《書評》『NO NUKES voice』27号 震災列島から原発をなくす道を探り続ける ── 持続する反原発運動の中で、いま語るべきこと

3.11大震災・原発事故10周年に、『NO NUKES voice』Vol.27が発行された。2014年の創刊から6年半、日本で唯一の反原発雑誌が持続していることは、そのまま反原発運動の持続力あってのことだ。そして運動の持続性に応える版元の努力も讃えられてしかるべきであろう。

 
『NO NUKES voice』Vol.27 《総力特集》〈3・11〉から10年 震災列島から原発をなくす道

おやっ、と思ったのは、本誌表2(編集用語で表紙裏です)に東洋書店新社という出版社の広告が入っていることだ。書名は『原発「廃炉」地域ハンドブック』(尾松亮・編)である。ロシア・東欧をテーマにした版元のようで、出版物をみると版元のこだわりが感じられる。版元の親会社をみると、わたしのような編集者には「あぁ、なるほど」とわかるわけだが、何にしても出版不況のなかで、こだわりを持った版元が頑張っているのは心強いというか、かたちだけでも応援したくなる。

『紙の爆弾』の先行誌ともいうべき『噂の眞相』も暴露雑誌ゆえに、とくに編集長の岡留安則氏(故人)の周辺や、編集部行きつけの居酒屋の広告は入っても、一般企業や出版社は限定的だった。その事情は『紙の爆弾』も本誌『NO NUKES voice』も同じで、なかなか広告取りはかなわない。万単位の配本があるのに比してである。

一般に雑誌の採算が取れるのは、紙広告の衰退(ネット広告の全盛による)にもかかわらず、最低限の編集費・製作費はAD(広告)でまかなわれる。ないしは現在ではコンビニ販売を取り付けて、安価大量販売(といっても2万部前後)をはかる以外に、なかなか雑誌の販路は開けない。

そんな中で、運動関係であれ反原発書籍限定であれ、本誌を広告が支えていくのであれば、さらに持続力は増すであろう。

◆読み応えがある菅直人、孫崎享、小出裕章の論考

前置きが長くなった。本誌の中身に入ろう。

巻頭カラーは「双葉町原発PR看板標語」運動の大沼勇治さんの10年を写真で追う。そして菅直人元総理による、原発事故からの10年をふり返って、である。さすがに読みごたえがある。

とくに「原発から再生エネルギーへ」「農地を利用した営農型太陽光発電」の提言は、この10年間の省エネ発電の普及、長島彬さん考案の「ソーラーシェアリング」など、具体性があって良いと思う。

※長島さんの『日本を変える、世界を変える!「ソーラーシェアリング」のすすめ』(発行:リックテレコム)に詳しい。

オンカロを視察する菅直人元首相(写真提供=菅直人事務所)

孫崎享さん(東アジア共同体研究所所長)の「二〇二一年 日本と世界はどう変わるか」は、国民の決定権の問題、報道の自由など、民主主義の根幹にかかわる問題を提起する。アメリカの衰退のなかで、世界はどう変わっていくのか。左派のシンクタンクともいえる分析に加えて、いくつかの提案も含まれている。

たんぽぽ舎で講演する孫崎享さん(元外務省国際情報局長/東アジア共同体研究所所長)

小出裕章さん(元京都大学原子炉実験助教)は「六ヶ所村再処理工場の大事故は防げるのか」として、六ヶ所村で事故が起きたとのシミュレーションである。講演録をもとにしているので、パワーポイントの図表がわかりやすい。さてその仮定の結果は、本誌をお読みいただきたい。その悲劇的な結末は、思わず人に話したくなるものだ。

大阪で講演する小出裕章さん(元京都大学原子炉実験所助教)

◆コロナ下で大衆運動はどう立ち上がるか
「さようなら原発」鎌田慧×「たんぽぽ舎」柳田真の対談

鎌田慧さんと柳田真さんの対談は、コロナ下で制約されている大衆運動について、運動の内部まで検証するものになっている。内部の弊害では、先行する運動体の前衛意識と防衛本能。運動もまた、人間の縄張りなのである。

もうひとつは、若者の参加が一時的にはシールズのようなものはあったが、やはり少ないということだろう。鎌田さんは労働運動の弱体化をその原因のひとつに挙げ、いっぽうで生協運動の大きなプラットホームの有効性を語っている。今後の課題は、やはり対面の集会、小さくてもいいから顔を合わせる活動の再開であろう。

左から鎌田慧さん(ルポライター)と柳田真さん(たんぽぽ舎共同代表)

◆哲学は原子力といかに向かい合ってきたか

板坂剛の「新・悪書追放シリーズ 第1弾」の歯牙にかかるのは、ケント・ギルバート『強い日本が平和をもたらす 日米同盟の真実』である。この本に「真実」がないことを揚げ足取り的に、完膚なきまでに論破する。一服の清涼剤である。

拙稿「哲学は原子力といかに向かい合ってきたか」は、『原子力の哲学』(戸谷洋志)と『3.11以降の科学・技術・社会』(野家啓一)を扱った。哲学書(今回は解説書)を簡単に読む方法、お伝えします。

同じく、哲学の歴史的考察から、その現代への適用をわかりやすく解読したのが、山田悦子さんの「人類はこのまま存在し続ける意義があるか否か」である。この論考は前号(Vol.26)の後編である。よく勉強しているなぁ、という印象だ。

SDGs(持続可能な開発目標)も人類の欲望の亜種にすぎず、地球の尊厳を歴史の理念基盤にするべきだとの主張は、もうすこし具現化されるべきであろう。男女二項対立の図式も、やや古いリブの思想に見えてしまう。おそらく生産力主義を批判するあまり、論者の人類の将来が多様性の視点に欠ける(抽象化される)からであろう。とはいえ、その男性社会への批判的視点には正当性がある。

最後に、乱鬼龍さんの「読者文芸欄」をつくる提案は良いと思う。ただし、運動の表現としてのみ、川柳や俳句を扱ってしまうと、運動への芸術文化の従属という、古い課題に逢着するはずだ。文化活動に尊厳を持つ選者や評者があっての文化コーナーではないだろうか。この批評の冒頭にあげた、雑誌の持続力が読者参加にあるのは言うまでもない。

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)

編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。医科学系の著書・共著に『「買ってはいけない」は買ってはいけない』(夏目書房)『ホントに効くのかアガリスク』(鹿砦社)『走って直すガン』(徳間書店)『新ガン治療のウソと10年寿命を長くする本当の癌治療』(双葉社)『ガンになりにくい食生活』(鹿砦社ライブラリー)など。

『NO NUKES voice』Vol.27
紙の爆弾2021年4月号増刊

[グラビア]
3.11時の内閣総理大臣が振り返る原発震災の軌跡
原発被災地・記憶の〈風化〉に抗う

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《総力特集》〈3・11〉から10年 震災列島から原発をなくす道
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[報告]菅 直人さん(元内閣総理大臣/衆議院議員)
日本の原発は全廃炉しかない
原発から再エネ・水素社会の時代へ

[報告]孫崎 享さん(元外務省国際情報局長/東アジア共同体研究所所長)
二〇二一年 日本と世界はどう変わるか

[講演]小出裕章さん(元京都大学原子炉実験所助教)
六ケ所村再処理工場の大事故は防げるのか
   
[報告]おしどりマコさん(芸人/記者)
東電柏崎刈羽原発IDカード不正使用の酷すぎる実態

[対談]鎌田慧さん(ルポライター)×柳田真さん(たんぽぽ舎共同代表)
コロナ下で大衆運動はどう立ち上がるか
「さようなら原発」とたんぽぽ舎の場合

[報告]大沼勇治さん(双葉町原発PR看板標語考案者)
〈復興〉から〈風化〉へ コロナ禍で消される原発被災地の記憶
   
[報告]森松明希子さん(原発賠償関西訴訟原告団代表)
「被ばくからの自由」という基本的人権の確立を求めて

[報告]島 明美さん(個人被ばく線量計データ利用の検証と市民環境を考える協議会代表)
10年前から「非常事態」が日常だった私たち

[報告]伊達信夫さん(原発事故広域避難者団体役員)
《徹底検証》「原発事故避難」これまでと現在〈11〉
避難者にとっての事故発生後十年

[報告]鈴木博喜さん(『民の声新聞』発行人)
原発事故被害の枠外に置かれた福島県中通りの人たち・法廷闘争の軌跡

[報告]尾崎美代子さん(西成「集い処はな」店主)
コロナ収束まで原発の停止を!
感染防止と放射能防護は両立できない

[報告]山崎久隆さん(たんぽぽ舎共同代表)
柏崎刈羽原発で何が起きているのか

[報告]板坂 剛さん(作家・舞踊家)
新・悪書追放シリーズ 第1弾 
ケント・ギルバート『強い日本が平和をもたらす 日米同盟の真実』

[報告]三上 治さん(「経産省前テントひろば」スタッフ)
コロナ禍の世界では想像しないことが起きる

[書評]横山茂彦さん(編集者・著述業)
《書評》哲学は原子力といかに向かい合ってきたか
戸谷洋志『原子力の哲学』と野家啓一『3・11以後の科学・技術・社会』

[報告]山田悦子さん(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈11〉 人類はこのまま存在し続ける意義があるか否か(下)

[読者投稿]大今 歩さん(農業・高校講師)
「核のごみ」は地層処分してはいけない

[報告]市原みちえさん(いのちのギャラリー)
鎌田慧さんが語る「永山則夫と六ケ所村」で見えてきたこと

[報告]再稼働阻止全国ネットワーク
コロナ下でも工夫して会議開催! 大衆的集会をめざす全国各地!
《全国》柳田 真さん(たんぽぽ舎、再稼働阻止全国ネットワーク)
三月の原発反対大衆行動──関西、東京、仙台などで大きな集会
《女川原発》舘脇章宏さん(みやぎ脱原発・風の会)
民意を無視した女川原発二号機の「地元同意」は許されない!
《福島》橋本あきさん(福島在住)
あれから10年 これから何年? 原発事故の後遺症は果てしなく広がっている
《東海第二》阿部功志さん(東海村議会議員)
東海第二原発をめぐる現状 
原電、工事契約難航 東海村の「自分ごと化会議」の問題点
《東京電力》渡辺秀之さん(東電本店合同抗議実行委員会)
東電本店合同抗議について―二〇一三年から九年目
東電福島第一原発事故を忘れない 柏崎刈羽原発の再稼働許さん
《規制委・経産省》木村雅英さん(再稼働阻止全国ネットワーク/経産省前テントひろば)
新型コロナ下でも毎週続けている抗議行動
《高浜原発》木原壯林さん(老朽原発うごかすな!実行委員会)
関電よ 老朽原発うごかすな! 高浜全国集会
3月20日(土)に大集会と高浜町内デモ
《老朽原発》けしば誠一さん(杉並区議/反原発自治体議員・市民連盟事務局次長)
大飯原発設置許可取り消し判決を活かし、美浜3号機、高浜1・2号機、東海第二を止めよう
《核兵器禁止条約》渡辺寿子さん(たんぽぽ舎ボランティア、核開発に反対する会)
世界のヒバクシャの願い結実 核兵器禁止条約発効
新START延長するも「使える」小型核兵器の開発、配備進む
《読書案内》天野恵一さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
山本行雄『制定しよう 放射能汚染防止法』
《提案》乱 鬼龍さん(川柳人)
『NO NUKES voice』を、もう100部売る方法
本誌の2、3頁を使って「読者文芸欄」を作ることを提案

『NO NUKES voice』Vol.27 《総力特集》〈3・11〉から10年 震災列島から原発をなくす道
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講談社元編集次長の「妻殺害」事件 ── 一、二審共に有罪の被告に有利な証拠が見過ごされた可能性 片岡 健

『七つの大罪』などのヒット作を手がけた講談社の元編集次長・朴鐘顕(パク・チョンヒョン)氏(45)が妻・佳菜子さん(事件当時38)を殺害した容疑で検挙された事件について、私は4年前(2017年1月13日)、当欄で次のような記事を配信した。

◎妻殺害容疑で逮捕された講談社編集者に「冤罪」の疑いはないか?
 
記事のタイトルからわかる通り、私は朴氏が逮捕された当初、報道の情報から冤罪の疑いを読み取り、そのことを指摘したのである。

その後は正直、この事件の動向を熱心にフォローしていなかった。しかし先日、無実を訴える朴氏が裁判で懲役11年を宣告された一審に続き、二審でも有罪にされたというネットメディアの記事を一読し、心にひっかかるものがあった。そこで、公立図書館の判例データベースで一審判決を入手し、目を通してみたのだが――。

結論から言おう。本件はやはり、冤罪を疑わざるをえない事案である。それをここでお伝えしたい。

◆創作できるレベルを超えていた被告人の公判供述

一審判決によると、朴氏は2016年8月9日午前1時過ぎ、東京都文京区の自宅において、殺意をもって妻・佳菜子さんの首を圧迫し、窒息死させたとされる。朴氏は佳菜子さんが亡くなった原因について、「妻は自殺した」と主張したのだが、一、二審共に退けられたのだ。

だが一方で判決によると、佳菜子さんが生前、朴氏にあてていたメールの内容などに照らすと、佳菜子さんは育児などに追われて相当のストレスを抱え込んでいたことが認められるという。さらに事件の際、佳菜子さんは包丁を持ち出したうえで朴氏に対し、「お前が死ぬか、私が死ぬか選んで」と迫るなど尋常ではない状態にあったことが否定できないという。

このような事実関係からすると、「妻は自殺した」という朴氏の主張は特段おかしくない。

さらに上記のような「尋常ではない状態」にあった佳菜子さんが亡くなった原因などに関し、朴氏は公判で以下のようにずいぶん詳細な説明をしていたようである。

「妻の手には包丁が握られていたため、私は2階の子供部屋に避難して妻が入ってこないようにドアを背中で押さえていたのです。すると、数回『ドドドドドン』という音が聞こえた後、静かになったため、子供部屋から出て階段の下を見ると、妻が階段の下から2番目の手すりの留め具にくくりつけた私のジャケットに首を通して自殺していたのです。上から見ると、妻が階段上にうつ伏せで寝そべっているか座っているかのように見えました」(一審判決にまとめられた朴氏の公判供述の要旨を読みやすくなるように再構成)

この供述は全般的にリアリティがあるが、とくに(1)佳菜子さんが首を吊って自殺するのに使った道具が「私のジャケット」だったという部分や、(2)亡くなっていた佳菜子さんについて「階段上にうつ伏せで寝そべっているか座っているかのように見えました」と説明している部分については、創作できるレベルを超えている。

これはつまり、朴氏が本当に自分の経験したことを供述していると考えるのが妥当だということだ。

◆被害者遺族が「加害者」の無罪主張に沿う言動をとる理由とは?

私が今回、心に引っかかるものがあったというネットメディアの記事についても言及しておきたい。それは、以下の記事だ。

◎「講談社元編集次長・妻殺害事件」 “無罪”を信じて帰りを待つ「会社」の異例の対応(デイリー新潮)
 
この記事が私の心に引っかかったのは、佳菜子さんの妹が朴氏のことを擁護していたり、佳菜子さんの父が「佳菜子は病気で亡くなったと思っている」と言っていたりするように書かれていたからだ。

被害者遺族が「加害者」の無罪主張に沿う言動をとること自体が珍しいが、そんな事態になったのは、佳菜子さんが事件前、遺族に「自殺してもおかしくない」と思われるような言動をとっていた可能性があるからに他ならない。

ところが、一審判決を見る限り、佳菜子さんが亡くなった経緯に関する事実関係は、もっぱら佳菜子さんの遺体や、現場の痕跡(血痕や尿班など)に基づいて争われており、佳菜子さんの生前の言動に関する遺族の証言が審理の俎上に載せられた形跡が見受けられない…。

これはつまり、無罪を主張する朴にとって有利な証拠が見過ごされた可能性があるということだ。

朴氏にとって、裁判での無罪主張のチャンスは最高裁の上告審を残すのみとなったが、果たしてどうなるか。この事件については、改めて事実関係を調べてみたいと思うので、何か有意な情報が得られたらまた報告したい。

無実を訴え続ける朴氏は最高裁に上告中

▼片岡健(かたおか けん)
全国各地で新旧様々な事件を取材している。近著に『もう一つの重罪 桶川ストーカー殺人事件「実行犯」告白手記』(著者・久保田祥史、発行元・リミアンドテッド)など

タブーなき月刊『紙の爆弾』2021年4月号
『NO NUKES voice』Vol.27 《総力特集》〈3・11〉から10年 震災列島から原発をなくす道

《書評》『紙の爆弾』4月号 政権交代へ 山は動くのか? 横山茂彦

北九州市議選挙における自民党の惨敗の詳報、7月都議選がダブル選挙になるかもしれない観測記事が目を惹いた。

 
2021年もタブーなし!月刊『紙の爆弾』4月号

青木泰の「山が動く──政権交代の足音」、山田厚俊の「7月『都議選ダブル』解散」である。

北九州は元来、旧社会党時代から革新系が強い場所でもあった。高齢率も政令指定都市のなかで日本一高いことも、根づよい反自民の地盤を象徴している。その北九州で1月末の市議選の結果、自民党候補22人(定数57)のうち、現職の6人が落選した。野党では立憲民主党が5人から7人、維新が0から3人、無所属が7人から10人。明らかに自民批判の有権者の動きである。これが政権交代を占うバロメーターになるかもしれないことは、本通信でも指摘してきたところだ。

北九州市議選では「お前も自民やろ!」(罵倒するときに関西弁風の訛りが入る北九弁特有のもの)などと、自民党候補が街頭でヤジられる事態が頻発したという。何が起きているのかは本誌の記事を参照して欲しいが、11選をめざした県連副会長、をふくもベテラン議員の落選は、個々の議員ではなく自民党批判が鮮明になっている。1月24日投開票の山形知事選挙でも、前回衆院選挙で3小選挙区を独占した自民が、3割も取れない惨敗。加藤鮎子(加藤紘一の娘)が県連会長を辞任する事態となった。

◆1989年、2009年と酷似している

青木はこの流れを、1989年に社会党の参院選挙での大勝、いわゆる「山が動いた」減少となぞらえる。このときは、4カ月前の小金井市議選挙での社会党の上位独占、参院新潟補選での社会党女性候補の当選と、ここから衆参逆転のマドンナ旋風が想起される。

当時はリクルート問題で竹下政権が崩壊し、宇野新総理の愛人問題で、自民党がカネとスキャンダルにまみれた政治危機にあった。

政権交代となった2009年の総選挙では、民主党が選挙前を大幅に上回る308議席を獲得し、議席占有率は64.2%に及んだ。単一の政党が獲得した議席・議席占有率としては、現憲法下で行われている選挙としては過去最高である。

その前年の都議会選挙で、民主党が圧勝していることも見逃せない。当時は消えた年金問題で、これ以上自民党にまかせていたら、老後の生活がおぼつかないという、年金生活を目前にした団塊世代の危機感があった。

今回は言うまでもなく、モリカケ桜疑惑の隠ぺい、コロナ禍での無策・手詰まりに、もうこれ以上自民党ではダメだろう。という空気が支配的になっている。安倍長期政権の経済政策が、経済(生活)を何とかしてくれるはずだったのに、けっきょく株主しか儲からない社会だったと、その正体が顕わになったのである。

国民はまだこの「政権交代」空気にあまり気づいていないが、自民党の危機感たるや凄まじい。青木がレポートした西東京市長選挙では、ヘイトまがいの「違法ビラ」で個人中傷を行なっているのだ。記事には反自民候補だった平井竜一氏のインタビューも収録されているので読んでいただきたい。

◆都議選とのダブルの可能性

山田厚俊のレポートは、自民党議員の取材から都議選(衆院)ダブル選挙が30%ありうるという情報だ。どうやら現在の自民党に「菅おろし」をする体力はない。たしかにそうかもしれない。派閥が金力と人脈、そして一応の政治理念で抗争していた時代とはちがい、官邸一極集中で総じて自民党政治家が小粒になっている。派閥の力が自民党の活力を生み出していた時代とは違うのだ。

それにしても、「ネクラ」の菅では総選挙は戦えない。自民党総裁は選挙に勝ててなんぼである。あれほど身びいきと政治の私物化で、なおかつネオファシスト的な反発を買っていた安倍晋三が「安倍一強」だったのも、選挙に勝てたからにほかならない。思い返してみれば、安倍晋三は中身はともかく、見てくれだけは国際政治のどの舞台に出しても、他国の政治家と遜色がなかった。

安部は一流の政治家一族に生まれ、秀才とはいえないまでもアメリカ留学して英語を磨き、それなりの二枚目であり、かつ長身でスマートな体躯。これらはぎゃくに、菅義偉総理にはないものばかりなのだ。いわば日本のアッパーミドルの期待と上級国民たちの熱烈な支持、そして排他的なネトウヨに支えられてきた。そしてその政治の私物化・お友だち優遇という醜い側面を暴露されていくなかで、引き時を誤らなかったのも政治センスなのであろう。

さて、山田レポートでは選挙の「新たな顔」に、河野太郎と野田聖子を挙げている。順当なものだと思う。あとは公明党(ダブル選挙に反対)との関係の変化である。解散の時期をどうするのか、菅総理にとってそこが正念場であるのは変わりない。

◆令和の「奴隷島」

パソナ竹中平蔵の「奴隷島」のレポートは衝撃的だ。いよいよ日本の階層分化が「奴隷島」を作ってしまったのだ。

抽象的な意味での「資本主義の賃金奴隷制」とかではない。竹中が淡路島に新型の貧困ビジネスを作ろうとしているのだ。パソナグループの新卒学生対象(契約社員)が「日本創成大学校ギャップイヤープログラム」というものだ。小林蓮実のレポートである。そのプログラムの内実は惨憺たるものだ。

小林によると、週40時間労働で手取りは12万ほど。受講費2万8,000円のほかに寮費が2万6,000円、食費が5万4,000円。ここまでで、手元に残るのは1万円ほどになってしまう。これでは島から外に出ることもできない。SNSで「奴隷島」「貧困ビジネス」と揶揄されるゆえんだ。読むほどにオドロオドロしい実態だ。悲惨な体験レポートとか、その実態を生々しく暴露する追加記事に期待したい。

「コロナワクチンの現実と『ワクチン後』の世界」(西山ゆう子取材・文、中東常行協力)は、ロサンゼルスの動物病院で働く西山のレポートだ。これから始まるはずの、日本のワクチン接種の参考にしたい。

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)

編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。医科学系の著書・共著に『「買ってはいけない」は買ってはいけない』(夏目書房)『ホントに効くのかアガリスク』(鹿砦社)『走って直すガン』(徳間書店)『新ガン治療のウソと10年寿命を長くする本当の癌治療』(双葉社)『ガンになりにくい食生活』(鹿砦社ライブラリー)など。

タブーなき月刊『紙の爆弾』2021年4月号

『NO NUKES voice』Vol.27発行にあたって

2011年3・11東日本大震災‐福島第1原発事故から10年が経ちました。長いようで速かった10年でした。

3・11後、私たちは本誌の前に書籍を数点出しましたが、福島の復旧・復興と共に、福島の想いをわがものとして福島現地からの生きた報告を中心に定期的に発行していこうという決意で後先顧みず本誌を創刊しました。3・11から3年半が経った2014年8月のことでした。

これ以前に、震災後の2011年暮れから福島を忘れないという決意で、魂の書家・龍一郎の力を借りて「鹿砦社カレンダー」を制作し、(当社、たんぽぽ舎への)本誌や『紙の爆弾』の定期購読者、ライターや書店の方々らに無料頒布してまいりました。好評で、当初1,000部から始め現在は1,500部、来年版は1,700部の予定です(内容は毎月1日の「デジタル鹿砦社通信」をご覧ください)。

本誌は、まだまだ採算には乗りませんが、何度も繰り返し申し述べているように、たとえ「便所紙」を使ってでも継続する決意です。

この10年にはいろいろなことがありました。私たちにとって最もショックだったのは、本誌の精神的支柱だった納谷正基さんが急逝されたことです。納谷さんは、お連れ合いが広島被爆二世で若くして亡くなり、その遺志を全うするために、生業の高校生進路指導と、この宣伝媒体のFM放送(仙台)を行っておられ、なんとこの場を使い原発問題を語っておられました。少なからずのバッシングがあったということですが、我関せずで持続しておられました。“志の頑固者”です。本誌の趣旨をも理解され2号目から連載を続けてくださり、毎号100冊を買い取り、学校やFM視聴者らに配布しておられました。

その納谷氏も3年近く前に亡くなられ、娘さんが遺志を引き継ぎ、放送枠を半減させたりして頑張ってこられましたが、矢も底を尽き、この2月、3・11から10年を前にして終了となりました。このかん、どんどんスポンサーは離れ、最後まで支えてくれたのは関東学院大学だけだったということです(あえて名を出させていただきました)。本誌は、そうした納谷さんの遺志を継続することを、あらためて誓います。納谷さんの言葉(警鐘)を1つだけ挙げておきます。──

「あなたにはこの国に浮かび上がる地獄絵が、見えますか?」

この10年の活動で、原発なしでも日本の社会や私たちの生活はやっていけることがわかりました。もうひと踏ん張り、ふた踏ん張りし続け、この国から原発がなくなるまで私たちは次の10年に向けて歩み続けなければなりません。本誌は小さな存在ですが、志を持って反(脱)原発運動や地域闘争に頑張っておられる皆様方の、ささやかな精神的拠点となっていければ、と願っています。

2021年3月
NO NUKES voice 編集委員会

『NO NUKES voice』Vol.27
3月11日発売開始 『NO NUKES voice』Vol.27 《総力特集》〈3・11〉から10年 震災列島から原発をなくす道
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米大統領選のデマ発信サイトを叩く読売新聞が、冤罪・湖東記念病院事件で飛ばした酷すぎるデマ報道の数々 片岡 健

読売新聞が3月7日、ホームページで次のような記事を配信していた。

【独自】米大統領選のデマ発信サイトに大手企業の広告…銀行や車など10社

記事によると、昨年のアメリカ大統領選で「不正があった」というデマが日本のSNS上で拡散したが、多くのデマの発信源となった「まとめサイト」に少なくとも10社の大手企業の広告が表示されていたという。記事では、各企業の反省のコメントも紹介されており、要するに同紙は「大手企業がデマを発信するサイトに広告を表示させるべきではない」と訴えたいようだ。

これは壮大なブーメランではないだろうか。筆者は率直にそう思う。これまで様々な冤罪事件を取材してきた中、読売新聞を含むマスコミ各社の酷いデマ報道を数え切れないほど見てきたからだ。

デマ発信サイトを叩く読売新聞の記事(2021年3月7日付)

◆冤罪の西山美香さんを「殺人犯」と決めつけていた読売新聞

たとえば、滋賀県の元看護助手・西山美香さん(41)が昨年、再審で無罪判決を勝ち取った湖東記念病院事件に関する読売新聞の報道もそうだった。

西山さんは2004年7月、男性患者の人工呼吸器のチューブを外して殺害した容疑で逮捕され、裁判で懲役12年の刑を受けて服役。再審請求後、弁護側の調査により男性が本当は「病死」だったと証明され、逮捕から実に16年で雪冤を果たした。

同紙は2004年、この西山さんが逮捕された際にこう報じている。

滋賀の病院で呼吸器外し患者殺害 容疑の元看護助手を逮捕 待遇に不満
(大阪本社版2004年7月7日朝刊1面 ※「ヨミダス歴史館」より)

実際には、患者の死因は「病死」だったのに、「殺害」と決めつけている。しかも、西山さんが動機について「病院の待遇に不満があった」と虚偽の自白をしていたことについて、「待遇に不満」と地の文章で書いている。これでは、西山さんが本当にそういう動機で患者を殺害したかのようだ。

さらに同紙は翌日に出した続報で、次のように報じている。

患者殺害の西山容疑者「看護師に見下され…」先月、出頭し自供
(東京本社版2004年7月8日朝刊35面 ※「ヨミダス歴史館」より)

「患者殺害の西山容疑者」は、西山さんのことを完全に殺人犯と決めつけた表現だ。この記事を目にした世間の人たちは西山さんがクロだと思い込んだことだろう。

読売新聞が「デマを発信したメディアに、大手企業の広告が表記されるのは問題だ」と考えているのなら、まずはこのような記事を出した自社の紙面を見直し、広告を出している企業にコメントを求めるべきだ。

◆新聞社はネットメディアの不正確さを叩くことが多いが…

おそらく筆者がここで指摘したことは、筆者以外にも気づいた人が多かっただろう。新聞社は重大な冤罪が明るみに出るたび、冤罪を生んだ捜査や裁判を批判するが、実際には新聞社自身、冤罪被害者が逮捕された際に犯人と決めつけた報道をしていることは一般常識だからだ。

新聞社は自分たちの権威を保つため、ネットメディアの不正確さを叩くことが多いが、そんなことをしても権威など保てないからやめたほうがいい。それよりも、重大な冤罪が明るみに出た時などには、捜査や裁判の問題より自社の報道の問題を検証したほうが、よっぽど社会の多くの人から信頼を得られそうだし、長い目で見れば得なのでないだろうか。

▼片岡健(かたおか けん)
全国各地で新旧様々な事件を取材している。近著に『もう一つの重罪 桶川ストーカー殺人事件「実行犯」告白手記』(著者・久保田祥史、発行元・リミアンドテッド)など

タブーなき月刊『紙の爆弾』2021年4月号
「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

三度目の政権交代はあるのか? 小沢一郎と山本太郎の動向にみる菅政権の危機

秋田県雄勝郡秋ノ宮村の農家の生まれで、上野着の集団就職組。板橋の段ボール工場の工員だった苦労人、実行力の人という菅義偉は、しかし悲しいほどのポンコツ政治家だった。これはもはや、政治に関心のある国民のみならず、自民党内でも後継政権が取りざたされるほどの評判になってしまった。

予想以上のコロナ禍のもと、学術会議任免問題でのつまづき、Go To キャンペーンでの失政(時期尚早と中断の遅れ)など、みずから招いた政治危機とはいえ、事務屋が営業職になった適材性のなさ、あるいは裏の顔がオモテに立たされた悲劇ともいえる。

◆野党連立は実現するか? 小沢一郎の読み

その結果、政権交代の展望までが語られるようになったのだ。いや、9月段階で今日の政権末期症状を読んでいた人物もいたのだ。その人物は総選挙にむけた野党共闘が順調にすすみ、メディア向けの選挙・世論調査データを踏まえたうえで、野党連立として枝野政権が誕生すると予告している。しかもそれは、総理が交代した昨年、9月のことなのだ。

その人物とは、政権交代の請負人を自称し、なおかつ政権の壊し屋の異名をとる小沢一郎にほかならない。

昨年の「週刊朝日」(2020年9月18日号)から、田原総一朗との対談を引用しよう。

「小沢 安倍政権の数々の問題、森友問題も桜を見る会も、そして河井夫妻のスキャンダルも、政権がひっくり返って枝野(幸男・立憲民主党代表)内閣になれば、すべて明るみに出ますよ。」

「田原 玉木さんと会ったら、自民とも維新とも組まないし、枝野さんともけんかする気はないと言っていた。まあ、いいとして、非自民政権はこれまで2回とも小沢さんがつくった。1993年の細川内閣と、2009年の鳩山内閣。多くの国民は3度目を期待している。
 小沢 三度目の正直です。何としても、その期待に応えたいと思っています。」

「田原 小沢さんには全面的に期待がかかっている。小沢さん、連立政権をつくるために何をどうする。
 小沢 連立!?
 田原 立憲・共産。
 小沢 共産党と? 共産党と連立になるかどうかはわかりませんが(笑)。志位さんは連立って言っていましたか?
 田原 もちろん、大賛成だって。志位さんが一番尊敬している政治家は小沢さんだと言っていた。」

◆小沢一郎と志位和夫の「政権奪取宣言」

小選挙区での野党候補一本化は、独自候補を擁立できる共産党との提携がネックである。自公連立に伍するには、立民共+新選が不可欠である。

上記の「志位さんが一番尊敬している政治家は小沢さん」という田原総一朗の言葉をうけて、BS-TBSが、小沢一郎と志位和夫の「政権奪取宣言」を特集した。

すでに臨時国会の首班指名選挙で、志位和夫が立憲民主の枝野幸男に投票するシーンが映像に収められていた。

「松原耕二キャスター 日本共産党にとっては、ある種の歴史的な一票ですね。
 志位 歴史的に初めてです。それから、今回大事なのは、共産党が入れただけではなく、野党が全部入れたことです。国民民主党も社民党も『れいわ』も入れました。碧水会や沖縄の風も入れました。オール野党で一本化しました。」

「小沢 2009年の総選挙で、自民党は280以上から120になった。民主党は120から300以上になったんです。(立憲民主党は)衆院で100以上ですから。(政権をとるための)基礎的な数字としてこの数字は十分な数字なんです。しかもオール野党が一緒になるということ自体が、とてもいいことなんですね。」

「小沢 次の次(の総選挙で政権交代)という人はいますが、野党は『次の総選挙で政権をわれわれはとる』、そして『われわれの主張を実現する』と(言うべきだ)。それが“次の次の選挙でもいい”なんていう野党がいますか。そんなことで、国民は受け入れないですよ。」

「志位 私は、小沢さんの発言は当然だと思っています。やはり野党として、『次の総選挙で政権交代を実現する、政権をとる』。この本気度をバチッと示してこそ国民は真剣に耳を傾けてくれると思います。」

「志位 共産党も含めて野党は力を合わせて連合政権をつくるということです。私たちが閣内に入るか閣外かはどちらでもいいです。しかし連合政権をつくり、この国をよくするというところまで踏み切ってほしい。その政治決断をやってほしい。」


◎[参考動画]【野党共闘キーマン!小沢一郎・志位和夫が語る】報道1930まとめ2020年9月24日放送(BS-TBS公式チャンネル)

◆注目の4月補選とれいわ新選組山本太郎の動き

小沢一郎のお手並み拝見といったところだが、もうひとり、目を離せない人物がいることを、読者諸賢はご存じのことであろう。

何かとそのパフォーマンスが誤解を呼び、あるいは当初は最優先の政策であった原発廃止が後景化されるなど、選挙放心も批判される人物だが、その果敢な積極性がいまなお求心力を増している。

そう、れいわ新選組の山本太郎である。

昨年中には総選挙の立候補予定者19人を発表し、今年に入って都議会選挙立候補者を最小5人、最大10人立てると宣言した。

そして、公選法違反有罪で河井案里が自動的離職となった広島参院選挙区でも、れいわ新選組は立候補者を公募している。のみならず、公募で有力候補が得られなかった場合は、山本太郎がみずから立候補することも排除しないとしているのだ。
4月25日は衆参補選である。

衆院北海道2区は自民党の吉川貴盛元農水相の収賄事件(在宅起訴)を受けての、与野党一騎打ち(現状では野党候補一本化の途上)。参院長野選挙区は、コレラ死した羽田雄一郎の弔い選挙として、実弟の羽田次郎が立候補する。ふたつの選挙は自民敗北が濃厚で、広島参院選挙区が菅政権の正念場ということになる。

すでに1月の北九州市議選では、自民党の現職が6人落選するという惨敗だった。山形県知事選でも立憲系の吉村美栄子が40万票対17万票(自公系)で圧勝している。

4月補選、7月の都議会選挙で自民党が大敗すれば、菅おろしが始まるとこの通信でも何度か力説してきたところだ。泥舟的にでも東京オリンピック・パラリンピックが開催されるとしても、7月の都議選に総選挙を重ねることは、公明党の要請で不可能である。

そして五輪強行のツケが政権運営を破綻させ、菅おろしという党内の醜い抗争が露呈したとき、国民の自公政権離れは必至である。

そこで、三度目の政権交代が実感をもって感じられる。その成否のカギを握っているのが、小沢一郎と山本太郎であることを指摘しておこう。


◎[参考動画]財源は!? 毎月1人10万円給付は可能か?お答えしましょう! 山本太郎(れいわ新選組 2021年2月25日)

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)

編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。医科学系の著書・共著に『「買ってはいけない」は買ってはいけない』(夏目書房)『ホントに効くのかアガリスク』(鹿砦社)『走って直すガン』(徳間書店)『新ガン治療のウソと10年寿命を長くする本当の癌治療』(双葉社)『ガンになりにくい食生活』(鹿砦社ライブラリー)など。

タブーなき月刊『紙の爆弾』2021年4月号
安倍晋三までの62人を全網羅!! 総理大臣を知れば日本がわかる!!『歴代内閣総理大臣のお仕事 政権掌握と失墜の97代150年のダイナミズム』
タケナカシゲル『誰も書かなかったヤクザのタブー』(鹿砦社ライブラリー007)
横山茂彦『ガンになりにくい食生活――食品とガンの相関係数プロファイル』(鹿砦社LIBRARY)

冤罪を訴え続ける桶川ストーカー殺人「首謀者」、獄中書簡で明かした捜査と裁判の内幕 片岡 健

1999年10月、埼玉県上尾市の女子大生・猪野詩織さん(事件当時21)がJR桶川駅前で風俗店店長の男に刺殺された桶川ストーカー殺人事件。大変有名な事件であるにもかかわらず、意外と知られていないことがある。

それは、事件の「首謀者」とされる元消防士の無期懲役囚・小松武史(同33、現在は千葉刑務所で服役中)が一貫して冤罪を訴え、さいたま地裁に再審請求していることだ。

筆者はこれまで、この小松の冤罪主張には信ぴょう性があることを当欄で繰り返しお伝えしてきた。

まず何より、猪野さんに対し、ストーカー化していた風俗店経営者の小松和人(同27、指名手配中に北海道で自死)ならともかく、その兄である武史には、猪野さんを殺害する動機が見当たらない。加えて、捜査段階に「武史に被害者殺害を依頼された」と供述し、武史を有罪に追い込んだ実行犯の風俗店店長・久保田祥史(同34)も実は裁判で「本当は武史から被害者殺害の依頼はなかった」と“告白”しているのだ。

懲役18年の判決を受けた久保田が宮城刑務所に服役中、筆者が久保田と文通し、事実関係を確認したところ、久保田は“事件の真相”について、次のように説明した。

「あの事件は、和人の無念を晴らすため、自分が一人で暴走してやったことです。取り調べに対し、武史から被害者の殺害を依頼されたと供述したのは、犯行後、和人と一緒に風俗店を経営していた武史にトカゲのしっぽ切りのような扱いをうけ、復讐しようと思ったからです」(要旨)

このような事実経過からすると、武史について冤罪を疑う声が聞かれないのはむしろ不思議なくらいだと言っていい。

武史から先日、私のもとに届いた手紙には、捜査と裁判の“内実”が改めて生々しく綴られていた。ここで紹介させて頂きたい。

◆警察の調べは、「オラー、てめー、このヤロー」の連続

武史は警察で受けた取り調べについて、今回の手紙にこう書いている(以下、〈〉内は引用。明らかな誤字、明らかに事実と異なる部分は修正した。また、句読点は読みやすいように改めた)。

〈警察の調べは、デタラメどころでなく、せまい2畳の調べ室に、6人の刑事が来てたり、暴言どころでなく、ずっと「久保田がこう言ってる、てめえが殺しを指示した」や「本当は、弟でなく、てめぇーが女と付き合ってたんだろう~が」や「てめぇは、飯食えてい~よな、死んだ女は、飯も食えねえんだョー」。私が39℃の熱があろうが、抜く歯の痛みがあろうが、30kgやせようが、久保田のタクシー内の嘘の供述を認めないと、病院にも医者にも見せないの一点張り、、、弟の北海道の逃げてる話や、自殺してしまうとうったえても、ゲラゲラ笑って「今更、てめえの弟が出てきても、面倒なだけだろーが」や「誰も、弟の事など、話してねえよ、テメェーの女だったんだろーが、そんでなきゃ殺す訳ねぇーだろうが」の一点張りでした。調書など、毎日、刑事が作って来てた作文に、印を押せの、デタラメな調べでした。「オラー、てめー、このヤロー」の連続〉

ここで注目して頂きたいのは、武史が刑事から〈久保田のタクシー内の嘘の供述を認めないと、病院にも医者にも見せない〉と言われたという部分だ。武史がこのようなことを書いているのは、久保田が当初、「武史から被害者の殺害を依頼されたのは、タクシーに乗っていた時だった」と供述していたためだと思われる。

そもそも、武史が久保田に殺害を依頼するなら、運転手のいるタクシーの車内ですること自体が不自然だ。これも筆者が武史の冤罪主張に信ぴょう性を感じている理由の1つだ。

続いて、武史は検事の取り調べについて、こう綴っている。

〈私が、上尾警察署員は弟の店の会員ばかりで、私に話して来てた署員(「弟さんの店、残念でしたね、良い店で我々の内でも、有名だったので、かわりに、どこか他の店を紹介して下さい」)の話を検事にすると、初めは、そんな訳ないと言ってたのが、2日後の護送から、メンバーが全員変わるほどだったのと、検事の調書は一枚も出来あがらず、検事は怒ってたのと、デタラメ調べでした〉

猪野さんが事件前、家族と共に埼玉県警上尾署に対し、和人らからのストーカー被害を訴えていたにもかかわらず、まともに取り合ってもらえなかったことは有名だ。上尾署の動きが鈍かったのは、署員が和人の営む風俗店とズブズブの関係にあったからだという説はかねてより「噂話」レベルで存在していた。

武史がここで書いていることは、必ずしも趣旨が明確ではないが、この「噂話」を裏づけている内容と言える。武史の言うことを鵜呑みにするわけにもいかないが、見過ごしがたい話ではある。

武史から届いた手紙

◆判決を早く出したかった裁判長が「まともな判事」をコウタイした

武史は裁判についても当然不満を抱いており、こんなことを書いてきた。

〈裁判長の川上は、私の裁判が終ると、早稲田大学の法学学術院(母校)の学長に付くのが決まっていたそうで、弁護士の刑事事件専門の荻原先生に言わすと、何十年と見て来た、川上裁判長らしくないと言ってました。判決を早く出したいのと、検事の言う事しか聞かないと言ってたのと、右のバイセキの下山判事だけ、久保田や伊藤の言う事があまりに矛盾してたので、しょっちゅう「信じられないから、伊藤さんに訊きますが、殺人の謀議を、何一ツ覚えてない人が、検事のケイタイ一覧を見せられ、なぜ?一ツ、一ツの会話を覚えているのか?(通常会話を?)信じられない」と言ってた、まともな下山判事を、川上裁判長は、コウタイしてました。判事も、何が何でも、検事と久保田の証言で、有罪にしたいのが見え見えでした〉

ここに出てくる川上(拓一)裁判長は、たしかに武史らの裁判を担当したのち、早稲田大学の法学学術院で教授職に就いている。「学長」を務めていた事実は確認できなかったが、「裁判長は次の仕事が決まっていたから、判決を早く出したがっていた」「そのために、まともな判事をコウタイさせた」という武史の推測は、まったく根拠がないわけでもない。

一方、ここで出てきた伊藤とは、久保田が猪野さんを刺殺した際、現場に同行した共犯者の伊藤嘉孝(同32)のことだ。伊藤も和人の営む風俗店で働いていた男だが、逮捕されると、「被害者への嫌がらせはすべて武史の指示によるものだったので、久保田から被害者を殺害すると聞いた時、今回も当然、武史から久保田に指示があったと分かった」と供述し、「武史=首謀者」だとする久保田の供述を裏づけていた。久保田が裁判で当初の供述を覆したにもかかわらず、武史が有罪とされたのは、伊藤が裁判でもこの供述を維持したことが大きな要因だ。

武史がここで書いていることの趣旨はわかりにくいが、裁判での伊藤の証言内容におかしいところがあったと訴えたいのだろう。無罪への執念は確かに伝わってくる文章だ。

なお、伊藤は懲役15年の判決を受けて服役し、出所後に病死している。

千葉刑務所。武史は現在もここで服役中

◆再審がダメなら、病気になって早く死にたい

さて、ここまで読んでおわかりの通り、武史の書く文章には、趣旨のわかりにくいところが散見される。獄中生活も20年を越し、心身共に疲弊しているためだと思われる。再審にかける思いは強いが、弱気になることもあるようで、現在の思いをこのように綴ってきた。

〈日本の再審は厳しいのは知ってますので、私はダメなら、病気になって早く死にたいです、、、この世に未練は何もないです。早くリセットしたい思いです〉

筆者は今後も武史の再審請求の動向は追い続けるので、何か事態に動きがあれば、適時お伝えしたい。

なお、武史はさいたま地裁への再審請求に際し、久保田が事件の「真相」を綴った手記を電子書籍化した拙編著「桶川ストーカー殺人事件 実行犯の告白 Kindle版」を新規・明白な無罪証拠であるとして提出している。関心のある方は参照して頂きたい。

▼片岡健(かたおか けん)
全国各地で新旧様々な事件を取材している。近著に『もう一つの重罪 桶川ストーカー殺人事件「実行犯」告白手記』(著者・久保田祥史、発行元・リミアンドテッド)など。

タブーなき月刊『紙の爆弾』2021年4月号
「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

有罪判決を受けた元特捜部長、81歳で直面した刑事裁判の現実 片岡 健

検察官やヤメ検の弁護士が自分の専門分野である刑事事件の捜査や裁判について、意外と知識が乏しかったり、大きな誤解をしていることがたまにある。この人もそうだったのだろうか……と、ある裁判に関する報道を見て、ふと思った。元東京地検特捜部長の石川達紘被告(81)のことである。

石川被告は2018年2月、都内で誤って車を暴走させ、通行人の男性(当時37)をはねて死亡させたとして、東京地裁で自動車運転死傷処罰法違反の罪に問われた。検察側が「被告人は誤ってアクセルを踏み続けた」と主張したのに対し、石川被告は「アクセルを踏んでおらず、車の不具合の可能性がある」と無罪を主張していたという。

しかし2月15日、石川被告は三上潤裁判長にこの主張を退けられ、禁錮3年・執行猶予5年の判決を受けた。そして即日、東京高裁に控訴したという。

石川被告の裁判の舞台は東京地裁から東京高裁へ移った

◆優秀なヤメ検弁護士ですら知らなかった刑事裁判の現実

ここで、私が10年ほど前に取材した、ある冤罪事件の話をしたい。その事件では、弁護人のヤメ検弁護士が熱心な弁護活動をしており、裁判員裁判だった一審では無罪が出そうな雰囲気もあったが、結果的に被告人は不可解な内容の判決で有罪とされた。その時は私もこのヤメ検弁護士を気の毒に思ったが、控訴審が始まる前にこの人と話した時にいささか驚いた。

こんな楽観的なことを言っていたからだ。

「控訴審の裁判官は、私が検察官になったばかりの頃に色々教えてくれた人で、私の考えもよくわかってくれている。今度は大丈夫だと思う」

日本の刑事裁判官は検察官寄りの判断をする人が大半で、被告人は裁判が始まる前から有罪と決めつけられていることも多い。日本の刑事裁判の有罪率が異様に高いのはそのためだ。そしてそれは今や素人でも知っている常識だ。それにもかかわらず、このヤメ検弁護士は、検察官だった頃の自分の考えを理解してくれた裁判官が、検察官をやめて弁護士になった自分の考えも理解してくれるものだと妄信していたのだ。

果たして控訴審は初公判で即日結審、被告人の控訴が棄却される結果になった。この被告人は明らかな冤罪だったが、その後に最高裁でも上告を棄却され、現在も東日本の某刑務所で服役している。

ちなみにこのヤメ検弁護士は、無罪判決の獲得実績もかなりある優秀な人だ。そういう人ですら、「刑事裁判官は、検察官寄りの判断をする人が大半」という現実を知らなかったわけだから、この現実を知らない検察官やヤメ検弁護士は日本全国にかなりいるはずだ。

◆公判中の態度を問題視された元特捜部長

そして再び、石川被告の話である。

週刊文春の報道によると、石川被告は公判中、自ら検察官側証人の警官に尋問を行い、元特捜部長らしくギリギリ追及し、裁判長から「冷静に」とたしなめられたりしたという。また、「私も被害者だ」「私は生かされた」などという言葉を発し、遺族を傷つけたりしたそうだ。

さらにNHKなどの報道によると、三上裁判長は判決宣告後、石川被告に「被害者遺族に対する向き合い方について、今一度考えてほしい」と述べていたとのことである。裁判長にとって、石川被告の法廷での態度は相当酷いと感じられたのだろう。

ただ、そのことから推察するに、石川被告は刑罰を免れようとして無罪を主張したわけではなく、本気で自分のことを冤罪被害者だと考えている可能性もある。そうであるなら、東京地検特捜部長を務め、最終的に名古屋高検の検事長まで出世した石川被告は、81歳にして初めて「日本の刑事裁判官は、検察官寄りの判断をする人が大半」という現実に直面したのかもしれない。

果たして、石川被告は気づくことができただろうか。検察官だった頃の自分も刑事裁判官からそのようにひいきされていたからこそ、否認事件でも当たり前のように有罪判決が取れていたのだということに。

▼片岡健(かたおか けん)
全国各地で新旧様々な事件を取材している。近著に『もう一つの重罪 桶川ストーカー殺人事件「実行犯」告白手記』(著者・久保田祥史、発行元・リミアンドテッド)など

タブーなき月刊『紙の爆弾』2021年4月号
「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

ロングラン上映が続く映画「ひとくず」の凄み ──「連鎖する虐待」の中に置かれた人たちが変わっていける世界を描く

「児童虐待」をテーマにした映画「ひとくず」のロングラン上映が各地で続いている。

 
映画『ひとくず』より。画像クリックすると公式HPへ

映画は、空き巣を稼業とするカネマサ(金田匡郎)が、空き巣にはいった部屋で、少女鞠(まり)に出会うところから始まる。カギをかけられ、電気も止められ、食べ物もない部屋にうずくまる鞠に、幼いころ母親にトイレに閉じ込められた自分を重ね合わせるカネマサ。鞠を救いたいとの思いは募るが、現在の行政の仕組みではなかなか救えないことを知る。鞠の胸にアイロンを押し付けたのは、鞠の母親凛の愛人。それを止めることのできない凛をカネマサは怒鳴りつける。しかし、その凛の背中にも虐待の跡をみつけてしまう。「虐待の連鎖」。

監督、脚本、編集、プロデューサー、そして主演カネマサを演じた上西雄大さん(56歳、大阪出身)も幼い頃、実父が実母に暴力をふるう場面を見て育ったという。映画を作るきっかけとなったのは、別の企画の取材で話を聞きに行った精神衛生士・楠部知子さんから、虐待の実態を知らされたことからだった。

日本における児童虐待相談の件数は、2016年度で12万2578件、26年間増え続けている。胸などにアイロンを押し付けられ火傷を負う子どもは鞠だけではないこと、性的虐待も多いことなど。「アイロンをあてるとき、熱くなるまで待つ訳じゃないですか?その時の子どもの恐怖を思うと辛くて辛くて……」と監督。その思いをどうにかしたい、鞠のように虐待された子を救ってあげたい、そうした思いから一晩で台本を書き上げたという。そして「この作品を世に出すことが、虐待をなくしていくことにつながるのであれば」との思いで映画を作った。

しかしこの作品は、虐待の実態を知ってもらったり、啓蒙するために作ったのではないという。じつは虐待の加害者もまた虐待の被害者であるケースも多く、そうした「連鎖する虐待」の中に置かれた人たちが、その中で人間の愛、良心、家族の暖かさ、優しさを知り、変わっていけることを描きたかったという。「もし映画を観て感動してもらえるなら、その先に虐待について目を向ける思いが宿ってもらえることを願っている」と、上映後には「児童相談所対応ダイヤル」189(イチハヤク)を印した缶バッチをお客さんに配っている。

映画『ひとくず』より。画像クリックすると公式HPへ

◆子どもの愛しかたがわからない親たち

 
上映後に配られた「児童相談相談所対応ダイヤル189」を印した缶バッチ。画像クリックすると公式HPへ

映画を見る前に、杉山春さんの「ネグレクト」を読んでいた。ネグレクト(育児放棄)も虐待の1つだ。10代の若さで親になった雅美と智則は、ともに幼い頃、親から育児放棄されて育ってきた。雅代や智則の母親も雅代や智則が嫌いだったり憎んでいる訳ではない、ぎりぎりに生活する中で、子どもに愛情をかけてあげることが出来なかった親たちだ。そんな親に育てられた雅代も智則もまた、子どもを育てる術をしらない。映画「ひとくず」で、凛が「どうやって子どもと接したらいいか、愛情注いだらいいか、わからないの」と泣き叫んでいたように。

雅代と智則も、子どもの育て方、愛情の注ぎ方を知らず、うまくいかない子育てに悩み、途方に暮れても、親や社会に助けを求めることもできないできた。そして段ボールに入れた3才の娘を餓死させてしまう。杉山さんは、逮捕された二人の裁判を取材する過程で、二人の親や周辺の関係者にも取材を広げ、痛ましい事件の背景を探っていく。

◆虐待が起こる背景

虐待が起こる背景は様々だろうが、カネマサ、凛、鞠、そして雅代、智則を見る限り、経済的環境(貧困)も深く関係していると思われる。以前、関西で貧困問題などに取り組む司法書士の徳武聡子さんが、家庭の経済的状況と子どもの言葉量が比例すると話されていた。経済的に余裕のある家庭では、親が子どもと会話する量も多く、子どもが覚える言葉も増える。一方で、経済的に貧しく、ダブルワークで働く親などは、家に戻っても疲れはて、子どもにかける言葉も少なくなる(もちろん経済的に貧しくても家庭で子どもに十分声をかけてやれる親もいる)。「めし」「早く、寝ろ」「うるさい」…いや、それすら発せられないかもしれない。

 
映画『ひとくず』より。画像クリックすると公式HPへ

逮捕された雅代も智則も、真奈ちゃんの言葉を教えることはなかった。幼児は「ご飯よ」と言えば「ゴハン」「いただきます」と言えば「いただきまちゅ」と言葉を覚えていくのではないか。真奈ちゃんが亡くなるまで覚えた言葉はたった1つ、智則の母親が教えた「おいちい」だった。

「ネグレクト」では、雅代と智則が裁判を通じ、徐々に変わっていく様が鮮明に描かれている。とくに智則は、獄中で様々な本を読み、言葉を覚え、自身の内面を見つめ直し、何故わが子を死なせてしまったかを考えていく。一審では、検察官の質問に「ちょっと覚えてないです」と繰り返していた智則が、判決後、どうしても控訴したいと弁護士に訴える。理由は、量刑不当ではなく、無理やり殺意があったとした判決には納得できないからだという。

「裁判上認められなくても、一人でも多くの人に当時の私たちの気持ちを理解してもらいたい」と、二審では、当時の自分の考えを必死で言葉にし、何故真奈を死なせてしまったかを証言していく。「二人にとって裁判は、おそらく生まれて初めて自分自身の心の奥をのぞき込み、考え、他者に向けて言語化していく作業だったはずだ」と杉山さんは書いている。

◆「虐待の連鎖」を断つために

「ひとくず」の主人公カネマサも、「バカやろ」と相手を口汚く罵倒するしかできない男だった。母親の愛人に虐待を受け続けてきたカネマサは、庇ってくれなかった母親に「死ぬまで憎み続けてやる」とつきつける。

「虐待の連鎖」は、どうしたら断ち切っていけるのか?映画「ひとくず」では、かつて母親の愛人を殺したカネマサが、今度は凛の愛人を殺すという、無茶な形で断ち切っていくが……。

「虐待がこんなに酷いと告発したいのではなく、そんななかにもある人間の愛、良心、家族の温かさをみつけてほしい」と監督が願っていたものは、映画でどう描かれたのか。カネマサの実母への憎しみは、鞠、凛親子と出会い、どう変わっていったのか?映画では、描かれていないが、私は、カネマサが刑務所で何を考えていたか、ぜひとも知りたいと思った。

エンドロールの後に描かれる希望、赦し、出所後のカネマサを迎えたのは鞠、凛、そして……。


◎[参考動画]映画『ひとくず』アンコール上映版予告編(2021年1月31日)

◎『ひとくず』公式HP https://hitokuzu.com/

▼尾崎美代子(おざき みよこ)

新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

3月5日発売!タブーなき月刊『紙の爆弾』2021年4月号

東京オリンピックは開催できるか 強行開催で日本人大会に? 横山茂彦

◆人事問題で「変化」はあったのか

東京オリンピック・パラリンピック大会組織委員会の会長が橋本聖子に決まり、鬱陶しかった森喜朗支配は形の上では過ぎ去った。とはいえ、その橋本聖子自身が森を「政治の父親」と呼び、森もまた橋本を「娘」と呼ぶ関係であることから、人事による組織の「変化」は鈍いものにしか感じられない。

選考過程がまたしても「密室」であったところに、組織体質の旧態然たるものを感じさせた。いま必要な「国民の共感」をえる求心力は、少なくとも獲得できなかった印象がのこる。

さらには橋本聖子にかんして、ソチ大会でのセクハラ・パワハラ事件にたいする批判がやまない(「週刊文春」最新号)。女性からのセクハラであれば、何となく酒が入ってエッチになる程度の官能小説めいた逸話で終わりそうだが、これを男性がやった場合には世論は沸騰して批判し、その当事者を追放するであろう。ひるがえって男女平等という立場に立てば、橋本聖子の過去の行為もとうてい受け入れられるものではないのだ。本人の厳しい自戒を期待したい。

ただし、マスメディアはいっさい報じないことだが、オリンピアクラスのアスリートの下半身事情は、じつはかなり放縦なものである。これは実際に冬季五輪系の競技者(チーム競技の現役)に訊いた事情である。

ながい期間、若い男女が同じ施設内(いちおう、部屋やフロアの区別はある)で監禁にちかい生活を強いられるのである。男女併設の施設であれば、そこにはおのずと「××部屋」と呼ばれる一角ができて、若い性欲を満たす。いや、食べることとそれ以外には、何も愉しみがないのだから、これはやむを得ないところなのだろう。

近年、味の素ナショナルトレーニングセンターなど、管理の行き届くトップアスリート向けの施設が完備されたのも、体育会的な野放図な男女関係を解決する策でもあるのだ。その意味で橋本聖子の世代は、スポーツ選手の性が乱れた環境にあったといえよう。

◆開催の現実性

ところで、それでは本当に東京五輪は開けるのだろうか、ということになる。

7月21日開催(開会式は23日)だとして、Goサインは3月25日の国内聖火リレー開始(福島)となる。Stopサインも同じである。

世論調査では、開催するべき・延期すべき・中止すべき、がそれぞれ30%前後と鼎立だが、再度の延期という選択肢はない。そしてIOCも大会組織委員会、そして日本政府、東京都も「絶対に開催」という方向で動かざるを得ないことから、開催を前提に「通常開催」と「無観客」が選択肢としてあるのだろう。

筆者は本来のオリンピックが個人参加(古代・近代五輪の基本精神)であり、国別参加のナショナリズム的なあり方に反対する立場だが、念仏のように「開催反対」を唱えるだけで議論が足りるとは考えない。そこで、現実的な開催条件を考えてみよう。

無観客の場合の損失は、2兆4133億円にのぼるとされている(関西大学宮本勝浩教授)。ちなみに中止の場合の経済的な損失は、4.5兆円とも7兆円ともいわれている。振れ幅があるのは、最大の出資者であるアメリカ3大放送ネットワークとそのスポンサー、および世界のメディアスポンサーの撤退ということになるからだ。つまり最大の収益源である放映権料がなければ、オリンピックは成り立たないのである。

その意味では、中止という選択肢は大会関係者にはないと断言できる。このうえ開催中止があるとしたら、日本でデイリーの感染者が数千人規模で推移し、とてもイベントを開催できるものではない。という判断があった場合だろう。たとえば、NHKで特番まで組んでもらっておきながら、チーム内のクラスター発生で開幕が延期になったラグビートップリーグのように、チームが成立しなければ開催してくても出来ない。

◆縮小大会の可能性

いっぽう、海外からの声としては、セバスチャン・コー卿が1月22日にBBCの取材に対して「大会が予定通り開催されると確信している」「騒がしくて情熱的な観客に参加してほしいが、開催できる唯一の方法が無観客ならば、全員それを受け入れるだろう」と語っている。

果たして「全員それを受け入れる」だろうか。IOCや大会組織委員会が「受け入れ」ても、参加するのは各国のNOCであり、チームや選手なのである。観客を入れなくても、選手が参加しないのであれば大会は成り立たない。日本人だけの大会では、もはやオリンピックとは言えないだろう。

もうひとつ考えられるのは、IOCおよび大会組織委員会が中止を決定できない以上、各IF(競技の国際団体)に参加か不参加を決めてもらい、全体として競技数を減らして縮小大会にする可能性だ(IOC事情に詳しい競技団体幹部)。

現在、ロックダウン下で開催中のテニスの全豪オープンをみると、選手は2週間前にPCR検査陰性のうえで入国し、入国後は毎日検査、1日の外出時間は5時間という、過酷な制限のなかでの開催となっている。これを全競技に当てはめるのは無理だから、人気のある競技、開催能力のある競技団体のみの開催で、上述の放映権料を確保するという狙いである。

◆始まった開催拒否の流れ

関係者の苦肉の策、選手たちの努力にもかかわらず、中止への流れはできてしまった。森発言を受けての大会ボランティアの参加辞退、そして聖火ランナーたちの不参加表明。あるいは島根県の丸山知事による、条件付きの聖火リレー中止発言である。

丸山知事の発言の正当性は、テレビ報道でも国民の賛意を得つつある。すなわち、濃厚接触者の追跡調査もしない東京都に、大会を開催する資格はないのではないかというものだ。全国でも感染者を最低限に抑えてきた島根県には、そう指弾する資格はあるだろう。小池東京都知事は、緊急事態宣言のさなか(1月下旬)にもかかわらず、再三にわたって千代田区長選挙の応援演説に出かけるという身勝手を行なっていたのだ。

島根県は県民の努力で感染を低減させ、緊急事態を宣言しなくても済んでいる。そのいっぽうで、感染者を膨大に出している自治体には、手厚い保証がなされている「不公平」感には同情せざるをえない。そして本来は県民の救済資金である7000万円もの税金を、島根県は聖火リレーに供出しなければならないのである。

この丸山知事の発言に、県内で対立派閥に属する竹下亘(竹下総理の異母弟)が噛みつく。大会推進派のいわば「反対する者は非国民」的な批判があからさまに行なわれ、これに世論が反発するという流れが出てきたのである。この流れに注目せざるをえない。

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)

編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。医科学系の著書・共著に『「買ってはいけない」は買ってはいけない』(夏目書房)『ホントに効くのかアガリスク』(鹿砦社)『走って直すガン』(徳間書店)『新ガン治療のウソと10年寿命を長くする本当の癌治療』(双葉社)『ガンになりにくい食生活』(鹿砦社ライブラリー)など。

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