3月4日の福島地裁。「脱被ばく子ども裁判」の証人尋問に臨んだ福島県放射線健康リスク管理アドバイザー・山下俊一氏(長崎大学学長特別補佐、福島県立医科大学副学長)の発言は、9年前の自身の講演での発言を正当化し、一部誤りを渋々ながら認めて〝謝罪〟し、改めて原告や支援者たちの怒りを買った。

「言葉足らず舌足らずが誤解を招いたのであれば本当に申し訳ない」などの発言は5日付の「民の声新聞」(リンク)で既に報じたが、そこでは書き切れなかった山下証言を紹介したい。

福島地裁での証人尋問を行った山下俊一氏。言い訳と、今さらながらの形ばかりの〝お詫び〟に傍聴席からは怒りの声があがった

「放射線は人体にとって本質的には有害です。ただし、放射線を利用する事による便益が非常に大きいために、常にこの分野ではリスクとベネフィットを防護の観点から考えてきました」

山下氏の言う「便益」の1つが発電だ。「福島県放射線健康リスク管理アドバイザーへの就任要請は覚悟して引き受けた」と語った山下氏だが、その「覚悟」とは子や孫の被曝を心配する人々に一見、寄り添いつつ、一方で放射線利用の道を閉ざさないという重大な任務に対する覚悟では無かっただろうか。山下氏の法廷での発言を改めて振り返ると、二面性が浮き彫りになってくる。

例えば2011年3月21日に福島市で行われた講演会。「このまま福島に居て良いのか。実家とか県外に行った方が良いのか」という質問に対して「心配があれば、より遠くに避難した方が良いと思う」と答えている。福島県の代理人弁護士による主尋問で「被曝から守られるべき対象者は子ども、妊産婦です。そういう意味で話しをしました」と振り返ったが、しかし一方で、同年5月3日に二本松市で講演会を開いたが「この時点で既に緊急時は脱したと考えていた」という。

5月20日、「放射線を正しく理解してもらい、風評被害をなくす」事を目的に都内で開かれた「東日本大震災復興支援第1回シンポジウム」(長崎・ヒバクシャ医療国際協力会主催)。ここで山下氏は「チェルノブイリ原発事故の教訓から福島原発事故の健康影響を考える」と題して講演。次のように発言していた。

「現場に入り、そしてこの人たちに安心、安全をいかに説くかということ、安全ということはありません。しかし、安心をいかにしてパニックを抑えるかということが当初の目的でありました」

「福島県内での講演では出来るだけ不安に寄り添う、不安を増長させないという事を意識しました」と言いながら「この地域では誰も年100mSvを超える事は無いと確信していました」。山下氏の〝登場〟が福島の人々を「安心」させるためだったとすれば、「放射線の影響は、実はニコニコ笑っている人には来ません。クヨクヨしている人に来ます。これは明確な動物実験で分かっています」という噴飯ものの発言をしたのもうなずける。

主尋問の最後に「私自身の発言の中で当時、科学的根拠や妥当性を欠いたものがあったとは思いません」と言い切ったが、県民の不安を「大げさ」と捉えず、少しでも被曝リスクから遠ざかる方法を伝えるべきではなかったか。あの講演のどこが県民に寄り添っていて、妥当性のあるものだったのか。

原告代理人の井戸謙一弁護士が当時の「山下講演」や書籍での表現の矛盾点を鋭く指摘した場面を再現してみよう。

井戸「これは『正しく怖がる放射能の話』という書籍(長崎文献社)ですが、証人が監修されており、内容については責任を持つという事でよろしいですか?」

山下「はい」

井戸「61ページの一番下。『1年間で100mSvになるような場合にはどうなるかというと、その都度出来たDNAの傷は元通りに直されていきますので合計で100mSvになったとしても修復出来ない傷は全く残りません』と書いてありますね?」

山下「はい」

井戸「『全く残らない』という事は癌になる恐れは全く無いと理解して良いですか?」

山下「積算線量1mSvの場合はそうです。1を100回という意味です」

井戸「先ほど証人は、『100mSv以下の場合は発癌リスクは良く分かっていない』と答えたのではないですか?」

山下「疫学的には証明されていないという意味です」

井戸「他の方法では証明されているのですか?」

山下「傷を見る角度によって変わる事はあります」

井戸「傷が全て100%修復されるのであれば、癌に発展する可能性は無いですよね?」

山下「はい」

井戸「したがって、先ほど証人が『証明されていない』と証言した事と書籍の記載内容は矛盾するのではないですか?」

山下「厳格に言えば、そういう矛盾点はあるかと思います」

後に〝ミスター100mSv〟と呼ばれるようになった山下氏は、福島県内での講演でも「100mSv」を盛んに口にしていた。

井戸「1年間に100mSvでは癌のリスクは無いという趣旨の事を言っていますが、これは毎年100mSvの被曝を10年20年続けた場合でも癌のリスクは無いという趣旨でしょうか?」

山下「いえ、そういう意味ではありません」

井戸「すると、たまたま1年間だけそういう年があっても、という趣旨ですか?」

山下「最高1年間で100mSvという意味でしか使っていません」

井戸「したがって、その前後は被曝をしないという前提での話ですか?」

山下「基本的にはそういう風に理解しています」

井戸「あなたは福島県の人たちに話をする時にそういう説明をしないで『1年間に100mSv以下であれば健康リスクは無い』と説明したのではないですか?」

山下「はい。1年目はそうです」

井戸「そうすると聴いた側は、これは毎年100mSvずつ被曝していっても安心して良いんだ、と受け止めたのではないですか?」

山下「分かりません」

井戸「そういう可能性は十分にありますね?」

山下「はい」

全国から多くの人が駆け付けた「子ども脱被ばく裁判」の口頭弁論。山下氏の発言に大きな注目が集まった

疑問だらけの「山下証言」。講演内容の訂正問題もその1つだ。山下氏は2011年3月21日に福島市の「福島テルサ」で講演しているが、その時の「100μSv/hを超さなければ全く健康に影響を及ぼしません」という発言を「10μSv/hを~」と訂正している。

井戸弁護士は、これは意図的に言い間違えたのではないかと追及した。山下氏は「1カ月後に外部から指摘されて気付いた。私はこういう言い方をしたと気付かなかった」と答えた。しかし、福島県のホームページでは講演の翌日3月22日付で訂正文を掲載している。このズレは何を意味するのか。

当時、福島市は10μSvを超えるような空間線量だった。他にも避難指示は出されていないが10μSv/hを上回るような地点は多かった。井戸弁護士は「避難指示が出ていない地域の人たちを避難させないために、安心させるために敢えて100μSv/hと言ったのではないですか?」と質したが、山下氏は「全く見当違いだ」ときっぱりと否定した。

山下氏は2011年4月1日、飯舘村で職員を相手に話している。出席した職員から「38μSv/hあるが大丈夫か」と質問され、「マイクロシーベルトのレベルであれば全く問題無い。10μSv/hまで下がればより安心である」と答えた。これだけの高線量でも「当時、避難の話はしていないと思う」と山下氏。その後、飯舘村は全村避難となるが「SPEEDI情報から、風向きによって飯舘村に放射能プルームが入ったのは知っていた。避難指示が出される可能性はあると思っていた」にも関わらず「私が関与する立場に無かった」として避難を勧めていない。

住民対象の講演会では、時に「心配があれば、より遠くに避難した方が良いと思う」と言いながら、一方で村職員の質問には避難を勧めない。これを二枚舌と言わずして何と言おうか。(つづく)

◎[関連記事]鈴木博喜-《NO NUKES VOICE》山下俊一=福島県放射線健康リスク管理アドバイザー証人尋問 9年前の〝安全安心講演〟の矛盾とウソが明らかに 〈前編〉 〈後編〉

▼鈴木博喜(すずき ひろき)

神奈川県横須賀市生まれ、48歳。地方紙記者を経て、2011年より「民の声新聞」発行人。高速バスで福島県中通りに通いながら、原発事故に伴う被曝問題を中心に避難者訴訟や避難者支援問題、〝復興五輪〟、台風19号水害などの取材を続けている。記事は http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/ で無料で読めます。氏名などの登録は不要。取材費の応援(カンパ)は大歓迎です。

『NO NUKES voice』Vol.23 総力特集〈3・11〉から9年 終わらない福島第一原発事故

『NO NUKES voice』Vol.23
紙の爆弾2020年4月号増刊
2020年3月11日発行
定価680円(本体618円+税)A5判/132ページ

————————————————————————————————–
総力特集 〈3・11〉から9年 終わらない福島第一原発事故
————————————————————————————————–

[グラビア]福島原発被災地・沈黙の重さ(飛田晋秀さん

[インタビュー]菅 直人さん(元内閣総理大臣)
東電福島第一原発事故から九年の今、伝えたいこと

[インタビュー]飛田晋秀さん(福島県三春町在住写真家)
汚染されているから帰れない それが「福島の現実」

[報告]横山茂彦さん(編集者・著述業)
元東電「炉心屋」木村俊雄さんが語る〈福島ドライアウト〉の真相

[報告]尾崎美代子さん(西成「集い処はな」店主)
車両整備士、猪狩忠昭さんの突然死から見えてくる
原発収束作業現場の〈尊厳なき過酷労働〉

[報告]伊達信夫さん(原発事故広域避難者団体役員)
《徹底検証》「原発事故避難」これまでと現在〈7〉
事故発生から九年を迎える今の、事故原発と避難者の状況

[報告]鈴木博喜さん(『民の声新聞』発行人)
奪われ、裏切られ、切り捨てられてきた原発事故被害者の九年間

[対談]四方田犬彦さん(比較文学者・映画史家)×板坂 剛さん(作家・舞踊家)
大衆のための反原発 ──
失われたカウンター・カルチャーをもとめて

[報告]本間 龍さん(著述家)
原発プロパガンダとは何か〈18〉
明らかになる福島リスコミの実態と功罪

[報告]山崎久隆さん(たんぽぽ舎副代表)
「特定重大事故等対処施設」とは何か

[報告]三上 治さん(「経産省前テントひろば」スタッフ)
停滞する運動を超えて行く方向は何処に

[報告]山田悦子さん(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈7〉記憶と忘却の功罪(後編)   

[報告]佐藤雅彦さん(翻訳家)
5G=第5世代の放射線被曝の脅威

[報告]渡辺寿子さん(核開発に反対する会/たんぽぽ舎ボランティア)
「日本核武装」計画 米中対立の水面下で進む〈危険な話〉

[読者投稿]大今 歩さん(農業・高校講師)
原発廃絶に「自然エネ発電」は必要か──吉原毅氏(原自連会長)に反論する  

[報告]再稼働阻止全国ネットワーク
老朽原発を止めよう! 関西電力の原発と東海第二原発・他
「特重」のない原発を即時止めよう! 止めさせよう!

《関電包囲》木原壯林さん(若狭の原発を考える会)
「5・17老朽原発うごかすな!大集会inおおさか」に総結集し、
老朽原発廃炉を勝ち取り、原発のない、人の命と尊厳が大切にされる社会を実現しよう!

《規制委》木村雅英さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
1・24院内ヒアリング集会が示す原子力規制委員会の再稼働推進
女川審査は回答拒否、特重は矛盾だらけ、新検査制度で定期点検期間短縮?

《全国》柳田 真さん(たんぽぽ舎・再稼働阻止全国ネットワーク)
原発の現局面と私たちの課題・方向

《北海道・泊原発》佐藤英行さん(岩内原発問題研究会)
北海道電力泊原子力発電所はトラブル続き

《東北電力・女川原発》笹氣詳子さん(みやぎ脱原発・風の会)
復興に原発はいらない、真の豊かさを求めて
被災した女川原発の再稼働を許さない、宮城の動き

《東電・柏崎刈羽原発》矢部忠夫さん(柏崎刈羽原発反対地元三団体共同代表)
柏崎刈羽原発再稼働は阻止できる

《関電・高浜原発》青山晴江さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
関西のリレーデモに参加して

《四国電力・伊方原発》名出真一さん(伊方から原発をなくす会)
三月二〇日伊方町伊方原発動かすな!現地集会 
レッドウイングパークからデモ行進。その後を行います。圧倒的結集をお願いいたします。

《九州電力・川内原発》けしば誠一さん(反原発自治体議員・市民連盟事務局次長/杉並区議会議員)
原発マネー不正追及、三月~五月川内原発・八月~一〇月高浜原発が停止
二〇二〇年は原発停止→老朽原発廃炉に向かう契機に!

《北陸電力・志賀原発》藤岡彰弘さん(命のネットワーク)
混迷続く「廃炉への道」 志賀原発を巡る近況報告

《読書案内》天野惠一さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
『オリンピックの終わりの始まり』(谷口源太郎・コモンズ)

私たちは唯一の脱原発雑誌『NO NUKES voice』を応援しています!

首相・安倍晋三が「福島第一原発事故の汚染水の影響は、完全にコントロールされており、健康への心配は、現在も未来もまったくない」と福島県で被災されている皆さん(あるいは原発事故による様々な疾病に苦しむ方や、事故を苦に自死され方々)を無視・冒涜する許されざる虚構の演説で招致にこぎつけた、「金の亡者の祭典」こと「東京五輪」開催が事実上不可能になった。


◎[参考動画]安倍晋三総理大臣のプレゼンテーション IOC総会(2013/09/08)


◎[参考動画]滝川クリステルさんのプレゼンテーション IOC総会(2013/09/08)

その理由はあらためて述べるまでなく、新型コロナウイルスの感染を、政権の無策で抑えることができず、日本が世界有数の感染拡大国になってしまったことが、直接の理由である。きょう現在五輪実施委員会やIOC、日本政府のいずれもが「東京五輪中止」を宣言してはいないが、国内での大規模イベントは軒並み中止か延期。海外からの渡航客も激減。2019年10-12月期の実質GDP成長率は前期比年率-6.3%と大幅に落ち込み、特に10月の家計消費は-11.5%とリーマンショック直後の2008年10-12月期を上回る減少と政府発表の統計は示している。

企業は在宅勤務を増加させ、大学の多くは入学式の取りやめを決定し、新年度の授業開始時期すら決まっていない。3・11から10年目に入り、原発再稼働やカジノ解禁、改憲など、よこしまなことばかりを画策していた、極悪政権とマスコミ誘導があるとはいえ、極悪政権に高い支持率を与え続けてきた国民に対する、「2011年3月11日をしっかり想起せよ」との天啓が下ったのだ。

否、それだけではなく、世界を覆いつくした「経済成長至上主義」の責任なき暴走にストップがかけられたと、見ることもできよう。戦々恐々として大マスコミは報じないが、「世界の工場」と呼ばれた中国は大打撃を受け、今年の成長率は実質4%台に落ち込むとの予想も聞かれはじめた。米国をはじめ株高で浮かれていた国々でも、すでに猛烈な暴落、乱高下がはじまっている。パンデミックだけではなく、大恐慌がやってくることは明らかだ。

そんな時世のなかで、客観的な情勢として「五輪」などに時間や人員を割き、楽しんでいる余裕などないことには、さすがに少なくない皆さんが、肌で感じておられることだろう。


◎[参考動画]東京五輪中止なら経済損失7.8兆円 大手証券が試算(2020/03/07)

3月8日東京五輪の選考を兼ねて、名古屋ウイミンズマラソンがおこなわれていた。わたしは「東京五輪反対」ばかりを主張しているが、けっしてスポーツが嫌いなわけではない。むしろマニアックな競技も含めてスポーツ観戦は趣味の域きに入るだろう。一山麻緒選手の激走は感動的だった。22歳で20分台をあのコンデションで出すとは!しかし、アナウンサーが「東京への最後の切符をかけて」と連呼するたびに複雑な気持ちになった。

「金の亡者」が欲得ずくで行う競技会であっても、選手は出場したいことだろう。

各種競技で「五輪出場選手が決まる」、との報道を目にするにつけ、可哀そうに思えて仕方がない。しかし、彼らとて立派なアスリートであれば、それなりの人格と知性を持ち得るはずだ。何度も繰り返すように「東京五輪」が福島を中心とする原発事故被害の隠蔽のために画策され、それに思慮のない人や「ここでまた一山いけるで!」と計算高い企業群が、欺瞞に満ちたきれいごとをならべ、いまも苦しんでいる人たちの、生活や気持ちを「なきものにしよう」と企み計画されたのが「東京五輪」の本質であることくらい理解できなければ、一流のアスリートではない。

スポーツは素晴らしい。けれども、スポーツをおこなうには、危険のない(健康上・安全上)諸条件と、それを楽しむことができるアスリートと観客が必要だろう。この夏、日本にはその両方の要素がないのだ。

「東京五輪中止」は既に内々では決定されているだろう。だが、誰も発表しないので、わたしが断定的にお伝えする。どう考えてもこの夏東京での五輪開催は不可能だ。IOCや実行委員会は金勘定に頭を悩ましているだろうが、WHOが「気温が上昇したたからといって収束するわけではない」と発表し、日本に渡航を禁止する国が日々増加しているのだ。

そんなことよりも、可及的速やかに混乱を最小化させる手立てに集中するのが政権の仕事だろう(混乱に乗じて憲法に「緊急事態条項」を書き混むなどといった、言語道断の議論を国会でしている場合か)。安倍や自公政権には何も期待しない。唯一の期待は「早く退場してくれ」だけだ。


◎[参考動画]「緊急事態宣言」可能に 法改正(2020/03/05)

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

『NO NUKES voice』Vol.23 総力特集〈3・11〉から9年 終わらない福島第一原発事故

『NO NUKES voice』Vol.23
紙の爆弾2020年4月号増刊
2020年3月11日発行
定価680円(本体618円+税)A5判/132ページ

————————————————————————————————–
総力特集 〈3・11〉から9年 終わらない福島第一原発事故
————————————————————————————————–

[グラビア]福島原発被災地・沈黙の重さ(飛田晋秀さん

[インタビュー]菅 直人さん(元内閣総理大臣)
東電福島第一原発事故から九年の今、伝えたいこと

[インタビュー]飛田晋秀さん(福島県三春町在住写真家)
汚染されているから帰れない それが「福島の現実」

[報告]横山茂彦さん(編集者・著述業)
元東電「炉心屋」木村俊雄さんが語る〈福島ドライアウト〉の真相

[報告]尾崎美代子さん(西成「集い処はな」店主)
車両整備士、猪狩忠昭さんの突然死から見えてくる
原発収束作業現場の〈尊厳なき過酷労働〉

[報告]伊達信夫さん(原発事故広域避難者団体役員)
《徹底検証》「原発事故避難」これまでと現在〈7〉
事故発生から九年を迎える今の、事故原発と避難者の状況

[報告]鈴木博喜さん(『民の声新聞』発行人)
奪われ、裏切られ、切り捨てられてきた原発事故被害者の九年間

[対談]四方田犬彦さん(比較文学者・映画史家)×板坂 剛さん(作家・舞踊家)
大衆のための反原発 ──
失われたカウンター・カルチャーをもとめて

[報告]本間 龍さん(著述家)
原発プロパガンダとは何か〈18〉
明らかになる福島リスコミの実態と功罪

[報告]山崎久隆さん(たんぽぽ舎副代表)
「特定重大事故等対処施設」とは何か

[報告]三上 治さん(「経産省前テントひろば」スタッフ)
停滞する運動を超えて行く方向は何処に

[報告]山田悦子さん(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈7〉記憶と忘却の功罪(後編)   

[報告]佐藤雅彦さん(翻訳家)
5G=第5世代の放射線被曝の脅威

[報告]渡辺寿子さん(核開発に反対する会/たんぽぽ舎ボランティア)
「日本核武装」計画 米中対立の水面下で進む〈危険な話〉

[読者投稿]大今 歩さん(農業・高校講師)
原発廃絶に「自然エネ発電」は必要か──吉原毅氏(原自連会長)に反論する  

[報告]再稼働阻止全国ネットワーク
老朽原発を止めよう! 関西電力の原発と東海第二原発・他
「特重」のない原発を即時止めよう! 止めさせよう!

《関電包囲》木原壯林さん(若狭の原発を考える会)
「5・17老朽原発うごかすな!大集会inおおさか」に総結集し、
老朽原発廃炉を勝ち取り、原発のない、人の命と尊厳が大切にされる社会を実現しよう!

《規制委》木村雅英さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
1・24院内ヒアリング集会が示す原子力規制委員会の再稼働推進
女川審査は回答拒否、特重は矛盾だらけ、新検査制度で定期点検期間短縮?

《全国》柳田 真さん(たんぽぽ舎・再稼働阻止全国ネットワーク)
原発の現局面と私たちの課題・方向

《北海道・泊原発》佐藤英行さん(岩内原発問題研究会)
北海道電力泊原子力発電所はトラブル続き

《東北電力・女川原発》笹氣詳子さん(みやぎ脱原発・風の会)
復興に原発はいらない、真の豊かさを求めて
被災した女川原発の再稼働を許さない、宮城の動き

《東電・柏崎刈羽原発》矢部忠夫さん(柏崎刈羽原発反対地元三団体共同代表)
柏崎刈羽原発再稼働は阻止できる

《関電・高浜原発》青山晴江さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
関西のリレーデモに参加して

《四国電力・伊方原発》名出真一さん(伊方から原発をなくす会)
三月二〇日伊方町伊方原発動かすな!現地集会 
レッドウイングパークからデモ行進。その後を行います。圧倒的結集をお願いいたします。

《九州電力・川内原発》けしば誠一さん(反原発自治体議員・市民連盟事務局次長/杉並区議会議員)
原発マネー不正追及、三月~五月川内原発・八月~一〇月高浜原発が停止
二〇二〇年は原発停止→老朽原発廃炉に向かう契機に!

《北陸電力・志賀原発》藤岡彰弘さん(命のネットワーク)
混迷続く「廃炉への道」 志賀原発を巡る近況報告

《読書案内》天野惠一さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
『オリンピックの終わりの始まり』(谷口源太郎・コモンズ)

私たちは唯一の脱原発雑誌『NO NUKES voice』を応援しています!

原発事故後に設置されたモニタリングポストが「数値を外から確認出来ない問題」に直面している。

福島県の中で会津地方や中通り、いわき市の避難指示が出されなかった地域に設置されているモニタリングポスト(リアルタイム線量測定システム、以下リアモニ)の撤去計画が白紙撤回されて5月で1年。

住民説明会では「万一の事態が起きた時に、放射線量を一目で確認したい」と設置継続を求める声が相次ぎ、撤去を進めたい原子力規制委員会を押し切った格好だが、一方で保育所や学校などに設置された一部のリアモニが敷地の内側を向いており、外から数値が確認出来ない状態になっているのだ。外から数値が見えるように180度動かすにしても専門業者の力が必要で、国も福島県も市町村もそのための予算措置などしていない。

昨秋の「10・12水害」で水没、故障したリアモニの建て替えも進んでおらず、住民が望んだ形とは異なる姿で「当面の間」の設置継続だけが続いている。

保育所や学校に設置されたリアモニの中には敷地外から数値を確認出来ないものも少なくないが、今のところ外側に向きを変える計画は無い

◆「外から数値が見えないリアモニって、確かに意外と多いんです」

「外から数値が見えないリアモニって、確かに意外と多いんです。そういう視点で街を歩いてみると気付くと思います。しかし、じゃあ向きを変えっぺと、人が何人か集まれば動かせるというような代物ではありません。仮に向きを変えるのなら重機が必要だから専門業者に頼まなければいけない。それはやはり、設置者である国の責任でやるのが筋なのではないでしょうか。国の責任で住民の要望に応えるのがあるべき姿だと思いますよ。でも、現実問題として国が予算措置しているのは、あくまで『維持管理費』です。向きを変えるような工事費用は盛り込んでいません。もちろん、県にもそんな予算はありません」

福島県放射線監視室の担当者は、ざっくばらんにそう語った。原発事故後、学校や保育所、集会所や公園など、子どもたちが集まるような場所を選んでリアモニが設置されたが、「職員や教師、保育士がまず真っ先に数値を確認する」との趣旨から、施設の内側に向けて設置されたものも多い。県民からは「外から数値を見えにくくするために意図的に内側にしている。〝汚染隠し〟ではないのか」との指摘もあるが、そうでは無いという。福島県中通りのある保育所長は「そんな悪意はありません」と話す。

「そもそもリアモニを設置したのが、歩いている人に数値を知らせるのでは無くて園児や保護者、保育士に見せるという趣旨だったのです。そういう意味ではリアモニの役割が変わってきているのかしれませんね」

県民からは「外から数値を見えにくくするために意図的に内側にしている。〝汚染隠し〟ではないのか」との指摘もある

◆リアモニを設置し続けること自体が「風評被害」を招く?

リアモニの撤去計画は2018年3月20日の原子力規制委員会(http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/blog-entry-237.html)で浮上。避難指示が出された12市町村を除く約2400台を2021年3月末までに撤去し、避難指示12市町村に配置し直すという計画だった。年間5億円とも6億円とも言われる維持費用のほか、空間線量の下がった区域にいつまでもリアモニが設置されていると特に海外からの観光客に被曝リスクが存在すると誤解を与える(風評被害を招く)という理由もあった。

2018年6月から11月にかけて福島県内15市町村で開かれた住民説明会では、撤去に反対する意見が大多数を占めた。母親たちの市民グループ「モニタリングポストの継続配置を求める市民の会」が結成され、会津若松市や福島市、郡山市、いわき市などで地元市長に対して撤去に反対するよう求める要望書が提出された。複数の市町村議会が継続配置を求める意見書を国に送った。廃炉作業が何十年にもわたって続く中で、万一の事態が起きた場合に数値を確認する機会を奪わないで欲しい、というのが撤去反対の主な理由だった。

リアモニ撤去への反対意見が続出した住民説明会。多くが「万一の事態のために、数値を確認出来る機会を奪わないで欲しい」という切実な声だった

◆「そんな事ばかりやっているから福島は駄目なんだ」とまくし立てた田中俊一前原子力規制委員長

一方、リアモニ撤去の〝言い出しっぺ〟である原子力規制委員会の田中俊一前委員長は取材に対し「あんな意味の無いものをいつまでも設置し続けたってしょうがない。数値がこれ以上、上がる事は無いのだから、早く撤去するべきだ。廃炉作業でどんなアクシデントが起こるか分からない?そんな〝母親たちの不安〟なんて関係無いよ。そんな事ばかりやっているから福島は駄目なんだ」とまくし立てていた。

福島市の木幡浩市長(元復興庁福島復興局長)も、設置継続を求める母親たちの声に理解を示しつつも「風評」を何度も口にし、「そもそも米の全量全袋検査が良いのかという議論の中で、検査をする事自体が『福島の米は危ないのではないか』という事を示してしまっているという意見も現実にある。将来的なリアモニの集約というか、どの程度設置するのが良いかという議論はあり得るでしょう。今大きく減らすべきだと言うつもりは無い。ただ、僕らは『風評』と『自分たちの気持ち』の両方を常に考えなければならないと思う」と将来的な撤去に含みを持たせていた。

最終的には福島県民の願いが通じ、原子力規制委員会は2019年5月29日の会合で「当面、存続させる」事が決まった。長年「原発が事故を起こすなんてあり得ない」と〝安全神話〟を信じ込まされた挙げ句に原発事故の被害を受けた人々が、「廃炉作業で万一の事態が起きても中通りにまで影響が及ぶ事は無い」と事故後の数値確認機会まで奪われる最悪の事態は回避された。

◆リアモニ撤去の機会をうかがい続ける国の思惑

しかし、県職員も認めているように、国は撤去方針そのものは捨てていない。しかも中には一見して数値を確認出来ないリアモニもある。せめて施設外から数値を確認出来るように向きを変える事は出来ないかと原子力規制庁に確認をしたが、監視情報課の担当者の答えは「NO」だった。

「今のところ、その後の具体的な動きは全くありません。仮に向きを変えるとしたら県や市町村と相談してやることになると思いますが…。現時点では『当面、設置を維持する』というところから何も進んでいません。最近ではむしろ、中通りにある私立幼稚園などから『邪魔だから早く撤去して欲しい』という声が複数寄せられているくらいですから、向きを変えるという発想などありませんでした。もちろん、そのための工事費用を捻出する予算など確保していませんし…」

危機を脱し、リアモニ撤去計画を口にする人も少なくなった。国も福島県も話題にしなくなった。それにはこんな裏事情もあるという。

「『配置見直し』という国の基本的な考え方は変わっていませんが、水害が起きて33台がやられた。韓国が『日本はまだ汚染されている』と騒いでいる、『聖火リレーはこのまま実施して良いのか』などいろいろな外圧が起きています。そういった状況の中で、積極的に配置見直しを言いにくい事態に陥ってしまったのが現状です」(福島県職員)

じっと身を潜めながら撤去の機会をうかがっている国。当面の存続は決まったものの、本来の目的を果たせないものもあるリアモニ。「外から数値を確認出来ない問題」は解消されないまま、とりあえずの存続だけが続いていく。

国は撤去方針そのものは捨てていない

▼鈴木博喜(すずき ひろき)
神奈川県横須賀市生まれ、48歳。地方紙記者を経て、2011年より「民の声新聞」発行人。高速バスで福島県中通りに通いながら、原発事故に伴う被曝問題を中心に避難者訴訟や避難者支援問題、〝復興五輪〟、台風19号水害などの取材を続けている。記事は http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/ で無料で読めます。氏名などの登録は不要。取材費の応援(カンパ)は大歓迎です。

3月11日発売『NO NUKES voice』Vol.23 総力特集〈3・11〉から9年 終わらない福島第一原発事故

◆外国船籍と公海航行を利用した「脱法カジノ」

すでにネットでは公然と語られるいっぽうで、マスコミが報じない脱法行為が存在する。いや、すでにその華やかな幕は下りてしまったが、ここ半月ものあいだ繰り返し報じられてきたクルーズ船、ダイヤモンド・プリンセスに秘められた、とんでもない事実があるのだ。

いや、秘められたというのは大げさだろう。ダイヤモンド・プリンセスはみずからカジノ船であることを、そのホームページで公然と宣伝しているのだから。公然と脱法行為を宣伝していながら、微塵も恥じることがない。遅きに失した感はあるが、このさい安倍総理のカジノ経済成長路線のあだ花として、この事実を大いに拡散していこうではないか。


◎[参考動画]ダイヤモンド・プリンセス 船内紹介 | プリンセス・クルーズ

◆地獄と化したクルーズ船、じつはカジノツアーだった

それにしても、ダイヤモンド・プリンセスの船内は地獄だったようだ。医療チームの報告として、閉じ込められた乗客たちの多くが「死にたい」と思い、不眠や不安感にさいなまれていたという。以下、時事通信報である。

「『死にたい』『船から飛び降りたい』などと訴える事例が、2月1日からの約1カ月間で91件に上っていたことが分かった。災害派遣精神医療チーム(DPAT)などの活動状況を日本精神科病院協会が公開した。活動中に寄せられた相談では、不眠や不安感といったストレス関連症状が101件と最も多く、次いで『死にたい』といった緊急を要する精神状態が91件に上った。緊急搬送はなかった。ストレス症状を訴える人は、狭い室内に閉じ込められたことによる拘禁反応を起こした例が目立った。」(時事通信3月7日)という。

「新型コロナウイルス肺炎に閉じ込められた、クルーズ船乗客たちの不自由さ ── 今後危惧される拘禁性ノイローゼ(拘禁病)と基礎疾患での重篤化」(2020年2月9日)で指摘したとおりの事態が進行していたことになる。


◎[参考動画]【TBS news23】クルーズ船“告発”動画の波紋

クルーズ船に長期にわたって監禁されることで、そのストレスから新型コロナウイルス罹患を悪化させられ、お亡くなりになった方々には哀悼の意を表しつつ、しかしそのクルーズの違法性およびカジノ誘致キャンペーンの悪質性を暴露していくことにしたい。

外国船籍であり、なおかつ公海上に出るという外洋クルーズによって、可能となっていたのがカジノである。比較的低価格で乗船できるプリンセスクルーズの場合、日本人客にカジノを体験させ、その上がりでペイするという側面もあったのではないか。とりあえず、ダイヤモンド・プリンセスがカジノ船であったことを、ほかならぬプリンセスクルーズのホームページから引用しよう。

「一流のディーラーがエスコートするテーブルゲーム、多彩な種類のスロットマシンを揃え、バーも併設したプリンセス・クルーズ自慢の本格的なカジノ。
 外国船クルーズでしかできない本格的なカジノ体験で、そのきらびやかな雰囲気をお楽しみください。
 テーブルゲームは5USドルから、スロットマシンは1USセントからと手軽に楽しむことができます。
 カジノのご利用にはUSドル(一部客船ではAUドル)をご用意ください。
 現金がない場合には船内会計に加算し精算することも可能です。」

わずか5USドル(536円=3月7日為替相場)でテーブルゲーム(ルーレットなど)、5円ちょっとでスロットマシーンが遊べるというのだ。もちろん、これでギャンブルが終わるわけではない。ついつい熱くなって、カジノ破産寸前まで追い込まれるのがギャンブル依存症である。その入り口に、カジノクルーズのような気軽なきっかけがあるのだ。ギャンブル依存とは、勝ち負けや損得の判断ミスなどではない。勝ったときの絶頂感、勝負におよぶゾクゾクとした興奮、そして必ず取り戻そうとする執着心が、底なしの泥沼にいざなう。いわば脳内麻薬に作用するのが、依存症なのである。

プリンセス・クルーズのHPより

プリンセス・クルーズのHPより

◆カジノ誘致のキャンペーン──コロナとカジノがヨコハマで繋がる

さて、ダイヤモンド・プリンセス号である。この船はアメリカのカーニバル・コーポレーション(Carnival Corporation & PLC)の傘下のプリンセス・クルーズ社が運航しているクルーズ客船だ。2014年に日本マーケット向けに大規模なリノベーションを行ない、展望浴場や寿司バーなどが新設された。このときに船籍をバミューダから英国(ロンドン)へと変更している。2014年から日本に配船され、横浜発着のクルーズを行っている。さらに2015年以降は日本発着のクルーズを毎年行っている。日本人向けのクルーズ船なのである。

日本人向けのカジノ付きクルーズ船で、横浜をメインの発着港にしている。これだけで、ピンとくる人は少なくないのではないだろうか。

発着港の横浜市(林文子市長)が、カジノを柱とするIR誘致の急先鋒だからだ。不案内な向きは、「横浜IR誘致計画の背後に菅義偉官房長官 安倍『トランプの腰ぎんちゃく政策』で、横浜が荒廃する」(2019年8月30日)を参照してほしい。

ダイヤモンド・プリンセスをふくむカーニバルクルーズは、ラスベガスに拠点を置くKonami Gaming,Inc.(コナミ・ホールディングスの子会社)から『SYNKROS(シンクロス)』というカジノ・マネジメント・システムを導入した本格的なカジノ船である。そのシステムは日本のIRにも導入されるという(業界関係者)。つまり、このカジノクルーズは横浜のIR誘致と限りなく交錯し、カジノ導入のいわば隠然たるキャンペーン機能を果たしているのだ。人々の射幸心をあおり、ギャンブル依存によって生活破綻を来しかねないカジノの実験場でもあったのだ。

すでに中国のギャンブル企業から収賄した容疑で、秋元司衆議院議員が逮捕され、5人の議員も賄賂を受け取ったことが明らかになっている。安倍総理が「日本の成長産業」として、観光客誘致を目的に導入を目論んできたカジノ産業は関係議員の汚職として、またクルーズ客たちの悲劇として、思わぬところから頓挫のきざしが見えてきた。国民をギャンブル漬けにする愚策の導入をゆるしてはならない。


◎[参考動画]値下げと割引で激安で豪華客船クルーズに行ってきた!【ダイヤモンドプリンセス】

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業。「アウトロージャパン」(太田出版)「情況」(情況出版)編集長、医科学系の著書・共著に『「買ってはいけない」は買ってはいけない』『ホントに効くのかアガリスク』『走って直すガン』『新ガン治療のウソと10年寿命を長くする本当の癌治療』『ガンになりにくい食生活』など多数。

いまこそタブーなき言論を! 月刊『紙の爆弾』2020年4月号

『NO NUKES voice』22号 新年総力特集 2020年〈原発なき社会〉を求めて

鹿砦社創業50周年記念出版『一九六九年 混沌と狂騒の時代』

まず冒頭に、雑多な情報提供になるのをご了承願いたい。日々刻刻とふえる、新型コロナウイルスに関する情報の中で、いくつか注目しておくべきことがあるので、以下のようなものとなった。まず最初は、結果的にはメディアの過剰報道が防疫になっているとはいえ、いま世界を覆っている感染病死は新型コロナだけではないということだ。

◆アメリカで感染者21万、死者6万人の衝撃

新型コロナウイルス[SARS-CoV-2(国際ウイルス分類委員会=ICTVによる分類)2019-nCoV(世界保健機関=WHOによる名称)]の感染拡大を、日本のメディアは「戦争」と呼んでいる。

「戦争」だから小・中・高校・支援学校の休校は当然であるとして、あまりにも騒ぎすぎではないだろうか。というのも、メディアが新型コロナ騒動に明け暮れるいっぽうで、別の疾病が世界を覆っているからだ。

新型コロナウイルスは、中国の感染者が8万人、死者が3000人ほど。韓国で2000人の感染者、死者十数人。日本は感染者1000人、死者10人ほど(3月2日現在)である。

すさまじい勢いとか、世界的な集団感染との発言も出ているが、つぎの数字を見て欲しい。

年間の感染者数が1000万人、死者は3000人、関連死7000人前後。これは全世界のではなく、日本の数字である(死者以外は推定数)。

アメリカではさらに凄い。年間感染者数数千万人、重篤な感染者(入院)はじつに21万人。そして死者(関連死)は、6万人だ。※死因診断書ありは15000人。

ちなみに、これを新型コロナウイルスの中国人データと比較してみよう。

            重篤感染者数     関連死者数
アメリカ(インフル)   210000        60000
中国(コロナ)       80000         3000

数字だけ並べてみるとわかりやすい。じつはここに比較した病名は、われわれの耳に慣れきった流行性感冒、いわゆるインフルエンザなのである。過去の数字でも何でもない。いま現在、2019年から2020年にかけての、同時期の数字である。

世界は死に慣れてしまったのだろうか。死者の数だけを比べれば、たとえば小児肺炎は毎年世界中で90万人が死亡している。交通事故死は130万人(日本は3000人ほど=70年代は1万人だった)である。

新型コロナが怖い理由は、その正体(感染形態・死亡率)がまだ不明だからだが、インフルに特効薬があるといっても、現実に膨大な死者が出ている。他の疾病でもすべて同じ理由、すなわち罹患による免疫低下が死をもたらすからだ。医薬品は人間の免疫による疾病克服を手助けするにすぎないのだ。

インフルエンザ死者数の推移

アメリカのインフルエンザ死者

◆パフォーマンスは必要である

さて、安倍総理は小・中・高等学校の休校を要請した。この判断をどう評価するべきかは、学童の自宅待機によって生じる母親の休職までふくめて、国がどこまで補償できるのかによる。あるいは手続きを無視した政策決定が、政局に軋みを生じさせかねない。

にもかかわらず、「戦争」なのだから判断を要したのは理解せざるをえない。ところで、この安倍総理のパフォーマンスはしかし、安倍自身の発想ではないとわたしは思う。鈴木直道北海道知事の全道休校の決定、および緊急事態宣言の手際の良さ「この前例のない措置は、わたしが責任をとる」という潔さが、風雲急を告げるパフォーマンスとなったがゆえに、安倍総理は後追い的に乗っかったにすぎない。

とはいえ、それまで対策会議をなおざりに行ない(森法相・小泉環境相は他のイベントで欠席)、安倍応援団(百田尚樹ら)との会食など、新型コロナの動静に背を向けてきた安倍政権において、ようやく本腰になったかと思わせる(遅すぎる)。政府による初動の遅さは、このウイルスの感染力の速さにくらべて、あまりにも後手に過ぎた。

本欄でも指摘してきたとおり、ダイヤモンドプリンセス号の乗客・乗員たちは、狭い部屋の中に監禁されるストレスで免疫力を低減させられ、あるいは「不潔地帯」と「清潔地帯」の入り口が同じという杜撰な防疫の結果、3700人のうち700人が感染するなど「隔離棄民」されたのである。


◎[参考動画]クルーズ船乗船者の英国籍男性が死亡 外国籍は初(2020/2/28)

◆国立感染研究所のOBとは、誰なのか?

もうひとつ、感染の疑いを感じている国民が、PCR検査を受けられないという事態がつづいている。かかりつけの医院から検査機関に連絡をしても、中国武漢・湖北省の旅行歴がなければ受けられない。民間に検査をさせないから、旅行歴の基準を充たさない感染者が重篤に陥っているのだ。

そしてこの事態に危機感をもった、元感染研の岡田晴恵教授が悲痛な告発をしたことが話題になっている。「これはテリトリー争い」「感染研のOBの一部が、自分たちのデータにしたいから、民間での検査をさせないんです」(テレビ朝日羽鳥慎一モーニングショー)というものだ。本稿の冒頭に、ICTVとWHOが新型コロナの学名を、それぞれ独自に発表しているように、医科学界は縄張り主義が」つよい。かれらの功名(権威の獲得)や利権(予算の獲得)が国にとって、何の益をもたらさないのは言うまでもない。


◎[参考動画]元国立感染症研究所員の岡田晴恵教授PCR検査が一般病院に広がらない理由を告発

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業。「アウトロージャパン」(太田出版)「情況」(情況出版)編集長、医科学系の著書・共著に『「買ってはいけない」は買ってはいけない』『ホントに効くのかアガリスク』『走って直すガン』『新ガン治療のウソと10年寿命を長くする本当の癌治療』『ガンになりにくい食生活』など多数。

月刊『紙の爆弾』2020年3月号 不祥事連発の安倍政権を倒す野党再建への道筋

『NO NUKES voice』22号 新年総力特集 2020年〈原発なき社会〉を求めて

鹿砦社創業50周年記念出版『一九六九年 混沌と狂騒の時代』

首相安倍晋三が、異例の土曜日に記者会見を行い、新型コロナウイルスに対する見解を述べた。録音を聞いたが、いまさらなにを抽象論に終始しているのか、というのが正直な感想である。

「立法処置を講じる」とか、「休業補償政府が講じる」などといっている以外に具体的な言及はなく、あたかも万全な対策がこれまでも講じられており、これからも講じられる(福島第一原発の『安全デマ』発言をした時のことを思い起こされる)居丈高な姿勢に終始している。


◎[参考動画]首相、一斉休校に理解要請 新型肺炎抑制へ記者会見(KyodoNews)

そして、何より冷静に考えれば不思議なのは、どうして全国の学校に「休止」措置を依頼したのかの根拠が、全く示されていないことだ。例年、冬季にはインフルエンザが流行し、「学級閉鎖」や「学校閉鎖」が伝えられる。わたしも小学生時代に2回「学級閉鎖」の経験がある。不謹慎(そうでもないか?)ながら予想もしない時期に学校が休みになる(これは台風でも同様だったが)に、うれしくて仕方がなかった記憶がある。

でも、冷静に考えよう。実は法的に「学級閉鎖」の基準を明示したものはない。参考程度に、《『学校医・学校保健ハンドブック』によれば「欠席率が20%に達した場合は,学級閉鎖,学年閉鎖および学校閉鎖等の措置をとる場合が多い」》との基準に従い、これまでの感染症に対する「学級閉鎖」や「学校閉鎖」はおこなわれてきたようだ。


◎[参考動画]【報ステ】全国の小中高に休校要請 新型コロナ対策(ANN 2020/02/27)

20%の欠席は40人学級であれば8人、30人学級であれば6人だ。他方3月1日現在、日本全国での新型コロナウイルス感染者数は、クルーズ船に乗船していた方々を除き、全国で239人で、死者は5名だ。239人は総人口1億200万人に対して、0.001%にも及ばない。

であるのに、政府は学校の休みだけではなく、イベントの中止などを求めている。

なぜか。

決定的な対処不全が明白だからではないのか。安倍の記者会見は「もう手の打ちようがありません」と解読するのが正解ではないのか。


◎[参考動画]麻生大臣「つまんないこと聞くねぇ」休校中の費用負担(テレ東NEWS 2020/02/28)

インフルエンザが流行したって、全国の病院がパンクしたという話はわたしが物心ついて以来、聞いたことはない(大昔の「スペイン風邪」などを除く)。統計にもよるが新型コロナウイルスの致死率は低い報告で2%、高い報告で15%程度だ。

この数字を前にして、首相官邸も厚労省も「コントロールできない」と正直、対処をあきらめているのではないか。普段いい加減な発言ばかりしている某東海地方の大学教授ですらが「私の人生でこんなことは初めて。中国、韓国よりもひどい。もうこうなったら自衛するしかない」と発信している。

政治に防ぐ力を期待しても無理だろう。可能な限り免疫力を高めておくくらいしか、自衛策はあるまい。

◎[参考資料]2020年2月29日安倍首相記者会見の発言書き起こし(首相官邸)

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

月刊『紙の爆弾』2020年3月号 不祥事連発の安倍政権を倒す野党再建への道筋

『NO NUKES voice』22号 新年総力特集 2020年〈原発なき社会〉を求めて

鹿砦社創業50周年記念出版『一九六九年 混沌と狂騒の時代』

植木律子さんや大貫友夫さん(ともに福島市)が「私たちと簡単には和解できないだろうと思っていました。準備書面を読んでいて、私たちの気持ちを理解していないと毎回毎回思っていましたから」、「本人尋問の時の代理人弁護士の質問内容が、いかにも『あなたたちが恐れる事がおかしいんじゃないか』という内容の繰り返しでしたので、和解拒否は予想していました」と口を揃えたように予想された事とはいえ、東電の強気の姿勢は原告たちを大きく落胆させた。

「12月20日に和解案を手にし、私の闘いが少しでも認められたんだと内心ホッとしました。ところが日も経たないうちに東電が拒否した。なんて酷い事だと思いました。不誠実な東電が嫌になりました」(平井さん)

そうして迎えた判決。

裁判所が認容した精神的損害は、原発事故の発生からわずか9カ月間。2011年12月31日までだった。記者会見では、原告たちは複雑な想いを異口同音に口にした。

「2011年12月31日で自分の精神的被害がまるで終わったという事にはなりませんが、それでも裁判所には私の心の損害を少しは認めてもらえたのかなという意味ではホッとしています。原発事故が起きたのは間違いなく事実ですし、福島市は『自主的避難等対象区域』という線引きをされましたが、放射性物質を含んだ雨や風が福島市を避けてくれるわけでも無く、わが家にも放射能の雨が降りました。空間線量は高くなりました。東電は、その事実にきちんと向き合って謝罪をして欲しい。そして控訴をしないよう望んでおります」

「名も無い庶民が声をあげたという意味では、私自身も原告に加わった事を誇りに思っています。目に見えない『精神的損害』をどう表現して主張するかにすごく苦労しました。2011年12月31日までしか認められなかった事には疑問が残ります。東電の小早川智明社長が『公訴時効後も最後の1人まで賠償します』という趣旨の事を言っていたのに、表向きの顔と本音とのずれがあるように感じます。ここまでエネルギーを注がないと、目に見えない損害は賠償されないのだなあと、ハードルは高いなあと感じました。孫の健康不安など、心の損害はまだ続きます」

平井さんもこう語っている。

「原発事故が無かったとは1日も思えずに9年間を過ごして来ました。それでも前向きに普通に生活をして、でも心配はあるので線量計を市役所から借りて測ったりしています。モニタリングポストの撤去計画が浮上した時には反対意見も述べました。2011年12月末で損害が終わったわけではありません。ずっと続いています」

東電は原発事故後に「3つの誓い」をたて、「最後の1人まで賠償貫徹」、「和解仲介案の尊重」などと掲げている。しかし、裁判闘争で疲弊しきった被害者が頭を下げて和解を求めても蹴飛ばす。もう闘えないとつぶやく原告の想いをあざ笑うように控訴するのだろうか。

植木さんは「東電の小早川智明社長には、52人一人一人が書いた陳述書や法廷での本人尋問を読んで頂きたいと願うばかりです」と会見で話したが、至極当然の願いだ。だが自らたてた誓いを平気で破るような企業のトップが、被害者たちが涙を流しながら書いた陳述書を読むはずが無い。それもまた現実だ。

東電の小早川智明社長。判決後の会見では「東電は控訴しないで判決を受け入れて」「陳述書や本人尋問の調書を小早川社長に読んでもらいたい」との声が原告からあがった

野村弁護士は「東電が控訴すればいたずらに被害者を引きずり回し、紛争解決を長引かせる事になる。原発事故を引き起こした社会的責任と、当事者による主張・立証が尽くされた上での判決の重みを真摯に受け止め、今回の判決に従うべきだ」と会見で強調したが、残念ながら争いの舞台は仙台高裁に移される公算が高い。

「それでも原告の皆さんは心配ありません。主張は尽くしていて後は認容額の問題でしょうから仙台高裁での弁論は1回で終わるでしょう。スムーズにいけば夏頃に弁論期日があって、10月頃には判決が言い渡されるかもしれません」(野村弁護士)。

満足出来る判決内容では無いが、受け入れると決めた原告たち。会見で〝前向き〟な言葉が並んだのは、そう自分に言い聞かせなければ崩れ落ちてしまうからだった。

大貫友夫さんは「今日の判決では、放射能を測定する事自体が『原発事故との相当因果関係は認められない』という事で請求が認められませんでした。それは非常に残念です」と悔しさをにじませたが、一方で「十分とは言えませんが精神的損害が認められて良かったと思います。6万8000字の陳述書を書いた2年間が思い浮かびます。娘たちや未来の子どもたちに恥じる事の無いようにとの想いで、この訴訟に加わりました。この6年間、頑張って参りました。この判決を受けた事は誇りに思います。これからも胸を張って生きて行きたいと思います。東電は判決に従って私たちに謝罪してもらいたい。そう強く思っております」とも話した。

夫と二人三脚で闘ってきた大貫節子さんは「判決内容には不服だけれど、もうそろそろ日常生活に戻りたい」と筆者につぶやいた。「あの時のつらさを思い出すのは本当に苦しいので、陳述書を書くのをやめようと何度も思いました。でも、周りに助けてもらいながら書き上げる事が出来て良かったと思います。放射能への不安やつらさを口にしていると日々の生活が暗くなって心が折れてしまう。裁判所で訴えを聴いてもらえた事は私にとっては良かったです」とも。原告たちの複雑な心情が凝縮されているかのような言葉だった。

除染で生じた汚染廃棄物が自宅の敷地内に保管された事も、原告たちが訴えた「精神的苦痛」の1つ

繰り返すが、東電が支払いを命じられた賠償額は個々の原告に対してでは無く、50人分を合算して約1200万円だ。つまり、平均24万円。これが、今村雅弘復興大臣(当時)が2017年4月4日の記者会見で「裁判だ何だでも、そこのところはやれば良いじゃない」と言い放った「裁判」の現実だった。

しかも、「目安」とされた30万円が支払われる原告はいない。最も少ない人でわずか2万2000円だ。最高で28万6000円。最も多いのが24万2000円(37人)だった。しかも、2人の原告に関しては、和解案では賠償額が示されていたにもかかわらず判決では請求棄却。つまり「ゼロ円」だった。他の原告たちが会見で前向きな言葉を口にしている最中、ずっとうつむいたまま涙を流していた原告もいる事を、私たちは忘れてはならない。庶民の気持ちなど知らない〝永田町の住人〟が軽々しく口にするほど、裁判闘争は甘くない。それを見せつけられたようでもあった。

民事訴訟に「100%の勝利」など無いのだろう。どこかで折り合いをつけなければならない。それはそっくりそのまま、原発事故後も「ここで暮らすしか無い」、「子どもとともに避難したいが難しい」と中通りで暮らし続けた人々の「折り合い」と重なる。

勝訴と敗訴が複雑に絡み合った判決を手に、原告はそれぞれの住まいへ戻って行った。〝復興五輪〟の聖火リレーが3月26日に福島で始まるが、原発事故の被害を訴え続けている人たちが今もいる。原発事故の被害は避難指示区域にとどまらない。浜通りだけが「被災地」では無い。それを教えてくれたのもまた、「中通りに生きる会」の52人だった。

◎「中通りに生きる会」52人の原告たちは本当に東京電力に「勝った」のか? 原発事故損害賠償訴訟・6年間の闘いで得たもの、得られなかったもの
〈前編〉 http://www.rokusaisha.com/wp/?p=34316
〈後編〉 http://www.rokusaisha.com/wp/?p=34323

▼鈴木博喜(すずき ひろき)

神奈川県横須賀市生まれ、48歳。地方紙記者を経て、2011年より「民の声新聞」発行人。高速バスで福島県中通りに通いながら、原発事故に伴う被曝問題を中心に避難者訴訟や避難者支援問題、〝復興五輪〟、台風19号水害などの取材を続けている。記事は http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/ で無料で読めます。氏名などの登録は不要。取材費の応援(カンパ)は大歓迎です。

月刊『紙の爆弾』2020年3月号 不祥事連発の安倍政権を倒す野党再建への道筋

『NO NUKES voice』22号 2020年〈原発なき社会〉を求めて

感染拡大が確実なのに、日本政府の対策が定まらない。いわずと知れた新型コロナウイルス(COVID-19)についてである。「専門家会議」なる団体は「罹患の恐れのある人は自宅で留まる」ようにと、責任放棄ともいえる暴論をはきだした。


◎[参考動画]「1、2週間が瀬戸際」 政府の専門家会議が見解(ANN 2020/02/25)

新型コロナウイルスに罹患しているかどうかをチェックするキットは、すでに開発されているのだから、軽度のうちに罹患者を発見し、家族や周辺の人から罹患者を隔離するのが、予防原則だと思うが、厚労省にはそういう考えがないらしい。

大規模イベント主催者の対応には、苦悩が見られる。無観客試合を計画したり、コンサート場などは中止も珍しくなくなってきた。そのなかで、最後の最後まで「連中」が放棄しないのは、利権の祭典「東京五輪」だ。しかし、わたしに限っても、これまで何回も批判してきた偽りの「復興の祭典」は、文字通り赤信号がともりだした。日本を対象として「渡航禁止」を出す国が増加しはじめた。各地の観光地も閑散とした状態で、ついに愛知県では旅館の倒産も発生した。

朝日新聞紙上は矛盾に満ちている。「東京五輪」称揚と、新型コロナウイルスにに対する警鐘。優先順位をスポンサーである立場が誤認させているのか。なにを優先すべきかがまったく伝わらない。


◎[参考動画]IOC委員 東京五輪中止も検討 判断は5月下旬まで(FNN 2020/02/26)

ある程度は仕方ない面もあろうが、クルーズ船内では、かえって罹患者を増加させてしまう始末。神戸大学の岩田健太郎教授がその対応の杜撰ぶりを徹底的に糾弾した。あれと同程度に無責任な体制が「東京五輪」を背景に抱えることにより、深刻化している。「重症者」になってから対応したのでは、感染症は遅い。この簡単な原理原則が通じない、この国では、残念ながら爆発的感染が近く訪れるだろう。


◎[参考動画]Japan ends ‘failed’ coronavirus quarantine on cruise ship(DW 2020/02/19)

わたしは、おもしろがっているのではない。わたし自身が癌患者を家族に持つものとして、医療機関で検査を進めているが、感染症の爆発的広がり(パンデミック)は、感染症以外の疾病患者への対応を遅らせることにより、副次的に犠牲者を増やしてしまう。

こういった大規模な感染症にどのように対応するかどうかで、その国や地域が国民の命をどう考えているかが鮮明に浮き上がる。嘘ばかりついて、責任を取らない最高権力者をこれほど長く頂いていると、結局被害にあうのは国民だということを、痛みをもって(場合によっては「取り返しのつかぬ」かたちで)知るしか手段はないものなのか。残念至極である。


◎[参考動画]【報ステ】“コロナショック”株価急落 経営破綻も(ANN 2020/02/25)

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

月刊『紙の爆弾』2020年3月号 不祥事連発の安倍政権を倒す野党再建への道筋

『NO NUKES voice』22号 新年総力特集 2020年〈原発なき社会〉を求めて

鹿砦社創業50周年記念出版『一九六九年 混沌と狂騒の時代』

◆被告になった「上級国民」たち

2月17日、トヨタレクサスの暴走死亡事故を起こした、元東京地検特捜部長の石川達紘被告(弁護士・80歳)に対する初公判が東京地裁で開かれた。起訴事実は自動車運転死傷処罰法違反(過失運転致死)である。

車載の事故記録装置などをもとに「被告が運転操作を誤った」とする検察側に対し、石川の弁護側は「車に不具合があり勝手に暴走した。(石川の)過失はなかった」と無罪を主張した。石川が無罪となれば、トヨタの技術の粋を凝らしたレクサスに何らかの不具合があったことになり、トヨタのブランドは大きく傷つくことになる。かつて検察のエースと呼ばれた男と、日本を代表する自動車メーカーの法廷闘争の始まりである。

いっぽう、元通産官僚の飯塚幸三(88歳)の起訴も確定した。池袋母子轢殺暴走事件で逮捕されなかった「上級国民」である。石川被告も逮捕されていないので、あらためてアンタッチャブルな「上級国民老人」の裁判が注目を浴びることとなったわけだ。このふたりの「暴走老人」の事件は、何度でもネットで報じることで記憶から消してはならない。

とくに記憶を喚起しなければならないのは、石川達紘が死亡させた被害者を気遣うこともなく「はやくここから俺を出せ!」と通行人に命じ、「俺ではなく、クルマが悪いのだ」と今も明言していること。さらには被害者遺族に「後日、保険会社から連絡します」と、同僚弁護士に言わしめたこと、そもそも20代の美女とゴルフに行くために、結果的に100キロの猛スピードで事故を起こしたこと。そして飯塚幸三が「アクセルがもどらなかった」「(予約の)フレンチに遅れるから急いだ」「メーカーは老人が安全に乗れる自動車を造るよう、心がけてほしい」と明言し、これも100キロを超すスピードで事故を起こしたことであろう。石川は犠牲者遺族と示談したが、飯塚は謝罪すらまともに行なっていないのだ。


◎[参考動画]「天地神明に誓って…」元特捜部長が起訴内容を否認(ANN 2020/02/18)

トヨタレクサスの暴走死亡事故を起こした元東京地検特捜部長の石川達紘被告(弁護士・80歳)の経歴(wikipedia)

◆勲章を剥ぎ取れ?

この二つの事件を忘れてはならない理由のひとつは、いうまでもなく二人が瑞宝重光章の受賞者であり、アンタッチャブル(逮捕無用)な存在だからである。本欄で何度も論じてきたが、日本の人質司法はカルロス・ゴーンのような証拠が明白な経営案件(背任罪)でも、長期拘留することで先取りの刑罰を与える。その証拠に、有罪で実刑になったさいに量刑は「懲役〇〇年、未決参入〇年〇月」と宣告される。未決拘留が実質的に刑罰であることを、裁判所が認めているということなのである。

そのいっぽうで、今回のように受勲者は人質司法(逮捕・勾留・拘置)から除外されているのだ。これではもはや、法の下の平等がないに等しい。そしておそらく、高齢者の事犯ということで有罪になっても執行猶予が付されるだろう。特権階級としての「上級国民」は言うまでもなく、象徴天皇制の実質である。身分差別や民族排外主義ではなく、いわば国民融和の柱として律令制いらいの叙位叙勲が生きている事こそ、もっと論じられなければならない。


◎[参考動画]池袋暴走事故 元院長はなぜ在宅起訴なのか (FNN 2020/02/06)

池袋母子轢殺暴走事件を起こしても逮捕されなかった元通産官僚の飯塚幸三被告(88歳)の経歴(wikipedia)

ところで、その瑞宝重光章がどれほどのものかというと、旧叙勲制度では「勲二等」である。菊花章の次に格が高く、同格の旭日章よりも、やや大衆的なものといえばイメージがつかめると思う。春秋の叙勲者を約8000人(年間)として、瑞宝重光章は70~80人である。おいそれと貰えるものではないのだ。勲章自体がスポーツ選手でも貰える紫綬褒章などの褒章よりも重く、長年の国家および公共への功績という要件がある。

今回、ふたりの「上級国民」が有罪判決を受けた場合、瑞宝重光章は剥奪されるのだろうか。アテネオリンピックと北京オリンピックの柔道金メダルリスト、内柴正人が準強姦事件で懲役5年の実刑判決をうけ、全柔連から永久追放処分を受けたのは記憶に新しい。このとき内柴は紫綬褒章を剥奪されている。

その法的な根拠は「勲章褫奪令(くんしょうちだつれい)」という古い政令である(明治41年公布、平成28年改正)。この政令の第1条によると、勲章を有する者が死刑・懲役・無期もしくは3年以上の禁錮刑に処せられた場合、その勲章は取り上げられるとなっている。

◆勲章褫奪令

一条
勲章ヲ有スル者死刑、懲役又ハ無期若ハ三年以上ノ禁錮ニ処セラレタルトキハ其ノ勲等、又ハ年金ハ之ヲ褫奪セラレタルモノトシ外国勲章ハ其ノ佩用ヲ禁止セラレタルモノトス但シ第二条第一項第一号ノ場合ハ此ノ限ニ在ラス
②前項ノ場合ニ於テハ勲章、勲記、年金証書又ハ外国勲章佩用 免許証ハ之ヲ没取ス前級ノ勲記ニ付亦同シ

第二条
勲章ヲ有スル者左ノ各号ノ一ニ該当スルトキハ情状ニ依リ其ノ勲等、又ハ年金ヲ褫奪シ外国勲章ハ其ノ佩用ヲ禁止ス
一 刑ノ全部ノ執行ヲ猶予セラレタルトキ
二 三年未満ノ禁錮ニ処セラレタルトキ
三 懲戒ノ裁判又ハ処分ニ依リ免官又ハ免職セラレタルトキ
四 素行修ラス帯勲者タルノ面目ヲ汚シタルトキ

つまり、3年以下の禁固刑か執行猶予であれば、第2条の「情状」により勲章・年金は剥奪されないことになる。ちなみに、カルロス・ゴーンは「素行修ラス帯勲者タルノ面目ヲ汚シタルトキ」に当たるとされた場合、やはり「情状」によって剥奪されることになる。

いずれにしても、叙位叙勲なる制度がおそらく国民の0.8%(同一世代100万人に対して8000人)とはいえ、身分差を作り出していること。そして今回明らかになったように、逃亡の怖れがないとか何とかの理屈付けはともかく、先行刑罰としての逮捕・勾留・拘置から自由であるという事実。これこそ指弾されなければならない。4月29日と11月3日の叙勲の日に「勲章なんかやめろデモ」でも組織してみるか、である。

もうひとつ、この「上級国民」二人の「犯行」で忘れてならないのは、80歳を超えんとする後期高齢者(石川は事件時78歳だった)が、走る凶器を運転していいのかということだ。自動車運転が事故から無縁でないことは、わたしのような慎重なドライバーでも事故を起こしたことはあるし、クルマを手放して自転車に乗り換えても二度、自動車ドライバーの不注意(後方確認なしのドア開け)などで事故に遭っているのだ。

そしてそもそも自動車および自動車産業は、戦争経済の延長に戦車や戦闘機をクルマの形にかえて、高速運転による人間の闘争本能を刺激しつつ、意味のないモータリゼーション(遠隔地からの商品輸送・高速ドライブ・煽り運転)をもたらしてきたのだ。これについてはテーマを変えて論じたいが、80歳で運転するという信じられない行為から指弾されるべきであろう。

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業。「アウトロージャパン」(太田出版)「情況」(情況出版)編集長、最近の編集の仕事に『政治の現象学 あるいはアジテーターの遍歴史』(長崎浩著、世界書院)など。近著に『山口組と戦国大名』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『男組の時代』(明月堂書店)など。

月刊『紙の爆弾』2020年3月号 不祥事連発の安倍政権を倒す野党再建への道筋

鹿砦社創業50周年記念出版『一九六九年 混沌と狂騒の時代』

2020年2月19日。福島地裁で1つの判決が言い渡された。原発事故による精神的損害が十分に賠償されていないとして東電を相手取って起こされた裁判。福島県で「中通り」と呼ばれる、東北新幹線沿いの市町村に暮らす52人による「中通りに生きる会」が原告だ。

福島地裁の遠藤東路裁判長は東電に対し、計1200万円余の支払いを命じた。避難者訴訟ではなく、居住者訴訟で精神的損害を認めた「画期的な判決」として全国ニュースにもなった。地元メディアは概ね好意的に報じた。原告たちも、閉廷後の記者会見では〝前向き〟な発言が目立った。だが、原告たちは本当に「勝った」のだろうか? 提訴前の準備から数えると6年にも及んだ裁判闘争で52人は何を得て何を得られなかったのか。きちんと確認しておきたい。

「陳述書を28ページも書きました。これを基に闘ってきたんです。すごく長い闘いでした。皆まとまって一生懸命にやってきたつもりです。(判決で示された賠償額は)私たちが請求した金額とはずいぶん違いますが、これまでの闘いが一応、認められたと思ってホッとしています。東電がこの判決を受け入れてくれる事を心より願っております」

会の代表として奔走してきた平井ふみ子さん(71歳、福島市在住)は、記者会見でそう語った。

2014年10月に福島市内で開かれた陳述書作成の勉強会であいさつする平井ふみ子さん。原告たちの闘いは6年に及んだ。もう余力は残っていない

379ページに及ぶ判決文で遠藤裁判長は、「自主的避難等対象区域に居住していた者の慰謝料の目安は、避難の相当性が認められる平成23年12月31日までの期間に対応する慰謝料額として、30万円と認めるのが相当である」と定義。30万円から東電からの既払い金(8万円)を引き、個々の損害に応じた賠償額を算出した。その結果、50人が既払い金を上回る賠償を認められ、東電が控訴しなければ、2万2000円から28万6000円までの賠償金に遅延損害金を加えた金額が原告たちに支払われる事になる。なお、2人の原告は請求を棄却された。

原告の代理人を務めた野村吉太郎弁護士は陳述書作成では何度も何度も書き直させ、時には原告から恨まれもした。厳しかったが、最後は大きな拍手で原告たちから感謝を伝えられた

原告の代理人を務める野村吉太郎弁護士は、判決内容について「いわゆる〝自主的避難等対象区域居住者〟に対する慰謝料としては過去最高額であるという点は高く評価したい」と一定の評価をしつつ、「原告らが訴訟準備期間を含めると約6年の歳月を費やし、原則として原告全員の本人尋問を経て個別の損害を訴えた末の結果としては不十分。闘いに報いる金額では無い。苦労に苦労を重ねた挙げ句の判決にしては、物足りないものがある」とも語った。

また、「精神的損害に対する評価は非常に厳しいというか、原告の皆さんの精神的損害を汲み取る感性が裁判官には欠けているのではないかと思う。そこは残念だが、他の訴訟と比較すれば、ある意味では画期的な判決なのではないか。もろ手を挙げて喜ぶ事は出来ないが、それなりに受け止めなければ仕方が無いのかなという想いです」とも話した。会見場には複雑な心情が漂っているようだった。

原告たちはそもそも、和解による決着を望んでいた。年齢層が高く、陳述書を書き上げるだけで疲労困憊になり、いざ提訴したらしたで、今度は本人尋問が待っていた。野村弁護士とリハーサルを重ねたが、慣れない法廷での尋問に戸惑い、満足に答えられない原告も少なくなかった。

それでも主尋問はまだ良い。反対尋問では、被告東電の代理人弁護士が牙を剥いた。

原告が被曝リスクへの不安を口にすれば、原発事故直後に行われた山下俊一氏の講演を掲載した福島市の広報紙を提示し、「専門家は問題無いと言っている」と全否定した。原告が家庭菜園を断念したと言えば、「誰も家庭菜園を禁じていない」と一蹴した。避難指示が出されない中で〝自主避難〟するべきか逡巡した苦悩を原告が口にしても、「原告は自己の判断によって避難するかどうかを決めたものであって、中通りにとどまり生活せざるを得なかったという事実は認められない」と反論した。まさに、〝ああ言えばこう言う〟のやり取りが法廷で繰り返された。
当時の想いを、原告の1人はこう振り返る。

「二度と想い出したくない震災と原発事故。いざ原発事故が起きたらどれだけ大変な災害になるかという事を子や孫に残したいと考えて原告に加わりました。人前で話すのも苦手なのにあの場で尋問されるというのは、被害者ではなく何か犯罪者のような気持ちでした。東電が和解勧告を拒否したと聞き、長い間闘ってきた事が認められなかったような気がして東電の非情さと理不尽さに憤りました」

原告一人一人の陳述書に対する膨大な反論の準備書面も提出された。そのたびに法廷には原告の怒りと徒労感に包まれた。46人の原告に対する本人尋問が終了した2019年3月の時点で、原告たちに余力は残っていなかった。

野村弁護士は法廷で裁判所に和解勧告を求めた。原告の1人は当時、筆者に「陳述書を書き上げるのに要した2年間が、もう涙と汗の結晶というか、これ以上は書けないというところまで野村先生に見ていただいて提訴したんです。もう、これ以上は出来ません」と語っていた。

当初は和解勧告に消極的だった裁判所も、原告たちが福島県庁で記者会見を開くなどして世論に訴えた事もあり、昨年12月に和解案を提示した。和解内容は公開されていないが、判決と大きくは変わらないとみられる。原告たちは当初からの方針通りに受諾したが、東電は年明け早々の1月7日に拒否を伝えた。(後編につづく)

▼鈴木博喜(すずき ひろき)

神奈川県横須賀市生まれ、48歳。地方紙記者を経て、2011年より「民の声新聞」発行人。高速バスで福島県中通りに通いながら、原発事故に伴う被曝問題を中心に避難者訴訟や避難者支援問題、〝復興五輪〟、台風19号水害などの取材を続けている。記事は http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/ で無料で読めます。氏名などの登録は不要。取材費の応援(カンパ)は大歓迎です。

月刊『紙の爆弾』2020年3月号 不祥事連発の安倍政権を倒す野党再建への道筋

『NO NUKES voice』22号 2020年〈原発なき社会〉を求めて

« 次の記事を読む前の記事を読む »