キックボクシングの採点はなぜ、10点法の減点式なのか?

プロボクシングとキックボクシングの共通の疑問。
「 1度のダウンで10-8、2度のダウンで10-7となりますが、何で10-6じゃないの?」
こんな質問が時折聞かれます。

採点基準の簡易的な説明はテレビでのボクシング中継でもされていますが、細部に至る補足説明は全くされていないのが現状です。

◆“ダウンは2点ではない”

試合後、ジャッジペーパーを渡す瞬間

現在のJBCルールは今年、フリーノックダウン制に改訂されてからは通常10-10から10-6の範囲内で採点される中でも(反則減点を除く)、なかなか複雑な構造を持っていると言えるかもしれません。その内訳もサッカーやバスケットボールのようにゴールされて得点が入るような、クリーンヒットが当たって「ハイ、1点!」という単純な得点競技ではない採点競技の奥深さ、理屈で説明しても伝わらない難しさがあります。

「ボクシングルールは突き詰めて考えると、どんどん矛盾点が出てきますよ」というボクシング関係者もいて、あくまで解釈方法のひとつとして、独断と偏見で書き述べますと、まず一例目として、“ダウンは2点ではない”という見方を持ってみましょう。ダウンが2点であれば2度のダウンで10-6となるはずですが、ではまず1度のダウンで10-8となるのはなぜでしょうか。

いつどこで手に入れたか覚えていませんが、ムエタイではこんな感じのジャッーパーとなります。タイトルマッチではラウンド毎の記入用紙になります

その内訳を“ダウンは1点”と解釈してみます。そしてその“ダウンを奪った有効打”が、そのラウンドを占める“明確な優勢点”としての採点が1点。この計2点が引かれ10-8となると考えます。

2度のダウンがあればその2点と、その2度のダウンを奪った2度の有効打も、“そのラウンドを占める明確な優勢点”での採点1点として、計3点で10-7になると考えます。通常のダウンの無いラウンドで優劣を見極め10-9が付けられますが、この1点は、攻防の中、ダウンは取れなかったが優勢であったという、このラウンドを占める“見極めの”優勢採点1点です(微差でも)。このダウンを導く有効打1点とダウンしない中での優勢1点とは重みが違い、ダウンを奪われ、「マイナス2点は大きい」と挽回しようとラッシュしても、ダウンを奪われたそのラウンドの他の時間(おおよそ2分以上)の大半を圧倒しなければ10-9には縮まらないと言われます。それほどダウンを奪った有効打に重点を置かれるのでしょう。

日本のキックボクシングで、古い時代に使われていたラウンド毎のジャッジペーパー。現在はもっと進化しています

ダウンを奪い返せばお互いの1度ずつのダウンは相殺されるので、実質10-10に戻り、どちらかが更に一度ダウンを奪えば改めて10-8になります。

1999年2月のWBA世界スーパーフェザー級タイトルマッチでチャンピオン.畑山隆則(横浜光)が第2ラウンドにソウル・デュラン(メキシコ)にダウンを奪われました。ダメージは軽かったようでしたが、御本人も「このラウンドは巻き返しに行っても劣勢の10-8から10-9には縮まらないだろうと思い、無理に行かなかった」と後に言われています。

仮に巻き返そうとラッシュしても、かなり優勢に相手を圧倒しなければ、スタミナを失うだけで、その低い挽回の可能性を捨て、次のラウンドに備えたのは賢明だったでしょう。ダウンを奪われたその有効打そのものによる1点は、ラウンドの大半を優勢に行かなければ取り返せない、10-9には縮まらない例です。

二例目として、ある研究熱心なキックボクシングレフェリーの回答ですが、ダメージの無い相手からダウンを奪うのは結構難しいことであり、そんな難度の技なので“ダウンは2点”として10-8。そして一度ダウンしたダメージある相手から更にダウンを奪うのは比較的簡単で、この難易度が低下することで1点となり、計3点が引かれ10-7となるというものです。私と解釈は異なりますが、一般の方には、この方がはるかに分かり易いところでしょう。

異なる例の三例目として、未承認ですが、「1度のダウンで10-7、2度のダウンで10-6」となる某ボクシング解説者の提案ではどうなるでしょう。当然ここでも“ダウンは3点ではない”内訳が見えてきます。
現在、10-8の枠で無理に収めている優劣の解釈をもう少し枠を広げ、僅差、軽度のフラッシュダウン、圧倒的攻勢、巻き返しの差まで緩やかに付けようというものですが、見極め判断がよりややこしくなり、浸透しないであろう要因もあって実現には至りませんが、これも構造的には理に適った採点と考えられます。

20年ぐらい前のタイで行われた世界戦の採点表が新聞に載ったもの。何の試合かはわかりませんが、中央は浅尾和信氏、右側に手崎弘行氏の名前があるので、日本人出場の試合では無さそうです

◆なぜ0からのポイント加算式でなく、10点法の減点式なのか?

なぜ0からのポイント加点式でなく、10点法の減点式なのか、そんな疑問も考えた人は多いかもしれません。その答えは誰にもわからないかもしれません。単にアメリカでは単純計算が苦手で、95セントのパンを買うのに1ドル紙幣を出すと、そのおつりを1セントずつ声に出して99・98・97・96・95とコインを数えながら渡すといったことを極端な例として聞いたことありますが、そんな減算法の慣習から来ていることも要因かもしれず、ジャッジペーパーの集計すら時間が掛かっている場合がありますね。単に一桁の単純計算が苦手なのはお国柄かもしれません。

創生期のキックボクシングでは日本系は10点法、全日本系は5点法の0.5ポイント制(当時のルンピニースタジアムと同様)でしたが、ポイントの付け方は現在より大幅に認識違いはありました。日本系はフリーノックダウン制で、5回ぐらいダウンしても立ってくれば続行させ、10-4なんて採点もあったようでした。次第に現在のプロボクシングに準ずる採点方となっていきましたが、真似しているだけでルールの意味を深く理解していない判断が多かったのも事実でした。

明確な優勢と見極めの優勢、微差も振り分ける、そこに現れる10-9の幅の広さ。ボクシングルールには分かりにくい部分が幾つもあるかと思います。これらを感性で理解するには理屈でなく、試合を何年も観ていく経験値で自然と理解出来ていくものかもしれません。

この採点基準の解説は、明確にできる人が少なく、調査不足もあって完全な結論は出せませんが、ここに書かれた解説は、ひとつの参考資料として御理解ください。

[撮影・文]堀田春樹

▼堀田春樹(ほった・はるき)
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

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キックボクシング界全体で年間最優秀選手を決める時代を目指す!

キックボクシング界から一人だけ選ばれる昨年の最優秀選手を予想するなら、ファンやマスコミ等ではすぐ頭に浮かぶことでしょう。それを形となって現わすことの出来ない現状であります。また多くの若者がデビューする裏側には団体の壁で区切られる層の薄さがあって新人王トーナメント戦には発展しない現状があります。

◆1986年の年間最高試合表彰式──衝撃的展開の2試合

1986年MA日本キック連盟新人王。小沢一郎氏がコミッショナーとなった時期、なかなか大々的でありました。左からフライ級宮野博美(光)、バンタム級清水隆弘(AKI)、フェザー級黒山猛(AKI)、ライト級杉田健一(AKI)、ウェルター級竹山晴友(大沢)

キックボクシングの昭和の全盛期では新人王トーナメント戦が各階級で盛んに行われていましたが、テレビが離れた後の業界の衰退期は、興行が激減し選手も育たない中、新人王戦も年間表彰式も行なえるわけもなく、ここから奇跡的復興した後のMA日本キックボクシング連盟の初期、1986年から年間表彰式が行なわれていました。

この年の最高試合賞は同年5月の日本ウェルター級タイトルマッチ、チャンピオン.向山鉄也(ニシカワ)vs 同級2位.須田康徳(市原)戦のダウン奪い奪われまた逆転の壮絶な試合でした。

1986年11月24日、年間表彰選出で落ちた方の、準最優秀試合になった試合。日本ウェルター級チャンピオン向山鉄也(ニシカワ)vsタイ国ラジャダムナン系ウェルター級チャンピオン.パーヤップ・プレムチャイ(タイ)戦。大木のような左ミドルキックで向山の腕は上がらなくなり、脇腹はケロイド状に腫れ上がった。スリップ気味ながらダウンを奪い2-0の判定負け

同年11月の向山鉄也 vs パーヤップ・プレムチャイ(タイ)も壮絶な試合で、選出に意見が互角に分かれるほどでしたが、過去の歴史の中でも現在まで、トップを争うほどの衝撃的展開の2試合でした。この年から新人王トーナメント戦も復活開催されています。

しかし、その後もキックボクシングにおいての年間表彰式は団体ごとの催しで、平成の時代に入ってからはMA日本キックボクシング連盟と全日本キックボクシング連盟での2団体が主に興行の中でのリング上で年間表彰式が行なわれるようになりました。現在のところは団体分裂が複雑過ぎ、またフリーのジムも多くなる分散化が進み、一部団体でしか行なっていないようですが、ひとつの団体だけの枠内で行なう表彰式では、そのレベルもキックボクシング業界全体としては価値の計りにくい曖昧なものとなってしまいがちです。

1993年1月に行なわれた全日本キックでの年間表彰式。清水隆弘も立嶋篤史も前田健作も杉田健一も熊谷直子もいた若き時代
2013年のプロアマボクシング年間表彰。年間最優秀選手賞の山中慎介(帝拳)選手。キックとは別世界の人のよう

◆ボクシング界が羨ましい

ボクシングではJBC、日本プロボクシング協会、日本ボクシング連盟(アマチュア)、東京運動記者クラブボクシング分科会が合同主催となって毎年1月に年間優秀選手表彰式が行われています。表彰対象はプロ・アマ別ですが、この辺は羨ましい限りの業界の結束力です。表彰は最優秀選手賞の他、殊勲賞、敢闘賞、技能賞、KO賞、努力賞、新鋭賞、最高試合賞などと女子部門があります。

また、新人王トーナメント戦もプロボクシングでは毎年各階級で行われますが、キックボクシングでの大々的な新人王各階級トーナメント戦は、昭和の時代と、上記のMA日本キックボクシング連盟の初期まで、その後は限られた階級だけでの少人数での争奪戦や一人だけ選ばれる新人賞など、団体にもよりますが近年まで存在しています。

世間の注目度が圧倒的アップするプロアマボクシング表彰選手の2014年集合写真

◆1973年、巨人の王貞治氏を抑えてキックの沢村忠氏がプロスポーツ大賞を獲った時代

そんな中、昨年末12月20日に行なわれた、プロスポーツ大賞授賞式で、キックボクシングから功労賞に日本ライト級チャンピオン.勝次(藤本)、新人賞に日本ミドル級チャンピオン.斗吾(伊原)が選ばれました。新人賞は加盟各競技から15名が選ばれ、そこから最高新人賞が選ばれます。

さすがにメジャースポーツに囲まれると、なかなかキックボクシングが上位に食い込むことは難しいですが、プロスポーツ大賞が発足した1968年(昭和43年)当時からキックボクシング選手も堂々絡んでおり、キックボクシング創始者・野口修氏の努力で、1973年には沢村忠(目黒)氏が王貞治(読売巨人軍)氏を抑えて大賞を獲った時代もありました。

20年続くニュージャパンキック連盟(NJKF)の昨年の年間表彰式。過去には後楽園飯店でのパーティー形式もありました

◆一人しか選ばれない最優秀選手の希少価値

そんな時代を振り返り、12月11日の興行で伊原信一氏が「いつかはキックボクシングから大賞を獲ることを目指していきたい」と述べていましたが、今、盛り上がりつつあるキックボクシングなら将来的には決して夢ではない時代に入って来ているのも事実で、野口修氏が残した加盟権は新日本キックボクシング協会が受け継いでおり、業界の結束力があればやがて実現可能に向かうかもしれません。

そういう格式高いイベントにキックボクシングが上位に躍り出るには、幾らでも増える国内タイトルより、プロボクシングと同様の年間優秀選手表彰と、プロの底辺となる新人王トーナメント戦の存在かもしれません。アマチュアムエタイが団体の枠を越えて交流している現状があるので、しがらみの少ないプロの新人王戦も大々的にトーナメントを戦わせてみたいものです。

全階級から一人しか選ばれない最優秀選手の希少価値は、ひとつの階級の日本王座より重みがあるでしょう。タイでもマスコミと協会が選出する年間最優秀選手賞があるので、日本もその方向の、形となって現すことの出来る環境へ、陰からその可能性を応援していきたいところです。

[撮影・文]堀田春樹

▼堀田春樹(ほった・はるき)
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

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志朗がKO勝利! ファイトマネー総取りマッチを制す!

蹴りが速かった麗也、グッサコーンノーイの圧力に負けず
パンチ、ヒジ、蹴りの連打で心折った麗也の勝利
柴田春樹vsジェイ・ボイカ。ウェイト差、パンチ力、連打力が優ったジェイ・ボイカ、再戦に期待したい
間の取り方が上手かったブンピタック、石川直樹は学ぶこと多かった

かつては治政館ジムの若く将来有望だった志朗は、今やムエタイランカークラスにインパクトあるKO勝利を収めるメインイベンターに成長、今後、日本キック界のエース格を争わせるイベントに出場しても、人気と好ファイトを確信できる存在となりました。

ファイトマネー総取り額は150万円。決して高い額ではありませんがタイ側にとっては魅力的だったでしょう。

◎WINNERS 2017.1st
1月8日(日)後楽園ホール17:00~20:55
主催:治政館ジム / 認定:新日本キックボクシング協会
放送:テレビ埼玉. 1月28日(土)20:00~20:55

《主要4試合》

◆54.0kg契約 5回戦

麗也(元・日本フライ級C/治政館/54.0kg)
           VS
グッサコンノーイ・ラーチャノン(元ルンピニー系SF級2位/タイ/53.0kg)

勝者:麗也 / TKO 3R 1:35 / カウント中のレフェリーストップ
主審:椎名利一

実質大トリメインイベントを初めて務めた麗也はアグレッシブに攻めてくるグッサコンノーイに速いローキックと地道に当てるパンチで徐々にダメージを与え、打ち負けることなく倒して勝つ、そのメインの役目をしっかり果たしました。

◆ヘビー級3回戦

日本ヘビー級チャンピオン.柴田春樹(ビクトリー/93.0kg)
           VS
ジェイ・ボイカ(元・J-NETWORKヘビー級C/ブラジル)

勝者:ジェイ・ボイカ(=楠木ジャイロ)/ TKO 2R 1:40 / カウント中のレフェリーストップ主審:和田良覚

日系ブラジル人のジェイ・ボイカは分厚い上半身で一気にラッシュするパンチの圧力が凄い。柴田はローキックで勝機を掴むも、踏ん張るジェイ・ボイカのパンチで崩れ去りました。ジェイ・ボイカは弱点はありつつも日本の人材不足のヘビー級には必要な存在でしょう。

◆52.5kg契約3回戦

日本フライ級チャンピオン.石川直樹(治政館/52.5kg)
VS
ブンピタック・クラトムブアカーウ(タイ/52.0kg)

勝者:ブンピタック・クラトムブアカーウ
判定0-3 (27-29. 27-30. 27-30)

チャンピオンになって初戦の石川にムエタイ技が圧し掛かる。圧力に負けない積極性が増した石川でしたが、3ラウンドに左フックでダウンを奪われ、ヒジで額をカットされる大差判定負け。一瞬の隙を突いたムエタイ技に過去にない経験をした石川はこれからも続くムエタイ対策に磨きをかけなければいけません。

志朗のローキックでジワジワとパカイペットの戦力を弱めていった
パカイペットの強い蹴りに決して下がらなかった志朗の返しの蹴りに、パカイペットも焦りの表情に変わる
意識朦朧のままコーナーへ引っ張られリングを降りたパカイペット、蹴られた太股も志朗以上に傷が残る

◆ファイトマネー勝者総取りマッチ 56.0kg契約 5回戦

ISKAムエタイ世界バンタム級(-55kg)チャンピオン.志朗(治政館/55.7kg)
VS
ルンピニー系スーパーバンタム級6位.パカイペット・ニッティサムイ(タイ/55.7 kg)

勝者:志朗 / KO 5R 3:10 / テンカウント / 主審:少白竜

ファイトマネー総取りマッチはタイではよくある賭け試合です。パカイペットは総額30万バーツ(約95万円)を賭けた試合を行ない勝利したこともあるという意欲ある選手。1年前に日本バンタム級チャンピオン.瀧澤博人(ビクトリー)を左ミドルキックでTKOに追い込んだタイのランカーで、志朗にとって過去最強の相手とされていました。

骨の硬くて重くて速いパカイペットの左ミドルキックとローキックで志朗を攻める。志朗はブロックしてパンチやローキックを返す蹴りも負けていない志朗だが、骨同士が当たると素人目にはいかにも痛そうな蹴りは、貰い続けては動けなくなりそうな予感。

賞金が懸かると本気になるタイ選手らしく、中盤から組み合ってのヒザ蹴りも勢いが落ちないが、志朗もローキックを強く返し、パンチが何度もパカイペットの顔面を捉える。

キックボクシングとして、3ラウンドまでの公開採点によるポイントはパンチで優る志朗が僅差で上回るも、後半に勢いが増すパカイペットに微妙な判定か、または延長戦か、または暴動寸前の猛抗議か、そんな予想も見事に不要となったラストラウンド終了間際1、2秒前の志朗の隙を突いたパンチがアゴにヒットしグラつくと更に連打しパカイペットが崩れ落ちる。完全に効いた重いダメージでほぼテンカウントを聞いてもしばらく立ち上がれないパカイペットに完勝した志朗でした。

志朗はWINNERS,2nd.5月興行でISKAムエタイ世界バンタム級王座の防衛戦が予定され、志朗の後輩の麗也も後に続く成長を遂げ、今春、ベルギー遠征が予定されており、ISKAオリエンタルルールの世界ランキング査定試合が行なわれます。いずれもISKA路線ですが、タイで名の売れた二人はタイ二大殿堂スタジアムでの試合も増えるでしょう。

運命を分けたラストのほんの数秒の出来事、劇的勝利の瞬間

◆翔栄(元・日本ライト級C/治政館)引退セレモニー

翔栄は外傷性くも膜下血腫の為、引退することになりました。2011年に16歳でデビュー。元・日本フェザー級チャンピオン.雄大の弟としても、兄と比べられる現役生活でした。2014年5月に王座決定戦で、現チャンピオンの勝次(藤本)と対戦、判定勝利で王座に就いていますが、ここで身体の異変に気付きドクターストップが掛かると、これがラストファイトとなり、22歳での惜しまれる引退となりました。

以下、9試合は割愛します。

麗也と志朗。二人ともKO賞を獲り、志朗はベストファイト賞も獲ってのツーショット

《取材戦記》

私がタイにいた1988年頃のジムで、賞金総取りマッチがありました。ファイトマネーというより、陣営が出す金額そのまんま掛け金となったと思います。なので、「ハルキも賭けるか?」と言われましたが、その試合に出場するダウヨット・チャイバダンという選手の技量からいって勝つ気はしましたが、相手のことがわかりません。

我が陣営が言うには「ノム(ダウヨット)は負けないよ、大丈夫」と言われつつも弱気な私は賭けませんでした。ジム仲間の選手達は皆少ないながら持ち金を賭けていました。試合には勝って我が陣営は総取りに成功。1万バーツほど賭けていたジム仲間は、その後しばらく姿をくらました奴もいて、彼女と遊び歩いたのかもしれませんが、たかが2倍になるだけ。負ければ賭け金すべて失うのでリスクが高い遊びです。スタジアムに足を運ぶ群衆もこんなことが道楽で、山に囲まれた田舎でも夕暮れ時に村人が集まって、鶏の喧嘩に賭ける遊びがあったりしますから、人生ゲームを地でいく欠かすことのできないタイ人ならではの文化なのでしょう。

そもそも我々の人生の節目節目が賭けの連続で現在があり、例え負けても“生きているだけで丸儲け”なのかもしれません。

[撮影・文]堀田春樹

▼堀田春樹(ほった・はるき)
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

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プロデビューから9連勝5KOの拳四朗は「新世界王者」になれるか?

ボクシングの東洋太平洋ライトフライ級タイトルマッチ12回戦がダイヤモンドグローブの主催で昨年12月8日、東京・後楽園ホールにて行われた。

ものすごいインサイドワークとハードパンチを併せ持つアマチュア出身の王者・拳四朗(BMB)が挑戦者の同級3位レスター・アブタン(フィリピン)に3回1分57秒TKO勝ち。

「作戦通りの展開に持ち込んだ。もっと強い相手とやってもよかったが、相手が大振りしてくれた。はっきりいってこれではスパーリングにもならないよ」(格闘技ライター)

拳四朗は初防衛に成功したが、死角もある。

「日本同級王座も保持する拳四朗はプロデビューから9連勝(5KO)としたものの、もし誰かが打ち合いに持ち込んで近距離で立ち往生したらどうするか。もしくは相手が極端にアウトボクシングをしてきたらどう立ち回るか、という点で作戦がまだ確立されていない」(同)

安全運転で適度な距離を保ち、冷静にフックや右ストレートを入れていく拳は、ややもすると「遊んでいるのではないか」と思えるほど。油断から1回はアブタンの大振りフックをもらう場面があり、リングサイドからは「しっかり見ろ。打ち返せ。足を使え」と檄が飛ぶ。

もはや2ラウンドからは、距離をとらずに相手を仕留めにかかった拳だが、やがて相手が大きく空振りしてふらつくと、その隙間を突いてジャブを打ち、離れぎわに一発打つという高度な、拳ならでは「離れ打ち」も披露しつつ、3ラウンドへ突入した。

3ラウンドに入り、やや疲れの見えたレスターに右カウンターをぶちこむと、ロープ際に追い詰めた拳。

レスターはたまらずダウン。左右の連打を浴びせて猛烈なラッシュをかけ、レフェリーストップになだれこんだ。「序盤が固かったので60点です」と反省しきりの拳四朗だった。

父で元東洋太平洋ライトヘビー級王者の寺地永会長は「春ぐらいにはできるように考えたいです。可能性はWBC(ガニガン・ロペス=メキシコ)かIBFの暫定(メリンド=フィリピン)が近いかも」と明かし、「世界戦はこっち(東京)でやって、防衛戦で(地元・京都に)錦を飾れればいいです」と話す。

果たして、世界戦が実現するか。
「まだまだクリンチされたら離れ方が悪いなど課題は多い」と陣営は言う。
「新世界王者」の誕生が近い予感がする。注目したい。

(伊東北斗)

タブーなきスキャンダルマガジン『紙の爆弾』2017年2月号

2017年キックボクシングの展望と数々の年始め興行!

タイでの試合とボランティア活動が多い志朗。2017年も両面で期待される
志朗に続く治政館ジムの期待の麗也もタイでの試合を意欲的にこなす

2016年から続く過酷な試練がムエタイ殿堂チャンピオン達には待ち受けています。T-98(今村卓也)と梅野源治はムエタイチャンピオンのまま1年を過ごせるか。

T-98は昨年6月に王座奪取し、10月に現地ラジャダムナンスタジアムで初防衛を果たす、日本人では初の快挙でした。これはT-98自身が目指したことでしたが、観衆は少ない中での防衛戦で、層の薄い重量級で今後、高評価を残すには、今考えられる大物と現地で防衛戦を積み重ねることで克服していくことでしょう。

梅野源治は今年、「KNOCK OUT」の常連メインイベンターで毎度の出場が予定されています。年間6度の興行予定がある中、更にこの合間を縫って半年とされる4月23日に防衛戦期限を迎えるラジャダムナン王座防衛戦を行なわなければなりません。
どちらも強豪が待ち構えるイベントで、強い梅野がどこまで短い試合間隔で激戦を続けられるか注目されます。タイ同級ランカーにも梅野という難敵は研究されるほどなので、群集が押し寄せる現地スタジアムで防衛を果たすことも陣営の計画にはあるでしょう。

◆ムエタイ二大殿堂王座に何人の日本人選手が挑戦するか?

更にこれらの最高峰とされるムエタイ二大殿堂王座に、今年の暮れまでに日本人選手が何人挑戦し、何人チャンピオンが誕生しているかも話題のひとつですが、「藤原敏男氏が獲った時代から比べれば、ずいぶんムエタイ王座挑戦への道が楽になったものだ」と語った当時を知るベテラン記者がいました。獲るだけでなく伝説を作る名チャンピオン誕生を、その兆しを作って欲しい数々のビッグイベントに期待が掛かる2017年であります。

◆1月6日(金)23時からTOKYO MXTVで「KNOCK OUT」がレギュラー放送に!

12月5日に初回興行をKO続出の大成功で終らせたイベント「KNOCK OUT」は今後も好カードでTOKYO MXTVで1月6日(金)23:00より、平成期以降は初となる毎週の地上波レギュラー放送が始まります。

1月8日に開催される新日本キック治政館ジム興行「WINNERS 2017.1st」のポスター

◆新年は1月8日(日)新日本キック「WINNERS2017.1st」で幕開け

年初めの国内興行では1月8日(日)後楽園ホールでの新日本キックボクシング協会・治政館ジム興行「WINNERS2017.1st」で、ISKAムエタイ世界バンタム級チャンピオン(55kg級).志朗(松本志朗/治政館)が出場。2016年1月に滝澤博人(ビクトリー)を圧倒し5R・TKOで倒したバカイペット・ニッティサムイ(タイ)と、56.0kg契約5回戦で、勝者がファイトマネーを総取りするというタイではよく行なわれる両陣営納得の条件で賞金マッチを戦います。観衆は観ているだけですが、お金が懸かるとより試合が熱く、注目と緊張が高まります。

麗也選手は昨年、日本フライ級王座を返上し、世界タイトルを目指し歩みはじめており、2017年は世界タイトルに繋がる闘いを続け、目先の目標はISKA世界王座になるでしょうが、更なるその先のムエタイ二大殿堂王座を見据えての通過点となるでしょう。その今年の初戦は元・ルンピニー系スーパーフライ級2位.グッサコンノーイ・ラチャノン(タイ)と対戦します(当初対戦予定の鈴木真彦は負傷欠場です)。

◆1月22日(日)はREBELSとJKI合同でチャンピオンカーニバル

1月22日にはディファ有明にてREBELSと日本キックボクシングイノベーション(JKI)との合同興行でチャンピオンカーニバルとして豪華開催。ノンタイトル戦を含め、両団体王座やWPMF、WBCムエタイなどの日本タイトルなどの複雑な国内王座が絡むロングタイム興行となります。

NKB傘下の日本キックボクシング連盟興行ポスター、進化が感じられる団体

◆2月5日(日)は日本キックボクシング連盟・神風シリーズvol.1

2月5日(日)にはNKB傘下の日本キックボクシング連盟・神風シリーズvol.1が開催。NKBミドル級王座決定戦、1位.田村聖(拳心館)vs 2位.西村清吾(TEAM-KOK)の10月2日に引分けた決着戦として行なわれます。高橋三兄弟は長男と次男出場、長男・一眞はNKBライト級ランカーの洋介(渡辺)と対戦。3連敗からの巻き返しに力を注ぎます。

次男の現NKBバンタム級チャンピオン.亮は元・WBCムエタイ日本バンタム級チャンピオンの知花デビット(エイワスポーツ)とチャンピオン経験あるもの同士の対決に挑みます。KNOCK OUTを意識したアピールが多いNKBだけに昨年からより活気ある興行が増えています。

そして2月12日(日) 大田区総合体育館で開催される注目の「KNOCK OUTvol.1」に繋がります。このイベントに相応しいと人選された3試合が決定しています(12月28日現在)。

梅野源治と対戦するのは、タイで10年近い選手生活で、国際的イベントに成長した「MAX MUAYTHAI」で昨年9戦6勝3分の戦績を残し、巧みな首相撲とヒジ打ちが得意で、前進するのみのファイタータイプ、ワンマリオ・ゲーオサムリット(スペイン)が選ばれました。

互いのぶつかり合いで一瞬の打ち合いで終る衝撃的結末を予感させますが、梅野は12月28日のカード発表記者会見で「心を折る、この時点でKO以上の価値があり、KOでなくても技術戦で相手の心を折れる試合がしたい」と語り、12月5日の初戦判定勝利もシリモンコンが心折れていた終盤が思い起こされます。

「守りに入った相手をどうすればKOできるかもトレーナーと研究中」と言い、「欧米系はパワーがあるとか体幹が凄いとか言われますが、それを感じたことは一回も無く、弱くてテクニックも無く単純にやり易く、タイ人とやる方がいちばん難しい」と言う、なかなか的を得た、欧米系のレベルも感じ取れる梅野源治の発言でした。

「KNOCK OUT vol.1」メインイベント、“king”梅野源治 vs “アバンサール”ワンマリオ・ゲーオサムリット

◆61.5kg契約 5回戦

ラジャダムナン・ライト級チャンピオン.梅野源治(PHOENIX)
vs
ワンマリオ・ゲーオサムリット(元・WPMF世界ライト級C/スペイン)

“WONDER BIRD”不可思 vs“クレイジーピエロ”山口裕人

◆64.0kg契約 5回戦

WPMF日本スーパーライト級チャンピオン.不可思(クロスポイント吉祥寺)
         vs
WBCムエタイ日本スーパーライト級チャンピオン.山口裕人(山口)

“RIZING BOM”引藤伸哉 vs “褐色のナルシスト”健太

◆67.0kg契約 5回戦

WPMF日本ウェルター級チャンピオン.引藤伸哉(ONE’S GOAL)
         vs
WBCムエタイ日本ウェルター級チャンピオン.健太(E・S・G)

一般の方には何か不可解と思われる同級チャンピオン対決ですが、上記予定文面にも出ているように、これが階級によっては10人も国内同級チャンピオンが居る不可解なキック系業界の王座乱立になっています。

これらの選手は複数王座を持っている選手も居て、まだしばらく改善はされないでしょうが、今年の「KNOCK OUT」の影響で、多くの国内王座より、名のある選手同士のビッグマッチが注目される時代に突入となり、多くの団体や興行が「KNOCK OUT」の出場を意識し、またはここに勝るイベントを目指す団体も出てくるほどキック業界が上昇志向となるでしょう。

「KNOCK OUT」が活動1年を迎える年末に、世間に与える影響はどれほどか、楽しみな1年となるでしょう。

「KNOCK OUT」を表と裏で牽引する小野寺力プロデューサーと梅野源治チャンピオン

[撮影・文]堀田春樹

▼堀田春樹(ほった・はるき)
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

7日発売!タブーなきスキャンダルマガジン『紙の爆弾』2017年2月号!
『NO NUKES voice』第10号[特集]基地・原発・震災・闘いの現場

2016年のキックボクシング界──10大ニュースで振り返る

止まることなく突き進む那須川天心18歳

  
今年のキックボクシング界も一年を振り返ると大きなことから小さなことまで、いろいろありました。
大きな出来事では、
《1》T-98(タクヤ/今村卓也)と梅野源治がムエタイ殿堂ラジャダムナンスタジアム王座を奪取
《2》ムエタイチャンピオンを倒すまで止まることなく突き進む18歳・那須川天心の躍進
《3》「NO KICK NO LIFE」から「KNOCK OUT」へ、小野寺力のイベント発進
これら3つのニュースは他の出来事が霞んでしまうほど業界に大きなインパクトを与えました。さらに、
《4》もう一人のムエタイチャンピオン、初防衛成功の福田海斗
《5》最軽量級ながら15歳で世界に挑んだ高校一年生、吉成名高
《6》激闘を繰り返した蘇我英樹とルンピニー王座に2度挑戦した一戸総太の引退
《7》ムエタイ日本王座認定組織がさらに二つ発進
《8》NKB傘下ではデビューから7連敗して初勝利を挙げた岩田行央の小さな物語
《9》高橋三兄弟は試練を受入れ、前向きに踏ん張る現在
《10》キックボクシング創始者・野口修さん永眠
といった7つの出来事を加えた10大ニュースで2016年のキックボクシング界を振り返ってみましょう。

◆《1》T-98と梅野源治がムエタイ殿堂ラジャダムナンスタジアム王座を奪取!

前年、ムエタイ王座に挑戦したのは7人で全敗、今年はT-98と梅野源治の二人のみでしたが、二人とも奪取成功。T-98は初防衛戦を現地ラジャダムナンスタジアムでKO勝利し、日本人初の現地防衛を果たしました。

第三のムエタイ殿堂王座となるタイ政府公認下にあるタイ国ムエスポーツ協会フライ級王座を2015年12月に奪取した福田海斗(18歳/キングムエ)は、7月にディファ有明で不利な展開を見せつつポイント有利に進め初防衛に成功。実力は充分あることを見せてくれた試合でした。減量苦もあってその後王座返上していますが、タイ現地で活躍を続けています。

獲っただけでは伝説に成り難い重量級の宿命。今後の冒険が期待されるT-98[写真左]。ついに獲ったラジャダムナン王座、同ライト級、藤原敏男を超える快挙に期待したい梅野源治[写真右]
KNOCK OUTプロデューサー小野寺力氏にも注目が集まる2017年

◆《2》那須川天心の躍進──ムエタイチャンピオンを倒すまで止まることなく突き進む18歳

幼少期からジュニアキックで経験を積んだ若年層では、大きく差を付けている感のある存在が那須川天心で、数々の王座を獲っている宮元啓介(橋本)とルンピニー系スーパーフライ級チャンピオンのワンチャローン・PKセンチャイジム(タイ)を大技でKOした試合は驚かされる結果でした。やがて壁にブチ当たると言われつつ、未知数の才能に注目されています。

◆《3》「NO KICK NO LIFE」から「KNOCK OUT」へ、小野寺力のイベント発進

キックボクシング創設“満50周年”を迎えた今年、「NO KICK NO LIFE」から新たな展開に船出したイベント「KNOCK OUT」が12月5日に開催されました。タイトルどおりの好カードを目指したマッチメイクからKO決着が続出する展開。

「KNOCK OUT」の代表、小野寺力氏は老舗・目黒ジム所属で日本フェザー級王座に就いた名チャンピオン。老舗で学んだキックボクシングから本来のノックアウトの醍醐味を魅せる興行を目指していました。ここへの出場を意識し「キックボクシング界は面白くなっていきます」とマイクで発言する選手が多い中、「そうは上手くいかないよ」という声があるのも事実。これがキック50周年を区切りに新しい時代を築けるか、(株)ブシロードという大きな後ろ盾が力強い存在ですが、キックボクシング業界全体がどう動いていくか、2017年の大きな注目でしょう。

◆《4》17歳のムエタイチャンピオン福田海斗と《5》WMC世界王座に15歳で挑んだ吉成名高

タイが主戦場となり、賭けの対象となる実力もある福田海斗(17歳)や石井一成(18歳)もまだ高校生の十代。

15歳でWMCの世界王座に挑んで敗れた吉成名高もまだ背の伸びる身体の成長期。タイが主戦場では選手層が厚く、接戦で勝ったり負けたりでも今後、サバイバルに勝ち上がる期待が持てる現在です。

タイが主戦場で激しいランキング戦を戦う福田海斗。三大から二大殿堂へ、真の最高峰を目指す[写真左]。プロとして若過ぎるほど、あどけない吉成名高は15歳。才能を発揮するのはこれから[写真右]

◆《6》激闘を繰り返した蘇我英樹とルンピニー王座に2度挑戦した一戸総太の引退

激闘を繰り返してきた蘇我英樹が地元の市原臨海体育館で、爆腕・大月晴明を相手に引退試合。前年5月にも激闘の末、判定で敗れている蘇我でしたが、最終試合を華やかに飾る意図は全く無く、激闘のKO負けで締め括る後、引退式を行ないました。

WPMF世界王座で2階級制覇、タイ国ルンピニー王座挑戦は奪取成らずも2度挑戦経験を持つ一戸総太も最終試合を判定勝利後、引退式を行ないリングを去りました。

激闘を繰り返した蘇我英樹も第二の人生を歩み始めた[写真左]。ルンピニー王座には届かなかったが、悔いの無いキック人生だった一戸総太[写真右]
ラジャダムナン王座初挑戦から3年、後が無い中、来年に懸ける江幡ツインズ

◆《7》ムエタイ日本王座認定組織がさらに二つ発進

乱立する国内王座のキックボクシング界に於いて、2009年以降、ムエタイという分野の王座はWBCムエタイと、WPMF傘下の日本王座が誕生し、今年更に二つ誕生したのがWMC日本王座と、前年8月に発表のあったルンピニー・ボクシング・スタジアム・オブ・ジャパン(LBSJ)の日本王座でした。いずれも大きなムエタイ組織の傘下にありますが、さすがにここも増え過ぎではあります。活性化していくことが大事ですが、いずれその差は出てくるでしょう。

今年、ムエタイ王座再挑戦があるかと思われた江幡ツインズは更に経験を積みながら、現地、ラジャダムナンスタジアムでの試合も経験、5月に敗れた江幡塁と重森陽太は日本で雪辱に成功。7月に出場した江幡睦は現地でKO勝利を飾り、昨年3月のラジャダムナン王座挑戦失敗から今年12月までで6連勝中。また逃すことは許されない中、来年こその再挑戦を待つ日々。

たまたま拾われた話題から注目を浴びる岩田行央、続編に期待してます

◆《8》36歳二児の父・岩田行央の挑戦──“7連敗からの初勝利”

ひとつ指摘されなければ気がつかない話題で、元・NKBウェルター級チャンピオン.竹村哲氏が試合パンフレットの「PICKUP NKB」で披露した記事からですが、NKB傘下の日本キック連盟で2009年7月のデビューから7連敗し、今年4月にデビュー戦の藤田洋道(35歳/ケーアクティブ)に1R・KOで初勝利を挙げた岩田行央(36歳/大塚)がいます。

岩田は二人の子供が居る上にデビュー戦後に離婚。シングルファーザーとなってブランクを作りつつも、子供の後押しもあって再起するも更に連敗し、周囲の引退の勧めにも笑って受け流し、とにかく1勝すること心に誓い、ようやく初勝利した瞬間は格別な想いだったでしょう。12月の再戦では1ラウンドに2度ダウンを奪いながら2ラウンド目に逆転されるダウンを奪われるも激しい攻防の末引き分け。初勝利より場内を沸かす熱い試合を展開しました。こんな新鋭3回戦クラスで将来性も無くても、選手ひとりずつ拾えばそれぞれの物語が存在するものですが、“7連敗からの初勝利”が導いた物語となりました。

日本キック連盟内で期待のエース、高橋三兄弟。それぞれ課題もあるが話題もある。倒すことに焦らず、前進あるのみ
32歳でキックボクシングを立ち上げ、第一線級を退いても82歳までキック界を見守った野口修氏

◆《9》高橋三兄弟は試練を受入れ、前向きに踏ん張る現在

同じ日本キック連盟内で期待のエース、高橋三兄弟も長男・一眞は他団体進出では苦戦が続きますが、KO狙いとスター性から「KNOCK OUT発表記者会見」での初戦ビッグマッチに起用された経緯がありました。次男・亮は話題の佐々木雄汰(尚武会)に判定勝利も、他団体興行で敗戦を味わい、三男・聖人はまだ3回戦。行く先の試練はあっても経験値を増やし、焦らず乗り越えて欲しい次期エース格の三兄弟です。

◆《10》キックボクシング創始者・野口修氏永眠

昭和41年に日本でキックボクシングを作り、ブームを興した野口修氏が今年3月に永眠されました。ここ数年は会場に足を運ぶのもやっとの状態で、7~8年ほど前から体調を崩し、手術で入退院を繰り返す事情もありました。2014年8月の新日本キックボクシング協会代表・伊原信一氏主催の「キックボクシング創設50周年パーティー」にはしっかりした足取りで来場していたものの、その後、会場に姿を現すことは極端に少なくなっていました。このように成長した現在のキックボクシング界、または御自身の理想から外れたキック界を見てどう想うか、その聞き難い本音を聞きたいところではありました。

[撮影・文]堀田春樹

▼堀田春樹(ほった・はるき)
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

『NO NUKES voice』第10号[特集]原発・基地・震災・闘いの現場
タブーなきスキャンダルマガジン『紙の爆弾』2017年1月号!

昭和のキック、絶対王者への道! 武士シリーズ vol.5 とSOUL IN THE RING 14

チャンピオンたちがそれぞれ先を目指した中での意地の勝利。村田裕俊(八王子FSG)はタイ修行成果でライバル・高橋一眞(真門)を破って王座戴冠した自信と次なるメジャーリングへの野望。勝次(藤本)は歴代先輩チャンピオン記録に迫り、追い抜く目標と共にラジャダムナン王座を目指す。

村田裕俊vs優介。村田の得意の組んでのヒザ蹴りが主導権を奪った(2016年12月10日)
村田裕俊vs優介。ヒジで切られた優介だが、反撃及ばず村田に屈す(2016年12月10日)

◎武士シリーズ vol.5
12月10日(土)後楽園ホール17:30~
主催:日本キックボクシング連盟 / 認定:NKB実行委員会

◆NKBフェザー級タイトルマッチ 5回戦(過去3戦して1勝1敗1分)

チャンピオン.村田裕俊(八王子FSG/56.9kg)vs 同級2位.優介(真門/56.9kg)

勝者:村田裕俊 / KO 5R 2:36 / カウント中のタオル投入
主審:前田仁

村田は長身を利したヒザ蹴りで優位に立ち、優介が懸命に攻めてもその踏ん張りを許さず、村田は以前より自分の距離に持っていくのが上手く、ヒジで切ってパンチでダウンを奪い、優介陣営の棄権を誘い込むTKO勝利。

安田一平vsSEIITSU。SEIITSUも8年前に王座挑戦の経験を持つベテラン。安田も気を抜けなかった中、パンチで何とか勝る(2016年12月10日)

◆67.0kg契約5回戦

NKBウェルター級チャンピオン.安田一平(SQUARE-UP/67.0kg)vs 同級6位.SEIITSU(八王子FSG/66.55 kg)

勝者:安田一平 / 判定3-0 / 主審 川上伸
(副審 佐藤友章48-47. 亀川48-46. 前田48-46)

強いパンチを持つ安田が積極的に攻め、3ラウンドには左フックとパンチ連打での2度のダウンを奪い、試合ストップかと思わせるほどだったが、4ラウンドにはSEIITSUの左ハイキックを貰ってしまい、5ラウンドへ引きずって更にハイキックを貰ってダウンする安田。勿体無い逆転を許すも前半の稼ぎで何とか判定勝利。

◆ウェルター級 3回戦

NKBウェルター級2位.岡田拳(大塚/66.2kg) vs 3位.塚野真一(拳心館/69.35kg)
勝者:岡田拳 / KO 3R 2:10 / 3ノックダウン
主審:鈴木義和

次期挑戦権を持つ約7年前のチャンピオンの岡田が序盤はやや苦戦も3ラウンドにパンチとローキックで3度のダウンを奪う圧勝で前哨戦を飾る。

◆ウェルター級 3回戦

NKBウェルター級8位.野口大輔(テツ/66.0kg) vs 9位.上温湯航(渡辺/66.2 kg)
勝者:上温湯航 / 判定1-2 / 主審:佐藤友章
(副審:川上29-29. 佐藤彰彦29-30. 前田29-30)

◆ライト級3回戦

NKBウェルター級5位.マサ・オオヤ(八王子FSG/62.5kg) vs NKBライト級8位.洋介(渡辺/62.3kg)
勝者:洋介 / TKO 1R 2:02 / カウント中のレフェリーストップ
主審:鈴木義和

他、7試合を割愛しています。

岡田拳vs塚野真一。岡田、7年前のチャンピオンのパンチ復活!(2016年12月10日)
江幡睦vsクルンシン。すべてがキレる技、ハイキックも打倒ムエタイへ自信あり(2016年12月11日)

◎SOUL IN THE RING14
12月11日(日)後楽園ホール17:00~
主催:藤本ジム / 認定:新日本キックボクシング協会

◆54.0kg契約 5回戦

WKBA世界バンタム級チャンピオン.江幡睦(伊原/53.75kg) vs クルンシン・ペップームムエタイ(タイ/52.3kg)
勝者:江幡睦 / KO 2R 2:43 / カウント中のタオル投入
主審:仲俊光

いよいよ煮詰まってきた最高峰へ再構想を描く江幡ツインズ。この日の睦も圧勝で昨年3月のラジャダムナン王座挑戦失敗から6連勝。以前からアピールするとおり、来年の最高峰再挑戦の計画が進んでいるところでしょう。パンチとローキックの冴えは抜群の技。少々の被弾もまともには喰わない。隙を見つけ、ボディブローによる2度のダウンで勝利を掴む。

江幡睦vsクルンシン。先手必勝、パンチも当て勘抜群(2016年12月11日)
勝次vsジョニー・オリベイラ。沢村忠のような形相でハイキックを繰り出す勝次、似ている!(2016年12月11日)

◆日本ライト級タイトルマッチ 5回戦

チャンピオン.勝次(藤本/61.23kg) vs 日本ライト級4位.ジョニー・オリベイラ(トーエル/60.8kg)
勝者:勝次 / KO 2R 1:54 / テンカウント
主審:椎名利一

メインイベントは江幡睦でも、注目となったのは勝次の防衛戦。勝次は半年に一度のペースで防衛を重ねるキック本来の道を進む老舗の拘り。過去4戦3勝1分の相手だが、諦めない積極ファイトを展開するジョニー・オリベイラに、勝次が更に積極性で上回った。

第1ラウンドにパンチからヒザ蹴り、更に飛びヒザ蹴りでダウンを奪い、2ラウンド目には威嚇して顔面ガード空いたところに右ヒジ打ちでテンカウントを聞かせる圧倒勝利。防衛ごとに踏み込む勢いが増してきた勝次。目黒ジムを継承する藤本ジムでは過去、ライト級で石井宏樹が8度、ミドル級で松本哉朗が6度防衛した記録が新日本キックには残ります。

このまま防衛記録を伸ばすにしてもラジャダムナン王座に挑むにしても、注目を集める存在の勝次。ラジャダムナン・ライト級チャンピオンは梅野源治(PHOENIX)が居て、日本人的には好カード。しかし、タイ現地でやるべきタイトルであり、挑戦権争いでも狭き門の殿堂王座であります。

勝次vsジョニー・オリベイラ。初回早々から飛ばした勝次の前蹴り命中(2016年12月11日)
緑川創vsイッキュウサン。蹴られても攻める意欲は緑川の力(2016年12月11日)
緑川創vsイッキュウサン。我慢比べで優った緑川の攻勢(2016年12月11日)

◆70.0kg契約 5回戦

緑川創(元・日本W級C/藤本/70.0kg) vs イッキュウサン・ペップームムエタイ(タイ/69.15kg)
勝者:緑川創 / TKO 5R 2:10 / カウント中のレフェリーストップ
主審:少白竜

初回から様子見のパンチとローキックで攻める緑川だが、重たくしぶといタイ選手の手数も減らず、3ラウンドにはヒジ打ちを貰って額を切られる瞬間もあるも、緑川はやや攻勢が増し、4ラウンドに更に勢いづいた緑川が第5ラウンドに左ボディブローから左ヒザ蹴りでようやく沈める。

◆68.0kg契約3回戦

日本ウェルター級チャンピオン.渡辺健司(伊原稲城68.0kg) vs レック・エイワジム(エイワスポーツ/68.0kg)
引分け / 0-1 (29-29. 29-30. 29-29)

◆73.0kg契約3回戦

日本ミドル級チャンピオン.斗吾(伊原/73.0kg) vs コーンリーチ・エスジム(カンボジア/72.7kg)
引分け / 0-1 (29-29. 29-29. 29-30)

他、6試合を割愛しています。

◆取材戦記

12月5日のKNOCK OUT興行が終ってのふたつの興行でした。特に日本キック連盟興行では「KNOCK OUT」を意識した、マイクによる発言で目指す先が見えてきて、「そこに出るんだ」といった意識を感じます。新日本キック協会ではその類いの発言は無いものの、最高峰への意欲は以前より増しています。

緑川創と対戦した“イッキュウサン”は同名のタイ選手が存在するそうで、最近、ややこしいタイ選手名が増えています。第2試合に出場し、皆川裕哉(藤本)に判定で敗れたラジャサクレック(タイ)も同名のラジャサクレック・ソー・ワラピン(タイ)が居て、うっかりすると扱いに困ります。外国人選手名は通常使われるリングネームが当然としても、すべてパスポートから分かる本名も付随して欲しいものです。

私(堀田)は最近でも在日タイ人元選手で、レフェリーを務めるソンマーイ・ケーウセーン氏をチャンデー・ソー・パランタレー氏と顔が似ていて間違えていたことがありましたが、最近のタイ選手名には戦歴経歴にも気をつけなければならないマスコミ陣であり、直接選手に聞く事が確実で、キック取材に於いては英語とタイ語は学んでおいた方が良さそうなこの頃であります。

[撮影・文]堀田春樹

▼堀田春樹(ほった・はるき)

フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

『NO NUKES voice』第10号[特集]原発・基地・震災・闘いの現場
タブーなきスキャンダルマガジン『紙の爆弾』2017年1月号!
『反差別と暴力の正体――暴力カルト化したカウンター-しばき隊の実態』

KNOCK OUT興行開催! ついにこの日がやってきた!

飛び蹴り、後ろ蹴り、躊躇うことなく繰り出す那須川天心の天才的な技

テレビ解説の元ムエタイチャンピオン.石井宏樹の言葉だったかと思いますが、「ついにこの日がやってきた」とは、正にそんな日でした。こんなキャッチフレーズは過去に何度も使われましたが、日本で大手企業がバックアップし、やがて地上波で放送予定にあるイベントとしてはキックボクシング満50周年に新たな歴史の一歩を踏み出したと言える日かもしれません。

6試合中、メインイベント以外はすべてKO、大月晴明(43歳)と那須川天心(18歳)は常識を超えた天才か。それぞれの歳でこんな難敵を豪快に倒すとは驚きの現実を見せ付けてくれました。

見事、顎に命中、どこまで突き進むか那須川の偉業
立てないワンチャローン、悶絶KO

大月は開始早々からボディブローを引き金に顔面への爆腕パンチラッシュで一気に倒し、那須川天心は初のヒジ打ち有効ルールも恐れず攻め、ムエタイ現役チャンピオンに左後ろ蹴りを顎に炸裂させて悶絶KOする動体視力と当て勘の良さ。
T-98は長島のヒジ打ち貰って顔面切られる不覚も、10月のラジャダムナンスタジアムでの初防衛戦で見せた打ち負けない圧力で重いローキックと右ストレートで倒す貫禄。

森井洋介はヒジで切られつつ、右縦ヒジカウンターで打ち倒し、9月のKNOCK OUT発表会見試合で高橋一眞を1R・KOした試合を含め2連勝。勝ち数では一歩先行く立場。
小笠原瑛作は以前より勢い増したしなやかさとスピードで宮元から一歩も引かない攻撃力でバックヒジ打ち、左ヒジカウンター、左ハイキックで3度ダウン奪って快勝。

梅野源治は本来の技術で優る展開を見せ、元ラジャダムナン・フェザー級、スーパーフェザー級2階級制覇チャンピオンに大差に近い判定勝利。終盤、シリモンコンが諦めの表情を見せるような梅野の実力が光りました。今年の梅野は激闘で怪我が多かった中でも、ラジャダムナン・ライト級王座を奪取しこの日を迎え、体調万全ではないことも試合に表さない強さを見せました。

◎KNOCK OUT Vol.0 / 12月5日(月) TDCホール19:00~21:25
主催:(株)キックスロード / 放送:FIGHTING TVサムライ、スポナビライブ

◆メインイベント 第6試合 61.5kg 5回戦

ラジャダムナン系ライト級チャンピオン.梅野源治(PHOENIX/61.3kg)
         VS
シリモンコン・PKセンチャイジム(元・ラジャダムナン・SB級、Fe級C/タイ/61.1kg)
勝者:梅野源治 / 判定3-0
主審 大成敦 / 副審 大村50-46. 北尻49-46. 小川49-47

しなりある梅野のハイキックに近い右ミドルキック、徐々に梅野ペースへ引き込まれる
左ミドルキックで攻める梅野。シリモンコンに活路は無かった
ムエタイチャンピオンの貫禄が増したT-98は長島を圧倒するも、ヒジ打ちで右頬を切られる不覚
森井もパンチから最後はヒジで決める難度の技でKO

◆第5試合 55.0kg契約 5回戦

那須川天心(TARGET/55.0kg)
         VS
ルンピニー系スーパーフライ級チャンピオン
ワンチャローン・PKセンチャイジム(タイ/54.9kg)
勝者:那須川天心 / TKO 1R 2:23
カウント中のレフェリーストップ / 主審 岡林章

◆第4試合 70.0kg契約 5回戦

ラジャダムナン系Sウェルター級チャンピオン.T-98(=タクヤ/クロスポイント吉祥寺/69.95kg)
        VS
長島自演乙雄一郎(魁塾/70.0kg)
勝者:T-98
TKO 2R 2:50 / カウント中のレフェリーストップ゚ / 主審 大村勝巳

◆第3試合 60.5kg契約 5回戦

森井洋介(GOLDEN GLOBE/60.5kg)
VS
ヨードワンディー・ソー・チャナティップ(BBTVライト級10位/タイ/60.5kg)
勝者:森井洋介
TKO 3R 1:56 / カウント中のレフェリーストップ゚ / 主審 北尻俊介

最後は相打ちカウンターの右縦ヒジで顎を打ち抜き、ヨードワンディーは起きれず
小笠原の先手打つ攻めは宮元のスピードを上回った

◆第2試合 55.4kg契約 5回戦

WPMF世界スーパーバンタム級チャンピオン.宮元啓介(橋本/55.3kg)
          VS
小笠原瑛作(クロスポイント吉祥寺/55.4kg)
勝者:小笠原瑛作
KO 3R 2:53 / 3ノックダウン / 主審 小川実

◆第1試合 61.5kg契約3回戦

大月晴明(元・全日本ライト級C/マスクマンズ/61.5kg)
VS
スターボーイ・クワイトーンジム(元・WPMF世界Fe級、SFe級C/タイ/60.8kg)
勝者:大月晴明
KO 1R 0:45 / テンカウント / 主審 北尻俊介

大月晴明(右)の爆腕ラッシュはいつも以上に威力があった

◆取材戦記

日本人全選手、興行名に恥じない展開を目指した、そんな勢いを感じました。KNOCK OUT初回本興行としては大成功と言える内容でしょう。しかし「ノックアウトに重点を置く興行」とタイ選手に伝えても、そう簡単にムエタイリズムを変えられるものではなかったかもしれません。そういう意味では今後のタイ側の名誉挽回に本気モードがやってくるでしょう。それは次なる展開に繋がり、より話題が盛り上がります。

今回の出場チャンピオンたちの契約ウェイトの幅の狭さにちょっと驚きました。梅野の場合、ゆとりを持って62.0kg契約でもよかったのではと思います。「ラジャダムナンスタジアムは寛大な対応をしつつ、突然厳格なことを言ってくる場合もあるので気をつけた方がいい」とは現地マスコミの意見。両者ライト級61.23kgを超えていないとチャンピオンの“負ければ剥奪”の義務が生じるということです。

東京ドームシティーホールは2008年春に開業しました。私個人としてはこれまで縁無く、初めて入場しましたが、どの階からも近く見易い印象がありました。コンサート・ライブに向いた会場と思いますが、リングを使う格闘技興行としては以前と変わらず、使用設備の問題で後楽園ホールが主流なのも分かります。いずれにしても格闘技興行は見易さ重視で、広くても大田区総合体育館まででいいという一般的意見でもあります。

来年のスケジュールは2月12日から4回の予定が決定しています。それ以降は調整中。出場を予定される選手、希望する選手、ファンが望むカードなどありますが、どこまで実現出来るかが今後への期待となるでしょう。他団体でも「KNOCK OUT」を意識した発言が聞かれます。

KNOCK OUT の第2回興行となる「KNOCK OUT vol.1」は、2月12日、梅野源治、那須川天心の連続出場の他、個性豊かなチャンピオンたち、町田光、前口太尊、引藤伸哉が初出場します。

2月12日(日) 大田区総合体育館
4月 1日 (土) 大田区総合体育館
6月17日(土) TOKYO DOME CITY
8月20日(日) 大田区総合体育館

恒例となる全試合を終えて集合写真。負傷選手は上がっていませんが、この場に残るのも価値ある瞬間

[撮影・文]堀田春樹

▼堀田春樹(ほった・はるき)
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

基地・原発・震災・闘いの現場『NO NUKES voice』10号
タブーなきスキャンダルマガジン『紙の爆弾』2017年1月号!
『反差別と暴力の正体――暴力カルト化したカウンター-しばき隊の実態』

ムエタイ“上位王座”の厚い壁──撥ね返された三人の挑戦者たち

ジュニアキックで経験を積んだ15歳の少年が世界王座に挑んだのはWMCの最軽量級ながら今後の成長に繋がる節目の挑戦でした。

◎ムエローク 2016.4th
11月13日(日) 新宿フェイス17:30~20:40  主催:尚武会 / 認定:WMC

◆WMC世界ピン級タイトルマッチ 5回戦(100LBS=45.359kg)

前チャンピオン.シューサップ・トー・イッティポーン(17歳/タイ/47.1→46.7kg)
VS
挑戦者.吉成名高(エイワスポーツ/アマチュア17冠王/45.1kg)
勝者:シューサップ / 判定3-0
主審:チャンデー・ソー・パランタレー 副審:シンカーオ50-47. ノッパデーソン50-47. ナルンチョン50-47

シューサップは計量失格でこの時点で“前チャンピオン”となります。こういう事態がここ数年増えたのは、「日本での試合を軽く見ている」という意見をよく聞きます。あえて擁護するなら、17歳という若さで外国に出向き、体の成長や気候の変化に対応できなかったこともあるかと思いますが、それでも1.3kgオーバーはデカ過ぎですね。この辺の対処はプロボクシングと同じ、吉成名高には挑戦者として、勝利した場合のみチャンピオンとなり、シューサップが勝っても王座は空位となります。

15歳での世界戦は力大きく及ばずで、ジュニアキックで力を付けていても、やはり人生経験がまだ15年というところも成人との認識の違いがあったでしょう。シューサップも17歳で若さで似たところあれど、ムエタイそのものの経験は豊富。やはり後半にピッチを上げてきたシューサップは後半、首相撲技で繋ぐ膝蹴りや崩しで見た目にも大差が付いた印象がありました。吉成はアマチュアといえど数々の王座制覇してきた自信で、試合終了まで視線はしっかり強気な表情は変わらず、崩されても立ち上がる諦めない挑戦でした。

吉成名高vsシューサップ。吉成のジュニアキック出身の技量はしっかり披露。今後に期待

◆セミファイナル 63.0kg契約 5回戦

DAIJU(尚武会/62.9kg)vsNKBライト級チャンピオン.大和知也(SQUEA-UP/63.0kg)
勝者:DAIJU / TKO 4R 1:40 / タオル投入による棄権
主審:ナルンチョン・ギャットニワット

NKBから大和知也が出場。戦う相手の範囲が広まった中で、より活きのいい試合を続けているのも明るい事実です。

DAIJI(だいじゅ)は大和知也からハイキックでダウンを奪って攻勢を続けTKO勝利。大和は第4ラウンド途中から古傷の左腕が動かしにくい状態で劣勢の中、タオルが投入。6月の試合での負傷箇所を再び傷めた様子。序盤はスピーディーなパンチとローキックで優勢気味だった大和知也にとっては悔しい負傷。来年の奮起に期待したいところです。

大和知也(右)の得意の右ストレートがDAIJUを捉えるが、逆転は難しい段階だった

  
◎M-ONE 2016 4th(FINAL)
11月23日(祝・水)ディファ有明16:00~20:30  主催:ウィラサクレック・フェアテックス / 認定:WPMF

会場前には建物上部からの、10月13日に崩御されたプミポン国王画の肖像画と、館内にも肖像画と記帳スペース、喪に服す黒の正装のタイ人関係者が目立ち、セレモニーでは王室唱歌と98秒間の黙祷も捧げられ、タイの国民性が現れたセレモニーでした。

石井達也は日本タイトル返上後、なかなかビッグマッチのチャンスが回って来ない中、今回M-ONEからWPMF世界戦出場のチャンスが舞い込むも、ゴンナパーは在日選手として日本人の前に立ちはだかる壁は健在でした。

◆WPMF世界スーパーライト級タイトルマッチ 5回戦

チャンピオン.ゴンナパー・ウィラサクレック(タイ/63.5kg)
VS
石井達也(元・日本ライト級C/藤本/63.5kg)
勝者:ゴンナパー / TKO 4R 1:39 / ドクターの勧告を受入れレフェリーストップ
主審:チャンデー・ソー・パランタレー

毎度のことながらゴンナパーの上下へのパンチとキックの使い分け、その蹴りが重く鋭い。石井の強打が遅れがちになり、その差が大きく見えてしまうが応戦する石井も強い蹴りとパンチを返す中、熟練ゴンナパーのヒジ打ちで切られた額のドクターチェックを3回受けた後、レフェリーストップ。敗北より最後まで戦いたかった表情の悔しい敗戦となりました。

どこを狙うか分からないゴンナパー(左)の蹴りは“ハイ”だった瞬間
切られ、蹴られ、ゴンナパーの上手さが続く中、劣勢の石井はこれでも諦めてはいなかった
高橋一眞(左)と鷹大の強打者の攻防。この後、戦略勝ちの鷹大の攻めが勝る

◆59.0kg契約3回戦(アンダーカードから抜粋)

鷹大(元・WMC世界&WPMF日本SB級C/WSR・F西川口/59.0kg)
VS
NKBフェザー級1位.高橋一眞(真門/58.95kg)
勝者:鷹大 / TKO 3R 2:40 / カウント中のレフェリーストップ
主審:ヌンポントーン・バンコクストアー(現役時名)

こちらもNKBで活躍する高橋三兄弟の長男・一眞の登場。9月14日にKNOCK OUT発表記者会見試合で、森井洋介にパンチで倒されたばかりながら、前回よりは冷静に試合を進め、攻勢もあったものの、再びパンチで2度のダウンを喫してKO負け。鷹大もチャンピオン経験を持つ強者。高橋は経験値上回る相手との試合が続きますが、他団体出場に恵まれた現在、この試練を乗り越えて欲しいところ。短期でのノックアウトの連敗は心身ともに休養も必要です。

日本のトップを争う、終り無きトーナメントが続く中、一歩前進の鷹大の勝利

  
◎NJKF 20周年記念スペシャルマッチ開催!NJKF 2016 7th
11月27日(日)後楽園ホール17:00~21:35
主催:ニュージャパンキックボクシング連盟 / 認定:NJKF、WBCムエタイ日本実行委員会

国内下部王座から段階的に上位を目指さなければならないシステムからWBCムエタイのインターナショナル王座決定戦に挑んだのは同組織日本王座を持つ健太。スウェーデンの強豪、サモン・デッカーは頑丈な体格で怯まず前進する圧力があり、これを崩せずに終る。

◆WBCムエタイ・インターナショナル・ウェルター級王座決定戦 5回戦

健太のハイキックにもたじろがなかったサモン・デッカー

世界12位 健太(日本同組織同級C/29歳/E.S.G/66.68kg)
VS
世界13位 サモン・デッカー(24歳/スウェーデン/66.6kg)
勝者:サモン・デッカー / 判定0-3
主審:多賀谷敏朗  副審:大沢47-49. 水谷48-49. 少白竜48-49

サモン・デッカーはかつてのラモン・デッカー(オランダ)の再来と言われる存在で、ムエタイ修行経験も豊富なファイタータイプの選手。とにかく頑丈な体格で蹴りの威力あり、下がらない圧力に健太は主導権を握れないまま、5ラウンドにはヒジで切られる劣勢が響きました。今後、タイ選手以外の強豪が日本人の前に立ちはだかるのも面白い展開でしょう。

両者ガッチリした体格ながらサモン・デッカーのハイキックに圧力を感じる攻防

◆セミファイナル 62.0kg契約3回戦

宮越慶二郎のハイキックを避ける羅紗陀。この日は宮越の動きが機敏だった

WBCムエタイ・インターナショナル・ライト級チャンピオン.宮越慶二郎(拳粋会/62.0kg)
VS
羅紗陀(元・WBCムエタイ日本SFe級、L級C/キング/61.8kg)
勝者:宮越慶二郎 / 判定3-0
主審:竹村光一  副審:多賀谷30-26. 水谷30-26. 少白竜30-26

NJKF20周記念スペシャルマッチとして組まれたカードでした。羅紗陀は右足腓骨骨折の負傷から5月に2年3ヵ月ぶりに復活。しかし後に腰の状態を悪化させ7月興行は欠場に。今回の半年ぶりとなる復帰第2戦で宮越慶二郎との対戦が実現となりました。

父親が昭和の新格闘術連盟で活躍した内藤武である宮越は、その父譲りの変則気味の動きが活かされた展開。羅紗陀は父親が元・日本ウェルター級チャンピオン.向山鉄也で、その父親譲りの激闘威力が少なかった印象。第1ラウンドにスリップ気味のダウンに加え、第3ラウンドはまともに右ストレートによるダウンを奪った宮越が大差判定で勝利。怪我やブランクの影響がまだ続いている感じもあり、完全復活にはもう少し時間が掛かりそう。宮越はマッチメイクに難航し、来年2月に延期された王座防衛戦を目指します。

逆転を狙う羅紗陀のヒジ打ちは空振りだが、迫力ある攻防

◆取材戦記

三つの興行をまとめると、アンダーカードをほとんど割愛しなくてはならない事態となってしまいました。ひとつずつ興行を拾うとかなり先延ばしになってしまうので、ちょっと纏めることも出てきた最近ですが、格闘技専門サイトでもないので、本来アンダーカードまで拾う必要もないかもしれませんが、融通利く限りは少しでも選手の活躍を、試合結果だけでも世間に出してあげようと思う次第です。

その試合結果も絶対に間違えてはいけないプレッシャーもあります。自分の書き留めた記録だけで判断しないことで勝者敗者を間違えないこと、その為にも公式記録の開示を各興行ごとにお願いしている場合があります。この点もまたひとつのテーマとして今後、書き上げたいと思います。

[撮影・文]堀田春樹

▼堀田春樹(ほった・はるき)
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

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女子キックボクシング闘魂史──熊谷直子からRENA、リトルタイガーまで

「女がキックなんかやるもんじゃねえ!」そんな声が聞こえた昭和の時代。マスコミの中にも一部そんな偏見を持つ者もいました。

その後、女子の可能性に閃いたプロモーターによって試合が増え、女子の世界タイトルマッチまで到達しても、そのマイナー競技の層の薄さに、そこに注目するファンも少なかった時代が続きました。

そんな邪道とされた女子キックも、次第にスポーツ全般の女子選手の活躍に負けない活動が注目され始め、近年の少年(少女)育成のジュニアキック卒業後の高度成長からも女子キックを、決して侮れない時代になりました。

市販のランニングパンツで試合する、まだ女子キックも確率していない頃のエキシビジョンマッチ(1984年1月5日)

◆70年代──女性選手がやり難い時代

キックボクシングが1970年代の隆盛期を迎えた時代にもすでに女子キック団体は存在しており、しかしその存在は非常に小さく、低い技術の試合より、色気に目がいった観衆の異様な視線に、キックをやりたいと思う女性がいてもその環境は程遠く、やり難い時代だったかもしれません。

◆80年代の開花──WKA世界王座を勝ち取った熊谷直子

そしてこの女子の存在に本格的に力を注ぐ兆しとなったのは、女子プロレスのブームもそのひとつだったでしょう。1980年代のクラッシュギャルズ中心の“善玉悪玉の戦い”は競技性よりも、観衆に、特に女性から注目を浴びる輝いたリングでした。

キックボクシングそのものが低迷し、復興に力を注いでいたこの時代、女子の試合は重要視されない環境でも、実力ある選手が台頭してきたのは、新しい競技のシュートボクシングにおける若菜などの活躍、全日本キックボクシング連盟ではWKA世界王座まで到達した熊谷直子がスター的な立場となりました。後には熊谷の後輩となる三井綾、中沢夏美や、他団体にシュガーみゆき、神風杏子なども存在し、比較的軽量級では選手層が充実していた時代でした。

その熊谷が目指したもの、女子選手だけによる興行を実現させたのが1994年10月でした。後の通常の興行でも女子がメインイベント3試合を飾ることも実現させるなど、過去に無い女子キックボクサーの存在感をアピールするも、後の世代まで継続させるほどの勢いは無く、女子キック存在の厳しさは続きました。

[左写真]女子キックのレジェンド、WKA女子世界ムエタイ・フライ級、バンタム級チャンピオン熊谷直子。[右写真]神風杏子(左)vs熊谷直子(右)(1998年に2度対戦)
[左写真]JBCの女子公認前にエキシビジョンマッチで、プロボクシングのリングに上がったことがあるシュガーみゆき。[右写真]2000年代に入ってボクシングとキックで活躍した柴田早千予

◆タイ人オカマボクサー、パリンヤー・ギャップサバーの新風

その頃、異色の新風を起こしたのはタイ人オカマボクサー、パリンヤー・ギャップサバーの出現とタイでのブーム。これが話題中心に作られたものでなく、男子ムエタイボクサーとして実力が伴なったものでした。それが日本にもやって来るほど、“男性”ではある為、男子キックで戦い、その後、女子プロレスラー・井上京子との異種格闘技戦は話題を呼びました。こうしたオカマボクサーが強かったが為、男女とも刺激を受けた時期でした。

[左写真]一世風靡した“オカマムエタイ?”のエース、パリンヤー(1998年頃)。[右写真]ワイクーも女らしさを出したパリンヤーの戦いの舞
女子ムエタイのベテランエース、Littele Tiger(2016年9月25日)
女子シュートボクシングのエース、RENA(2015年2月11日)

◆99年協会設立を経て00年代女子「覚醒の時代」へ

一連の女子の活躍からひとつ世代が変わり、2000年代前半は徐々に各競技でも女子選手が増えた時代でした。特に女子プロボクシングの台頭は大きく、MA日本キックボクシング連盟の山木敏弘代表がキック興行の中に女子ボクシングを組み込む経緯を経た1999年4月、日本女子ボクシング協会を設立しました。

当時は女子キックボクサーのボクシングとの両立が中心でしたが、2005年11月に菊地奈々子が日本人女子として初のメジャー団体王座、WBC女子世界ストロー級チャンピオンになったことで世間に名を轟かすひとつとなり、一般女性にもボクササイズとしてのボクシングに触れる機会が増え、「蹴りがあるほうが楽しい」といった感覚でキックに目覚める女性もいたでしょう。

2008年春には女子プロボクシングがJBC管轄下の日本プロボクシング協会に吸収された“メジャー昇格”で、後には主要4団体の世界戦実現に至りました。

日本でのプロボクシングの伝統・格式の違いから、他競技との壁は出来たものの、競技性の面白さでは女子キックボクシング系競技も上昇気流に乗り、2000年代後半にはリトルタイガーやRENAのデビュー。幼少期からの育成時代に入ると、伊藤紗弥が4歳から男子に混じっての練習で力を付け、2015年には16歳で32歳のリトルタイガーから世界王座を奪う成長ぶりでした。

◆世界フライ級チャンピオンRENAが切り開く“ツヨカワイイ”の時代

男女に関わらず、タイ国同様に幼少期から鍛えれば本当に強くなるという現実があり、「女がキックなんか……」と言われた偏見が完全に崩れた現在、今後のこの競技の在り方次第で、女子キックもより選手層充実に繋がるでしょう。キックボクシング系競技で現在そのトップにいるのはシュートボクシングの世界フライ級チャンピオンRENAで、メディアに取り上げられるのも“ツヨカワイイ”のが武器であります。

厳密な経緯には程遠く語弊もあるかもしれませんが、大雑把に歴史を追った女子キックの発展経緯でした。当初、マスコミの中にいちばん女子キックに偏見を持っていたのは、実は私自身であり、全日本キック時代、女子がメインイベントを張ったラスト3試合を取材せずに帰ったのはマスコミで私一人だったでしょう。

「大人げないことするなよ!」と元・日本フェザー級チャンピオンの葛城昇氏に窘められた次第ですが、後に知人のカメラマン菊地奈々子や、キックをやるとは思えなかった知り合いの一般女性が鍛え、プロ出場した影響や、過去記事にあるように、男女どんな選手もスタッフも、生涯で公式リングに立っていられる時間というものを貴重に思い、そこで悔いの無い実力を発揮出来るよう、反省を込めて願うこの頃であります。

女子ムエタイの新スター、伊藤紗弥(2016年3月21日)

[撮影・文]堀田春樹

▼堀田春樹(ほった・はるき)
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

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