《NO NUKES VOICE》福島県浪江町の自宅が3月25日にも鹿島建設に解体される今野寿美雄さんに聞いた福島第一原発事故からの9年間〈3〉 尾崎美代子

子ども脱被ばく裁判原告団長の今野寿美雄(こんの・すみお)さんは、9年前の震災と原発事故後、当時住んでいた福島県浪江町から妻と息子とともに避難を続け、現在は福島市内の復興住宅で生活を送っている。2月初め、Facebookで今野さんが「解体のため、今春、鹿島建設に玄関のカギを渡さなければなりません。環境省から引き渡しを迫られています。昨年、11月末に現地立ち合いをしたところ、令和2年(2020年)3月25日が工期だといわれましたが、そんな話は寝耳に水でした。今まで工期について一切、説明もなければ、連絡もありませんでした」と投稿していた。今野さんに何が起きたのか、お話を伺った。全3回に分けて報告する。聞き手・構成=尾崎美代子)

3月4日、福島地裁で開かれた子ども脱被ばく裁判の公判前、地裁前でアピールする今野さん(Toshiko Okadaさん提供)

◆浪江訴訟──小早川社長になってから態度がゴロっとかわった東電

── 今野さんは現在、2つの裁判にかかわっていますが、1つは浪江訴訟。こちらは浪江の住民の皆さんが、原発事故の慰謝料の増額を要求していた原発ADRで、東電が和解案を6回も拒否して決裂したため、2018年4月17日、本格的な裁判を提訴して始まった裁判ですね? ADRを闘ってきた人たちは、東電に6回も拒否され、がっくりだったしょうね?

今野 ADRでは、精神的賠償の35万円の金額が10万円しか賠償されなかったので、あとの25万円を支払えと訴えていたわけです。東電は、和解案をずっと拒否してきた。最終的に中間指針で「5万円支払え」となり、住民側は受け入れたのに、東電はそれも拒否したわけです。個別の請求では、東電の現場の職員は一生懸命聞いてくれるわけですよ。俺たちのことを考えて。でも本店にもっていくと断られてしまう。

東電は、社長が前の広瀬さんから小早川さんに変わりましたが、彼が一番ひどいです。広瀬さんは、まだ要求を受けるようなことをいっていたが、小早川さんになってから態度がゴロっとかわった。私が個別に請求した分、1200万円も棄却されました。

── 本格的な裁判となるとハードルが高く、どこでもですが、おのずと原告の数は減りますね?

今野 そうです。ADRのときは、裁判費用も削除かからないし、早くに解決できると思い、浪江町の7割もの住民が参加しました。でも東電が拒否し続け、その間に亡くなった人も大勢いました。今度の裁判は、長くかかるのであきらめた人、それから損害賠償は着手金や印紙代金が高いこともあり、経済的な理由などで参加しない人も多く、原告の数は減りました。うちは、子ども脱被ばく裁判とのかねあいもあって、第四次で加わりました。裁判費用は家族3人で16万円かかりました。

息子さんと復興住宅にて(今野さん提供)

◆子ども脱被ばく裁判──3月4日、山下俊一氏が証人尋問に立つ

── もう一つが、「子ども脱被ばく裁判」(福島県在住の小・中学生らが、年間1ミリシーベルトを下回る地域での教育を求めて、国や福島県、市町村を訴えている裁判)、こちらの裁判の原告団長になった経緯からお聞かせください。

今野 最初は別の人がやっていましたが、その方が病気になったりして、いったん団長が不在の期間が続きました。でもやっぱり団長を置かないといけないとなり、僕が抜擢されました。職業柄、放射能のことは詳しかったからね。裁判では、通学している学校周辺の土壌を調査した結果を証拠として提出しています。きちんと測ったものを資料として提出しなくてはならないからね。土壌は、私と仲間で採取したものを、京都で測定してもらいました。また、空間線量も仲間と測りました。

── こちらの裁判に3月4日、いよいよ「毎時100ミリシーベルトまで大丈夫」「ニコニコしている人に、放射能は来ない」発言の山下俊一さんが証人尋問に立ちますね?

今野 そうです。あともう一人、重要な人物が前回の裁判で証人として出廷しています。福島県立医科大学の鈴木眞一教授です。彼は、実際、多くの小児性甲状腺がんの子どもを手術していますからね。彼はずっと忙しいと逃げてました。いったんは出張裁判をするとなりましたが、最終的には裁判所が「出廷しなさい」と命令しました。

── 傍聴には福島の方々はどのくらい集まりますか? またどのような判決になると予想しますか?

今野 原告の人たちは、子供が小さいし、仕事があるから、そうそう皆さん、傍聴にはいけていません。子どもを迎えにいかなくてはならないから、裁判の途中で帰らなければならない人もいます。判決はどうなるかは、全くわかりません。ただ福島では生業訴訟で勝訴の判決がでていて、一部控訴した部分もありますが、それも先日仙台高裁で結審しています。一方、東電刑事訴訟など悪い判決もあるし、そうしたほかの裁判の結果もまた影響してくると思います。どうなるかはわかりませんね。


◎[参考動画]山下俊一トンデモ発言(2011/05/08)

3月4日、福島地裁前(Toshiko Okadaさん提供)

◆「復興五輪」──復興なんて無理ですよ、元に戻ることはないから

── 7月から始まる東京五輪についてお聞きします。先日、Jヴレッジで「オリンピック反対」のスタンディングが行われましたが?

今野 全国から50人くらい集まって、プラカードに日本語だけではなく英語、韓国語、フランス語などいろんな国の文字で思いを書いてアピールしました。国道6号線にずらりと並んで。車で行き来する人たちも見ますが、それが全国、全世界に報道されたのだから、影響は大きかったと思います。地元では、僕も何度も取材をうけた東京のTBS系列のテレビユー福島が夕方のニュースで報じていました。

── 福島のなかでは「東京五輪」への歓迎ムードはあるのでしょうか?

今野 俺の周辺では、浪江訴訟の仲間も津島訴訟の仲間のなかにも、全くない。聖火リレーだって、いいところばかりをちょこっと走って、それをつなげるだけ。それでは福島の現実は伝わりませんよ。復興した印象を持たせようと、廃墟のある場所や更地になった場所は、走りません。Jヴレッジや新しくできたハコモノの周辺等のいいとこどりです。

── 2月12日、「ひだんれん」で行った記者会見でも、いま行われている「復興」はうその復興と話されてましたが、では「本当の復興」はどうすれば成し遂げられるとお考えですか?

今野 復興なんて無理ですよ。元に戻ることはないから。復興とは、復旧が終わって再び興すことです。復旧とは、元に戻すことです。復旧が出来ていないのに復興することは出来ません。

◆原発で一緒に働いていた同級生の仲間が2人、50歳で亡くなった

── 確かにそうですね。今野さんの元の同僚の方はどうなさっていますか?

今野 事故後に原発の仕事辞めた同僚は、半分くらいいます。ほかにも事故を機に辞めた仲間はいっぱいいます。福一に戻った同僚からは発電所の現状や思っていることを「俺たちは言えないから代わりに言ってくれ」と言われています。 

じつは原発で一緒に働いていた同級生の仲間が2人、50歳で亡くなっています。死因はわからない。事故から3年後です。新聞のお悔み欄で見つけたり、人から聞いたりして知りました。2人が事故後に原発に入っていたかどうかもわかりません。表にでてこない話だから。あと同級生の女性も50歳で亡くなりました。津島地区の人ですが、やっぱり死因はわからない。病気になり闘病生活送ったとかではなく、みんな、急に亡くなっています。

ほかにも、以前浪江に住んでいた近所の人で、50歳代で亡くなった人が3人います。会社の先輩、一緒に仕事していた仲間、それと幼稚園の園長先生。この前、花をあげてきましたが、みなさん、50台後半、家族を残してね。

── 1人だけならまだしも立て続けに何人もって、おかしいですよね?

今野 絶対おかしいですよ。50歳台で突然亡くなること自体がそうそうないでしょう。ほかの人たちは話さないが、俺は話します。でもその原因が被ばくとは言っていない。ただ「こういう現実がありますよ」と話します。被ばくとの因果関係はわからないが、異常だと思うよと。考えられる要因としては、そこしかないだろうと話します。

── 残されたご家族も無念だし、「これはおかしい」と考えられるでしょうね?

今野 思っていても証明できないから、しょうがないですよね。医者だって言えないしね。死亡欄には「心不全」と書いてあるが、「その心不全に何故なったか?」と言われてもわからないわけです。僕ができるのは、とにかく事実を伝えることだけ、それしかありません。

── まだまだお聞きしたいことはありますが、今日はここまでといたします。長い時間どうもありがとうございました。(完)

(2020年2月29日/瀬戸大作さん提供)

▼尾崎美代子(おざき みよこ)

新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

『NO NUKES voice』Vol.23 総力特集〈3・11〉から9年 終わらない福島第一原発事故

『NO NUKES voice』Vol.23
紙の爆弾2020年4月号増刊
2020年3月11日発行
定価680円(本体618円+税)A5判/132ページ

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総力特集 〈3・11〉から9年 終わらない福島第一原発事故
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[グラビア]福島原発被災地・沈黙の重さ(飛田晋秀さん

[インタビュー]菅 直人さん(元内閣総理大臣)
東電福島第一原発事故から九年の今、伝えたいこと

[インタビュー]飛田晋秀さん(福島県三春町在住写真家)
汚染されているから帰れない それが「福島の現実」

[報告]横山茂彦さん(編集者・著述業)
元東電「炉心屋」木村俊雄さんが語る〈福島ドライアウト〉の真相

[報告]尾崎美代子さん(西成「集い処はな」店主)
車両整備士、猪狩忠昭さんの突然死から見えてくる
原発収束作業現場の〈尊厳なき過酷労働〉

[報告]伊達信夫さん(原発事故広域避難者団体役員)
《徹底検証》「原発事故避難」これまでと現在〈7〉
事故発生から九年を迎える今の、事故原発と避難者の状況

[報告]鈴木博喜さん(『民の声新聞』発行人)
奪われ、裏切られ、切り捨てられてきた原発事故被害者の九年間

[対談]四方田犬彦さん(比較文学者・映画史家)×板坂 剛さん(作家・舞踊家)
大衆のための反原発 ──
失われたカウンター・カルチャーをもとめて

[報告]本間 龍さん(著述家)
原発プロパガンダとは何か〈18〉
明らかになる福島リスコミの実態と功罪

[報告]山崎久隆さん(たんぽぽ舎副代表)
「特定重大事故等対処施設」とは何か

[報告]三上 治さん(「経産省前テントひろば」スタッフ)
停滞する運動を超えて行く方向は何処に

[報告]山田悦子さん(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈7〉記憶と忘却の功罪(後編)   

[報告]佐藤雅彦さん(翻訳家)
5G=第5世代の放射線被曝の脅威

[報告]渡辺寿子さん(核開発に反対する会/たんぽぽ舎ボランティア)
「日本核武装」計画 米中対立の水面下で進む〈危険な話〉

[読者投稿]大今 歩さん(農業・高校講師)
原発廃絶に「自然エネ発電」は必要か──吉原毅氏(原自連会長)に反論する  

[報告]再稼働阻止全国ネットワーク
老朽原発を止めよう! 関西電力の原発と東海第二原発・他
「特重」のない原発を即時止めよう! 止めさせよう!

《関電包囲》木原壯林さん(若狭の原発を考える会)
「5・17老朽原発うごかすな!大集会inおおさか」に総結集し、
老朽原発廃炉を勝ち取り、原発のない、人の命と尊厳が大切にされる社会を実現しよう!

《規制委》木村雅英さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
1・24院内ヒアリング集会が示す原子力規制委員会の再稼働推進
女川審査は回答拒否、特重は矛盾だらけ、新検査制度で定期点検期間短縮?

《全国》柳田 真さん(たんぽぽ舎・再稼働阻止全国ネットワーク)
原発の現局面と私たちの課題・方向

《北海道・泊原発》佐藤英行さん(岩内原発問題研究会)
北海道電力泊原子力発電所はトラブル続き

《東北電力・女川原発》笹氣詳子さん(みやぎ脱原発・風の会)
復興に原発はいらない、真の豊かさを求めて
被災した女川原発の再稼働を許さない、宮城の動き

《東電・柏崎刈羽原発》矢部忠夫さん(柏崎刈羽原発反対地元三団体共同代表)
柏崎刈羽原発再稼働は阻止できる

《関電・高浜原発》青山晴江さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
関西のリレーデモに参加して

《四国電力・伊方原発》名出真一さん(伊方から原発をなくす会)
三月二〇日伊方町伊方原発動かすな!現地集会 
レッドウイングパークからデモ行進。その後を行います。圧倒的結集をお願いいたします。

《九州電力・川内原発》けしば誠一さん(反原発自治体議員・市民連盟事務局次長/杉並区議会議員)
原発マネー不正追及、三月~五月川内原発・八月~一〇月高浜原発が停止
二〇二〇年は原発停止→老朽原発廃炉に向かう契機に!

《北陸電力・志賀原発》藤岡彰弘さん(命のネットワーク)
混迷続く「廃炉への道」 志賀原発を巡る近況報告

《読書案内》天野惠一さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
『オリンピックの終わりの始まり』(谷口源太郎・コモンズ)

私たちは唯一の脱原発雑誌『NO NUKES voice』を応援しています!

《NO NUKES VOICE》福島県浪江町の自宅が3月25日にも鹿島建設に解体される今野寿美雄さんに聞いた福島第一原発事故からの9年間〈2〉 尾崎美代子

子ども脱被ばく裁判原告団長の今野寿美雄(こんの・すみお)さんは、9年前の震災と原発事故後、当時住んでいた福島県浪江町から妻と息子とともに避難を続け、現在は福島市内の復興住宅で生活を送っている。2月初め、Facebookで今野さんが「解体のため、今春、鹿島建設に玄関のカギを渡さなければなりません。環境省から引き渡しを迫られています。昨年、11月末に現地立ち合いをしたところ、令和2年(2020年)3月25日が工期だといわれましたが、そんな話は寝耳に水でした。今まで工期について一切、説明もなければ、連絡もありませんでした」と投稿していた。今野さんに何が起きたのか、お話を伺った。全3回に分けて報告する。(聞き手・構成=尾崎美代子)(聞き手・構成=尾崎美代子)

◆あの時の福島第一原発と女川原発の違い

── 3・11のとき、今野さんは宮城県の女川原発で被災したわけですが、福一の事態は予測できましたか?

今野 女川原発が津波に襲われた時点では、福島第一原発までが津波に襲われているとは知らなかった。自分たちの置かれた状況が悲惨すぎて、そこまで頭がまわらなかった。しばらくしてBSテレビを見たら、「電源喪失しました」「水位が低下しています」と言っているので、「これはやばい。もう終わりだ。爆発するな」と思っていたら、翌日1号機が爆発。そのとき、私は女川の職員に言ったんですよ。「1号機は一番小さいから最初に爆発したが、これは2号機も3号機も続けて爆発するからね」と。1号機は出力が小さい分、原子炉も格納容器も容量が小さいから、圧力が上がり易い。

── 実際、今野さんが福一の現場で働いていたから、予測できたのですね?

今野 そうなりますね。実際、そういう教育を受けてきた訳ですから。どうしたら、どういうトラブルがおきるかと想定して、それに対する設備をメンテナンスしていたわけですから。原発は、実はすごい巨大なシステムなんですね。その全体を判断できる人間はそういないです。当直長でさえ全てわかっている人はいないからね。

── 女川原発も相当ひどかったのですね。事故直後の周囲の空間線量が10μSv/hにまで上がり、外出禁止となり、中に今野さんら3000人近くの作業員が残されたということですが?

今野 ええ、女川も津波に襲われたからね。でもポンプが一台助かったのと、外部電源は喪失したが非常用電源で発電できたから、そこが福島第一原発と違うわけですよ。女川は非常用電源で4~5日間もちこたえた。ただ、津波で周囲の道路がズタズタに壊されたので、どこへもいけない状態が続いていたので、原発内にいました。食事はもともと売店にあった食料と、東北電力と関連会社が備蓄している食料を、ヘリで運んでもらい、地元の人たちに食べてもらったりしていました。僕たちはカップヌードルでもミニサイズで我慢して、デッカイのは地元の人に食べて貰いました。牡鹿半島に住む地元住民です。水は発電所に原水タンクがあったのでろ過して使用でき、ペットボトルの飲料水は地元の人達に優先して廻しました。

放射線管理手帳(今野さん提供)

◆事故後5日目、女川原発から福島へ戻る旅

── ご家族と連絡取れなくて、心配でしたね?

今野 当時、幼稚園の息子を妻が、朝、実家のじいちゃん、ばあちゃんの家に預けて仕事に出ていました。息子はそこからからバスで幼稚園に通っていた。津波は川を上ってくるが、幼稚園のバスのルートが川の近くだったので、「もしかしたらバスが襲われた可能性があるな」と不安でした。家族は家族で、私が津波に呑まれて死んでるんではないかと思っていたそうです。

── 5日目にようやく、女川原発から脱出したというこですが?

今野 そうです。3月15日、我慢の限界でした。「自己責任で構わない。家族のもとに行かせてくれ」と発電所長に許可を貰い、福島から一緒に行った仲間6人と東京から出張で来ていた仲間1人の8人で1台の車で出ました。

浪江の仲間が自分を入れて3人、原町1人、いわきから3人。とにかく浜通りは通れないから、行き先がない流浪の旅になった。いわきの人は郡山まで迎えにきてもらい帰り、俺たちはしょうがないので、新幹線で移動することになりました。そのころにはもう、家族と連絡がとれ、茨城県の古河の妻の親戚宅にいることがわかっていた。

ただ新幹線は那須塩原までしか走ってないので、そこまでどうやっていくかとなり、郡山駅からタクシーを貸し切り、2万5000円払って行きました。背に腹は代えられませんからね。途中乗り継いで、古河駅に妻のおじさんと息子が迎えに来てました。そこで、朝日新聞記者の青木美希さんが『地図から消される街』に書いてくれましたが、息子が「パパ生きてた! パパ足ついてる!」と言った感動の再会がありました。今でもはっきり覚えています。思い出すと涙が出てしまいます。

それから親せき宅に約10日いて、そこから避難所に行き、4月11日から猪苗代の旅館に移り、8月31日から福島市の飯坂温泉の借り上げ住宅に移りました。そこから4年たって、いまの福島市飯坂温泉の復興住宅に移りました。

── 事故後、浪江の家を見にいったのはいつ頃でしたか?

今野 その年の7月に皆でマイクロバスで行きました。防護服着て。放管(放射線管理員)の人も一緒で、線量計ったらとんでもない数値で「ヤバイ!ヤバイ! とっとと帰ろう」となりました。20~30分しか滞在しなかった。めちゃくちゃ線量が高かった。10μSv/h位ありました。植え込みや側溝の上は20~30μSv/h位ありました。通帳とか必要なものを持ち出しただけ。

3月15日女川原発を脱出し、家族のいる茨城県古賀市に逃げた時の新幹線の切符(今野さん提供)

◆柏崎刈羽原発の定期検査の監督をやってくれと言われたが、当時はそれどころではなかった

── 今野さんに、東電から「現場に戻れ」という指示はなかったのですか?

今野 逆ですね。現地のメーカー指導員は、メーカーから「一線から退け。被ばくして使えなくなってしまうから」と退去命令が出たそうです。当時はがれき撤去などの作業などだから、失礼な言い方ですが、誰にでもできる。僕たちがそんなことで被ばくして病気になったり、死んでしまったら、あとあと原発の技術面での作業に支障がおきて困ると、そうメーカー側は考えたのでしょう。

そのあと新潟県の柏崎原発の定期検査があるから監督やってくれと言われましたが、当時はそれどころではなかった。避難所の自治会長を頼まれたので、毎日避難者の面倒みたり、役場と連絡とったり、支援物資を仕分けして皆さんに配ったり、忙しくて、仕事したり、遊んでいる暇もありませんでした。

── 皆さん、体調などはどうでしたか?

今野 息子は、鼻血は出なかったが、風邪が非常に治りにくくなっていました。治ったと思ったら、またひくみたいな状態が続きました。免疫力が低下したのでしょうね。鼻血は私がよく出たね、井戸川さんと同じ。

── 鼻血騒動のバッシングは酷かったですね? 井戸川さん自身が「出た」というのに、嘘だといわれる?

今野 「風評被害だ」といわれましたね。俺だけじゃなくて、「私も」「俺も」という人が大勢いるのに。俺も最初は「血圧高いのかな?」と思った。それまで鼻血なんか、一切出たことないのに。でも血圧計ったら高くはない。原因は、避難所で放射性物質を鼻で吸い込んでいたからですよ。(つづく)

(2020年2月29日/瀬戸大作さん提供)

▼尾崎美代子(おざき みよこ)

新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

『NO NUKES voice』Vol.23 総力特集〈3・11〉から9年 終わらない福島第一原発事故

『NO NUKES voice』Vol.23
紙の爆弾2020年4月号増刊
2020年3月11日発行
定価680円(本体618円+税)A5判/132ページ

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総力特集 〈3・11〉から9年 終わらない福島第一原発事故
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[グラビア]福島原発被災地・沈黙の重さ(飛田晋秀さん

[インタビュー]菅 直人さん(元内閣総理大臣)
東電福島第一原発事故から九年の今、伝えたいこと

[インタビュー]飛田晋秀さん(福島県三春町在住写真家)
汚染されているから帰れない それが「福島の現実」

[報告]横山茂彦さん(編集者・著述業)
元東電「炉心屋」木村俊雄さんが語る〈福島ドライアウト〉の真相

[報告]尾崎美代子さん(西成「集い処はな」店主)
車両整備士、猪狩忠昭さんの突然死から見えてくる
原発収束作業現場の〈尊厳なき過酷労働〉

[報告]伊達信夫さん(原発事故広域避難者団体役員)
《徹底検証》「原発事故避難」これまでと現在〈7〉
事故発生から九年を迎える今の、事故原発と避難者の状況

[報告]鈴木博喜さん(『民の声新聞』発行人)
奪われ、裏切られ、切り捨てられてきた原発事故被害者の九年間

[対談]四方田犬彦さん(比較文学者・映画史家)×板坂 剛さん(作家・舞踊家)
大衆のための反原発 ──
失われたカウンター・カルチャーをもとめて

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原発プロパガンダとは何か〈18〉
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[報告]三上 治さん(「経産省前テントひろば」スタッフ)
停滞する運動を超えて行く方向は何処に

[報告]山田悦子さん(甲山事件冤罪被害者)
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[報告]佐藤雅彦さん(翻訳家)
5G=第5世代の放射線被曝の脅威

[報告]渡辺寿子さん(核開発に反対する会/たんぽぽ舎ボランティア)
「日本核武装」計画 米中対立の水面下で進む〈危険な話〉

[読者投稿]大今 歩さん(農業・高校講師)
原発廃絶に「自然エネ発電」は必要か──吉原毅氏(原自連会長)に反論する  

[報告]再稼働阻止全国ネットワーク
老朽原発を止めよう! 関西電力の原発と東海第二原発・他
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《関電包囲》木原壯林さん(若狭の原発を考える会)
「5・17老朽原発うごかすな!大集会inおおさか」に総結集し、
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三月二〇日伊方町伊方原発動かすな!現地集会 
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今野寿美雄さん。浪江町にある自宅前にて(2018年10月22日/Eiji Etouさん提供)

◆除染で空間線量は下がっているが、土壌汚染がハンパじゃない

今野寿美雄さん。浪江町にある自宅前にて(2020年2月29日/瀬戸大作さん提供)

── 今野さんは、避難指示解除されても、浪江の家には帰らない、家を解体するということですが、戻らない理由の一番は、まだ帰れるような場所ではないということですね?

今野 そうです。みんな、ちょっと勘違いしていますが、除染で空間線量は下がっているが、土壌汚染がハンパじゃない。管理区域の値をとうに超えています。うちのところで、管理区域の設定基準40,000Bq/平米に対し、2500,000Bq/平米もあるんです。

── 除染してそれですよね?

今野 除染と言っても、表面の土を3~5センチ剥いだだけですよ。その下の土に染みている放射性物質が出てくるわけですよ。雨で上の土が流れるわけですから。そして周りからも放射性物質が飛んできて、再汚染しているわけですよ。しかもそれが不溶性のホットパーティクルという、身体内部に取り込んだら、排出されないというやっかいなものだからです。

── それで今野さんは、もう住めないから、家を解体しようと決めたわけですね?

今野 そうです。環境省が、去年の3月までに解体の申請をしろということで、私はぎりぎり3月に申請を出しました。ところが、その後解体の工期がいつかなどの連絡や通知がずっとなかった。

それがいきなり「急ぐので現地立ち合いをして下さい。8月頃できませんか?」と連絡が来た。その時は、ちょうど僕が忙しく、断っていました。すると「なんとか年内の11月位に立ち会ってもらえないか?」と連絡がきて、11月29日に立ち会いました。そこで初めて「3月いっぱいまでに解体しないといけないので、1月いっぱいまでに(家の中を)片づけてください」といわれ、そのあと2回通知がきました。1回目は簡易書留、2回目は特定郵便で。

「連絡よこさないと解体しませんよ」と書いてあったので、環境省に電話して「こっちもなるべく早くするが、どうせ工期は間にあわないだろう」といいました。だって11月の時点で、解体物件が1000件近く残っているというのですから。物理的にそれを全部解体できる訳ないじゃないですか? 解体業者もそんなにいると考えられないし。彼らも分かってはいるが、お役所仕事だから、年度内にやらないといけないという。「表だってはいえないが、あとは個別に相談させてもらうしかない」と言ってました。

手続きをすませてもらうしかないといわれました。こっちが日にちを伸ばしたこともあるが、11月29日に初めて立ち会ったとき、突然3月25日までに解体するといわれたのですよ。翌日26日から福島で聖火リレーが始まるからです。それに向けた計画だったのでしょうが、実際はそんなに進まない実情がある。

私は、申請は出してあるので、それ以降に解体となっても、あとは環境省の問題で、解体費用をこっちが支払うことにはなりませんが、彼らはそうやって実質、脅しているわけですよ。「片づけを早くやらないと、無償で解体の対象から外すよ」と。

◆原発の弱いところはよくわかっていた……

── 本当に、五輪ありきの解体計画ですね。それで慌てて家の片付を始めたわけですよね。避難先の福島市から何度も通って……。引っ越し代、ガソリン代なども自分持ちだと?

今野 それが頭にきているんですよ。ふざけてるね。今住んでいる復興住宅は、浪江の家の半分位だから、元の家の家具もそうそう運べない。「もったいないな」と思っていたら、浪江でカラオケ屋を始める方が、従業員用の宿舎で使いたいというので、「もったいないから引き取って」といいました。そのママさんは、昔、私の友達がやっていた店を居抜きで借りて店を始めた人です。その友達夫婦ですが、夫婦共に事故後に癌と白血病で亡くなりました。当時中学2年生の娘を残してね。だからこれも何かの縁だなと思ってね。

── 息子さんも8年11ケ月ぶり、事故後初めて実家に戻ったのですよね?

今野 息子はもう浪江の記憶が薄くなっていました。息子は5歳で避難して、今年6月で15歳ですから。事故後の生活のほうがダブルスコアですからね。

── 家を手放すと決めたとき、どんな思いでしたか?

今野 いや、切ないですよ。女房も「なんでここに住めないの。捨てるの?」と悔しがってました。家は建ててから事故当時で9年経っていましたから、今年で18年です。それまではその近くの団地やアパートにいましたが、ある人に土地を貸してもらえることになり家を建てようと決めました。

── その後いろんな人たちが集まってきて、そこで今野さんはリーダー的な存在だったとお聞きしました?

今野 最初に家を建てたから、隣組のなかで一番古いからね。そこに浪江の次男坊や3男坊の人たち、二本松から来た人もいました。最初は4軒で隣組つくって、そのあと道路の向こう側に7軒出来たので、11軒で隣組をつくりました。

── そこに新たなコミュニテイーが出来ていたのに……。皆さん、もうばらばらですか?

今野 若い人が多いから子供もいっぱいいて。そんな隣組でした。親たちとは、最初の年の「一時帰宅」のとき会いました。その後何回か会う人はいますが、あとはほとんど会えていません。あと同級生が一時帰宅で帰ったりすると会うくらい。あとはフェイスブックでやりとりしたり。福島やいわき、あとは県外に避難した人たち。子供がいる人の多くは神奈川、千葉など県外に避難しています。引っ越し先がわからない人もいます(笑)

浪江町にある自宅の現況(今野さん提供)
浪江町にある自宅の現況(今野さん提供)

── 寂しいですね。

今野 そうだね。子どもたちの名前なんか、もう忘れてしまいました。子どもらの小さい頃の写真をみて「なつかしいな」と思うんだけど……。9年だもんね。

── 今野さんは、原発の自動制御装置のメンテナンスの仕事などに就いていたそうですが。働いていたときは、福一でこうした事故が予測できましたか?

今野 事故になったら大変だとは思っていたね。原発の弱いところはよくわかっていたんで。事故が起きないようにと祈るだけでしたね。大きな津波が来ないかとか、ミサイル撃ち込まれないようにとかね。日本の原発は、以前はテロ対策とか本当にやってなくて、9・11後に、ようやく入口に機動隊が配備されるようになった。それまでは民間の警備員が就くだけだった。ほかの国は軍隊が守っているのに。日本はいかにいい加減かということですよ。(つづく)

▼尾崎美代子(おざき みよこ)

新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

『NO NUKES voice』Vol.23 総力特集〈3・11〉から9年 終わらない福島第一原発事故

『NO NUKES voice』Vol.23
紙の爆弾2020年4月号増刊
2020年3月11日発行
定価680円(本体618円+税)A5判/132ページ

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総力特集 〈3・11〉から9年 終わらない福島第一原発事故
————————————————————————————————–

[グラビア]福島原発被災地・沈黙の重さ(飛田晋秀さん

[インタビュー]菅 直人さん(元内閣総理大臣)
東電福島第一原発事故から九年の今、伝えたいこと

[インタビュー]飛田晋秀さん(福島県三春町在住写真家)
汚染されているから帰れない それが「福島の現実」

[報告]横山茂彦さん(編集者・著述業)
元東電「炉心屋」木村俊雄さんが語る〈福島ドライアウト〉の真相

[報告]尾崎美代子さん(西成「集い処はな」店主)
車両整備士、猪狩忠昭さんの突然死から見えてくる
原発収束作業現場の〈尊厳なき過酷労働〉

[報告]伊達信夫さん(原発事故広域避難者団体役員)
《徹底検証》「原発事故避難」これまでと現在〈7〉
事故発生から九年を迎える今の、事故原発と避難者の状況

[報告]鈴木博喜さん(『民の声新聞』発行人)
奪われ、裏切られ、切り捨てられてきた原発事故被害者の九年間

[対談]四方田犬彦さん(比較文学者・映画史家)×板坂 剛さん(作家・舞踊家)
大衆のための反原発 ──
失われたカウンター・カルチャーをもとめて

[報告]本間 龍さん(著述家)
原発プロパガンダとは何か〈18〉
明らかになる福島リスコミの実態と功罪

[報告]山崎久隆さん(たんぽぽ舎副代表)
「特定重大事故等対処施設」とは何か

[報告]三上 治さん(「経産省前テントひろば」スタッフ)
停滞する運動を超えて行く方向は何処に

[報告]山田悦子さん(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈7〉記憶と忘却の功罪(後編)   

[報告]佐藤雅彦さん(翻訳家)
5G=第5世代の放射線被曝の脅威

[報告]渡辺寿子さん(核開発に反対する会/たんぽぽ舎ボランティア)
「日本核武装」計画 米中対立の水面下で進む〈危険な話〉

[読者投稿]大今 歩さん(農業・高校講師)
原発廃絶に「自然エネ発電」は必要か──吉原毅氏(原自連会長)に反論する  

[報告]再稼働阻止全国ネットワーク
老朽原発を止めよう! 関西電力の原発と東海第二原発・他
「特重」のない原発を即時止めよう! 止めさせよう!

《関電包囲》木原壯林さん(若狭の原発を考える会)
「5・17老朽原発うごかすな!大集会inおおさか」に総結集し、
老朽原発廃炉を勝ち取り、原発のない、人の命と尊厳が大切にされる社会を実現しよう!

《規制委》木村雅英さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
1・24院内ヒアリング集会が示す原子力規制委員会の再稼働推進
女川審査は回答拒否、特重は矛盾だらけ、新検査制度で定期点検期間短縮?

《全国》柳田 真さん(たんぽぽ舎・再稼働阻止全国ネットワーク)
原発の現局面と私たちの課題・方向

《北海道・泊原発》佐藤英行さん(岩内原発問題研究会)
北海道電力泊原子力発電所はトラブル続き

《東北電力・女川原発》笹氣詳子さん(みやぎ脱原発・風の会)
復興に原発はいらない、真の豊かさを求めて
被災した女川原発の再稼働を許さない、宮城の動き

《東電・柏崎刈羽原発》矢部忠夫さん(柏崎刈羽原発反対地元三団体共同代表)
柏崎刈羽原発再稼働は阻止できる

《関電・高浜原発》青山晴江さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
関西のリレーデモに参加して

《四国電力・伊方原発》名出真一さん(伊方から原発をなくす会)
三月二〇日伊方町伊方原発動かすな!現地集会 
レッドウイングパークからデモ行進。その後を行います。圧倒的結集をお願いいたします。

《九州電力・川内原発》けしば誠一さん(反原発自治体議員・市民連盟事務局次長/杉並区議会議員)
原発マネー不正追及、三月~五月川内原発・八月~一〇月高浜原発が停止
二〇二〇年は原発停止→老朽原発廃炉に向かう契機に!

《北陸電力・志賀原発》藤岡彰弘さん(命のネットワーク)
混迷続く「廃炉への道」 志賀原発を巡る近況報告

《読書案内》天野惠一さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
『オリンピックの終わりの始まり』(谷口源太郎・コモンズ)

私たちは唯一の脱原発雑誌『NO NUKES voice』を応援しています!

《NO NUKES VOICE》山下俊一=放射線健康リスク管理アドバイザー証人尋問 9年前の〝安全安心講演〟の矛盾とウソが明らかに〈後編〉民の声新聞 鈴木博喜

ミネラルウォーターのペットボトルを手に福島地裁の法廷に座った山下俊一氏。福島県の代理人弁護士による主尋問では自身の正当性を雄弁に語っていたが、原発事故直後に福島県内各地で行った講演がいかに信用性に欠けるかを厳しく問い詰められると、明らかに声の勢いが落ちた。元々、聞き取りにくい声だが、さらに聞き取りにくくなった。

「1mSvの放射線を浴びると、皆様方の細胞の遺伝子1本に傷がつく」という発言に関しては「例えとして話をしました」と答えた山下氏。一方で「実効線量1mSvの放射線を浴びると、少なくとも細胞ひとつあたり1本の遺伝子に傷がつく」とも。原告代理人の井戸謙一弁護士が「そうであれば、人間の身体は37兆の細胞で出来ているから少なくとも37兆の傷が出来るのではないか」と重ねて質すと、山下氏は「はい」と認めた。

福島地裁での証人尋問を行った山下俊一氏。言い訳と、今さらながらの形ばかりの〝お詫び〟に傍聴席からは怒りの声があがった

あの時、子や孫の被曝リスクを心配した大人たちは、専門家と称する山下氏から「1mSvの放射線を浴びれば1本の遺伝子に傷がつく」と説明された。そう言われれば、予備知識の無い人々は「実効線量1mSvの被曝では1本の遺伝子しか傷つかないのであれば心配無いな」と受け止めてもやむを得ない。そのように理解して〝安心〟して帰宅した人もいただろう。

山下氏は「私はそう説明したつもりはありません」と否定したが、井戸弁護士が「37兆分の1の過小評価を招いた事になりますね」と尋ねると「はい」とだけ答えた。当時の自身の講演が過小評価を招いた事を消極的ながら認めたのだ。今さら認めても遅いのだが。

そもそも、100mSv以下の被曝であっても決してリスクがゼロになるわけでは無い。しかし、二本松市など県内各地で行った講演会で、山下氏は「リスクがあるとは思わない」と断定調で話している。それもまた、聴いていた県民の過少評価を招き、本来講じられるべき防護策を怠った一因になったのではないか。

崔信義弁護士の問いに、山下氏は「放射線防護の考え方と実際の健康リスクのギャップを説明するのは大変難しい。その中で当時、誰が考えても年間100mSvを浴びるとは考えられなかったので、リスクは無いと話をした」と答えた。

さらに突っ込まれると、今度は「詳細について説明するゆとりが無かった」と逃げた。国の指定代理人の〝フォロー尋問〟でも、山下氏は「スライドなどを準備する時間が無かった」と答えている。散々、誤解を招く表現をしておきながら、最後の最後で「時間やゆとりが無かった」と逃げられては、当時の講演を信じた人々はどうすれば良いのか。閉廷後に原告の1人は「立つ瀬が無い」と表現したが、まさにその通りだろう。

過小評価を招いた発言は他にもあった。

山下氏は当時、空間線量が20μSv/hの場合24時間滞在すると480μSv/hだが建物の中に居れば被曝量は10分の1に減る、体内に入るのはさらにその10分の1(つまり空間線量の100分の1)という趣旨の発言をしている。しかし、井戸弁護士は「10分の1はコンクリート建物の場合であって、木造家屋は10分の4だ。多くの県民が木造家屋に住んでいる福島で10分の1を持ち出すのは不適切ではないか」と質した。

これに対し、山下氏は「一般論として申し上げた」と反論。2011年3月20日の記者会見では安定ヨウ素剤の配布に関する発言の中で「1カ月続いた場合でも体内に取り込まれる量は10分の1」と述べているが、山下氏は「そのように私が発言したのか記憶があやふや」。井戸弁護士が「そもそも、空気中の放射性ヨウ素の体内への取り込み量を空間線量率から算出する事は原理的に不可能ではないか。空気1立方メートルあたりのヨウ素131の濃度データが無いと不可能なはず」と畳み掛けると「はい。不可能です」と認めた上で、なぜ、そのような発言をしたのかについては「ですから、記憶にございません」と〝逆ギレ〟した。「10分の1」の根拠について、山下氏は後日、福島県の代理人を通じて論文を証拠として提出する事になった。

あの頃の講演会とは違い、歯切れが悪かった山下氏。「語尾が聞き取りにくい」と何度か原告代理人弁護士から注意されたが、傍聴席の最後列まではっきりと聞き取れたのは「小児甲状腺ガンは『多発』ではありません」というくだりくらい。講演会での「ニコニコ、クヨクヨ発言」に関して「不快な想いをさせた方には誠に申し訳ない」と〝お詫び〟を口にした際も、傍聴席からは「よく聞こえない」という声があがったほどだった。これが9年前、福島県民に「安全・安心」を説いて廻った〝専門家〟の姿だった。

大人たちの願いは、子どもたちを被曝リスクから守る事。しかし、山下氏は「安全安心」を強調するばかりで放射線防護を積極的に伝えなかった

開廷前、福島地裁前の歩道で開かれた集会は、山下氏に対する怒りで満ちていた。
「ひだんれん」共同代表の武藤類子さんは「山下氏は当時、テレビにもラジオにも出演しました。講演内容は行政の広報紙にも載りました。彼の発言がどれだけ私たちを翻弄したか。多くの人が『被曝の専門家が言うのだから大丈夫だ』と警戒を解いていったのですよ。それを思い返すと本当に許し難いです。私たちの刑事訴訟では残念ながら山下氏は被告人にはなりませんでしたが、彼の言動は本当に罪深いのです」と話した。

福島県民にとっては、枝野幸男官房長官(当時)の「ただちに人体に影響無い」発言と同じくらいインパクトがあった講演会だったのだ。「子どもを屋外で遊ばせても問題無い」、「マスクなど必要無い」と力強く語られ、どれだけの大人が安心して家路についたか。その人物が、9年経って「被曝から守られるべき対象者は子ども、妊産婦だった」とは呆れるばかり。原告代理人弁護士の1人は「二重人格だ」と語ったほどだ。

浪江町津島地区から関西に避難している菅野みずえさんは福島の方言で怒りを口にした。

浪江町津島から関西に避難している菅野みずえさんも傍聴に駆け付けた

「あの時、皆で笑って記念写真を撮りました。そして、3年も経ったら甲状腺ガンになりました。あれは何だったんだべはぁと思います。今日は彼が何を言うかしっかりと見届けます。面の皮が厚い彼がどう考えてものを喋るのか。私たちは何も出来ないけれど、じっと見て、めげる事無く闘い続けて行きたいと思います。ごった踏みつけにされて黙ってるわけにはもうはぁいかねえと思います。もう、ごせっぱらやける。一人一人が『ごせっぱらやける』想いを抱えて、めげずに負けずに頑張って行きましょう」

閉廷後の報告集会で、原告の女性は「科学者というより政治家っぽい感じがした」と振り返った。

住民を「被曝させまい」ではなく「避難させまい」と奔走した山下氏の言動は確かに、腹黒い政治家そのものだった。それが浮き彫りになった証人尋問だった。(了)

ついに山下氏の証人尋問を実現させた「子ども脱被ばく裁判」。次回7月の期日で結審する予定だ

◎[関連記事]鈴木博喜-《NO NUKES VOICE》山下俊一=福島県放射線健康リスク管理アドバイザー証人尋問 9年前の〝安全安心講演〟の矛盾とウソが明らかに 〈前編〉 〈後編〉

▼鈴木博喜(すずき ひろき)

神奈川県横須賀市生まれ、48歳。地方紙記者を経て、2011年より「民の声新聞」発行人。高速バスで福島県中通りに通いながら、原発事故に伴う被曝問題を中心に避難者訴訟や避難者支援問題、〝復興五輪〟、台風19号水害などの取材を続けている。記事は http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/ で無料で読めます。氏名などの登録は不要。取材費の応援(カンパ)は大歓迎です。

『NO NUKES voice』Vol.23 総力特集〈3・11〉から9年 終わらない福島第一原発事故

『NO NUKES voice』Vol.23
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定価680円(本体618円+税)A5判/132ページ

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総力特集 〈3・11〉から9年 終わらない福島第一原発事故
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東電福島第一原発事故から九年の今、伝えたいこと

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汚染されているから帰れない それが「福島の現実」

[報告]横山茂彦さん(編集者・著述業)
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事故発生から九年を迎える今の、事故原発と避難者の状況

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奪われ、裏切られ、切り捨てられてきた原発事故被害者の九年間

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失われたカウンター・カルチャーをもとめて

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[報告]佐藤雅彦さん(翻訳家)
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「日本核武装」計画 米中対立の水面下で進む〈危険な話〉

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二〇二〇年は原発停止→老朽原発廃炉に向かう契機に!

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混迷続く「廃炉への道」 志賀原発を巡る近況報告

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《NO NUKES VOICE》山下俊一=放射線健康リスク管理アドバイザー証人尋問 9年前の〝安全安心講演〟の矛盾とウソが明らかに〈前編〉民の声新聞 鈴木博喜

3月4日の福島地裁。「脱被ばく子ども裁判」の証人尋問に臨んだ福島県放射線健康リスク管理アドバイザー・山下俊一氏(長崎大学学長特別補佐、福島県立医科大学副学長)の発言は、9年前の自身の講演での発言を正当化し、一部誤りを渋々ながら認めて〝謝罪〟し、改めて原告や支援者たちの怒りを買った。

「言葉足らず舌足らずが誤解を招いたのであれば本当に申し訳ない」などの発言は5日付の「民の声新聞」(リンク)で既に報じたが、そこでは書き切れなかった山下証言を紹介したい。

福島地裁での証人尋問を行った山下俊一氏。言い訳と、今さらながらの形ばかりの〝お詫び〟に傍聴席からは怒りの声があがった

「放射線は人体にとって本質的には有害です。ただし、放射線を利用する事による便益が非常に大きいために、常にこの分野ではリスクとベネフィットを防護の観点から考えてきました」

山下氏の言う「便益」の1つが発電だ。「福島県放射線健康リスク管理アドバイザーへの就任要請は覚悟して引き受けた」と語った山下氏だが、その「覚悟」とは子や孫の被曝を心配する人々に一見、寄り添いつつ、一方で放射線利用の道を閉ざさないという重大な任務に対する覚悟では無かっただろうか。山下氏の法廷での発言を改めて振り返ると、二面性が浮き彫りになってくる。

例えば2011年3月21日に福島市で行われた講演会。「このまま福島に居て良いのか。実家とか県外に行った方が良いのか」という質問に対して「心配があれば、より遠くに避難した方が良いと思う」と答えている。福島県の代理人弁護士による主尋問で「被曝から守られるべき対象者は子ども、妊産婦です。そういう意味で話しをしました」と振り返ったが、しかし一方で、同年5月3日に二本松市で講演会を開いたが「この時点で既に緊急時は脱したと考えていた」という。

5月20日、「放射線を正しく理解してもらい、風評被害をなくす」事を目的に都内で開かれた「東日本大震災復興支援第1回シンポジウム」(長崎・ヒバクシャ医療国際協力会主催)。ここで山下氏は「チェルノブイリ原発事故の教訓から福島原発事故の健康影響を考える」と題して講演。次のように発言していた。

「現場に入り、そしてこの人たちに安心、安全をいかに説くかということ、安全ということはありません。しかし、安心をいかにしてパニックを抑えるかということが当初の目的でありました」

「福島県内での講演では出来るだけ不安に寄り添う、不安を増長させないという事を意識しました」と言いながら「この地域では誰も年100mSvを超える事は無いと確信していました」。山下氏の〝登場〟が福島の人々を「安心」させるためだったとすれば、「放射線の影響は、実はニコニコ笑っている人には来ません。クヨクヨしている人に来ます。これは明確な動物実験で分かっています」という噴飯ものの発言をしたのもうなずける。

主尋問の最後に「私自身の発言の中で当時、科学的根拠や妥当性を欠いたものがあったとは思いません」と言い切ったが、県民の不安を「大げさ」と捉えず、少しでも被曝リスクから遠ざかる方法を伝えるべきではなかったか。あの講演のどこが県民に寄り添っていて、妥当性のあるものだったのか。

原告代理人の井戸謙一弁護士が当時の「山下講演」や書籍での表現の矛盾点を鋭く指摘した場面を再現してみよう。

井戸「これは『正しく怖がる放射能の話』という書籍(長崎文献社)ですが、証人が監修されており、内容については責任を持つという事でよろしいですか?」

山下「はい」

井戸「61ページの一番下。『1年間で100mSvになるような場合にはどうなるかというと、その都度出来たDNAの傷は元通りに直されていきますので合計で100mSvになったとしても修復出来ない傷は全く残りません』と書いてありますね?」

山下「はい」

井戸「『全く残らない』という事は癌になる恐れは全く無いと理解して良いですか?」

山下「積算線量1mSvの場合はそうです。1を100回という意味です」

井戸「先ほど証人は、『100mSv以下の場合は発癌リスクは良く分かっていない』と答えたのではないですか?」

山下「疫学的には証明されていないという意味です」

井戸「他の方法では証明されているのですか?」

山下「傷を見る角度によって変わる事はあります」

井戸「傷が全て100%修復されるのであれば、癌に発展する可能性は無いですよね?」

山下「はい」

井戸「したがって、先ほど証人が『証明されていない』と証言した事と書籍の記載内容は矛盾するのではないですか?」

山下「厳格に言えば、そういう矛盾点はあるかと思います」

後に〝ミスター100mSv〟と呼ばれるようになった山下氏は、福島県内での講演でも「100mSv」を盛んに口にしていた。

井戸「1年間に100mSvでは癌のリスクは無いという趣旨の事を言っていますが、これは毎年100mSvの被曝を10年20年続けた場合でも癌のリスクは無いという趣旨でしょうか?」

山下「いえ、そういう意味ではありません」

井戸「すると、たまたま1年間だけそういう年があっても、という趣旨ですか?」

山下「最高1年間で100mSvという意味でしか使っていません」

井戸「したがって、その前後は被曝をしないという前提での話ですか?」

山下「基本的にはそういう風に理解しています」

井戸「あなたは福島県の人たちに話をする時にそういう説明をしないで『1年間に100mSv以下であれば健康リスクは無い』と説明したのではないですか?」

山下「はい。1年目はそうです」

井戸「そうすると聴いた側は、これは毎年100mSvずつ被曝していっても安心して良いんだ、と受け止めたのではないですか?」

山下「分かりません」

井戸「そういう可能性は十分にありますね?」

山下「はい」

全国から多くの人が駆け付けた「子ども脱被ばく裁判」の口頭弁論。山下氏の発言に大きな注目が集まった

疑問だらけの「山下証言」。講演内容の訂正問題もその1つだ。山下氏は2011年3月21日に福島市の「福島テルサ」で講演しているが、その時の「100μSv/hを超さなければ全く健康に影響を及ぼしません」という発言を「10μSv/hを~」と訂正している。

井戸弁護士は、これは意図的に言い間違えたのではないかと追及した。山下氏は「1カ月後に外部から指摘されて気付いた。私はこういう言い方をしたと気付かなかった」と答えた。しかし、福島県のホームページでは講演の翌日3月22日付で訂正文を掲載している。このズレは何を意味するのか。

当時、福島市は10μSvを超えるような空間線量だった。他にも避難指示は出されていないが10μSv/hを上回るような地点は多かった。井戸弁護士は「避難指示が出ていない地域の人たちを避難させないために、安心させるために敢えて100μSv/hと言ったのではないですか?」と質したが、山下氏は「全く見当違いだ」ときっぱりと否定した。

山下氏は2011年4月1日、飯舘村で職員を相手に話している。出席した職員から「38μSv/hあるが大丈夫か」と質問され、「マイクロシーベルトのレベルであれば全く問題無い。10μSv/hまで下がればより安心である」と答えた。これだけの高線量でも「当時、避難の話はしていないと思う」と山下氏。その後、飯舘村は全村避難となるが「SPEEDI情報から、風向きによって飯舘村に放射能プルームが入ったのは知っていた。避難指示が出される可能性はあると思っていた」にも関わらず「私が関与する立場に無かった」として避難を勧めていない。

住民対象の講演会では、時に「心配があれば、より遠くに避難した方が良いと思う」と言いながら、一方で村職員の質問には避難を勧めない。これを二枚舌と言わずして何と言おうか。(つづく)

◎[関連記事]鈴木博喜-《NO NUKES VOICE》山下俊一=福島県放射線健康リスク管理アドバイザー証人尋問 9年前の〝安全安心講演〟の矛盾とウソが明らかに 〈前編〉 〈後編〉

▼鈴木博喜(すずき ひろき)

神奈川県横須賀市生まれ、48歳。地方紙記者を経て、2011年より「民の声新聞」発行人。高速バスで福島県中通りに通いながら、原発事故に伴う被曝問題を中心に避難者訴訟や避難者支援問題、〝復興五輪〟、台風19号水害などの取材を続けている。記事は http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/ で無料で読めます。氏名などの登録は不要。取材費の応援(カンパ)は大歓迎です。

『NO NUKES voice』Vol.23 総力特集〈3・11〉から9年 終わらない福島第一原発事故

『NO NUKES voice』Vol.23
紙の爆弾2020年4月号増刊
2020年3月11日発行
定価680円(本体618円+税)A5判/132ページ

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総力特集 〈3・11〉から9年 終わらない福島第一原発事故
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[グラビア]福島原発被災地・沈黙の重さ(飛田晋秀さん

[インタビュー]菅 直人さん(元内閣総理大臣)
東電福島第一原発事故から九年の今、伝えたいこと

[インタビュー]飛田晋秀さん(福島県三春町在住写真家)
汚染されているから帰れない それが「福島の現実」

[報告]横山茂彦さん(編集者・著述業)
元東電「炉心屋」木村俊雄さんが語る〈福島ドライアウト〉の真相

[報告]尾崎美代子さん(西成「集い処はな」店主)
車両整備士、猪狩忠昭さんの突然死から見えてくる
原発収束作業現場の〈尊厳なき過酷労働〉

[報告]伊達信夫さん(原発事故広域避難者団体役員)
《徹底検証》「原発事故避難」これまでと現在〈7〉
事故発生から九年を迎える今の、事故原発と避難者の状況

[報告]鈴木博喜さん(『民の声新聞』発行人)
奪われ、裏切られ、切り捨てられてきた原発事故被害者の九年間

[対談]四方田犬彦さん(比較文学者・映画史家)×板坂 剛さん(作家・舞踊家)
大衆のための反原発 ──
失われたカウンター・カルチャーをもとめて

[報告]本間 龍さん(著述家)
原発プロパガンダとは何か〈18〉
明らかになる福島リスコミの実態と功罪

[報告]山崎久隆さん(たんぽぽ舎副代表)
「特定重大事故等対処施設」とは何か

[報告]三上 治さん(「経産省前テントひろば」スタッフ)
停滞する運動を超えて行く方向は何処に

[報告]山田悦子さん(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈7〉記憶と忘却の功罪(後編)   

[報告]佐藤雅彦さん(翻訳家)
5G=第5世代の放射線被曝の脅威

[報告]渡辺寿子さん(核開発に反対する会/たんぽぽ舎ボランティア)
「日本核武装」計画 米中対立の水面下で進む〈危険な話〉

[読者投稿]大今 歩さん(農業・高校講師)
原発廃絶に「自然エネ発電」は必要か──吉原毅氏(原自連会長)に反論する  

[報告]再稼働阻止全国ネットワーク
老朽原発を止めよう! 関西電力の原発と東海第二原発・他
「特重」のない原発を即時止めよう! 止めさせよう!

《関電包囲》木原壯林さん(若狭の原発を考える会)
「5・17老朽原発うごかすな!大集会inおおさか」に総結集し、
老朽原発廃炉を勝ち取り、原発のない、人の命と尊厳が大切にされる社会を実現しよう!

《規制委》木村雅英さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
1・24院内ヒアリング集会が示す原子力規制委員会の再稼働推進
女川審査は回答拒否、特重は矛盾だらけ、新検査制度で定期点検期間短縮?

《全国》柳田 真さん(たんぽぽ舎・再稼働阻止全国ネットワーク)
原発の現局面と私たちの課題・方向

《北海道・泊原発》佐藤英行さん(岩内原発問題研究会)
北海道電力泊原子力発電所はトラブル続き

《東北電力・女川原発》笹氣詳子さん(みやぎ脱原発・風の会)
復興に原発はいらない、真の豊かさを求めて
被災した女川原発の再稼働を許さない、宮城の動き

《東電・柏崎刈羽原発》矢部忠夫さん(柏崎刈羽原発反対地元三団体共同代表)
柏崎刈羽原発再稼働は阻止できる

《関電・高浜原発》青山晴江さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
関西のリレーデモに参加して

《四国電力・伊方原発》名出真一さん(伊方から原発をなくす会)
三月二〇日伊方町伊方原発動かすな!現地集会 
レッドウイングパークからデモ行進。その後を行います。圧倒的結集をお願いいたします。

《九州電力・川内原発》けしば誠一さん(反原発自治体議員・市民連盟事務局次長/杉並区議会議員)
原発マネー不正追及、三月~五月川内原発・八月~一〇月高浜原発が停止
二〇二〇年は原発停止→老朽原発廃炉に向かう契機に!

《北陸電力・志賀原発》藤岡彰弘さん(命のネットワーク)
混迷続く「廃炉への道」 志賀原発を巡る近況報告

《読書案内》天野惠一さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
『オリンピックの終わりの始まり』(谷口源太郎・コモンズ)

私たちは唯一の脱原発雑誌『NO NUKES voice』を応援しています!

《NO NUKES VOICE》可及的速やかに「東京五輪中止」を発表せよ!

首相・安倍晋三が「福島第一原発事故の汚染水の影響は、完全にコントロールされており、健康への心配は、現在も未来もまったくない」と福島県で被災されている皆さん(あるいは原発事故による様々な疾病に苦しむ方や、事故を苦に自死され方々)を無視・冒涜する許されざる虚構の演説で招致にこぎつけた、「金の亡者の祭典」こと「東京五輪」開催が事実上不可能になった。


◎[参考動画]安倍晋三総理大臣のプレゼンテーション IOC総会(2013/09/08)


◎[参考動画]滝川クリステルさんのプレゼンテーション IOC総会(2013/09/08)

その理由はあらためて述べるまでなく、新型コロナウイルスの感染を、政権の無策で抑えることができず、日本が世界有数の感染拡大国になってしまったことが、直接の理由である。きょう現在五輪実施委員会やIOC、日本政府のいずれもが「東京五輪中止」を宣言してはいないが、国内での大規模イベントは軒並み中止か延期。海外からの渡航客も激減。2019年10-12月期の実質GDP成長率は前期比年率-6.3%と大幅に落ち込み、特に10月の家計消費は-11.5%とリーマンショック直後の2008年10-12月期を上回る減少と政府発表の統計は示している。

企業は在宅勤務を増加させ、大学の多くは入学式の取りやめを決定し、新年度の授業開始時期すら決まっていない。3・11から10年目に入り、原発再稼働やカジノ解禁、改憲など、よこしまなことばかりを画策していた、極悪政権とマスコミ誘導があるとはいえ、極悪政権に高い支持率を与え続けてきた国民に対する、「2011年3月11日をしっかり想起せよ」との天啓が下ったのだ。

否、それだけではなく、世界を覆いつくした「経済成長至上主義」の責任なき暴走にストップがかけられたと、見ることもできよう。戦々恐々として大マスコミは報じないが、「世界の工場」と呼ばれた中国は大打撃を受け、今年の成長率は実質4%台に落ち込むとの予想も聞かれはじめた。米国をはじめ株高で浮かれていた国々でも、すでに猛烈な暴落、乱高下がはじまっている。パンデミックだけではなく、大恐慌がやってくることは明らかだ。

そんな時世のなかで、客観的な情勢として「五輪」などに時間や人員を割き、楽しんでいる余裕などないことには、さすがに少なくない皆さんが、肌で感じておられることだろう。


◎[参考動画]東京五輪中止なら経済損失7.8兆円 大手証券が試算(2020/03/07)

3月8日東京五輪の選考を兼ねて、名古屋ウイミンズマラソンがおこなわれていた。わたしは「東京五輪反対」ばかりを主張しているが、けっしてスポーツが嫌いなわけではない。むしろマニアックな競技も含めてスポーツ観戦は趣味の域きに入るだろう。一山麻緒選手の激走は感動的だった。22歳で20分台をあのコンデションで出すとは!しかし、アナウンサーが「東京への最後の切符をかけて」と連呼するたびに複雑な気持ちになった。

「金の亡者」が欲得ずくで行う競技会であっても、選手は出場したいことだろう。

各種競技で「五輪出場選手が決まる」、との報道を目にするにつけ、可哀そうに思えて仕方がない。しかし、彼らとて立派なアスリートであれば、それなりの人格と知性を持ち得るはずだ。何度も繰り返すように「東京五輪」が福島を中心とする原発事故被害の隠蔽のために画策され、それに思慮のない人や「ここでまた一山いけるで!」と計算高い企業群が、欺瞞に満ちたきれいごとをならべ、いまも苦しんでいる人たちの、生活や気持ちを「なきものにしよう」と企み計画されたのが「東京五輪」の本質であることくらい理解できなければ、一流のアスリートではない。

スポーツは素晴らしい。けれども、スポーツをおこなうには、危険のない(健康上・安全上)諸条件と、それを楽しむことができるアスリートと観客が必要だろう。この夏、日本にはその両方の要素がないのだ。

「東京五輪中止」は既に内々では決定されているだろう。だが、誰も発表しないので、わたしが断定的にお伝えする。どう考えてもこの夏東京での五輪開催は不可能だ。IOCや実行委員会は金勘定に頭を悩ましているだろうが、WHOが「気温が上昇したたからといって収束するわけではない」と発表し、日本に渡航を禁止する国が日々増加しているのだ。

そんなことよりも、可及的速やかに混乱を最小化させる手立てに集中するのが政権の仕事だろう(混乱に乗じて憲法に「緊急事態条項」を書き混むなどといった、言語道断の議論を国会でしている場合か)。安倍や自公政権には何も期待しない。唯一の期待は「早く退場してくれ」だけだ。


◎[参考動画]「緊急事態宣言」可能に 法改正(2020/03/05)

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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東京五輪を前に「継続か、撤去か」で揺れる福島の放射線量モニタリングポスト そもそも数値表示が「外から確認出来ない」という問題 民の声新聞 鈴木博喜

原発事故後に設置されたモニタリングポストが「数値を外から確認出来ない問題」に直面している。

福島県の中で会津地方や中通り、いわき市の避難指示が出されなかった地域に設置されているモニタリングポスト(リアルタイム線量測定システム、以下リアモニ)の撤去計画が白紙撤回されて5月で1年。

住民説明会では「万一の事態が起きた時に、放射線量を一目で確認したい」と設置継続を求める声が相次ぎ、撤去を進めたい原子力規制委員会を押し切った格好だが、一方で保育所や学校などに設置された一部のリアモニが敷地の内側を向いており、外から数値が確認出来ない状態になっているのだ。外から数値が見えるように180度動かすにしても専門業者の力が必要で、国も福島県も市町村もそのための予算措置などしていない。

昨秋の「10・12水害」で水没、故障したリアモニの建て替えも進んでおらず、住民が望んだ形とは異なる姿で「当面の間」の設置継続だけが続いている。

保育所や学校に設置されたリアモニの中には敷地外から数値を確認出来ないものも少なくないが、今のところ外側に向きを変える計画は無い

◆「外から数値が見えないリアモニって、確かに意外と多いんです」

「外から数値が見えないリアモニって、確かに意外と多いんです。そういう視点で街を歩いてみると気付くと思います。しかし、じゃあ向きを変えっぺと、人が何人か集まれば動かせるというような代物ではありません。仮に向きを変えるのなら重機が必要だから専門業者に頼まなければいけない。それはやはり、設置者である国の責任でやるのが筋なのではないでしょうか。国の責任で住民の要望に応えるのがあるべき姿だと思いますよ。でも、現実問題として国が予算措置しているのは、あくまで『維持管理費』です。向きを変えるような工事費用は盛り込んでいません。もちろん、県にもそんな予算はありません」

福島県放射線監視室の担当者は、ざっくばらんにそう語った。原発事故後、学校や保育所、集会所や公園など、子どもたちが集まるような場所を選んでリアモニが設置されたが、「職員や教師、保育士がまず真っ先に数値を確認する」との趣旨から、施設の内側に向けて設置されたものも多い。県民からは「外から数値を見えにくくするために意図的に内側にしている。〝汚染隠し〟ではないのか」との指摘もあるが、そうでは無いという。福島県中通りのある保育所長は「そんな悪意はありません」と話す。

「そもそもリアモニを設置したのが、歩いている人に数値を知らせるのでは無くて園児や保護者、保育士に見せるという趣旨だったのです。そういう意味ではリアモニの役割が変わってきているのかしれませんね」

県民からは「外から数値を見えにくくするために意図的に内側にしている。〝汚染隠し〟ではないのか」との指摘もある

◆リアモニを設置し続けること自体が「風評被害」を招く?

リアモニの撤去計画は2018年3月20日の原子力規制委員会(http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/blog-entry-237.html)で浮上。避難指示が出された12市町村を除く約2400台を2021年3月末までに撤去し、避難指示12市町村に配置し直すという計画だった。年間5億円とも6億円とも言われる維持費用のほか、空間線量の下がった区域にいつまでもリアモニが設置されていると特に海外からの観光客に被曝リスクが存在すると誤解を与える(風評被害を招く)という理由もあった。

2018年6月から11月にかけて福島県内15市町村で開かれた住民説明会では、撤去に反対する意見が大多数を占めた。母親たちの市民グループ「モニタリングポストの継続配置を求める市民の会」が結成され、会津若松市や福島市、郡山市、いわき市などで地元市長に対して撤去に反対するよう求める要望書が提出された。複数の市町村議会が継続配置を求める意見書を国に送った。廃炉作業が何十年にもわたって続く中で、万一の事態が起きた場合に数値を確認する機会を奪わないで欲しい、というのが撤去反対の主な理由だった。

リアモニ撤去への反対意見が続出した住民説明会。多くが「万一の事態のために、数値を確認出来る機会を奪わないで欲しい」という切実な声だった

◆「そんな事ばかりやっているから福島は駄目なんだ」とまくし立てた田中俊一前原子力規制委員長

一方、リアモニ撤去の〝言い出しっぺ〟である原子力規制委員会の田中俊一前委員長は取材に対し「あんな意味の無いものをいつまでも設置し続けたってしょうがない。数値がこれ以上、上がる事は無いのだから、早く撤去するべきだ。廃炉作業でどんなアクシデントが起こるか分からない?そんな〝母親たちの不安〟なんて関係無いよ。そんな事ばかりやっているから福島は駄目なんだ」とまくし立てていた。

福島市の木幡浩市長(元復興庁福島復興局長)も、設置継続を求める母親たちの声に理解を示しつつも「風評」を何度も口にし、「そもそも米の全量全袋検査が良いのかという議論の中で、検査をする事自体が『福島の米は危ないのではないか』という事を示してしまっているという意見も現実にある。将来的なリアモニの集約というか、どの程度設置するのが良いかという議論はあり得るでしょう。今大きく減らすべきだと言うつもりは無い。ただ、僕らは『風評』と『自分たちの気持ち』の両方を常に考えなければならないと思う」と将来的な撤去に含みを持たせていた。

最終的には福島県民の願いが通じ、原子力規制委員会は2019年5月29日の会合で「当面、存続させる」事が決まった。長年「原発が事故を起こすなんてあり得ない」と〝安全神話〟を信じ込まされた挙げ句に原発事故の被害を受けた人々が、「廃炉作業で万一の事態が起きても中通りにまで影響が及ぶ事は無い」と事故後の数値確認機会まで奪われる最悪の事態は回避された。

◆リアモニ撤去の機会をうかがい続ける国の思惑

しかし、県職員も認めているように、国は撤去方針そのものは捨てていない。しかも中には一見して数値を確認出来ないリアモニもある。せめて施設外から数値を確認出来るように向きを変える事は出来ないかと原子力規制庁に確認をしたが、監視情報課の担当者の答えは「NO」だった。

「今のところ、その後の具体的な動きは全くありません。仮に向きを変えるとしたら県や市町村と相談してやることになると思いますが…。現時点では『当面、設置を維持する』というところから何も進んでいません。最近ではむしろ、中通りにある私立幼稚園などから『邪魔だから早く撤去して欲しい』という声が複数寄せられているくらいですから、向きを変えるという発想などありませんでした。もちろん、そのための工事費用を捻出する予算など確保していませんし…」

危機を脱し、リアモニ撤去計画を口にする人も少なくなった。国も福島県も話題にしなくなった。それにはこんな裏事情もあるという。

「『配置見直し』という国の基本的な考え方は変わっていませんが、水害が起きて33台がやられた。韓国が『日本はまだ汚染されている』と騒いでいる、『聖火リレーはこのまま実施して良いのか』などいろいろな外圧が起きています。そういった状況の中で、積極的に配置見直しを言いにくい事態に陥ってしまったのが現状です」(福島県職員)

じっと身を潜めながら撤去の機会をうかがっている国。当面の存続は決まったものの、本来の目的を果たせないものもあるリアモニ。「外から数値を確認出来ない問題」は解消されないまま、とりあえずの存続だけが続いていく。

国は撤去方針そのものは捨てていない

▼鈴木博喜(すずき ひろき)
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3月11日発売『NO NUKES voice』Vol.23 総力特集〈3・11〉から9年 終わらない福島第一原発事故

ダイヤモンド・プリンセスはIRキャンペーンの公開カジノ・クルーズ船だった? 新型コロナ感染騒動と安倍政権強行のカジノ産業誘致が繋がるヨコハマ利権

◆外国船籍と公海航行を利用した「脱法カジノ」

すでにネットでは公然と語られるいっぽうで、マスコミが報じない脱法行為が存在する。いや、すでにその華やかな幕は下りてしまったが、ここ半月ものあいだ繰り返し報じられてきたクルーズ船、ダイヤモンド・プリンセスに秘められた、とんでもない事実があるのだ。

いや、秘められたというのは大げさだろう。ダイヤモンド・プリンセスはみずからカジノ船であることを、そのホームページで公然と宣伝しているのだから。公然と脱法行為を宣伝していながら、微塵も恥じることがない。遅きに失した感はあるが、このさい安倍総理のカジノ経済成長路線のあだ花として、この事実を大いに拡散していこうではないか。


◎[参考動画]ダイヤモンド・プリンセス 船内紹介 | プリンセス・クルーズ

◆地獄と化したクルーズ船、じつはカジノツアーだった

それにしても、ダイヤモンド・プリンセスの船内は地獄だったようだ。医療チームの報告として、閉じ込められた乗客たちの多くが「死にたい」と思い、不眠や不安感にさいなまれていたという。以下、時事通信報である。

「『死にたい』『船から飛び降りたい』などと訴える事例が、2月1日からの約1カ月間で91件に上っていたことが分かった。災害派遣精神医療チーム(DPAT)などの活動状況を日本精神科病院協会が公開した。活動中に寄せられた相談では、不眠や不安感といったストレス関連症状が101件と最も多く、次いで『死にたい』といった緊急を要する精神状態が91件に上った。緊急搬送はなかった。ストレス症状を訴える人は、狭い室内に閉じ込められたことによる拘禁反応を起こした例が目立った。」(時事通信3月7日)という。

「新型コロナウイルス肺炎に閉じ込められた、クルーズ船乗客たちの不自由さ ── 今後危惧される拘禁性ノイローゼ(拘禁病)と基礎疾患での重篤化」(2020年2月9日)で指摘したとおりの事態が進行していたことになる。


◎[参考動画]【TBS news23】クルーズ船“告発”動画の波紋

クルーズ船に長期にわたって監禁されることで、そのストレスから新型コロナウイルス罹患を悪化させられ、お亡くなりになった方々には哀悼の意を表しつつ、しかしそのクルーズの違法性およびカジノ誘致キャンペーンの悪質性を暴露していくことにしたい。

外国船籍であり、なおかつ公海上に出るという外洋クルーズによって、可能となっていたのがカジノである。比較的低価格で乗船できるプリンセスクルーズの場合、日本人客にカジノを体験させ、その上がりでペイするという側面もあったのではないか。とりあえず、ダイヤモンド・プリンセスがカジノ船であったことを、ほかならぬプリンセスクルーズのホームページから引用しよう。

「一流のディーラーがエスコートするテーブルゲーム、多彩な種類のスロットマシンを揃え、バーも併設したプリンセス・クルーズ自慢の本格的なカジノ。
 外国船クルーズでしかできない本格的なカジノ体験で、そのきらびやかな雰囲気をお楽しみください。
 テーブルゲームは5USドルから、スロットマシンは1USセントからと手軽に楽しむことができます。
 カジノのご利用にはUSドル(一部客船ではAUドル)をご用意ください。
 現金がない場合には船内会計に加算し精算することも可能です。」

わずか5USドル(536円=3月7日為替相場)でテーブルゲーム(ルーレットなど)、5円ちょっとでスロットマシーンが遊べるというのだ。もちろん、これでギャンブルが終わるわけではない。ついつい熱くなって、カジノ破産寸前まで追い込まれるのがギャンブル依存症である。その入り口に、カジノクルーズのような気軽なきっかけがあるのだ。ギャンブル依存とは、勝ち負けや損得の判断ミスなどではない。勝ったときの絶頂感、勝負におよぶゾクゾクとした興奮、そして必ず取り戻そうとする執着心が、底なしの泥沼にいざなう。いわば脳内麻薬に作用するのが、依存症なのである。

プリンセス・クルーズのHPより
プリンセス・クルーズのHPより

◆カジノ誘致のキャンペーン──コロナとカジノがヨコハマで繋がる

さて、ダイヤモンド・プリンセス号である。この船はアメリカのカーニバル・コーポレーション(Carnival Corporation & PLC)の傘下のプリンセス・クルーズ社が運航しているクルーズ客船だ。2014年に日本マーケット向けに大規模なリノベーションを行ない、展望浴場や寿司バーなどが新設された。このときに船籍をバミューダから英国(ロンドン)へと変更している。2014年から日本に配船され、横浜発着のクルーズを行っている。さらに2015年以降は日本発着のクルーズを毎年行っている。日本人向けのクルーズ船なのである。

日本人向けのカジノ付きクルーズ船で、横浜をメインの発着港にしている。これだけで、ピンとくる人は少なくないのではないだろうか。

発着港の横浜市(林文子市長)が、カジノを柱とするIR誘致の急先鋒だからだ。不案内な向きは、「横浜IR誘致計画の背後に菅義偉官房長官 安倍『トランプの腰ぎんちゃく政策』で、横浜が荒廃する」(2019年8月30日)を参照してほしい。

ダイヤモンド・プリンセスをふくむカーニバルクルーズは、ラスベガスに拠点を置くKonami Gaming,Inc.(コナミ・ホールディングスの子会社)から『SYNKROS(シンクロス)』というカジノ・マネジメント・システムを導入した本格的なカジノ船である。そのシステムは日本のIRにも導入されるという(業界関係者)。つまり、このカジノクルーズは横浜のIR誘致と限りなく交錯し、カジノ導入のいわば隠然たるキャンペーン機能を果たしているのだ。人々の射幸心をあおり、ギャンブル依存によって生活破綻を来しかねないカジノの実験場でもあったのだ。

すでに中国のギャンブル企業から収賄した容疑で、秋元司衆議院議員が逮捕され、5人の議員も賄賂を受け取ったことが明らかになっている。安倍総理が「日本の成長産業」として、観光客誘致を目的に導入を目論んできたカジノ産業は関係議員の汚職として、またクルーズ客たちの悲劇として、思わぬところから頓挫のきざしが見えてきた。国民をギャンブル漬けにする愚策の導入をゆるしてはならない。


◎[参考動画]値下げと割引で激安で豪華客船クルーズに行ってきた!【ダイヤモンドプリンセス】

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業。「アウトロージャパン」(太田出版)「情況」(情況出版)編集長、医科学系の著書・共著に『「買ってはいけない」は買ってはいけない』『ホントに効くのかアガリスク』『走って直すガン』『新ガン治療のウソと10年寿命を長くする本当の癌治療』『ガンになりにくい食生活』など多数。

いまこそタブーなき言論を! 月刊『紙の爆弾』2020年4月号
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新型コロナウイルス騒動の背後で 世界を覆う病魔とは?

まず冒頭に、雑多な情報提供になるのをご了承願いたい。日々刻刻とふえる、新型コロナウイルスに関する情報の中で、いくつか注目しておくべきことがあるので、以下のようなものとなった。まず最初は、結果的にはメディアの過剰報道が防疫になっているとはいえ、いま世界を覆っている感染病死は新型コロナだけではないということだ。

◆アメリカで感染者21万、死者6万人の衝撃

新型コロナウイルス[SARS-CoV-2(国際ウイルス分類委員会=ICTVによる分類)2019-nCoV(世界保健機関=WHOによる名称)]の感染拡大を、日本のメディアは「戦争」と呼んでいる。

「戦争」だから小・中・高校・支援学校の休校は当然であるとして、あまりにも騒ぎすぎではないだろうか。というのも、メディアが新型コロナ騒動に明け暮れるいっぽうで、別の疾病が世界を覆っているからだ。

新型コロナウイルスは、中国の感染者が8万人、死者が3000人ほど。韓国で2000人の感染者、死者十数人。日本は感染者1000人、死者10人ほど(3月2日現在)である。

すさまじい勢いとか、世界的な集団感染との発言も出ているが、つぎの数字を見て欲しい。

年間の感染者数が1000万人、死者は3000人、関連死7000人前後。これは全世界のではなく、日本の数字である(死者以外は推定数)。

アメリカではさらに凄い。年間感染者数数千万人、重篤な感染者(入院)はじつに21万人。そして死者(関連死)は、6万人だ。※死因診断書ありは15000人。

ちなみに、これを新型コロナウイルスの中国人データと比較してみよう。

            重篤感染者数     関連死者数
アメリカ(インフル)   210000        60000
中国(コロナ)       80000         3000

数字だけ並べてみるとわかりやすい。じつはここに比較した病名は、われわれの耳に慣れきった流行性感冒、いわゆるインフルエンザなのである。過去の数字でも何でもない。いま現在、2019年から2020年にかけての、同時期の数字である。

世界は死に慣れてしまったのだろうか。死者の数だけを比べれば、たとえば小児肺炎は毎年世界中で90万人が死亡している。交通事故死は130万人(日本は3000人ほど=70年代は1万人だった)である。

新型コロナが怖い理由は、その正体(感染形態・死亡率)がまだ不明だからだが、インフルに特効薬があるといっても、現実に膨大な死者が出ている。他の疾病でもすべて同じ理由、すなわち罹患による免疫低下が死をもたらすからだ。医薬品は人間の免疫による疾病克服を手助けするにすぎないのだ。

インフルエンザ死者数の推移
アメリカのインフルエンザ死者

◆パフォーマンスは必要である

さて、安倍総理は小・中・高等学校の休校を要請した。この判断をどう評価するべきかは、学童の自宅待機によって生じる母親の休職までふくめて、国がどこまで補償できるのかによる。あるいは手続きを無視した政策決定が、政局に軋みを生じさせかねない。

にもかかわらず、「戦争」なのだから判断を要したのは理解せざるをえない。ところで、この安倍総理のパフォーマンスはしかし、安倍自身の発想ではないとわたしは思う。鈴木直道北海道知事の全道休校の決定、および緊急事態宣言の手際の良さ「この前例のない措置は、わたしが責任をとる」という潔さが、風雲急を告げるパフォーマンスとなったがゆえに、安倍総理は後追い的に乗っかったにすぎない。

とはいえ、それまで対策会議をなおざりに行ない(森法相・小泉環境相は他のイベントで欠席)、安倍応援団(百田尚樹ら)との会食など、新型コロナの動静に背を向けてきた安倍政権において、ようやく本腰になったかと思わせる(遅すぎる)。政府による初動の遅さは、このウイルスの感染力の速さにくらべて、あまりにも後手に過ぎた。

本欄でも指摘してきたとおり、ダイヤモンドプリンセス号の乗客・乗員たちは、狭い部屋の中に監禁されるストレスで免疫力を低減させられ、あるいは「不潔地帯」と「清潔地帯」の入り口が同じという杜撰な防疫の結果、3700人のうち700人が感染するなど「隔離棄民」されたのである。


◎[参考動画]クルーズ船乗船者の英国籍男性が死亡 外国籍は初(2020/2/28)

◆国立感染研究所のOBとは、誰なのか?

もうひとつ、感染の疑いを感じている国民が、PCR検査を受けられないという事態がつづいている。かかりつけの医院から検査機関に連絡をしても、中国武漢・湖北省の旅行歴がなければ受けられない。民間に検査をさせないから、旅行歴の基準を充たさない感染者が重篤に陥っているのだ。

そしてこの事態に危機感をもった、元感染研の岡田晴恵教授が悲痛な告発をしたことが話題になっている。「これはテリトリー争い」「感染研のOBの一部が、自分たちのデータにしたいから、民間での検査をさせないんです」(テレビ朝日羽鳥慎一モーニングショー)というものだ。本稿の冒頭に、ICTVとWHOが新型コロナの学名を、それぞれ独自に発表しているように、医科学界は縄張り主義が」つよい。かれらの功名(権威の獲得)や利権(予算の獲得)が国にとって、何の益をもたらさないのは言うまでもない。


◎[参考動画]元国立感染症研究所員の岡田晴恵教授PCR検査が一般病院に広がらない理由を告発

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業。「アウトロージャパン」(太田出版)「情況」(情況出版)編集長、医科学系の著書・共著に『「買ってはいけない」は買ってはいけない』『ホントに効くのかアガリスク』『走って直すガン』『新ガン治療のウソと10年寿命を長くする本当の癌治療』『ガンになりにくい食生活』など多数。

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抽象論に終始した安倍首相2月29日会見は「もう手の打ちようがありません」と解読するのが正解ではないのか

首相安倍晋三が、異例の土曜日に記者会見を行い、新型コロナウイルスに対する見解を述べた。録音を聞いたが、いまさらなにを抽象論に終始しているのか、というのが正直な感想である。

「立法処置を講じる」とか、「休業補償政府が講じる」などといっている以外に具体的な言及はなく、あたかも万全な対策がこれまでも講じられており、これからも講じられる(福島第一原発の『安全デマ』発言をした時のことを思い起こされる)居丈高な姿勢に終始している。


◎[参考動画]首相、一斉休校に理解要請 新型肺炎抑制へ記者会見(KyodoNews)

そして、何より冷静に考えれば不思議なのは、どうして全国の学校に「休止」措置を依頼したのかの根拠が、全く示されていないことだ。例年、冬季にはインフルエンザが流行し、「学級閉鎖」や「学校閉鎖」が伝えられる。わたしも小学生時代に2回「学級閉鎖」の経験がある。不謹慎(そうでもないか?)ながら予想もしない時期に学校が休みになる(これは台風でも同様だったが)に、うれしくて仕方がなかった記憶がある。

でも、冷静に考えよう。実は法的に「学級閉鎖」の基準を明示したものはない。参考程度に、《『学校医・学校保健ハンドブック』によれば「欠席率が20%に達した場合は,学級閉鎖,学年閉鎖および学校閉鎖等の措置をとる場合が多い」》との基準に従い、これまでの感染症に対する「学級閉鎖」や「学校閉鎖」はおこなわれてきたようだ。


◎[参考動画]【報ステ】全国の小中高に休校要請 新型コロナ対策(ANN 2020/02/27)

20%の欠席は40人学級であれば8人、30人学級であれば6人だ。他方3月1日現在、日本全国での新型コロナウイルス感染者数は、クルーズ船に乗船していた方々を除き、全国で239人で、死者は5名だ。239人は総人口1億200万人に対して、0.001%にも及ばない。

であるのに、政府は学校の休みだけではなく、イベントの中止などを求めている。

なぜか。

決定的な対処不全が明白だからではないのか。安倍の記者会見は「もう手の打ちようがありません」と解読するのが正解ではないのか。


◎[参考動画]麻生大臣「つまんないこと聞くねぇ」休校中の費用負担(テレ東NEWS 2020/02/28)

インフルエンザが流行したって、全国の病院がパンクしたという話はわたしが物心ついて以来、聞いたことはない(大昔の「スペイン風邪」などを除く)。統計にもよるが新型コロナウイルスの致死率は低い報告で2%、高い報告で15%程度だ。

この数字を前にして、首相官邸も厚労省も「コントロールできない」と正直、対処をあきらめているのではないか。普段いい加減な発言ばかりしている某東海地方の大学教授ですらが「私の人生でこんなことは初めて。中国、韓国よりもひどい。もうこうなったら自衛するしかない」と発信している。

政治に防ぐ力を期待しても無理だろう。可能な限り免疫力を高めておくくらいしか、自衛策はあるまい。

◎[参考資料]2020年2月29日安倍首相記者会見の発言書き起こし(首相官邸)

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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