安倍晋三の政治とカネの無様な実態 検察は自殺者を出さないために、前総理の身柄を押さえて説諭せよ 横山茂彦

◆やはり検察人事介入は訴追を怖れてのことだった

あのとき、安倍元総理は今日のようなことがあるのを想像しただろうか。まさに驕れる者も久しからずだが、これを想定していたからこそ、芸能人による反対運動まで巻き起こり、大きな波紋を呼んだ検察庁法改正案問題があったのではないか。

すなわち黒川弘務検事長の定年延長という、いわば自陣営の審判役を検察トップに確保する人事案を、安倍晋三は冷静沈着にも考えていたのだろう。それは検察庁法改正として課題を先のべにしながら、いまも三権分立を掘り崩す政府の策動として続いている。

最高裁判事の〇×式の投票に「この裁判官が下した判決」および法曹界の賛否両論の併記を書き添えるなど(現状は無意味な氏名だけ)、検察人事も国民投票に付すべきものではないか? 本気で三権分立を実現するのなら、将来は行政の長(総理大臣)もふくめて、国民投票を実施するべきである。


◎[参考動画]高検検事長の『定年延長』は安倍政権の“守護神”だから?(TV東京 2020年2月5日)


◎[参考動画]黒川検事長が辞任へ 森大臣「賭博罪にあたる恐れ」(ANN 2020年5月21日)

さて、桜を見る会前夜祭における安倍元総理のウソが明白となった。5年間で2000万円のうち、安倍事務所が916万円を補填していたというのだ。安倍晋三国会で、かたくなに否定してきた明細書(安倍元総理の政治団体=晋和会あて)をホテル側が保管していたのである。

パーティーへの選挙民の参加費を議員が支払う。これは単なるウソにとどまらず、「選挙民への寄付(買収)」にほかならない。

公職選挙法違反(公職選挙法199条の2の1項)である。そして事務所で支払わなかったとして、政治団体の収支に記載をしなかった。これは政治資金規正法違反(政治資金規正法第12条2項)でもある。

それぞれ、一年以内の禁固又は30万円の罰金(公選法)、5年以下の禁固又は100万円以下の罰金(政治資金規正法)である。安倍晋三は逮捕、起訴、そして禁固刑で収監される「可能性」が出てきたのだ。


◎[参考動画]安倍前総理がコメント “桜”前夜祭補填疑惑(ANN 2020年11月24日)

◆ふつうの論理が通用する社会にもどせ

そもそも11000円が最低価格のホテルパーティーに、参加者が5000円しか支払わなかった時点で、安倍および安倍事務所の虚偽は明白だった。

にもかかわらず、参加者個々人が契約主体であり、そのさいの領収書や明細書は発行されなかった、などと作り話をしてきたのだ。ホテルはいわばサービス業の頂点であり、ニューオータニやANAホテルなど、わが国を代表する高級ホテルは明朗会計を謳っている。その意味では、安倍の「明細書は発行されなかった」という答弁は、ホテル側の名誉を毀損するものでもあった。

日本学術会議の任命を拒否するという、国民を代表しての「義務」を果たさないまま、その理由を明らかにしない。つまり、学問研究への政治介入の現実を認めようとしない菅総理の「強弁」のお手本が、まさに安倍の「明細書は発行されなかった」なのである。

国民の負託による審議の場で、ウソをつきとおす異常な事態は、これ以上続けさせてはならない。いまこそ安倍晋三とその秘書団を逮捕し、ふつうの論理が通用する社会にもどす必要があると指摘しておこう。


◎[参考動画]安倍前総理「桜を見る会」前日の夕食会をめぐる国会答弁(TV東京 2020年11月25日)

◆秘書への責任転嫁をゆるすな

さて、虚偽が明らかになった以上、問題はその責任の取り方である。すでに安倍元総理の周辺は「国会答弁で補填を否定したが、事務所の秘書(公設第一秘書)が安倍氏に虚偽の報告をした」と防衛線を張っている。

慧眼な読者諸賢はすぐにこの言葉で、ある種の危惧を抱くことであろう。虚偽報告をしたとされる秘書が、責任をとって最悪の選択をする可能性である。

すでに安倍政権と財務省高級官僚は、安倍が「私と妻がかかわっていたら、私は総理大臣も国会議員も辞めますよ」という啖呵を忖度し、財務省の職員を死に追いやっているのだ。今回もすべてを秘書に押し付け、国会の証人喚問にも応じない(自民党に拒否させる)可能性が高い。

したがってトカゲのしっぽ切り体質が、新たな犠牲者を出さないとも限らないのである。だからこそ検察はただちに安倍を逮捕して、証拠隠滅や部下の自殺を防止しなければならない。安倍本人に「あなたが政治責任と刑事責任を取り、国民に範をしめしなさい」と。


◎[参考動画]総理「関与なら辞任」 国有地“格安”払い下げ(ANN 2017年2月18日)


◎[参考動画]安倍総理「籠池氏はウソ八百」昭恵夫人の活動を…(ANN 2018年2月5日)

◆菅義偉のポンコツ答弁

その安倍を官房長官として擁護してきた菅義偉総理といえば、あいかわらずポンコツ答弁である。

昨年の内閣員会で、重ねて「領収書を出せばわかること」と問われたときに「ホテルの領収書はない。議事録に残るわけですから、責任は以上のとおりです」と答えていたんは記憶に新しい。

そのみずからの虚偽答弁を問われても、秘書官のメモを片手に、

「わたくしは、そ、総理から言われたことを、答弁したものであります」「そ、総理は、その場に居ませんでしたから」

ようするに、自分は「子供の遣い」だったというのだ。そうではない、虚偽が議事録に残ったことが問題なのだ。ウソは真実をもって、書き換えられなければならない。そして虚偽答弁には、政治責任がとられねばならない。

だが、わが菅義偉は、さらに言葉に詰まりながら、

「そ、それは、そ、総理が説明されることだと思います」「いずれにしましても、いま、捜査が行なわれているかどうかわかりませんが……(ヤジ)、捜査機関の活動に関わることですから……、わたしの立場で、答弁は差し控えさせていただきます」とくり返すしかなかった。

捜査は安倍事務所への聴取として厳正に行なわれているのだから、現役の総理が自分の答弁を説明しても何ら支障はない。すでに安倍元総理は、一部補填(事務所からの寄付にあたる)があったのを認めてもいるのだ。

100歩ゆずって「わたしに訴追の怖れがあるので、答弁は差し控えたいと思います」ならばともかく、である。

秘書官のメモ便りのポンコツ答弁ぶりゆえに、安倍晋三のような大見栄の啖呵を切ることもなく、その分だけ安全運転とはいえる。が、答弁に尻込みする姿は、一国の総理としてはいかにも風格がないと評しておこう。

そして、そのポンコツ総理から「捜査中なので答える立場にないし、仮定の質問には答えられないが、一般論として虚偽答弁であったなら、その時は対応(謝罪)したい」という答弁は得られた(11月25日参院予算委、福山哲郎委員への答弁)。
いずれ事件の概要が明らかになり、安倍元総理が喚問されたうえで、前総理と現総理が首をそろえて国民に謝罪する日も近いかもしれない。


◎[参考動画]“桜前夜祭”巡り…菅総理「事実違えば私にも責任」(ANN 2020年11月25日)

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)

編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。医科学系の著書・共著に『「買ってはいけない」は買ってはいけない』(夏目書房)『ホントに効くのかアガリスク』(鹿砦社)『走って直すガン』(徳間書店)『新ガン治療のウソと10年寿命を長くする本当の癌治療』(双葉社)『ガンになりにくい食生活』(鹿砦社ライブラリー)など。

最新刊!『紙の爆弾』12月号!
渾身の一冊!『一九七〇年 端境期の時代』(紙の爆弾12月号増刊)

【カウンター大学院生リンチ事件(別称・しばき隊リンチ事件)裁判報告】【後編】 2020年11月24日、鹿砦社対李信恵第2訴訟本人(証人)尋問行われる! 鹿砦社と李信恵らが直接対決!鹿砦社側「圧倒」!! 終了後の当日夜、傷害事件発生!! 鹿砦社特別取材班

◆午後:「反差別運動」の女帝・李信恵の本人尋問

昼休みを挟んで13時20分に再開した午後の弁論では、李信恵に対する本人尋問が行われた。李信恵の代理人は神原元と上瀧浩子弁護士。対する鹿砦社の代理人は大川弁護士である。さながらM君リンチ事件裁判における尋問の「再戦」の構図となった。

M君リンチ事件裁判尋問の際、李信恵は大川弁護士の反対尋問に答え「私はダウンタウンの漫才が好きなので日頃から死ねとか殺すとかいう言葉をよく使います」と自身の暴力性を白状する供述を引き出されていた。李信恵サイドからすれば大川弁護士は「紳士的な天敵」であったに違いない。

李信恵への尋問は、上瀧弁護士による主尋問からスタートした。上瀧弁護士はM君がリンチを受けた理由の「整合性」が、あたかもM君の「差別意識」にあるかのような質問を繰り返したが、本訴訟の争いとは全く関係がなく、M君に対するさらなる攻撃が繰り返された(その時傍聴席にM君は座っていた)。法廷におけるM君へのさらなる悪質な攻撃にほかならない。

2020年11月24日李信恵本人尋問の様子(画=赤木夏)

どのような「言い訳」を並べようが、金良平らの卑劣極まる暴力は決して許されるものではない。暴力の正当化や開き直りの口実に「差別」を持ち出すことは在日コリアン全てに対する侮辱である。

そのやり取りを聞いた傍聴席のM君は大きく溜息をついたが、李信恵側の傍聴人でリンチ事件の裁判の被告の一人でもあった伊藤大介が「てめえ何笑ってんだ」等と品性のない罵声を浴びせていた。現在コロナ対策のために、法廷では裁判官以下、傍聴人も含め全員にマスクの着用が要請されている。仮にマスクをしていなければ(個人を特定しやすいので)伊藤大介の「不正規発言」は「退廷」に値したかもしれない。

李信恵の主尋問への回答は、この事件を傍聴したことのある方々には聞き慣れた「被害者」ぶりに終始した。曰く「講演会やイベントに嫌がらせがあった」「周りの人にも迷惑をかけて辛かった」「性的な嫌がらせ記事を書かれて尊厳を傷つけられた」「在日で女だからターゲットにされた」「辛い」「涙が出た」「絶望的な気持ちになった」等々と並べ立てる(最後に述べた「鹿砦社の出版物やブログ記事を全て消してほしい」はまごうことなき本音であろうが)。李信恵は、これまでこうした自身の「差別被害」を声高に訴えてきた。その一方、仲間たちと何軒も飲み歩き(みずから言うところでは5軒、「日本酒に換算して1升」)、血まみれのM君に「まあ殺されるんやったら店の中入ったらいいんちゃう」と言い放った事実は本人も認めている。

この眩暈がするほど落差はなんなのであろうか?

11月24日の裁判の当日夜も、M君を呼び出してリンチに及んだ時と同様、伊藤大介と誰かを従えて飲みに繰り出していたようである(みずからのツイッターやインスタグラムで画像をアップしている)。こうした写真を目にするたびに、われわれは、李信恵が「反差別の旗手」ともてはやされている現実に、深刻な疑問を抱かざるを得ない。

大川弁護士による反対尋問に対しては、それまでの「被害者」ぶりとはまったく変わりのらりくらりとした回答になった。冗長な回答を繰り返そうとした李信恵だったが「イエスかノーで答えてください」とそれを許さなかった大川弁護士の法廷技術が光った。質問がリンチ事件や李信恵らが書いた「謝罪文」のこと、事後の隠蔽工作に及べば「知らない」「記憶にない」を繰り返した。主尋問においては、「謝罪文」は「エル金(金良平)を庇うために書いた」と述べた李信恵であるが、金良平による「謝罪文」や仲間宛のメール等については「知らない」「記憶にない」の一点張りであった。大矛盾である。大川弁護士による反対尋問により何かまずい発言を引き出されることを嫌ったのか、神原はしきりに「異議あり」「誤導だ」と言いがかりをつけようとしたが、結果そのことは遅延行為と見なされ鹿砦社側の反対尋問の時間が10分延長される結果となった。

神原元弁護士の2020年11月24日付けツイート
神原元弁護士の2020年11月24日付けツイート

◆鹿砦社代表・松岡が李信恵に怒りの直接尋問

最後に、時間がギリギリのところで鹿砦社社長の松岡利康が李信恵に被告(鹿砦社)代表による直接尋問を行った。時間も押しており裁判官の制止もあったが、松岡はそれを振り切り、

「私たちは、このリンチ事件で本質的に問うているのは一人の人間としてどう振る舞うかということですが、あなた(李信恵)はふだんから『反差別』とか『人権』というような言葉を声高に語っていますよね?リンチの現場にいて、『なんやねん、お前』とM君の胸倉を掴みリンチの口火を切り、リンチの最中も悠然とワインを飲んでましたよね? 暴行を止めたんですか? 救急車やタクシーを呼んだんですか? あの周辺はよく知っていますが、大きなタクシー会社が2軒ありますよね?」

と、時間もないので一気呵成に問いかけたが、李信恵はほとんど答えなかった。

松岡と裁判前に喫茶店で「偶然の遭遇」をしたという李信恵の虚偽のツイート

また、M君裁判の本人尋問の当日朝、松岡が近くの喫茶店で李信恵につきまとい恫喝したかのごときツイートに対し、「何という名の喫茶店ですか?」と尋ねたところ、「名は忘れた。裁判所を出て右のほうの店」と答えた。松岡はそんな喫茶店には行ってはいない。「フォロワー1万人以上いる人にそんな嘘をツイートしてもらったら困るんですよ!」と一喝。

最後に、リンチを受けた直後の変わり果てたM君の顔写真を李信恵に突きつけ、「あなたは今これを見てどう思いますか?」と問うた。李信恵は、終始目を背けて黙っていた。松岡は閉廷後「李信恵にはどうしてもあれを問わずにはいられなかった」と述べた。松岡の怒りの尋問は、李信恵の逃げの姿勢や、神原、上瀧弁護士らの制止、伊藤大介らのヤジを「圧倒」した。神原弁護士は終了後すぐに川崎に戻り、今回の尋問を「圧勝」したとツイートしているが、李信恵や伊藤陳述書の嘘(後述)も明らかになり、とても「圧勝」とは思えない。

広島被爆二世として、極めて体調の悪い症状に苦しみながら、今回の証人尋問を引き受けてくれた田所の鬼気迫る姿勢や、松岡みずから鹿砦社代表として会社を背負っての尋問などを見ると、鹿砦社側がの迫力が李信恵側を「圧倒」としていたといえよう。本通信昨日記事で述べたように、午前中の尋問では神原の誘導質問に、田所が時に法廷に響き渡る声で、反論し神原をおし黙らせた場面も印象的であった。

本来ならば、被告尋問は会社代表の松岡が尋問を受けるのだろうが、それでは受け答えするだけで李信恵を直接問い質せない。あえて松岡は証言には立たなかった。体調勝れないが取材責任者の田所を尋問に立て、松岡は大川弁護士の横に着席していた。そして尋問の最後に満を持して李信恵に尋問を行った── そうか、さすがの智恵者!これまで数々の修羅場をくぐってきただけのことはある。このことだけでも、狡知に長ける神原弁護士らを「圧倒」したと言えよう。松岡は「いやあ、特にそんな意図はないですよ」と言ったが……。
             
付言する。期日の数日前に伊藤大介が「陳述書」を出し「自分らには何の取材もしていないと」と主張してきた(伊藤はリンチ現場にいた人物であるので、「当事者に取材をしていない」と主張したかったのではないかと推測される)。しかしながら本件を追った第2弾本『反差別と暴力の正体』(書証として提出済み)、あるいは松岡の本年5月14日付け「第3陳述書」で、ジャーナリストの寺澤有が伊藤らを直接取材していることを記述している。

寺澤本人からも尋問期日前夜、取材詳細を明らかにするメールがあったことを田所が証言した。印象操作を企図したわけではないであろうが、動かぬ証拠が既に提出されているのに、提出期限を過ぎて、全く虚偽の陳述を出してきたのはなぜであろうか? 「しまった!」と感じたのか神原弁護士は「陳述書を撤回します」と、苦し紛れの言い訳を裁判官に求めたが、あえなく却下され伊藤大介による虚偽内容の陳述書は撤回されなかった。原告李信恵側の主張の真実性に、裁判所も疑義を抱くことであろう。

鹿砦社対李信恵第2訴訟はこれにて弁論が終結した。判決は年明け2021年1月28日13時10分に大阪地方裁判所1007号法廷にて言い渡される。李信恵ら「反差別運動」を騙る暴力勢力との戦いにおける重要な節目となるであろう。われわれは勝訴を確信する。(本文中敬称略)

【付記】
翌日25日、驚くべきニュースが飛び込んできた。李信恵と伊藤大介が24日裁判終了後、飲食を共にしていたことは李信恵みずからSNSで発信しているが、その後伊藤大介ら2人(うち1人が李信恵かどうかは現在不明)が極右活動家を呼び出し、逆に返り討ちされ刃物で刺されたというのだ(詳細は不明)。現時点では情報が錯綜しているので、これ以上のコメントは差し控えるが、考えさせられる事件である。

裁判後飲食を共にする李信恵と伊藤大介。この後、伊藤は極右活動家に刺される

◎カウンター大学院生リンチ事件(別称・しばき隊リンチ事件)裁判報告
 【前編】 http://www.rokusaisha.com/wp/?p=37169
 【後編】 http://www.rokusaisha.com/wp/?p=37209

《関連過去記事カテゴリー》
 M君リンチ事件 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=62

【カウンター大学院生リンチ事件(別称・しばき隊リンチ事件)裁判報告】【前編】 2020年11月24日、鹿砦社対李信恵第2訴訟本人(証人)尋問行われる! 鹿砦社と李信恵らが直接対決! 鹿砦社側「圧倒」!! 鹿砦社特別取材班

M君リンチ事件の真相究明のため鹿砦社特別取材班が結成され、取材と出版活動を開始してから4年あまりの時間が経過した。「しばき隊」「カウンター」などと自他称される「反差別運動」の内部において凄惨なリンチが行われ、事件後1年以上M君に対して事件を告発した報復のためネット上で誹謗中傷を殺到させるという異常きわまる光景。李信恵が「反ヘイトスピーチ裁判の旗手」としてマスコミ等に持て囃される一方で被害者M君は正当な救済をまったく受けていなかったという理不尽。──

以来4年余、M君の裁判は終結し、金良平の不誠実極まる対応に最後の最後まで迷惑をかけられながらも、M君にはようやく賠償金が支払われた。これについては社長の松岡以下、鹿砦社特別取材班の面々も安堵しているが、その一方でリンチ事件が本質的な解決をみたとは到底言うことができない。

なぜならば、リンチ事件やその裁判に直接かかわった者たちから、事件の隠蔽工作をした者たちや被害者M君を誹謗中傷した者たちから、どこからも事件に対する真摯な反省は微塵も見えないからである。換言すれば、この者らの関わる「反差別運動」やそれに関連する社会運動において、M君リンチ事件のような陰惨かつ卑劣きわまる事件が、今後も繰り返される可能性は極めて高いということだ。

鹿砦社特別取材班は、われわれの取材の成果が、こうした社会運動における暴力の根絶に向けての歴史の教訓となることを目的の一つとしている。鹿砦社と李信恵の裁判についても、そうした取材活動の一環として報告を続けてきた。

◆M君リンチ事件の概要

鹿砦社と李信恵の裁判の概要を改めて振り返ろう。M君リンチ事件が「しばき隊」「カウンター」関係者総出での隠蔽工作を破って明るみに出され、被害者M君が李信恵ら5人を相手に損害賠償を求める裁判を起こしたのが2016年7月。その後李信恵らその裁判の被告側および支援者(すなわちリンチ事件の加害者サイドの者たち)から、被害者M君や鹿砦社に対する誹謗中傷が繰り返されてきた。

李信恵本人とて例外ではない。「クソ鹿砦社」「鹿砦社の嫌がらせのせいで講演会の告知もできない」「お金目当て」「社長は中核派? 革マル派?」等の誹謗中傷を李信恵は繰り返した。

李信恵の「反ヘイトスピーチ裁判」はマスコミに取り上げられ、李信恵自身は「反差別運動の旗手」として著名であり著書も出版している。このような人物による誹謗中傷を重く見た松岡は、2017年9月、李信恵に対する名誉毀損による損害賠償請求の訴えを大阪地裁に提起した。

この訴訟自体は、2019年2月14日に大阪地裁で鹿砦社が完全勝訴。双方が控訴したが同年7月26日、大阪高裁は双方の控訴を棄却。李信恵側がいったん上告したものの、後にこれを取り下げたので鹿砦社の勝訴が確定している。

鹿砦社の提訴から半年以上が経過した2018年4月、李信恵から鹿砦社に対する反訴が提起された。損害賠償550万円の支払いに加え、なんとこれまで鹿砦社が出版したリンチ事件関連書籍の「販売差止め」が請求の内容となっている。

この反訴は鹿砦社が訴えを起こした訴訟と併合審理が認められず、李信恵側が別訴として改めて訴えを提起し直したという経緯がある。これまで鹿砦社が李を訴えた裁判を鹿砦社対李信恵第1訴訟、李信恵が損害賠償と販売差止めを求めて訴えたものを第2訴訟と便宜的に呼んできたが、去る11月24日に第2訴訟の人証調べが行われた。

第2訴訟は、李信恵が自身の不祥事を明るみに出された書籍を、みずからに都合が悪いから封殺したいという目的であり、この請求自体、憲法第21条が保障する「表現の自由」「言論。出版の自由」に対する重大な挑戦である。出版活動を行ってきた取材班としても絶対に看過することはできない。11月24日は鹿砦社と李信恵の〈直接対決〉の場であり、まさにこれまでの訴訟の天王山であった(李信恵は第1訴訟の時は一度も出廷せず、李信恵への尋問も行われなかった)。以下、当日の様子を報告する。──

◆午前:鹿砦社特別取材班キャップ、田所敏夫の証人尋問

11時に開廷した口頭弁論は、鹿砦社側の尋問から行われた。尋問には社長の松岡ではなく、鹿砦社特別取材班キャップとして取材の現場の陣頭指揮を執ってきた田所敏夫が証人として立った。鹿砦社代理人の大川伸郎弁護士による主尋問において、「あらゆる差別を許さない」という鹿砦社特別取材班の差別問題に対するスタンスを田所は改めて鮮明にした。その上で、李信恵のような人物が反差別運動の先頭に立つことは疑問があると述べた。

鹿砦社側代理人の大川伸郎弁護士による田所敏夫証人への主尋問の様子(画=赤木夏)

ここまでは過去にわれわれが明らかにしてきたことであるが、今回の尋問では田所はさらに踏み込んだ。尋問に先立って田所は広島原爆の被爆二世であり、さまざまな心身の不調があること。尋問中に不具合のある視力のため、サングラスを着用していること。遠近を見分けるために、複数のメガネをかけ替えてよいか?また「可能な限り大きな声で話すよう努力するが、のどにも不具合があるため、必要に応じて水分補給をしてもよいか」と裁判官に尋ね、いずれも許可された。

李信恵や神原元がこれまで鹿砦社による言論、出版活動における自分たちへの批判に「差別」ないしは「差別の助長」とレッテルを貼ろうと何度も試みてきた。しかし田所が証言席で自ら語った「広島原爆被爆二世」という事実は、「差別」が李伸恵や神原元らの専有物ではないことを、明らかにするものとなった。

主尋問は被告(鹿砦社)側代理人、大川伸郎弁護士が担当した。事件を知ったきっかけから、どのように取材班が結成されたのか、社長松岡と田所の関係性、取材方法-対象、どの時点で共謀があったと確信したか。など手際よく質問が展開され、田所はよどみなく回答した。

特筆すべきは大川弁護士による「ご自身は『差別』のようなものを、お感じになったことはありませんか?」との質問だった。

田所は「私は広島原爆被爆二世であり、若年の頃より様々な疾病や体の変調に見舞われてきた。外見上もそうだった。しかしその原因が『被爆二世』であると語ったことはこれまでなかった。そう語らなければ周囲の人間には、どうして体調崩すのかは理解されない。しかし、最近とみに内科・外科疾患の進行が速まっていることから、私が『広島原爆被爆二世』であること本年公開した。これまで経験してきたことの中には『差別』もあった」。田所は淡々と答えた。

 
李信恵側代理人、神原元弁護士による田所敏夫証人への反対尋問の様子(画=赤木夏)

李信恵側の反対尋問は、主として神原元が担当した。神原はM君が李信恵に顔を殴られたのは「平手か拳か?」と、枝葉末節な質問について書証を根拠に田所へしつこく聞いた。

しかし田所は「そんなことは、まったく問題ではない! 何十発も殴られ顔面骨折し、自分が蹴られたことすら記憶していない状態であったM君が、『手拳』か『平手』かを明確に覚えていなくても、全く不思議だとは思わない。今ここで、私が神原先生を私が殴れば、それが『手拳』であろうが『平手』であろうが問題になるのではないか! M君は当初『殴られた』としかわれわれに語っていなかった。刑事記録の中からM君が『蹴られていた』ことを見つけたのは私であり、それまで、彼の記憶の中からは『蹴られた』ことすら残っていなかったのだ」と強い語調で反論した。

慌てた神原はこの質問は得策ではないと考えたのか、突如質問の内容を変えた。

神原が田所に行った質問は、細かな勘違いや記憶違いを突いて供述全体の信用性を低下させようと企図されたものであったが、田所は全く動じず、むしろ質問の不当性をたびたび弾劾した。

これまでの神原であれば田所が展開したような「弾劾」にたいして、発言をさえぎる場面が多く見られたが、この日の神原の質問は、明らかに精彩を欠いており。田所が「圧倒した」と傍聴席の人々は感じたのではないだろうか。

ここ数年来田所は、広島被爆二世からくる宿命的とも推認されるさまざまな体調不良に見舞われてきた。それにもかかわらず、田所は鹿砦社特別取材班キャップとして陣頭指揮を執ってきた。この日の田所の証言は文字通り〈命がけ〉であった。鹿砦社特別取材班キャップとしてその責務を全うしようと、裁判を戦ったのである。──(本文中敬称略。つづく)

《余談》日頃裁判期日の後には、即座に自身のツイッターに「圧勝」を宣言する神原元は、神奈川への帰路新幹線の中で尋問とは無関係な発信を連発。ようやく新横浜に到着したと思われる時刻に「圧勝」宣言を書き込んだ。尋問直後に「圧勝」宣言を書けなかった神原の姿が、彼の心理状態を物語る。敗訴した裁判のあとでも「祝勝会」をあげる神原にして、尋問終了直後に「圧勝」とは書けなかったのである。敗北感があったのではないだろうか。

《関連過去記事カテゴリー》
 M君リンチ事件 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=62

親日家だった元エリートの中国人死刑囚、書簡に綴った「転落の軌跡」【前編】

新型コロナウイルス騒動の勃発以来、中国のことを発生源と疑う人たちが反中感情を強めている。この現象は私に対し、以前取材した1人の中国人のことを思い出させた。

林振華(りん・しんか)、37歳。母国中国の名門高校を卒業後、日本で経済を学ぶために来日した「親日家」だった。しかし、国立の三重大学に在学中、母子3人を殺傷する事件を起こし、現在は死刑囚として名古屋拘置所に収容されている。

中国のエリートはなぜ、日本で転落したのか。林は裁判で死刑が確定間近だった2018年9月下旬から10月初旬にかけて、私の取材に応じ、来日以降の顛末を計6通の書簡に綴った。林が起こした事件はメディアでも大きく報道されたが、書簡には世間に知られていない事実も多く記されていた。今読み返しても、有名事件の貴重な資料と思える内容だ。

そこで当欄で前後編2回に分けて紹介したい。

◆人の命を殺めたら、命で償うのは当然

〈被害者やその関係者に対して、ただ申し訳ない気持ちで一杯です。相手は何の罪もない人たちです。自分の一番安心して寛ぐはずの家で殺されて、または怪我して怖い思いをして、または大切な人も失って悲しい思いをして、そう思うと、私自身も言葉を失うぐらいつらくなります〉(※〈〉内は、計6通の書簡のいずれかから引用。以下同じ)

林は自分が起こした事件について、書簡でそう振り返っていた。真摯な反省の気持ちが込められた文章ではあるが、林が起こした事件は擁護しようのない大変悲惨なものだった。

2009年5月1日の夜、三重大学の学生だった林は愛知県蟹江町の会社員・山田喜保子さん(当時57)宅に侵入して金品を物色中、帰宅した喜保子さんと鉢合わせになり、持参したモンキーレンチで頭部を殴って殺害。さらに次男のケーキ店店員・雅樹さん(当時26)も帰宅してきたため、その場にあった包丁で刺し殺した。

その後、今度は三男の会社員・勲さん(同25)が帰宅してくると、用意していたクラフトナイフで首を切りつけ、手首を電気コードなどで縛り上げて拘束。最終的に現金約20万円や腕時計を奪い、逃走したのだった。

そんな事件は警察の初動捜査の不手際もあり、長く未解決だったが、林は2012年に三重県で自動車を盗んで逮捕された際、DNAの型が山田さん宅で採取されたDNAと一致。容疑を認めて逮捕され、2015年2月、名古屋地裁で中国籍の被告としては初めて裁判員裁判で死刑判決を受けた。そして2018年9月、最高裁に上告を棄却され、死刑が確定した――。

林はこの裁判の結果について、書簡にこう綴っている。

〈裁判について、私は不満や納得できないことはありません。人の命を殺めてしまったら、命で償うのは当然です。両親が面会に来た時、「弁護士先生の言う通りに」と念を押されなかったら、私はたぶん控訴しませんでした〉

この時期、林はすでに死刑が確定することは確実な状況だったから、裁判での情状を良くするために反省している芝居をする必要はない。罪を償うため、本気で死刑を受け入れる覚悟を決めていることが窺える。こんな男がなぜ、殺人犯となったのか。そもそも、日本に留学してくるまでに、どんな人生を歩んだのか。

林が「転落の軌跡」を綴った6通の書簡

◆国際舞台で活躍したかった

林は中国の山東省生まれ。両親は2人とも気象庁で働いており、その間に生まれた一人っ子だった。少年時代は〈ガリ勉で本の虫〉だったという。

〈私は中学の時、特に中三の時、毎日夜12時まで勉強しました。高校はスパルタ教育で悪名高い?全寮制校でした。朝5時から夜10時まで教室に缶詰めです。土日も授業で一、二カ月に一度の頻度で家に帰れる、そんな具合です〉

この過酷な進学校で、林の成績は常に学年10位以内。当時、将来の目標は大手の商社マンか、銀行マンになることだったという。

〈国際的舞台で活躍する人間になりたいと思いました。そのため、特に英語の勉強に力を入れてました〉

高い志を持って努力していた林は、将来を誓い合った恋人もいた。だが、2003年10月の高校卒業時、選んだ進路は日本への留学だった。

〈私が中国にいた時、日本はまだ世界二位の経済大国でした。その時も不思議に思いました。こんな小さな国から、一体どこからそんな富を生み出す力があるのかと。あと、日本の漫画やアニメも大好きでした〉

そんな記述からは林が大きな希望を抱き、来日したことが窺える。ところが、現実は最悪の結末を迎えたわけである。

〈両親が貯金を果たして私に留学の夢を叶えさせました。なのに、私はその期待を裏切りました。そう思うと心が痛いです。抉られるように痛いです〉

両親のことを思い、林が自責の念に苦しむ様子がよく伝わってくる。

◆万引きで人生が暗転

日本に憧れていた林だが、実は高校卒業まで日本語を勉強していなかった。そのため、当初は京都で日本語学校に入学したが、勉強には苦労したという。

〈一緒に日本に来た子たちはみんな中国で六年間日本語を勉強したので、日本語がペラペラです。最初からすごいハンディキャップでした。私もその現実を認識しているので、勉強に力を入れました。最初に買った本が広辞苑です。毎日ラジオを流しっ放しで訛りを直し、語彙を増やしました〉

努力が実り、短期間に日本語を身につけた林だが、〈一つ誤算がありました〉と振り返る。経済的問題だ。

〈私は日本に来た時、32万円を持参しました。2004年3月末、日本語学校では次の半年間の授業料を請求されます。金額は30万円です。それを支払って、私は突然一文なしになります。その時私はすでにバイトを始めましたが、給料は4月末まで待たなければなりませんでした。その間を食い繋ぐことができませんでした。何日も、何も食べない日もありました〉

林は当時、飢えをしのぐため、コンビニのゴミ置き場を漁り、賞味期限切れで廃棄された弁当を食べたこともあった。そしてついに誘惑に負け、スーパーでおにぎりを万引きした結果、店員に捕まり、警察沙汰になってしまう――。

筆者が原作を手がけた『マンガ「獄中面会物語」』分冊版第13話でも、林の「転落の軌跡」は詳細に描かれている © 笠倉出版社/片岡健/塚原洋一

〈それ以来、いつも優しかった先生たちの私を見る目が変ったのです。今考えてみると、お金がない時、素直に友人に頭を下げて借りればいいのですが、当時、私は自尊心が強かったため、それができなかった。目線を避けるために、私は極力教職員室にいかないようにした。周りの友人とも疎遠になった。毎日授業が終わると、バイト以外の時間は部屋に引き篭もった〉

孤独な人間となった林だが、その年の大学受験では静岡大学に合格した。が、落とし穴が待っていたのだ。

◎親日家だった元エリートの中国人死刑囚、書簡に綴った「転落の軌跡」
【前編】
【後編】

▼片岡健(かたおか けん)
ノンフィクションライター。原作を手がけた『マンガ「獄中面会物語」』(画・塚原洋一、笠倉出版社)がネット書店で配信中。分冊版の第13話では、林振華を取り上げている。

最新刊『紙の爆弾』12月号!
「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

カウンター大学院生リンチ事件(別称「しばき隊リンチ事件」)続報!】《NEWS》対李信恵第2訴訟、本日(11・24)、本人(証人)尋問! 最大の山場で最後の直接対決! 鹿砦社特別取材班

いよいよ本日、大阪地裁で鹿砦社対李信恵氏の直接対決、第二ラウンド(たぶん最終ラウンド)の天王山である「本人(証人尋問)」が行われます。

 
リンチ直後の被害者大学院生M君

事情に詳しくない読者のために解説しますと、鹿砦社は李信恵氏ら5人が同席した深夜の会合に呼び出され、当時大学院生M君が1時間近くにわたり「リンチを受けた」との情報を得て、松岡社長以下取材班を結成して、全くゼロの状態から、その事件と背景を解明すべく5冊の調査報道書籍を上梓しました。

その途中から李信恵氏による、鹿砦社、あるいは松岡社長や取材班に対して、主としてTwitterによる誹謗中傷・罵詈雑言が始まりました。李信恵氏だけではなく、相当数の人々が「鹿砦社攻撃」に参加しました。鹿砦社は小さな会社です。関西といっても商都大阪ではなく甲子園球場の近くにある出版社です。社員の数は片手をわずかに超える程度です。

はっきり言えば兵庫県では、一番大きな出版社ですが、会社の規模としては「零細企業」なんです。ですから、出版社として発行物にたいする批判を受けることは仕方ないとかんがえています(意見の違いはありますから)。ですが、さんざん事実無根の書き込みを、世間では「差別と闘う正義の勇者」と思われている人からなされれば、当たり前ですが、商売に悪影響が出まし、信用問題になります。繰り返しますが鹿砦社は、硬軟幅広い出版物を発刊していますから、その内容に対して意見の相違や、お叱りはいつもあります。それは「言論の自由」の前提に立てば、当たり前のことであり、むしろご批判の中には「なるほど」と首肯させられるものもあり、出版社としては当然受け止めるべきものである、と考えています。

松岡と裁判前に喫茶店で「偶然の遭遇」をしたという李信恵の虚偽のツイート

でも、虚偽は困りますし、許せません。李信恵氏は、時として松岡が「ストーカー」であるかのごとき書き込みや、所属したこともない新左翼党派の実名を挙げるなど、ヒートアップは止まりませんでした。どんどん加熱する懸念がありましたので、早めに止めるべく、仕方なく鹿砦社は、顧問弁護士である大川伸郎先生に「そのような行為をやめるように」お願いする通知書を李信恵氏に書いていただきましたが、それでも彼女や彼女の仲間らの書き込みは止まりませんでした。ここまでくると、平常時の仕事にも影響が出ますし、座視できません。やむなく鹿砦社は李信恵氏を相手取り、名誉毀損による損害賠償を求めて、大阪地裁に提訴しました。

大阪地裁では鹿砦社の訴えが全面的に通り李信恵氏の不法行為が認められ勝訴しました。双方が控訴した大阪高裁でも鹿砦社は勝訴しました。被告李信恵氏は上告しましたが、どういう理由かはわかりませんが、途中で上告を取り下げ、鹿砦社勝訴の判決が確定することとなりました。

ところで、大阪地裁での審理後半になって、李信恵氏側は突如「反訴したい」と言い出しました。反訴の意思があるのであれば、提訴から1年以上の時間があったわけですから、その間にそれを明示すればよいものを、これまた不可解な「反訴」提起でした。裁判所は「争いの内容が異なるので反訴は認められない」と判断し別個の訴訟となされました。その結果きょう「本人(証人)尋問」が行われる、李信恵氏が原告で、鹿砦社が被告という(一度は肩がついた問題を蒸し返した感が否めない)別個の訴訟(紛らわしいので、先の訴訟を第1訴訟とし、こちらを第2訴訟といって区別しています)が行われることになったわけです。

一般の方にもご想像頂けると思いますが、裁判には途方もない労力が必要です(さらに、みみっちいことを言えば「お金」もです)。せっかく鹿砦社勝訴判決が確定したのに、私たちはこの別訴自体に納得がいきません。李信恵氏は、あろうことかリンチ事件関連で出版した書籍の販売差止めさえ求めています。ひとことで言えば「無茶苦茶な要求」です。憲法21条で高らかに謳われた「表現の自由」「言論・出版の自由」を蹂躙するもので、いやしくも出版界の末席を汚す者として絶対に譲れません。

これまでは「争点準備手続き」といわれる、公開の弁論ではなく、密室での審議が続いてきましたが、きょうは傍聴席のある通常法廷で、双方の証人が証言します。原告側は、李信恵氏本人。被告である鹿砦社側は、取材班キャップの田所敏夫さんを証人として送り出します。取材班には世間に名の知れた有名フリーライターから、駆け出しの若手、情報収集に従事する人など、ずいぶんたくさんの方が集まってくださいましたが(表には松岡社長や田所さんらが出ましたが、水面下では多くの協力者が存在しましたことを明らかにしておきます)、この裁判の発端になった「リンチ事件」が発生したのが大阪であったこと(そして鹿砦社も兵庫県に本社を置くことから)関西在住の田所さんに取材やとりまとめをお願いしてきました。

「本人(証人尋問)」は第三者を交えた議論の場ではありません。証人はあくまで原告・被告双方の代理人(または本人)からの質問に答えることだけが許されます。田所さんがいくら意気込んでも「大演説」をする場所ではありません(それは李信恵氏にも同様のことです)。ですから華々しい議論が展開されるわけではありませんが、「リンチ事件」が鹿砦社に持ち込まれた当初から事情を知っている田所さんは、落ち着いて、しっかりとした証言をしてくれるものと信じます。戦後75年、この国で故なき差別を受けてきた広島被爆二世である彼は現在、おそらくそれに発する複数の病に罹患し闘病中です。今年は例年の1割も仕事ができなかったようです。それでも「リンチ事件」が鹿砦社に持ち込まれてから、今日までを知る、文字通り〈生きた証人〉として全力で証言してくれることでしょう。

一方、李信恵氏側は、李信恵氏本人も、李氏代理人の神原元・上瀧浩子弁護士らも、かつては、こうした裁判には動員を叫んだり大騒ぎしていた所、今回はなぜか沈黙しています。

本日の裁判の様子は、数日のうちにご報告いたします。

1 尋問期日(11月24日火曜午前11時)
2 法廷番号は1007号です。
3 裁判所書記官(24民事部合議2ニ係)によれば、「整理券を配ったりする予定はない。」とのことでした。
4 当日の予定は下記のとおりです。
  午前11時~   田所敏夫(取材班キャップ。鹿砦社側証人)尋問
  午後1時20分~ 李信恵本人尋問

《関連過去記事カテゴリー》
 M君リンチ事件 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=62

工藤會幹部の公判が佳境に 六代目山口組髙山清司若頭が面会に

◆殺害と傷害の指示を否認

総裁(先代組長)・会長(組長)・理事長(若頭)の3幹部、および事務局長ら主要な幹部が獄に囚われ、本部会館も手放さざるをえなかった工藤會(北九州市)。その3幹部の公判が佳境に入った。とりわけ、殺人と暴行障害などの罪名で、懲役に換算すると30年以上は求刑される野村悟総裁、田上不美夫会長の裁判に注目があつまる。

何しろその犯行態様は、対立する元山口組組員(漁業組合長)の息子(歯科医)を襲撃し、なおかつ組合長をも殺害。県警の元警部(工藤會担当)を殺害。さらには、野村会長の下腹部の施術を担当した女性看護師を襲撃、というあまりにも言い訳のしにくい事件なのだ。福岡県警のいう「無差別市民襲撃」とまでは言えないとしても、任侠道にもとる事件であろう。

ふたりは本人尋問で、いずれも犯行の指示を否認した。裁判での本人尋問では、以下のようなやり取りがあった。野村総裁への質問から一部を抜粋する。

── 施術のとき、どうでしたか?
野村 脱毛のレーザーを当てました。レーザーが強くなったと思ったら、体がピクッとなった。
── 誰が担当したのか?
野村 (被害者の)看護師です。
── 何と言った?
野村 「あーら、野村さんでも痛いんですか。入れ墨に比べたら痛くないでしょ」と。
── どう思った。
野村 ちょっとカチンときました。
── 看護師を傷つけることを指示したか?
野村 いえ、そんなことはありません。
── 承諾したことは?
野村 ありません。
── 指示や承諾以外で何らかの形で関与したことは。
野村 ありません。
── 逮捕された時、警察や検察から工藤会組員の犯行と聞かされてどう思ったか。
野村 絶対にそれはないと思いました。
── いま現在はどう思っているか
野村 工藤會の組員が関わっていたんやなと思っています。
── いま何かこの事件のきっかけで思い当たることは
野村 深く考えたら、私が愚痴ったことが組員に伝わって変なふうになったんかなとも考えられます。
── 愚痴を言った場面については
野村 風呂上がりに脱衣所で着替える前に薬を塗ります。脱衣所には部屋住みの人間が4人くらいいる。看護師の顔を思い浮かべながら「あのオバハンが」とか言いながら(薬を)塗っていたと思います。

この野村の「不満(恨み)」を、組員たちがおもんぱかって看護師襲撃に走ったというのである。

── 襲った人たち(組員)には、どういう感情を?
野村 ちょっと許しがたいようなものがありますね。何の理由もなく他人を傷つけることは許せません。まして世話になっとる看護師を。通り魔以下の事件です。許せんです。
── 女性や子どもを襲ってはいけないと?
野村 常識的に分かると思います。事情があれば分かりませんけど、常識的に考えてもらわんといかんのはあります。
── 破ったら処分を受けるか?
野村 組員が通り魔をすれば処分になる。看護師が被害者であれば、世話になっとる人ですから、これは絶対に処分の対象になると思います。
── 組員は処分の対象になるか?
野村 なると思います。
── 「工藤會憲法」では堅気に迷惑をかけてはいけないと。女性を襲うことは許されませんね。しかし処分を受けていない。
野村 処分については、私はどうせいこうせいと言う権限はありませんし、収容されてどうすることもできん。執行部が考えると思います。

これまでにも野村総裁は、組の運営は執行部に任せているので、直接の関与はないと主張してきた。暴対法が施行されてから、ヤクザ組織は集団指導制を採っているのは確かで、その主張がどこまで認められるかであろう。

いっぽう、会長の田上不美夫被告は、襲撃について「知っていたら『バカなことはやめろ』と止めている」と、これも関与を否定した。

司法関係者のあいだでは、民法の使用者責任は「抗争事件」を組の「業務」とした場合に適用される(拳銃の所有など、判例あり)。今回の場合、共同正犯や共謀罪が適用されるのか、それとも上意下達の組織であるから、親分の意を汲んで子分が実行したことに謀議が認められるか、法適用に微妙なものがあるとしている。実行犯の組員たちの供述書(未開示)がどこまで3幹部の関与に踏み込んでいるのかによる。

筆者も過去に溝下秀男最高顧問(四代目工藤會総裁)および側近を取材し、その著書を編集した関係で、このかん何度か取材をこころみた。残念ながら「いまは捜査当局を刺激したくない」「今回の事件は、かならずしも正面から説明できるものではない」「深くは話せない」との反応だった。ある意味、嵐が通り過ぎるのを待つという判断は当然のものだろう。工藤会館を手放すことで、公然活動を自粛している工藤會にとって、隠忍自重の時期といえるのだろう。

昨年の夏、この通信でレポートしたとおり、ことあるごとに工藤會が情報を発信していた『実話時代』が事実上の廃刊となった今、本通信こそが唯一とまでは言わないが、なるべく工藤會の近況をお伝えすることを約束しておく。じつは編集を主幹している雑誌でも取材を始めているので、その成果の掲載できない分は本通信で明らかにしていきたい。


◎「現場から、平成の記憶」武闘派暴力団との熾烈な戦い(TBS JNNニュース 2019年1月8日放送)

◆代表代行の交代が意味するもの

今月に入って、獄中の野村総裁と田上会長が、獄外の代表代行を交代させた。西日本新聞の記事から紹介しよう。

「田上被告らは、会長代行(73)を退任させて、別の2次団体組長(60)に実質的な暫定トップを任せた。人事の背景には、組員が組織に納める上納金の集金を巡る会長代行と田上被告のあつれきがあった模様だ。」

トップ3が社会不在となった当初、代表代行は本田三秀(本田組組長)だったが、その後はしばらく山本和義(二代目矢坂組組長)が務め、今回は長谷川泰三(長谷川組組長)に交代となったものだ。

改正暴対法、暴排条例、コロナ禍のもとで、末端組員たちのしのぎが厳しさを増している。今回の代表代行の交代は、文字どおり財政難としての危機が組織を直撃したものといえよう。工藤會のみならず、山口組の分裂の原因となった運営費(上納金)問題である。

92年の暴対法成立の過程で、今までのようにはいかない。ヤクザも節度のある生活で時代に対応しなければならない、という警句は必ずしも組織の本家において実行されなかった。工藤會に対する頂上作戦は、ヤクザ組織に新たしい課題を突き付けたといえよう。


◎[参考動画]工藤會 101-EAST Battling the Yakuza ダイジェスト版(Kudokai1888 2012/08/25)

◆山口組髙山若頭の来福が意味するものは?

いっぽう、六代目山口組の髙山清司若頭が、獄中の野村悟工藤會総裁のもとを訪ねた。先代の溝下いらい親戚関係にある住吉会の会長をはじめ、全国のヤクザ組織のトップが、激励のために面会へと訪れてきた。そうした中でも、髙山若頭が野村被告のもとを訪れたことは、業界内で大きな話題となった。

六代目山口組から神戸山口組が分裂した2015年、工藤會が加盟する九州の四社会(工藤會・道仁会・太州会・熊本会)は、それまで友好関係にあった六代目山口組との関係を凍結することを宣言したのだった。

その理由は、道仁会から分裂した浪川会(現・二代目浪川会)にあった。浪川会は旧九州誠道会であり、道仁会から分裂した組織なのである。かつては十数名の死者を出す骨肉の争いをした相手であり、そのバックには菱の代紋の支援があった。そしてそもそも、道仁会自体が山口組(五代目時代)とは血で血を洗う山道戦争を繰り広げた過去を持っているのだ。

工藤會は広島共政会沖本勲元会長と溝下三代目が兄弟で、廻り兄弟として山口組の元若頭補佐桑田兼吉(いずれも故人)と親戚関係にあったが、溝下は大の山口組嫌いでもあった。「大きいところに巻かれろ、という性根が気に入らない」というものだ。

福岡市には、伊豆組(青山千尋二代目が本家舎弟頭で九州ブロック長)という六代目山口組の有力二次団体のほかに、一道会(浅川一家の後継団体、一ノ宮敏彰会長)がある。大分市にも石井一家(生野靖道四代目が本部幹部役員)、熊本市にも三代目稲葉一家(田中三次組長)が存在する。ほかに福博会(福岡市、金城國泰四代目)も、歴代の会長が山口組の後見を受けている。

九州ヤクザの抗争史は、山口組の九州進出をめぐる抗争(夜桜銀二事件、紫川事件、別府抗争など)だったと言っても過言ではない。山口組が進出しようとすれば、かならず結束して対抗、阻止する。山口組と共存時代になった今でも、これ以上の進出は許したくないのが本音だ。

それが今回、髙山若頭が野村被告の面会へと足を運んだことで、六代目山口組と九州四社会との交流が再会される可能性があるのではないかと、ヤクザ関係者のあいだで観測されている。


◎[参考動画]工藤会本部、取り壊し開始 暴力団排除加速へ(共同通信2019年11月22日)

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)

編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。医科学系の著書・共著に『「買ってはいけない」は買ってはいけない』(夏目書房)『ホントに効くのかアガリスク』(鹿砦社)『走って直すガン』(徳間書店)『新ガン治療のウソと10年寿命を長くする本当の癌治療』(双葉社)『ガンになりにくい食生活』(鹿砦社ライブラリー)など。

タケナカシゲル『誰も書かなかったヤクザのタブー』(鹿砦社ライブラリー007)
最新刊!『紙の爆弾』12月号!

【カウンター大学院生リンチ事件(別称「しばき隊リンチ事件」)続報!】《NEWS》対李信恵第2訴訟、11・24大阪地裁決戦へ圧倒的な注目を! 鹿砦社特別取材班

反差別・反原発・反天皇制などを闘う、すべての労働者、学生、市民、そして世界中の同志の皆さん(実は本通信は結構な数韓国で読まれている)! われわれは、いよいよ11・24大阪地裁における、「カウンター大学院生リンチ事件」に関連する、司法の場での最終決戦を迎える。

そもそも鹿砦社(鹿砦社だけではなく支援者の皆さん)としばき隊勢力は、何故法廷闘争に至らなければならなかったのか? 答えは簡単である。李信恵氏が同席した場で繰り広げられた、「カウンター大学院生リンチ事件」に対する賠償や治療費さえもが、事件後何年経っても被害者に1円たりとも支払われていなかったことに出発点はある。

刑事事件として2名が罰金刑を受け、2名だけではなく李信恵氏もリンチ事件被害者M君に「謝罪文」を書き、活動の自粛を申し入れながら、勝手にそれを反故にした。被害者は顔面骨折などの重傷を負わせられているのに、1円たりとも賠償や治療費の支払いさえもがなされていなかった。こんな理不尽が許されるか!

李信恵「謝罪文」(P01-P02/全7枚)
李信恵「謝罪文」(P03-P04/全7枚)
リンチ直後に出された金良平(エル金)[画像左]と李普鉉(凡)氏[画像右]による「謝罪文」(いずれも1ページ目のみ。全文は『カウンターと暴力の病理』に掲載)

くどくならないように経過説明は最小限にとどめる。すべては「リンチ被害者が何の賠償も治療費も受けていない」異常事態を回復するための訴訟を援助すること(そのためには事実関係をより詳細に取材する必要があり、取材内容は真実性・公益性・公共性に満ちていたので5冊の書籍出版となったが、鹿砦社は「リンチ事件」が持ち込まれた当時、書籍の出版など考えもしなかった)に端を発している。

「よくわからない」、「誰が何をしてたのかこんがらがる」と読者や事件にあまり詳しくない方々からは感想を聞く。そうなのだ。事柄は非常に入り組んでおり、関連人物も多数だ。国会議員から、大学教員、弁護士から、そのへんにいそうな兄ちゃん、姉ちゃんまで。よって、事件の詳細を御存知ではない方、興味のある方には是非既刊5冊(総ページ700ページ余りにもなるが)をお読みいただきたい。

ところで、皆さん! 来る11月24日は鹿砦社と李信恵氏が「本人(証人)尋問」という形で、直接対峙する局面を迎える。この裁判は原告が李信恵氏であるので原告側は李信恵氏が、鹿砦社は「棺桶に片足を突っ込んだ」(元鹿砦社社員にしてしばき隊幹部、藤井正美が勤務時間中に自分のツイッターアカウントで松岡を描写した表現)松岡ではなく、泣く子も黙る田所敏夫を証人に立てた。田所は知る人ぞ知る武闘派で、かつては国際的にもその名を知られた人物である。武闘派といっても武器を持っていたわけではない。日本人が誰も行かない紛争地帯を取材したり、海外の要人に数々のインタビューをこなし、国際配信された記事も少なくない。ただし田所敏夫はペンネームであり、本名は異なる。田所は広島原爆被爆二世であり、核発電(原子力発電と一般的に呼ばれる)や核兵器には絶対反対の立場の人間だ。自身も数々の疾病に悩まさており、今年は例年の10分の1も仕事ができなかったという。

 
リンチ直後の被害者大学院生M君

体調が悪い中ではあるが、松岡はあえて田所に証言を依頼し、田所は快諾したという。

冒頭陳述や最終陳述ではないので、田所が長時間の演説を繰り広げることはない。しかし、被爆二世としての苦しみを実感し、田所自身がこれまで仕事を通じ、または私生活で「反差別」と関わる生き方をしてきた。そのエッセンスは必ず法廷で、発揮されるものとわれわれは確信する。田所には似非反差別、偽善は通用しない。

取材班には様々な考え方の人間がいる。鹿砦社は「排除の原理」を唾棄するからだ。しかしその中にあって田所の反核・反差別・反天皇制への考えは際立っている。この3つを田所は絶対に譲らない。「天皇制を認める反差別などすべてまやかしだ」と田所は常に口にしている。

コロナ禍の中、限られたられた傍聴席でもあるので、支援傍聴を要請するも、くれぐれもご自身の健康や安全を第一にお考え頂きたい。11・24決戦の様子は数日後にはご報告できるであろう。体調不良の中、鬼気迫る決意で尋問に立つ田所敏夫を応援し、「反差別」に名を借りた偽善者どもを圧倒しようではないか!

1 尋問期日(11月24日火曜午前11時)
2 法廷番号は1007号です。
3 裁判所書記官(24民事部合議2ニ係)によれば、「整理券を配ったりする予定はない。」とのことでした。
4 当日の予定は下記のとおりです。
  午前11時~   田所敏夫(取材班キャップ。鹿砦社側証人)尋問
  午後1時20分~ 李信恵本人尋問

《関連過去記事カテゴリー》
 M君リンチ事件 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=62

《インタビュー》冤罪被害の当事者、青木恵子さんが行う冤罪被害者支援活動

1995年に起きた「東住吉事件」の冤罪被害者青木恵子さんは、2018年再審で無罪を勝ち取って以降、全国の刑務所で服役中の犠牲者に手紙をかいたり、面会に行ったりしている。そうした活動が認められ、今回多田謡子反権力人権賞を受賞した。一方、娘を焼死させた火災は、車のガソリン漏れが原因だとしてメーカーのホンダに約5200万円の損害賠償を求めていた裁判は、控訴が棄却された。(聞き手=尾崎美代子)

── 今回の多田謡子反人権大賞受賞は、青木さんの様々な冤罪被害者への支援活動が評価されたと聞きしましたが、そうした活動を行うきっかけは?

青木恵子さんの自宅マンションで

青木 私自身、大阪拘置所、和歌山刑務所に服役中、知らない人からも支援され、そのおかげもあって無罪になれたけど、その人たちに何かを返すことはできない。また私自身が中にいて一番嬉しかったことは手紙を貰えたことなので、特別何かできるわけではないが、それくらい出来るだろうと始めました。常にレターセット持って、時間があればどこでも立ったままでも書いています。書いたら、すぐポストにいれます。

── どのくらいの方に書いています。

青木 国民救援会が支援している人が中心ですね。全員には無理ですが。例えばその人が裁判で負けたときは、「外の集会でみんながマイクもってこう話した、私はこう話した」と報告します。本人は聞けないからね。そして「負けずに闘いましょう。真実は一つだから」と書きます。私もそうでしたが、負けたとき支援者が泣いたり、怒ったりしてくれることを知ると、自分の悲しみとか消えていく気がします。また面会に行くときは1ケ月前から、刑務所に「面会させろ」とアピールするためもあり、行く前日まで毎日出します。

── 毎日? 何を書くのです?

青木 皆さんに聞かれます、「なに書くの?」と。事件のこととか聞かない。私の行動を書くの。「おはよう」や「こんにちは」から始まり、「今日は〇へ行きます」「どこの集会で話します」「今日は家でゆっくりしています」とかね。あと「あと〇日であえますね」と必ず書きますね。

例えば「今、寒いでしょう」と書く時でも、(刑務所を知っている)わたしらはその寒さというのは、いろんな言葉を言わなくてもわかるの。支援者だったら「炬燵あるの?」「暖房は?」と考えるでしょうが、私たちは何もないのをしっているから、「今年は寒いね。辛いよね。風ひかないようにね」でわかるんです。あと絵葉書だと外の景色もわかるし、切手は絶対可愛いのを貼る。切手だけでも「うわ!今こんな切手なんだ」とわかるでしょう。私がその喜びを知っているからね。

── 以前、中でケーキのパンフレットを貰ってうれしかったと話していましたね。

再審無罪を勝ち取った湖東記念病院事件の西山美香さんから送られた時計と大好きなぬいぐるみ

青木 そう。支援の方に「ケーキ食べたいわ」と書いたら、クリスマス用のケーキの申込用紙のパンフレットを送って貰いました。「食べられないのに可哀そう」と皆さん、思うでしょう?そうではない。食べられなくても目で食べるの。「今年はこんなケーキなんだ。来年は絶対外で食べるぞ」という思いになる。来年こそ、来年こそとね。

そういう活動が、じつは私も楽しいんです。人に何かをやってあげているのではなくて、手紙を書くことで私も吐き出している。私は一人だから、下手したら1日誰とも話さないから、手紙書いていたら、しゃべっている感じになるからね。面会も、私が励ましに行くというより、こっちもすごく元気になっている感じです。平野さんの弁護士が決まったときは、私まで嬉しかった。

── 平野義幸さんは徳島刑務所に入っている方ですよね。桜井さんにお聞きしました。放火殺人で無期懲役、再審を闘いたいが、弁護士も支援者もいないと。(注*2003年1月16日京都市内で起きた火災で女性が焼死した件で、同年7月31日殺人・現住建造物等放火罪で逮捕、起訴され、無期懲役が確定、現在徳島刑務所に服役中)

青木 そう。それで今回桜井さんの協力もあり、桜井さんの知り合いの弁護士さんがやってくれることが決まりました。徳島までの送り迎えは私が車でするという条件です。あとは弁護士費用の問題。ならば私が立て替えますとなりました。皆さん「すごい」というけど、私がちょっとのお金をだすことで、やってくれる弁護士がいた。私がそのお金をだせない環境だったら、「出せなくてごめんね」で終わってしまうが、出せないお金ではなかった。ならば金をだすことで1人の人が救われるのだったらと思ったんです。私は生活困ったら働けばいいが、中に入っている人は働いて稼ぐことも出来ない。自分にそのお金あるのに「人のためには出せない」というのは、私にはできない。でもそれで彼の再審無罪がかちとれ、冤罪被害者を救えたとなったら、お金じゃないでしょう?それで私が立て替えました。本人は中から必死で弁護士探しの手紙を書いていたから、これからはそれをやらなくて済む。一歩前進ですよね。これから再審に向けて弁護士がいろいろやってくれる。待たなければならない期間はあるが、これまでと比べどれだけ気が楽か。桜井さんと話していますが、これで平野さんの再審がうまく進み無罪になったら、一人の冤罪被害者を助けられたことになる。自分たちでそんなことしたことないから、してもらってばかりだったから。すでに支援者や弁護士がついて闘っている人もしんどいが、支援も弁護士もいない冤罪被害者がいるということは分かっていたが、実際目の前にいて関わったのは、平野さんが初めてだから。平野さんに初めて面会した時、「大切な人を亡くした気持ちは、青木さんならわかるでしょう」と言われ、娘のことと重なって思わず涙がでました。誰も信じなくとも、私だけは平野さんのことを信じると決めました。

── 確かにそうですね。青木さんは、そういう活動費用をつくるためにチラシのポスティングと集金のバイトをしているんですね?

青木 そうです。先日集金のバイトのミーティングで、チラシ配り1枚3.5円という、これまでよりちょっと高い仕事があったので、「私やります」と言いました。5千枚くらいまき、集金の分を足すと5万円くらいになったので、それを徳島に行く高速費用にあてます。

── 再審が始まるとよいですね。一方で、ホンダ裁判の控訴審は棄却されてしまい残念な結果となりましたが。

恵さんの遺影の隣に、青木さんのお母様、お父様の遺影

青木 一審の時は判決がわかりにくかったが、今回は負けたとはっきり分かった。その瞬間「なんだコイツ」と裁判官を見ました。私の最終陳述のとき、その裁判官は身を乗り出して聞いていたのに。向こうは20年の間に提訴できたでしょうというわけです。でも有罪で入っているとき提訴しても、裁判所は「有罪だから権利はない」と棄却するでしょう。それは裁判所が私を有罪にし続けたから、裁判所の責任でしょうと、裁判官を睨んで言いました。ホンダにも睨んで「ホンダさんに尋ねたいです。ガソリンが漏れないといわれるなら、どうか教えてください。火災の原因はなんですか? 自宅のガレージに車を止めていただけです、車は動いてないのですよ。車に原因がないなら、どこからガソリンが漏れたのでしょうか? 車しかありえませんよね? 違いますか? 再審の裁判所の判断も間違っているということですか?私が犯人だといわれるのですか? 裁判所にもお聞きしたいです。娘の無念を晴らすことも諦めて、泣き寝入りしたらよいのですか? 裁判は真実を追及して明らかにする場ではなく、大手メーカーの言い分に従って、真実を歪めてまでも逃げる道を選ぶのでしょうか?このようなおかしな判決が通るなら、正義も真実もなく、この裁判自体にも意味がなく、憤りしか感じません」と言いました。判決が出たあとも裁判官に向かって「私の意見陳述いっこも(ひとつも)聞いてなかったんですね。裁判官やめてちょうだい」と法廷出ていくまで言い続けました。桜井さんも裁判中に傍聴席から「おかしいだろ? 20年入っていたのに。裁判官やめたほうがいいよ」と怒鳴ってくれました。

── ホンダ裁判は上告して闘うということですね。それにしても桜井さんと青木さんは最強のコンビ、これからも大勢の冤罪被害者を救う活動を続けてください。私も微力ながら手伝わせていただきます。

▼尾崎美代子(おざき みよこ)

新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

最新刊!『紙の爆弾』12月号!
原発なき社会を求めて NO NUKES voice Vol.25

注目のセカンドレイプ裁判始まる リツイートが差別に当たるか? 横山茂彦

11月17日、ツイッターで中傷的なイラストなどを投稿され、名誉を傷つけられたとする裁判がいよいよ開廷した。

ジャーナリストの伊藤詩織さんが漫画家のはすみとしこ氏ら(ほかリツイートした男性2名)に、計770万円の損害賠償を求めた訴訟である(東京地裁民事部、小田正二裁判長)。事件の詳細は、本通信8月24日「伊藤詩織氏がセカンドレイパーを提訴『ツイート』の『いいね』も民訴(損害賠償)の要件になるか?」を参照されたい。


◎[参考動画]伊藤詩織さん「魂を傷つけた」 中傷イラストめぐる裁判(FNN 2020年11月17日)

伊藤氏は冒頭陳述で「性被害の被害者をセカンドレイプといえる言動で攻撃する人が大勢いる。私の被害を正面から受け止めてほしい」「私が意図的に相手を陥れるためにしたと言わんばかりのイラスト」だと述べ、「なんとか被害から立ち直りたい、日常を取り戻したいという私の思いは踏みにじられた」と訴えた。被告のはすみ氏は出廷せず、答弁書で請求棄却を求めた。

はすみ氏の名誉棄損が直接的で、構成要件を満たすのは明らかだと考えられるが、リツイートが名誉棄損になるかどうか。これが最大の争点であろう。

この点について、伊藤さんは「イラストが拡散されていく様子を思い浮かべると、街を歩くことに大変な苦痛を覚え、帽子やサングラスをかけ、常に周囲を警戒するようになった」と語り、投稿拡散による被害の深刻さを訴えている。

さらに伊藤さんは「性被害の傷とトラウマを抱え回復途中の私にとって、あのイラストを見るのも、イラストについて話すことも、話しているところを他人に見られることも苦痛だった。ただ、インターネットでセカンドレイプに加担する人は大勢いる。私自身が前に進むために、そして、私と同じ被害に苦しんでいる人たちのために、裁判を始めた」と語った。

はすみ氏は今年8月、訴状について毎日新聞の取材に文書で回答している。「(イラストは)フィクションであるため、事実真実と異なって当然」というものだ。

◆根っこにあるのは、自民党の差別体質

伊藤さんは、はすみ氏ら3人のほか、自民党の杉田水脈衆院議員、元東京大学大学院特任准教授の大澤昇平氏を相手取り訴訟を起こしている。

もとは安倍総理お抱えの元TBS記者、山口敬之のレイプ事件(昨年12月18日、東京地裁民事部〈鈴木昭洋裁判長〉は山口に330万円の支払いを命じた)が発端である。その意味では、総理お抱えの物書きを刑事事件から庇護した、国策的な刑事指揮によってこじれた問題が、ここまで派生したものだ。

したがってこの裁判は、旧安倍政権および自民党、そしてその支持基盤の女性差別的な体質を、いやがうえにも暴くものとなるのだ。先進国はおろか、世界でも最低クラスの男尊女卑社会をくつがえすためにも、この問題は継続的に焦点を当てていくべきであろう。読者諸賢には、続報を約束しておきたい。

◆逃亡する杉田議員をゆるすな

そうであるがゆえに、ここで改めて問題にしなければならないのは、杉田水脈議員の「女はいくらでもウソをつける」発言である。杉田議員は当初発言そのものを否定(虚言)し、のちに議事録や証言をもとに、みずからウソを撤回せざるをえなかったものだ。

この問題は単に「女はウソをつける」発言が、女性一般の「名誉」にかかわるのではない。性暴力の被害において、女性が「ウソをつける」から捜査に対策が必要(女性捜査員の必要)であると、杉田議員は責任と権力のある政治的な場から発言したのである。その意味では、単なる差別や名誉棄損ではなく、政治的抑圧なのである。

しかもその発言を、部会のテーマが「女性への暴力の問題」であったにもかかわらず、韓国の慰安婦支援団体の代表の資金運用の疑惑(これ自体、不正使用として訴追されているわけではない)にすり替え、発言を正当化したのである。

これで杉田議員は、二度目のウソをついたことになる。百歩譲っても、女性警察官による性暴力の調査・捜査を論じている場で、他国の社会運動をあげつらうのは的外れ以外のものではない。

それよりも問題なのは、彼女が伊藤詩織さんへのセカンドレイパーとして訴訟を受けている身であることだ。性暴力の被害者から民訴を受けることそれ自体としても、議員にはふさわしからぬ言動の結果である。本通信10月2日の記事「自民党・杉田水脈議員の『女はウソをつく』発言で誰がウソをついていたのか?」参照。

そしてだからこそ、ほかならぬ女性への暴力問題を議題にした会議で「女はウソをつける」などと発言したのである。したがって、杉田発言は自己正当化の卑劣な政治的抑圧、政治倫理にもとる犯罪的な虚偽なのである。彼女が小選挙区で選ばれたのではなく(二度落選)、比例区当選の議員であることを考えるとき、この問題は自民党の自浄能力が問われている。

◆自浄能力なき自民党

ところが、自民党は言を左右して杉田問題からの逃亡をはかっているのだ。

10月13日、杉田議員の議員辞職を求めるオンライン署名を始めた「フラワーデモ」主催団体が約13万6000筆の署名を提出するため自民党本部を訪問したが、同党は署名の受け取りを拒否した。

同団体の要望に当初、自民党は野田聖子議員が対応していた。メールのやり取りで「面談をします。性暴力支援や性暴力被害にあった人たちの声は無視できない」(野田議員)というものだった。だが、この意向はくつがえされた。

野田氏は10月9日に行われたハフポスト日本版のインタビューで、署名を受け取らない理由を「署名を受けて『辞職しなさい』というのは、法律上できないこと。『辞職』と書かれている以上、私にはそういう権限もない。預かっても法律上できないことはちょっと無理です、とお伝えした」などと語っていた。ここへきて稚拙な法律論である。かたちだけでも受け取って、内部討議にかけてみればどうか? やはり自民党は女性差別政党なのだろうか。

[参考記事]
◎杉田氏「女性は嘘をつく」発言で「中傷始まった」。抗議無視する自民党へフラワーデモ参加者の怒りと涙(竹下郁子)
◎伊藤詩織さんついに提訴…杉田水脈議員が暴言連発するワケ(日刊ゲンダイ)
◎問題発言を風化させた「『逆』牛歩戦術」 杉田水脈議員は逃げ切ったのか(下)(全国新聞ネット)

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)

編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。医科学系の著書・共著に『「買ってはいけない」は買ってはいけない』(夏目書房)『ホントに効くのかアガリスク』(鹿砦社)『走って直すガン』(徳間書店)『新ガン治療のウソと10年寿命を長くする本当の癌治療』(双葉社)『ガンになりにくい食生活』(鹿砦社ライブラリー)など。

最新刊!『紙の爆弾』12月号!

6月にバズった日産自動車「社内レイプ冤罪」報道、判例でわかった複雑な事情

〈「性行為強要」は虚偽と認定 社内不倫の女性に賠償命令〉(産経ニュース)

去る6月23日、ネットでこの記事が配信されると、いわゆる「バズる」事態となった。現在までにツイッターだけでも「いいね」が1.8万件、公式リツイートが9600件超に及ぶ。ここまで大きな反響を呼んだのは、日産自動車(以下、日産)という大企業を舞台に、不倫の延長線上で虚偽のレイプ告発がなされ、訴訟に発展したという記事内容が多くの人の好奇心を刺激したからだろう。

バズった産経ニュースの記事

記事によると、日産に勤務していた男性が2016年、不倫関係にあった元部下の女性から「性行為を強要された」と会社に申告され、懲戒解雇になったという。しかし、男性の妻が「女性の申告は虚偽」と主張して女性に計1千万円の損害賠償を求めて提訴した結果、東京地裁が女性の申告を「虚偽」と認定し、不倫の慰謝料と合わせて120万円の支払いを命じたのだという。

一方、男性も日産を相手取り、雇用継続を求めて横浜地裁に提訴。2018年の時点で解雇無効の判決を受け、東京高裁も日産の控訴を退けたため、すでに復職しているという。

とまあ、この記事を見る限り、男性には「部下の女性と不倫した」という落ち度があるにせよ、不倫相手の女性の嘘のせいで一時はレイプの濡れ衣を着せられ、大企業を解雇されるなど、とんでもない冤罪被害にあったような印象だ。そのため、ネット上では、虚偽のレイプ被害を訴えたとされる女性を非難する声が飛び交った。

しかし、判例データベースで横浜地裁の解雇無効判決(2018年3月29日、岩松浩之裁判長が宣告)を入手し、内容を検証したところ、この事件には複雑な事情があることがわかった。

◆避妊具無しの性行為に苦しんだ女性

判決で認定された事実関係を順にみていこう。

レイプの濡れ衣を着せられた男性はタイ人(1970年生まれ)で、2004年8月に日産と労働契約を結び、購買企画部で働いていた。そして2013年4月、のちにレイプ被害を訴える女性(1989年生まれ)が日産に入社し、購買部に配属されたことから2人は知り合った。この時点で40代前半だった男性は、主管(いわゆる部長クラス)の地位にあり、タイに妻子があった。一方、女性は20代前半で独身だった。

では、20歳近く年齢が離れた2人はなぜ、不倫関係に陥ったのか。

きっかけは2013年7月17日、男性が使っているSNSに、女性が友達申請したことだ。これ以降、2人は連絡を取り合う仲になった。

そして2人は同月中に早くも一緒にタイに渡航している。ただ、この時点ではまだ2人は不倫関係に陥っていたわけではない。男性はタイにいる妻子に会うために、女性は当時交際していたタイ人の男性に会うために同国に赴いたのだ。2人はタイに滞在中、現地でランチを共にし、楽しげな様子で一緒に写真を撮っている。

そして帰国後も2人は一緒に食事をするなどしていたが、2013年11月1日、ついに一線を越える。出会って約7カ月になる金曜日の夜だった。

夜8時30分頃に入ったパブ。女性は男性に対し、男性遍歴を打ち明けると共にタイ人の恋人への不満を漏らした。女性はビールをグラスで2、3杯飲んでいたが、これは彼女にとって普通の飲酒量だったという。

そしてこの後、2人はパブから歩いて7、8分の距離にある、男性が暮らすマンションに向かった。その道中では、2人は身体同士を接触させた状態だった。そして部屋に入ると、2人はベッドルームで性行為に及んだ。さらに翌朝、2回目の性行為したという。

これだけ見ると、男性が女性に性行為を強要したとは認めがたいと多くの人が思うだろう。ただ、判決には、次のように記されている。

〈原告(引用者注・男性のこと)は、その際に、避妊具を使用しなかった〉

妊娠を心配した女性は3日後、病院に行き、緊急避妊剤の処方を受け、服用している。結果、妊娠はしていなかったが、翌12月頃から胸が苦しくなるなどの症状に陥った。そしてこの頃、女性は交際していたタイ人の男性と別れている。

今振り返ると、このことがのちに女性がレイプ被害を訴えるきっかけの1つになったかもしれない。

判例データベースで入手した判決には、複雑な事情が記されていた

◆上司との性行為により彼氏と別れ、身体的不調が発現

その後も男性と女性は性行為を繰り返した。女性は男性が出張中の香港を訪ね、一緒に観光名所を巡り、性行為をしたこともあったという。

しかし、2人の交際は長くは続かなかった。香港での逢瀬からまもない2014年3月21日、女性が離婚するつもりはあるのか否か尋ねたのに対し、男性は「わからない」と答え、逆に「君はどうして欲しいのか」と尋ね返した。女性はこの時、何も答えず、2人は性行為をした。しかし翌日、女性から男性に「あなたは離婚する必要はない」と言い、別れを告げたという。

こうして2人の交際は終了したが、男性は交際中、女性の裸の写真を撮影しており、この写真も入れたフォトアルバムを作成し、女性に渡している。

その後、女性は新しいボーイフレンドができたことを男性に告げた。しかし、翌年になると医療機関を受診し、「過呼吸っぽくなるので、治したい」「2年前の12月頃、上司に性的虐待、暴力を受けて、当時の彼氏との関係が悪化して別れてしまい、それ以来、過呼吸が出るようになった」と申告している。

さらに女性は男性に対し、「あなたなんて大嫌い」とのメッセージを送信したり、女性の父(女性が幼少期に女性の母親と離婚し、女性とは別に生活していた人物)が男性に対し、「女性と不適切な関係にあったことについて警察に告訴する」と告げたり、金銭を要求したりすることもあったという。2人の関係は不穏な状態になっていたようだ。

そして2105年12月、女性が日産に、「男性から意思に反する性行為を強要された」と申告する。男性は日産側に対し、これを否定したが、信じてもらえず、2016年2月4日付けで懲戒解雇されたのだ。

このような認定事実に基づき、判決は男性の行為について、次のように批判的な見解を示している。

〈部下である女子職員を自己の性欲のはけ口として扱うに等しい不適切なものであって、企業内においてこのような行為が大手を振ってまかり通ることになれば、当該企業の職場の風紀や秩序が乱され、業務に支障を来すおそれがないとは言い切れない〉

また、判決は次のように女性に被害者的側面があるように判示している。

〈A(引用者注・女性の名前)は、原告と性行為をした結果、交際相手と別れることになり、胸が苦しくなる、過呼吸といった身体的不調が発現するようになっており、その職務の遂行状況にも悪影響が生じていることが窺われる〉

実を言うと、男性は女性と性行為をした経緯について、「初めて性行為をしたのは、2013年11月1日に女性が自宅に来た時ではない。2014年1月、女性が突然に自宅を訪ねてきて、自分のことを好きだと告白し、性行為をしたのはその後のことだ」と主張しており、事実関係に争いがないわけではない。

しかし判決を見る限り、20代の独身女性がせっかく入社した大企業で上司に「性欲のはけ口」にされて人生を狂わせたことまでは事実と認め差し支えないようだ。女性が120万円の損害賠償まで命じられたうえ、報道の断片的な情報しか知らない大勢の第三者にネット上で一方的に非難されているのは気の毒だと思う。

▼片岡健(かたおか けん)
ノンフィクションライター。編著に『もう一つの重罪 桶川ストーカー殺人事件「実行犯」告白手記』(著者・久保田祥史)。原作を手がけた『マンガ「獄中面会物語」』(画・塚原洋一)13話がネットで配信中。

最新刊『紙の爆弾』12月号!
「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)