独立」を阻む「従米ポチ利権」を暴く 木村三浩

●日本史上最低の「安倍ゾンビ体制」への引導 藤原肇

◆「凡庸なる独裁者の手先」菅義偉官房長官を突き動かすのはルサンチマン?

その他の記事も、ことごとく政治権力や財政・経済政策をめぐるもの、外交での安倍政権のチョンボなど、政治と無縁なものはないが、とくにここでは菅義偉官房長官の記事が気になる。

安倍晋三を極右政権とするならば、菅義偉(よしひで)にはアドルフ・アイヒマン的な実務能力における冷徹さがある。アイヒマンといえば、ハンナ・アーレントによる「凡庸なる独裁者の手先」として、つまり凡庸な人物がナチスを支えていたとの評価だが、凡庸な人物に冷酷なユダヤ人迫害ができるわけではない。ある意味での政治的実務への集中が、たとえば沖縄の辺野古基地建設を強引に、あるいは「粛々と」進める冷徹さこそ、菅のような実務派政治家の得意とするところだ。

その菅義偉は、地元秋田県での参院選挙の総決起集会で、イージス・アショア配備について、ひと言も触れなかったという。記事の執筆者である横田一は、地元議員団から菅への要望書が渡される場で質問をこころみたが、スタッフに取り囲まれて室外へと追い出されている。

故郷に錦をかざりながら、地元住民の軍事施設反対の声には、沈黙をつらぬく。安倍総理の陽性の開き直りかたや麻生太郎のべらんめぇ開き直りには、やや人間味すら感じられるが、菅には徹底して実務的な冷たさを感じる。

苦労人は庶民的な人情を知るといわれるが、集団就職をして苦学をしたこの人には微塵も感じられないのは何故か? 高卒とともに捨てた故郷や苦労した時代を、あたかも黒歴史として恨んでいるかのようだ。苦労をした自己史にルサンチマンがあるのだとしたら、それほど怖い政治的動機はないだろう。その菅義偉が、来年の総裁選では「中継ぎ」として有力なのだから恐ろしい。

◆自民補完勢力の動向──「ネオ自民党」維新の会はなぜ大阪で強いのか? 異例の総決起集会を開催した公明党の危機意識

吉富有治は維新の会の強さの秘密を、軍隊的な組織の在り方だと読み解いている。自民党の一派閥、ネオ自民党というとらえ方も秀逸だが、その維新がなぜ大阪でのみ強いのか。おそらく反中央、反自民という大阪人のメンタリティに訴えるものがあるはずだ。今後はそのあたりの民意をさぐって欲しいところだ。

〝集票力低下〟に焦る創価学会・公明党にも興味を惹かれた。大山友樹によれば、6月5日に公明党は東京ドームに10万人を集めて「公明フォーラム2019」を開催したという。いうまでもなく、参院選挙にむけての総決起集会だが、異例のことである。公明党は全国7つの選挙区で候補を立て、そのうち東京と大阪をのぞく5選挙区(兵庫・埼玉・神奈川・愛知・福岡)での苦戦が予想されている。

というのも、05年の小泉郵政選挙のときに898万票だったものが、17年の衆院選挙では697万票に落ち込み、今年の統一地方選でも減少傾向は続いているというのだ。しかるに、自民党を連立与党として支えながら、党勢は先細りという現実に、創価学会員からも疑問の声が上がっているのだ。選挙結果が注目される。

◆アベノミクスに代わる経済政策を

オピニオンとしては、林克明の「『人の幸福』のための実現可能な経済政策」が積極的なものを突き出している。宇都宮健児(弁護士・元東京都知事候補)のインタビューと山本太郎の経済政策を紹介しながら、消費税ゼロ、奨学金徳政令、最低賃金1500円で、消費の活性化を生み出すというものだ。

これはMMT(現代貨幣理論)でも提唱されているリフレ論である。山本太郎が参院調査情報担当室に試算させたところ、消費税を廃止すると6年後に1人あたりの賃金が44万円も増加するという。時給1500円で、年収は288万円となり、現在の派遣労働者・アルバイトの年収200万円弱から大幅に可処分所得が増える。つまり消費によって経済が活性化するのだ。いまやアベノミックスの失敗は明らかで、アベノミクスが果たせなかった更なるリフレ、人のための財政を行わなければならない。

ほかに、「政権すり寄り」吉本興業が恐れる信用失墜、田中恆清・石清水八幡宮宮司「総長四選」不可解な内幕、森友事件「値引き根拠ゴミ」を偽装した国交省、「テロ対策」を口実に進む警察権力強化、「海を渡るリサイクル品」から見える日本、日本ボクシング界諸悪の根源、など多彩な記事で満載だ。

▼横山茂彦(よこやま しげひこ)
著述業・雑誌編集者。主な著書に『軍師・黒田官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)、『真田一族のナゾ!』『山口組と戦国大名』(サイゾー)など。医療分野の著作も多く、近著は『ガンになりにくい食生活――食品とガンの相関係数プロファイル』(鹿砦社LIBRARY)

創業50周年!タブーなき言論を! 月刊『紙の爆弾』8月号
安倍晋三までの62人を全網羅!! 総理大臣を知れば日本がわかる!!『歴代内閣総理大臣のお仕事 政権掌握と失墜の97代150年のダイナミズム』総理大臣研究会=編著 定価:本体600円+税

〈原発なき社会〉を求めて 創刊5周年『NO NUKES Voice』20号 本日発売!

◆《総力特集》福島原発訴訟 新たな闘いへ

 
本号グラビアより(写真=大宮浩平)

記念すべき『NO NUKES voice』創刊5周年第20号である。

《総力特集》の冒頭は福島原発かながわ訴訟の判決(2月20日)について開かれたシンポジウムの報告、弁護団事務局長の黒澤知弘さんの講演録である。原告175人のうち、当時福島にいなかった原告、まだ生まれていなかった原告、あわせて23人が棄却されたが、152人の原告については基本的な勝訴を勝ち取ったことを、以下の3点で評価した。国の賠償責任が認められたこと、損害賠償金は地域によって差が出た。しかし、避難指定区域外の「ふるさと喪失慰謝料」には差が出た。そして避難指示の有無が判決を左右したことには、指示の合理性がもっと問題にされるべきだという。

つづいて講演した小出裕章さん(元京大原子炉実験所助教)は、裁かれるべきは原発を認めた国の責任であるとして、「技術的には想定不適当」が前提でありながら、立地の基準が大都市ではなく地方であること。「原子炉立地審査指針」に原発の不平等があると指摘。いままた破局事故を前提とした「規制基準」で原発を再開し、海外に売り出そうとしている。いまや原子力ムラは無法で責任を取らない「原子力マフィア」であると喝破した。

崎山比早子さん(3・11甲状腺がん子ども基金代表理事)は、しきい値なし直線(LNT)モデルを社会通念に! と題して講演した。LNT(直線性)とは、放射線が一本通ってもDNAの複雑損傷があり、変異細胞の複製が行なわれる可能性があること。したがって放射能に安全な量はないと解題した。kの点に関しては、崎山意見書に対する研究者17人の反論が、学界主流派の意見に過ぎず、新たな研究成果が出てきていることに注目すべきだという。

さらに村田弘さん(福島原発かながわ訴訟原告団団長)から、裁判で被害者は本当に救済されるか? と題した講演が行われた。記事中に判決の概要(賠償金)の表を収録。判決を左右する「社会通念」は、裁判官の頭の中の通年であって、科学的なデータを退けるものになっている。いや、原発事故後に変わったはずである。

◆「子ども脱被ばく裁判」で被ばく問題の根源を問う井戸謙一弁護士

 
井戸謙一弁護士

「子ども被ばく裁判」に関しては、井戸謙一さんのインタビュー記事である。インタビューでは、福島の被ばく問題のほかに、大間原発に対する函館市の原告訴訟(東京地裁/被告は国)、住民原告の訴訟(函館地裁/被告J・POWER)にも触れられ、函館市長はいわゆる革新ではないが、原発に左右はないと語っている。さらに井戸さんは、湖東記念病院事件(2003年に植物状態の患者の人工呼吸器チューブを引き抜いて、殺人罪で懲役12年の判決)の再審が勝ち取られたこのにも触れている。

◆現地福島の現在と過去を徹底検証する「民の声新聞」鈴木博喜さんと伊達信夫さん

鈴木博喜さん(「民の声新聞」発行人)の報告記事は、「原子力緊急事態宣言」発令から3000日、福島県中通りの人々の葛藤と苦悩である。「もしも、あなたが福島県内に住んでいて、こういう状況(原発事故による 放射能汚染)に直面した場合、自分の奥さんが妊娠したらどうしますか? 産むなと言いますか? そもそも、奥さんが子どもを欲しがったとしても被曝リスクを理由に子作りをあきらめますか?」という問いかけに、イエスかノーか明快に答えられる人がどれだけいるだろうか。この問いを鈴木さんにぶつけたのは、東電を相手取って損害賠償請求訴訟を起こしている「中通りに生きる会」の原告だったという。裁判に密着したレポートは、住民たちの声を生々しく伝える。

伊達信夫さんの連載レポートは、『徹底検証「東電原発事故避難」これまでと現在〈4〉なぜ避難指示範囲は広がらなかったのか』である。テーマを事故当日(3・11)に立ち返って、避難指示および避難行動、政府の動きを詳細に検証している。さらに将来の原発事故にそなえて、100km以上避難することを前提に、準備できることを挙げている。

鈴木博喜さん「『原子力緊急事態宣言』発令から3000日 福島県中通りの人々の葛藤と苦悩」より

◆尾崎美代子さんの飯舘村報告『原子力ムラに牛耳られた村・飯舘村の「復興」がめざすもの』

 
尾崎美代子さん(「集い処はな」店主)「原子力ムラに牛耳られた村・飯舘村の『復興』がめざすもの」より

尾崎美代子さん(「西成青い空カンパ」主宰、「集い処はな」店主)の報告記事は、『原子力ムラに牛耳られた村・飯舘村の「復興」がめざすもの』である。福島県飯館村では、3月の議会において「ふるさと納税」で総額3000万円のブロンズ製ベンチを購入することで紛糾した。菅野典雄村長の肝いりで、これまでに同じ制作者による作品に6000万円がつぎ込まれてきたという。

その一方で、復興の目玉とされてきた道の駅「までい館」は、これまで3900万円の赤字で、村から新たに3500万円追加融資が決まっている。もともと「までい館」はこれといって陳列できる特産品もないのに、赤字覚悟で建設されたものだという。この村長の独善性は、原発ムラの研究者たちの「復興計画」とリンクしているのだ。除染、復興をキーワードに、原子力ムラの研究者たちが自治体を取り込んでいく策謀には驚かされる。

◆本間龍さんが『元号号外を仕切った電通の力と「#自民党2019」』のプロパガンダを読み解く

本間龍さん(著述家)の「原発プロパガンダとは何か? 第15回」は、『元号号外を仕切った電通の力と「#自民党2019」』である。号外にヤフー広告が大きく掲載されていたのは、電通の仕掛けだった。メディア支配をさぐり、アーチストを取り込んだ「♯自民党2019」のHPは、新たな支持層の視野に入れてのものだと、本間さんは指摘する。

◆山崎久隆さん、三上治さん、板坂剛さん、山田悦子さん、佐藤雅彦さんの強力連載陣

山崎久隆さん(たんぽぽ舎副代表)のレポートは『重大事故対処施設がないのに運転する原発 福島第一原発事故の教訓はいずこに?』である。新規制基準の問題点が明らかにされている。

三上治さん(「経産省前テントひろば」スタッフ)の『淵上太郎よ! 正清太一よ! ありがとう。僕はもう少しここで闘うよ』は、平成から令和への改元・代替わりを枕詞に、表題の二人、淵上さんと正清さん(テントひろばの代表)への追悼文である。周知のとおり、三上さんをふくめた三人は60年安保の闘士であり、2006年に9条改憲阻止の会で再結集し、3・11以降は福島現地への物資の輸送、経産省前のテントと運動を拡げてきた仲である。

板坂剛さん(作家・舞踏家)の悪書追放キャンペーンは、ケント・ギルバート著「やっと自虐史観のアホらしさに気づいた日本人」(PHP研究所)だ。自虐と被虐をSM文化としてとらえ、日本文化の被虐性が美しい理由を、ケント・ギルバートは理解できないという論点はおもしろい。

山田悦子さん(甲山事件冤罪被害者)の連載は4回目。『わかりやすい天皇制のはなし』だ。天皇の称号が古代中国にさかのぼり、日本がそれを拝借したのはあまり知られていない史実だろう。

佐藤雅彦さん(翻訳家)は『原発と防災は両立しない! 原子力帝国下では「消防防災」組織そのものが“災害源”になるのだ』で原発防災の矛盾を撃つ。

◆本誌5周年20号の歩みとたんぽぽ舎30年の軌跡

 
今年設立30周年を迎えたたんぽぽ舎の共同代表のお二人、鈴木千津子さんと柳田真さん(写真=大宮浩平)

松岡利康さん(創刊時編集長/鹿砦社代表)は『本誌二〇号にあたって』で、本誌創刊当時をふり返る。チェルノブイリの時は対岸の火事のように感じていたが、そのことで3・11では「罪悪感」すら覚えたという。創刊当初の販売の苦労、反原連との絶縁、小島新編集長での再出発、精神的な支柱だった納谷正基さんの逝去など、本誌の歴史が語られている。5年間で20号は、まさに継続は力なりを感じさせる。これを新たな出発点に、わが国で唯一の反原発雑誌の発展を祈念したい。

今号は記念的な記事が重なった。
『たんぽぽ舎〈ヨコの思想〉三〇年〈1〉はじまりの協同主義』は、たんぽぽ舎の共同代表、鈴木千津子さんと柳田真さんの対談で、1979年からの歴史をふり返る。お二人の経歴が興味ぶかい。聞き手は本誌小島編集長。この対談は連載になるようだ。9月22日に「たんぽぽ舎30周年の集い」が開かれるという。

全国各地から現地の声を伝える「再稼働阻止全国ネットワーク」の記事も本号は11本+1本で頁増・盛り沢山だ。というわけで、記念すべき『NO NUKES voice』20号はこれまで以上に充実の内容である。売り切れないうちに、ぜひご購読を。

▼横山茂彦(よこやま しげひこ)
著述業・雑誌編集者。主な著書に『軍師・黒田官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)、『真田一族のナゾ!』『山口組と戦国大名』(サイゾー)など。医療分野の著作も多く、近著は『ガンになりにくい食生活――食品とガンの相関係数プロファイル』(鹿砦社LIBRARY)

本日発売!〈原発なき社会〉を求めて 創刊5周年『NO NUKES voice』20号

NO NUKES voice Vol.20
紙の爆弾2019年7月号増刊 6月11日発売!
A5判 総132ページ(本文128P+巻頭カラーグラビア4P)
定価680円(本体630円+税)

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総力特集 福島原発訴訟 新たな闘いへ
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[グラビア]
なぜ立憲民主だったのか? おしどりマコさん直撃インタビュー/
「日本版チェルノブイリ法」の制定を! 12回目の「脱被ばく実現ネット」新宿デモ/
福島原発集団訴訟──民衆の視座から

[シンポジウム]福島原発集団訴訟の判決を巡って
[講演]黒澤知弘さん(かながわ訴訟弁護団事務局長)
福島原発かながわ訴訟・判決の法的問題点

[講演]小出裕章さん(元京都大学原子炉実験所助教)
巨大な危険を内包した原発 それを安全だと言った嘘

[講演]崎山比早子さん(3・11甲状腺がん子ども基金代表理事)
しきい値なし直線(LNT)モデルを社会通念に!

[講演]村田 弘さん(福島原発かながわ訴訟原告団団長)
原発訴訟を闘って──裁判で被害者は本当に救済されるか?

[インタビュー]井戸謙一さん(弁護士)
「子ども脱被ばく裁判」は被ばく問題の根源を問う

[報告]鈴木博喜さん(『民の声新聞』発行人)
「原子力緊急事態宣言」発令から三〇〇〇日 
福島県中通りの人々の葛藤と苦悩

[報告]伊達信夫さん(原発事故広域避難者団体役員)
《徹底検証》「東電原発事故避難」これまでと現在〈4〉
なぜ避難指示範囲は広がらなかったのか

[報告]尾崎美代子さん(「西成青い空カンパ」主宰、「集い処はな」店主)
原子力ムラに牛耳られた村・飯舘村の「復興」がめざすもの

[報告]本間 龍さん(著述家)
原発プロパガンダとはなにか〈15〉
元号号外を仕切った電通の力と「#自民党2019」

[報告]山崎久隆さん(たんぽぽ舎副代表)
重大事故対処施設がないのに運転する原発
福島第一原発事故の教訓は何処に

[報告]三上 治さん(「経産省前テントひろば」スタッフ)
淵上太郎よ! 正清太一よ! ありがとう。僕はもう少しここで闘うよ

[報告]板坂 剛さん(作家・舞踊家)
悪書追放キャンペーン 第3弾!
ケント・ギルバート著『やっと自虐史観のアホらしさに気づいた日本人』(PHP研究所刊)

[報告]松岡利康(創刊時編集長/鹿砦社代表)
本誌二十号にあたって

[対談]鈴木千津子さん(たんぽぽ舎共同代表)×柳田 真さん(たんぽぽ舎共同代表)
たんぽぽ舎〈ヨコの思想〉三〇年〈1〉はじまりの協同主義

[報告]山田悦子さん(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈4〉わかりやすい天皇制のはなし

[報告]佐藤雅彦さん(翻訳家)
原子力帝国下で「消防防災」組織そのものが“災害源”になる

[報告]再稼働阻止全国ネットワーク
九州電、関西電、四国電が特定重大事故等対処施設(特重)の完成が間に合わないと表明! 
日本の原発を止められるチャンスがやってきた!
《首都圏》柳田 真さん/《東海第二》大石光伸さん/《青森》中道雅史さん
《宮城》舘脇章宏さん/《福島》黒田節子さん/《東京》小熊ひと美さん
《関西電力》木原壯林さん/《山口》安藤公門さん/《鹿児島》杉原 洋さん
《規制委》木村雅英さん/《読書案内》天野惠一さん

[報告]水野伸三さん(トトロの隣在住)
 済州島四・三抗争と東学農民革命と長州人―朝鮮近現代史への旅―

[読者投稿]大今歩さん(高校講師)
《書評》『しあわせになるための「福島差別」論』
福島の被曝は「風評被害」ではない 避難の権利の確立を

私たちは『NO NUKES voice』を応援しています!

君には「狼」の咆哮が聞こえるか ──『赤軍と白軍の狭間に』『反日革命宣言』など、革命のオルタナティヴを問う鹿砦社の歴史的名著を風塵社が続々復刊!

「反日」──。この言葉だけで、理屈も史実もへったくれもなく、「叩く対象」と決めてかかっている「ネトウヨ」が日本には約59万1,301人ほどいるらしい。

「約」としながらも、細かい数字までわかったのは最近、公安調査庁が開発した「ネトウヨセンサー」によって、割り出された数字がもたらされたからだ。

風が吹けば塵が飛ぶ──。そんな名前の出版社がある。大方赤字の出版社がひしめき合う、東京・文京区の一角。湯島にも本郷にも近い好立地に、「風塵社」はひっそりと居を構えている。

資本金、年間売上高、社員数などは知らない。ただし最近(といっても数か月前だが)、『反日革命宣言 東アジア反日武装戦線戦の戦闘史』が復刊されたニュースは読者にお伝えせねばならない。

そもそも鹿砦社は、創立時代に硬派左翼書籍を多数出版していた。その世界では知る人ぞ知る出版社でもあった。

現在の社員は社長を除いて誰も左翼経験はないが、「鹿砦社を知らなければ左翼ではない」なあぁんて言われた時代もあったのだ。

「反日」攻撃が約59万1,301人を中心に荒れ狂う時代に、風塵社は、「火中の栗」を拾う覚悟を決め、鹿砦社に「古く硬い書籍の版権を○○万円で譲ってくれないか」との話を持ち掛けてきたという(版権の額については諸説あり、明らかではない)。

この申し出は、鹿砦社社内で慎重に検討された結果、無償で風塵社の要請に応じることが決定された。

鹿砦社から版権を譲り受けた風塵社は、2017年7月に『赤軍と白軍の狭間に』(トロツキー著、楠木俊訳)、同年8月に『赤軍 草創から粛清まで』(ヴォレンベルグ著、島谷逸夫・大木貞一訳)、同年9月に『赤軍の形成』(レーニン、トロツキー、フルンゼほか著、革命軍事論研究会訳)、同年11月に『マフノ叛乱軍史』(アルシーノフ著、奥野路介訳)、12月に『クロンシュタット叛乱』(イダ・メット、トロツキ―著、湯浅赳男訳)、『ブハーリン裁判』(ソ連邦司法人民委員部編、鈴木英夫訳)を矢継ぎ早に復刊。まさに白軍に迫る赤軍の勢いさながら、毎月復刊を続けていた。

書影左から『赤軍と白軍の狭間に』(トロツキー著)、『赤軍―草創から粛清まで』(エーリヒ ヴォレンベルク著)、『赤軍の形成』(レーニン、トロツキー、ベルクマン、スミルガ、ソコリニコフその他著)
書影左から『マフノ叛乱軍史―ロシア革命と農民戦争』(アルシーノフ著)、『クロンシュタット叛乱』(イダ・メット、レオン・トロツキー著)、『ブハーリン裁判』(ソ連邦司法人民委員部/トロツキー著 )

上記に紹介した書籍は、いずれもロシア革命関連の、いわば「史料」であるが、レーニンの登場はあるものの、ロシア革命の真実をスターリンではなくトロツキーなどの視点から検証し、記録するという意志が貫かれており、「ロシア革命100周年」を迎えた出版界においても、異色のラインアップということができよう。

 
『反日革命宣言』東アジア反日武装戦線KF部隊(準)(著)/風塵社(編集)、講演 太田昌国 (その他)

そして本年1月、ついに『反日革命宣言 東アジア反日武装戦線戦の戦闘史』が復刊された。ロシア革命の側面史を記したシリーズとは異なり、『反日革命宣言』は、日本における現代史であり現代詩である。

そしてまぎれなく、『反日革命宣言』は2019年5月中盤の日本人に「あなたはどうなのだ?」と胸ぐらをつかむような問いかけを重ねる。

“いま、日本に生きることの意味は、歴史的文脈によっても解析されねばならない”

『反日革命宣言』のどこを探しても、そのような記述はない。が、本書を読了された諸氏は、必ず上記の設問に胸を絞めつけられるはずだ。なぜならば、繰り返すが『反日革命宣言』は、歴史書ではなくわれわれが、日頃目を背けるか、あるいは無知にして知らないだけの近現代史を、実に忠実に掘り起こし、その主体に対する「オトシマエ」までつけた「行動の報告」でもあるからだ。

詳細は実際に『反日革命宣言』を手に取って確認されたい。紹介するにあたり最後に断言しよう。これほど真摯に歴史と世襲的罪に向き合った日本人が、かつていたであろうか。将来現れるであろうか。あなたは、真に誇らしい「歴史処理(オトシマエ)人」の存在に打ちひしがれるであろう。

またこの先、風塵社は、鹿砦社から過去に刊行された左翼社会革命党関連の復刊を予定しているらしい。

▼小松右京(こまつ うきょう)
ライター兼日雇い労働者。初老にさしかかり体のあちこちにガタがきて、仕事にあぶれる日が多いのが心配事。ネットカフェ愛好者。

松岡利康/垣沼真一編著『遙かなる一九七〇年代‐京都 学生運動解体期の物語と記憶』
 
板坂剛と日大芸術学部OBの会『思い出そう! 一九六八年を!! 山本義隆と秋田明大の今と昔……』

『噂の眞相』編集長・岡留安則さんの死去を悼む  鹿砦社代表 松岡利康

去る1月31日、いわゆるスキャンダル雑誌の先駆者で月刊『噂の眞相』(1979年3月創刊。以下略称『噂眞』と記載)編集長、岡留安則さんが亡くなられました。肺がん、享年71歳。「スキャンダリズム」という語を生み出したのも岡留さんでした。

 
2月3日付け朝日新聞

毎号著名人のスキャンダルを満載する雑誌を発行しながら、これほど愛され高評価されたのも岡留さんぐらいで、その後、残念ながら『噂眞』を超える雑誌は出てきていません。『噂眞』休刊(2004年4月号。事実上の廃刊)からしばらくして、わが鹿砦社も、その「スキャンダリズム」を継承せんとして月刊『紙の爆弾』(以下『紙爆』)を創刊(2005年4月)し、もうすぐ14年が経とうとしていますが、発行部数も内容の密度も、まだまだ足下にも及びません。

類似点といえば、両誌とも創刊直後に廃刊の危機に瀕する大事件に遭ったということでしょうか。『噂眞』は創刊から1年後の1980年6月に、いわゆる「皇室ポルノ事件」に遭いました。張本人は、いまや鹿砦社ライターとなった板坂剛さん。皇室に対する不敬記事で、右翼からの総攻撃を受けますが、攻撃は張本人の板坂さんではなく、岡留さんが一身に受けます。それでも偉いのは、印刷してくれる印刷所を探しながら1号も絶やさず毎月発行し続けたことでしょう。なかなかできないことです。

板坂剛の激励広告(『映画芸術』)。下段の府川氏は、この頃から松岡に出版のノウハウを指導。

鹿砦社も、『噂眞』休刊を受けて、多方面からの要請を受け、上記のように、新米の中川志大を編集長に据え、彼がみずから取次会社を回り、新規の取得が難しいといわれる雑誌コードを取り月刊『紙爆』を創刊しました。それから3カ月経った後、警察癒着企業の大手パチスロメーカー「アルゼ」(現「ユニバーサルエンターテインメント」。ジャスダック上場)創業者らからの刑事告訴を受け「名誉毀損」容疑で神戸地検特別刑事部により大弾圧を受けました。大掛かりな家宅捜索、聴取は製本会社や倉庫会社へも及び、取次各社へも調査がありました。私は逮捕され192日間も勾留され鹿砦社も壊滅的打撃を蒙りました。創刊したばかりの『紙爆』も、ライターさんや取引先などの支援で(私が“社会不在”だったこともあり『噂眞』のように月刊発行はできませんでしたが)断続的に発行を継続し現在に至っています。

岡留さんはその後、雑誌の部数も増えるにつれ多くの訴訟攻撃を受け、なかでも作家の和久峻三氏からの刑事告訴によって東京地検特捜部に「名誉毀損」容疑で在宅起訴され有罪判決を受けます。岡留さんがなんで在宅起訴で私が身柄拘束され長期勾留されたのか、いまだに判りません。岡留さんのほうが圧倒的に大物なのに……。

晩年(といってもまだ50代で)岡留さんは、情報が乱れ飛ぶ東京を離れ沖縄に渡り飲み屋を経営しながら執筆活動を行なってきました。まだ50代から60代で、勿体ないといえば勿体ないですし、ある意味、うらやましい転身です。僭越ながら私も、それなりの資金を貯めたら帰郷し、岡留さんのような生活をしたいな、と望んでいましたが、起伏の激しい出版業、少しお金が貯まっても、すぐに出て行きます。

おそらく、岡留さんの死去について、ジャーナリズムや論壇で、安全地帯からあれこれ“解釈”したり、したり顔で講釈を垂れる人が出てくるでしょう。いや、ほとんどそんな人ばかりだと思います。

私たちがやっていることが「ジャーナリズム」だとは思いませんが、岡留さんのように身を挺してスキャンダルや権力、権威に立ち向かうという気概だけは学んだつもりです。そのことで手痛いシッペ返しを受けましたが(苦笑)。今は「苦笑」などと笑って語ることができますが、弾圧直後には、明日銭(あしたがね)にも窮する有様でした。

今のジャーナリズムや論壇で、岡留さんを美化したり持ち上げる人は数多くても、岡留さんが文字通り身を挺して体現した〈スキャンダリズム〉の精神を、わがものとしている人が果たして何人いるでしょうか?

岡留さんが周囲の友人らの出資を受け『噂眞』を創刊した頃、1970年代後半から80年代にかけては、こういう雑誌を出すことの機運があったように想起します。まだ30になるかならないかの時期に、月刊誌を創刊するなど無謀としか言いようがありませんが、この無謀な冒険も若さゆえやれたのでしょうか。今はどうでしょうか?

 
岡留・松岡共著『闘論 スキャンダリズムの眞相』目次

岡留さんとは一度、3日連続で対談をやり、『闘論 スキャンダリズムの眞相』というブックレットとして上梓しました(2001年9月発行)。もう18年余り経ったのかあ……本棚から出して来ました。今では懐かしい想い出となりました。ここで展開した“闘論”の内容と問題点は、今でも継続していると思います。あらためて読み直してみたいと思います。古い本ですが、少し在庫がありますので、みなさんもぜひご購読ください。

岡留さんは、数多くの訴訟を抱えたり刑事事件の被告人となり有罪判決を受けたりしましたが、晩年はみずからの希望で沖縄で悠々自適に暮らし、ある意味で幸せな人生だったと思います。誰もが、望んでもできるわけではありませんし、私もできません。

岡留さんは遺骨を沖縄の海に散骨して欲しいとのこと、綺麗な海で安らかに眠ってください。合掌。

闘論を終えてくつろぐ松岡(左)と岡留さん(当時の新宿の噂眞事務所にて)
岡留・松岡共著『闘論 スキャンダリズムの眞相』(鹿砦社2001年9月発行)