大菩薩峠異聞 ── 福ちゃん荘、赤軍派、浩宮(現天皇) 鹿砦社代表 松岡利康

「大菩薩峠」を知っていますか? 古く(戦前)は中里介山の長編時代小説のタイトルで、今ではほとんど読まれていないのではないでしょうか。私たちの世代では、51年前の1969年のきょう11月5日、赤軍派が首相官邸襲撃―占拠を目指し軍事訓練のために「福ちゃん荘」に集結したところを、事前に情報を入手した警察に53名全員逮捕された事件としてつとに有名です。赤軍派内に入り込んだスパイによってリークされたともささやかれています。このあたりのことは、最新刊の『一九七〇年 端境期の時代』で高部務さんが書いていますのでご一読ください。

警察に急襲され逮捕される赤軍派のメンバー
「福ちゃん荘」の看板(当時と同じものという)

ここまでだったら、激動の時代・60年代後半の一エピソードにすぎないのでしょうが、その後、浩宮(徳仁親王。つまり現天皇。以下「浩宮」と記します)が皇太子時代の2002年9月12日、登山の途中に夫妻で休憩したというのです。このことは、今では消去されていますが、数年前まで「福ちゃん荘」のホームページにも掲載されていました。

普通に考えれば、こういう因縁のある事件があったことで、たとえ浩宮が提案しても、側近や宮内庁が止めるでしょう。よほど浩宮が強く押したのではないでしょうか。浩宮の意図がどこにあるのかわかりませんが、浩宮らしいエピソードです。

さらには、その後(2006年)、かの若松孝二監督は『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』で、この福ちゃん荘を使って撮影したというのです。

「福ちゃん荘」内(当時の新聞記事など掲示)
同上(若松孝二監督のサインを掲示)

あまり知られていないエピソードですが、コアなマニアには知っている人もいるらしく、実際に福ちゃん荘に行って、山荘内を撮影してネットに上げています。山荘内には当時の新聞記事や若松監督のサインも額に入れて飾ってあるというのです(「福ちゃん荘に行ってきた」〔『ちくわブログ』〕。画像も同ブログから転載させていただきました)。いつか行きたいですね。

赤軍派は、この事件以降、翌年の70年には「よど号」ハイジャック事件、連合赤軍による銃撃戦とリンチ殺人事件、M作戦(銀行襲撃)、さらにはテルアビブ空港銃撃事件、「国際根拠地」論に基づくパレスチナでのPFLPとの共闘等々、本気で多くの闘争・事件を起こしていきます。他党派、あるいはノンセクト諸グループ/個々人が本気でなかったなどと言うつもりはありませんが、過激度やスケールが違います。

70年に大学入学以降、足元の学生運動に関わりながら、そうした闘争・事件を見てきました。その想いは、『一九七〇年 端境期の時代』に注ぎ込みましたが、今、60年代後半から70年代はじめにかけての新左翼運動のラジカリズムの在処を検証、総括していかねばなりません。多くの先輩や同級生らがどんどん鬼籍に入っていく中で、私たちは私たちにできる仕方で語るべきだと考えています。ここ数年の『遙かなる一九七〇年代-京都』(品切れ)、『思い出そう! 一九六八年を!!』(品切れ)、『一九六九年 混沌と狂騒の時代』、そして今回の『一九七〇年 端境の時代』へ続くシリーズは、そうした私たちの営為のあらわれです。ぜひご一読お願いいたします。

[追記]11月3日、大阪での「10・8 山﨑博昭プロジェクト」のイベント(映画&トーク)でチラシを配布させていただきましたが、かの東大全共闘代表(当時)・山本義隆さんがみえられていて、ご挨拶し本書を贈呈いたしました。このシリーズは、これまで全て贈呈しています。

渾身の一冊!『一九七〇年 端境期の時代』(紙の爆弾12月号増刊)

冤罪王国・静岡をしのぐ裏冤罪王国・埼玉 ── 知られざる同県のヤバイ冤罪の実例

「冤罪王国」。冤罪問題に詳しい人たちの間で、静岡県はそう呼ばれている。世間的に冤罪と認識されている重大事件が多く存在するからだ。

たとえば、死刑判決を受けた人がその後、無罪判決を受けた例を挙げただけでも、島田事件や幸浦事件、二俣事件がある。死刑囚の袴田巌氏に対し、一度は再審開始の決定が出た袴田事件も静岡県の事件だ。こうした「実績」をみると、たしかに静岡県は「冤罪王国」と呼ばれるにふさわしい。

だが、筆者はこれまで様々な冤罪を取材してきて、この静岡県より恐ろしい「裏冤罪王国」があることに気づいた。それは埼玉県である。いわば「表の冤罪王国」である静岡県と比較しながら説明しよう。

さいたま地裁。重大事件の法廷で冤罪の疑いが浮上しながら放置されているケースが目立つ

◆冤罪が「発覚」しやすい土壌があることを窺わせる静岡県

先述したように静岡県では、世間的に冤罪と認識される重大な事件が多く存在する。だが、これは必ずしも悪いことだとは言い切れない。なぜなら、重大な冤罪が多く「発生」しているのではなく、多く「発覚」していることの表れだとも解釈できるからだ。

冤罪被害者の救済は、その事件が冤罪だと「発覚」するところから始まる。そして実際、静岡県には、重大な冤罪が多く「発生」しているのではなく、多く「発覚」している県なのではないかと窺わせる事実が散見される。

たとえば、幸浦事件。1948年に磐田郡幸浦町の自営業者一家4人が殺害されたこの事件は、男性4人が警察の拷問により虚偽の自白に追い込まれた。警察の筋書きでは、4人の自白により浜辺に埋められた被害者の遺体が見つかり、これが「秘密の暴露」にあたるとされていた。

しかし、実際には警察が浜辺から遺体を発見する前、遺体が埋められていた場所に目印の鉄棒が立てられていたことが住人の証言により判明した。それが、男性4人の自白が虚偽だとわかるきっかけの1つとなった。

また、1950年に静岡県二俣町で家族4人が殺害された二俣事件では、やはり容疑者の少年が警察の拷問により虚偽の自白に追い込まれた。この少年が一度は死刑判決を受けながら、無罪判決を勝ち取る過程では、捜査を手がけた山崎兵八刑事が読売新聞紙上で警察の拷問や供述調書の捏造を告発する事態が起きている。

このように住人や現職刑事の告発が冤罪発覚のきっかけになるのは、極めて異例だ。さらに袴田事件でも、静岡県民ではないが、死刑判決を起案した静岡地裁の裁判官・熊本典道氏が袴田氏のことを冤罪だと思っていたことを表明している。

こうして見ると、静岡県には、冤罪が発覚しやすい土壌があることも窺われ、冤罪と認識される重大事件が多く存在することを悪いとも言い切れないわけである。

◆冤罪の疑いが見過ごされた重大事件が最も目につく埼玉県

一方、筆者がこれまで数々の冤罪事件を取材してきた中、「冤罪の疑いが見過ごされた重大事件」が最も目につくのが埼玉県だ。

たとえば、90年代を代表する凶悪事件の1つで、園子温監督の映画「冷たい熱帯魚」のモデルにもなった埼玉愛犬家連続殺人事件。埼玉県熊谷市で犬猫のブリーダー業を営でんいた関根元、風間博子の元夫婦が、金銭トラブルになった客らを次々に殺害していたとして検挙され、いずれも死刑判決を受けた。

だが、風間のほうは殺人の容疑を一貫して否認し、冤罪を主張。現在も獄中から裁判のやり直しを求め続けている。そして実を言うと、取調べで風間の犯行を目撃したように証言していた男が、裁判ではこの証言を覆し、「博子は無罪だと思う」「博子は殺人事件も何もやっていない」と証言する異例の事態となっていたのだ。

しかし、このように裁判で風間が冤罪だと疑わせる事情が明るみに出ながら、あまり報道されず、このことは世間にほとんど知られていない。

また、1999年に話題になった本庄保険金殺人事件。埼玉県本庄市の金融業者・八木茂が債務者たちを愛人女性らと偽装結婚させたうえ、保険をかけて殺害していたとされ、死刑判決を受けた。

しかし、一貫して冤罪を訴えた八木を有罪とする証拠は事実上、共犯者とされる愛人女性らの自白だけ。しかも、女性らの自白供述は心理学鑑定により「連日続いた長期間の取調べにより植えつけられた虚偽の記憶に基づく可能性がある」と判定されていた。そして3人の愛人のうち1人は、服役後、「自白は嘘だった」として再審請求しており、冤罪の疑いは色濃く浮かび上がっている。

しかし、このこともほとんど報じられていないため、知る人は少ない。

そして最後に、1999年に埼玉県桶川市で起きた桶川ストーカー殺人事件。この事件については22日の記事で詳しく紹介したが、冤罪を訴える元消防士・小松武史が裁判でこの事件の「首謀者」とされ、有罪判決を受けたのは、実行犯の風俗店店長・久保田祥史が当初、「武史から被害者の殺害を依頼された」と証言したためだった。

ところが、久保田は裁判でこの証言を覆し、「本当は誰からも被害者の殺害は依頼されていない。自分が勝手に暴走してやったことだった」という“真相”を明かしているのだ。この証言も大きく報道されず、結局、世間にほとんど知られていない。

このように埼玉県では、重大事件で冤罪の疑いを抱かせる事実が判明しながら、そのことが知られないまま放置されているケースが目立つ。だから私は、埼玉県のことを、冤罪王国と呼ばれる静岡県より恐ろしい「裏冤罪王国」と呼ぶのである。

▼片岡健(かたおか けん)
全国各地で新旧様々な事件を取材している。創業した一人出版社リミアンドテッドから新刊『もう一つの重罪 桶川ストーカー殺人事件「実行犯」告白手記』(著者・久保田祥史)を発行。

月刊『紙の爆弾』2020年11月号【特集】安倍政治という「負の遺産」他
「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

総理代替わりと大阪都構想に見る「維新 VS れいわ新選組」 林 克明

安倍からす菅へ──。政治とメディアが動き始めている。

昨年10月からの消費増税とコロナショックで生活や社会の破壊が進む中で、政権(とりわけ菅政権)と日本維新の会の蜜月ぶりがはっきりしてきた。

日本学術会議の新会員任命拒否事件で、維新の会の生みの親・橋本徹氏が菅首相をさかんに擁護しているのは周知のとりだ。今や「菅義偉政権と維新」はセット。

この状況において、11月1日の「大阪市を廃止し特別区を設置することについての住民投票」(俗にいう大阪都構想)が焦点になっている。
 
大阪市廃止を批判する中で目立つのが「れいわ新選組」である。次期総選挙で大阪五区立候補予定者の大石あきこ氏をはじめ、山本太郎代表が大阪現地に乗り込み、大阪市を政令指定都市から特別区に格下げすることに反対運動を展開してきた。
 
結果は否決されたが、度重なる山本太郎氏の街頭演説などで世論が動いた可能性がある。今後は、大阪のみならず全国的に「維新VS新選組」が政治の核になる予感がする。維新的なるものVS新選組的なるもの、と置き換えてもいい。

◆山本太郎都知事選出馬で維新の勢力拡大阻止
 
その“予感”が強まったのは、新型コロナウイルスで緊急事態制限が発出されていた今年初夏。7月に予定されていた東京都知事選挙をめぐり様々な人々が水面下あるいは表に出て動いていた。

現職が強いことは自明であり、加えてコロナの影響で小池知事は連日連夜テレビに登場していたのだから、「何か事件」が起きない限り大量得票する可能性が高かった。

対する野党系の候補者として、宇都宮健児弁護士とれいわ新選組の山本太郎代表がリベラル派から期待されていた。

そして宇都宮氏が立候補を表明したのちに、ぎりぎりになって山本氏が出馬表明した。リベラル派分断という批判もおきたが、やはり「山本出馬」には重要な意味があったのではないか。

第一に、前年2019年夏の参院選で旋風を巻き起こした「れいわ新選組」の支持拡大が停滞し、その後大きな風は吹いていなかった。党代表の山本氏が都知事選に立候補しなければ、燃え上がった炎が自然沈下しかねないから政治的イベントが必要だった。

第二は、“維新勢力”の拡大阻止である。宇都宮候補に投票するのは、立憲民主支持の中のリベラル派や共産党支持層など、ある程度限られている。

無党派層を一定程度引き付けられるのは山本太郎だった。維新の会も無党派票をある程度取り込める。前年の参院選で日本維新の会から立候補した音喜多駿氏が当選。東京で初の議席獲得となった。

維新としては、ホップからステップを狙って小野泰輔氏を擁立したことだろう。立候補を表明する少し前、テレビ各局は維新の吉村洋文大阪府知事をさかんに持ち上げ、ブームを作ろうとしていた。その波に乗って小野氏が当選しないまでも順位をどこまで上げるかが最大のポイントだった。

ブームに乗った維新だから、仮に山本太郎代表が立候補しなければ、小池氏につづく第2位についた可能性もなくはないのだ。

そうなれば、東京都知事選というよりも、国政において与党勢力・右派勢力が一気に拡大し、リベラル派による挽回はきわめて困難になる。

結果は、(1)小池、(2)宇都宮、(3)山本、(4)小野、となった。東京都知事選という最大の首長選での4位は明らかに敗北であり、山本票より下回った事実は重い。山本票との差は約4万票で大差とは言えないが、勝つか負けるかは政治的に重大だ。これにより、春先からの維新勢力拡大にブレーキがかかったのである。

この結果をもたらしたのは、山本太郎出馬だろう。筆者は、現職の小池VSその他候補よりも、あるいは宇都宮と山本のどちらが得票数が多いかよりも「維新VS新選組」の結果に注目していた。

なぜなら、今後は維新か新選組かどちらに向かうかで日本は大きく変わる可能性があると考えるからである。

◆1869年体制と新自由主義勢力の行方

この原稿で二つの政党の略称である「維新」と「新選組」を取り上げるのは、明治維新に至る1860年代に実在した尊王攘夷派(維新勢力)と新撰組と同じ名称だからである。それは偶然なのか、それとも必然なのか。

言うまでもなく、戊辰戦争という内戦で江戸公儀(江戸幕府)を倒し明治維新を成就させたのが尊王攘夷派である。彼らを「維新勢力」と呼んで差し支えないだろう

これに最も激しく敵対したのは、江戸公儀を守る新撰組であったのは言うまでもない。彼らを現在の政党名で使用されている漢字になおし「新選組」と呼ぼう。

1869(明治2)年に戊辰戦争に勝利した明治維新勢力が、その思想や文化、機構などを根底に残し2020年の現在まで続いている。昔とは大幅に変わったとは言え、「維新勢力」が日本を統治している。

現在の日本維新の会は、「改革」「既得権打破」と口では言うが、いま権力を握っている支配層のシステムや思想を改革するどころか強化している。とりわけ新自由主義政策の拡大にやっきだ。

それに思想やシステム全般にノーを突き付けているのが「新選組」ではないか。まるで1860年代の政治闘争が再現されたかのようだ。

象徴的なのは、いわゆる大阪都構想をめぐる「日本維新の会(大阪維新の会)VSれいわ新選組」の対決だ。

11月1日投票の住民投票「大阪市を廃止し特別区を設置することについての住民投票」が告示された10月12日、山本太郎・れいわ新選組代表が反対の街頭演説を行っていたとき、大阪府警が妨害した事件があった。


◎[参考動画]大阪府警が山本太郎氏の街頭演説を中止させようとしたときのYouTube映像

大阪府警に力を及ぼせるのは与党である大阪維新の会である。

大阪市廃止を叫ぶ「維新」と全面対決する「新選組」。この間の両勢力の行動を見ている、150年以上前は主に京都市内で刃を交わしていた維新勢力と新撰組の闘争が大阪市内で再現されたかのようだ。

2020年の今は日本刀を振り回すわけではないが、意味的には通じるものがある。大阪の住民投票の結果の如何にかかわらず、維新VS新選組の構図は深まっていくだろう。

▼林 克明(はやし・まさあき)
ジャーナリスト。チェチェン戦争のルポ『カフカスの小さな国』で第3回小学館ノンフィクション賞優秀賞、『ジャーナリストの誕生』で第9回週刊金曜日ルポルタージュ大賞受賞。最近は労働問題、国賠訴訟、新党結成の動きなどを取材している。『秘密保護法 社会はどう変わるのか』(共著、集英社新書)、『ブラック大学早稲田』(同時代社)、『トヨタの闇』(共著、ちくま文庫)、写真集『チェチェン 屈せざる人々』(岩波書店)、『不当逮捕─築地警察交通取締りの罠」(同時代社)ほか。林克明twitter

月刊『紙の爆弾』2020年11月号【特集】安倍政治という「負の遺産」他
〈原発なき社会〉を求めて『NO NUKES voice』Vol.25

渾身の一冊! 『一九七〇年 端境期の時代』(紙の爆弾12月号増刊)、本日11月2日発売! 鹿砦社代表 松岡利康

現代史の端境期〈1970年〉とはどのような時代だったのでしょうか。個人的には、この年、私は大学に入学し、九州・熊本から京都に出て来ました。大学に入る、まさにその直前、大阪万博が開幕し、「よど号」ハイジャック事件が起こりました。70年安保の年ですが、前年の安保決戦で新左翼勢力は敗北し、全般的に「カンパニア闘争」に終始したといわれます(が、それでもかなりの数の学生や反戦労働者が逮捕されました。今だったら「武装闘争」の部類でしょう)。

大阪万博
「よど号」ハイジャック事件

また、同時に、水俣病闘争や反公害闘争が、それまでになく盛り上がってきた年でもありました。

いわゆる「内ゲバ」も、中核派が革マル派学生を殺し、革マル側も報復し、以後、血で血を洗う中核vs革マル戦争が始まった年です。

そうして、11月25日、作家・三島由紀夫が市谷・防衛庁に立てこもり決起し自決します。

6・23安保自動延長に抗議するデモ
三島由紀夫蹶起

私は私で、これまで見たことのない人たちと出会い、カルチャーショックを受けました。京都の大学に入らなければ、また違った人生だったことでしょう。

こうしたこともあり、本誌は、東京で発行される出版物と違い、同志社色の濃いものになっています。私の人脈から同大OB4人(中川、高橋、若林、中島)に寄稿いただきましたが、これだけでも東京発のものとは色合いが違っています。

昨年、『一九六九年 混沌と狂騒の時代』を出し、『一九七〇年~』は、この流れにありますが、『一九六九年~』よりも40数ページ増えていて、想像以上に苦戦しました。

私自身の体験や見知ったことを基に企画を立案しましたが、1970年の雰囲気を醸し出していると自負します。一人でも多くの方にお読みいただきたい、渾身の一冊です。発行部数も9700部と、この種の出版物としては多い部数です。今すぐ書店に走ってください!

渾身の一冊!『一九七〇年 端境期の時代』(紙の爆弾12月号増刊)、本日11月2日発売!

GPIF巨額損失で始まる年金崩壊 アベノミクスの亡霊が国民に生活苦をもたらす

◆年金崩壊のきざし

朝日新聞の調べによると、日銀とGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の東証1部企業における持ち株が、同上場企業の8割(1830社)におよんでいることがわかった。※調査には東京商工リサーチとニッセイ基礎研究所が協力。

まずはGPIFについて、その危機的な状況を説明しておこう。

ご存じのとおり、公務員の共済年金を除くサラリーマン、個人事業主などの公的年金を管理運用するのがGPIFである。年金で株を買うという、それ自体の問題点はかねてより指摘されてきた。国民が将来のためにサラリーや日々の貯えから支払った年金が、ある意味では「賭博」ともいえる株式市場に運用されているのだ。

その規模は2019年6月末時点で「161.7兆円」にも上り、安倍総理(当時)が「世界最大の機関投資家」と豪語していたものだ。それがコロナ禍の中で、20兆円も損失しているというのだ(3月段階)。

◆3月期までに、20兆円の運用損

GPIFが運用する資産は35兆3082億円(2020年3月末時点)で、東証では12%である。日本全体では、株式時価総額548兆円(同)に対して6.4%を占めている。上場企業の株式を直接保有する株主としては、安倍の言うとおり日本市場の最大株主である。

この「世界最大の機関投資家」としての公的年金資金運用は、2018年度に2兆3795億円の収益を上げ、市場運用を始めた2001年度からの収益累計が65.8兆円に達したと報じられた(※損失を含まない)。もちろん、常に収益を上げてきたわけではない。

2015年度には第2四半期(2015年7月~9月期)に7兆8899億円、第4四半期(2016年1月~3月期)に4兆7990億円の損失を計上し、年度を通して5兆3098億円の損失を計上しているのだ。

さらに、2016年度の第1四半期(2016年4月~6月期)には5兆2342億円、2017年度の第4四半期(2017年1月~3月期)には5兆5408億円の損失に見舞われた。2018年度の第3四半期(2018年9月~12月期)には、アメリカ中心とした世界的な株安に円高が加わったこともあり、14兆8038億円という大きな損失を余儀なくされている。

そして2019年度の第4四半期(20年1~3月期)の運用損失は、コロナ禍をモロに受けて、17兆7072億円となってしまった。収益率がマイナス10.71%と急激に悪化し、保有資産残高(われわれの年金)は19年12月末に170兆円あったものが、150兆6332億円にまで縮小したのだ。じつに20兆円もの損失である。識者は年金で博打(株式投機)など、とんでもないと言っていたはずだ。

全日空が大幅な減便を余儀なくされ(ボーナス支給なし)、三菱重工の国産初のジェット旅客機・スペースジェット(旧MRJ)が日の目を見ないまま、ついに事業そのものを事実上凍結。トヨタをはじめとする自動車産業の多くが、これから倒産の危機を迎えるかもしれない(関係者)。上場企業が倒産すれば、運用資金30兆円が紙屑になる可能性もあるのだ。GPIFはいますぐにも、株式市場から撤退するべきではないか。と、われわれは考えたくなる。だがそれがまた、金融恐慌への序曲になるのは、歴史が教えるところだ(29年恐慌)。


◎[参考動画]2019年度運用状況(GPIF channel 2020/07/03)

◆目前にある金融恐慌

株価の暴落は、まず企業の資金調達力を減少させる。企業がやむなく生産停止に追い込まれると、つぎに信用不安が発生して貸付停止。紙幣の供給が止まり、金融機関が機能不全にいたる。そして取り付け騒動。これが金融恐慌である。

現在の日本はコロナ禍で消費が逓減し、外食や観光、小売りなど消費部門に資金が回らなくなっている。これに直撃されているのが航空業界、自動車産業などの基幹産業である。大手の倒産は中小企業の連鎖倒産をまねき、街には失業者があふれる。
これはアメリカで現実に起きていることだ(10万以上の中小企業が倒産)。連邦政府の公式発表は9月段階で失業率7.9%だが、フルタイムの失業率では、女性は30.8%、男性は22.3%(元財務省勤務のGene Ludwig氏の算出)だという。

日本も政府発表は7月が2.9%、8月は3.0%だが、休業者(雇用されているが、自宅待機などの実質失業)を入れると、6.2%だという(野口悠紀雄、9月13日、東洋経済ウェブ)。だからこそ、公的資金での株運用をやめられないのだ。

かりにGPIFが東証から撤退した場合、12%もの株価減(23500円×0.12=2820円の下落)がもたらされ、株式市場がイッキに暴落するのは必至だ。したがって株式投機による損失過剰という冒険を犯しながら、年金の破綻まで進まざるを得ないのだ。処方箋があるとすれば、日銀がかぎりなく買い支えるしかない。


◎[参考動画]2020年度第1四半期の運用状況(速報)(GPIF channel 2020/08/06)

◆買いオペの限界も

いっぽう、日銀の株式保有額は31兆円である。本通信でも幾度か、MMT論としてリフレの有効性を解説してきた。リフレはアベノミクスの専売特許ではなく、デフレ下の経済政策としては消費の活性化につながる。そのはずだった。

買いオペによる景気浮揚理論は、簡単にいえば下記のとおりだ。
1 日銀が市場で株を買う。
2 市場に資金が調達され、金融機関の金利が低下する。※別途に、マイナス金利の金融緩和。
3 金利低下で融資が容易になり、生産設備や住宅などに投資が向かう。
4 生産の増加、企業収益の改善で雇用が好転する。
5 消費が増えて景気が浮揚する。

この4と5が、安倍がさかんに言っていた、上から下への利潤還元である。大企業の競争力が利潤を生み、その利益は国民全体に還元される。ところが、名目上の株価上昇と円安によって、企業は国際競争で利潤を得たものの、それを国民(従業員・下請け)に還元することはなかった。企業は利潤を内部に貯め込んだのである。

日本銀行調査統計局「参考図表:2020年第2四半期の資金循環(速報)」(2020年9月18日)より

◆内部留保は資本の原理である

昨年末段階で、企業の内部留保(利益剰余金)は470兆円、現預金で230兆円だという、いわば内部のカネ余りにもかかわらず、臆病な経営者たちはそれを従業員賃金、下請け企業への支払いに向けなかったのである。ために政権が財界にたいして、賃上げを求めるという事態も生起した。だが、それは実現しなかった。

これこそが、ピケティが説く「不等式「r>g」なのだ。資本収益率(return)は、必ず経済成長率(growth)を上まわる。労働者の賃金が、かりに経済成長率どおりに増加しても、資本蓄積がそれを上回ることで、資本家と労働者の格差、上級国民と一般国民の格差は拡大するのだ。

経済学で言えば、景気循環のなかで下層労働者が生産関係から排除され、あるいは安く雇用される。これはまさに、アベノミクスの労務政策(雇用の自由化)である。上から下への利潤還元もしたがって、不可能な経済原理なのだ。

問題はリフレで得られたカネ余りを、国民に還元する方法だったのである。最低賃金を引き上げる(対価としての法人減税)、企業に利潤を吐き出させる課税。政権が法的に実行できるのはこれだったのだ。

コロナ禍はこれから先、大規模な倒産をもたらすであろう。もはや雇用の問題ではなく、生活と生存の問題である。今からでも遅くはない。企業に内部留保を吐き出させよ。


◎[参考動画]黒田総裁会見、日銀が追加緩和 国債購入の上限撤廃(TBS 2020/04/27)


◎[参考動画]黒田日銀総裁インタビュー(abcxyz2016/07/29)

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)

編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。医科学系の著書・共著に『「買ってはいけない」は買ってはいけない』(夏目書房)『ホントに効くのかアガリスク』(鹿砦社)『走って直すガン』(徳間書店)『新ガン治療のウソと10年寿命を長くする本当の癌治療』(双葉社)『ガンになりにくい食生活』(鹿砦社ライブラリー)など。

月刊『紙の爆弾』2020年11月号【特集】安倍政治という「負の遺産」他
〈原発なき社会〉を求めて『NO NUKES voice』Vol.25

《NO NUKES voice》115カ月目の汚染水はいま…… 「海洋放出断固反対!」 希望の牧場・吉沢さんが怒りの街宣 「内堀知事はなぜ黙っているんだ!」 福島県庁前で「檄」 民の声新聞・鈴木博喜

原発事故後も福島県双葉郡浪江町の「希望の牧場・ふくしま」で牛を飼い続けている吉沢正巳さんが10月26日夕、福島市の福島県庁や福島駅周辺で「海洋放出断固反対!」と怒りの声をあげた。浪江町には請戸漁港があり、吉沢さんは「汚染水を海に流されたら請戸の漁業はおしまいだ」と危機感を募らせる。県庁前では「内堀知事は国の言いなり。なぜ黙っているんだ」と激しい〝檄〟を飛ばしたが、当の内堀知事は相変わらず「国が国が」と主体性を発揮しないまま。のらりくらりと国の決定を待っている。

◆「知事は国の言いなりだ」

「浪江町の希望の牧場の宣伝カーです。浪江町には請戸漁港があります。福島第一原発からわずか6kmの距離です。汚染水を海に流されたら、請戸の漁業はもうおしまいです。海洋放出断固反対!絶対に認めるわけには参りません」

「内堀知事はいったい何をしているのか。何もはっきりした事を言おうとしません。意見表明をしようとしない。なぜ黙っているんだ。そんな事で福島県の漁業の発展を守る事が出来るだろうか。福島県の漁業を守るべき県知事としてのリーダーシップは発揮されないのではないでしょうか」

夕暮れの福島県庁に激しい〝檄〟が響いた。BGMは映画「ゴジラ」のテーマ曲と牛の鳴き声。庁舎を貫くような怒声が轟いた。

「佐藤栄佐久知事はかつて、プルサーマル計画や東電のトラブル隠しの際、しっかりと意見を表明したではありませんか。なぜ内堀知事は模様眺めなのか。なぜ黙っているんだ。そんな事で福島の海の安全を守る事が出来るだろうか。内堀知事は国の言いなり。リーダーシップを全く発揮出来ていない。そんな事で良いのだろうか。浪江町から言います。海洋放出断固反対!」

福島県庁前で内堀知事に「リーダーシップを発揮しろ」と檄を飛ばした吉沢さん

吉沢さんは福島駅東口から西口にも車を走らせ、原発汚染水の海洋放出反対を訴えた。

「国は27日にも汚染水の海洋放出決定を発表しようとしていましたが、福島県民大勢の反対の声に押されて発表出来ませんでした。当然です。汚染水の海洋放出絶対反対!福島の未来、福島の海を皆で守って行きましょう。漁師の皆さんは不安な気持ちでいっぱいです。福島県民は納得などしていません。なのに、国は強引に海に流そうとしております。とんでもない被害、とんでもない迷惑。今こそ力をこめて反対の声を福島から全国に向けて起こして行こうではありませんか」

「請戸の魚がまた、基準値を超える放射能にまみれた状態で売れなくなる。10年におよぶ私たちの苦労、努力はいったい何だったのでしょう。薄めれば良い?ふざけるなですよ。薄めたって様々な放射性物質は残っています。それは魚に影響をおよぼす。食物連鎖の結果、それは私たちの食卓に上がるのです。海洋放出断固反対!」

吉沢さんは福島駅周辺でも「原発汚染水の海洋放出反対」を訴えた

◆「当事者である国や東電が~」

しかし、当の内堀知事は相変わらず「国が国が」と繰り返すばかりだ。

「先週の政府会合において報告された主な意見としては、処理水の安全性に対する懸念や風評の影響、復興の遅れ、遅延、合意プロセスへの懸念が多くを占めていました。この結果は、処理水についての情報が十分伝わっていない事や風評対策が具体的に示されていない事が主な要因であると考えております。国においては、これまで示された様々な意見や分析結果をふまえ、対応方針を慎重に検討していただきたいと考えております」

26日午前の定例会見。テレビユー福島の記者が「このままだと(海洋放出への賛成、反対で)対立や分断が生まれかねない。県として国との間に入って調整していく考えは無いのか。間に入って調整出来るのは県しか無い」と質したが、知事の答えはまさかの「ご意見として受け止めさせていただきます」だった。

「トリチウムを含む処理水の取り扱いについては、福島県内外で開催された『関係者からの意見を伺う場』において風評に対する懸念などの様々な意見が出されているとともに、福島第一原発の地元の立地町からは『保管継続による復興や住民帰還への影響』を危惧する意見が示されています。処理水の取り扱いにあたって最も重要な事は風評であります。国においては様々な意見や県内の実情を十分ふまえた上で、特に本県の農林水産業や観光業に影響を与える事が無いよう、対応方針を慎重に検討していただきたいと考えております」

原発避難者を主体的に救済しようとしないように、汚染水問題でも主体的に動こうとしない内堀知事。会見では、最後まで「国が~」だった。

「原発事故に伴う廃炉・汚染水対策あるいは中間貯蔵施設の問題、仮置き場設置の問題…。全てがひとつの解をシンプルに出す事が出来ない難しい問題だ、という事をこの9年半あまり経験しております。当事者である国と東京電力が責任をもって、この問題にしっかり取り組んでいただきたいと考えております」

当の内堀知事は相変わらず「国が国が」。定例会見でも意見表明していない

◆「国の〝御発信〟見極めたい」

これまで様々な団体が行った申し入れや緊急街宣でも、「知事は今声をあげないで、いつ声をあげるんですか?内堀知事は自信を持って、きちんと国に意見してください」、「内堀知事は福島県民の代表として、政府が処分方針を発表する前に海洋放出に反対だという県民の声を国に届けて欲しい。決まってしまってからでは、海に流されてしまってからでは取り返しがつかないんです」という声があがった。新地町の漁師は「内堀知事が『海洋放出反対』を表明していません。県民を守る立場の知事ですから、『海に流しては駄目だ』とはっきりと言ってもらいたいです」と怒りを口にしている。

これに対し、内堀知事は定例会見で「これまで福島県として国および東京電力に対し、トリチウムに関する正確な情報発信と具体的な風評対策の提示にしっかり取り組むよう求めて来たところであります。特に風評の関係では、本県の農林水産業、観光業に対する影響を与えないよう訴えている。県として今まで無言で、何も言わずに来たという事では全く無い」と反論した。

河北新報記者の質問に対しても「東電の廃炉・汚染水対策に福島県として様々な観点から幾度も幾度も意見を申し上げております。国、東京電力が当事者として、福島県を含め様々な意見を真摯に受け止めて慎重に対応していただきたいと考えております」と答えた。

一方で「汚染水対策の問題は、あしかけ6年ほど議論しております。原発敷地には一定の限界があって、タンクを保管し続ける事が難しい。そういう動機をもってこの議論がスタートしたと考えております」、「今後、政府としてどういった形で方向性を定めるのか。どういった形でそれを訴えていくのか。注視して参ります。今後、国としてどういった御発信をされるのか、その点をしっかりと見極めていきたい」とも語った内堀知事。当事県が陸上保管継続を否定し、国の発信に「御」を付けているようでは、吉沢さんが「リーダーシップを何ら発揮出来ていない」と怒るのも当然だ。

〝檄〟は知事室にも届いただろう。出発前、吉沢さんは「道行く人々から『うるせえぞ』って言われるくらいの音量で訴えないと駄目」と話していたが、歩道からは文句どころか「そーだ!」、「がんばれよ」との声が飛んだ。多くの県民が海洋放出に反対の声をあげている。次は内堀知事が動く番だ。

▼鈴木博喜(すずき ひろき)

神奈川県横須賀市生まれ、48歳。地方紙記者を経て、2011年より「民の声新聞」発行人。高速バスで福島県中通りに通いながら、原発事故に伴う被曝問題を中心に避難者訴訟や避難者支援問題、〝復興五輪〟、台風19号水害などの取材を続けている。記事は http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/ で無料で読めます。氏名などの登録は不要。取材費の応援(カンパ)は大歓迎です。

NO NUKES voice Vol.25
私たちは唯一の脱原発雑誌『NO NUKES voice』を応援しています!

池袋暴走事故 上級国民バッシングで覆い隠された「事件の本当の構図」 片岡 健

昨年4月、東京・池袋で母子2人が死亡、9人が重軽傷を負った車の暴走事故をめぐり、再び「上級国民」バッシングが巻き起こっている。

きっかけは事故直後、車を運転していた旧通産省工業技術院の元院長・飯塚幸三被告(89)が「証拠隠滅や逃亡の恐れがない」として警察に逮捕されなかったことだった。このことを「上級国民」であるための特別扱いだと受け止めた人たちが一斉に非難の声をあげた。

そして10月8日、東京地裁であった初公判。ブレーキペダルと間違えてアクセルペダルを踏み続けた運転ミスがあったとして起訴された飯塚被告だが、次のように「無罪」を主張した。

「アクセルペダルを踏み続けた記憶はない。車に何らかの異常があったのだと思う」

メディアや世間の人々の多くがこれを「罪を免れるための言い逃れ」と受け止め、再び激怒したのだ。

この上級国民バッシングの中、事件の本当の構図が見えづらくなっているように思うので、ここで指摘しておきたい。


◎[参考動画]【池袋暴走事故】飯塚元院長「体力に自信があったが、おごりもあった」書類送検を前に単独取材(TBS「報道特集」2019年11月9日放送)

◆トヨタの前では、元上級国民の老人など吹けば飛ぶような存在に過ぎない

この事件の本当の構図。それを見極めるには、まず飯塚被告が乗っていた車がトヨタのプリウスであることに着目する必要がある。なぜなら、飯塚被告が裁判で「事故の原因は車の異常」だと主張したことは、11人が死傷した事故の「真犯人」がトヨタである可能性を主張したに等しいからである。

言うまでもないことだが、トヨタは日本を代表する大企業であり、財界のみならず、政界やマスコミにも強い影響力を持っている。政権与党である自民党には莫大な企業献金を、マスコミには莫大な広告費をそれぞれ投入しているからだ。

対する飯塚被告。たしかに「上級国民」と形容されるにふさわしい経歴の人物だが、すでに現役を退いており、現在は「かつて上級国民だった老人」に過ぎない。日本の権力構造の最上位に位置するトヨタと利害関係が対立することが明らかになった時点で、飯塚被告が「上級国民」ゆえに特別扱いされることもありえないと明らかになったと言っていい。

◆飯塚被告と利害関係が対立するトヨタは検察ともズブズブという現実

トヨタで社外監査役を務める元検事総長の小津博司氏。飯塚被告と利害関係が対立するトヨタと検察はズブズブだ(トヨタHPより)

トヨタについては、他にも見過ごせないことがある。それは、同社が法務・検察のトップである検事総長の天下りを継続的に受け入れていることだ。

現在、同社の監査役には第27代検事総長の小津博司氏が名を連ねているが、小津氏の就任前は第22代検事総長の松尾邦弘氏が、松尾氏の就任前は第17代検事総長の岡村泰孝氏がそれぞれ同社の社外監査役を務めている。トヨタと検察はまさにズブズブの関係だと言っていい。

こうした事実を踏まえたうえで、改めてこの事件を見つめ直してみよう。そうすれば、「真犯人」はトヨタである可能性を指摘し、無罪を主張している元上級国民の老人が「トヨタとズブズブの関係にある検察」に刑事訴追され、法廷外でも「トヨタから莫大な広告費を投入されたマスコミ」に激しくバッシングされていることがわかる。つまり、微力な老人がトヨタ、検察、マスコミという絶対的強者たちと対峙し、孤立無援に近い状態で闘っているというのがこの事件の本当の構図なのである。


◎[参考動画]検察改革に意欲 新しく就任の東京高検検事長(2011/08/12)

◆アメリカから届いたトヨタに関する驚愕の情報

もっとも、このような話をしても、飯塚被告の無罪主張を「罪を免れるための嘘」と決めつけている人には、今一つピンとこないだろう。そういう人に紹介したいのが、交通事故に詳しいジャーナリストの柳原三佳氏が10月21日、ヤフーニュースで発表した以下の記事である。

アメリカで起きたレクサス暴走死亡事故 緊迫の通話記録と「制御不能」の恐怖

この記事によると、かつてアメリカで自動車が速度制御不能になる事故が相次いだことがあり、とくに1999年から2010年にかけては、トヨタ車だけでそういう事例が実に815もあったという。

絶対に不具合を起こさない乗り物など、そもそもこの世に存在しない。トヨタがどれほど立派な企業であろうが、製造する車に絶対に間違いがないかというと、そんなわけはないのである。

もちろん、飯塚被告の無罪主張を無条件に信じるわけにもいかない。しかし、事故が車の異常である可能性を指摘する飯塚被告の主張は特別奇異なものではないことは確かだ。頭から嘘と決めつけず、その主張に耳を傾け、慎重に真偽を見極める必要があるだろう。そうしないと、かえって事故の「真犯人」が罪を免れ、被害者やご遺族が報われないことになる可能性も否めない。

▼片岡健(かたおか けん)
全国各地で新旧様々な事件を取材している。創業した一人出版社リミアンドテッドから新刊『もう一つの重罪 桶川ストーカー殺人事件「実行犯」告白手記』(著者・久保田祥史)を発行。

月刊『紙の爆弾』2020年11月号【特集】安倍政治という「負の遺産」他
「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

とんでもないことをするかも内閣 菅政権の発想が浅薄すぎる件について

◆個別政策に具体性がなさすぎる

個別の政策で、国民の目に見えるかたちで改革を進める。というのが菅政権の特質であるかもしれない。しかし細かい個別政策でありながら、大雑把な印象をまぬがれない。

たとえば、菅政権が声高に打ち出している携帯料金の値下げだが、具体性がよくわからないのだ。どのような使用条件で、どこまで安くなれば良いのか。これ自体、野党時代からの献策にもかかわらず、「必需品となっているのだから、安くせよ」という具合で、内容がよくわからないのである。

通信システムに詳しい「bit Wave」によれば、ガラケー(携帯電話)の最低料金は1126円、スマホは3313円だという(いずれも月額)。大手3社の料金プランからの算出だというから、格安スマホではない。じつは格安メーカーでは税抜きで月額1000円を謳うところは少なくない。

ぎゃくに月額料金が5000円を超えるのは、いわゆるギガホと呼ばれるデータ量の多いスマホで、ゲームでの使用や動画視聴を前提にしている。じっさい、筆者のスマホは大手だが、G4で月額2000円強(5分以内カケホ)である。大手もじっさいは、かなり格安に近づいているのだ。おそらく菅総理は、現状を知らないのであろう。
上記のとおり電気やガスとちがい、使用条件や内容がまるで違うものに大雑把な網を掛けることで、かえって混乱を招くのではないか。ガラケーの最低標準料金を指し示すとか、乗り換えの自由化(2年継続契約の破棄)など、現実に進んでいることも視野に入れながら、この案件は担当政務官を置くとかの策がもとめられる。具体性を欠いた菅の思い付き政策が実るのかどうか、楽天モバイルが参画する2年後(1年間のサービス低価格は無視)の結果を興味を持って待ちたいものだ。

ところで、気になるのは菅総理の取り巻き。ブレーンである。

加藤勝信官房長官を議長に、西村康稔経済財政・再生相、梶山弘志経済産業相が副議長を務めるという。参加者は金丸恭文(フューチャー会長)、国部毅(三井住友フィナンシャルグループ会長)、桜田謙悟(SOMPOホールディングス社長)、竹中平蔵(人材派遣会社パソナグループ会長)、南場智子(ディー・エヌ・エー会長)、三浦瑠麗(山猫総合研究所代表)、三村明夫(日本商工会議所会頭)だ。


◎[参考動画]成長戦略の“具体策検討会議”スタート(ANN 2020年10月16日)

◆竹中提言の縮小経済論

かりに菅総理に秀でた政治哲学があるとすれば、数十年単位のヴィジョンや国家モデルではなく、その実行力なのであろう。反対や異見があっても、粛々と進めるのが官房長官時代からのスタイルである。手続きさえ踏めば、それはそれでもいいかもしれないが、問題は中身なのである。

すでに上記の通り、成長戦略会議で菅のブレーンが明らかになっている。そのうち、竹中平蔵の存在がクローズアップされているのが気になる。そして、さっそくとんでもない発言が飛び出した。社会保障を廃止し、ベーシックインカムを導入するというものだ。

コロナ禍はこれから先、来年の決算期を待たずに、大規模な倒産をもたらすであろう。もはや雇用の問題ではなく、国民と生活と生存の問題である。この機に、労働市場自由化の仕掛け人でもある竹中平蔵が「ベーシック・インカム」を唱えはじめたのは、偶然ではない。

竹中の提言は「国民全員に毎月7万円を給付するなら、高齢者への年金や生活保護者への費用をなくすことができる。それによって浮いた予算をこちらに回すので、財政負担はそれほど増えることにはならない」というものだ。年金崩壊どころか、廃止してしまえというのだ。

これに対して、宇都宮健児がツイッターで、「7万円では家賃を払って生活ができるはずがない」「お金を支給するので教育や医療などの福祉サービスはお金で買えというベイシックインカム案では教育や医療が商売になる危険性がある」「まず教育や医療などの福祉サービスをしっかりと低価格または無償で提供する社会をつくるのが先だ」と投稿した。正論である。


◎[参考動画]竹中平蔵氏 【後編】アフター・コロナに勝ち残るために Part3. 2020年9月17日(木)放送分 日経CNBC「GINZA CROSSING Talk」(ソニー銀行2020/10/05)

◆社会保障費・生活保護こそがベーシック・インカムである

ベーシック・インカム論の基礎には、ケインズ派(ウィリアム・ベヴァリッジ)の「ゆりかごから墓場まで」を目標としたイギリスの社会保障や雇用施策に対して、新自由主義派の「小さな政府」論がある。

前者は社会保障を前提に、補足的な公序モデルであり、マクロ的には有効需要創出の公共投資(ニューディール)である。後者である竹中提言は、社会福祉の切り捨て(それにともなう行政コストの削減)を財源に、いわば緊縮財政で構造不況を乗り切ろうというものだ。そこには個別の事情、妊娠休業や子育て、病傷などの多面的な社会保障を切り捨て、カネ(7万円)を渡すから自助努力をしろという新自由主義の発想が見え見えである。竹中が切り捨てようという社会保障費・生活保護こそが、じつは現代のベーシック・インカムの実体なのである。

コロナ禍が示すように、経済というものがおカネの動き、経済の血流としての消費をまったく理解できないがゆえの、竹中流緊縮論なのである。大企業の内部留保の解消、格差の是正(最低賃金の底上げ)こそが、消費の回復につながるのだと、あらためて指摘しておこう。

◆中小企業の「淘汰」をいとわない最賃論

もうひとり、菅総理のブレーンとして成長戦略会議に名を連ねるのが、デービッド・アトキンソン(経済政策アナリスト・小西美術工藝社社長)である。アトキンソンの主張は、最低賃金制の底上げが基調となっている。が、最賃制に対応できない中小企業の経営者は、潰れて退場するのもやむなし、というものなのだ。

言うまでもなく、最低賃金制の底上げ(たとえば山本太郎は時給1500円、年収で300万円弱を主張)は、達成企業に減税措置をはかることで、企業経営の健全化と購買力(消費)の活性化を目標にしたものである。しかるにアトキンソンは、最低賃金制の底上げに対応できない中小企業を淘汰し、その結果は労働者が路頭に迷うこともいとわないのだ。淘汰とは起業による市場原理である。いまこの日本に、企業の展望が微塵ほどもあるというのだろうか?

このような人物の影響が「自助・共助・公助」なる、菅政権のスローガンなのだ。一見すると正論に聞こえる菅総理の言外に「(わたしのように)努力しない者は救われない」という新自由主義の発想があることを指摘しておこう。


◎[参考動画]【ダイジェスト】デービッド・アトキンソン氏:日本人が知らない日本の「スゴさ」と「ダメさ」マル激トーク・オン・ディマンド 第934回(2019年3月2日)

◆正月明けは11日? 誰が10兆円を決めたのか?

菅ブレーンの危険性とともに、とんでもない思い付きとは、このことであろう。
西村康稔経済再生相が語ったという「「(1月)11日の月曜日が休みでありますので、そこまでの連続休暇とかですね、あるいは休暇を少し分散をしていただくとか。もちろんテレワークも、それぞれの企業でも積極的にやられていると思いますけれども、是非そうした休暇が集中しないような取り組みも是非ご検討いただければ」を冗談交じりに聞いていたところ、本気だというのだ。経済3団体にもこれを要請するという。コロナ対策という意味なのだろうが、経済に与える影響は少なくない。


◎[参考動画]年末年始の長期休暇を 西村再生相が新経連と会談(KyodoNews 2020年10月21日)

たとえば、これで少なくとも1月の上旬に刊行される雑誌は、年内の刷了・取次搬入が要求されることになる。いや、取次が上記の要請に応じてしまえば、発行日を遅延させるしかないのだ。他の業界もおおむね、とんでも発想と考えることだろう。政府は少しでも経済の停滞を考慮したのだろうか。

そのいっぽうで、コロナ対策をふくむ臨時予算に、10兆円が計上されたという。国会を開かないまま、政権が勝手に決めたのである。ここにも法律を理解しない菅総理の「とんでもなさ」が明らかだ。国会という国民の代表から、あたかも全権委任されたかのように勝手に予算を組んでしまう暴挙である。すべて政治家の行動は法律の裏付けが必要であることを、この男は知らないのである。

すでに学術会議の会員任命拒否において、菅が法律を理解していないのは明白になった。このさき、とんでもない発想から非常識なことを実行しかねない政権であることが、徐々に明らかになってきた。そして怖ろしいのは異論を排除する、蛇の執念のような実行力を持っていることだ。

菅の蛇のように冷酷な眼を見ていると、内容はともかく「失敗しても、まだ次のチャンスがある日本にしたいんです」「事実、わたくしは失敗したんです」と、明るく力説していた安倍晋三が懐かしくなってくるというものだ。


◎[参考動画]菅総理 初の所信表明演説(ANNnewsCH 2020年10月26日)

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)

編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。医科学系の著書・共著に『「買ってはいけない」は買ってはいけない』(夏目書房)『ホントに効くのかアガリスク』(鹿砦社)『走って直すガン』(徳間書店)『新ガン治療のウソと10年寿命を長くする本当の癌治療』(双葉社)『ガンになりにくい食生活』(鹿砦社ライブラリー)など。

月刊『紙の爆弾』2020年11月号【特集】安倍政治という「負の遺産」他
〈原発なき社会〉を求めて『NO NUKES voice』Vol.25

《NO NUKES voice》ふるさとを返せ 津島原発訴訟「これは私たちが津島で生きた証です」”最後の映像”にこめられた住民たちの想い 民の声新聞・鈴木博喜

原発事故による高濃度汚染で帰還困難区域に指定された福島県双葉郡浪江町の津島地区。慰謝料支払いと原状回復を求めて国や東電と係争中の住民たち「ふるさと津島を映像に残す会」(以下、残す会)を中心につくったDVD「ふるさと津島 消えゆくふるさと 最後の7つの物語」の第1回自主上映会が10月18日、福島市内で行われた(「ふくしま市女性団体連絡協議会」主催)。11月には茨城県牛久市でも上映される予定だが、津島の住民たちはどんな想いで荒廃と家屋解体で壊れゆくふるさとを映像に残そうとしたのか。何を後世に伝えたいのか。DVDで語られた言葉のごく一部を紹介しながら、住民たちの想いに迫りたい。

福島市内で開かれたDVD「ふるさと津島」の第1回自主上映会

「あゝ津島……ふるさとを思い出すだけで、気づけば数時間過ぎているない」

窪田たい子さんの〝津島弁〟でのナレーションが、観る者を一気に自然豊かな津島地区へと導く。だがしかし、これは単に郷愁を誘うだけの映像では無い。9年半前の原発事故で住み慣れたふるさと、愛するふるさとを奪われ追われた人々の「証言集」なのだ。福島県が53億円もの国費で双葉町に建設した「伝承館」では触れられていない、ふるさと津島への想いと無念さが凝縮されている。

「私たちのふるさと津島はいま、山に飲み込まれようとしています。除染が始まり、家屋の解体も始まりました。なつかしい風景が失われてしまう前に、生きた証が消えてしまう前に、ふるさと最後の姿をここに残しておきたいと思います。これは、福島第一原発の事故で放射能に汚染され、帰る事の出来ないふるさと津島の物語です。どうぞ、おらたちの話を聴いてくれっかい?」

三瓶春江さんは「わが家は父と母の生きた爪痕だと思う」と表現した。

「原発事故によって放置され、朽ちていく。そんな姿であったとしても、自宅は壊したくない。でも、住めるわけでも無い。どれだけの想いで解体するのかという事を皆さんに知って欲しいのです。解体する前になぜ、DVDに残そうと考えたか。津島は私たちが生きてきた『歴史』なんです。解体してしまった後で『ここは津島だったんですよ』、『ここに家があったんですよ』と言ったとしても、誰も信用しません。建物があるからこそ、ここに家があって生活していたと伝えられる事だと私は思います。だから、解体する前に想いを、津島があったんだという歴史を刻む事が一番大事だと考えているんです。本当であれば原発事故前のきれいな状況で撮っていただいた後に、現状を撮ってもらえば一番良かったんだけど、まさか原発事故でこんな事になるとは思っていなかった……」

「私たちは国や東電に何一つ悪い事をしたわけではありません。自然の力(地震や津波)によって原発が破壊されたという事だけでは原発事故は語れません。私たちが住んでいたふるさとを一日も早く返していただきたいと希望しております」

会場を訪れた三瓶春江さんは「原発事故を自分の事として考え、危機感を持って欲しい」と訴えた

「残す会」会長の佐々木茂さんは、 「ふるさとを返せ 津島原発訴訟」口頭弁論期日のたびに郡山駅前でマイクを握り、道行く人々に原発事故被害の大きさや裁判への理解を訴えてきた。「ふるさとを一日も早く返していただきたい」という切なる願いは、訴訟で「原状回復請求」という形で盛り込まれている。
石井ひろみさんは、横浜から津島に嫁いで来た。

「ここがふるさとになるんだ、ふるさとにしなきゃと思って生活していましたけど、やっぱりここが私のふるさとなんだと一番実感したのが、原発事故後の避難先に自衛隊音楽隊が慰問に来た時ですね。演奏会の最後に皆で『ふるさと』を歌いましょうとなったんですが、一小節目を歌ったら泣けて泣けて、それ以上歌えなくなってしまって…。津島が私にとってそれほどの存在になっていたんだなとつくづく実感しました」

「残念ですね本当に。何でこうなっちゃったのかね……。私はあきらめる事は出来ないですね。無かった事には出来ない。自分で取り戻せるんだったら明日にでも取り戻したいですけど、自分の手の届かない所に行ってしまった気がします」

原告団事務局長を務める武藤晴男さんは、傷みの激しい自宅で涙を拭った。「ふるさと喪失」などという言葉では表せない現実がある。ふるさとも平穏な日常も全てを奪い尽くした原発事故。しかも一方的に、突然に。挙げ句、法廷で「既に相応の賠償金を支払っただろう」、「新たな住まいを確保出来たのだから大人しくしろ」とでも言わんばかりに主張する国や東電の態度にも納得出来るはずが無い。

原告団長の今野秀則さんは、津島地区で「松本屋旅館」を経営していた。「私で4代目だから大切にしたいんだけど、果たして地域として再生出来るかどうか……」と不安を口にしている。

「空間と時間と人との関係。私はそういうものを大事にして、ここで生涯を閉じるというか未来につなげていくという気持ちでいたんですけど、それが突然、原発事故で遮られた。その悔しさがありますね。悔しさも何も、それが本来の自分の姿であるはずなのに……」

訴訟の原告団長を務める今野秀則さんも、涙ながらに悔しさを語っている

DVDは、窪田さんのこんな言葉で幕を閉じる。

「1日も早く家に帰りたい。自分が骨になる前に帰りたい。しかし、その願いは叶いそうにもねえなあ。津島はやがて、地図から消えてしまうのかなあ。ここが私たちのふるさと津島。100年後の子孫へ。この物語を贈ります。またな。さようなら」

DVD「ふるさと津島」は税込1000円で購入出来る

ハンカチで涙を拭いながら観た人もいた。しかし、津島の人々を〝他人事〟にしてはいけない。〝かわいそうな人たち〟と遠くで憐れんでいるだけではいけない。津島の人々が求めているのは同情では無い。だから、上映会場を訪れた三瓶春江さんは「自分の事として考えて欲しい」と力をこめて挨拶した。

「原発事故で私たちが避難を強いられた実情が全然報道されていません。『原発事故はもう終わった』とでも言うような状況です。でも、あの時もしも状況が違っていたら、中通りが私たちのようになっていたかもしれません。今、政府は原発再稼働を進めていますが、いつかはこういう事になり得るという危機感を皆さんに持っていただきたいのです。私たちの現状を観ていただく事が、世界に広めていただく事が被害者としての私たちの責務だと考えています。ぜひ多くの人に広めてください」

DVD「ふるさと津島 消えゆくふるさと 最後の7つの物語」はクラウドファンディングなどで寄せられた資金でつくった。税込1000円。自主上映会の基本料金は1日税込3万円。購入、自主上映いずれも「残す会」のホームページ(https://www.furusato-tsushima.com/)から申し込める。

▼鈴木博喜(すずき ひろき)

神奈川県横須賀市生まれ、48歳。地方紙記者を経て、2011年より「民の声新聞」発行人。高速バスで福島県中通りに通いながら、原発事故に伴う被曝問題を中心に避難者訴訟や避難者支援問題、〝復興五輪〟、台風19号水害などの取材を続けている。記事は http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/ で無料で読めます。氏名などの登録は不要。取材費の応援(カンパ)は大歓迎です。

月刊『紙の爆弾』2020年11月号【特集】安倍政治という「負の遺産」他
NO NUKES voice Vol.25
私たちは唯一の脱原発雑誌『NO NUKES voice』を応援しています!

政権と癒着深めるマスメディアを徹底検証! 10月31日に田島泰彦氏講演会「パンケーキとジャーナリズム~総理代替り期にみる報道の現状~」を開催 林 克明

◆安倍から菅へと続くマスコミの迷走

安倍から菅へ……。総理代替わりを経たここ数か月のメディアを見ると、テレビと新聞(特にテレビ)を見ないようにすることが、日本をまともにし安心して暮らせる社会になる最短距離だと思わざるを得ない状況だ。

あの手この手でテレビや新聞に圧力をかけて政府と与党に気に入られる報道を仕向けてきたのが、足掛け8年にわたる安倍政権だった。メディアへの介入は安倍晋三という国会議員の得意技ともいえる。

その政権を継承する菅義偉政権下で、メディアと権力支配層との癒着がますます露骨になってきた。その異常さに気づかないかマヒしている人がいることが、危険だ。

高い支持率を維持してきた安倍政権も、末期とくにコロナ禍が深刻するなかでに支持率は低迷していた。また森友事件、加計事件、文書改ざん、河合克行前法相の公選法違反事件など、問題は山積みで先行き不当名な状況であった。

そのときテレビが傾注していたのは、吉村洋文・大阪府知事を持ち上げること。連日、異様なほど府知事を持ち上げていた。

その様子をみれば、安倍政権終焉を見て取った支配層が、次の支柱の一つとして日本維新の会の勢力拡大を推進しようとしていることが分かる。そうすれば、憲法問題で文句を言う公明党を排除して維新の会にとって替えることもでるだろう。

ところが、7月の東京都知事選挙で、日本維新の会推薦の小野泰輔候補が、小池百合子、宇都宮健児、山本太郎につぐ4位と振るわず、勢力拡大に一時的にブレーキがかかった。

8月末に安倍前首相が退陣を表明すると、「よくやった」「ごくろうさま」「お疲れ様でした」という無批判の気持ち悪い街頭インタビューをテレビ各局は放映する始末だった。安倍政治に対する厳しい評価と分析などは皆無に近かった。

◆“パンケーキ”に見る政権との癒着ぶり

そして自民党総裁選がはじまれば、明らかに菅氏に有利な投票システムにしようとしているのを、ただ漫然として伝えるだけ。おまけに、ほかの2人の候補についてはおざなりで、菅氏についての報道が圧倒的な比率を占めていたのは記憶に新しい。

そして菅政権誕生となると、維新の会の法律顧問、橋下徹氏をテレビは積極的に出演させいる。春から初夏にかけて吉村洋文大阪府知事をヨイショする姿勢から一貫していると言えよう。

一方、菅総理はパンケーキで有名な渋谷の店で「パンケーキ朝食懇談会」を催し、16社の記者たちが出席したという。(朝日新聞・東京新聞・京都新聞 の記者は欠席)

メディアの幹部が安倍首相とたびたび会食を共にしていたのと変わらない。それどころか、安倍政権時代以上に政権へすり寄る姿勢が目立っているのではないだろうか。

◆政権とマスコミによる日本破壊活動が進行

菅政権の体質を見事に表したのが、日本学術会議への人事介入だ。説明不足だろうが説明しようが、政権に批判的な学者を日本学術会議から排除するのが目的であるのは間違いない。

そして9月16日に菅政権が発足してから一か月経過したときの報道に驚いた。10月16日のNHKは「菅政権発足1か月の評価」を放映。夜9時からの「ニュースウォッチ9」では、官邸記者が菅政権を礼賛してなんの批判的分析もなし。最後に形だけ野党が批判していると一言あっただけ。

10月17日のNHK「ニュース7」は、中曽根康弘元首相の葬儀を政府と自民党共催で実施した話。9600万円の税金を使った件や、全国国立大学に弔意を求めるなど問題が多いのに、ただ政府と自民党の宣伝を放映しただけだった。

そして10月19日朝テレ朝「羽鳥慎一モーニングショー」。政治ジャーナリストの田崎史郎氏が出演し菅政権の1か月を論評。相変わらず政府与党のヨイショだった。

日本学術会議の新会員任命拒否や中曽根元首相の合同葬で大学に弔意表明を求める二つの事件は、思想統制し政権批判者を排除する政権の体質が現れている。

それを批判するどころか、右から左に横流しに宣伝しているマスコミ。そして、政権擁護するテレビのタレント文化人たち。まさに政権・マスコミ・応援団による日本社会破壊活動ではないのか。

「どうせマスコミでしょ」と投げやりになっても、異常事態に「マヒ」してもいけない。まだそのおかしさに気づかない人もいるので、騙されないで自分の身を守るためにも、いまメディアがどうなっているか知る必要があるだろう。

─────────────────────────────────────────────────────────

総理代替わりの時期に何が起きているのかをしっかり把握し、今後の道を探りたいと、筆者は憲法とメディア法が専門の田島泰彦氏(早稲田大学大学院非常勤講師・元上智大学新聞学科教授)に講演をお願いした。

10月31日(土)第131回草の実アカデミー

田島泰彦氏(早稲田大学非常勤講師・元上智大学教授)

テーマ 「パンケーキとジャーナリズム~総理代替り期にみる報道の現状~」
講師 田島泰彦氏(早稲田大学非常勤講師・元上智大学教授)

日時:10月31日(土)13:30 時開場、14時00分開始、16:40終了
場所:雑司ヶ谷地域文化創造館 第4会議室

交通:JR目白駅徒歩10分、東京メトロ副都心線「雑司ヶ谷駅」2番出口直結
資料代: 500円

★★★【申し込み方法】25人限定★★★
フルネームと「10月31日参加」と書いて下記のメールアドレスに送信してください。
kusanomi@notnet.jp

【参加にあたってのお願い】
◎受付で氏名と連絡先を確認してください。
◎会場入りするときは手洗いをお願いします。(消毒ジェルも用意します)
◎参加者はマスク使用をお願いします。


─────────────────────────────────────────────────────────


◎[参考動画]テレビによる日本破壊活動? 最近のメディアと政権の癒着ぶり(講演案内)

▼林 克明(はやし・まさあき)
 
ジャーナリスト。チェチェン戦争のルポ『カフカスの小さな国』で第3回小学館ノンフィクション賞優秀賞、『ジャーナリストの誕生』で第9回週刊金曜日ルポルタージュ大賞受賞。最近は労働問題、国賠訴訟、新党結成の動きなどを取材している。『秘密保護法 社会はどう変わるのか』(共著、集英社新書)、『ブラック大学早稲田』(同時代社)、『トヨタの闇』(共著、ちくま文庫)、写真集『チェチェン 屈せざる人々』(岩波書店)、『不当逮捕─築地警察交通取締りの罠」(同時代社)ほか。林克明twitter

月刊『紙の爆弾』2020年11月号【特集】安倍政治という「負の遺産」他
〈原発なき社会〉を求めて『NO NUKES voice』Vol.25