【カウンター大学院生リンチ事件(別称「しばき隊リンチ事件」)検証のための覚書17】あらためて〈差別〉について考える──鹿砦社特別取材班キャップで広島原爆被爆二世の田所敏夫さんのカミングアウトに触発されて 鹿砦社代表 松岡利康

対李信恵第2訴訟が大詰めに近づいています。ここにおいて当方は田所敏夫さん(ペンネーム。鹿砦社社員ではなく、下記に述べるようなことから畏敬の念を持って「さん」付けとしました)と私が陳述書を提出しました。

私は2018年9月5日、19年1月7日、2020年5月14日に続いて、去る8月20日、この日は裁判所が長い“休業”明けで久しぶりに期日が入り、4度目の陳述書を提出しました。

この陳述書に於いて私は、田所さんの陳述書と、8月6日付けの本通信での広島原爆被爆二世であるとのみずからの出自を公にカミングアウトされたことに触発され、この訴訟にも密接にリンクする、〈差別〉、そして〈差別と暴力〉について、私の体験や身近の出来事を中心に思う所を申し述べてみました。

そもそもこの対李信恵第2訴訟は、「鹿砦社はクソ」「クソ鹿砦社」と誹謗中傷した訴訟の終盤になって突如「反訴」として提訴(賠償金550万円と出版差止め等)してきたものですが、裁判所にも考えがあってのことで、「反訴」とはならず「別訴」として独立した訴訟として係争中のものです。

尚、元々の訴訟は李信恵の不法行為が認定され〈鹿砦社勝訴─李信恵敗訴〉が確定しています。

以下は、この「第4陳述書」を下敷きにして、訴訟用語を排し一般向けに書き直したものです。2回に分けて分載します。

◆「反差別」は李信恵らの“専売特許”ではありません

そもそも李信恵らが殊更に「反差別」を叫ぶことで、一般的には「反差別」が李信恵らの“専売特許”のように広まっています。特に朝日新聞はじめ大手メディアが李信恵を、リンチ事件に関わったことを隠し、事あるごとに持ち上げることで、李信恵がリンチ事件に関わったことが隠蔽され、闇に葬られつつあることは遺憾なことです。

確かに私たちは実際に反差別の運動や組織に関わっているわけではありません。しかし、だからといって私たちが〈差別〉について考えていないということではありません。私たちなりに考え、悩み、差別解消へみずからの身の回りから努めてきたつもりです。世の中、ほとんどの人々が“もの言わぬ大衆”で、“もの言わぬ大衆”が〈差別〉について考えていないということではありません。

また、私たちが李信恵らの「反差別」運動を批判することをもって、私たちが〈差別〉について考えていないように意図的に喧伝する者がいますが、とんでもありません。私たちはあくまでも李信恵らの“歪曲された反差別運動”を批判しているのであり、だからといって、反差別運動全般を否定しているわけでも“反差別に反対”しているわけでもありません。これまでは「あらゆる差別に反対する」とファジーに述べてきましたが、このたび勇気を持ってみずからの差別体験をカミングアウトした田所敏夫さんらの存在を明らかにすることで、私たちの差別に対するスタンス、これを元に李信恵の「反差別」の言動に対する違和感を示します。

◆広島原爆被爆二世の田所敏夫さんの想いと怒り

今回、田所敏夫さんが、陳述書を書いてくれ、また尋問に出廷することを承諾されました。

彼の〈差別〉に対する想いと怒り、感情と認識は、彼が広島原爆被爆二世という出自に基づいています。私たちは内々に聞いていて、私たちの〈差別〉に対する考え方に大きく影響しています。つい最近、彼は李信恵の提訴の一部になっている「デジタル鹿砦社通信」に於いて、2020年8月6日、広島原爆投下75年の日に公にカミングアウトしました(同通信参照。この文をはじめ田所さんは常々ペンネームの「田所敏夫」を使っていますが、これは、実生活での不利益を最大限防止するためと、大学職員時代の上司〔故人〕の、権威に屈しない精神と遺志を継承するという決意から来ています)。

広島原爆被爆者や、その二世、三世は、戦後75年間ずっと〈差別〉に晒されてきました。「マイノリティ」という、李信恵らが頻繁に使う言葉を借りれば、原爆被爆者や、その二世、三世は日本の人口からすれば「マイノリティ」です。李信恵ら在日コリアンよりも圧倒的に少数です。

田所さんは、多くの病気を罹患され、最近ではがんを罹患されています。そうした症状は、原爆被爆二世(からくる体内被曝)から来ることは容易に推認されることで、容貌にも表われています(田所さんは白内障や顔面皮膚疾患も患っており、よほど親しい間柄でない限り写真の撮影を断っていました)。

こうしたことを顧みず、李信恵を支持し連携する野間易通という者が、田所さんの本名や職歴(大学職員)などと共に顔写真を意気揚々とネットに晒しましたが、田所さん本人や私たちの怒りは相当なものでした。

野間は、李信恵同様「反差別」運動界隈のリーダー的存在ですが、彼には田所さんの人権への配慮はなかったのでしょうか? また、この際に野間と親しい李信恵や彼女の代理人弁護士(神原元、上瀧浩子弁護士)らは叱責し止めさせたのでしょうか? 当時は田所さんが広島原爆被爆二世ということをカミングアウトしないのをいいことに、やんややんやと囃し立てていたんじゃないですか?

こうしたことからしても、李信恵らが語る「反差別」や「人権」が贋物だということが窺えます。「反差別」や「人権」に名を借りたまがい物です。偽物のメッキはいつかは剥がれます。

◆田所さんらから多くを学びました

被差別者である田所さんとの付き合いで、私は多くのことを学び、くだんのリンチ事件に対する認識や関わり方に於いても参考になることも多々ありました。李信恵の言動に対する受け止め方も、彼の違和感や意見に基づいています。

田所さんは、本件リンチ事件の調査・取材に中心になって奔走してくれましたが、彼の動きは私の期待以上でした。それは、生を受けて以来〈差別〉を身を持って体感し、身に付いた〈真に差別に反対する〉という意識が、李信恵らの“歪曲された反差別運動”に対する怒りとなって、これが基になっているのではないか、と私は思っています。

田所さんに加え、私たちの周囲や、取材に協力してくれた方々には、多くの在日二世、三世の方々や被差別部落出身の方々、さらに戦後から差別を受けてきた沖縄の方々や、2011年東日本大震災での原発事故以降避難先で差別を受けている福島の方々がおられます。ほとんどの方が生活に追われ日常的に何らかの差別を受け、しかし多くは実際の運動に関わっているわけではありません。前述したように、いわゆる“もの言わぬ大衆”です。

私たちは、田所さんはじめ、上記の心ある方々に多くの意見やサジェッションをいただき、これらは5冊の出版物に反映させています。

「反差別」は決して李信恵らの“専売特許”ではありません。なにか「自分らは差別されている」と殊更強調し、だからといって、過剰に批判者に対し汚い言葉で個人攻撃したり暴力を振るっていいわけではありません。

この第2訴訟に先立つ元の訴訟では、鹿砦社に対する暴言や誹謗中傷で裁判所は李信恵の不法行為を認定しています。また、リンチ関連本弾5弾『真実と暴力の隠蔽』巻頭グラビア「李信恵という人格の不可思議」には李信恵の暴言の数々(のほんの一部)が掲載されていて驚かされます。さらには、リンチの最中、被害者M君が痛めつけられているのを見ても、李信恵は、“名台詞”として有名になった「まぁ殺されるんやったら店の中入ったらいいんちゃう?」という非人間的で冷酷な言葉を言い放つ──李信恵の非人間性を表わしています。本件リンチ事件を調べていって本当に驚きました。現代の「反差別」運動は、ここまで堕落しているのか、言葉がありませんでした。

李信恵の暴言の一部。これを見て、この人が反差別運動のリーダーにふさわしいと誰が思うのか!?

後述(次回に掲載)する「八鹿高校事件」や「糾弾闘争」から変わっていないじゃないか、と率直に感じました。

そのように、本件リンチ事件についての当該出版物や「デジタル鹿砦社通信」の記事に於いて、バックには、取材に協力してくれた多くの方々という“もの言わぬ大衆”の“声なき声”を取材者が拾い上げ、それが深く反映されているものと思っています。

本来なら、運動家、特にこのリーダー格の人間こそ、“もの言わぬ大衆”の“声なき声”を汲み取り、それを代弁しなくてはいけないわけですが、果たして李信恵にその姿勢があるかどうか、ここ4年余りのリンチ事件に対する取材や被害者支援の活動から大いに疑問を感じています。

リンチ直後の被害者M君の顔写真。この写真を見て平静でいられる人はいるのか?
5軒の飲食店を飲み歩き「日本酒に換算して一升近く飲んだ」と告白した李信恵のツイート。泥酔してリンチがあったのを知らなかったと弁解したつもりだが、「語るに落ちる」とはこのことで、5軒の飲食店を飲み歩き「日本酒に換算して一升近く飲んだ」ことを自己暴露

日頃から夜な夜な飲み遊び、くだんのリンチ事件の日も前日夕方から5軒飲み歩き「日本酒にして一升」を飲んだと豪語し泥酔、日付が変わった深夜、その勢いで集団でリンチに及ぶような者にリーダーとしての品格を見て取ることなどできるでしょうか。いやしくも「反差別」や「人権」運動のリーダーたる者は、日頃からみずからを律し、飲み遊ぶ時間を自己研鑽に当てるべきでしょう。そうではないですか? 私の言っていることは間違っているでしょうか?

私はこれまで、田所さんのことは知っていても、本人がカミングアウトしていないことで内に秘めてきました。このたび期することがあって公にカミングアウトされたことに強く衝撃を受けました。

次回に掲載する〈差別と暴力〉についても、これまで部分的に述べてはいても、まだまだ不十分さが否めませんでした。

私にしても田所さんにしても、〈差別〉や〈差別と暴力〉の問題、つまりそれと密接にリンクするM君に対するリンチ事件についても、薄っぺらい“コメント”や“評論”に終始してこなかったことだけは自信があります。被差別者である田所さんは勿論、私も田所さんらに学び、徹底して取材・調査し、私の能力の限り本質的に迫ろうと努めてきたつもりです。リンチ事件は私自身の問題として関わってきたことだけは申し上げることができます。(本文中、田所さんを除き敬称なし)
                     

《関連過去記事カテゴリー》
 M君リンチ事件 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=62

伊藤詩織氏がセカンドレイパーを提訴 「ツイート」の「いいね」も民訴(損害賠償)の要件になるか?

ジャーナリストの伊藤詩織氏が、予告どおりセカンドレイパーを提訴した。元TBS社員の山口敬之氏から性的暴行を受けた(2020年1月、民訴で認定)伊藤氏は、2017年に実名を明らかにした後、ネット上で事実に基づかない誹謗中傷を受けていたのだ。


◎[参考動画]伊藤詩織さん 自民議員を提訴 中傷ツイッターに「いいね」

いわゆるセカンドレイプについて、伊藤氏は以下のように宣言している。

「民事でのピリオドが打てましたら、次は(セカンドレイプへの)法的措置を考えています。というのは、こういう措置を行わなければ、同じことがどんどん続いてしまう。一番心苦しいのは、私に対するコメントを見て、他の(性被害)サバイバーたちが『自分も話したら同じように攻撃されるんじゃないか』と思ってしまう。そういうネガティブな声をウェブに残してしまうことが、いろんな人を沈黙させてしまう理由になるので、法的措置を取りたいと思います」(2017年5月29日、司法記者クラブの会見で)

予告どおり、伊藤詩織氏は法的措置に出たということになる。

今回伊藤氏が提訴したのは、自民党の杉田水脈衆議院議員(220万円の損害賠償)および元東大特任准教授(民族差別の書き込みで懲戒解雇)の大沢昇平氏(110万円)である。

これに先立つ6月、やはりネット上でイラストなどで誹謗中傷したとして、伊藤氏は漫画家のはすみとしこ氏を提訴している(550万円の損害賠償)。


◎[参考動画]伊藤詩織さんが漫画家はすみとしこさんらを提訴 ツイッターのイラスト巡り(毎日新聞2020年6月8日公開)

 

その誹謗中傷の中身を、まずは検証しておこう。

はすみとしこ氏の場合は、伊藤氏に似た「山ロ(ヤマロ)沙織」を主人公にして、大物記者と寝る「枕営業」をしたと描写したり、伊藤氏の著書『BLACK BOX』に似た名前の『CLAP BOX』を「デッチあげ」だとしていたものだ。上手なイラストなので、百聞は一見に如かず。

「顔にこだわった!」というとおり、伊藤詩織氏によく似ている。しかし、山口敬之氏はあまり似ていない(山口氏の頭髪は薄く、あごひげがトレードマークだ)。

杉田水脈議員の場合はBBCの番組で、伊藤さんが「男性の前で記憶がなくなるまでお酒を飲んだ」ことが「女として落ち度がある」などと発言(のちに一般論と釈明)。

ツイッターでは、以下のように批判していた。

「伊藤詩織氏の事件が、それらの理不尽な、被害者に全く落ち度がない強姦事件と同列に並べられていることに女性として怒りを感じます」

「もし私が、『仕事が欲しいという目的で妻子ある男性と2人で食事にいき、大酒を飲んで意識をなくし、介抱してくれた男性のベッドに半裸で潜り込むような事をする女性』の母親だったなら、叱り飛ばします」

「『そんな女性に育てた覚えはない。恥ずかしい。情けない。もっと自分を大事にしなさい。』と」

大沢昇平氏は、伊藤詩織氏が漫画家はすみとしこ氏のツイートをリツイートした2人を相手に損害賠償などを請求する訴訟を東京地裁に起こした件(6月)について、ツイッターで反応したものだ。

「伊藤詩織がはすみとしこを訴えるって話だけど、どういうロジックで訴えるんだ? 別に伊藤詩織を名指しで誹謗中傷してるわけじゃないから、名誉棄損には当たらないでしょ」

「伊藤詩織の何がダメダメかって、刑事裁判でレイプが認められなかったにもかかわらず、その後の民事裁判の結果をレイプを関連付けている点。今回もやってることの筋が通っておらず全く支持できない」などと、批判的な投稿をしている。

いまのところ、はすみとしこ氏の反応は、「ハッキリ言っておく。100対0で負けたって、私は謝罪もしないし、金も払わない。私には財産が無い。車や土地屋敷、着物類だって親名義、PCは仕事で使うので差し押さえ不可。私の給料は月5万以下で、社長は差し押さえ拒否すると言ってる。取れるモンなんてなーんも無い!ちょっとは調べてから訴えな!」と、徹底抗戦の構えだ。

いっぽう、大澤昌平氏は、「伊藤詩織とかいう活動家が突然俺を訴えると言い出した。正直全く意味が分からない。『いいね』の何が良くないのか知らんが、もし悪い判例ができてしまえば左翼の言論弾圧は益々加速し、日本から言論の自由が奪われる。俺は断固抗戦する。ここで裁判費用の寄付を募りたい。志ある者の支援を求む!」と、こちらも意気軒高である。

◆「いいね」は構成要件になるのか?

大澤氏が指摘しているとおり、提訴の要件がみずから書いた「ツイート」ではなく他人のツイートへの「いいね」だけなのであれば、かなり微妙かつ画期的な司法判断が問われることになる。

訴状によると、杉田氏は国会議員であること。当時11万人のフォロワーを持ち、言論に影響力を持つ杉田氏が伊藤氏を中傷するコメントに繰り返し「いいね」を押したことは「限度を超えた名誉侵害にあたる」と主張しているという。

本来の総理官邸御用ライターによる「レイプ事件」をこえて、新たな争点が出てきたと考えるべきであろう。


◎[参考動画]性暴力被害者へ「自分の真実、信じて」 伊藤詩織氏会見(朝日新聞社 2019/12/18)

と同時に本来の目的、すなわちレイプ犯罪の徹底した糾明、および権力犯罪としてのレイプ犯の不逮捕(不起訴ではない)を忘れてはならない。

2020年1月9日の本欄で、わたしは以下のように指摘していた。

「被害者女性が告発・発言できない理由はほかならぬ日本社会にある。男女平等度ランキングで、日本は121位である。120位がアラブ首長国連邦、122位がクウェート、中国が106位、韓国は108位である。先進国では、ドイツが10位、フランス15位、イギリス21位、アメリカは53位だ。※出典はWEF The Global Gender Gap Report」

「こうした日本社会の後進性を突き破るためにも、伊藤詩織さんには頑張って欲しいと思う。外国人記者クラブでの会見で、詩織さんはこれまでセカンドレイプ的にバッシングしてきた言論人に対して、法的な態度を示すと明らかにした。女性が声を上げられない社会の変革のために、それもやむを得ない措置と言えよう、ひきつづき、この事件を追っていきたい。」

そして、われわれがなすべきことは、もうひとつある。わたしは同じ2020年1月9日の本欄で、

「レイプされた若い女性が素顔をさらして、一国の総理大臣につながる御用ジャーナリストを告発した。しかも被害者は美人、というだけでも一時的にマスコミを賑わせるだけの価値がある。とはいえ、眉をひそめたくなるレイプ事件である。加害者被告のいかにも胡散臭いひげ面を見るだけでも、気分が良いものではない。したがって忘れ去られがちな事件だといえよう。」

「ぎゃくにいえば何度でもこのテーマはくり返し報道され、権力と結託した加害者の傲岸なありようが指弾されなければならない。今回の判決を受けてなお、山口敬之は『詩織さんは虚言壁がある』『ウソをついている』と開き直っているのだから。」

「あえてくり返さなければならない理由は、刑事事件としての不成立の謎のゆえである。いったんこの件で逮捕状が出ていたにもかかわらず、総理の番犬ともいわれる中村格(なかむらいたる)警視庁刑事部長(現警察庁官房長)の鶴の一声で、山口被告の逮捕が見送られたのである。」と、事件の本質を指摘してきた。

2019年7月19日の本欄にも、「第二次安倍政権の誕生の功労者である山口氏を、官邸は指揮権を発動してまで擁護せざるを得なかったのが事件の真相なのだ。」としている。忘れてはならない事件だとの思いをつよくする。

官邸の人脈で、法律外の扱い(不逮捕)をした「罪」こそ問い直され、あたかも指揮権発動のごとく司法がゆがめられたことを検証しなければならないのだ。


◎[参考動画]山口敬之氏「伊藤さんはうその主張をしている」伊藤さん勝訴を受け会見(毎日新聞2019年12月18日公開)


◎[参考動画]囲み取材で感情あらわ【山口敬之氏】元TBSワシントン支局長(日刊ゲンダイ2019年12月18日)

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)

編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。医科学系の著書・共著に『「買ってはいけない」は買ってはいけない』(夏目書房)『ホントに効くのかアガリスク』(鹿砦社)『走って直すガン』(徳間書店)『新ガン治療のウソと10年寿命を長くする本当の癌治療』(双葉社)『ガンになりにくい食生活』(鹿砦社ライブラリー)など。

月刊『紙の爆弾』2020年9月号【特集】 新型コロナ 安倍「無策」の理由
『NO NUKES voice』Vol.24 総力特集 原発・コロナ禍 日本の転機

コロナ防疫の失政隠しに「病因引退」に逃げ込むのか?  体調悪化を秘匿しない安倍総理の不思議

◆再検査というからには、重篤個所があるのでは?

安倍総理の7時間半に及び検診が、永田町をゆるがせた。憶測を呼んでいるのは、検査の事実を公然とテレビに晒したことである。

総理官邸は「休み明けの体調管理に万全を期すため夏期休暇を利用しての日帰り検診」だと発表しているが、安倍総理は約2カ月前の6月13日にも同院を訪れ、このときは6時間にあわって人間ドックを受診。今回の検診について病院側は「6月の追加検査」と説明している。しかし永田町では「やはり体調が悪化しており、それで重篤個所を再検査したのではないか」という憶測が飛び交っている。

それというのも、8月4日発売の「FLASH」が、「安倍晋三首相 永田町を奔る“7月6日吐血”情報」というタイトルで体調問題を報道しているからだ。

8月4日発売の「FLASH」誌面

同誌は7月6日の首相動静に、小池百合子都知事と面談を終えた11時14分から16時34分、今井尚哉首相補佐官らが執務室に入るまでの約5時間強。総理に空白の時間があったとして、この間に吐血したのではないかという情報が永田町に流れていると解説している。安倍首相が抱えている持病の潰瘍性大腸炎に合併する胃や十二指腸の病変、あるいは治療のために服用しているとされるステロイド系の薬剤による影響を指摘していた。

吐血という以上、上部消化器官系(胃・十二指腸)からのもので、持病の潰瘍性大腸炎とは考えにくい。下部消化器系で起きた潰瘍や癌細胞は、大腸から肝臓や胆のう、胃と十二指腸、すい臓、最後は肺に転移するとされている。そこで上記の「瘍性大腸炎に合併する胃や十二指腸の病変」が推測されたわけである。

じつは2015年8月にも「週刊文春」が「安倍首相の『吐血』証言の衝撃」という記事を掲載したことがある。ホテルの客室で会食中に安倍首相が吐血し、今井尚哉秘書官が慌てて慶応大病院の医師を呼び出し、診察を受けたという記事を掲載したのだ。このとき安倍事務所は「週刊文春」発売の翌日に、文藝春秋に記事の撤回と訂正を求める抗議文書を送っている。

しかるに、今回はそのような抗議も打消しの言動もない。

総理と長時間にわたって面談(国会対策と後継者問題か)した麻生太郎副総理は、例によって「あなた、147日間も連続勤務したことある? ないよね。だったらわからないだろうが、それだけ長く勤務をつづければ、体調もおかしくなるということだ」などと逆質問し、菅義偉も例によって「わたしは連日お会いしているが、淡々と職務に専念をしている。まったく問題ないと思っている」と木で鼻をくくるような返答であった。

だがしかし、車列をつらねて慶応病院を訪れ、あたかも国民にアピールするような行動に出たのはなぜか?

◆なぜ秘匿しなかったのか? 政治家の病気は命取りの「常識」

ふつうなら、ひそかに官邸を脱出し、極秘に診療をうける方法もあったはずだ。たとえば国家緊急事態(戦争や内乱時)には自宅からオートバイ(タンデム)で官邸に、渋滞中の首都高を急行する「総理緊急送迎」も実行に移されるはずだ(複数回の演習済み)。その場合は、複数のダミーを走らせてテロの標的にならないようにするという。

外に向かっては自衛隊の総司令官であり、内に向かっては警察の治安出動を命令・指示しうる行政の長であればこそ、国家権力の中心軸としての警護・隠密化がもとめられるのだ。

それは通常、病気においても変わるところがないはずだ。一般に政治家は病気の噂を嫌い、かりに病気が事実であった場合も隠蔽するものである。

かつて池田隼人総理は、在職中に癌に罹患した。池田派の側近議員らが癌であることをひた隠し通した上で、任期を残して退陣する演出を行ったのである。すなわち、東京オリンピック閉会式翌日の10月25日に退陣を表明し、自民党11月9日の議員総会にて佐藤栄作を後継総裁として指名したのだ。後継総裁選びを、退陣予定の総裁の指名で行なった、戦前・戦後を通じて最初のケースであった。池田は翌1965年8月13日に死去した。享年65。

◆予定調和の禅譲劇を準備している

「今後のことは検査結果次第でしょう。何もなければ、少し休息を取って英気を養い、仕事を続けられる。一方、これ以上は体調が持たない、となれば、今月24日に在職日数が単独で歴代最長となるのを待っての退陣もある。その場合は麻生財務相が後継ということで、15日に2人が私邸で会った際に話し合ったのではないかとみられている。しかし、総裁選になれば、解散総選挙を見据えて世論の人気の高い石破元幹事長が勝つ可能性もある。安倍首相は、それだけは絶対に阻止したいのでしょうが……」(日刊ゲンダイ、8月19日)

まさに、この推測が的を得ているのではないか。

第一次政権の二の舞を踏みたくない。みじめな退陣劇だけは避けたいという、予定調和の禅譲劇を準備しているのではないだろうか。

2007年7月29日の参院選で自公過半数割れの大惨敗を喫し、党内から退陣要求が出るも、安倍総理はこれを拒否した。8月27日に内閣改造し、9月10日に臨時国会で所信表明をしたものの、代表質問の予定だった同12日に、突如として退陣を表明した。官邸の側近など事前に相談することもなく、突然の決断だったという。もうそのときは、病状の悪化で身体が動かず、政治的にも死に体だったのはいうまでもない。もう二度と、この人に政界復帰の目はないとまで言われたものだ。

◆危機管理に疲れ、いよいよ政権を投げ出す

今回、政権中枢(麻生・菅)の反応はともかく、安倍総理の側近である甘利明氏までもが、公共の電波で「強制的に休ませなければならない」と、健康不安説を助長させるようなことをわざわざ強調している。長期政権の記録を達成した以上、もう辞めたいのではないか。

新型コロナ対応で感染拡大に歯止めがきかず、経済の立て直しも成果を出せない。今年4~6月のGDPが年率マイナス27.8%(速報値)になり、戦後最悪を記録したことが発表された。いまや異次元の金融緩和や大規模な財政出動で株価を支えてきたため、安倍総理に打つ手は残されていない。景気浮揚のために一縷の望みをかけてきた東京五輪は、中止になる可能性が高い。もはや投げ出したい、それが安倍総理の真意なのかもしれない。


◎[参考動画]麻生大臣「健康管理も仕事」診察受けた安倍総理に(ANN 2020/08/18)

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)

編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。医科学系の著書・共著に『「買ってはいけない」は買ってはいけない』(夏目書房)『ホントに効くのかアガリスク』(鹿砦社)『走って直すガン』(徳間書店)『新ガン治療のウソと10年寿命を長くする本当の癌治療』(双葉社)『ガンになりにくい食生活』(鹿砦社ライブラリー)など。

月刊『紙の爆弾』2020年9月号【特集】 新型コロナ 安倍「無策」の理由

『ジェーン・ピットマン/ある黒人の生涯』と記者クラブ

◆43年ぶりに蘇った記憶

『ジェーン・ピットマン/ある黒人の生涯』……。

何十年も前に見たテレビ番組のタイトルを突然、思い出した。中学か高校のころNHKで見た記憶があるが、いつだったろう。そのタイトルとラストシーンの衝撃をいまだに忘れない。 

気になってインターネットで調べてみると、1974年にアメリカで制作されたテレビ映画だった。NHKの記録を確認すると、1977年8月30日(土)20時(再)と表示されている。再放送なのだが、おそらく私が観たのは、この日だったろう。

◎[参考動画]Jena Louisiana

 
それにしても、40年以上も前に1回だけ観たテレビ番組のタイトルや、ラストシーンを鮮明に覚えているのは不思議だ。当時高校2年生だった私は、それほど強烈に感情を動かされたのに違いない。

1962年当時、110歳だった黒人女性がインタビューを受け回想するという構成だ。黒人の苦難の歴史と同時代に生きた個人史が交錯するような演出だったと思うのだが、さすがにテレビで一度きり観ただけなのでほとんど覚えていない。ただひとつ鮮明に覚えているのは、ラストシーンである。 

当時のアメリカは、バスなどの交通機関には白人専用席があったし、公共の場所の水飲み場も白人専用のものがあった。黒人が白人専用の水を飲む運動がおこり逮捕者も死者も出るほど緊迫していた。日本の公園にもよくある、石かコンクリートの土台の上についているミニ噴水型の水飲み場である。

ラストで主人公のジェーンは、焦点となっていた屋外の水飲み場(裁判所の庭)に水を飲みに行く。

黒人の知人たちが、裁判所敷地と路面の境界あたりでとどまり、ジェーンを見送る。彼女はひとり、杖を突きながら、ヨロヨロ、ふらふらと一歩、また一歩と水飲み場に近づいていく。

建物前では白人たちが大勢その姿を見守り、銃を手にした警察官のような人もいる。

建物の入り口に近い場所にあるWhite Onlyと書かれた水飲み場にたどり着くと、じっと見ている白人を一瞥して、ジェーンはそっと口を近づけて一口水を飲む。

そして踵を返し、来た時と同じように杖をつきながらヨロヨロとゆっくりと去っていく……。
 
いま思い出しても心を揺り動かされる場面だが、43年もの間、頭の中から完全に消え去っていた。ところが、一気に記憶がよみがえる「事件」が起きたのだ。

◆白人専用の「鹿児島県政記者クラブ(清潮会)」

その事件は、7月28日に起きた。

『カメラを止めるな! 7月28日(前編)』(塩田康一鹿児島県知事の就任記者会見をめぐる県政記者クラブ「青潮会」とフリーランスとの戦いをスマホのカメラで撮り続けたドキュメンタリー)


◎[参考動画]カメラを止めるな! 7月28日(前編)

1時間56分ころから、早回しで20~30分が見どころだ。

編集なしの生々しい動画は、記者クラブはジャーナリスト集団というよりも、権力機構・統治機構の一部であることを示している。

この動画を見た私は、日本特有の「記者クラブ制度」が、日本社会を相当ゆがめているとの思いを新たにした。

中央官庁や地方自治体の庁舎や機関には、記者クラブというものがある。新聞社や放送局の記者たちがつくった任意団体であり法人格のある団体ではない。

その記者クラブが、一等地の建物に広いオフィスを無償で開設し、行政からの情報を独占的に得て、権力者が望む内容を報道するのがメインになっている。かつては電話代やファックス代その他もただ(つまり税金使用)だった。

クラブ付きの職員もいるが、それは各クラブが所属する行政の職員であり公務員である。まったく法的根拠のない構成員がちがつくった「内規」により記者クラブは運営されている。このような記者クラブにより”大本営発表”がいま現在も続いているのだ。

法的根拠なく白人(記者クラブ)が牛耳る記者会見からは、有色人種(一般人、SNS等で報道する人、フリーランス)を排除している。言ってみればアパルトヘイト(人種隔離政策)だから、私は『ジェーン・ピットマン/ある黒人の生涯』を思い起こした。

鹿児島県政記者クラブ(清潮会)への参加と質問権を求めてきた中心人物が、フリーランスの有村眞由美氏である。福島原発事故後から、鹿児島県知事の記者会見参加を記者クラブに申請しはじめ、足掛け10年にもわたり記者クラブに働きかけてきた。

そのかいあって、途中で記者会見出席は許されるようになった。

◆源泉徴収票を提出すれば白人専用の水道で水を飲んでもいいetc

とはいっても「オブザーバー参加で質問は禁止」ということであった。そのほか清潮会(鹿児島県政記者クラブ)が規約なるものを作成し、記者会見参加を望む外部の人間に内規を強要してきた。
 
一つ条件をクリアすれば、次の課題を設定する、というやり方である。

・源泉徴収票を提出すれば水飲み場を使える(会見室に入室できる)。
・提出しても源泉徴収票に印鑑がなければ水飲み場使用はできない(普通、源泉徴収票には印鑑はない)
・水道の蛇口をひねって水を出すのは許可するが、飲んではいけない(会見室に入場はできるが質問は禁止)。

なお、今回の記者会見前日、質問可能と記者クラブは連絡してきたが、様々な条件が課せられているという。
 
このような10年間を経て、今年7月の鹿児島県知事選で当選した塩田康一知事の就任記者会見に参加しようと有村氏は鹿児島にとび、冒頭のように会見室前の人間バリケードによって入室を阻まれたのだ。

ジェーン・ピットマンは最後に一口水を飲むことができたが、有森眞由美はまだ渇きをいやせていない。

ちなみに、7月28日は、記者クラブのオープン化ないし廃止を求めるジャーナリスト3人(畠山理仁・寺澤有・三宅勝久)が有村氏に同行した。

◆記者クラブは災害級の被害
 
記者クラブをめぐる新聞社やテレビ局社員とフリーランスの攻防とアメリカの人種差別を描いたテレビ映画を比較するのは、強引だと思う人もいるであろう。

確かに、奴隷として人権を奪われ、解放後も恒常的な暴力・差別・弾圧にさらされている黒人の状況とは違う。記者クラブをめぐって、非クラブ員がリンチで殺されてもいない。

だが、属性の違いによって一部の人たちが権力を握り利益を独占し、それ以外の人々を排除するシステムは共通する。いや、むしろアパルトヘイト(隔離政策)が記者クラブ制度の根幹にあると認識しない限り、問題は解決しない。

今年5月25日、全米どころか全世界を揺り動かした、警察官によるるジャージ・フロイト虐殺事件が起きたときでさへ、私は古いテレビ映画のことをまったく思い出さず、「7・28鹿児島県政記者クラブ人間バリケード事件」を動画で目の当たりにしたとき、43年ぶりに記憶が蘇った。それを素直に文章に書き留めているだけである。

記者クラブは災害レベルであり、日本ピープルにとって「禍」である事実を今こそ認識すべきではないか。

政治・経済・社会など各分野の問題を追及することはもちろん大切だが、様々な問題を伝える土台(報道)が土砂崩れを起こし、災害が起きていることを認識するほうが先決かもしれない。

そこで、10年にわたり記者クラブとの攻防を続けているフリーランスの有森眞由美氏に依頼し、下記の講演会を開催することにした。

7月28日、鹿児島県知事の就任記者会見参加をこばまれた有村眞由美氏(ジャーナリスト寺澤有氏のYouTubeより)

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■講演情報
『記者クラブ禍』~記者クラブとフリーランスの10年戦争
講師:有村眞由美氏(フリーランス)

日時:2020年8月22日(土)
13:30開場 14:00開始 16:30終了
場所:文京アカデミー「学習室」(文京シビックセンター地下1階)
東京都文京区春日1丁目16番21号
https://www.city.bunkyo.lg.jp/shisetsu/civiccenter/civic.html
交通:東京メトロ 丸の内線・南北線 後楽園駅 徒歩1分
   都営地下鉄 三田線・大江戸線 春日駅 徒歩1分
   JR総武線 水道橋駅(東口) 徒歩10分
資料代:500円

【申し込み】30名限定
氏名と「8月22日参加」と書いて下記のメールアドレスに送信してください。
kusanomi@notnet.jp
【参加にあたってのお願い】
◎受付で氏名と連絡先を確認してください。
◎会場入りするときは手洗いをお願いします。(消毒ジェルも用意します)
◎参加者はマスク使用をお願いします。
◎発熱している方や体調の悪い方は、今回は参加をご遠慮ください。

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▼林 克明(はやし・まさあき)
 
ジャーナリスト。チェチェン戦争のルポ『カフカスの小さな国』で第3回小学館ノンフィクション賞優秀賞、『ジャーナリストの誕生』で第9回週刊金曜日ルポルタージュ大賞受賞。最近は労働問題、国賠訴訟、新党結成の動きなどを取材している。『秘密保護法 社会はどう変わるのか』(共著、集英社新書)、『ブラック大学早稲田』(同時代社)、『トヨタの闇』(共著、ちくま文庫)、写真集『チェチェン 屈せざる人々』(岩波書店)、『不当逮捕─築地警察交通取締りの罠」(同時代社)ほか。林克明twitter

月刊『紙の爆弾』2020年9月号【特集】新型コロナ 安倍「無策」の理由

【鹿砦社弾圧報道問題続報】朝日新聞大阪本社から「回答」届く! 前代未聞、笑止千万、抱腹絶倒! 朝日の名が泣くぞ! 鹿砦社 松岡利康

一昨日(8月17日)にこの通信でお伝えしたように、松岡逮捕―鹿砦社出版弾圧を神戸地検特別刑事部らと密通し大々的に報じた朝日新聞大阪本社社会部・平賀拓哉記者(現・司法担当キャップ)の面談拒否に対して、面談に応じるよう弁護士から「通知書」を8月6日付けで同社・渡辺雅隆社長へ内容証明郵便にて送りました。8月7日に到着しています。

回答期限は1週間以内でしたが、昨日(8月18日)に簡易書留で顧問弁護士に「回答」が届きました。「回答」の日付は「8月13日」になっていますが、同じ区内で、届くのにそんなに何日もかかるわけがありませんので、実際に差し出されたのは、おそらく17日だと思われます。「回答」なるものは画像の通りです。

8月18日、簡易書留で顧問弁護士に届いた朝日新聞大阪本社からの「回答」

みなさん、いかがでしょうか? またしても責任者名がありません。弁護士から送れば、少なくともマシな回答が届くと思いましたが浅薄でした。渡辺雅隆社長宛に出していますが、本当に渡辺社長の元に届いているのでしょうか? 届いていて、この回答だったら、渡辺という人は非常識ですし、こんな小さな“蟻の一穴”からダムは決壊します。「奢れる者、久しからず」です。

平賀記者は、社会部出身の渡辺社長の子飼いの記者だということですが、それなら尚更、渡辺社長は平賀記者や「広報」担当者を、きちんと叱責し対応すべきでしょう。そうではないですか? 私の言っていることは間違っていますか?

7月30日、朝日新聞大阪本社(広報)から松岡宛に届いた発信責任者不明の非礼なメール

私はくだんの「名誉毀損」逮捕事件で有罪判決を受けましたが、まさか、そんな前科者の要求には応じられないとでも言うのでしょうか。

平賀さん、何度も言うが、私や鹿砦社は、神戸地検特別刑事部らと密通し画策した、あなたの“官製スクープ”記事で地獄に落とされた当事者中の当事者です。私はあなたに面談を求める〈権利〉がありますし、あなたは私の求めに応じる〈義務〉があります。

いくら嫌でも、こんな弁護士や私たちをコケにした「回答」はないでしょう。常々朝日新聞が公言する「人権」の薄っぺらさがわかろうというものです。

私も逮捕当時はまだ50代でしたが、今や70にもなろうという初老の男です。歳を取るごとに好々爺のように丸くなってきたと言われますが、かの事件は私にとって人生最大の事件です。すんなりと面談に応じたのなら、和気あいあいと昔話に花が咲き、それで終わったと思いますが、ここまでコケにされたら、そうもいきますまい。「老いの一徹」という言葉もあります。“奥崎謙三”にはならないまでも(笑)、「蛇蝎のごとき執拗さ」(アルゼの告訴人の一人の元執行役員)でもって、全智全能、全身全霊、総力で追及せざるをえません。

平賀さん、みずからの記事に責任を持ち面談に応じよ!

ドラマは始まったばかりです。多くの皆様方のご注視とご支援をお願いいたします。逐次ご報告いたします。

月刊『紙の爆弾』2020年9月号【特集】新型コロナ 安倍「無策」の理由
『NO NUKES voice』Vol.24 総力特集 原発・コロナ禍 日本の転機

台湾の武力併合を射程に、香港民主化を圧殺する習近平 米中の軍事的衝突を孕んだ危機 横山茂彦

◆北戴河会議で何が話し合われたのか

台湾出身の評論家・黄文雄のメールマガジン「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」によれば、習近平のアジア戦略が急展開を見せるだろうと観測されている。

黄氏の分析によると、現在の香港に対する締め付けは、じつは台湾との統一に向けたものだとしている。そして香港での一連の騒動(国家安全維持法反対デモ)のなかで、中国では恒例の北戴河会議が行われたという。

この北戴河会議とは、渤海湾に面した中国河北省の保養地・北戴河に毎年7月下旬から8月上旬ごろにかけて、共産党の指導部や引退した長老らが避暑を兼ねて集まり、人事などの重要事項を非公式に話し合う会議である。毛沢東時代から開かれてきたが、会議の開催や結果は公表されない。胡錦濤・前国家主席時代の2003年にいったん中止を決めたものの、数年後には復活した。

今年はコロナウイルスの関係で開かれない見通しだったが、開かれたことに習政権の危機感が感じられる。習政権に批判的な長老が参加する会議を、あえて開いた意味は大きいとみられる。

会議の内容は言うまでもなく、米中問題や香港問題、そして2022年の共産党大会での習近平の続投問題などであろう。

黄氏の分析では、台湾との統一がこれまでの「平和統一」ではなく、武力をふくめた強硬なものに変化しつつあるという。

「5月末に行われた中国の全国人民代表大会での李克強首相の政府活動報告では、昨年までの『平和統一』を目指すという表現から、『平和』が抜けて、『統一』を目指すという表現になりました。そしてこのときの全人代で、香港への国家安全維持法制定を決定したのです」(黄氏)

習近平は2022年の共産党大会で、総書記3期目を狙っているという。マルクス・レーニン主義、毛沢東思想につづき、自分の思想・路線を「習近平路線」として個人崇拝的に打ち出し、個人独裁をもめざす習総書記にとって、いまだ足りないのは対外的な実績である。

そのための実績づくりとして、台湾併合を急ぎたい。その併合は、武力をふくめた強硬なものに変化しつつあるのだ。そのいっぽうで香港立法会議員の任期を1年延期している。いま香港で選挙を行えば、民主派による反中キャンペーンで香港が再び大混乱するという懸念からである。

台湾では今年1月の総統選挙で蔡英文が再選し、あと4年は民進党政権が続く見通しだ。しかも蔡英文は、新型コロナ対策の封じ込めに成功したため支持率が高く、これが急速に低下することも考えにくい。

そこで、習近平政権による軍事行動をふくむ強硬策が考えられると、黄氏は言う。

「台湾国防部は2018年に『中共軍事力報告書』を発表しましたが、そこでは、中国は2020年までに全面的な侵攻作戦能力の完備を目指しているという見方を示しました。そして、中国が武力侵攻する可能性があるのは『台湾による独立の宣言、台湾内部の動乱、核兵器の保有、中国との平和的統一を目指す対話の遅延、外国勢力による台湾への政治介入、外国軍の台湾駐留などが起きた際だ』と分析しています」

その「外国勢力による台湾への政治介入、外国軍の台湾駐留」が、アメリカを想定したものであることは言うを待たない。当面の中米の「戦場」は東シナ海であろう。


◎[参考動画]中国で海軍創設70周年行事 初の空母参加 北朝鮮も(ANNnews 2019年4月23日)

ここ数年の空母(遼寧ほか)をふくむ海軍の増強は、東シナ海(第一列島線)での制海権の確立、および南沙諸島の拠点化を見すえたものにほかならない。沿海海軍から、外洋艦隊(第二列島線越え)への脱皮、そして空軍力でも対台湾力関係の逆転が展望されている。

香港の民主化運動を締めつけ、返す刀で台湾の武力併合をめざす。この戦略は南沙諸島への軍港・飛行場建設などを見れば、中国の太平洋戦略はきわめて現実的なものとなってくる。

◆アメリカの動きをみれば、中国の戦略が浮き彫りになる

中国の太平洋戦略を見すえた、アメリカの動きも急ピッチである。

アメリカのアザー厚生長官が8月10日、台北市内の総統府で蔡英文(ツァイ・インウェン)総統と会談した。アザー長官は「台湾を強く支持し、友好的であるというトランプ大統領の意向を伝えにきた」と表明し、蔡総統も長官の訪台を「台米にとって大きな一歩だ」と歓迎している。

アメリカの閣僚の台湾訪問はじつに6年ぶりで、米台高官の相互訪問を促す米「台湾旅行法」成立後では初めてとなる。トランプ政権はアザー長官の訪台を1979年の国交断絶いらい、最高位の高官派遣としている。いうまでもなく、トランプ政権の「歴代アメリカ政権の中国政策の誤り」を是正するものとして、対中包囲網の一環を形成したことになる。

この15日にも空母ロナルド・レーガンとニミッツをふくむ空母打撃群が、東シナ海での演習を行なった。この空母打撃群は7月にも2度にわたり、空母以外の4隻の艦艇をともなう、本格的な水上訓練をおこなっている。

いっぽう、中国も7月1日から5日までに西沙諸島周辺で海軍演習を行なっている。このときは3つの戦区海軍(北部戦区海軍、東部戦区海軍、南部戦区海軍)から、それぞれ黄海、東シナ海、南シナ海に同時に大演習を実施させている。中でも南部戦区海軍は、南シナ海の中でも領土紛争を抱える機微な海域で演習を実施した。
中国は8月にも海南島沖の南シナ海で、東沙島奪取を想定した大規模な上陸演習を計画している。これについて、日本の防衛省防衛研究所はつぎのように分析している。

「海軍陸戦隊を主体にして南海艦隊の071ドック揚陸艦、Z8ヘリコプター、大型ホバークラフトなどを動員した本格的なものになるだろう」と。

このかん、自衛隊も公開訓練のなかで「島嶼奪還を想定した」上陸訓練や降下訓練をくり返している。アメリカ海軍との水上訓練も積み重ねてきている。この分野では、完全にシビリアンコントロールは機能していないとみるべきだろう。


◎[参考動画]USS America Conduct Flight Operations in South China Sea, F-35B Lightning II, CH-53E Super Stallion


◎[参考動画]USS Gabrielle Giffords On Patrol in the South China Sea

◆主役として巻き込まれることに、無自覚な日本政府

領土問題など政治的に緊張のある海域での演習・訓練は、そのまま軍事をふくむ外交戦略である。戦争が別の手段をもってする政治の継続(クラウゼヴィッツ)である以上、高度な政治戦の段階にあるとみるべきであろう。

とくに大統領選挙をひかえたトランプ政権において、外交上の実績づくりはそのまま得票を左右するものとなる。10年に一度は戦争をしなければならない、軍産複合体(人口3000万人)をその内部に抱えるアメリカにとって、それはトランプの単なる思いつきが契機になるわけではない。アメリカ社会そのものが戦争を必要とし、その格好の材料として中国の挑発、あるいはその第二戦線としての朝鮮半島情勢。すなわち北朝鮮の核・ミサイル武装の問題が浮上してくるのだ。

日本のシビリアンコントロールが機能していないというのは、アメリカ海軍の動きに自衛隊が自動的に巻き込まれ、いっぽうで日本政府が米中の政治的緊張とまったく別のところにいる、という意味である。あるいは無為と言い換えても良い。

アメリカの軍事的・政治的パートナーである日本は安倍政権という、からっきし危機管理に弱い反面、アメリカの言いなりになる意志薄弱な政権を抱えている。戦後75年において、わが国の事情とは関係なく戦争の危機はすぐそこにある。にもかかわらず、その戦争の危機の主役は無自覚なままなのだ。


◎[参考動画]中国建国70周年 最大規模の軍事パレード(テレ東NEWS 2019年10月1日)


◎[参考動画][中華人民共和国成立70周年] (CCTV 2019年10月1日)

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)

編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。医科学系の著書・共著に『「買ってはいけない」は買ってはいけない』(夏目書房)『ホントに効くのかアガリスク』(鹿砦社)『走って直すガン』(徳間書店)『新ガン治療のウソと10年寿命を長くする本当の癌治療』(双葉社)『ガンになりにくい食生活』(鹿砦社ライブラリー)など。

月刊『紙の爆弾』2020年9月号【特集】 新型コロナ 安倍「無策」の理由
『NO NUKES voice』Vol.24 総力特集 原発・コロナ禍 日本の転機

【鹿砦社弾圧報道問題続報】松岡逮捕─鹿砦社出版弾圧の“官製スクープ”記事を書いた朝日新聞大阪本社司法担当キャップ・平賀拓哉記者の逃亡に対し、朝日新聞大阪本社・渡辺雅隆社長に「通知書」を内容証明郵便で発送!今回も未だ回答なし! 鹿砦社代表 松岡利康

既報のように2005年7月12日の松岡逮捕─鹿砦社出版弾圧の“官製スクープ”記事を神戸地検特別刑事部と“密通”して書いた朝日新聞大阪本社現司法担当キャップ・平賀拓哉記者に対し3度の面談申し込みを出しましたが、なんらの真摯な回答をいただけませんでした。3度目にようやく「広報」から無署名の「弊社では、こうした面談申し込みには応じておりません」という、たった2行の無味乾燥で事務的なメールがあったのみです。

このような平賀記者の無責任な態度に対し、私方は弁護士を通して朝日大阪本社・渡辺雅隆社長宛に「通知書」を内容証明郵便にて送りました。8月6日に発送し7日に到着しています。回答期限は受け取りから1週間以内、つまり8月14日ですが、いまだ回答ありません。まあ、お盆休みが挟まったので、もう少し待つか(苦笑)。

平賀さん、みずからの記事に責任を持ってください。私たちはこの弾圧で地獄に落とされました。会社は壊滅的打撃を受けました。地獄を見た私は、そうやすやすと引き下がることはできません。平賀さんが逆の立場だったらどうでしょうか? 逃げるのならば徹底的に追いかけます。金と女は追えば追うほど逃げると言いますが、平賀さんも、追えば追うほど逃げるおつもりですか? ジャーナリストの寺澤有さんからは、「松岡さんなら当然もっと追いかけるのでしょう?」と“挑発”されましたが、やはり今や好々爺の私としても人生の一大事の記事を書かれたのですから追いかけるしかないでしょう。

◆鹿砦社の祟りか、松岡の呪いか

ところで、平賀記者が密通し鹿砦社弾圧に手を貸したりした者の多くが不思議と不祥事を起こしたり不幸な目に遭っています。「鹿砦社の祟りか、松岡の呪いか」と揶揄される所以です。簡単に挙げておきましょう。──

大坪弘道検事 当時の神戸地検特別刑事部長。その後栄転した大阪地検特捜部長時代、「厚労省郵便不正事件」証拠隠滅に連座し逮捕、有罪確定、検事失職。それまでエリートコースをひた走っていましたが、これでパアーです。現在は無職のようです。

大坪弘道逮捕を報じる朝日新聞2010年10月2日朝刊

宮本健志検事 当時の神戸地検特別刑事部主任検事。平賀記者が具体的に密通し“スクープ”情報を得たと推認される人物。その後、大坪検事同様、栄転した徳島地検次席検事時代、深夜泥酔して一般人の車を蹴り傷つけ(おそらく検挙され)事情聴取され戒告・降格処分を受けました(和解したことで懲戒免職は免れています)。当時京都地検刑事部長に異動していた大坪検事に拾われ平検事に降格され京都地検へ異動。尚、宮本検事は鹿砦社の地元・西宮市甲子園出身です(西宮市立東高校→早稲田大)。

宮本健志の不祥事を報じる徳島新聞2008年3月26日朝刊

岡田和生 アルゼ(当時)の創業者オーナー。松岡を「名誉毀損」で刑事告訴し、鹿砦社に3億円の巨額民事訴訟を提訴。その後、活動の拠点を海外に移しフィリピンカジノ建設のために政府高官に賄賂を贈ったりして逮捕。また海外生活中に、子飼いの社員、息子、後妻らによってクーデターを画策され放逐されています。

岡田和生逮捕を報じるロイター電子版2018年8月6日付け
みずからが作り育てた会社から放逐された岡田和生のインタビュー記事 『週刊ポスト』2019年3月18日号

阿南一成 当時のアルゼの雇われ社長。元警察キャリア(中国管区警察局長)→参議院議員。耐震偽装企業から不適切な献金を受け辞任に追い込まれています。彼は証人尋問に出廷し、さんざん私を詰りました。彼の存在はアルゼが警察癒着企業であることを象徴していますが、このことを甘く見ていました。阿南としては、メンツにかけて松岡逮捕─鹿砦社潰しに尽力したものと推認されます。

阿南一成アルゼ社長(左)の辞任を報じる朝日新聞2006年1月19日朝刊。この直後の1月20日、松岡が保釈された

佐野哲生 私に有罪判決を下した神戸地裁裁判長。私の判決と同じ週に、女児が死亡した明石砂浜陥没事件で国と市に無罪判決を下しましたが、控訴審で逆転し有罪が確定。同じ週(松岡7月4日、明石7月7日)に2件の重要事件の判決を下さざるをえない裁判所の情況にも問題があるでしょうが、裁判官人生の最終段階で誤判は大きいと言わざるを得ません。私の有罪判決にも疑義を感じさせる出来事です。佐野裁判長が、のちに「裁判員制度」の導入の際、メディアに登場し説明している場面を見ましたが、「お前らがいい加減な判決を下すことを、裁判員制度で誤魔化すのか!?」と冷笑せざるを得ませんでした。

7月4日松岡一審判決当日のテレビ画像。右に佐野裁判長の画像と“名言”
同じ週に同じ裁判長で2つの重要判決。右が毎日新聞2006年7月4日夕刊、左が朝日新聞7月8日朝刊
明石砂浜陥没事件の誤判を報じる朝日新聞2008年7月11日朝刊

◆松岡逮捕─鹿砦社弾圧は、意図的な魂胆を持って仕組まれた! 

こうして見てくると、松岡逮捕─鹿砦社弾圧が“立派”な人たちにより意図的な魂胆を持って仕組まれていることが判ります。再審請求をしたいぐらいです。半年余りも勾留され、(執行猶予付きとはいえ)本当に有罪にならないといけなかったのか? 大いに疑問です。なにか恣意的な策謀がなかったのか?「言葉の暴力」だって!? 裁判所は「憲法の番人」といわれますが「権力の番犬」に成り下がったと断言します。

民事でも、刑事で有罪になったこともあるのか、賠償金が倍額になりました(1審300万円→控訴審600万円)。最高裁で確定しました。踏んだり蹴ったりでした。

ところで、平賀記者が、こうした人物にどう取材し、あるいはどう密通して情報を得、記事を作成したのか、ぜひとも面談して聞きたいところです。この事件で地獄に落とされた私は、このスクープ記事を書いた平賀記者に面談する権利があるますし、平賀記者には面談に応じる義務があります。

天下の朝日の幹部記者が、零細出版社のオヤジから逃げてどうする! 平賀記者は速やかに私と面談せよ!

月刊『紙の爆弾』2020年9月号【特集】新型コロナ 安倍「無策」の理由
『NO NUKES voice』Vol.24 総力特集 原発・コロナ禍 日本の転機

75年目の夏 読み直す終戦詔書(大東亜戦争終結ニ関スル詔勅)

終戦から75年目の夏がめぐってきた。

とはいっても、本欄の読者のほとんどが、75年前を直接には知らないであろう。わたしも直接は知らない。いまや日本の国民の大半が、敗戦(終戦)の日を、直接には知らない時代なのである。

しかしながら、祖母や両親から聞かされた戦時の苦労、当時の現実を伝聞されるかぎりにおいて、次世代につなぐ責任を負っているのではないだろうか。

わたしたちは75年前のこの日、国民が頭をたれて聴いた「終戦の詔勅」を、おそらくその一節においてしか知らない。

とりわけ、以下のフレーズ

「然レトモ朕ハ時運ノ趨ク所 堪ヘ難キヲ堪ヘ 忍ヒ難キヲ忍ヒ 以テ万世ノ為ニ太平ヲ開カムト欲ス」の中から、「万世のために太平をひらかんと欲す」という結論部を「子孫のために、終戦(平和)にします」と読み取ってきたのではないだろうか。

だが、詔勅はこの部分だけではないのだ。

詔勅は広く天皇の意志を国民(臣民)に知らしめ、天皇の命令(勅)として、国民に命じるものである。そのなかに、当時の天皇と国民の関係が明瞭に見てとれるので、ここに全文を掲載してみたい。

真夏の一日、わが祖母や祖父、父母の時代に思いをはせながら、われわれの来しかたと将来を見つめなすことができれば。

と言っても、原文は以下のごとく読みにくい。書き下しのひらがな文になれたわれわれには、少々息苦しい漢文体である。原文は冒頭部だけにして、訳文を下に掲げてみました。

 * * * * * * * * * *

官報号外(1945年8月14日)

 朕深ク世界ノ大勢ト帝国ノ現状トニ鑑ミ 非常ノ措置ヲ以テ時局ヲ収拾セムト欲シ 茲ニ忠良ナル爾臣民ニ告ク
朕ハ帝国政府ヲシテ米英支蘇四国ニ対シ 其ノ共同宣言ヲ受諾スル旨通告セシメタリ
 抑々帝国臣民ノ康寧ヲ図リ万邦共栄ノ楽ヲ偕ニスルハ 皇祖皇宗ノ遺範ニシテ朕ノ拳々措カサル所 曩ニ米英二国ニ宣戦セル所以モ亦 実ニ帝国ノ自存ト東亜ノ安定トヲ庶幾スルニ出テ 他国ノ主権ヲ排シ領土ヲ侵スカ如キハ固ヨリ朕カ志ニアラス

【現代語訳】

わたし深く世界の大勢と帝国の現状とにかんがみ、非常の措置を以て時局を収拾しようと思い、ここに忠良なる汝ら帝国国民に告げる。

わたしは帝国政府をして米英支ソ四国に対し、その共同宣言(ポツダム宣言)を受諾することを通告させたのである。

そもそも帝国国民の健全を図り、万邦共栄の楽しみを共にするのは、天照大神、神武天皇はじめ歴代天皇が遺された範であり、わたしの常々心掛けているところだ。先に米英二国に宣戦した理由もまた、実に帝国の自存と東亜の安定とを切に願うことから出たもので、他国の主権を否定して領土を侵すようなことは、もとよりわたしの志ではなかった。しかるに交戦すでに四年を経ており、わたしの陸海将兵の勇戦、官僚官吏の精勤、一億国民の奉公、それぞれ最善を尽くすにかかわらず、戦局は必ずしも好転せず世界の大勢もまた我に有利ではない。こればかりか、敵は新たに残虐な爆弾を使用して、多くの罪なき民を殺傷しており、惨害どこまで及ぶかは実に測り知れない事態となった。しかもなお交戦を続けるというのか。それは我が民族の滅亡をきたすのみならず、ひいては人類の文明をも破滅させるはずである。そうなってしまえば、わたしはどのようにして一億国民の子孫を保ち、皇祖・皇宗の神霊に詫びるのか。これが帝国政府をして共同宣言に応じさせるに至ったゆえんである。

わたしは帝国と共に終始東亜の解放に協力した同盟諸国に対し、遺憾の意を表せざるを得ない。帝国国民には戦陣に散り、職場に殉じ、戦災に斃れた者及びその遺族に想いを致せば、それだけで五臓を引き裂かれる。かつまた戦傷を負い、戦災を被り、家も仕事も失ってしまった者へどう手を差し伸べるかに至っては、わたしの深く心痛むところである。思慮するに、帝国が今後受けなくてならない苦難は当然のこと尋常ではない。汝ら国民の衷心も、わたしはよく理解している。しかしながら時運がこうなったからには堪えがたきを堪え忍びがたきを忍び、子々孫々のために太平をひらくことを願う。

わたしは今、国としての日本を護持することができ、忠良な汝ら国民のひたすらなる誠意に信拠し、常に汝ら国民と共にいる。もし感情の激するままみだりに事を起こし、あるいは同胞を陥れて互いに時局を乱し、ために大道を踏み誤り、世界に対し信義を失うことは、わたしが最も戒めるところである。よろしく国を挙げて一家となり皆で子孫をつなぎ、固く神州日本の不滅を信じ、担う使命は重く進む道程の遠いことを覚悟し、総力を将来の建設に傾け、道義を大切に志操堅固にして、日本の光栄なる真髄を発揚し、世界の進歩発展に後れぬよう心に期すべし。汝ら国民よ、わたしの真意をよく汲み全身全霊で受け止めよ。

裕仁 天皇御璽
昭和二十年八月十四日
   各国務大臣副署

 * * * * * * * * * *

詔勅における昭和天皇の国民に対するまなざしは、政治機関としての主権代行者(昭和天皇自身は、天皇機関説の支持者であった)として、忠良なる臣民に告げるもの(命令)である。その内容の評価は、それぞれの視点・立場でやればいいことかもしれないので、ここでの論評はひかえよう。

そしてそれを受け止めた国民が、どのように行動したのか。ここがわれわれの考えるべき点であろう。

その大半は「やっぱり負けたんだ」「軍部のウソがわかった」「明日から電気を点けて眠れる」であったり、「われわれは陛下のために、死んで詫びるべきだ」「鬼畜米英の辱めを受けるものか」との決意であったりした。

これらは父母から聴かされた話である。しかしその「感想」や「決意」も、すぐに生死にかかわることではない。しょせんは銃後のことである。

しかし最前線で終戦を迎え、どのように身を処するべきかという立場に立たされた者も少なくなかった。いや、前線の将兵の大半がそうだったのだ。

そこで二つだけ、わたしが知っている事実をここに挙げておこう。

そのひとつは、宇垣纒(うがきまとめ)海軍中将の終戦の日の特攻である。宇垣は海軍兵学校で大西瀧治郎(特攻攻撃の立案者とされる=8月16日に官舎で割腹自決)、山口多聞(ミッドウェイ海戦で空母飛龍と運命を共にする)と同期で、連合艦隊(日本海軍)の参謀長だった人である。

終戦時には第三航空艦隊司令長官の地位にあり、大分航空隊(麾下に七〇一海軍航空隊など)にいた。広島と長崎に原爆を受けたのちの8月12日に、みずから特攻作戦に参加する計画だった宇垣は、15日の朝に彗星(雷撃機)を5機準備するよう、部下の中津留達雄大尉らに命じた。

そして終戦の詔勅を聴いたあと、予定どおり出撃命令をくだす。滑走路には命令した5機を上まわる11機(全可動機)と22人の部下が待っていた。宇垣がそれを問うと、中津留大尉は「出動可能機全機で同行する。命令が変更されないなら命令違反を承知で同行する」と答えたという。結果、宇垣をふくむ18人が帰らぬ人となった。

もうひとつは、年上の友人の父親の談(志那派遣軍)で、部隊名もつまびらかではない。南京の要塞に立てこもっていたところ、終戦の詔勅を聴くことになる。玉砕を主張する古参兵がいる中、部隊長の将校は兵たちにこう言ったという。

「お前たちは生きろ。生きて家族のもとに帰れ」「わが部隊は、ここで解散する」と。

その瞬間、それまで思考停止に陥っていた兵たちは、われ先に要塞から飛び降りた。三階建てほどの建物を要塞にしていたが、そこから無事に飛び降りていたという。どこをどう逃げ、引き揚げ船に乗ったのか、あまり記憶にないと語っていたものだ。

住民が巻き込まれる、悲惨な事件も起きている。

沖縄の久米島では、有名な住民スパイ虐殺(米軍の投稿勧告状を持ってきた住民を、海軍の守備兵がスパイ容疑で、軍事裁判抜きで処刑した事件=事件は6月以降、守備隊が米軍に投降したのは9月4日)も起きた。全島が戦場となった沖縄のみならず、満蒙開拓団のソ連軍からの逃避行も惨憺たるものだった。戦争はあらゆるものを巻き込んだのである。

あるいは生死が紙一重で死んだり、あるいは生き延びたりしたのであろう。悲劇なのかどうかも、すべては今にして言えることだ。合掌。

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)

編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。医科学系の著書・共著に『「買ってはいけない」は買ってはいけない』(夏目書房)『ホントに効くのかアガリスク』(鹿砦社)『走って直すガン』(徳間書店)『新ガン治療のウソと10年寿命を長くする本当の癌治療』(双葉社)『ガンになりにくい食生活』(鹿砦社ライブラリー)など。

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『NO NUKES voice』Vol.24 総力特集 原発・コロナ禍 日本の転機

《廿日市女子高生殺害事件裁判傍聴記09》「犯人の死刑」を望んだ被害者・北口聡美さんの友人女性たち

全国でも有名な未解決事件の1つとなっていた廿日市女子高生殺害事件は、2018年4月、犯人の鹿嶋学(当時35)が別件の傷害事件を起こしたのをきっかけに検挙され、発生から13年半の時を経て、ついに解決した。

そして今年3月3日、広島地裁で開かれた鹿嶋の裁判員裁判の初公判。その法廷では、鹿嶋の逮捕後に作成された被害者・北口聡美さん(享年17)の友人女性2人の供述調書が検察官によって朗読された。

◆「私の話をいつも笑って聞いてくれた」

「私は事件当時、北口聡美さんとは高校のクラスメイトでしたが、一緒に学んだ期間はたったの半年間しかありませんでした」

1人目の友人Aさんの供述はそんな言葉から始まった。

 * * * * * * * * * *

普通の女子高生だった聡美が突然殺されてしまい、殺された理由も犯人もわからず、胸にしこりを抱えたまま、13年半もの長い月日が流れてしまいましたが、ようやく犯人が捕まりました。ニュースで見た犯人はまったく知らない男で、犯人を見ると悔しく、やりきれない思いになります。

私は、聡美とは高校2年生で初めて同じクラスになりました。けれど、聡美のことはクラスメイトになる前から知っていました。私は中学生だった時、廿日市市内の塾に通っていたのですが、a中学の生徒だった聡美もその塾に通っていて、a中から通っていた生徒が少なかったので、憶えていたのです。

中学の時には、私たちは話をしたことはなかったですが、高校2年生で同じクラスになった時、縁を感じて私たちはすぐに仲良くなりました。聡美は、見た目は高校生にしては大人びた感じで、同級生の中でもおしゃれに気を使っているほうで、女性らしかったです。

けれど、聡美は大人びた外見とは裏腹に、おっとりした性格で、天然なところもあり、まじめだけど、意外と抜けていて、そんなところがとてもかわいらしかったです。

聡美は頭がよく、数学が得意で、塾に通うなど、勉強をすごく頑張っていて、私は聡美のことを尊敬していました。聡美はすごく明るい性格で、話も聞き上手で、私が話をすると、いつも笑って聞いてくれていました。

私が2年生になってからクリーニング工場でアルバイトをしていた時に、きっかけは忘れてしまいましたが、聡美を誘って一緒にアルバイトをするようになり、聡美とは週に1、2回、学校帰りに一緒にアルバイト先のクリーニング工場に行っていました。一緒にいて、楽しかったです。

聡美には、クラスメイトに親友のBさんがいました。2人はお互いのことは何でも知っていて、学校では常に一緒にいて、「2人だけの世界」って感じだったので、聡美の交友関係は「広く浅く」というよりは「狭く深く」といった関係が多かったのかな、と思います。

◆「誰かに恨まれるようなことをする子では、絶対になかった」

当時、ニュースで、聡美の事件は怨恨が理由じゃないかと流れた時、「聡美に限ってそんなことはありえない」と思っていました。誰かに恨まれるようなことをする子では、絶対になかったからです。聡美について、あること無いこと噂されていて、中には、尊厳を傷つけるような酷い噂もあって、聡美のことを知っている私たちからすれば、すぐに否定できるようなことでも、聡美のことを知らない人は噂を鵜呑みにしてしまうんだという怖さを感じました。

このことで、聡美のご家族はたくさん傷ついていたと思います。今回、犯人が捕まって、聡美に何の落ち度もなかったことが明らかになったと思うので、その点では良かったと思います。

私たちのクラスは、聡美の存在が根底にあって、ものすごく絆が深いです。聡美と同じ2年4組のクラスメイトは、聡美の命日が近づくと、集まれる人が集まって聡美の墓参りに行っています。

今回、ようやく犯人が捕まったので、クラスメイトが集まって、墓参りに行く予定です。毎年、「早く犯人が捕まればいいね」とやるせない思いで聡美に会いに行っていましたが、今年はようやく聡美にいつもと違う報告ができます。

犯人が捕まったことは良かったです。けれど、ニュースでは、通りすがりでたまたま聡美が被害に遭ったと流れていました。意味がわからない。なぜ、聡美が殺されなければならなかったのでしょう。聡美は優しい子で、頭が良かったし、将来があったのに。本当に許せない。犯人に対しては、聡美の生命を奪ったのだから、同じように生命を奪って償って欲しい。死刑を望みます。

 * * * * * * * * * *

以上、Aさんの供述だ。

◆「いまだに聡美がいない今が現実なのか、よくわからない」

供述調書を朗読されたもう1人の友人は、Aさんの供述の中にも出てきたBさんだ。

「北口聡美さんとは高校の同級生で、1年、2年と同じクラスでした。聡美は、私の一番の親友でした」

Bさんの供述は、そんな言葉から始まった。

 * * * * * * * * * *

あの日、聡美が殺されてから14年。正直、もう犯人が捕まることはないと思っていました。けれど、ようやく捕まり、聡美が導いてくれたんじゃないかと感じていました。

これから、犯人が捕まるまで私がどんな気持ちで生きてきたかをお話します。

聡美のことは、あれから14年経っても、いまだに気持ちの整理がついていません。いまだに聡美がいない今が現実なのか、よくわからなくなります。聡美の夢をよく見ますし、目を覚まし、聡美がもうこの世にいないことを突きつけられると、悲しくなるのです。

聡美は、普通の女子高生でした。いい子だけど、ものすごくいい子ってわけでもなくて、たまに悪口を言い合っていました。好きな人の話では、延々と盛り上がって話し続けました。

聡美は、まじめだったので、塾に通ったりもしていて、私も聡美と一緒に勉強したりと、お互いに高め合える、すごくいい関係でした。

何か特別なことがあるわけじゃないけど、うれしいこと、腹が立つことをいつも共有してくれて、常に味方でいてくれました。だから、聡美といることは心地よくて、私は1年生の時から聡美とずっと一緒にいました。2年のクラス替えで、聡美とまた一緒のクラスになれた時には、うれしくて思わず、叫んでしまいました。

2年生になっても、私たちはずっと一緒にいて、周りから見ると、「2人の世界」って感じだったと思います。家に帰ってからもメールばかりしていました。大切な親友だったのです。

事件が起きた日のことは、何度もフラッシュバックしてしまいます。「なんで、事件のあの日に、一緒にいなかったのかな」って後悔ばかりしています。試験が終わった後、帰ろうとする聡美をとめていれば。ニュースで犯人がたまたま聡美を見かけたと知ってからは、特にそう思います。夜に考えていたら、寝られなくなります。

聡美が殺されたことは、高校の教務室で流れていたラジオで知りました。居残り勉強をしていたら、体育館に移動するように校内放送が流れて、体育館に移動する途中に先生に呼ばれ、「何だろう?」と思って教務室に入ると、「北口聡美さんが刺されて、まもなく死亡しました」ってラジオが流れたのです。

意味がわからなくて、「さっきまで聡美は一緒にいたのに」って、頭がパニックになりました。信じられずにいた時、警察官から「聡美さん、どんな子だった?」と過去形で聞かれたことが、すごく印象に残っています。

◆「テレビ局に話したことが編集で意図とは違う報道をされ、傷ついた」

それからまだ気持ちの整理がつかず、聡美はもう帰ってこない。二度と会えない。犯人はまだ捕まらず、聡美がなぜ殺されたのかわからないままで…。ニュースでは、怨恨ではないかと流れました。けど、17歳で何を恨まれることがあったのか? 私の知らないところで恨まれたのかな? 私は聡美のこと、全然知らないんだ。でも、聡美に限って恨まれるわけがない。私は聡美にとって、いい友達だったのかな? ずっと、そんなことを考えていました。

事件解決の力になればと、テレビ局の取材に応じて話したことが編集されて、聡美には「裏の顔」があったなどと意図とは違う報道をされ、傷ついたこともありました。聡美は、かわいくて頭もいいから妬まれたのか。酷い噂話も広まっていました。今回、犯人がようやく逮捕されて、聡美には何の落ち度もなかったことがわかって、その点では安心しています。

事件が未解決の頃、聡美さんの友人Bさんは解決の力になればとテレビの取材に応じたが…(2015年6月12日放送のフジテレビ「金曜プレミアム・最強FBI緊急捜査SP日本未解決事件完全プロフ)
Bさんは、自分の話を意図とは違う内容で報道され、傷ついたという(2015年6月12日放送のフジテレビ「金曜プレミアム・最強FBI緊急捜査SP日本未解決事件完全プロファイル」より)

今回、犯人が捕まったことは良かったけれど、聡美が生き返るわけではありません。私は結婚し、1歳の子供がいます。最近、聡美が生きていたらどうなっていたかな? と考えます。聡美も結婚して子供がいたかな? 聡美はしっかりしているから子供をしっかりしつけていそうだな。子育てで色んな相談ができたかな? 私の子供をすごくかわいがってくれただろうな。もし生きていたら、聡美に会わせたかった。聡美がいないことが無性に悲しいのです。

また、昔はわからなかったけれど、子供が生まれて、親が子供を思う気持ちがわかるようになりました。1年、子育てをするだけでも、すごく沢山の思い出ができます。聡美のご両親なら、17年間もの思い出がある。大切な子供の生命を奪われた親の気持ちを想像すると、とても辛いです。

犯人は、一度も見たことがない男でした。14年間、自首もせずにのうのうと生きてきたかと思うと、腹が立ちます。叶うなら、死刑にして欲しい。けれど、そうもいかないのだろうと思っています。今の世の中は加害者ばかりが守られる世の中です。被害者のプライバシーは全然守られません。犯人はどう思って、生きてきたのでしょうか。自首もしていないのですから、反省もしていないのでしょう。

聡美の生命が奪われたのに、犯人が生きてきたことに腹が立ちます。聡美の最期は、犯人だけが見ていて、それを犯人が憶えていることにも腹が立ちます。聡美の最期を憶えたまま、14年間生きてきたのでしょう。

どうか聡美の最期を抱えたまま、死刑になって死んで欲しいと思っています。

 * * * * * * * * * *

以上、Bさんの供述だ。

Aさん、Bさん共に事件から13年半の月日が流れ、30代になっても、高校時代の聡美さんとの思い出や事件のショックを克明に記憶しており、犯人が捕まらなかった間のやり場のない憤りや、検挙された犯人・鹿嶋学への憎悪を語った部分も当事者の言葉ならではのインパクトがあった。

この2人の供述調書が朗読される間、被告人席の鹿嶋はずっとうつむいたまま表情を変えず、検察官席にいた聡美さんの父・忠さんは時折、感極まりそうになっていた。(次回につづく)

《関連過去記事カテゴリー》
 廿日市女子高生殺害事件裁判傍聴記 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=89

【廿日市女子高生殺害事件】
2004年10月5日、広島県廿日市市で両親らと暮らしいていた県立廿日市高校の2年生・北口聡美さん(当時17)が自宅で刺殺され、祖母のミチヨさん(同72)も刺されて重傷を負った事件。事件は長く未解決だったが、2018年4月、同僚に対する傷害事件の容疑で山口県警の捜査対象となっていた山口県宇部市の土木会社社員・鹿嶋学(当時35)のDNA型と指紋が現場で採取されていたものと一致すると判明。同13日、鹿嶋は殺人容疑で逮捕され、今年3月18日、広島地裁の裁判員裁判で無期懲役判決を受けた。

▼片岡健(かたおか けん)
全国各地で新旧様々な事件を取材している。原作を手がけた『マンガ「獄中面会物語」』【分冊版】第11話・筒井郷太編(画・塚原洋一/笠倉出版社)がネットショップで配信中。

最新刊!月刊『紙の爆弾』2020年9月号【特集】新型コロナ 安倍「無策」の理由
「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

コロナファシズムに警戒せよ! 「法的拘束力のある休業要請」の落とし穴

◆東京都医師会の尾崎治夫会長の「法的拘束力もつ休業要請」

新型コロナウイルス感染拡大の中、一般市民からも野党からも「国会を召集しろ」という声が高まっている。

もっともな要求だが、そこには落とし穴もある。

7月30日、東京都医師会の尾崎治夫会長は、法的拘束力のある補償付き休業「要請」が必要だと発表し、話題を呼んでいる。法的拘束力のある要請とは実質「命令」だ。

テレビはこの発言を好意的に取り上げ、賛同する世論もあるが、”コロナファシズム注意報”を発令したい。


◎[参考動画]都医師会 PCR検査1400カ所に「抑える最後のチャンス」(FNNプライムオンライン)

◆自民党憲法草案の緊急事態条項に悪用の恐れ

そもそも、コロナ特措法(新型インフルエンザ等対策特別措置法の一部を改正する法律)は、今年3月13日に可決し翌14日に施行されたばかり。
 
民主党政権時代に成立したインフルエンザ特措法の一部を変えたものである。具体的には、改正前の「新型インフルエンザ等」の定義の改正。法の対象に新型コロナウイルス感染症を追加した。

最大の問題点は、内閣総理大臣が必要と認めれば、緊急事態宣言することができ、権力の集中、市民の自由と人権が強く制限される危険があることだ。
 
これまでの安倍政権は、憲法を守らず、法律に違反し、国会で虚偽答弁を繰り返し、政権に忖度した役人も公文書を改ざん破棄するなどを繰り返してきた。

したがって、今度の新特措法を破ったり強引に拡大解釈してもなんの不思議もない。過去の事実を見る限り、こちらの可能性の方が高いとみなければならない。

もっとも心配なのは、憲法に緊急事態を盛り込む地ならし、ないし布石にしようと政府・自民党は目論んでいる疑いがあることだ。

2012年、自民党は憲法改正憲草案に「緊急事態条項」を盛り込んだ。これは緊急事態と内閣総理大臣が判断すれば、国会機能を停止し、政府が決める政令が法律と同等の効力を持つ。

行政の独裁になり、緊急事態の期間延長も可能という。その危険性ゆえにナチスの全権委任法のようだと批判がある。まさに日本を文明国から野蛮国に転落させる憲法草案といえるだろう。

新型コロナウイルスが問題になり始めた1月30日の二階派の会合で、自民党の伊吹文明元衆院議長が、「緊急事態の一つの例。憲法改正の大きな実験台と考えた方がいいかもしれない」と述べた事実は見逃せない。

人々の不安とストレスに乗じて「法的拘束力を持つ休業」を安易に取り入れた特措法の再改正をすれば、強権的抑圧体制が進むおそれがある。

これは上からの抑圧だが、もっと恐ろしいのが下からの圧力ではないか。

◆権力の弾圧と下からのファシズム──サンドイッチ規制

前述した自民党の伊吹文明氏が言う、憲法の緊急事態条項にコロナ危機を連動させる野望は、上からの民衆弾圧の思想だ。

一方、全体主義的な空気を一般人が下から煽り立てる危険も現実にある。

前回、緊急事態宣言が発出された日のテレビ朝日系『羽鳥慎一モーニングショー』を思い出す。その日のうちに緊急事態宣言発出か、という緊張した日の朝だった。

出演していたジャーナリストの青木理氏は、緊急事態宣言を出せ、政府に強力な権限を持たせよ、という空気が一般人の中にあることについて「非常によろしくない、非常によろしくない」と繰り返し警告していた。

それに対し、テレビ朝日社員のコメンテーターである玉川徹氏が、「上からでなく下から声が上がってきたのは非常にいいこと」という趣旨の発言を、青木氏のコメントに対応するかたちで繰り返した。

自粛警察、自粛ポリス、マスク警察などを見れば明らかだろう。

国家権力が直接的な強権を発動するのではなく、下から人権や私権の制限および権力の強化を求める機運が高まった時こそ、全体主義が暴走しやすい。

自由を求める少数の人々は、国家権力と民衆の間に挟まれるサンドイッチの具になる。デモ隊の左右を機動隊んが挟み込む規制を”サンドイッチ規制”と呼ぶ。それを立体的にしたようなイメージである。

国会を召集するのは当然としても、安易に「コロナ特措法」の強化に対しては、最大限の警戒を持つべきだ。

◆プラスマイナスで総合的に判断を

そうはいっても、これ以上感染が拡大したらどうするのか? 爆発的に増えたらどうするのか? という意見もあるだろう。その一方で、自由や人権が奪われ、権力が肥大化する恐れがある。

両者をプラスマイナスで考え、より深刻なマイナスを除去する方向で判断するしかないだろう。つまり、どちらがより日本社会に打撃を与えるかの判断が必要ではないだろうか。

コロナウイルスは必ず終息する(100%ではないが)が、いちど強権的システムを構築してしまえば、抑圧体制を容易に終息させることはできない。コロナ終息後も時の権力や支配者たちは、そのシステムを維持するだろう。

そうなれば、ステイホーム、Go to などの号令に従って尻尾を振る飼い犬のような生活が長期間続くことを覚悟しなければならないのだ。

▼林 克明(はやし・まさあき)
 
ジャーナリスト。チェチェン戦争のルポ『カフカスの小さな国』で第3回小学館ノンフィクション賞優秀賞、『ジャーナリストの誕生』で第9回週刊金曜日ルポルタージュ大賞受賞。最近は労働問題、国賠訴訟、新党結成の動きなどを取材している。『秘密保護法 社会はどう変わるのか』(共著、集英社新書)、『ブラック大学早稲田』(同時代社)、『トヨタの闇』(共著、ちくま文庫)、写真集『チェチェン 屈せざる人々』(岩波書店)、『不当逮捕─築地警察交通取締りの罠」(同時代社)ほか。林克明twitter

月刊『紙の爆弾』2020年9月号【特集】新型コロナ 安倍「無策」の理由