社会「総右傾化」も追い風にならない産経新聞の危機から見える新聞社の未来

かねてより新聞・週刊誌をめぐる状況が厳しいことを本通信で紹介してきた。それを裏付ける顕著な数字が明らかになっている。産経新聞はこの春の新卒採用で実に「2名」しか入社しなかったことがわかった。産経新聞は、2018年4~9月の連結業績は約4億7000万円の営業赤字。「新卒2名」だけではなく、業績不振で180名の希望退職を募っている。

◆今の時代は産経新聞にとって追い風かと思いきや……

 
ハフポスト2019年2月25日付け

毎日新聞は過去実質的に2度「倒産」しているが、どうやら全国紙の中で最初に姿を消すのは産経新聞になりそうな雲行きだ。産経新聞は常時過剰なまでのアジア蔑視が紙面の特徴だと感じていたので、「総右傾化」のこの時代は産経新聞にとって追い風かと勘違いしていたが、一番の逆風を受けていることが証明されてしまった。ネット上のニュースで扇動的な記事の見出しがあり、それをクリックすると、出典が産経新聞やFNN(フジニュースネットワーク)に突き当たることが多いので、こちらでは健闘しているのかと思っていたが、ネット上の収入は屋台骨を支えるほどの力にはなっていない。

ネット上のビジネスでも産経新聞だけではなく、新聞社は苦戦を強いられているようだ。ニュースサイトは玉石混合、山ほどあるが紙媒体からスタートしたサイトよりも、ネットを「新たなビジネス」ととらえて既に構築を終え、回収期に入っている先行組が、大きな利益を上げているようだ。そのような企業はメインの顧客に10-50代を据えており、新聞・雑誌のターゲットと見事なくらいに重なっていない。10代、20代が自由に使えるお小遣いは大した金額ではないが、仮に1000円の商品でも、繰り返し購買されれば売り主としては立派に計算のでき得る顧客となる。

逆に年金生活で資産もある高齢者は、通信販売までは手が出せても、ネット上での商品購入までには(技術的・心理的)に手が出ない人が多い。あと数年して現在の60代が70代になったら、おそらくほとんどの人がネットになじんでいるだろうから、また購買行動には変化がみられるかもしれないが。

◆ジャーナリズムが機能不全に陥った社会で自由は持続できるのか?

 
産経新聞社採用サイト「SANKEI SHIMBUN RECRUIT 2020」より

それにしても報道やジャーナリズムは、新聞が急速に衰え、テレビが今日のように娯楽化した結果、ますます機能不全に陥るだろう。権力監視や腰を据えた調査報道には、経験や勘(そして取材に要する費用)も必要とされる。それに100万部単位の発行部数がなんといっても影響力を持つ。ネットサイトに軸足を移しながらも世界中でクオリティーペーパーがなくなった例はまだ耳にしない。いまのところ世界はまだ、新聞的な情報伝達メディアを必要としている(それがネット上であっても)ということであろう。

いっぽう、大新聞と比べるべくもないが、鹿砦社も独自の調査報道を行っているが、ほぼ大手マスコミから無視されるので影響力は限定的だ。例外的に代表・松岡が逮捕192日も勾留された、名誉棄損事件とされる「アルゼ」事件についてだけは近年、数々のスキャンダルが噴出し岡田親子の覇権争いが、注目を集めている。この件ではロイターや内外の報道機関が鹿砦社へ取材に訪れている。

 
産経新聞社採用サイト「SANKEI SHIMBUN RECRUIT 2020」より

関係者によれば、若手裁判官の2割はまったく新聞を読んでいないという。それでも司法試験に合格し、裁判官に任用されるのには問題はないとうことだ。産経新聞が遠からず姿を消すことは間違いなさそうだ。それについで、他の全国紙や地方紙もやがては消滅してゆくのだろうか。若年層の行動を観察していると、新聞にとって未来はかなり厳しいものであることはまちがなさそうだ。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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田所敏夫『大暗黒時代の大学──消える大学自治と学問の自由』(鹿砦社LIBRARY 007)

「日本の国は冷和(つめたいわ)」── それでも世界に広がる支援・連帯の輪! 4月22日(月)大阪地裁で「センターつぶすな」第3回住民訴訟! 大阪維新に反対するみなさんも西成あいりん総合センターに来たらええねん!

 

◆自由に休めるセンターに約100人が集まる!

「前はシェルターも使ったけどね、ここ(センター)にきてからは好きな時間に休むことができるから、暖かい昼間に寝ることが多いですわ」。センターで自主管理が始まって以降、テントの近くに布団を敷いて寝泊まりする男性、70代半ばか。最初に会ったとき、下着の上に直接カッパのズボンを履いていたため、 支援物資の中から、小柄な彼にあわせたズボンを渡した。「ありがとね。大事に使わせてもらいますわ」と丁寧にたたんで枕元に置く。きちんと揃えられたズックの横。

4月1日から自主管理が始まったセンター内では、現在約100人もの人たちが寝泊まりしている。テントには全国から救援物資が届けられ、ドイツなど海外からの連帯メッセージも届いている。また直接現場に訪れる人も後を絶たない。東京から車で毛布を運んできた仲間は、渋谷での野宿者排除を許さない闘いの報告を行ってくれた。外から釜ヶ崎やセンターに来るきっかけになればと、これからも様々な催しが予定されている。自主管理が続く釜ケ崎の現地から報告する。

◆「100円の値打ちもない!」と言われたセンター仮庁舎の実態

仕事がないことを示す「かまやん」ばかりが映っている仮庁舎の求人募集の液晶パネル

南海電鉄高架下で業務を開始し、約1ケ月が経過したセンター仮庁舎に対しては、「使い勝手が悪すぎる」との声をあちこちで聞く。大阪府は仮庁舎での求人業務について、

〈1〉これまで業者が車両に提示していた「求人プラカード」を廃止する
〈2〉駐車スペースは1業者について1台とする
〈3〉各業者の求人は(仮庁舎内の)液晶パネルで表示してセンター職員が案内する、との政策を打ち出した。

これまで朝のセンターでは相対(あいたい)方式(求人プラカードを見た労働者がカードを提示する車両にいる手配師に直接声をかけ、話し、仕事に就く)をとっていた。

しかし、仮庁舎ではこのカードの提示をやめ、代わりにセンター職員が表に車を停めた業者に募集内容を聞きにいき、それを中の液晶パネルで表示、応募してきた労働者をセンター職員が当該業者の車両に案内するという、なんともまどろっこしい方法に変えた。こんなやり方が、慌ただしい朝の寄り場で通用するのか?

しかも実際の仮庁舎では液晶パネルに、仕事がないことを示す「かまやん」が映っていることが多いという。じつは4月1日以降もシャッターが開いているセンター側に車両を停め、これまで通り「求人プラカード」を提示し、募集する業者が多い。例えば「一般土工、8時~17時、時間外労働あり、賃金10000、宿舎費総額3200」のカードには朝食などの写真付き。このわかりやすい求人プラカードをなくして、液晶パネルで……と考えた「識者」は、早朝の現場を見たことがあるのか。

求人プラカードを見た労働者がカードを提示する車両にいる手配師に直接声をかけ、話し、仕事に就く従来の「相対(あいたい)方式」

◆労働者の「寄り場」をなくすこと、それがセンター建て替えの狙い!

こうした仮庁舎の実態を見るにつけ、建て替えられる新センターがどうなるのか、不安は増すばかりだ。1970年「日雇い労働者の就労斡旋と福祉の向上」を目的に設置されたセンターが、今後どうなろうとしているのか、釜ヶ崎地域合同労組委員長・稲垣氏に話を伺った。

── 昨日(18日)の朝、センターのトイレ掃除をしていましたね?あれだけ広いと時間かかるんじゃないですか?

稲垣 そうやね、2人で20~30分位かかったかな。トイレ掃除は毎日交代でやってます。自主管理なので自分たちで清潔にしないとね。

── ごみ問題はどうなりましたか?

稲垣 先日、釜ヶ崎公民権運動の大谷さんと、国(大阪府の労働局)に申し入れに行ってきました。電灯をつけるように、ごみの収集をするようにと要望書を提出してきました。

── 自主管理を続けるにあたって、取り決めなどありますか?

稲垣 今のところセンターは期限なく開放されているが、いつまた国や大阪府、警察がシャッターを閉めにくるかわからない。その時はまたみんなの力で跳ね返そうと話しています。またそれまでにくれぐれもセンター内にあるものには手をつけない、壊さない、持ち出さないことを守って下さいと。センター内のキーワードは「自由」だけど、やりっぱなしはダメ、そしてみなで仲良くやっていきましょうと話し合っています。

── さてセンターの仮庁舎が業務を始めて約1ケ月経ちました。いろいろ不備な点が出ているようですが?

稲垣 不備なんてもんじゃないですよ。仮庁舎の南側出口に段差があって、先日そこで足を滑らせ転倒し、右足のサラ(膝蓋骨)が割れて大怪我して入院中の方がいます。「高齢者特掃輪番労働者」の方で、労災を受けることになりましたが。

── 求人活動はどうなっているのでしょうか?

稲垣 釜ヶ崎ではずっと労働者と業者が直接交渉するという「相対(あいたい)方式」でやってきました。もちろんこれにも問題がある。ちゃんとした企業ならいいが、釜ヶ崎は手配師や人夫出しやから。相対方式が全面的にいいとは思ってないが、仮庁舎では求人プラカードがないから、余計わかりにくくなった。これからヤミ手配が確実に増えると思いますよ。

── そうした仮庁舎の実態を見ると、センターの本移転(建て替え)は何を目的としたものと考えられますか?

稲垣 はっきりしているのは、新しく建てられるセンターは、労働者を寄せ付けないものになるはず。そうやって労働者の「寄り場」をなくすことがセンター建て替えの狙いだと思う。

── 労働者がバラバラにされるということですか?

稲垣 そう、バラバラに孤立させられる。労働者自体を見えなくさせる、また矛盾や問題点も見えなくさせる、そういうことだと思います。

── 携帯電話で呼ばれて現場に行く、派遣労働者と同じ、労働者同士が団結しにくくなるでしょうね。

稲垣 それが狙いでしょうね。しかもさっき言ったようにヤミ手配が増えたりするから、労働環境はさらに悪化するやろね。

「100円の値打ちもない」。先日仮庁舎から出てきた労働者が吐き捨てるようにそうつぶやいていたという。

◆使い勝手の悪いセンター仮庁舎に府民の税金が7億5000万円!
  4月22日(月)「センターつぶすな!」第3回住民訴訟へ!

このように労働者にとってじつに使い勝手の悪いセンターの仮庁舎だが、そこには府民の税金(公金)が7億5000万円も投入されている。しかも同じ仮庁舎である「あいりん職安」の建設費用と比較して坪単価が1万円以上も高い点、仮庁舎終了時に土地を返却する際の「現状回復義務」を定めていない点など、極めて不明瞭・不可解な点が多い。確認しておくが、公金を使う際には必要最小限でなくてはならないという原則が前提としてあるにも関わらずに、だ。

第1回口頭弁論で稲垣氏の意見陳述書に添付された、老朽化した南海電鉄高架下の写真がある。これらぼろぼろになったスラブ、ハリ、柱などは、センター仮庁舎の建設費用で補修されたうえ、重量鉄骨で何十年も使用可能な建造物になった。しかも「現状回復」せずに南海電鉄に返却するということは、公金で補強された施設を南海電鉄が転用し、さらに儲けるということだ。前述したように、労働者に犠牲を強いるセンター仮庁舎が、その後南海電鉄を儲けさせことに使われるなんて、しかもそれに府民の税金(公金)が投入されるなんて、絶対に許されない。大阪維新の都構想につながる西成特区構想を末端から突き崩そう!

大阪維新に反対するみなさんもぜひ、センターに来たらええねん!

◎大阪地裁1007号法廷で、4月22日(月)午前11時から(当日はセンターから9時半、バスが出ます)
 
◎支援物資は、〒557-0004 大阪府大阪市西成区萩之茶屋1丁目3-44 あいりん労働福祉センター1Fテント小屋宛

▼尾崎美代子(おざき・みよこ)https://twitter.com/hanamama58
「西成青い空カンパ」主宰、「集い処はな」店主。

創業50周年!タブーなき言論を!『紙の爆弾』5・6月合併号【特集】現代日本の10大事態
〈原発なき社会〉を目指す雑誌『NO NUKES voice』19号 特集〈3・11〉から八年 福島・いのちと放射能の未来

「消費税廃止」をはじめアベノミクスに全面対決の反緊縮政策(新政府八策)を公約に掲げた山本太郎議員の新党「れいわ新選組」はトレンド転換の起点となるか?

◆野党共闘の枠組みから飛び出る

4月1日、山本太郎参議院議員(自由党共同代表)が新たな政治団体「れいわ新選組」を届け出、10日の記者会見で発表した。

最大のポイントは、アベノミクスに対抗して「反緊縮」の経済政策を前面に押し出したことにある。

その目玉は、消費税廃止。現職の国会議員を要する政治団体が初めて消費税の制度そのものを廃止する公約を掲げた。4月15日現在、消費税廃止を主張する政党は他にない。

いまのところ現職の国会議員の参加は山本議員ひとりであり、政党要件を満たしていないので「政治団体」だが、実質「新党」結成と表現していいだろう。

2015年夏の安保関連法制反対運動の挫折から、共産党からの呼びかけもあり安倍政権を打倒するために「野党共闘」が叫ばれてきた。

統一地方選前半戦の結果を見ても、野党共闘しても自民・公明に勝つのは難しいことを改めて示した。

たとえば、北海道知事選挙。自民・公明・大地から推薦を受けた鈴木直道氏が約162万票、立民・国民・共産・自由・社民から推薦を受けた石川知裕氏は約96万票。与党系候補が圧勝したのは象徴的だ。

山本太郎参議院議員

◆党名の裏にひそむ150年ぶりの政権交代の夢

「れいわ新選組」という党名が発表されてから、党名に対して賛否両論があり、違和感や疑問を呈する意見もインターネットなどに出ている。

筆者も、最初に党名を聴いたとき違和感を覚えた。しかも記者会見の前日4月9日のテレビ朝日の報道によれば、表記する文字が「新撰組」と表記されていた。

新選組は、江戸末期の江戸公儀(徳川政府)の武装警察組織として尊王攘夷派などを取り締まった。とりわけ尊王攘夷派の中心になった長州藩士らを弾圧した。

4月10日の記者会見で、新撰組は権力側についたのではないかとの質問に山本代表は、「新『選』組は、あたらしい令和という時代に選ばれれる人々。そして今の権力とは主権者・国民です」と答えている。

つまり、国民を守る意味だということだ。さらに、「党名にはアイロニーが込められており、解釈は各人の自由です」という趣旨の発言もしている。

アイロニーとは、表面の意味と逆の意味を込めた表現であり、、皮肉であり風刺でもある。新元号の令和を私物化するかのようにパフォーマンスを演じた安倍首相への痛烈な皮肉という見方もできる。

筆者の解釈はこうだ。

戊辰戦争の勝利により、尊王攘夷派が明治国家をつくった。間もなく尊王攘夷派内の長州が実権を握り、手を変え品を変えて、第二次大戦敗北後はおろか、現在まで”長州尊王攘夷派”的なレジーム(思想・政治・体制)が続いている。

現在の安倍政権は当然、長州の流れである。「新撰組」の最大の敵は長州尊王攘夷派だった。

つまり、新選組ならぬ「れいわ新選組」を結成したということは、1868年に長州らにお奪われた政権を、奪還すること。言い換えれば約150年ぶりの政権交代を実現しようという意味合いが党名に秘められているのではないか。

◆新政府八策とは?

旗上げ記者会見では、「政権を奪ったらすぐ実行します」と8つの政策を発表した。

(1)消費税廃止
(2)最低賃金全国一律1500円(政府が補償)
(3)奨学金徳政令(奨学金返済チャラ)
(4)公務員を増やす
(5)一次産業個別所得補償
(6)トンデモ法の一括見直し・廃止
(7)辺野古新基地建設中止
(8)原発即時禁止

「れいわ新選組」の公約「新政府八策」

ひとことで言って反緊縮財政の推進だ。前述したように、国会議員を擁する政治団体としては唯一消費税廃止を政策のトップにかかげている。

厚生労働省の国民生活基礎調査(2018年)で56.5%が「生活が苦しい」と答えている。また、一人暮らし女性の3人に1人が貧困であり、貧困と格差は拡大している。このような人々を救うための政策だ。

山本代表は、「国債を発行して財政を出動させる」と表明している。国の借金が増えて破綻するなどとありえないことを喧伝する一部の人がいるもが、自国通貨・円建ての借金だから破綻はしない。

破綻といえば、ギリシャを思い起こすかもしれないが、ユーロという”外国通貨”を借りて返せなくなったギリシャとは、まるで違うのだ。

消費税に代わる税収としては「とれるところから取る」(山本議員)という。消費税がなくても不公平税制を正せば38兆円の財源が生まれるとの試算もある。(「不公平な税制をただす会2018年度試算)。

◆10億円で衆参ダブル選、3億円で参議院10人候補者

今年夏の参院選挙、場合によっては衆参ダブル選挙もあり得る。当然、選挙資金が必要となるが、それは個人からの寄付に頼る。集まった金額によって戦略戦術を立てていくという。

〇衆参ダブル選で挑戦する場合、10億円が必要。

〇参院選で最大限の挑戦をする場合、5億円が必要。

〇参院選で10人の候補者を擁立する場合、3億円が必要。

無謀な挑戦にならないように、5月31日までに1億円集めることを第一目標にし、1億円集まらなければ、山本太郎議員のみが東京選挙区から立候補する。
 
◆消費税5%減税で窮地におちいるか?

ここ3年以上、野党共闘が叫ばれてきた中での新党結成になるが「別の角度からの野党共闘」(山本議員)という考えで、新党の旗を降ろす場合もありえることも明らかにした。

政策で野党が歩みよれば旗を降ろすというのだが、山本議員は、廃止までは行かなくとも消費税5%減税で野党がまとまったような場合だという。

もしそれを実行すれば、新党はおろか野党勢力・市民勢力が壊滅する可能性もある。

すでに、安倍総理は「消費減税」を訴えて衆院を解散し、衆参ダブル選挙を仕掛けてくる可能性があるという話も流れ始めているからだ。

そうなれば、5%減税などと主張していては、壊滅的な敗北になるだろう。仮に与党が消費税減税を主張しなくても、消費税存続か廃止かの二者択一を有権者にせまるほうが勝利の可能性は高まるだろう。

今回の新党結成はトレンド転換の起点となるか。5月末から6月初旬には、ある程度先が見えてくるかもしれない。

◎れいわ新選組ホームページ https://www.reiwa-shinsengumi.com/index.html


◎[参考動画]山本太郎参院議員、自由離党で新党結成へ 午後6時から記者会見(2019年4月10日)

▼林 克明(はやし・まさあき)
ジャーナリスト。チェチェン戦争のルポ『カフカスの小さな国』で第3回小学館ノンフィクション賞優秀賞、『ジャーナリストの誕生』で第9回週刊金曜日ルポルタージュ大賞受賞。最近は労働問題、国賠訴訟、新党結成の動きなどを取材している。『秘密保護法 社会はどう変わるのか』(共著、集英社新書)、『ブラック大学早稲田』(同時代社)、『トヨタの闇』(共著、ちくま文庫)、写真集『チェチェン 屈せざる人々』(岩波書店)、『不当逮捕─築地警察交通取締りの罠」(同時代社)ほか。林克明twitter

創業50周年!タブーなき言論を!『紙の爆弾』5・6月合併号【特集】現代日本の10大事態
〈原発なき社会〉を目指す雑誌『NO NUKES voice』19号 特集〈3・11〉から八年 福島・いのちと放射能の未来

税金ファシズムをぶっとばせ!法人税に累進性を取り入れ、消費税を廃止せよ! 4月20日の草の実アカデミーは荒川俊之氏「過去の成功体験に学ぶ消費税廃止」

◆消費税は、差別する「凶器」

差別といえば、宗教や人種、性的マイノリティー差別のことが叫ばれるが、それだけではない。大金持ちと巨大企業を優遇し、貧乏人から搾り取る税制も差別そのものだ。

そのシンボルが消費税であり、これを廃止して公正な世の中にして日本を蘇らせようという講演会が、4月20日(土)午後2時から東京都豊島区の巣鴨地域文化創造館第1会議室で行なわれる。

不公平な税制をただす会の荒川俊之事務局長による「成功体験に学ぶ消費税廃止
~法人税・所得税・住民税の大改革を提言~」という講演会だ。

1989年に消費税が日本に導入されてから、3%、5%、8%と増税したのに、30年間も税収は変わらない。

それは、巨大企業と大資産家・超高所得者を大幅減税し、その穴埋めに庶民が支払った消費税を、そっくりそのまま充当しているからである。

その一方で、「日本の法人税は高い」というデマがはびこるが、実際は中小零細企業より巨大企業の税金は安い。所得が1億円を超えると税が安くなる驚くべき事実もある。

まさに「消費税は差別のための凶器」なのだが、この消費税を廃止する公約を第一に掲げた新党「れいわ新選組」(山本太郎代表)が生まれた意義は大きい。

◆日本転落の元凶=消費税
 
消費税が私たちの暮らしに決定的なマイナスをもたらしたのは、1997年4月1日に3%から5%に増税したことだ。

このときからデフレが起き、実質賃金が下がり始め、生活水準がじわり、じわりと下がり、中小零細行差の困窮が始まった。まさに日本転落が始まったのである。
 
まずしい人も大金持ちも同じ比率で支払う消費税は、所得の低い人ほど負担が重くなる逆進性の最たるものだ。このような“年貢”の取り立てに対し、納税者一揆が起きてもおかしくない。

◆輸出戻し税、受取配当利益不算入など大企業優遇のオンパレード

優遇されているのは二つ。大企業と大資産家・超高額所得者だ。まず、法人税法のほかに、本来なら時限立法として企業への「租税特別措置」を大量につくり、それが恒久法化しているのだ。

そのひとつが輸出還付金(輸出戻し税)で、輸出大企業は消費税を税務署に納めないどころか、巨額の還付金をもらい続けている。

そのため、トヨタのお膝元、愛知県の豊田税務署は大赤字。ほかの中小企業などが納めた税金が、輸出還付金としてトヨタに渡されている信じがた状況である。。

『消費税を上げずに社会保障財源38兆円を生む税制』(不公平な税制をただす会=編/2018年1月大月書店)

今回の講演者である荒川俊之氏が事務局長を務める「不公平な税制をただす会」編集による『消費税を上げずに社会保障財源38兆円を生む税制』(大月書店)は、納税者必読本だろう。

この本には、具体的な数字や事実、改革した場合のシミュレーションが豊富に掲載されている。

たとえば、いま例を挙げた輸出戻し税は、トヨタ自動車一社だけで税務署からもらう還付金は3,231億円。以下、日産自動車、マツダなど輸出が多い自動車メーカーが続く。その合計は8,311億円。

自分が納めた税金の全額もしくは一部を還付してもらうのではなく、下請けや仕入れ先が税務署に納めた税金から還付される。

その結果、管内に輸出大企業を抱える8つの税務署が赤字というマンガのような事態になっている。

ワーストスリーは、豊田税務署3,043億円(トヨタ)、神奈川税務署788億円(日産)、広島・海田税務署533億円(マツダ)。数字は赤字額。

これはほんの一例だが、このような企業優遇税制がまかり通っている。

◆大企業はまともに税金をはらっていない

にもかかわらず、「日本の法人税は高い」などというデマもしくは”都市伝説”がはびこり、消費税が必要かのように喧伝されている。

日本の法人税は、零細企業から超巨大企業まで一律に23.2%なのだ。(あくまでも特例措置として零細企業の法人税をを低くする措置はある)。これだけでも驚くべき差別だが、その約23%の税金さえ支払っていない有名大企業がずらりとならぶ。

トヨタ自動車は、08年度から5年間、トヨタは法人税を1円も払っていなかった。零細事業者や低所得の派遣労働者らが血税を払っているのに、である。

消費税を上げろと主張する人たちが「日本の法人税は高い」と言っているのを耳にしたことがあるだろう。実は、明らかなデマであり、騙しのテクニックが存在する。

報道における「法人税率」とは「法人実効税率」のこと。「実効」というと実際に支払うことのように感じるが、法人税・法人事業税・法人住民税の合計を指す。

実際は大企業が優遇されて、法人実効税率32.11%だった11年から5年間、トヨタは21.0%、日産自動車7.6%、伊藤忠商事3.0%、三菱電機1.0%などが実際の負担率だった。

資本主義の権化アメリカでさえ、法人税は、15%、25%、34%、38%、39%の6段階の累進課税である(16年度)。

日本の法人税を5%、15%、25%、35%、45%の5段階の累進性にすると、約19兆円の増収になり、これだけで消費税はいらなくなる。

◆大企業優遇をやめると23兆円の税収アップ

受取配当金益金不算入もある。企業が持つ他社の株の受取配当金を利益に組み入れなくてもいい制度、国内の子会社や関連会社の株配当金は100%除外できる。

それ以外の企業の株配当も、50%を利益に入れなくていい。さらに、あれだけ稼いでいるトヨタの税金支払いが極少額なのは、海外からの配当のうち95%が非課税だから。

海外からの配当が100万円とすると95万円非課税で、5万円分だけ法人税をかけるのと同じことである。

「ただす会」によると、大企業に対する減税は総額23兆円を超えており、企業優遇税制を変えるだけで、その分がまるまる税収増になり、消費税などまったく必要ない。

そして「ただす会」の18年度の試算では、不公平税制をただすと、国税と地方税あわせて37兆3104億円の財源が生まれる。

高額所得者や大資産家への課税も必要だ。所得約1億円を超えると税負担率がどんどん下がっていくありえない事実もある。

高額所得者ほど株譲渡や配当金の占める割合が高くなり、金融所得は5,000万円でも3億円でも100億円でも、税率は一律に20.42%のまま。

給与や事業と分けて計算する分離課税だ。入ってくるものをすべて合計して税率を計算する総合課税にすべきだろう。あるいは、金融所得に累進性を採用してもいい。

当日は、あきれた差別税制の実態と、どこをどう改善すればよくなるか具体的に指摘される予定だ。

消費税廃止を第一公約にかかげる新党「れいわ新選組」も結成されたし、消費税廃止の是非は、国政選挙の最大の争点になるかもしれない

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《講演情報》
第114回 草の実アカデミー
過去の成功体験に学ぶ消費税廃止
~法人税・所得税・住民税の大改革を提言~

講師:荒川俊之氏(税理士・不公平な税制をただす会事務局長)
期日:2019年4月20日(土)13:30開場、14:00開始、16:45終了
場所:巣鴨地域文化創造館第1会議室(東京都豊島区巣鴨4丁目15)

交通:JR山手線・都営三田線 巣鴨駅徒歩15分 巣鴨商店街
資料代:500円
主催:草の実アカデミー
http://kusanomi.cocolog-nifty.com/blog/
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▼林 克明(はやし・まさあき)
ジャーナリスト。チェチェン戦争のルポ『カフカスの小さな国』で第3回小学館ノンフィクション賞優秀賞、『ジャーナリストの誕生』で第9回週刊金曜日ルポルタージュ大賞受賞。最近は労働問題、国賠訴訟、新党結成の動きなどを取材している。『秘密保護法 社会はどう変わるのか』(共著、集英社新書)、『ブラック大学早稲田』(同時代社)、『トヨタの闇』(共著、ちくま文庫)、写真集『チェチェン 屈せざる人々』(岩波書店)、『不当逮捕─築地警察交通取締りの罠」(同時代社)ほか。林克明twitter

創業50周年!タブーなき言論を!『紙の爆弾』5・6月合併号【特集】現代日本の10大事態
〈原発なき社会〉を目指す雑誌『NO NUKES voice』19号 特集〈3・11〉から八年 福島・いのちと放射能の未来

な・に・が「れいわ」だ!「新選組」だ!どあほうが! 「維新」さえ下回る最低最悪な党名「れいわ新選組」を掲げた山本太郎議員への絶望

国会議員の中で「リベラル」から支持を得ていた(得ている)山本太郎参議院議員(現自由党共同代表)が、同氏のブログの中で、

 
山本太郎議員HPより

《山本太郎は、自由党を離党、新党を結成します。ただし、離党は4月の後半。国民民主党と自由党の合流の可否が出たのちその結果にかかわらず離党します。》

と自由党を離党する意向を明らかにしている。

新しく設立される党の名前は「れいわ新選組」だ。

ここから山本太郎氏についての私見を述べるが、「れいわ新選組」との絶望的な命名を決めた山本太郎氏に、

「あなたには最終的に絶望した」と、まずは一切の遠慮なく本心を述べておく。

◆れいわ新選組──これ以上深い私を絶望へと導いてくれる名前はない

山本太郎氏は才能豊かな俳優であり、2011年3月11日後には、NHKなどメジャーな地上波放送局で数多くのドラマに出演したり、ナレーターをつとめていたにもかかわらず「反原発」を明言するなど「社会派俳優」として、マスコミから無視されるなか、少なくない人々から期待を寄せられていた。全国各地を飛び回りデモに参加したり、自主避難をしている福島からの原発事故被害者に寄り添う姿勢は、「知識人俳優」が絶えて久しい芸能界の中では光り輝いていた。

 
山本太郎議員HPより

山本太郎氏は2013年の参議院選挙で、東京選挙区から立候補し見事当選を果たした。当時は「新党ひとりひとり」を名乗り、実質無所属の議員だった。その後自由党の共同代表に就任し、このほど自由党と国民民主党の合流(あるいは両党の合流は成就しないかもしれないが)議論に向き合う過程で「れいわ新選組」なる政党の立ち上げを宣言した。

「れいわ新選組」。この時期に立ち上げる政党の名前として、これ以上わたしをさらに深い絶望へと導いてくれる名前はない。

◆挙げられた政策の順番が違うのではないか?

 
山本太郎議員HPより

同党の政策には、

《れいわ新選組は、ロスジェネを含む、全ての人々の暮らしを底上げします!》との前文のもとに、

・消費税は廃止
・安い家賃の住まい敷金・礼金などの初期費用や家賃、高くないですか?
・奨学金チャラ
・全国一律!最低賃金1500円「政府が補償」
・公務員を増やします
保育、介護、障害者介助、事故原発作業員など公務員化
・一次産業戸別所得補償
・災害に備える
・コンクリートも人も~本当の国土強靭化、ニューデイールを~
・お金配ります~デフレ脱却給付金・デフレ時のみ時期をみて~
・財源はどうするの?~デフレ期にしかできない・財政金融政策~
・真の独立国家を目指します~地位協定の改定を~
・「トンデモ法」一括見直し・廃止
・原発即時禁止・被曝させない ~エネルギーの主力は火力~
・DV問題
 被害者支援と加害者対策、防止教育を基本とし、DV・虐待のない社会の実現へ。
・児童相談所問題
・動物愛護

が紹介した順番に挙げられている。

全体としての問題意識に大きな反論はないが、「順番が違うだろう」と指摘させていただかねければならない。

◆「天皇制にまで切り込め」とまでは要求はしない。だが、しかし……

山本氏は芸能界に入る前から、同世代のなかでは例外的といってよいほど社会問題に対する意識を「隠し持った」人物であった(山本氏に直接インタビューをする中でその知識と感性は幾度も感じさせらた)。今般「俳優」や「役者」はもっぱら顔かたちが整うか、あるいは姿に個性があるか、表層の演技力の有無だけで銀幕やテレビドラマの出演機会が決定されるようだ。

つまり「俳優」、「役者」は「知識人」とまったく同等ではないし、多くの観覧者も「俳優」・「役者」に「知識人」の役割を期待してはいない。演じるものも、観るものも頭のなかには、刹那の感情の揺れ程度の短射程しか期待していないし、関心はないのだ。しかし、わたしはベテランの「俳優」・「役者」から、直接この惨状についての嘆きや、諦めをいくつか聞いたことがある(往年の銀幕スターの多くは、おそらくいまの「役者」の10-100倍の読書経験があろう)。

そのような趨勢にあり、2011年3月11日以降、山本氏の言動には刮目すべきものがあったことは確かである。この通信の発信元鹿砦社が出版する書籍や雑誌のなかでも山本氏には幾たびもご登場いただいた。

山本氏に「天皇制にまで切り込め」とまでは、要求はしない。だがしかし「差別の元凶=天皇制」になんら批判なく党名を「れいわ新選組」などと、日の丸を立てた街宣車を走らせる右翼団体かと勘違いするような、命名をしてしまった愚は取り返しがつかない。これは山本氏の限界を示した象徴的かつ決定的な選択(新選組ではない)として、わたしと近い考えのひとびとには受け止められても仕方がないであろう。

◆「れいわ新選組」は「維新」を下回る「最低最悪」の党名だ!

どうして、右を向いても、左を向いても皇室称賛、改元翼賛が、行政から民間までを巻き込み荒れ狂うるこの時期に、ありとあらゆる機会に「ありがとう平成」などという主語のない、極限の思考停止のフレーズが街にあふれる「異常事態」のタイミングで、敢えて「れいわ新選組」などという、一縷の期待(わたしの期待ではない)をも踏みつぶす名称をあえて選んだのだ。なんとなく少しソフトで若者を引き寄せられたら、次の選挙で票の上積みができるとでも考えたのだろうか。若者はそんなに賢くもないし、政治なんかに興味はありはしない。

山本太郎氏よ、あなたには「政治家」としての資質がある。ときに直接、ほとんど距離を置き、あなたを当選前から眺め、なんども話を聞いたわたしには、あなたが小沢一郎を利用したことは意外ではなかった。なんせ当選が決まった直後の選挙事務所で、あなたはこう発言していたのだから。

「政権を取るまで頑張りましょう!」

あの発言に支援者からは拍手があふれたけれども、わたしは別のことを感じていた。そしてそれは「れいわ新選組」という「維新」を下回る「最低最悪」の党名を選んだあなたの行為によって証明されてしまった。

◆「原発即時禁止・被曝させない」がなぜ、政策の13番目に後退しているのか?

どうして「原発即時禁止・被曝させない ~エネルギーの主力は火力~原発」が16項目ある政策の中で、13番目にもってこられているのだ。ほかの政策が悪いといっているのではない。山本氏、あなたが主張しなければほかのどの国会議員も「筆頭公約」としては掲げない、「原発即時禁止・被曝させない ~エネルギーの主力は火力~」が13番目に後退していることに、あなたの「政治家」としての資質を、わたしは再確認するのである。

もとより、一部を除き「決定的に取り巻きが悪い」という状態が6年続いて、まだ上記の政策を維持できているのは、むしろ「現実的」には評価すべきなのかもしれない。けれども、6年前、山本氏に投票したひとの多くは「現実的」という名の「妥協」をに満足せず、「闘い」や「当たり前でありながらドラステックな変革」を求めていたのではないだろうか。

6年間であなたは「政治家」としては見事に成長した。しかし、あなたは決して取り戻せない貴重な数々を失った。もう「絶望の中にしか希望はない」との思いで投票所であなたの名前を書いたひとびとへの言い訳は、百万語を費やしても成立はしないだろう。


◎[参考動画]山本太郎参院議員、自由離党で新党結成へ 午後6時から記者会見(2019年4月10日)

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

〈原発なき社会〉を目指す雑誌『NO NUKES voice』19号 特集〈3・11〉から八年 福島・いのちと放射能の未来
創業50周年!タブーなき言論を!『紙の爆弾』5・6月合併号【特集】現代日本の10大事態
田所敏夫『大暗黒時代の大学──消える大学自治と学問の自由』(鹿砦社LIBRARY 007)

金曜夜、新宿駅西口地下で3時間話し倒すおしどりマコ『ガチ街宣』NO NUKES

新宿駅西口の地下。高層ビルの立ち並ぶ新都心方面へ向かう通路の手前に、新宿にしては広々とした空間が広がっている。4月12日金曜日の午後6時。ロータリーから見える円形の、色味を深めて夜景になりつつある空を背に、本日の主役がマイクを握った。

漫才コンビ〈おしどり〉のマコさんは、本年7月21日の投開票が有力視されている参議院議員選挙へ、立憲民主党の議員〈おしどりマコ〉として出馬を予定している。『ガチ街宣』と銘打った今日のステージは、約3時間の長丁場となった。

ふと立ち止まり、いつにまにか中央にまで進んで話を聞き続けるサラリーマン。通行の邪魔だと言わんばかりの顔つきで、わざわざ参加者のあいだを通り抜けようとする者。「やば、これテレビ映ってるんじゃね? キャハハ」という(マンガに登場するギャルのように典型的な)明るい声を残して去る、綺麗な女の子2人組。自分からこちらへ歩いてきた女子高生もいる。ひっきりなしに流れる人混みのなか、だんだんと輪が広がり、20時頃には50人ほどの参加者が集まっていた。

今日はとても寒く、気温は9度。運営の方が「使い捨てカイロを持ってきたんですけど、配れません! 公職選挙法でダメなんですね。30円で売ってますのでよろしければ」とアナウンスしていた。

「3.11のすぐあとから、サポートというか、マコさんのツイキャスをずっと見ていて、いろんなことを教えてもらっています。政治のなかでタブー視されてしまっている原発とか被曝とか、そういうところを深く切り込んで追求してもらいたいし、あと、隠されてることも沢山あるので、そういうのをキチンと国民に知らせることができるような議員さんになってほしいな、と思っています」と語るのは、通行人に声をかけパンフレットを配るモリモトさん。

「ホットスポットとか、廃棄物、ああいうものがこのままの状態で忘れ去られるというか、みんな諦めてどこかに埋められてしまうとか、そういうことにすごく危機感を覚えています。将来わたしたちが死んだあと、次の世代、次の次の世代の人たちが苦しむことがないように、今のときにできることをやりたいなと思っています」

講演の内容についてはここに記さない(気になる方はYouTube等でご覧いただくとよいだろう。そして可能であれば、是非現場へ足を運んでおしどりマコさんのお話にどっぷり浸かっていただきたい)が、2日前に『れいわ新選組』を結成した山本太郎氏についてのみ、新鮮な話として載せておくことにする。

「太郎くんがいたからこそ、国会議員ってどういうものなのか、どういう動きがあるのか、どういうことができるのか、知ることができたんですね。で、私が選挙に出るのであれば〈2人目の山本太郎〉みたいな動きをするのではなく、もっと違う、中に入り込んで、中から連携して動かしていくっていうことをやろうと思ってます。太郎くんがまたひとり飛び出して、いろいろ新しい動きをしていくっていうのは、私のやりかたとは全然違うんですけど、すごく面白いし、楽しいことになってきたなと思ってます」

「今日、なんかめっちゃマニアックな話ばっかりしました。マニア増えたらいいなと思って!」と言うマコさんだが、そのマニアックな内容を、長時間飽きさせずに話し伝えることができるのだからスゴい(実際、20人以上が最初から最後まで聴き続けていた)。

◎おしどりマコさん Facebook https://www.facebook.com/oshidorimako
イベント・街宣予定 https://www.oshidorimako.page/home


◎[参考動画]NNNドキュメント:お笑い芸人 vs 原発事故 おしどりマコ・ケン

▼大宮 浩平(おおみや・こうへい) [撮影・文]
写真家 / ライター / 1986年 東京に生まれる。主な使用機材は Canon EOS 5D markⅡ、RICOH GR、Nikon F2。
Facebook : https://m.facebook.com/omiyakohei
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佳境を迎えた滋賀医科大問題 ── 全国から「岡本医師の治療継続」を求める声

4月9日16時30分から大津地裁で患者さん4名が滋賀医大病院附属病院泌尿器科の河内・成田両医師を相手取り「説明義務違反」により損害賠償を請求した民事訴訟と、岡本圭生医師の治療を望む「待機患者」7名と岡本医師が滋賀医大を相手取り「治療妨害の禁止」を求めた仮処分の審尋が大津地裁で同じ日に連続して行われた。

この訴訟と仮処分の日に患者会のメンバーは12時半頃から滋賀医大附属病院前で抗議のスタンディングを行った。患者会は昨年末に「岡本医師の治療継続」を求める署名活動を全国で展開し、短期間に2万8千筆を超える署名が集まった。3月13日署名の現物をもって厚労省、国会議員に嘆願・陳情を行った。それと相前後して病院前での「スタンディング」による抗議活動が始まっていた。冷え込みが強い今年の冬、早朝病院前での「スタンディング」は患者さんにとって、体力的にも厳しいに違いないが、毎回20名を超える参加者が集まり「抗議活動」が続けられてきた。

この日はこれまで最大規模の約35名が病院前に集まり、晴天ながらやや寒い風が吹く中約2時間にわたり、静かに大規模な抗議が展開された。抗議行動に音を上げたのか、病院の事務室ガラス窓は、途中からブラインドが下ろされる。これまでにはなかった病院の狼狽ぶりが観察できた。

約35名が病院前で約2時間にわたり、静かに大規模な抗議を展開した
患者会アドバイザーでフリージャーナリストの山口正紀さん

15時30分からは裁判所にほど近い大津駅前で集会が開かれた。患者会代表の惠さんが「きょうも晴天です。患者会の活動はきっと幸運に見守られているのでしょう」と挨拶をして集会がはじまった。患者会アドバイザーでフリージャーナリスト山口正紀さんが最初のスピーチにたった。

「3月13日厚労省への申し入れも取材しましたが、課長は 『違法行為が確認できないと動けない』というので『違法行為が確認できなくとも、異常なことが起こっていることはわかるだろう』と発言しました。翌日(3月14日)には病院のHPで『新たな小線源治療をはじめる』との告知がありましたが、なんとそれを担当するのは、いま説明義務違反で被告になっている成田医師だそうです。まったく施術の経験がない成田医師。研修を受けた、見学をしたから大丈夫と病院はいっていますが、驚くべきことです。わたしもガンと闘っていますが皆さん共に頑張りましょう」

山口氏はこの日スタンディングから記者会見までの始終を取材されていた。

待機患者の鳥居さん

続いて待機患者の鳥居さんが「わたしには心強い仲間が居ました。ご自身の治療は終わっているのに、手弁当で全国から集まってこられる先輩方の存在です。先日病院前のスタンディングに参加していたら『君は待機患者だろう。体を大切にしなさい。私が変わろう』と言葉をかけて頂きました」と名も知らぬ患者同士の結びつきにより支えられている患者会の運動についての感想を語った。

待機患者の宮内さん

同様に待機患者の宮内さんは「裁判所は常識的に『治療継続』との判断をしてくれると信じています。しかし目的はそれだけではありません。未来の患者にわれわれ同様『岡本メソッド』を受けられるようにする必要があります。そのためには岡本先生が大学に残り、後進の医師を育ててもらう必要があります。皆さん!がんばりましょう!」と元気な訴えを行った。

そのあと、提訴原告の大河内さんと患者会代表幹事で、街頭活動のリーダーが挨拶をし、頑張ろう三唱で集会は結びとなった。到底傍聴席には入りきれない80余名の集会参加者は裁判所前に移動し開廷をまった。

患者会のメンバーが、傍聴できないひとを裁判後、記者会見が行われる教育会館に誘導する。16時20分、傍聴席の扉が開いた。法廷の最後尾にテレビカメラが準備されている。この日の裁判は「冒頭撮影」がおこなわれることがわかった。社会的に注目の高い裁判に限り、テレビ局が裁判所に申請をすれば、代表撮影が2分間許される。

傍聴席には入りきれない80余名の集会参加者が裁判所前に移動し開廷をまった

いよいよ滋賀医大附属病院、泌尿器科を発信源とする問題の数々への注目が、本格的に広がりだしたことを示す証だろう。そういえば、この日病院前のスタンディングから、従来より継続取材と放送を続けているMBS(毎日放送)に加えてABC(朝日放送)の取材陣も新たにカメラを持って現れていた。

16時30分から予定通り「説明義務違反」の裁判が始まり、原告被告双方が準備書面の弁論を行い、参加人である岡本医師の代理人も準備書面を提出した(弁論)。原告側からは、証人として、塩田浩平滋賀医大学長、松末吉隆病院長、原告の申請がおこなわれたが、裁判長は被告に対して、再度の釈明(反論)を求め、被告が5月17日までに書面の提出を行い、次回期日は6月11日13時30分からと決まった。

弁護団長の井戸弁護士

引き続いて仮処分の審尋がおこなわれた。仮処分は非公開なので、傍聴席を埋めた患者会のメンバー取材陣は、記者会見が行われる、教育会館に移動した。仮処分の審尋はせいぜい15分から、長くとも30分程度と考え、記者会見は17時30分開始の予定であったが、記者会見がはじまったのは18時15分であった。

弁護団長の井戸弁護士が会見の遅れた理由などを説明した。井戸弁護士によると仮処分の審尋についての話し合いが長引き、5月中の結論を出せと要請しているが、和解のための期日が4月19日に設けられたとの説明があった。ただし、和解についてはデリケートな内容であり、申立人との確認が必要であることから詳細な説明はなされなかった。仮処分は、早くも決定的な局面を迎えることになった。

岡本医師が会場に現れ参加者に挨拶

記者会見終了後、岡本医師が会場に現れ参加者に挨拶をした。

「本日はお忙しい中、遠方からもお集まりいただきい誠にありがとうございました。私は本日も3名の方の治療を終えて駆け付けた次第であります。私自身、唯一の願いはなんとか待機患者さんを救えるように、また、まだ私の受診すらできず待っておられる患者さんを救いたい。そのことに頑張りたいその一念であります。さて私たちは患者さんの人権や人命を守るために一緒に闘っているわけです。しかし私たちが初めて闘いをしたわけではないことを最近知ることになりました。(中略)私はこの事件を知りとても勇気づけられました。私や私の待機患者さんには既に治療を終わられ、ひたすら利他の気持ちで患者さんを救いたい。なんとかそれに行動したいという多くの方がおられることに大変ありがたく思って居ることと、本当に誇りに思っております。2015年に泌尿器科の不当行為から原告を含める20数名の患者さんを救い出した時から、私の気持ちは一切変わっていません。私はこれまで通り命を懸けて待機されている前立腺がん患者の皆様を救えるように、これからも頑張っていきたいと思いますので、引き続きどうぞご支援のほどよろしくお願いいたします」

岡本医師の挨拶のあと、拍手が鳴りやまなかった。

◎患者会のURL https://siga-kanjakai.syousengen.net/
◎ネット署名へもご協力を! http://ur0.link/OngR

《関連記事》
◎田所敏夫-滋賀医大小線源患者会が同病院正面玄関で抗議活動を決行!(2019年3月28日)
◎黒薮哲哉-[特別寄稿]小線源治療患者会が国会議員と厚生労働省へ嘆願、2万8,189筆の命の署名を提出の命の署名を提出(2019年3月15日)

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

タブーなきスキャンダリズム・マガジン『紙の爆弾』5・6月合併号【特集】現代日本の10大事態
田所敏夫『大暗黒時代の大学──消える大学自治と学問の自由』(鹿砦社LIBRARY 007)

大阪維新の「都構想」に抗い対峙する共生・寛容の釜ケ崎 ── 自主管理で24時間開放された「西成あいりん総合センター」にみんな、来たらええねん!

3月31日18時に閉鎖予定だった大阪市西成区の「西成あいりん総合センター」(以下センター)の1階が現在も開いたまま、しかも24時間開放されている。当日は予想以上に大勢の人たちが集まったため全体が把握できなかったが、参加者らの情報を集約すると、先頭で抗議していたのは1月から続いていたセンターとの交渉に参加し、その後釜ヶ崎地域合同労組で労働相談を受けていた労働者や、仮移転先での募集業務に不満を持つ労働者など、比較的若い労働者が多かったようだ。

さらに遠巻きに応援してくれた人たちも多数いたこともわかった。「お上には文句言いにくいんや」という生活保護を受ける人、身体が弱いため抗議に参加出来ない人、シャッターの向こう側にいたが「良く止めてくれたな」という人たち。なかにはツイキャスを聞きかけつけた近所の若者、「俺らは引っ越すがセンターなくしたらあかん」という上の市営住宅の住民もいた。

予想外に多くの人たちが集まり、しかも誰かの指揮下ではなく、各々がそれぞれに抗議していたことなどが、結果として弾圧や排除を困難にしたのか。まさに数は力なり。しかし何と言っても流れを大きく変えたのは、降りかけたシャッターの真下に身体を横たえた労働者だ。シャッター下に集まる人が次々に増え、実質シャッターは降ろせなくなってしまった。「雨が降ったら野宿の人が困るやろ」と話す彼自身、長く野宿をしていたという。

いずれにしてもさまざまな形の抗議行動が、広いセンターのあちこちで展開され、結果シャッターが降ろせないまま時間が過ぎ、日付が変わり、大阪府がセンター管理者から外れた。

それ以降、センターでは自主管理状態が続く。なぜこのような事態になったのか?センター立て替えを前提とした「西成特区構想」とは、そもそも何を狙うのか、釜ケ崎から報告する。

「力のある者は力を! 知恵のある者は知恵を! 金のある者は金を!」(4月8日撮影)

◆まさに今!「力のある者は力を! 知恵のある者は知恵を! 金のある者は金を!」

4月1日午前0時にセンターの管理が大阪府から離れたことがわかったのは、2日の夕刻、西成労働センターに話し合いの申し入れをした時であった。管理者不在状態のなか、ゴミ回収やトイレ掃除など、当面の管理体制をどうするかが話し合われた。

ゴミに関しては、釜合労委員長の稲垣氏が、選挙中にも関わらず、大阪府に何度も問い合わせし続けた。
「センターから逃げた大阪府は、ゴミの処分に責任をとれ」(稲垣氏)
「不法占拠状態で怖いから(センターに)いけない」(大阪府)
「ならばこっちからゴミを大阪府庁に持って行く」(稲垣氏)
「不法投棄だ」(大阪府)を繰り返し、ようやくセンター1階は国の管轄になっていることを聞き出した。

4月5日(金)、国が管轄するあいりん職安(南海電鉄高架下)に「ごみを責任もって回収しろ」と要求したが、それは職安の仕事ではないと拒否されたため、責任もって国に伝えるよう要求、現在回答待ちである。テント村では毎日トイレ掃除と共にゴミ収集も欠かさず行い、センター内に集め管理している。

テントは24時間交代で仲間が待機し、各方面から届く支援物資の仕分けや管理をしたり、現地を訪ねてくる人たちに現状を説明するほか、医療、生活、労働相談も始まった。支援に来た人たちも立て看作ったり、食事をつくったり、ビラを書いたり……出来ることをやる。もちろんただ現場にいるだけでも力になる。

現在現場ではどのような支援が必要か、釜ケ崎医療連絡会議の大谷氏に聞いた。
「とにかく常時、センターにたくさんの人が集まっている状態を作っておくことが大事だと思います。現場の方からも、そのために様々な集会・報告会などイベントを企画し、センターで行っていきたいと考えています。次回は4月20日『センターの日』が13時から開催されます。ぜひ集まってください」。      

センターで寝床をつくり、寝ている人(4月4日撮影)

◆あの日、釜ケ崎の大きな屋根「センター」が閉まっていたら……

現在センター構内とその周辺には約90人の人たちが段ボールを囲いにしたりして野宿をしている。しかしセンターが開いていることを喜んでいるのは労働者だけではないようだ。センター内に車両を停め、募集業務を行う業者からも「助かったわ」と言われるそうだ。逆にあの日シャッターが閉まっていたら、現在センター周辺はどうなっていただろうか? 狭い道路は業者の車両と仕事を探す労働者、さらには「特掃」(特別清掃就労事業)の輪番の紹介を待つ労働者でごった返し、混乱が生じていたかもしれない。

センター建て替え、仮移転を考えた人たちは、そうした不測の事態を予測しなかったのか? あるいは昼間センターに入れず表に出された人たちがどうなるか? 人気のない場所で安心して野宿出来るのか? 雨の日、夕方シェルター開くのを待つ人たちは? 雨の日の炊き出しは? 労働相談の机だしは?釜ヶ崎の「大きな屋根」センターがなくなったらどんなことが起きるか、考えなかったのか?

◆大阪維新の「都構想」に反対する人はセンターに来たらええねん!

こうした現場の利用者や労働者の声を無視した「西成特区構想」が、何を狙っているのか? 4月7日のW選挙では残念なことにまたもや大阪維新を勝たせてしまったが、彼らの進める「都構想」とリンクする「西成特区構想」は、センターを閉鎖出来ず、事実上頓挫しているのだ。

その根本的な原因は「西成特区構想」が釜ケ崎の主人公である労働者をとことん無視して進められているからだ。さすが選挙で西成の「萩之茶屋」(はぎのちゃや)を「おぎのちゃや!おぎのちゃや!」と何度も連呼しまくる、現場を知らない元市長橋下氏のやることだ。すぐ近くの飛田遊郭では料理組合の顧問弁護士をやりがっぽり儲けたくせに。

センターの「代替場所」として用意された「あいりん職安の待合室」(4月5日撮影)

そんな労働者を無視した「西成特区構想」の実態は、センターの「代替場所」として用意された「あいりん職安の待合室」や「新萩の森予定地」を見ても明らかだ。労働者にとってセンターは、しばらく見てないツレを探しに行く場所、 スポーツ紙で皐月賞を予想する場所、夜勤開けにワンカップ飲む場所、夏場蒸し暑いドヤを出て風にあたる場所、激安スーパー玉出の半額弁当を食うところ……。彼らのような「椅子がある場所に閉じ込め管理すればいい」という発想からは、建て替え後のセンターがどのようなものになるかも容易に想像がつく。そこに労働者の居場所はない。

生活に困窮した者にとって最低限のライフラインを確保できる釜ケ崎のセンターには、かつてのような勢いのある労働者の流入は減ってはいるものの、精神疾患やさまざまな障害、ほかの地で行き辛さを抱える人たちがヘトヘトになりながらも辿り着いている。

どんな人をも寛容に受け入れる「日本一人情のある町」、それが釜ヶ崎だ。橋下氏同様、彼の手先となり釜ヶ崎に足を踏み入れ「荒んだ町だ」などと嘆いた鈴木亘学習院大学経済学部教授(元大阪市特別顧問。西成特区構想担当)らには、そんな釜ヶ崎の良さは死んでもわからんだろう。

センターでは様々な催しが開催されているが、9日(火)の夜には釜ヶ崎を題材に撮られた佐藤零郎監督の16mm劇映画「月夜釜合戦」が上映された。映画にはセンターを大勢の仲間がデモするシーンも出てきた。

昨年秋、大阪、神戸、京都を皮切りに上映が始まり、その後フランス、ポーランドの国際映画祭にも参加、ポルトガルのポルト・ポスト・ドッグ国際映画祭では日本映画初のグランプリを獲得した。受賞理由は「社会の周縁へ追われる人々への共感。日本映画の体制批判の伝統を継承するその方法。この2つを理由に『月夜釜合戦』にグランプリを授与します。人々の厳しい生活の現実をもとにつくられた明朗喜劇であるこの作品は、共生そして寛容という共同体の他ならぬ意味を見出し、賛辞を送っている」とある。

「共生そして寛容」に溢れた釜ケ崎はいま、大阪維新の「都構想」を末端から食い止める場となっている。みんな、センターに来たらええねん!

センターでは様々な催しが開催されている。4月9日の夜には釜ヶ崎を題材に撮られた佐藤零郎監督の劇映画「月夜釜合戦」が上映された(4月9日撮影)

▼尾崎美代子(おざき・みよこ)https://twitter.com/hanamama58
「西成青い空カンパ」主宰、「集い処はな」店主。

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統一地方選・地方の反乱 自民党ボス政治の衰退と大阪で維新大躍進の意味

分裂選挙がどんなものになるか、当事者たちにはわかっていたはずだ。それを承知で自民党同士の一騎打ちは行なわれた。そこには組織としての統制や政治判断はなく、ただひたすら恨みつらみ、感情に支配された迷走があった。

◆麻生財務大臣が「造反」と呼んだ福岡県知事選は「私怨」による分裂選挙

周知のとおり、島根と福岡の県知事選で、自民党は公認候補が敗北した。勝ったのは地元県議が支援する候補だった。このうち、福岡県知事選は完全に私怨による分裂選挙である。すなわち、8年前にみずからが担ぎ出した小川洋知事が、衆院選で「手駒」のように動かなかったことを恨みに思い、対立候補(竹内和久)を自民党本部に「公認」させたものだ。

このみっともない立ち居振る舞いをしたのはわが副総理、麻生太郎財務大臣その人である。本欄でもふれたとおり、麻生が推した竹内候補の集会では塚田一郎国土交通副大臣(当時)が下関北九州道路の推進を「忖度した」ことでケチがついた。当初、2倍から3倍の得票差で負けるだろうと思われていたところ、130万票(小川知事)にたいして35万票(竹内候補)、すなわち4倍以上という惨敗だった。

告示の過程で、麻生太郎は記者の質問に「分裂とは思いません、造反だと思います」と語っていた。造反した連中に惨敗したのである。造反したのは地元の県議・市議クラスばかりではない。古賀誠宏池会会長、山崎拓元副総理など、地元の大物も麻生副総理の振る舞いに反発して、小川知事を支援した。怒気の感情とメンツで突っ走った先が、求心力を低下させる惨敗だったのだ。

人間、加齢とともに経験を積み、その意味では洗練された政治感覚になるはずだと、わたしは人間の成長力を肯定的に考えている。もっとも、高齢化することで忍従やこらえ性がなくなり、思ったことを何でも言ってしまう傾向があるのも確かなことで、そのような老人を見るたびに反面教師として自重するよう努めてもいる。今回の麻生太郎の暴走は、まさしく感情を抑制できなかった「老害」であろう。

◆自民党ボス政治の衰退

いっぽう、島根県知事選挙も地元の県議・市議が推す丸山達也が初当選を果たし、県連が「推薦」自民党本部が「支持」した大庭誠司候補を破った。故竹下登元首相や「参院のドン」と呼ばれた青木幹雄・元自民党参院議員会長を輩出し、「自民王国」と呼ばれた島根県に激震が走ったのだ。党本部が「指示」にとどめたのは、党議拘束することで組織の分裂につながるのを避けたからだ。今回の島根知事選挙で明らかになったのは、県連の執行部および中央の政治家の思惑だけでは地方は動かない、ということであろう。ほかにも県連推薦の候補が当選したとはいえ、福井県知事選、徳島県知事選でも、一部の県議が対立候補を支援した。

あるいは地方創生をうたいながら、官邸主導の政治で地方をコントロールし、地元の大物(じつは中央政治)を「忖度」したつもりで、利益誘導を公然と口にしてはばからない、実質のともなわないパフォーマンスを地方は拒否したのである。それは長らく自民党を支配してきた「ボス政治」の衰退にほかならない。ボス政治の衰退という意味では、今回の分裂選挙を官邸とともに「静観」してきた二階幹事長にも及んでいる。すなわち、二階幹事長の元秘書(中村裕一元県議)が共産党の候補に敗れるという事態が起きているのだ。

◆大阪維新の会の躍進が意味すること

中央に対する地方の反乱という意味では、大阪府知事選・市長選挙における維新の会の躍進、名古屋市議選挙における河村たかし市長の減税の躍進(14議席)が挙げられる。とくに大阪維新の会は、危ないといわれていた松井氏の当選をはじめ、府議選挙では過半数、市議選でも過半数にせまる勝利を達成した。全国的に議席を減らしているのに、大阪では大勝したのだ。

これは知事と市長が入れ替わるダブル選挙を「図に乗っている」(自民党幹部)と評され、中央およびマスコミに批判されたことが、かえって原動力になったと言われている。その通りであろう。維新の会は国政政党としてはイマイチでも、地方政党としての地歩を確かなものにした。こういう政治構造は、たとえば沖縄における社会大衆党などの先行例もあり、地元の利益を主張する独自性があって良いのだと思う。その政治スタンスはともかく、地方党が躍進するのは中央の「独裁」をけん制するうえで、必要なものではないだろうか。


◎[参考動画]【報ステ】統一地方選 大阪・福岡・北海道は(ANNnewsCH 2019/04/08公開)

▼横山茂彦(よこやま しげひこ)
著述業・雑誌編集者。主な著書に『軍師・黒田官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)、『真田一族のナゾ!』『山口組と戦国大名』(サイゾー)など。医療分野の著作も多く、近著は『ガンになりにくい食生活――食品とガンの相関係数プロファイル』(鹿砦社LIBRARY)

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ついつい喋ってしまったがゆえに、詰め腹を斬らされた軽量級の政治家 塚田一郎元国土交通省副大臣の選挙演説の真相

「忖度」し、しかもそれが「ウソ」だったという閣僚が辞任に追い込まれた。

「わたくしは渡世の義理だけで生きている麻生派、根っからの麻生派であります」
渡世の義理で選挙の応援に来た閣僚は、こう口火を切ったのだった。

「みなさんよく考えてくださいよ。下関は誰の地盤ですか。安倍晋三総理ですよ。安倍晋三総理から麻生副総理の地元でもある北九州への道路事業が止まっている。……私、すごく物分かりがいいんです。すぐ忖度します。……今回の新年度の予算に国で直轄の調査計画に引き上げました」「吉田(参院)幹事長が大家(聡志)さんと一緒にやって来て『塚田、わかってるな。総理と副総理の地元なんだぞ』と言うんです。わたしは物分かりがいいんです。総理や副総理が自分では言えないから忖度します」(4月1日、福岡知事選挙応援の演説)

こう演説したのは、元国土交通省副大臣の塚田一郎だ。利益誘導を「忖度」する。総理と副総理の地元だから、停止している道路事業を再開させると喧伝し、国会でマスコミでおおいにその名を売った。辞任の顛末はともかく、事実関係をたどっておこう。

 
◎[参考資料]下関北九州道路の早期実現に係る要望(2018年3月28日)

4月1日(エイプリルフール)の発言だからか、この発言は「事実ではありませんでした」つまり「ウソ」だったとしている。だとしたら、公職選挙の運動の場において「ウソ」で集票しようとしたことになる。

この道路事業というのは、山口県下関市彦島から福岡県北九州市小倉北区に至る約6キロメートル(海上部の吊り橋約2キロ)の地域高規格道路である。かつて「第二関門橋」と呼ばれた30年来の計画で、安倍晋太郎の時代から熱烈な運動がくり広げられてきた。道路は全線が候補路線であり、建設を行うためには計画路線への格上げが必要となっていた。それを政権首脳に「忖度」して、国レベルの調査として、一気に計画路線にしてしまおうというのが、応援演説の真意である。

この「忖度」発言およびそれが虚偽だった件について、参議院決算委員会において、安倍総理は「過去にいくつかの要望事項のひとつとして、設置要望の大会に出たことはある」、麻生副総理は「記憶に定かではない」などとはぐらかして、自分たちの要望が「忖度」されたものではないかのように答弁した。

事実はそうではない。安倍総理は「関門会」なる政治団体の一員として、道路実現のための「要望書」に名を連ねている。総理官邸で大家聡志参院議員に推進のための「指示」もしているのだ。麻生太郎副総理は「下関北九州自動車道路の早期実現に係る要望書」(平成30年版)には整備促進期成同盟会の「顧問」として名を連ねているのだ。ちなみに、この要望書は毎年提出されているが、すくなくとも28年度以降、麻生は「顧問」となっている。

したがって、塚田元副大臣の発言はきわめて事実に近いのではないか。

◎[参考資料]下関北九州道路の早期実現に係る要望(2018年3月28日:PDF)

総理および副総理への「忖度」で政策をゆがめたのであれば、政治の私物化にほかならない。そして「忖度」をしたという演説が「ウソ」だったとしたら、虚偽の宣伝、選挙民への裏切りである。どちらにしても副大臣を辞任するしかないのが、塚田一郎国交副大臣の立場だった。そして、どうやら野党が「辞任」に向けて問責決議などの猛追をかけず、やんわりと話題にしつつ、おそらく参院選挙までこの話題を引っ張ろうとしていることに、自民党は気づいたのだった。そこで一転、更迭となったものだ。

すでにこの欄でもふれたとおり、新元号「令和」は法(令)による支配とそれに対する和(反抗しない)がもう一つの意味である。いわば規律を国民にもとめる政府が、身内の「利益誘導」や「ウソ」には寛大であるという、醜い姿をさらしてしまっていたのだ。

塚田元副大臣の「忖度」発言によって、下関北九州道路は「忖度道路」という印象を持たれてしまった。今後、国レベルでの調査・建設計画が進むにつれて、国民は「あれは忖度で進んでいる工事だ」「ゆがんだ利益誘導によって造られている橋」となってしまうであろう。それにしても、新たな橋が必要かどうかである。

私の実家は、対岸に彦島(下関市)を眺める門司区と小倉北区の境い目にあり、響灘と呼ばれる静かな海を遠望できる。母校(九州国際大学付属高校)の校歌に「♪遠く玄海荒れるとも 波静かなる響灘」とあるように、穏やかな風景のなかに馬島などの小島が見える。瀬戸内海の延長でもあるがごとき環境で、そこに巨大な橋を架けるのは無粋との反対意見もある。海底トンネル(自動車道)は老朽化による修理の頻発があるとはいえ、関門大橋はあと100年は使用可能だとされている。鉄道の海底トンネル(鹿児島本線)、新幹線の海底トンネルも健在である。

その意味では、地元の財界が数千億円といわれる建設費を見込んでの促進運動ともいえるのだ。今回の利益誘導の裏側にはしたがって、政財界の癒着という構造が見え隠れしている。そしてその中枢に、現役の総理大臣と副総理大臣が名を連ねているという由々しき事実だ。この案件から目が離せない。

▼横山茂彦(よこやま しげひこ)
著述業・雑誌編集者。主な著書に『軍師・黒田官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)、『真田一族のナゾ!』『山口組と戦国大名』(サイゾー)など。医療分野の著作も多く、近著は『ガンになりにくい食生活――食品とガンの相関係数プロファイル』(鹿砦社LIBRARY)

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