菅野みずえさんが語る映画「ふるさと津島」〈3〉避難と被曝は生活の傍にある

8月9日、大国町「ピースクラブ」で、ドキュメンタリー映画「ふるさと津島」の上映会と浪江町津島から兵庫に移住した菅野みずえさんのお話会を行った。以下、菅野さんのお話を全3回の短期連載で紹介する。今回が最終回。(取材・構成=尾崎美代子)

お話をする菅野みずえさん。テーブルの花束は、三木の自宅の畑から菅野さんが摘んできた。右側は本稿筆者の尾崎美代子さん

◆そんなものを日本中にばらまいていいわけがない

最初、映画「ふるさと 津島」を見て、皆さんが違和感持たなかったこと、これだけ原発に反対する皆さんが集まってもなお、気づかなかったというところに、私は原発事故の酷さと惨さを思います。

コロナウイルスにマスクするなら、同じ様に被ばくした土地に行ってもマスクしないといけないんです。触ってはいけないから手袋をする、そしてそれを捨ててくるんです。中で使ったものを持って帰ってはいけないことになっている。それほど汚染された場所だと、国が暗に認めているところで、防護しないということは何なんだと、私は思います。

最近飯舘村が「事故から10年経ったんだから、帰りたい人は、除染せずに帰ってもいいんじゃないか」などと言い始め、飯舘村が言っているということで、国まで除染しないと言い出しています。とんでもないことです。「ばらまいたものは仕方ないから、諦めてよ」というのはないと思うし、みんなで痛み分けしようと、8000ベクレル以下の土を持ってきて、高速道路の基礎に埋めようなんて話はとんでもないことです。いつ地震でひっくり返り、隆起して出てくるかもしれない。そんなものを日本中にばらまいていいわけがないと思っています。

自分の故郷が二度と帰れないところになるという理不尽さは、皆、一人一人持っています。原発は東にあり、津島では「東夕立」は来ることはなかった。だから8割の放射性物質は海へ落ちて、残りの2割が地上30メートルで大きな爆発を起こした。広島、長崎の何十倍の爆発です。そうしたらその膨大な熱量が冷たいところに一気に風が流れ込んだ。そこが津島だと思っています。

帰還困難区域特定拠点解除のための除染

そうしますと、皆さん、今、私たちの住んでいる関西の原発は、黄砂が吹いてくる根元にある。黄砂が吹く時期、原発事故が起きていたらどうします? 放射性物質が黄砂にまといついてやってくるのです。各ご家庭のものほしの隅々まで。そこも住めなくなるのではないですか? 8割が関西に流れるのだから。愛媛の伊方原発で台風のとき何かあったらどうなるか? 玄海原発で何かあったらどうする? あれだけ火山活動が活発な火山の近くの川内原発で目詰まりしたらどうするの? でも門司当たりにまだ原発作ろうとかいう。もう狂っているとしか思えません。事故を起こした国が造る原発は安全なんだそうです。私たちは本当にがんばって原発をとめていかないと、この先なんの未来もつくれないと思っています。

今日参加されたみなさんを見ておりますと、毎日時間がおありのような方が多い(笑)。だったら、今日も明日もあさっても、コロナはあっても原発に反対できます。街頭で反対運動などするのが不安だと思う方々は、市役所や府庁へいって、「おかしいんじゃないか? 避難計画はどうなっているの? うちの自治会に避難してくる人は、福井の京都府のどういう人たちなんだ?」ということを知って、そこの自治体の人たちと交流する、そういうことも大事ではないかと思っています。

◆ハローワークで募集されている「きれいな人の役に立つ仕事」

町中を走る除染土を運ぶ車両

私たちの地域では国の「避難計画」で、「この114号線では避難できないから拡幅してくれ」と要求が出ているなかで、原発事故がおきました。そしてあの雪道の中を逃げました。今は、放射性廃棄物を運ぶために道が広くなっています。ものすごく頑丈な道に変わろうとしています。小繋の峠というところがありました。そこを超えるとすごい車酔いするような峠、雪があるときなど福島で一晩泊まってくるというようなところでした。それが今、直線道路になろうとしている。原発があり、事故が起こったから、1日に放射性廃棄物を10トントラック2800台で運んでいます。2800台分のものを大熊町と二葉町で受け入れる能力があるからです。

家の前の、以前はのんびり通っていた道を、突如2800台のすべてではないが、少なくとも1400台のトラックが通る。15分計って58台とか通る。とんでもない汚染物がまだまだあるということです。今は風評被害をなくすためということで、福島市など町中にあった放射性廃棄物を山の中に隠して見えなくしています。そういう仕事をだれがするかというと、ハローワークで関西などにも募集がかかっています。息子が仕事を探しにいったら「きれいな人の役に立つ仕事」とあり、仙台事務所と書いてあったそうです。

浪江町の人口も増えていますが、それは還って来た人より、除染や廃炉作業の人たちです、なぜかというと、原発の仕事は地域優先なので、その自治体周辺に住民票のない人は雇わないことになっているからです。そのため、近隣自治体に簡単な宿舎を造って、そこに住民票を移して仕事をするわけです。浪江町も1000人超しました。役場で「元の住民は何人くらい?」と聞くと200~300人といってました。ほかは除染や原発に従事している人たちです。除染作業の人たちは簡単なマスク1枚です。私たちは除染労働をしてくれる、誰かの被ばくとひきかえに故郷を手に入れようとしている。そのことは本当にありなのかなと、本来は住民自身が考えなければならないことだと思っています。

原発事故は本当にあってはならないものです。原発そのものがあってはならないものと思っています。

上映会とお話会の最後に「山の歌」を歌う「アカリトバリ」。アカリさんは福島県出身。

◆日本中、どこでも明日、避難と被曝は生活の傍にある

原発事故は今は福島の人の事、関東以北の人の事ようにとらえられますが、明日は関西に済む皆さんの事。日本中に原発のあるのですから、何処でも明日避難と被ばくは生活の傍にある秘かな危機のはずです。

そのことに原発を許した世代のわたしたちが、頑張って行かなければならないことだと、思っています。

どうぞご一緒に、出来ることをできる力で頑張って行きましょう。(終わり)


◎[参考動画]福島ミエルカプロジェクト:自宅は帰還困難区域になり、関西へ避難した菅野みずえさん(FoEJapan 2020/03/10)

菅野みずえさんが語る映画「ふるさと津島」〈1〉津島の風土と映画への違和感
菅野みずえさんが語る映画「ふるさと津島」〈2〉私は原発を許した世代です
菅野みずえさんが語る映画「ふるさと津島」〈3〉避難と被曝は生活の傍にある

▼尾崎美代子(おざき みよこ)

新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

『NO NUKES voice』Vol.25

『NO NUKES voice』Vol.25
紙の爆弾2020年10月号増刊
2020年9月11日発行
定価680円(本体618円+税)A5判/132ページ

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総力特集 ニューノーマル 脱原発はどうなるか
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[グラビア]〈コロナと原発〉大阪、福島、鹿児島

[報告]小出裕章さん(元京都大学原子炉実験所助教)
 二つの緊急事態宣言とこの国の政治権力組織

[インタビュー]水戸喜世子さん(「子ども脱被ばく裁判」共同代表)
    コロナ収束まで原発を動かすな!

[座談会]天野恵一さん×鎌田 慧さん×横田朔子さん×吉野信次さん×柳田 真さん
    コロナ時代の大衆運動、反原発運動

[講演]井戸謙一さん(弁護士/「関電の原発マネー不正還流を告発する会」代理人)
    原発を巡るせめぎ合いの現段階

[講演]木原壯林さん(若狭の原発を考える会)
    危険すぎる老朽原発

[報告]尾崎美代子さん(西成「集い処はな」店主)
    反原発自治体議員・市民連盟関西ブロック第四回総会報告

[報告]片岡 健さん(ジャーナリスト)
    金品受領問題が浮き彫りにした関西電力と検察のただならぬ関係

[報告]おしどりマコさん(漫才師/記者)
「当たり前」が手に入らない福島県農民連

[報告]島 明美さん(個人被ばく線量計データ利用の検証と市民環境を考える協議会代表)
    当事者から見る「宮崎・早野論文」撤回の実相

[報告]鈴木博喜さん(ジャーナリスト/『民の声新聞』発行人)
   消える校舎と消せない記憶 浪江町立五校、解体前最後の見学会

[報告]伊達信夫さん(原発事故広域避難者団体役員)
    《徹底検証》「原発事故避難」これまでと現在〈9〉
    「原発事故被害者」とは誰のことか

[報告]山崎久隆さん(たんぽぽ舎共同代表)
    多量の放射性物質を拡散する再処理工場の許可
    それより核のゴミをどうするかの議論を開始せよ

[報告]三上 治さん(「経産省前テントひろば」スタッフ)
    具体的なことと全体的なことの二つを

[報告]板坂 剛さん(作家/舞踊家)
    恐怖と不安は蜜の味

[報告]山田悦子さん(甲山事件冤罪被害者)
    山田悦子の語る世界〈9〉普遍性の刹那──原発問題とコロナ禍の関わり

[読者投稿]大今 歩さん(農業/高校講師) 
    マンハッタン計画と人為的二酸化炭素地球温暖化説

[報告]再稼働阻止全国ネットワーク
    コロナ下でも萎縮しない、コロナ対策もして活動する
《北海道》瀬尾英幸さん(脱原発グループ行動隊)
《石川・北陸電力》多名賀哲也さん(命のネットワーク代表)
《福島・東電》郷田みほさん(市民立法「チェルノブイリ法日本版」をつくる郡山の会=しゃがの会)
《規制委・経産省》木村雅英さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
《東京》柳田 真さん(たんぽぽ舎、とめよう!東海第二原発首都圏連絡会)
《浜岡・中部電力》沖 基幸さん(浜岡原発を考える静岡ネットワーク)
《読書案内》天野恵一さん(再稼働阻止全国ネットワーク)

私たちは唯一の脱原発雑誌『NO NUKES voice』を応援しています!

菅野みずえさんが語る映画「ふるさと津島」〈2〉私は原発を許した世代です

8月9日、大国町「ピースクラブ」で、ドキュメンタリー映画「ふるさと津島」の上映会と浪江町津島から兵庫に移住した菅野みずえさんのお話会を行った。以下、菅野さんのお話を全3回の短期連載で紹介する。今回は第2回。(取材・構成=尾崎美代子)

お話をする菅野みずえさん。テーブルの花束は、三木の自宅の畑から菅野さんが摘んできた

◆毎日東電がセシウムという肥料を与えてくれるから、花が咲き実が成る

あの映画見たら「わあ、きれいな緑」と思われるかもしれない。事故前はあんな緑で覆われてはなかったんです。家の前はどこも開いていた。西側に阿武隈山系から降りてくる「やませ」を防ぐ防風林はありましたがね。原野になるのがはぜ早いのか? それは放射性物質がまき散らかされたからです。セシウムというのは放射性カリウムです。カリウムは何かというと、花を咲かせるとか緑を濃くするものです。私は避難の家の畑で何か作るとき、実の成るものには骨粉などを与えます。これを東電が毎日やってくれるということです。そしたら緑は濃くなり花も咲く。津島の我が家で、事故前まではキュウイは剪定しないと実が成らなかったが、事故後10年近く剪定してないがキュウイがたわわに実っています。毎日東電が肥料を与えてくれるから、花が咲き実が成るのです。

福島県は南相馬に猪専用の焼却場を造っています。それを急いだのは、猪が凄いセシウムだらけだからです。埋める訳にもいかない。猟友会に駆除を頼み、檻を設置している。これまでは冷凍するしかなかったが、県の冷凍庫が一杯になって、ほかのものが入れなくなった。それで焼却場を造った。大変なことです。燃やしても放射能が濃縮された灰が残る、それをどうするかです。

今年のお盆に津島地区を訪問した。事故から9年過ぎた菅野さんの家(写真提供=Eiji.Etouさん)

◆国や東電が「処理水」と呼ぶ汚染水

汚染水も国や東電は「処理水」といって、タンクを置く場所がない写真ばかり見せる。すると善良な人たちは「場所がないなら仕方ないだろう。毎日増えるんだから流すのもしょうがない」と思ってしまう。でもあの一杯になったタンクの後ろの山は東電が新しい原発造ろうと買い占めた山です。そこを整地して、もっとコンパクトなタンクになるような技術でやればいいのに、それを一切言わない。だからそういう写真が出ると、いつも私は「土地はあるよ」と書き込むようにしています(笑)。

今、津島も大熊も双葉も、年間50ミリシーベルトの蓄積被ばくがある帰還困難区域です。そこを除染して住めるようにするということで、我が家もそのエリアに入りました。なぜ除染で家がなくなるかというと、家などそこにあるもの全てが放射性廃棄物だからです。だから今だったら公費で壊すが、それ以降は自費で、放射性廃棄物としての取り扱いをしないといけないという。こういう時だけ「放射性廃棄物だ」としっかり言うのですね、大事なことですが。解体は放射性廃棄物としての取り扱いだけで余分に1戸あたり750万~1000万円掛かる。そんな金のかかることを、子どもや孫に残すわけにはいかないので、皆さん一生懸命取り壊しています。我が家も母屋を除いて全部取り壊すことになって、先日打ち合わせに行ってきました。役場の職員と1時間くらい、家の中にいて、0.5マイクロの被ばくでした。今は葉っぱの表面について、それが毎日落ちてくるから高い。それまでのものは地面に落ちている。それが風で舞い上がる。やっぱり防護はしてほしいと思います。

津島の自宅。いつも菅野みずえさんが車を置いていた場所(写真提供=Eiji.Etouさん)

◆白血病の話

先ほどの白血病の話ですが、なぜかなと思いますが、あの時、そこでは果樹栽培の木を全部高圧洗浄器で洗ったんです。おっちゃんが上で水をかけ、母ちゃんが下で脚立を支えていた。1人でやって、何人も脚立から落ちて骨折したので危険なんです。それでも線量が下がらず、柿木の皮を全部剥いだそうです。そいういう作業をした人たちが、私は病気になっているのではないかと、勝手に思っています。たくさんの病人が出ています。一時期、福島でアフラックの宣伝がなくなったと聞きました。あまりにもペイしない話だからと。

私は2011年2月に東電の説明会を聞きました。東電は「いかなる災害にも耐えうる」と言い、「7人に1人がガンになる時代なので、原発で癌になるわけではありません。それは誤解です」と言っていました。事故が起きて避難している間には5人に1人が癌でした。私が甲状腺癌をした2016年頃は、3人に1人が癌でした。たかだか7年で統計学的、あるいは疫学的に「7人に1人の癌」が「3人に1人」になるだろうか? そう思うと私は、放射性物質というのは、そんなに能天気に笑っていれば大丈夫のものではない気がしています。

通り門を入ろうとするけれど、蜘蛛の巣と草ばかり

◆私は原発を許した世代

私は原発を許した世代です。被害者となって避難して思います。放射性物質は県境で「おっと」と言って、越えないものではないのです。去年は富士山麓の自然のキノコは食べられなかった。今年は長野のコシアブラから放射性物質が出ました。それだけ風に乗って広まったということです。だから私は、自主避難の人は相応性がないというのは、嘘だと思います。どこから避難したかは問題ではない。原発事故があったから、身を守るために、避難した。それは子供を守った偉大な話として浪曲になりそうな話ですよ。それが今では非難の対象になる。おかしな話です。

今、コロナの時代に原発はすぐさま止めるべきだという新たな裁判をやっています。福井県の石地優さんという男性がなぜ原告になろうと思ったか話しています。コロナで輸入できなくなったら、日本の食の自給率が問題になる。自分たち百姓が立ち上がらなければ、日本の食は守れない。外国から入ってこなくなったら、日本の人たちは何を食べるんだ。そういうことを考え、すぐさま原発は止めるべきだと立ち上がったそうです。7人が原告になりました。すぐさま止めてもらわないといけないので、2回くらいの裁判で結審してほしいと思っています。

次回審尋は9月14日にあります。私は、避難所はどういうところか、密にならない避難所はありえないし、避難そのものもができないではないかと訴えます。国はコロナ禍で原発事故が起きたら、換気しないで屋内退避すると主張しています。コロナウイルスよりも実は放射性物質の方が怖いんだと、暗に認めたということです。コロナウイルスが蔓延するなか、大きな事故は起きないかもしれないが、地震や台風が複合して起こらないとは言えない時代です。危ないものは元から絶たないとダメだと思います。経済活動というなら、原発を止めるべきと思います。原発事故が起こることが最大の経済危機だと思います。今だからこそ、「原発は止めないと」と頑張らなければと思います。特に避難者である私は、そのことがよくわかっていますので、これは何としても頑張らなければと考えています。

だから津島の上映会と聞いたら、もれなく私がついていくようにします(笑)。だってこれだけ見て違和感持たない人が増え、「津島の人たちは可哀そう」で終わったら困るんです。これが一人歩きしたらどうなるかと不安です。私たちは、ただ家を奪われただけではなく、撒き散らされたものが危なくて逃げている、還れないんです。それは危ないものだからです。それは防護してもらわないと困る話です。被ばくという点でおかしいと、100年後の人たちに伝えるなら、津島が何に汚されたか、何に追われて私たちは避難したかを伝えなくてはならないと思っています。(つづく)


◎[参考動画]DVD 「ふるさと津島」ダイジェスト映像(Media Laboノダグラ 2020/06/30)

菅野みずえさんが語る映画「ふるさと津島」〈1〉津島の風土と映画への違和感
菅野みずえさんが語る映画「ふるさと津島」〈2〉私は原発を許した世代です
菅野みずえさんが語る映画「ふるさと津島」〈3〉避難と被曝は生活の傍にある

▼尾崎美代子(おざき みよこ)

新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

『NO NUKES voice』Vol.25

『NO NUKES voice』Vol.25
紙の爆弾2020年10月号増刊
2020年9月11日発行
定価680円(本体618円+税)A5判/132ページ

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総力特集 ニューノーマル 脱原発はどうなるか
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[グラビア]〈コロナと原発〉大阪、福島、鹿児島

[報告]小出裕章さん(元京都大学原子炉実験所助教)
 二つの緊急事態宣言とこの国の政治権力組織

[インタビュー]水戸喜世子さん(「子ども脱被ばく裁判」共同代表)
    コロナ収束まで原発を動かすな!

[座談会]天野恵一さん×鎌田 慧さん×横田朔子さん×吉野信次さん×柳田 真さん
    コロナ時代の大衆運動、反原発運動

[講演]井戸謙一さん(弁護士/「関電の原発マネー不正還流を告発する会」代理人)
    原発を巡るせめぎ合いの現段階

[講演]木原壯林さん(若狭の原発を考える会)
    危険すぎる老朽原発

[報告]尾崎美代子さん(西成「集い処はな」店主)
    反原発自治体議員・市民連盟関西ブロック第四回総会報告

[報告]片岡 健さん(ジャーナリスト)
    金品受領問題が浮き彫りにした関西電力と検察のただならぬ関係

[報告]おしどりマコさん(漫才師/記者)
「当たり前」が手に入らない福島県農民連

[報告]島 明美さん(個人被ばく線量計データ利用の検証と市民環境を考える協議会代表)
    当事者から見る「宮崎・早野論文」撤回の実相

[報告]鈴木博喜さん(ジャーナリスト/『民の声新聞』発行人)
   消える校舎と消せない記憶 浪江町立五校、解体前最後の見学会

[報告]伊達信夫さん(原発事故広域避難者団体役員)
    《徹底検証》「原発事故避難」これまでと現在〈9〉
    「原発事故被害者」とは誰のことか

[報告]山崎久隆さん(たんぽぽ舎共同代表)
    多量の放射性物質を拡散する再処理工場の許可
    それより核のゴミをどうするかの議論を開始せよ

[報告]三上 治さん(「経産省前テントひろば」スタッフ)
    具体的なことと全体的なことの二つを

[報告]板坂 剛さん(作家/舞踊家)
    恐怖と不安は蜜の味

[報告]山田悦子さん(甲山事件冤罪被害者)
    山田悦子の語る世界〈9〉普遍性の刹那──原発問題とコロナ禍の関わり

[読者投稿]大今 歩さん(農業/高校講師) 
    マンハッタン計画と人為的二酸化炭素地球温暖化説

[報告]再稼働阻止全国ネットワーク
    コロナ下でも萎縮しない、コロナ対策もして活動する
《北海道》瀬尾英幸さん(脱原発グループ行動隊)
《石川・北陸電力》多名賀哲也さん(命のネットワーク代表)
《福島・東電》郷田みほさん(市民立法「チェルノブイリ法日本版」をつくる郡山の会=しゃがの会)
《規制委・経産省》木村雅英さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
《東京》柳田 真さん(たんぽぽ舎、とめよう!東海第二原発首都圏連絡会)
《浜岡・中部電力》沖 基幸さん(浜岡原発を考える静岡ネットワーク)
《読書案内》天野恵一さん(再稼働阻止全国ネットワーク)

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コロナ禍でヤクザ組織の延命策は「一本独鈷」か 山健組の神戸山口組離脱の現況

◆神戸山口組、二度目の分裂

神戸山口組の分裂が進んでいる。それも井上邦雄組長の出身母体である山健組およびその傘下の組が、そろって離脱するというのだ。すでに6月段階で獄中の中田浩司山健組組長から、離脱するとの意向がもたらされていたものだ。

この7月22日には、兵庫県高砂市内の喫茶店を借り切って、山健組の会合が開かれ、約二時間の話し合いののち「方向性が決まった」(参加した組長)となったという。参加者は20団体の組長で、それぞれが「一本独鈷(いっぽんどっこ)でやっていく」方向性だとされる。

織田絆誠(金禎紀)をはじめとする若手組長が、任侠山口組(現在は「絆會」)として離脱していらい、神戸山口組は二度目の分裂となりそうだ。離脱の理由は、任侠山口組のときと同じく、会費(上納金)をめぐってと観測されている。

◆高い会費がネックに

神戸山口組が六代目山口組から分裂したとき、100万円ちかい会費(上納金)と日用品の(本部からの)強制購入が負担になっているという理由だった。

分裂後の神戸山口組は、直参で月40万円から60万円とされていたという。コロナ禍でシノギもままならない中、会費以外にも盆暮れやイベントごとに支出を求められる。傘下組織にはかなりの負担になっていたようだ。そこで中田組長が会費減額を決めたところ、これに井上組長が異を唱えたのが実相だという。

ヤクザのシノギをめぐる、当局の締めつけは厳しい。フロント企業の公共事業からの締め出し。繁華街での用心棒代はもとより、組員直営の店への排除(暴力団お断りの店ステッカーなど、客への店の選別強要)も露骨なものがあった。さらにコロナ禍による繁華街の不況は組織の収益を直撃し、個々の組織の財政状態が組織離脱を決定的なものにしたようだ。

ところで、肝心の中田浩司山健組五代目は、昨年8月に起きた六代目山口組弘道会系の幹部銃撃に関与したとして、現在も拘留中の身だ。

警察関係者によると、「山健のトップ自らヒットマンとして報復に動いたと暴力団関係者は仰天しましたが、中田氏は否認を貫いています。本人は無罪を勝ち取り、数年で復帰できると自信を持っており、獄中から弁護士を通じて離脱の指示を出したとみられます」(文春オンライン、8月1日)だという。

◆「一本独鈷」という選択肢

山健組傘下の三次団体だとはいえ、約20団体がそろって離脱であれば、事実上の分裂ということになるが、関係者は「あくまでも個別の離脱です」と強調する。じつは「一本独鈷」というキーワードが事態を説明してくれそうだ。

というのも、暴排条例が施行されてから10年、指定暴力団は経済活動のみならず、組織運営でも身動きがとれない状態になっているからだ。そこで、一本独鈷(独立組織)となって指定から逃れる方法もないではない、という考えではないか。じっさいに、独立組織で非指定団体は少なくない。上部団体が指定を受けても、下部団体が独自に活動することも不可能ではない。

暴排条例の集中攻撃を受けた、北九州の工藤會の例で説明しよう。

本家およびその母体組織(田中組)の幹部(ナンバー3まで)が獄中に囚われ、実質的に本部機能が崩壊(工藤会館の売却など)し、傘下の組の事務所ものきなみに閉鎖命令。幹部会も公然とは開けない状態になっている。にもかかわらず、傘下の各組織は独自に活動を続けているのだ。

「個々バラバラですが、みんな元気にやっております。会議やら減ったぶんだけ、楽になっておりますね」(工藤會の二次団体の組長)という現状だ。

新たな抗争事件さえ起こさなければ、上部団体から離脱した組織が公然と活動できると、ヤクザ関係の弁護士は云う。非指定団体になる道だ。

工藤會の場合、事務所を使わずに活動継続できるのは、PCとスマホを駆使した活動方法を早くから取り入れていた(溝下三代目時代)からだという。

ただし、野村総裁・田上会長ら獄中幹部の公判は始まったものの、法曹関係者によると「元ヤクザが相手でも、一般人を対象にした殺傷事犯ですから、長期刑は避けられない」との観測である。えん罪事件の上高謙一組長が実刑だったこともあり、獄中の最高幹部が社会不在のままの状態は、ながく続きそうだ。

いずれにしても、改正暴対法・暴排条例のもとでのヤクザ組織の在りようは、昔ながらの一本独鈷というスタイルになりそうな気配だ。

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)

著述業・編集者。2000年代に『アウトロー・ジャパン』編集長を務める。ヤクザ関連の著書・編集本に『任侠事始め』、『小倉の極道 謀略裁判』、『獄楽記』(太田出版)、『山口組と戦国大名』(サイゾー)、『誰も書かなかったヤクザのタブー』(タケナカシゲル筆名、鹿砦社ライブラリー)など。

最新! 月刊『紙の爆弾』2020年10月号【特集】さらば、安倍晋三
タケナカシゲル『誰も書かなかったヤクザのタブー』(鹿砦社ライブラリー007)

菅野みずえさんが語る映画「ふるさと津島」〈1〉津島の風土と映画への違和感

8月9日、大国町「ピースクラブ」で、ドキュメンタリー映画「ふるさと津島」の上映会と浪江町津島から兵庫に移住した菅野みずえさんのお話会を行った。以下、菅野さんのお話を全3回の短期連載で紹介する。(取材・構成=尾崎美代子)

◆浪江町津島の風土

私が住んでいた浪江町津島では、少し前までは13人から18人とかの家族がざらに一緒に暮らしてました。夫の母親は子供を11人産んだと言ってました。いつも腹が膨らんで、乳が張っていたと。津島は非常に寒いところで、私が一番寒いと感じたときはマイナス19度でした。普通は夏至になると「ああ暑い夏がくる」と思うけど、私たちは夏至がくると「ああもうすぐ冬だ」思う。季節感がすごく違っているかもしれません。

そういうところだから、子供が風邪をひくと助からないことがあった。だから沢山子どもを産むしかないと母は言ってました。11人目を産んだ時、これが最後と思い、死んでしまった一番最初の子の名前を付けたといってました。それが私の夫(の昭雄)です。母は、生きられなかった子供と同じ名前つけて生きてもらおうと思ったと言ってました。だから夫は2人分の人生を生きなくてはならないのですが、何故か家に住めなくて避難しているわけです。

お話をする菅野みずえさん。テーブルの花束は、三木の自宅の畑から菅野さんが摘んできた。右側は本稿筆者の尾崎美代子さん

◆映画への違和感

そこが非常に理不尽な思いをもっているところですが、皆さん、今日の映画を見て何か感じませんでしたか? 違和感ありませんでしたか?(会場しーん)

私はこの映画見たとき「なんじゃこりゃ」と思いました。しかもこれを裁判資料にすると聞いて「やめてくれ」と思ったんです。私は津島の家に帰るとき、国の出先機関に連絡し、何人でどの車で入ると言って許可とります。入る前スクリーニングで、防護服と線量計をうけとり、頭に白い不織布のキャップを被り、マスクして二重手袋します。汗をかくので布手袋はめて、その上に薄いゴム手袋はめて、何か触るときにはもう1枚厚手の手袋をはめる。家に上がるとき汚染を持ち込むので、ビニールの足キャップを履いて上がる。

でも映画では誰もそんな格好していなかった。帰還困難区域でものを食べてはいけないと法律で決まっているのに、映画の中では食べてましたよね。周囲で大きな音がしていたのは、除染が始まり、家を壊しているからです。家に降り積もった放射性物質が巻き上がっている。映画では、そんな中、窓を開けてご飯を食べている。「なんじゃこりゃ」と思いました。

またガイガーカウンター持っている人は1人もいませんでした。最初に出てきたはるえちゃんだけが蓄線量計をもっていました。国から貸与され、おおむね2時間いて何マイクロ被爆したと記録して、自分の被ばく記録として持つのです。それは帰還困難区域に線引きされてからです。それまでは線量はもっと高かったのに、そういうことはなかった。その間に映画にでてくる人は「家に帰っていた」「寝泊りしていた」と言ってましたよね。どれくらい被ばくしているかもわからない状態です。当時は余震が続いていたので、屋根がずれたりして、非常にかびて、動物被害が多くなっています。でも避難は被ばくするから。でも映画では誰もそれを言わなかった。不思議でたまりません。

◆映画の中で防護服を着ないのは、100年後の子孫に見られたら嫌だという気持ちがあったかもしれない

また最初、津島に入ってきたのは、(映画でいうような)動物ではなく、泥棒です。泥棒がものを盗んであけっぱなしで出た入口から動物が入ったんです。

映画にでていた佐々木さんは、ここで「20ミリシーベルトになっていいのか」と言ってましたが、そこで一晩寝て20ミリではなく、多分20マイクロシーベルトの被ばくだと思います。赤宇木の仮設住宅の近くのおっちゃんが「運転しにくい」というので、私が皆を乗せて自宅の見回りに行きました。4年もたつのに、おっちゃんの家で1時間当たり40マイクロシーベルトありました。

私が止めたのに、おっちゃんが外を見回ったら、積算線量が2時間で140マイクロ超えました。私が100ちょっと。スクリーニングの職員 彼らは仕事がなくなった東電の職員で、給料は復興予算から出ます。東電が黒字になるのは当然と思います。「140なんてたいしたことないですよ。原発構内はね……」と言いだしたら、おっちゃんが「なにおー」と殴りかかろうとした。私が必死でとめて車に乗せて、今度は私が「ここ(津島)は原発構内と同じか!元はゼロだったんだ」と怒り出してしまい、おっちゃんに止められた(笑)。そんなことがありました。

映画のなかで彼らが防護服を着ないのは、100年後の子孫に見られたら嫌だという気持ちがあったかもしれない。だけど現実に起こっていることを正確に伝えるなら、私は防護服を着て、自分の身を自分で守って欲しかったと思います。この記録は住民がいかに被ばくについて、国から何も知らされてないかの証だと思います。レントゲン室でまんま(ご飯)食う人はいないです。それを見て「なにをやってるの?」と私は思いました。それくらい被ばくについて、私たちは教えられてない。「年だから、ちょっとくらい大丈夫」ということでしょうか。

前に東大の先生が飯館村の松川第二仮設住宅にきて「皆さん、松茸食べれないのはストレスでしょう。ストレスはないほうがいいから、ちょっとくらい食べてストレス解消したほうがいい」といったそうです。そこで管理人をやっていた私の友達が「私たちにストレス溜まるのは、こんな生活させられているからだ。そんな汚れた松茸食って、何年もここに留め置かれるストレスが解消できると思っているのか?頭いい人が何故そんなこというのか?」と怒ったそうです。菅野村長に辞めさせられそうになりましたが、頑張って最後まで管理人をつとめました。

そんなものなんです、私たちに施された教育というのは。ちょっとくらい食っても構わない、ちょっとくらい家に泊まっても構わない……と。それは被ばくのことを全く無視しているのです。

津島地区、菅野さんの自宅近くの放射線モニタリングポスト(写真提供=Eiji.Etouさん)

◆近所で5人が白血病になり、今年までに全員が亡くなりました

名前はいいませんが、福島の小さな町で、私が知っているだけで、近所で5人が白血病になり、そのうちの私の友人が一番最初に亡くなり、今年までに全員が亡くなりました。5人という数は私が知っている人だけです。それまで白血病なんてきいたこともなかった。

映画で出ていたTOKIOの「DASH村」で世話していた三瓶明雄さんも白血病で亡くなりました。彼はしょっちゅうDASH村に通ってました。我が家から2キロくらいの線量が高い所。この前も城島君が笑って福島の桃を食べ「旨い!」と宣伝していました。それは美味しいと思う。でも「あなたは大丈夫?」と私はテレビに向かって言ってました。彼らは本当に素朴で、今でも町の人たちと交流してくれる。明雄さんに何度も見舞いに通ってました。でも、彼らは守られているのかなあと、若いだけに心配です。そういう状態があの映像です。

国や東電の代理人が、こんな事実を見逃すわけはないんです。これを証拠資料としてだしたときに「帰還困難区域はあんなに普通に家に出入りしてる、だったら自主避難なんて笑止千万だということだ」と言い出しかねない。そうして裁判資料は他へ流用されます。そんなふうに使われては堪らない。

映画に出てきた石井ひろみさんはうちの隣の家の人です。彼女が公民館に勤めていた時にチェルノブイリの事故があり、いわきの教会の依頼で子供たちを公民館活動のなかで受け入れました。だから被ばくがどういうものかわかっている。彼女は防護服を着るべきだとか、映像を裁判資料にしていいのかと訴えてくれてますが、全体のものにはなっていません。彼女は「私はいやだった。みずえちゃん怒ると思ったから、みずえちゃんに知らせたくないと思ってたら、みずえちゃんの名前がエンドロールがあってさ」と言ってました。私は彼女に「映画見たとき愕然とした」と言いました。だから私はこの映画の上映会があるとしたら、もれなく付いて回ろうと思っていると言いました。

「おらっちの故郷はこんな風に人の入れるとこでねえ」と話しながら。ドアノブ開けて入るシーンでは「イヤ、そこ触ってはだめ」と思わず思ってしまう。コロナウイルスと一緒ですよ。(つづく)


◎[参考動画]ふるさと津島を映像で残す会予告編(Media Laboノダグラ 2020/01/19)

菅野みずえさんが語る映画「ふるさと津島」〈1〉津島の風土と映画への違和感
菅野みずえさんが語る映画「ふるさと津島」〈2〉私は原発を許した世代です
菅野みずえさんが語る映画「ふるさと津島」〈3〉避難と被曝は生活の傍にある

▼尾崎美代子(おざき みよこ)

新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

『NO NUKES voice』Vol.25

『NO NUKES voice』Vol.25
紙の爆弾2020年10月号増刊
2020年9月11日発行
定価680円(本体618円+税)A5判/132ページ

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総力特集 ニューノーマル 脱原発はどうなるか
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[グラビア]〈コロナと原発〉大阪、福島、鹿児島

[報告]小出裕章さん(元京都大学原子炉実験所助教)
 二つの緊急事態宣言とこの国の政治権力組織

[インタビュー]水戸喜世子さん(「子ども脱被ばく裁判」共同代表)
    コロナ収束まで原発を動かすな!

[座談会]天野恵一さん×鎌田 慧さん×横田朔子さん×吉野信次さん×柳田 真さん
    コロナ時代の大衆運動、反原発運動

[講演]井戸謙一さん(弁護士/「関電の原発マネー不正還流を告発する会」代理人)
    原発を巡るせめぎ合いの現段階

[講演]木原壯林さん(若狭の原発を考える会)
    危険すぎる老朽原発

[報告]尾崎美代子さん(西成「集い処はな」店主)
    反原発自治体議員・市民連盟関西ブロック第四回総会報告

[報告]片岡 健さん(ジャーナリスト)
    金品受領問題が浮き彫りにした関西電力と検察のただならぬ関係

[報告]おしどりマコさん(漫才師/記者)
「当たり前」が手に入らない福島県農民連

[報告]島 明美さん(個人被ばく線量計データ利用の検証と市民環境を考える協議会代表)
    当事者から見る「宮崎・早野論文」撤回の実相

[報告]鈴木博喜さん(ジャーナリスト/『民の声新聞』発行人)
   消える校舎と消せない記憶 浪江町立五校、解体前最後の見学会

[報告]伊達信夫さん(原発事故広域避難者団体役員)
    《徹底検証》「原発事故避難」これまでと現在〈9〉
    「原発事故被害者」とは誰のことか

[報告]山崎久隆さん(たんぽぽ舎共同代表)
    多量の放射性物質を拡散する再処理工場の許可
    それより核のゴミをどうするかの議論を開始せよ

[報告]三上 治さん(「経産省前テントひろば」スタッフ)
    具体的なことと全体的なことの二つを

[報告]板坂 剛さん(作家/舞踊家)
    恐怖と不安は蜜の味

[報告]山田悦子さん(甲山事件冤罪被害者)
    山田悦子の語る世界〈9〉普遍性の刹那──原発問題とコロナ禍の関わり

[読者投稿]大今 歩さん(農業/高校講師) 
    マンハッタン計画と人為的二酸化炭素地球温暖化説

[報告]再稼働阻止全国ネットワーク
    コロナ下でも萎縮しない、コロナ対策もして活動する
《北海道》瀬尾英幸さん(脱原発グループ行動隊)
《石川・北陸電力》多名賀哲也さん(命のネットワーク代表)
《福島・東電》郷田みほさん(市民立法「チェルノブイリ法日本版」をつくる郡山の会=しゃがの会)
《規制委・経産省》木村雅英さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
《東京》柳田 真さん(たんぽぽ舎、とめよう!東海第二原発首都圏連絡会)
《浜岡・中部電力》沖 基幸さん(浜岡原発を考える静岡ネットワーク)
《読書案内》天野恵一さん(再稼働阻止全国ネットワーク)

私たちは唯一の脱原発雑誌『NO NUKES voice』を応援しています!

《廿日市女子高生殺害事件裁判傍聴記10》被害者の母と犯人の母 それぞれの思い

判決を含めて計5回の公判があった鹿嶋学の裁判員裁判。被害者・北口聡美さんの両親は検察官席から、犯人・鹿嶋学の両親は傍聴席から、全公判の審理を見届けたが、その初公判では、聡美さんの母親の供述調書を検察官が朗読し、鹿嶋の母親が遺族宛てに書いた謝罪の手紙を弁護人が朗読するという場面があった。

被害者と犯人、双方の母親がそれぞれ、どのような言葉を発したのか。ここで紹介したい。

◆「4年目にして授かった待望の子だった」(被害者の母)

まず、検察官が朗読した北口聡美さんの母の供述調書から紹介する。これは、鹿嶋が逮捕されてまもない時期に作成されたものである。

 * * * * * * * * * *

聡美が犯人に殺されて約13年半が経ちました。私たち夫婦は結婚して子供に恵まれなかったのですが、やっと4年目にして授かった待望の子が聡美でした。聡美が生まれた時は、うれしくて、うれしくて、本当に待望の娘でした。

聡美は昔から元気で、勉強ができて、友だちに勉強を教えてあげたり、まじめで、よくニコニコと笑う子です。中学生の時だったでしょうか。その頃、小遣い制ではなかったので、聡美が必要な時にしか使うお金を渡していませんでした。

なのに、聡美は中学2年生の頃だったと思いますが、母の日に花を買ってきて、私と母のミチヨに1個ずつ渡してくれたのです。たぶん私が渡したお金を少しずつ貯めて買ったのでしょう。

また、母のミチヨが神経痛で、足がしびれるなどした時、聡美が一緒にお風呂に入り、ミチヨの身体を洗ってくれたことがあります。聡美は長女だったので、優しい気配りができる子でした。妹弟の面倒もよく見てくれ、私は聡美の優しさや気配りに本当に助けられていました。

そういう聡美のいいところ、聡美が私たち家族にしてくれた優しさが昨日のことのように思い出されます。涙が止まりません。

◆「今も玄関には聡美のスニーカーが置いてある」(被害者の母)

事件が未解決の頃、警察が作成したポスター。犯人の似顔絵は聡美さんの妹の証言をもとに描かれたものだった

犯人が逮捕されるまで、とても長い時間でした。苦しくて、悔しい日々でした。

犯人が逮捕されるまでは、テレビなどで聡美の事件を取り上げてもらって、みなさんから沢山の情報を頂き、大きな助けになっていました。ありがたかったです。

私は、事件のことが風化するのがとても怖かったです。私たち家族は普通に暮らしていたのです。仲良く暮らしていたのです。何がいけなかったのだろうと考え込んだりしたことがありました。

娘が殺されてからの生活の苦しみなんて、経験した人でないと絶対にわかりません。この悔しさ、苦しさは他人には絶対にわからないです。

聡美が殺されて以降、私は気分転換の意味も込めて、仕事を何度かやったことがありました。でも、事件の報道がされたりして、私が聡美の母親だと気づかれ、その職場に居づらくなったり、陰口や中傷もあったり、本当に苦しい日々でした。

聡美は生前、「家族をもって普通に暮らしたい」と話していました。聡美は勉強やアルバイトを頑張っていましたが、こんなにも早く亡くなるなら、もっと遊ばせてあげたり、行きたいところに連れて行ってあげたかったです。

私の中では、2004年10月5日から時が止まっている感覚です。今日まで一日たりとも聡美のこと、事件のことを忘れたことはありません。

犯人が逮捕されたことについては、本当にありがたいことだと思っています。でも、聡美は帰ってきません。これが悲しくて、悔しくて、たまりません。

家には、いまだに聡美の私物があり、離れも当時のままです。片付けようかと手をつけたことがありますが、涙が止まらなくて、とても片付けることができないままになっています。13年以上が経った今でも、聡美が帰ってくるんじゃないか、帰ってきて欲しいという思いがあって、玄関には聡美のスニーカーが置いてあります。

◆「犯人を絶対に許さない」(被害者の母)

犯人は、何の罪もない聡美を殺しました。とても酷い殺し方でした。

犯人の顔はテレビで観ました。感想は、「聡美の妹が見た犯人の顔は間違っていなかった」ということでした。聡美の妹は当時、小学生だったのに、一瞬で記憶して、大したものです。

聡美の妹は、これからも事件のことを一生背負って生きていかなくてはなりません。私はそれが心配です。

聡美は機転が利くところがあります。ですから、これは私の想像ですが、犯人からどうにかして逃げようとしたのではないでしょうか。気が小さいところがあったので、犯人には何も言えなかったかもしれません。

聡美が殺されたことは、私たち家族もそうですが、何より本人が一番悔しかったはずです。なんで殺されなきゃいけないのと、さぞかし聡美は無念だったでしょう。

私は、犯人を絶対に許しません。何の罪もない私たちの娘を、あんな酷い、惨い殺し方で生命を奪った犯人が憎いです。私は犯人に死刑を求めています。

なぜ、聡美だったのでしょうか。なぜ、聡美を殺したのか。犯人には、真実を話して欲しい。生命の重みをわかってもらいたいです。

 * * * * * * * * * *

以上、聡美さんの母の供述だ。本人も「この悔しさ、苦しさは他人には絶対にわからないです」と語っているが、その悔しさ、苦しさは本当にその通りの、第三者の想像を絶するものだったのだろう。

◆「慚愧の念に苛まれ、夜も眠れない」(犯人の母)

続いて、弁護人が朗読した、鹿嶋の母親が遺族宛てに書いた手紙を紹介したい。これは裁判の前年に書かれたものだが、弁護人によると、遺族に受け取りを拒否されたとのことだった。

 * * * * * * * * * *

前略

15年前に私どもの息子学が、北口様の大切に育てられました聡美さんの生命を無残にも奪ってしまったことに対しまして、年月は随分過ぎてしまいましたが、このたび学の母として心よりお詫び申し上げたいと思います。

本当に申し訳ございません。

慈しみ、育てられました聡美さんを突然あのような形で失われたご両親様の持って行き場のない悲痛な思い、そして喪失感を思いますと、同じ年頃の娘を持つ母親として、胸が締めつけられる思いでいっぱいになります。

どうして息子は取り返しのつかない残酷な罪を犯してしまったのだろうか。どのように受け入れ、どのようにお詫びをすれば良いのか。この1年余り、考えない日はありませんでした。慚愧の念に苛まれ、夜も眠れません。

せめて今の私にできることは、亡くなられた聡美さんの無念を思い、うかばれない魂の鎮魂なればと、早朝欠かさず30分のお悔やみとお参りに行っています。非力な私のささやかなお詫びのつもりです。

本当に申し訳ございませんでした。

息子に対する処分は、どうなるかわかりませんが、息子が心から悔い改め、私ども夫婦の生存中にもしも社会復帰することがありましたら、私どもの生命のある限り、監督していきたいと思っております。

このような事件を起こしてしまい、本当に申し訳ありませんでした。

 * * * * * * * * * *

以上、鹿嶋の母親が遺族宛てに書いた謝罪の手紙だ。何を書けばいいのか答えが見つからず、迷いながら書いていることが伝わってくる文章ではないだろうか。

この連載の第1回で伝えた通り、鹿嶋の母親は夫と結婚した際、夫以外の子供を妊娠しており、それが鹿嶋だった。血のつながらない父親との複雑な関係は、鹿嶋の人間形成に大きな影響を与えたが、この母親も悩みが多い人生だったのではないか。ふとそう思わされた。(次回につづく)

鹿嶋の裁判員裁判が行われた広島地裁

《関連過去記事カテゴリー》
 廿日市女子高生殺害事件裁判傍聴記 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=89

【廿日市女子高生殺害事件】
2004年10月5日、広島県廿日市市で両親らと暮らしいていた県立廿日市高校の2年生・北口聡美さん(当時17)が自宅で刺殺され、祖母のミチヨさん(同72)も刺されて重傷を負った事件。事件は長く未解決だったが、2018年4月、同僚に対する傷害事件の容疑で山口県警の捜査対象となっていた山口県宇部市の土木会社社員・鹿嶋学(当時35)のDNA型と指紋が現場で採取されていたものと一致すると判明。同13日、鹿嶋は殺人容疑で逮捕され、今年3月18日、広島地裁の裁判員裁判で無期懲役判決を受けた。

▼片岡健(かたおか けん)
全国各地で新旧様々な事件を取材している。原作を手がけた『マンガ「獄中面会物語」』【分冊版】第11話・筒井郷太編(画・塚原洋一/笠倉出版社)がネットショップで配信中。

最新! 月刊『紙の爆弾』2020年10月号【特集】さらば、安倍晋三
「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

《NO NUKES voice》ふるさとを返せ 津島原発訴訟 ── ハードル高い「原状回復請求」 それでも強い「ふるさとを返せ」の想い 民の声新聞 鈴木博喜

「見通しが甘い気がする。みんな死んじゃうじゃないか。何のために裁判をやっているのか。もっとスピード感を持ってやってもらわないと裁判を起こした意味がなくなってしまう」

7月16日に福島地裁郡山支部で開かれた「ふるさとを返せ 津島原発訴訟」の第30回口頭弁論。原発事故後、全域を帰還困難区域に指定された浪江町津島地区の約680人が原告団に加わり、2015年9月から国と東電を相手取った裁判を続けている。

郡山駅前で「ふるさとを返せ!」と書かれたプラカードを掲げる原告。原告たちは、放射性物質に汚染された故郷の原状回復を強く望んでいる

最近の裁判所は新型コロナウイルス感染拡大防止を理由に法廷で傍聴出来る人数を制限しており、法廷に入れない原告を対象に弁護団による学習会が別途開かれた。

席上、原告団に加わっている男性が弁護団に想いをぶつけた。静かな口調ではあったが、明らかにいらだっていた。言葉には怒りが込められていた。津島の人々が求める「原状回復」について、弁護団が「仮に最悪の事態を想定すると」という前提で「他の請求と比べるとハードルが高い」と説明した事がきっかけだった。

原子力発電所の爆発事故や放射性物質拡散による放射能汚染に関しては、当然の事だが津島地区の住民たちには落ち度は全く無い。100%被害者。原発事故前の状態に戻せと求める(原状回復)のは当然だ。

だからこそ、原告たちは慰謝料を求めるだけでなく、「津島地区全域について、本件原発事故由来の放射線量を2020年3月12日までに毎時0.23マイクロシーベルトに至るまで低下させよ」と求めた。実際には原発事故から10年目を迎えても係争中のため期限は変動するが、原告たちの「せめて、年間1ミリシーベルト(毎時0.23マイクロシーベルト)まで空間線量が下がるように除染をしてくれ」という願いは変わらない。学習会で「実際にはハードルが高い」と説明されて、原告の男性が怒りを口にしたのは無理も無い。

「津島訴訟」の原告には高齢者も多い。非の無い被害者が闘い続けなければいけない事も、原発事故被害の1つと言える

ではなぜ、原状回復を求める事は「ハードルが高い」のか。

弁護団は、①抽象的不作為請求、②場所的範囲の特定性、③実現不可能性──の3つの観点から次のように説明した。

「この訴訟では結果の目標だけを示していて、国や東電に具体的に何をしてもらいたいかを特定せずに請求しています。これを法律学的には『抽象的不作為請求』と言います。例えば民事訴訟で判決が言い渡され、借りたお金を返済するとか住まいを明け渡すとか被告が自分でやってくれれば良いのですが、実行してくれない場合には、判決を前提として今度は裁判所に『強制執行』をお願いしなければなりません」

国や東電は2016年4月15日付の答弁書の中で、ともに「除染は現実的に不可能な事を強いるものであるから原告の請求は認められない」として棄却するよう求めている。仮に原告の主張が認められたとしても、実際に除染を行うか否かは未知数。国や東電が判決に従わないのであれば、強制執行を求めるしか無い。しかし、被告側にやってもらいたい内容が具体的に特定されていないと、実際には裁判所はなかなか動いてくれないという。

「『空間線量を毎時0.23マイクロシーベルト以下に低下させる強制執行』を裁判所に求めた場合、じゃあ、どうやってやりますか?という部分が具体的に決まっていないと裁判所もやってくれません。強制執行が難しいとなると、じゃあ、そもそも訴訟で請求する意味があるのかという懸念が生じてしまい、裁判所が判決で認めない事もあり得ます。裁判になじむのか、という観点から難しい請求だという指摘があるのはそのためです」

実際、2017年10月10日に言い渡された「『生業を返せ、地域を返せ!』福島原発訴訟」の福島地裁判決(金澤秀樹裁判長)では、原状回復請求について「本件事故前の状態に戻してほしいとの原告らの切実な思いに基づく請求であって、心情的には理解できる」としながらも、「求める作為の内容が特定されていないものであって、不適法である」として棄却している。

生業訴訟の弁護団は当時、声明の中で「現在の裁判実務において、作為内容を具体的に特定しない作為請求が認められることは技術的に困難な部分があり、現在のわが国の司法判断の限界を示しているとも言える」と指摘した。

②の「場所的範囲の特定性」に関しては、今回の訴訟では「津島地区全域」としているので問題無い。あとは③の「実現可能性」だ。弁護団は次のように説明した。

「津島全域の空間線量を下げてくれ、というのは分かります。一方で、広大な範囲を毎時0.23マイクロシーベルト以下に下げる方法や、取り除いた汚染土壌を保管するやり方が一般的に確立されていないという指摘もあります。裁判所は『不可能は強いない』という考え方をしますから、それなら請求を認めても意味が無いのではないかという結論に至る可能性はあると思います。東電はそういう反論をしています」

原発事故以降、福島県内外で何年間も除染は行われてきた。既に方法論は確立しているのではないか。原告からは当然の質問が出た。これには弁護団も同じ考えだった。

「少なくとも環境省のガイドラインもあるし、ある程度、広範囲にわたる除染の事例もあるでしょうから、今さら『出来ない』という話にはならないはずです。方法論が確立されていないというのは裁判所が請求を認めない理由にはなり得ないと思います。ただ、最悪の事態を想定した時に、裁判所がそこをどう判断するか心配だという事です」

そんなに難しいのなら、なぜ請求に「原状回復」を加えたのか。

「これだけハードルが高いという話をすれば、そういう話になると思います。提訴を準備している段階で弁護士の間でも議論はありました。慰謝料請求だけに絞る方がいいのではないかという弁護士もいました。一方で『住民の皆さんの気持ちを考えると、原状回復請求も加えるべきだ』という意見もありました。議論を重ねた結果なのです。原告になろうと考えている方々が『ふるさとを返して欲しい』と強く口にしていた事も後押ししました。津島の皆さんの強い想いがあったのです」

「仮に強制執行が難しいとしても、請求を認める判決を裁判所が言い渡したら、判決をテコにして世論に訴えかけるとか、国会議員に働きかけて除染のための立法を求めるなど、いろいろと動く事が出来ます。国のスタンスを変えるためにも重要な訴訟、重要な判決になると考えています」

来年にも地裁判決が言い渡されると見込まれているが当然、そこで終わる事は無いだろう。仙台高裁、そして最高裁まで争いが続く可能性は高い。原告たちの年齢を考えると「早くしてくれないとみんな死んじゃう」という男性原告の気持ちも理解出来る。その想いを受け止めた上で、原告団の役員を務める女性はこう呼びかけた。

「裁判の進行に時間がかかっているのは、国や東電が認めるべき責任を認めないからです。そもそも、予定通りいかないのが裁判ってもの。私たちにとって裁判なんて初めての経験だし、想定した期間で終えられるなんてあり得ないと思うよ。国や東電という、押しても何しても動かないような相手と争っているのだから、勝つためにどうすれば良いか、弁護士さんたちと手に手を取って考えないと。それだけ大変な裁判をしているんだよ、私たちは」

皆、様々な想いを抱きながら原告団に加わっている。しかし、巨大な相手には一致団結しなければ勝てるはずも無い。女性原告の言葉は、一方的にふるさとを汚され、追われた人々の哀しい現実を言い表していた。第31回口頭弁論期日は今月25日に開かれる予定。

▼鈴木博喜(すずき ひろき)

神奈川県横須賀市生まれ、48歳。地方紙記者を経て、2011年より「民の声新聞」発行人。高速バスで福島県中通りに通いながら、原発事故に伴う被曝問題を中心に避難者訴訟や避難者支援問題、〝復興五輪〟、台風19号水害などの取材を続けている。記事は http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/ で無料で読めます。氏名などの登録は不要。取材費の応援(カンパ)は大歓迎です。

ニューノーマル 脱原発はどうなるか 『NO NUKES voice』Vol.25

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《NO NUKES voice》コロナ禍の今こそ、老朽原発は動かすな!1600人の人々が集まった「9・6老朽原発うごかすな!大集会inおおさか」報告 尾崎美代子

9月6日大阪市内うつぼ公園にて「9・6老朽原発うごかすな!大集会inおおさか」が開催された。5月17日の予定から延期されたが、その間1036もの市民団体、労組、個人有志の賛同を集め、1600人もの結集を得ることができた。以下、主だった登壇者の発言の要旨を紹介する。

2020年9月6日大阪市内うつぼ公園で行われた「9・6老朽原発うごかすな!大集会inおおさか」

まず、主催者挨拶をされたのは福井県小浜市明通寺の中嶌哲演さん。

主催者挨拶をされた福井県小浜市明通寺の中嶌哲演さん

「高浜1号機が稼働開始以来40年、美浜3号機が44年の老朽原発であるに留まらず、こんにちまでそれだけの様々な歴史、すなわち「モノ言えば唇寒し」といった原発フアシズム、国内植民地化の負の歴史をも刻み込まれてきた。福島事故以後、関電の4基は廃炉、残る7基のうちの3基が老朽原発としての延命措置が今まさに本集会の眼目となっています。国会に上程されながら2年余りをも棚ざらしになっている〈原発ゼロ法案〉、原発核燃料サイクル推進国策に固執している政府や規制委、老朽炉の延命・差し止めを求める名古屋市民の闘い、多数の市民による関電原発マネー不正還流の告発と、それを未だに受理しない大阪地検の現状など、立法行政司法の三権内部の、安倍政権の崩壊をめぐって動揺を余儀なくされていくことでしょう。その三権を揺さぶり、福島の惨禍を繰り返させぬ、あとからくる者のためにも、まずは老朽炉の廃炉、そして原発ゼロの社会を目指す広大な世論と運動の全身を本日の大集会から始めようではありませんか」。

続いて実行委員会の木原壮林さん。

「今、脱原発・反原発の運動にとって大きな追い風が吹き、山は動き始めている。一方で、コロナウイルスが止まることをしらず、数か月内に収束するとは考えられない。それでも関電は美浜3号、高浜1号の来年1月、3月の再稼働を画策し、その準備作業をコロナなどないかのように進めている。私たちの運動が委縮すれば政府や関電の意のままの政策がまかり通ることになる。コロナを口実に民主主義が破壊されかねない。現在コロナの蔓延により運動も様々な制約を受けているが、その制約以上の行動を地域、職場で勇気をもって展開し、老朽原発を廃炉に追い込もう。老朽原発再稼働を阻止し、それを突破口に原発のない、人の命と尊厳が大切にされる社会を実現しよう」

「関電の原発マネー不正還流を告発する会」の末田一秀さん、「老朽原発40年廃炉名古屋訴訟市民の会」の草地妙子さんに続いて、「福井原発訴訟・滋賀」弁護団長の井戸謙一さん。

「福井原発訴訟・滋賀」弁護団長の井戸謙一さん

「新しい安全神話が跋扈している。放射能安全神話では年100ミリシーベルトまでは健康被害は起こらない、事故を起こしてもたいしたことないから原発の運転を受け入れろという。その神話を貫徹させるために200人以上の子供が甲状腺がんになっても被ばくとは関係ないと絶対認めようとしない。将来甲状腺癌になるという不安を持つ子ども、健康不安に怯えている大人たちも沢山いる。そういう中で原発を以前のように推進しようとしている。もう一つ絶対忘れてならないのは、福島で深刻な事故が起きたが、それは実はラッキーで、本当は東日本が壊滅するくらいの酷い事態もあり得た。今後原発の運転を続けるということは、そういう事態が起きても受け入れろということ。一体それを超えるどんな利益があるのか?私たちはそういう選択は断固拒否する。今後は全国で闘われている裁判をテコに、再稼働を許さないという運動を盛り上げていきましょう」。 

老朽原発の地元、福井県高浜町の東山幸弘さん、美浜町町議の松下照幸さんからはメッセージが届けられた。

東山さん「大阪集会と連帯した現地の行動として、私たちはただいま、工事中の高浜原発ゲートと福井県駅前広場でスタンディングの連帯行動を行っている。今、関電の原発は、廃炉となった4基を除き、老朽原発3基と再稼働を許した4基に1兆円を超す膨大な金をかけ、死亡事故を含む労災事故を多発させながら、しゃにむに突き進んでいる。今動いている高浜4号、大飯4号も定検のため10月~11月初めに停止する。関電は全機停止を避けるため、大飯3号の定検を早め7月20日から開始したが、工事を急いだため先月28日労災事故を起こした。再稼働には地元了解が必要だが、昨年の関電の不祥事で信頼関係は地に落ち、若狭住民は怒っている。こんないい加減な会社が、ただでさえも危険な老朽原発の運転・管理をすることは許されない。すべての原発が廃炉するまでがんばりましょう」。

松下照幸さん「美浜では2基の廃炉がきまり、3号機が来年1月の再稼働を目指している。施設の老朽化に加え、関電経営陣のコンプライアンス、ガバナンスの欠如が大きな問題となった。それでも規制委から『安全上問題なし』と判断が下された。一番心配なのは、集会テーマにある原発の老朽化です。2基の廃炉が決まり、定検がなくなり、美浜町の固定資産税が減少する。40年運転のためのテロ対策工事があって、ここ数年税収は安定したが、10年後の税収不足が見えてくる。40年を超えて今なお(原発の)地域振興が叫ばれるが、地域振興は公金をもらう方便で、土建政治が幅をきかせてきた。原発という資金源が細ると、たちまち町の運営が行き詰まる。その入り口にたって七転八倒しながら私は地区のにぎわい作りに頑張っている。福島の事故以降、町の雰囲気は大きく変わり、私を見る目も変わってきた。今は地域の中の数名で政策提案をつくるチームを作り、地域に政策提案をすべく頑張っています。当地においでの際には、ぜひ声をかけてください」。

最後に茨城県から「東海第二原発の再稼働を止める会」の披田信一郎さんが発言された。

2020年9月6日大阪市内うつぼ公園で行われた「9・6老朽原発うごかすな!大集会inおおさか」

実行委のカンパ訴えのあと、アメーバデモ、リレーデモなどを通じて聞いた若狭の人たちの声を「若狭の原発を考える会」の木戸恵子さんが紹介した。

「月2回4日間かけて、若狭の集落から集落を巡って原発反対のチラシを配り、アメーバデモを6年間続けてきた。また高浜原発から関西方面に向かう200キロリレーデモなどを繰り返し行い、原発立地や周辺自治体の方々の生の声を多数聞いてきた。配布したチラシは55万枚に及び、直接お話を伺った方々は2000人以上、多くの方が原発反対の自らの意見を披露された。
 8割以上の方が『原発いらん!ご苦労さん』と声をかけてくださった。チラシの受け取りを拒否したり、再稼働賛成という方はごくまれだった。特に『老朽原発の再稼働は絶対ダメ』の声が圧倒的だった。今後はこれを糧に老朽原発再稼働を阻止して、原発全廃を勝ち取るための、工夫を凝らした多様な行動を全国の皆さんと連帯して展開していきたい」。

2020年9月6日大阪市内うつぼ公園で行われた「9・6老朽原発うごかすな!大集会inおおさか」
2020年9月6日大阪市内うつぼ公園で行われた「9・6老朽原発うごかすな!大集会inおおさか」

次に「原発賠償関西訴訟原告団」副代表の佐藤勝十志(かつとし)さん。

「福島原発が事故を起こしたときたくさんの偽りがあった。3月12日爆発を起こした時、テレビやラジオは『福島原発は危機的状況だが爆発はしない。放射能は拡散されない。被ばくすることはない』と繰り返した。それを信じて避難する必要はないと考えて人はたくさんいた。しかし現実はどうだったか。3月11日時点で大熊町、双葉町、浪江町の住民の一部は、原発が危機的状況だからと、国が手配したバスで避難させられた。そのひとたちにも『1日、2日で帰れる』と嘘をついていた。そのため入れ歯まで置いてきて、とうとうそのまま福島に帰れず、昨年78歳で亡くなった人もいる。今抱えている嘘はトリチウム汚染水の問題、太平洋の海水で薄めて海に流すといっている。こんなことを認めたら、私たちの安全な生活は守れない。私たちの裁判でも訴えて闘ってまいります」

全国各地から集まった皆さん、関西の市民団体、労働組合の報告に続き、最後は「老朽原発再稼働を阻止し、それを突破口にして、原発全廃を勝ち取り、人の命と尊厳が大切にされる社会を展望したいと考える」との力強い決議(案)を採択し、集会を終えた。


◎[参考動画]老朽原発うごさすな!大集会inおおさか (たぬき御膳さん 2020.09.06配信)

▼尾崎美代子(おざき みよこ)

新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

9月11日発売開始『NO NUKES voice』Vol.25

『NO NUKES voice』Vol.25
紙の爆弾2020年10月号増刊
2020年9月11日発行
定価680円(本体618円+税)A5判/132ページ

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総力特集 ニューノーマル 脱原発はどうなるか
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[グラビア]〈コロナと原発〉大阪、福島、鹿児島

[報告]小出裕章さん(元京都大学原子炉実験所助教)
 二つの緊急事態宣言とこの国の政治権力組織

[インタビュー]水戸喜世子さん(「子ども脱被ばく裁判」共同代表)
    コロナ収束まで原発を動かすな!

[座談会]天野恵一さん×鎌田 慧さん×横田朔子さん×吉野信次さん×柳田 真さん
    コロナ時代の大衆運動、反原発運動

[講演]井戸謙一さん(弁護士/「関電の原発マネー不正還流を告発する会」代理人)
    原発を巡るせめぎ合いの現段階

[講演]木原壯林さん(若狭の原発を考える会)
    危険すぎる老朽原発

[報告]尾崎美代子さん(西成「集い処はな」店主)
    反原発自治体議員・市民連盟関西ブロック第四回総会報告

[報告]片岡 健さん(ジャーナリスト)
    金品受領問題が浮き彫りにした関西電力と検察のただならぬ関係

[報告]おしどりマコさん(漫才師/記者)
「当たり前」が手に入らない福島県農民連

[報告]島 明美さん(個人被ばく線量計データ利用の検証と市民環境を考える協議会代表)
    当事者から見る「宮崎・早野論文」撤回の実相

[報告]鈴木博喜さん(ジャーナリスト/『民の声新聞』発行人)
   消える校舎と消せない記憶 浪江町立五校、解体前最後の見学会

[報告]伊達信夫さん(原発事故広域避難者団体役員)
    《徹底検証》「原発事故避難」これまでと現在〈9〉
    「原発事故被害者」とは誰のことか

[報告]山崎久隆さん(たんぽぽ舎共同代表)
    多量の放射性物質を拡散する再処理工場の許可
    それより核のゴミをどうするかの議論を開始せよ

[報告]三上 治さん(「経産省前テントひろば」スタッフ)
    具体的なことと全体的なことの二つを

[報告]板坂 剛さん(作家/舞踊家)
    恐怖と不安は蜜の味

[報告]山田悦子さん(甲山事件冤罪被害者)
    山田悦子の語る世界〈9〉普遍性の刹那──原発問題とコロナ禍の関わり

[読者投稿]大今 歩さん(農業/高校講師) 
    マンハッタン計画と人為的二酸化炭素地球温暖化説

[報告]再稼働阻止全国ネットワーク
    コロナ下でも萎縮しない、コロナ対策もして活動する
《北海道》瀬尾英幸さん(脱原発グループ行動隊)
《石川・北陸電力》多名賀哲也さん(命のネットワーク代表)
《福島・東電》郷田みほさん(市民立法「チェルノブイリ法日本版」をつくる郡山の会=しゃがの会)
《規制委・経産省》木村雅英さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
《東京》柳田 真さん(たんぽぽ舎、とめよう!東海第二原発首都圏連絡会)
《浜岡・中部電力》沖 基幸さん(浜岡原発を考える静岡ネットワーク)
《読書案内》天野恵一さん(再稼働阻止全国ネットワーク)

私たちは唯一の脱原発雑誌『NO NUKES voice』を応援しています!

『NO NUKES voice』25号が9月11日発売開始! ニューノーマル下で不可欠となった〈原発なき社会〉の実現を考える

本日9月11日、『NO NUKES voice』25号が発売となります。新型コロナウイルスが収束しないため、24号同様、脱・反原発の集会、講演会、現場の報告は少ない一方、汚染水処理問題、六ケ所村の再処理工場開始、老朽原発再稼働の策動などを進める政府に対抗する重要な提言などを多数寄稿いただきました。

◆3・11とコロナ禍を経験した私たちは、今後何をすべきか?
 小出裕章さんの書下ろし長編論考「2つの緊急事態宣言とこの国の政治権力組織」

巻頭の小出裕章さんの報告「2つの緊急事態宣言とこの国の政治権力組織」では、新型コロナウイルスが蔓延し始めるなか、東京五輪の延期をしぶしぶ決断した政府が、その後のコロナの感染拡大を封じ込めれずに、今、私たちは放射能汚染とコロナウイルス汚染の2つの緊急事態宣言下に置かれていると解説する。

2つの間には、とりわけ社会的弱者に犠牲を強いること、さらにこの混乱に乗じ、権力の手先となって弱者、犠牲者を追い込める民間勢力の「自粛警察」が跋扈する危険性を共通項にして、警鐘を鳴らしている。安倍首相(当時)が、優雅に愛犬を抱いて紅茶を飲み、読書する「自粛」生活を披露したが、多くの人たちにはそんな優雅なことができる職場も住居もない。得体のしれないコロナに狼狽(うろた)えるしかなかった。十分に補償されない限り、危険を承知で働かざるとえなかった人も多い。これは事故後、福島第一原発から大量に放出された放射能を前にして、多くの人々が戸惑いや恐怖とともに感じた感覚と似ている。

しかしコロナウイルスの正体が徐々にではあるが解明されてきた今、3・11以降、あらゆる生活の過程で放射能を強要されている私たちは、新型コロナウイルス(COVID-19)という新たなウイルスと対面し、今後何をすべきかを考える必要がある。

「多様な他者の存在をお互いに大切にする社会の建設を目指すべきであり、そのためには、他者の痛みに共感できる子供を育てる必要がある」と小出さんは最後を締めくっている。コロナを体験した私たちが、今後どのような社会を構築していくべきか、本紙ご購入の上、ぜひ考えていただきたい。

今回、12000字超もの書下ろし長編論考「二つの緊急事態宣言とこの国の政治権力組織」を執筆してくださった小出裕章さん

◆7月9日大阪府高槻市「反原発自治体議員・市民連盟、関西ブロック第4回総会」から
 井戸謙一さんと木原壮林さんの講演録

反原発自治体議員・市民連盟関西ブロック第四回総会で講演を行った井戸謙一さん(上)と木原壮林さん(下)

多くの集会、講演会などが中止・延期されるなか、7月9日大阪府高槻市で開催された「反原発自治体議員・市民連盟、関西ブロック第4回総会」において行われた2つの記念講演、井戸謙一さん(弁護士・「関電の原発マネー不正還流を告発える会」代理人)の「原発をめぐるせめぎあいの現段階」、木原壮林さん(「若狭の原発を考える会」)の「危険すぎる老朽原発」の書きおこしを掲載した。

いずれのテーマも、今、反原発を闘うすべての人たちが、現場で闘う際、貴重な武器となるものだ。低線量被ばくや老朽原発の危険性などの、専門的で難解な内容も、非常にかみ砕いてわかりやすい解説である。ぜひ、様々な闘いの現場で参考にしていただきたい。井戸氏の「被ばくをめぐる5つの問題」の1つに提起された「不溶性微粒子問題」は、脱被ばく子供裁判を闘う過程で、各専門家の先生方のご尽力で解明されたもので、内部被ばくから引き起こされるさまざまな健康被害を研究する要となるものだ。

木原氏からは、老朽原発とは具体的にどんな原発かについて、例えば運転中の原発で国内初の死亡事故を起こした2004年8月の美浜原発3号機の配管破裂事故について、具体的に配管がどう腐食し事故に至ったかが詳細に説明された。そして、このような危険極まりない老朽原発の再稼働の阻止を突破口に、原発のない人の命と尊厳が大切にされる社会を実現しようと訴えられた。

◆喫緊の課題「コロナが収束するまで原発を止めろ!」が意味すること
 水戸喜世子さんが語る「ニューノーマル下で実現すべき脱原発社会」

 
「子ども脱被ばく裁判」共同代表の水戸喜世子さん

上記の高槻の講演会で久々に水戸喜世子さんに久々にお会いした。早速気になっていた5月18日、水戸さんら福井県など4府県6人で原告となり「新型コロナウイルスが収束するまで、関電の若狭の原発7基を止めろ」という仮処分の申し立ての話に及んだ。すると水戸さんは「記者会見にはどこ(のメディア)も書いてくれないのよ」と悔しそうにこぼされた。そういえば、その時点で本紙でも取り上げる予定はなかった。私は急遽、編集部に話し、水戸さんに取材インタビューすることが決まった。

確かに収束の見通しのたたないコロナ禍で、原発事故だけではなく台風、豪雨などが起きた場合の避難は喫緊の課題のはずだ。しかし大手メディアは申し合わせたように、この裁判を無視していた。「パチンコ屋に営業自粛を迫るのであれば、被害がけた違いに大きい原発の営業自粛をなぜ求め合いか」? 水戸さんはそう裁判を起こすきっかけを話し始め、私たちがまたもや「原発安全神話」の催眠術にはまり込んでいるとしか思えないと。

コロナ下で原発事故が起きた場合の、実行力のある避難計画は、国からも各自治体からも出されていない。そもそもコロナ禍で「3蜜を避け」「換気せよ」ということと、放射能防護のための「気密にせよ」は、相反するものである。つまり感染防止と災害避難は両立しない。これを契機に危険な原発は、今後どんなウイルスが発生しても止めるべきとの世論を広めなくてはならない。

水戸さんは「人間が環境との付き合い方を変えない限り、ウイルスが変幻自在に姿を変えて付きまとってくる予感がしまう」として、「脱原発を『ニューノーマル』とすることができたらドイツのように、新型コロナウイルスとの戦いにも勝てるに違いないと確信します」と締めくくられた。

今紙のテーマとなった「ニューノーマル」(新たな常態)とは、世界経済がリーマンショックから立ち直っても、もとの姿に戻れないとの見解から生まれた言葉で、構造的な変化が避けられない状態を示している。安倍から菅に代わろうとする政府は、来春の東京オリンピック開催を危ぶむ声が高まるなか、福島第一原発の汚染水問題で全世界を騙したように、コロナに対しても「アンダーコントロール」すると宣言した。しかし、3・11後の放射能と、今のコロナを経験した私たちは、汚染水もコロナも人間が自由に「アンダーコントロール」出来ないと知っている。元の姿に戻ることはできないならば、私たちが意識的に変わっていくしかないのだ。

水戸喜世子さんたちは「新型コロナウイルスが終息するまで、関西電力の若狭の原発7基の運転を止めろ」という仮処分を大阪地裁に申し立てた。7月21日には第1回審尋が開かれ、次回の審尋は9月14日午前11時より大阪地裁で開かれる。当日は申立人の一人で福島からの避難者が避難の実際を法廷で陳述する予定だ(2020年7月21日大阪にて/写真=鈴木裕之さん)

▼尾崎美代子(おざき みよこ)

新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

9月11日発売開始『NO NUKES voice』Vol.25

『NO NUKES voice』Vol.25
紙の爆弾2020年10月号増刊
2020年9月11日発行
定価680円(本体618円+税)A5判/132ページ

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総力特集 ニューノーマル 脱原発はどうなるか
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[グラビア]〈コロナと原発〉大阪、福島、鹿児島

[報告]小出裕章さん(元京都大学原子炉実験所助教)
 二つの緊急事態宣言とこの国の政治権力組織

[インタビュー]水戸喜世子さん(「子ども脱被ばく裁判」共同代表)
    コロナ収束まで原発を動かすな!

[座談会]天野恵一さん×鎌田 慧さん×横田朔子さん×吉野信次さん×柳田 真さん
    コロナ時代の大衆運動、反原発運動

[講演]井戸謙一さん(弁護士/「関電の原発マネー不正還流を告発する会」代理人)
    原発を巡るせめぎ合いの現段階

[講演]木原壯林さん(若狭の原発を考える会)
    危険すぎる老朽原発

[報告]尾崎美代子さん(西成「集い処はな」店主)
    反原発自治体議員・市民連盟関西ブロック第四回総会報告

[報告]片岡 健さん(ジャーナリスト)
    金品受領問題が浮き彫りにした関西電力と検察のただならぬ関係

[報告]おしどりマコさん(漫才師/記者)
「当たり前」が手に入らない福島県農民連

[報告]島 明美さん(個人被ばく線量計データ利用の検証と市民環境を考える協議会代表)
    当事者から見る「宮崎・早野論文」撤回の実相

[報告]鈴木博喜さん(ジャーナリスト/『民の声新聞』発行人)
   消える校舎と消せない記憶 浪江町立五校、解体前最後の見学会

[報告]伊達信夫さん(原発事故広域避難者団体役員)
    《徹底検証》「原発事故避難」これまでと現在〈9〉
    「原発事故被害者」とは誰のことか

[報告]山崎久隆さん(たんぽぽ舎共同代表)
    多量の放射性物質を拡散する再処理工場の許可
    それより核のゴミをどうするかの議論を開始せよ

[報告]三上 治さん(「経産省前テントひろば」スタッフ)
    具体的なことと全体的なことの二つを

[報告]板坂 剛さん(作家/舞踊家)
    恐怖と不安は蜜の味

[報告]山田悦子さん(甲山事件冤罪被害者)
    山田悦子の語る世界〈9〉普遍性の刹那──原発問題とコロナ禍の関わり

[読者投稿]大今 歩さん(農業/高校講師) 
    マンハッタン計画と人為的二酸化炭素地球温暖化説

[報告]再稼働阻止全国ネットワーク
    コロナ下でも萎縮しない、コロナ対策もして活動する
《北海道》瀬尾英幸さん(脱原発グループ行動隊)
《石川・北陸電力》多名賀哲也さん(命のネットワーク代表)
《福島・東電》郷田みほさん(市民立法「チェルノブイリ法日本版」をつくる郡山の会=しゃがの会)
《規制委・経産省》木村雅英さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
《東京》柳田 真さん(たんぽぽ舎、とめよう!東海第二原発首都圏連絡会)
《浜岡・中部電力》沖 基幸さん(浜岡原発を考える静岡ネットワーク)
《読書案内》天野恵一さん(再稼働阻止全国ネットワーク)

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《NO NUKES voice》「こんなの茶番だ」 「原発事故のリアル」を全く伝えていない福島県三春町の学習展示館「コミュタン福島」の茶番 民の声新聞・鈴木博喜

4年前、福島県田村郡三春町に華々しくオープンした「コミュタン福島」(福島県環境創造センター交流棟)。8月10日、避難先から一時的に郡山に戻っていた松本徳子さん(「避難の協同センター」代表世話人、福島県郡山市から神奈川県に避難継続中)に館内を観てもらった。

政府の避難指示にかかわらず娘を守ろうと区域外避難をし松本さんの目に何がどう映ったのか。90分ほどの滞在で、松本さんは呆れたように言った。「こんなの茶番ですよ」。今月20日には双葉町に「伝承館」がオープンする。果たして「原発事故のリアル」が伝わるような施設になるのだろうか。

福島県田村郡三春町の工業団地にある「コミュタン福島」

◆「こんなの茶番だ」

「こんなの茶番ですよ。ちゃんちゃらおかしい」

展示スペースを一通り巡り、松本さんは呆れたように言った。もう笑うしかない、という感じでもあった。三春町の工業団地に建てられた立派な施設には、〝原発事故のリアル〟とはほど遠い空間が広がっていたからだ。

受付で手指消毒をし、額で体温を測って入館。途中、ボタンなどに触れる場面もあるため、ビニール手袋を渡された。料金は無料。入るとすぐに来館記念バッジが配られていた。

実は、2011年当時を少しだけ感じ取れるコーナーもある。地元紙2紙がパネル展示されていて「第一原発3号機も『炉心溶融』」、「20キロ圏 警戒区域」、「高濃度放射能漏れ」、「汚染水1万1500トン海に放出」、「子ども全員 甲状腺検査」などの見出しが目に飛び込んでくる。「2011・3・11 14時46分からのふくしまの歩み」という年表もあった。インパクトのある言葉に、一気に2011年に引き戻される。松本さんがスマホで撮影を始めた。しかし、あの頃を想起させる展示は結局、ここだけだった。

パネル展示の横で、10分ほどの動画が上映されていた。女性のナレーターが「ようやく許された一時帰宅。しかし、そこにあったのは、すっかり変わり果てた故郷の姿でした」、「人々の生活は、毎日が放射線という見えないものとの闘いになりました」、「原発事故は福島から多くの物を奪い去りました」と読んでいる。そして、途中から構成は一変。ナレーションも「着々と避難指示が解除されてきました」、「復興へ向けての歩みは、一歩一歩着実に進んでいます」に変わった。原発事故被害に触れているようでいて、しかし、区域外避難の苦労やモニタリングポスト撤去計画、除染で生じた汚染土壌の再利用計画などには一切、触れていない。上映中、松本さんは何度も首を傾げていた。

原発事故発生当時の生々しい様子を伝えるのは地元紙の展示くらい。松本さんは「茶番だ」と呆れた

◆「福島はがんばっている」

「コミュタン福島」は2016年7月21日、「福島県環境創造センター交流棟」として田村西部工業団地内にオープン。ホームページには「県民の皆さまの不安や疑問に答え、放射線や環境問題を身近な視点から理解し、環境の回復と創造への意識を深めていただくための施設です」と書かれている。

2013年02月28日の福島県議会で、当時の生活環境部長が次のように答弁している。

「福島県環境創造センターにつきましては、放射性物質に汚染された環境を一刻も早く回復するため、モニタリング機能を初め調査研究、情報収集・発信、そして教育・研修・交流の4つの機能を有する施設を三春町に、モニタリングや安全監視機能を有する施設を南相馬市に整備します。また、全体事業費は概算で約200億円、そのうち整備後10年間の調査研究費を含む維持管理費は概算で約100億円を見込んでおります」

福島県が2018年3月時点でまとめた資料では、「環境創造センター」全体の整備費は約127億円、年間維持費は約9億円とされている。それだけの金をかけて、特に子どもたちには何を伝えたいのか。

「放射線に関する学校での学習内容を踏まえ、「知る」「測る」「身を守る」「除く」のテーマ別に展示エリアを設け、このうち「知る」エリアでは、宇宙からの放射線についても展示するなど、子供たちの関心や疑問などにわかりやすく答えるようにするとともに、体験を通して学ぶ展示と知識を探求する展示等を組み合わせることにより、子供たちがみずから考え、行動する力が育まれるよう取り組んでまいります」(2014年03月03日の福島県議会)

「「知る」、「測る」、「身を守る」、「除く」のテーマ別に展示エリアを設け、体験や対話を通して子供たちの疑問にわかりやすく答えるとともに、学校の授業と連動した学習教材の配布、放射線測定器などを使った実験、360度全球型の環境創造シアターにおける「放射線の話」と題した映像での学習などを通して、子供たちの関心を高めながら放射線を正確に理解できるよう取り組んでまいります」(2016年06月28日の福島県議会)

しかし、歴代生活環境部長の期待に応えているのか反しているのか、来館した子どもたちの感想文は次のようなものだった。

「大きくなったら原発に関係する仕事について、避難している人が早く戻って来られるようにしたいです」

「コミュタンで学んだことがあります。福島はがんばっているということです」

「放射線で人々が苦しみましたが、放射線は悪いものばかりではなく、私たちの暮らしの中で使われていることが分かりました」

館内に展示されている子どもたちのメッセージ。放射線に対して好意的な内容ばかりだった

◆「広島を見習って」

「環境創造シアター、間もなく上映開始いたしまーす」

スタッフの声に誘われるように、全球型のシアターに入った。360度の迫力ある映像を堪能出来るという。しかし、内容は原発事故と全く関係無かった。「海の食物連鎖」。ナレーターは俳優の竹中直人。ディズニーランドのアトラクションのような5分番組を2本、続けて観たら、酔ってしまった。後に「放射線の話」と「福島ルネサンス」の2本を再び観る事になるのだが、こちらも物理の授業のようなものと福島の観光案内。ナレーターは福島出身の白羽ゆりと西田敏行だった。

「原発事故の生々しさはここでは扱っていません。そういうものは双葉町にオープンする『伝承館』であります」と男性スタッフ。シアターを出ると、「コミュタン、またくるー」、「福島がんば」など、目の前の画面に様々なメッセージが流れている。シアター前に設置されている機器で入力すると、「ニコニコ動画」のコメントのように、画面の右から左へ表示される仕組み。

90分ほど館内を歩き、松本さんは言った。

「広島の平和記念資料館のように、原発事故で起きた事を具体的に感じるものを展示しないと。ここにあるような綺麗事ではなくて、つらくなるようなもの、見たくなくなるものも必要だと思うんです。ここには感じ取れるものが無いですね。生々しさがありません」

そして、冒頭の言葉になった。「復興」と「がんばろう」と「原子力の有用性」が飛び交う施設。女性スタッフは、先の男性スタッフと同じような言葉を口にした。

「双葉町に出来る『伝承館』で、これまでを振り返るとこを強く展示していきます。コミュタンは、これからどうしていくかという方をフォーカスしているのです」

「伝承館」は9月20日、オープンする。そこでは「原発事故の生々しさ」は感じ取れるだろうか。

▼鈴木博喜(すずき ひろき)

神奈川県横須賀市生まれ、48歳。地方紙記者を経て、2011年より「民の声新聞」発行人。高速バスで福島県中通りに通いながら、原発事故に伴う被曝問題を中心に避難者訴訟や避難者支援問題、〝復興五輪〟、台風19号水害などの取材を続けている。記事は http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/ で無料で読めます。氏名などの登録は不要。取材費の応援(カンパ)は大歓迎です。

9月11日発売開始『NO NUKES voice』Vol.25

『NO NUKES voice』Vol.25
紙の爆弾2020年10月号増刊
2020年9月11日発行
定価680円(本体618円+税)A5判/132ページ

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総力特集 ニューノーマル 脱原発はどうなるか
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[グラビア]〈コロナと原発〉大阪、福島、鹿児島

[報告]小出裕章さん(元京都大学原子炉実験所助教)
 二つの緊急事態宣言とこの国の政治権力組織

[インタビュー]水戸喜世子さん(「子ども脱被ばく裁判」共同代表)
    コロナ収束まで原発を動かすな!

[座談会]天野恵一さん×鎌田 慧さん×横田朔子さん×吉野信次さん×柳田 真さん
    コロナ時代の大衆運動、反原発運動

[講演]井戸謙一さん(弁護士/「関電の原発マネー不正還流を告発する会」代理人)
    原発を巡るせめぎ合いの現段階

[講演]木原壯林さん(若狭の原発を考える会)
    危険すぎる老朽原発

[報告]尾崎美代子さん(西成「集い処はな」店主)
    反原発自治体議員・市民連盟関西ブロック第四回総会報告

[報告]片岡 健さん(ジャーナリスト)
    金品受領問題が浮き彫りにした関西電力と検察のただならぬ関係

[報告]おしどりマコさん(漫才師/記者)
「当たり前」が手に入らない福島県農民連

[報告]島 明美さん(個人被ばく線量計データ利用の検証と市民環境を考える協議会代表)
    当事者から見る「宮崎・早野論文」撤回の実相

[報告]鈴木博喜さん(ジャーナリスト/『民の声新聞』発行人)
   消える校舎と消せない記憶 浪江町立五校、解体前最後の見学会

[報告]伊達信夫さん(原発事故広域避難者団体役員)
    《徹底検証》「原発事故避難」これまでと現在〈9〉
    「原発事故被害者」とは誰のことか

[報告]山崎久隆さん(たんぽぽ舎共同代表)
    多量の放射性物質を拡散する再処理工場の許可
    それより核のゴミをどうするかの議論を開始せよ

[報告]三上 治さん(「経産省前テントひろば」スタッフ)
    具体的なことと全体的なことの二つを

[報告]板坂 剛さん(作家/舞踊家)
    恐怖と不安は蜜の味

[報告]山田悦子さん(甲山事件冤罪被害者)
    山田悦子の語る世界〈9〉普遍性の刹那──原発問題とコロナ禍の関わり

[読者投稿]大今 歩さん(農業/高校講師) 
    マンハッタン計画と人為的二酸化炭素地球温暖化説

[報告]再稼働阻止全国ネットワーク
    コロナ下でも萎縮しない、コロナ対策もして活動する
《北海道》瀬尾英幸さん(脱原発グループ行動隊)
《石川・北陸電力》多名賀哲也さん(命のネットワーク代表)
《福島・東電》郷田みほさん(市民立法「チェルノブイリ法日本版」をつくる郡山の会=しゃがの会)
《規制委・経産省》木村雅英さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
《東京》柳田 真さん(たんぽぽ舎、とめよう!東海第二原発首都圏連絡会)
《浜岡・中部電力》沖 基幸さん(浜岡原発を考える静岡ネットワーク)
《読書案内》天野恵一さん(再稼働阻止全国ネットワーク)

私たちは唯一の脱原発雑誌『NO NUKES voice』を応援しています!

日本社会に巣くう安倍政権7年8カ月間の血栓はいつ破裂するか?【後編】日本にはびこる二つの“安倍血栓” 林 克明

前編に引き続き、後編は安倍政権の具体的な“犯歴”を列挙するのが目的である。

安倍政権がこれまで進めてきた日本破壊活動を、人体になぞらえて「血栓」(血管内にできる血の塊)と表現している。

第一の血栓を“イデオロギー系”とすれば、第二の血栓は“現世利益系”で、忖度や汚職に関係する分野である。

第一の血栓は、安倍自民党政権の好戦的で全体主義的な体質の起源である尊王攘夷思想。この思想にもとづいて明治国家はつくられ、第二次大戦の敗戦を招いた。そして、戦後も続いていることが、日本にとっての血栓(危険因子)だと前編で指摘した。

第二次大戦で彼らが復活していることは前編で指摘したが、それでも第二次大戦後は新しい憲法ができて、まがりなりにも日本は民主体制への道を歩みだした。

安倍政権とその支持者らにとっては、この日本国憲法体制=戦後レジームはとんでもないもので、少しでもかつての長州レジーム(エセ尊王攘夷体制)を復活させたいと彼らは意識的あるいは無意識的に考えているのではないだろうか。

「戦後レジームからの脱却」などと安倍首相は言い始めた。まさに第一の血栓を象徴する表現だが、実際にやったことを挙げる前に、まずは基本体質を明示する出来事を振り返ってみよう。

安倍退陣を求める大規模デモは何度も起きていた。写真は2018年4月、国会議事堂前

◆体質を表す失言(本音)

「こんな人たちに負けられない」

安倍政権転落の歴史的発言だ。2017年都議選最終日に東京秋葉原で、安倍辞めろコールをする人々に対しムキになって口(本音)を滑らせた。国民を分断させる総理の本質が、ひと言でわかってしまった歴史的発言だ。

「マスコミを懲らしめる」

失言の多さから“魔の自民党二回生”と言われる一群の人たちがいる。大西英男議員もその一人。勉強会「文化芸術懇話会」で、大西英男議員は「マスコミを懲らしめるには、広告料収入がなくなるのが一番」とぶち上げた。あからさまな報道圧力だが、その後も反省する気配はない。

安倍晋三氏は、メディアを恫喝するのが大好きである。2001年10月30日にNHKが放送したETV特集シリーズ「戦争をどう裁くか」の第2夜「問われる戦時性暴力」で、慰安婦問題などを扱う民衆法定について放映した。放映前から、経済産業省・故中川昭一と、当時は副官房長官だった安倍晋三が番組に圧力をかけたとされる事件が有名だ。

「治安維持法は適法に運用された」

共謀罪法案が焦点になっていた17年5月2日の衆院法務委員会で、畑野君枝衆議院議員が治安維持法犠牲者の救済と名誉回復について質問し、金田勝利法相が答弁したもの。安倍自民政権の本質を表している。法手続きもデタラメに運用して国民を弾圧した治安維持法の運用を適法と考える安倍政権が共謀罪を強行成立させたのは悪夢としか言いようがない。

「(自民党候補の応援を)自衛隊としてお願いしたい」

安倍首相の秘蔵っ子、不祥事と失言連発の稲田朋美防衛大臣の発言だ。自民党が歴史的大敗を喫した17年都議会議員選挙の最中、自民党候補を応援する集会で「防衛省・自衛隊、防衛相、自民党としても、お願いしたいと思っているところだ」と訴えた。実力組織である自衛隊を政治利用するもので、ありえない発言。安倍首相は彼女を罷免もしなければ強い叱責もしなかった。

◆“尊攘派”が喜ぶトンデモ法の数々

基本的な「安倍エセ尊攘派政権」の体質を踏まえたところで、具体的に犯した重要案件をピックアップする。

特定秘密保護法

権力者たちが失政や不正を隠すために作った法律である。「秘密は秘密」なので何が秘密か一般人にわからないため、何をしたら逮捕されるのかわからない。特定秘密を洩らせば最高懲役10年という重刑だ。

「記憶にございません」「記録は破棄しました」などという政治家や官僚の答弁を“合法化”した悪法と言えよう。それは特定秘密に指定されています、といえば何で通ってしまう。

しかも、委員会では怒号が飛び交い与野党議員が議長席に詰めかける中、議長の発言も聞き取れず正式な記録も採れず、採決もどきをしただけで本会議に回して強行採決した。まったく非合法にでっちあげたのが特定秘密保護法。この悪しきパターンがこれ以降、国会の日常風景となった。

集団的自衛権の行使容認の閣議決定

他国のために軍事行動をとるのが集団的自衛権だ。歴代自民党政権は、自衛
隊の目的を専守防衛としてきたが、2014年7月1日に集団的自衛権の行使容認を閣議決定した。本来、憲法を改正しなければならないにも関わらず、20人に満たない閣僚たちによって“無血クーデター”がなされたに等しい。

安保関連法制の強行採決

集団的自衛権の行使とセットになった11本の法律から成り立ち、一つひとつ慎重審議すべき内容なのに、一本にまとめて審議を進める乱暴さだった。世界中どこにでも自衛隊を派遣できることになってしまい、さすがに危ないと思った人たちが国会に押し寄せ、大きな社会運動が起きた。

しかし、またしても強行採決。与野党対決法案を片っ端から強行採決する独裁ぶりを示したといえよう。この安保法制を成立・運用するためには情報を統制し、反対者を排除しなければならない。そのための秘密保護法、盗聴法拡大、共謀罪だ。

沖縄の新基地建設問題

安保関連法や共謀罪法の最先端に立たされているのが沖縄である。工事を強行し、反対者を逮捕。なかでも、沖縄平和運動センターの山城博治議長が抗議活動中に逮捕されて長期間拘束されたことに関し、共謀罪の先取りではないかと批判の声があがった。

このほか、県外からも大量の機動隊員を沖縄に導入し、機動隊員が「土人」発言で問題になった。近隣諸国には居丈高で好戦的対応をし、国民には抑圧的態度、その一方で宗主国に対しては靴底をなめるようなドレイぶり。

これこそまさに江戸時代末期から台頭した“尊攘派”の特徴を示す。

共謀罪、刑訴法&盗聴法改悪

しゃにむに戦争体制準備体制の確立に向かって暴走してきた安倍政権。2016年5月には、「刑事訴訟法等の一部を改正する法律」を成立させた。同法をわかりやすく表現すると、盗聴の対象を大幅に拡大し、司法取引の導入、法定での匿名証人を認めるなど、その後に成立した共謀罪への橋頭保ともいえるものだった。

これに共謀罪法が加わると、将来共謀罪法の対象に全部盗聴できるようにするなどが心配である。そうなったら超監視社会になってしまう。
  
極め付きは、2018年6月の共謀罪法の強行採決だ。委員会での審議も終わらないのに本会議で中間報告という形を悪用して強行採決してしまい、さっそく2018年7月11日から施行されている。

犯罪を実行していないのに逮捕を含む強制捜査をするからたまらない。何よりも、具体的に何をどうすれば共謀(犯罪の計画)にあたるのかほとんどの人がわからないところが危険だ。

一連の治安立法は、権力者の失政と不祥事を隠し、反対者を弾圧するために不可欠のものである。安倍政権にサヨナラした後にまっさきに実行すべきは、共謀罪法などのトンデモ法の一括廃止法案を可決することだろう。

◆第二の「血栓」汚職系

尊王攘夷的発想を土台とする第一の血栓につづいて、第二の血栓だ。これは汚職やデータ改ざんなどに関係する。もっとも、第一と第二は連動しているが。

森友学園問題

安倍昭恵夫人が名誉校長を務めていた森友学園運営の「瑞穂の國記念小学院」開校のために国有地を格安で払い下げ。値引きの理由だった地下に埋まっているゴミがもともとほとんどなかったことが判明した。

昭恵夫人から「安倍晋三からです」と100万円受け取ったと籠池泰典・森友学園前理事長は証言した。同学園は、過去に「安倍晋三記念小学校」の名目で寄付が募られていた。

安倍総理は。「私や妻が関わっているなら総理も国会議員も辞める」と2017年2月17日の衆院予算委員会で、民進党の福島伸享氏への答弁で明らかにした。関与は明らかも総理も議員も辞めず、昭恵夫人の証人喚問も拒否。

この事件をめぐっては、複数の死者が出ている。

加計学園事件

総理の親友である加計孝太郎氏が理事長を務める学校法人・加計学園。その岡山理科大学の獣医学部新設をめぐる事件である。安倍氏の「ご意向」で新学部の設立が認められたというものだ。

一切かかわりないということだったのに、「総理のご意向」なる文書の存在が明らかになり、「文書は間違いなく存在し官邸からの働きかけがあった」と文科省前事務次官の前川喜平氏が証言して大問題に。その後も、関与したとする証拠が出てきているにもかかわらず、責任を認めない。

河合克行・杏里夫妻事件

前法相の河井克行衆院議員と妻・案里参院議員が公職選挙法違反(買収)容疑で逮捕された事件だ。
 
2019年夏の参院選で、河井案里容疑者の陣営に自民党本部から支出された1億5000万円と、買収容疑がポイントである。

もちろん、自民党本部が買収目的で1億5000万円の資金を提供しているのなら、党総裁である安倍晋三氏の刑事責任が問われる可能性が高い。

そもそも自民党内で決して重鎮ではない河合案里氏に1億5000万円もの巨額資金を党本部が拠出したこと自体、普通ではない。

以上、「安倍さんがんばった」というバカコメントに代表されるような一部の風潮に対して、安倍政権が何をしたか前編と後編わけて記録した。

安倍政権とその追随者たちによって、血管のあちこちに血栓ができ、日本は危険な状態である。

いまなすべきは、体中にできた血栓を溶かすための地道で確実な作業ではないだろうか。

▼林 克明(はやし・まさあき)
 
ジャーナリスト。チェチェン戦争のルポ『カフカスの小さな国』で第3回小学館ノンフィクション賞優秀賞、『ジャーナリストの誕生』で第9回週刊金曜日ルポルタージュ大賞受賞。最近は労働問題、国賠訴訟、新党結成の動きなどを取材している。『秘密保護法 社会はどう変わるのか』(共著、集英社新書)、『ブラック大学早稲田』(同時代社)、『トヨタの闇』(共著、ちくま文庫)、写真集『チェチェン 屈せざる人々』(岩波書店)、『不当逮捕─築地警察交通取締りの罠」(同時代社)ほか。林克明twitter

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