◎[参考動画]防衛省、韓国艦レーダー照射映像を公開(毎日新聞2018/12/28公開)

 

2019年1月4日付け防衛省・自衛隊HPより

昨年末、韓国海軍の駆逐艦が海上自衛隊の哨戒機をレーダー照射した一件で、日韓両国はまるで戦争前夜のような騒ぎである。火器管制レーダーを照射すること自体は、たしかに発砲寸前と思わせるもので、国際慣習にしたがえば危険な行為である。レーダー照準でロックオンし「すぐにも撃つぞ」と脅しているようなものだからだ。防衛省が証拠として空自機の録画画像を公開し、韓国国防当局はそれに「救援活動のために、全レーダーを使用していた」と反論し、のちに「レーダー照射はしていない。日本機の低空飛行こそ脅威を煽った」などと日本側を批判した。ワイドショーでは、いまにも戦闘行為がはじまるかのように、この一件を大々的に報じている。いわく、事実関係を二転三転させる韓国政府は、まともな独立国家の呈をなしていない。国際的に恥を晒している、などと。

とはいえ、ただちに政治問題化するほどのものではなかったはずだ。経済水域内への艦艇の派遣は、相互に了解済みだからである。竹島(独島)をめぐる韓国はもとより、中国の尖閣諸島(釣魚諸島)海域への進出も、じつはいつも事前に通告がある行動なのだ。年間200回をこえる空自機のスクランブル発進も、じつは日常業務として日本・中国・韓国三国の了解事項なのである。と言えば、おどろく向きも少なくないのではないだろうか。だが、それが軍事の現場の実態である。


◎[参考動画]韓国国防省、反論の映像を公開(毎日新聞2019/01/04公開)

◆域内緊張の増大化は、予算獲得のためのデモンストレーションである

それらはもっぱら、予算獲得のためのデモンストレーションと言うべき現場の要請であり、幕僚の事実追認によるものである。いや、航空幕僚がそれを仕向けているのかもしれない。創設後60余年、戦争はもちろん戦闘行為をしてこなかった自衛隊(日本軍)は、紛争の警戒や緊急出動などを日々の糧に、その存在理由を示してきた。つまり予算獲得のために、つねに緊張感をつくっておかなければならないのだ。その事情は、中国海軍・空軍、韓国海軍においても同じである。

それは歴史問題で日本を批判するのと同じように、中韓両政府の求心力を高め、反政府運動を統制しうる内政の特効薬でもある。いわく、自衛隊機がカミカゼ特攻隊のように、わが国の艦船に低空で肉迫したと。たしかに歴史上、関東軍のたび重なる挑発で事変(紛争)が拡大し、日中15年戦争という災禍を引きおこした。それが結果的に太平洋戦争につながったのも史実である。とはいえ、平時の前線指揮官ほど紛争に敏感なものである。予算の獲得には熱心であっても、彼らは紛争の防止に神経をとがらせている。軍人ではなく、サラリーマン官僚としての安寧を第一に考えるからだ。ところが、ひとりだけ今回の事態に勇躍して発言をつよめた政治家がいる。わが安倍総理である。

◆総理の危険な感情

テレビの討論会で声高に、わが総理は韓国海軍に防止策を要求したのだ。ただでさえ反日を旗印にしている韓国左派メディアがこれに反応し、韓国国防省は「日本は謝罪をするべきである」となってしまった。これは安倍の意図したところなのであろう。国論を防衛費の増大にみちびき、改憲(自衛隊の国軍化)にむけた政権の求心力を意図したものにほかならない。だがそれも、穏便にやっているうちには成功したかもしれない。いや、やや過激に突き出すことで、世論を喚起する狙いは果たせたのかもしれない。

だがそのいっぽうで、韓国政府のエキセントリックな反応を引き出してしまったのだ。これではアジアにおける日本の政治的な主導権、とりわけ中国と北朝鮮に対する外交的な主導権は立ち行かないであろう。基調とする日米同盟に韓国をリンクさせることで、やっと日本の立ち位置はあるのだから。その意味では、緊張感をつくって存在をPRしようとした現場のパフォーマンスを、安倍は真に受けてしまったことになる。

けっきょく、安倍晋三という政治家は「感情」で政治をやってしまうのである。政治家の資質としては、じつに危険きわまりない。その「感情」がネット右翼や保守層の感情に訴えることはあっても、アジアの盟主を任じる本来の保守層を納得させるものではない。参議院選挙で自民党の大敗が予測されている。いまだに実感の持てないアベノミクスの「成果」とともに、この男に政権をまかせておくと、とんでもないことになりそうだと。ようやく保守層が考えはじめているのだろう。


◎[参考動画]日本の舵取りどう進めるのか? 安倍晋三総理に聞く(ANNnewsCH 2019/01/01公開)

▼横山茂彦(よこやま しげひこ)
著述業・雑誌編集者。主な著書に『軍師・黒田官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)、『真田一族のナゾ!』『山口組と戦国大名』(サイゾー)など。医療分野の著作も多く、近著は『ガンになりにくい食生活――食品とガンの相関係数プロファイル』(鹿砦社LIBRARY)

本日発売!月刊『紙の爆弾』2019年2月号 [特集]〈ポスト平成〉に何を変えるか

横山茂彦『ガンになりにくい食生活――食品とガンの相関係数プロファイル』(鹿砦社LIBRARY)

「おい、田所! ○○はもうダメらしい」
「ダメってどういう意味ですか。きのう卒業したばかりでしょ?」
「ビルから飛び降りて今病院に収容されている。親御さんから連絡があったらしい」

同じ部署に勤務する先輩からこの言葉を聞いた瞬間に「しまった!迂闊だった」と後悔した。自分の体温が急速に下がるのがわかった。

○○さんは涼しげな表情をしているが、声はNHKのアナウンサーも務まりそうな学生で、彼女が1回生の時から言葉を交わしていた。

大学は卒業式前から入学式後のゴールデンウィークまでが、多忙を極める。わたしが当時配属されていた部署も同様であった。卒業式前の数日は両手で電話の受話器を抱えて会話をすることもあるほどだった。

ただし、そんな多忙が年中続くわけではなく、繁忙期が過ぎれば、比較的仕事の時間は自分でコントロールできた。1日の半分近くを学生との会話に費やしたり、引っ越しする留学生の手伝いに出かけることも珍しくはなかった。わたしの仕事場は狭い部屋ではあったが、一応の応接セットがあり、気が向いた教職員や、学生が訪れてはよもやま話や、悩みを語る場所でもあった。講義の空き時間に、もっぱら昼寝の場所として訪れる学生もいた。学生の話が深刻なときは、他人に聞かれてはまずいので場所を移す。そんな常連のひとりに○○さんがいた。

彼女は頻繁にわたしの仕事場にやってくるので、いつのころからか、持参したマグカップをわたしの仕事場に置いていた(そんな学生は彼女以外にも数名いた)。

○○さんは卒業式の前日、わたしが文字通り飛び回っている最中に、部屋にやってきて、何かを話したそうにしてた。わたしは別の場所から呼び出しがかかっていて、部屋を出る直前だった。たしか、「これ持って帰ります」と聞いたように記憶する。わたしは「急ぐのかい。少し待っとけよ」と言い残して階段を駆け下りた。要件を処理して部屋に戻ったのは半時間後くらいだったろうか。もう○○さんの姿はなかった。その後も息つく暇もない忙しさに追われ、○○さんのことに思いを巡らす余裕はなかった。

あのとき、彼女は単なる卒業という別離ではなく、違う「別れ」の意味をわたしに理解してほしくて、「これ持って帰ります」と言葉をかけたのだ。彼女が入院している病院に見舞いに訪れる前から、そのことには気づき、自分の鈍感さを責めた。仕事の忙しさに、目の前の「命」の危機に気が付かなかった自分。その兆候を充分すぎるほどしっていて、幾度も主治医と相談していたはずのわたしが、どうして、○○さんからのサインを受け止められなかったのか。

あれは何年前だったろうか。ちょうど、松任谷由実のこの曲がラジオから流れていた。

○○さんを車に乗せて下宿まで送ったときにもこの曲は流れていた。「春よ、か…」○○さんはつぶやいた。「春の真っ最中だろうが、大学生は」と不用意な言葉を発したわたしに、○○さんは「田所さん。人生に『春』ってありましたか」といつもにもまして真剣なまなざしが向けられた。「こんなおっさんにあるわけなかろうが」と胡麻化したが、○○さんの視線はまだわたしから離れなかった。

彼女は悩みに悩んでいた。わたしの力では到底解決できない、重たい運命を○○さんは背負っていた。根本をどうにもできないのだから、わたしは表面だけでもなんとかできないものかと、それなりに考えた。○○さんと語った時間も少なくはない。

でも最後に○○さんがわたしにたいして発した、一番大切なシグナルをわたしは受容できなかった。「人間失格だな」とすら思った。が、「そんなに力があるわけでもないよな」とも言い訳した。

「花が散った」と思った。

悔恨の情は今でも忘れられない。わたしと同じような経験をした方々(周辺諸条件は違えども)は、言い出せないがゆえに、語らえないけれども、少なくないに違いない。

この私的経験にはなんの教訓もない。無理やり意味を付与すれば、人生には時として、「どうにもならない」ことがあるのだ、ということくらいか。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

明日発売!月刊『紙の爆弾』2019年2月号 [特集]〈ポスト平成〉に何を変えるか

田所敏夫『大暗黒時代の大学──消える大学自治と学問の自由』(鹿砦社LIBRARY 007)

私は現在、様々な死刑事件を継続的に取材している。そこで、新年早々暗くて申し訳ないが、今年新たに死刑が確定しそうな事件を予想させてもらおう。

結論から言うと、今年は3人の被告人が新たに死刑確定者となりそうだ。

最高裁。1月22日に西口の弁論がある

◆「平成最後の死刑確定者」は西口宗宏か

まず1人目は、堺市資産家連続殺人事件の西口宗宏(57)だ。

西口は2011年11月、歯科医夫人(当時67)を殺害し、現金約31万円やキャッシュカードなどを強奪。死体は山林でドラム缶に入れて焼却した。さらに同12月、知人である象印マホービン元副社長の男性(当時84)の自宅に押し入り、男性を殺害したうえ、現金約80万円やクレジットカードなどを奪った。殺害方法は、いずれも顔にラップを巻き、窒息死させるというもので、残酷極まりなかった。

そんな西口は第一審で死刑判決を受け、すでに控訴も棄却されている。現在は最高裁に上告中だが、最高裁は1月22日、弁護側、検察官の意見を聴く弁論を開くことになっており、これで審理が終結する見通しだ。最高裁は通常、審理終結から1カ月前後で判決を出すので、おそらく西口は2月か3月に上告が棄却され、死刑が確定するだろう。

ちなみに、最高裁は通常、書面のみで審理を行うが、死刑事件については、審理を終結する前に弁護側、検察側双方の意見を聴く弁論を開くのを慣例としている。現在、死刑判決を受けて最高裁に上告中の被告人は西口以外に4人いるが、この4人はまだ誰も弁論の期日が指定されていないので、西口は「平成最後の死刑確定者」となる公算が大きい。


◎[参考動画](大阪)「遺体をドラム缶で燃やした」堺市女性不明 2011/12/17(田中五郎 2012/02/0公開)

◆西口に次ぐ死刑確定者候補は2人

西口に続いて死刑が確定しそうなのは、山口5人殺人放火事件の保見光成(68)だ。

2013年に山口県周南市の山あいの集落で住民5人が木の棒で撲殺された事件で、殺人罪などに問われた保見は、第一審で死刑判決、控訴審で控訴棄却の判決を受け、西口同様、最高裁に上告中だ。まだ最高裁は弁論の期日を指定していないが、保見は控訴審で控訴棄却の判決を宣告されたのが西口より1日早く(西口の控訴棄却は2016年9月14日、保見の控訴棄却は同13日)、西口と比べて審理の進行がそんなに大きく遅れるとは考えにくい。

当欄の2016年9月14日付けの記事で紹介した通り、保見は深刻な妄想性障害を患い、荒唐無稽な冤罪主張を繰り広げているため、そのことが最高裁での審理をややこしくさせているのかもしれない。だが、最高裁の判決が来年以降に持ち越されることは無いだろう。


◎[参考動画]凶器同一か、全員の身元も判明 山口・周南の5人連続殺人放火事件(最新ニュース 2013/08/11公開)

名古屋拘置所。現在、堀が勾留されている

そして今年3人目の死刑確定者となりそうなのは、名古屋闇サイト事件の犯人グループの1人、堀慶末(43)だ。

堀は2007年、闇サイトで知り合った他2人の男と共謀のうえ、会社員の女性を殺害し、金を奪うなどし、第一審で死刑判決を受けた。控訴審で無期懲役に減刑され、命拾いをしたものの、その後、パチンコ店責任者の夫婦を殺害し、現金を奪っていた余罪が発覚した。そして第一審で死刑判決を受け、今度は控訴も棄却され、現在は最高裁に上告中である。

控訴が棄却されたのは2016年11月18日だから、西口や保見より控訴棄却は2カ月遅い。現時点でまだ弁論の期日が指定されていないので、1月22日に弁論が指定されている西口より先に死刑が確定することはないだろうが、保見のことは追い抜いてもおかしくない。


◎[参考動画]闇サイト殺人事件の遺族が講演「何度思い出しても苦しい」(サンテレビ 2018/11/25公開)

つまり、この堀か、保見が新しい元号のもとでの初の死刑確定者となる公算が大きい。

堀の次に死刑が確定しそうなのは、順当なら前橋連続強盗殺人事件の土屋和也(30)だが、控訴棄却されたのは2018年2月14日で、堀や保見より1年以上も遅い。今年中に死刑が確定することはまず無いだろう。

もっとも、死刑事件は通常、被告人が最高裁まで裁判を続けるが、たまに第一審で死刑判決を受け、その時点で裁判を終わらせる被告人もいる。そういう被告人が今年中に現れないとも限らないので、そうなった場合、私の予想は外れることになる。


◎[参考動画]東海テレビ開局60周年記念ドキュメンタリードラマ「Home ~闇サイト事件・娘の贈りもの~」(tokaitvbroadcasting 2018/12/11公開)

▼片岡健(かたおか けん)
1971年生まれ、広島市在住。全国各地で新旧様々な事件を取材している。

新年1月7日発売!月刊『紙の爆弾』2019年2月号 [特集]〈ポスト平成〉に何を変えるか

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

すべてのデジタル鹿砦社通信愛読者の皆さん! あるいはたまたま本通信をきょうご覧になった方々! 2019年を迎え、愛読者の皆さんのご多幸をご健勝を祈念するとともに、年始にわたり、そして鹿砦社創業50周年の記念すべきこの年の冒頭に、われわれは,“われわれのファンダメンタル(原理主義)宣言”をここに発するものである。

 

好評発売中! 板坂剛と日大芸術学部OBの会『思い出そう! 一九六八年を!! 山本義隆と秋田明大の今と昔……』

1969年、世界中にベトナム反戦運動は吹き荒れ、70年安保を控え、国内でも学生・労働者の運動が活発化したその時に鹿砦社は産声をあげた。昨年、板坂剛氏が上梓した『思い出そう!一九六八年を!!』が注目を浴びている。1968(あるいは1967)年から1970年までの数年間は、文字通り世界が揺れ動いた数年間であった。われわれの多くは当時、生は受けていたものの自我を獲得する年齢には至っておらず、「あの数年間」の雰囲気は伝聞や記録でしか知らない。

しかし、そんなわれわれにも、時代が(「若者たちが」と言い換えてもいいだろう)根底から価値観や、存在自体を問わざるを得なかった、地響きのような重低音は残響となって聞こえてくるのだ。われわれにとって1967、1968のエッセンスとはそのようなものであり、当時はそのようなことを言葉で確認する必要などこにもなかったのだ。

では、1967、1968そして1969のエッセンスとは何か。これについてはすでに様々な書籍や論文が世界各国で論じられているので、われわれごときがその論争に加わる、身の程知らずは辞退する。しかしながら、爾来50年にわたり紆余曲折の中読者に支えられ存続した鹿砦社のスピンオフである「デジタル鹿砦社通信」は、ここに改めてわれわれの原点を確認すべく“われわれのファンダメンタル(原理主義)宣言”を発する。

1.われわれは、あらゆる権力・権威から独立し、それらを批判する立場を基礎とし活動する。権力とは政治権力だけではなく、司法権力、行政権力、マスコミ、民間の既得権益なども例外ではない。

2.われわれは、あらゆる差別に反対する。人種、国籍、性別、出自、思想信条、貧富は言うに及ばず、「いわれのない差別」といった不十分な表現(「いわれのない差別」は「いわれ(原因)のある差別」を肯定する余白を残した表現である)へも疑問の目を向ける。

海外から低賃金で使い捨てにできる、単純労働者の受け入れを行う4月からの改正入管法施行には断じて反対する。反差別の立場からは、新たな「奴隷制度」を認めることなど断じてできない。

3. 同時にわれわれはあらゆる「表現規制」にも反対する。差別言辞には現行法で対応すればよい。一部勢力が画策する「差別禁止法」などは、耳触りは良さそうだが、内面の自由を侵害する危惧が大いに懸念される。

その類例は、しばき隊が「敵勢人物」と烙印を押したら途端に「レイシスト」認定される現状がすでに示している。この判断を権力にゆだねたらどのようなことが起こるのか。権力にとって不都合な言論が狩られることは明らかだ。

4.いまだに「原子力非常事態宣言」下に暮らすわれわれは、福島第一原発事故とその被害者の方々を忘れることなく、明白すぎる選択として、脱・反原発の速やかな実現に全力を傾注する。

トルコと英国への原発売込みが、採算が合わないことにより断念された。日立や三菱だではなく、世界中で原発はコストに合わないことが証明され、認知が広まっている。それ以前に事故を起こさなくとも、周辺住民に重大な健康被害を与え、廃棄物を100万年も管理しなければならない、人工物など、自然の倫理の観点からも許されるのではないことは明らかである。世界で初の原発4機爆発という、大惨事を経験した国として、また第二次大戦では広島・長崎に原爆投下を受けた国として、脱・反原発を実行するのは義務ともいえよう。

5.国政が停滞している。正確には自公に維新が癒着した巨大な極右勢力が盤石な与党を形成している。その元凶は小選挙区制である。「政権交代可能な制度」・「中選挙区制は金がかかりすぎる」との掛け声で小選挙区制が導入されたが、この制度ではさして主張の異ならない2大政党の存在を前提としている。その前提がまず全く妥当性を欠くのだ。

求められるのは、現極右政権に、真正面から反対・対立する野党の存在である。残念ながらそのような野党は現国会の中には見当たらない。「野党共闘」をいくら進めても無駄である。そもそも民主党が崩壊して出来上がった立憲民主党ほかの、泡沫野党は、いずれも「保守」を自認しているではないか。保守政党は自民党で十分なのだ。「保守」を名乗るのであれば、自民党に入党せよ。

必要とされているのは「保守」に対する「革新」諸政策を明確に掲げる政党の誕生である。その政策は、(1)護憲、(2)消費税の廃止と所得税累進税率の上昇(金持ちから多く所得税をとる)、(3)小選挙区制の廃止、中選挙区制の復活、(4)原発の即時廃止、(5)日米安保の破棄、(6)東京五輪、大阪万博の返上、(7)リニアモーターカー建設の中止、(8)カジノ法廃案、(9)集団的自衛権を認める「安保法制」の廃止などが基本政策に掲げられるべきだ。

6.そして、われわれは上記のような野党の誕生があろうがなかろうが、上記(1)から(9)の主張を展開する。ことしはこの国だけで通用する時間軸(元号と呼ぶらしい)が変わるとしだが、どうしてその代替わり儀式がメーデーに行われるのか。現憲法はそのような矛盾を包含してはいるが、巨大与党が目論む改憲は、さらなる反動的内容に満ちているのであり、差し当り前向きではないが、現憲法の精華である前文と9条を死守するために、「護憲ファンダメンタリズム」を提唱する。

われわれは、あらためて今日的問題の原点に回帰し上記の原則を維持発展しながら、言論戦線の先頭に立ち闘うことを宣言する!

2019年1月2日  
デジタル鹿砦社通信編集部  

 
 

新年1月7日発売!月刊『紙の爆弾』2019年2月号 [特集]〈ポスト平成〉に何を変えるか

『NO NUKES voice』Vol.18 特集 2019年 日本〈脱原発〉の条件

毎年、大晦日にはその年を回顧して、偏狭ながらわたしなりの総括を行う。ここ数年定例行事になっている。貴重な機会を頂いている光栄に、まず感謝せねばらならない。今年、この原稿は12月の中旬には骨子を完成しておくつもりであった。しかし、なかなか頭の中で〈核〉を見つけることができぬまま、あっというまに年末を迎えてしまった。

つまり、容易に総括が可能な1年ではなかったというのが結論だ。言い訳のようであるが、国内・国際ニュースから鹿砦社がかかわった諸事件やイベント、さらにはわたし個人が直面した出来事までをひとまとまりにして論じることが、ますます困難になってきている。

◆日替わりで登場する「姑息」な連中の跳梁跋扈は例年通りだが、
 どうしてここまで見え透いた、悪辣な嘘を平然と口にできるのか?

小情況に見受けられる、人間の「姑息さ」(狡さ)と、逆に「偉大さ」は相も変わらずである。どうしてここまで見え透いた、悪辣な嘘を平然と口にできるのか、と日替わりで登場する「姑息」な連中の跳梁跋扈は例年通りだ。見えやすいところでは、安倍晋三をはじめとする政権中枢に巣くう政治家どものレベルの低さと悪辣さは、昨年とさして比がない(ということは毎年この国の政治には欺瞞と虚構が堆積され、そこに『利息』としての副作用も上積みされている)。

あえて指摘すれば首相や大臣が明らかな虚偽発言や政治資金に関する不正に手を染めても、辞任や解任をされることがほぼなくなった事実は、特筆されるべきだろう。その背景には迫力の欠如が著しい、野党の体たらくと、権力監視機能をみずから放棄したマスコミの大罪。そして議会制民主主義の制度疲労(小選挙区制の弊害)及び、国民の決定的な政治・社会問題への無関心(その誘因たる、「政治無関心大衆」を作り出そうとした、教育行政、労働行政、マスコミ、腐敗した労組などが設定した「目標の結実」)も度外視はできない。そんな中、今年15名の死刑が執行された、冷厳な事実は忘れられてはならない。

◆末期資本主義に最も相応しい人物 ── ドナルド・トランプと安倍晋三

世界は、有り体な「力学」や政治学では説明がつかない時代に突入したようだ。トランプという大富豪が大統領に就任して、米国の政策立案プロセスは(それに対する評価は別にして)大きな変化を余儀なくされた。長官の去就が相次ぎ名前を覚えるのにも苦労するほどだ。ある意味では末期資本主義(新自由主義や新保守主義とも呼ばれる)に最も相応しい人物が、米国大統領として、米国の利益を口にしながら、その実、企業利益を最も重視して、朝令暮改を繰り返していると見るのが妥当かもしれない(そのような人物評価は安倍晋三にも当てはまるだろう)。

朝鮮の金正恩と急接近したのも、旧来の外交ダイナミクスからは想定され得るアクションではなかった。朝鮮半島の和平などトランプの主眼にはなかろう。どうすれば遅滞なく大企業、なかんずく多国籍企業の収益が最大化できるか。その為に中国が近く直面する国内の大混乱を予見できる人間であれば、朝鮮半島に担保を築いておくことは誰でも思いつくことだろう。

◆中国の矛盾と理性ある欧州という幻想

貧困層までスマートフォン決済が行き渡った中国は、経済的にゆるぎない大国にはなったが、この国では法律が機能しているとは言い難い面を持つ。力ずく、数の勢いで抑え込んでいる貧困問題、わけても農村の疲弊や、民族問題(チベット・ウイグル・内モンゴル)は、沿岸部の富裕層がいかに増えようとも、そんなところに処方箋はない。貧困層でもスマートフォンを持っているのは、中国では政変を多数経験した歴史から、通貨への信頼が薄いのと、国家が国民を管理する手っ取り早い手段である2つの理由からだろう。

間もなく頭打ちになる中国経済が、下降線をたどり始めたら、途端に国内矛盾は爆発するだろう。同国にあっては、この島国のように国民の意思や感情は骨抜きにされ、悪政に不感症ではない。世界はそのことを知っている。

欧州があたかも人類の先進的な理性を持つかのように語るひとびとが多いが、私は違和感を持つ。たしかに歴史的な蓄積により人権意識や、民主主義の概念を強く意識する人々が多いのは事実だろう。しかし、国家とはつまるところ暴力の独占体である。EUから英国が離脱するのは、「国家が国家たり得なければ納得しない」本質の現れであり、国境に出入国管理所を置かないEU諸国にしたところで、国家が包含する本質的な暴力性や、矛盾から自由ではありえないのだ。その証拠に世界の人権大国のように称されるドイツにも2011年まで徴兵制が存在したし、ドイツは現在もNATOに加盟しシリアへの派兵も行っている事実を示すことができる。

世界中のひとびとが、毎日何時間もスマートフォンの液晶を指で撫でる行為によって標準化されたように見える。情報処理速度が向上することへの無警戒さと、通信速度の高速化は、人間から思考・感情・体感を奪う。その成果(弊害)をもう十分すぎるほどわたしたちは目にしている。

◆2019年、あらゆる確かさはますます揺らぐ

2019年、あらゆる確かさはますます揺らぐ。不安定さは膨大な不毛な情報と、これまた不毛な各種イベントで隠し通うそうとされるだろう。

だが抵抗の手段はある。

超高速情報があふれるかのように誤解される日常にあって、立ち止まり、一人になってみるのだ。幻想としての濁流の中で立ち止まり、情報の濁流の川上を眺めてみるのだ。きっと思いがけない何かが見つかるに違いない。散々な時代だ。散々な2018年だった。希望や期待は語るまい。だが断言しよう。可能性はあると。

本年もデジタル鹿砦社通信をご愛読いただきまして誠にありがとうございました。来るべき年が、皆様に幸多き年でありますように祈念いたします。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

新年1月7日発売!月刊『紙の爆弾』2019年2月号 [特集]〈ポスト平成〉に何を変えるか

『NO NUKES voice』Vol.18 特集 2019年 日本〈脱原発〉の条件

板坂剛と日大芸術学部OBの会『思い出そう! 一九六八年を!! 山本義隆と秋田明大の今と昔……』

二倍遠く離れたら 二倍強く思ってください
五倍遠く離れたら 五倍大きく動いてください
生まれ育ったこの町に とどまるしかない僕らのため
生まれ育ったこの町で 生き続けようときめた僕らのため
二倍強く思って 二倍深く考えてください
五倍大きく動いて 五倍この国を変えてください

二倍遠く離れても 離れずにすむとわかったら
五倍遠く離れても 戻ってもいいと気づいたら
故郷をまっさきに離れた 自分を恥ずかしく思ったり
騒ぎすぎてしまったのは 軽率だったと思わないで
離れたあなたの判断は正しく とどまった僕らの判断も正しい 
離れたあなたをとどまった僕らは 暖かく迎えてあげよう

どうなっているのか 真実はわからず 誰を信じればいいのかもわからない
だから離れたあなたの判断は正しく とどまった僕らの判断も正しい
「ほらみろ、やっぱりいったとおりだったじゃないか」と
どちらかが勝ち誇るのでなく
「よかったね、取り越し苦労でおわったね」と 
あとで一緒に笑いあえれば嬉しい

二倍遠く離れても 二倍強く思っています
五倍遠く離れても 五倍大きく動いています
二倍強く思って 二倍深く考えています
五倍大きく動いて 五倍この国を変えてみせます
五倍この国を 変えてみせます

中川五郎さんの「二倍遠く離れたら」という歌の歌詞だ。2017年3月20日代々木公園で開催された「さよなら原発全国集会」でこの歌を歌う前、五郎さんがなぜこの歌を作ったかを話している。


◎[参考動画]中川五郎「二倍遠く離れたら」2017.3.20 @代々木公園

「安倍首相が3・11のスピーチで『復興が確実に進んでいる』と話したが、現実はそうじゃないと思う。今まで戻るのが困難だった地域にどんどん人を返しているが、いかにも復興が進んでいるように誤魔化している気がしてしょうがない。その中で放射能が恐ろしくて故郷を離れた人たちと、政府のいうことを信じて戻る人たち、あるいは住み続ける人たちとの間でいがみあいとか批判をしあうことが起こっていて、そういうのってやっぱり一番政府の思うつぼじゃないかと思って。僕はそういう厳しい現実を前にしてこの歌を作りました」。

また、いわき市のライブでは、町にとどまろうか、避難しようかと真剣に悩んでいる「当事者」の前でこの歌を歌うことになり、「部外者」である五郎さんは「どう思われるだろうか?」と不安に感じたというエピソードもお聞きした。

私が支援する飯舘村も昨年3月末に避難指示が解除された。解除は「帰れ」との命令ではないというが、1年後月1人 10万円の精神的賠償金が打ち切られたため、経済的な理由で帰る人もいるだろう。故郷を荒廃させたくない思いで帰る人ももちろんいるだろう。

今年3月飯舘村を訪れた際、そうした様々な「当事者」の話をお聞きしたが、「部外者」の私は何も応えられずにいたことを思い出す。

一方、避難指示解除後も、移住や避難した先で生活を続け、闘う人たちもいる。

12月14日、大阪高裁で控訴審が始まった原発賠償・京都訴訟原告団の皆さんもそうだ。事故後、京都に避難した人たち57世帯、174人が提訴したこの訴訟の特徴は、原告の多くが茨城県、千葉県など国の避難指示区域外からの自主避難者であることだ。

裁判では、
〈1〉 国に法廷被ばく限度(年間1ミリシーベルト)を遵守させ、少なくともその法廷被ばく限度を超える放射能汚染地域の住民について「避難の権利」を認めさせること。
〈2〉 原発事故を引き起こした東電と国の加害責任を明らかにすること。
〈3〉 原発事故で元の生活を奪われたことに伴う損害を東電と国に賠償させること。
〈4〉 子供はもちろん、原発事故被災者全員に対する放射能検査、医療保障、住宅提供、雇用対策などの恒久的対策を国と東電に実施させることを求めてきた。

3月15日、京都地裁で下された判決は「各自がリスクを考慮して避難を決断しても社会通念上相当である場合はありうる」と判断し、また津波対策を怠った東電と規制権限を行使しなかった国の責任を認め、110人に総額1億1千万円の支払いを命じたが、その後原告側は、賠償額の低さや避難時から2年までに生じた被害のみを賠償対象としている点などを不服として控訴していた(国と東電も控訴)。

裁判には原告18名(大人17名、こども1名)のほか、多数の支援者らがかけつけたため、入りきれない支援者らは別会場での報告会に参加した。

そこに参加して改めて気づかされたのは、今現在も避難者らは損害賠償という金では解決できない様々な精神的な苦痛を抱えたままでいることだ。避難や帰還、あるいは避難継続など、一旦自身が下した決断について「それでよかったのか」、常に自問を繰り返し迫られている人もいる。

その「当事者」と「部外者」の難しい問題について五郎さんは、「ほんとうに難しくて微妙な問題ですが『当事者』と『部外者』の壁をいかにして乗り越え、突き崩せばいいか、最近よく考えています」と話していた。

そのことにも関連するが、 冒頭の「二倍遠く離れたら」の詩を途中で変えたというエピソードを、じつは最近になって知った。事故後の8月10日、東京の日比谷野外音楽堂で開かれた制服向上委員会プロデュースの集会「げんぱつじこ 夏期講習」で、飯舘村の元酪農家・長谷川健一さんにお話を聞いたのがきっかけだという。長谷川さんの当時の無念な気持ちや怒りでいっぱいになって語ってくれた話を聞き、五郎さんはその後歌う予定だった「二倍遠く離れたら」の3番の最後の部分を、直前に変えたのだという。

最初作った「二倍遠く離れたら 二倍強く思ってください/五倍遠く離れたら 五倍大きく動いてください/二倍遠く離れた 二倍深く考えてください/五倍遠く離れたら 五倍この国を変えてください」を、冒頭の詩に書き換えたのだが、それは「離れた人のポジティブな気持ちをもっとストレートに伝えるものにしようと思ったから」だという。

 

中川五郎さん(撮影=編集部)

国は今、2020東京五輪に向け、先の原発事故をなかったものにしようと必死だ。 じっしつ戻る者を優遇し、戻らない避難者を「自己責任論」で「棄民」のように切り捨て、原発事故の犠牲者などいなかったことにしようとしている。避難者と、故郷に戻る、とどまる者を様々なやり方で争わせ、分断させようとするのもそのためだ。

飯舘村には「丁寧に」「心を込めて」を意味する「までい」という方言があるが、今こそ、避難する者と、故郷に戻る者あるいは故郷にとどまる者が、までいに互いの立場を尊重し、までいに心を通わせあうことが必要なのではないか。そのすべての人たちに、国と東電に強いられる無用な被ばくを拒む権利、そして国と東電に事故の責任を追及する権利があるのだから。

3月、仙台空港から関西空港へ戻る飛行機の中で、飯舘村の人がポツリと呟いた言葉をふっと思い出したことがあった。「バタバタ死なないとわかってもらえないのだろうか…」。大阪に近づくにつれ、そのことばが重くのしかかってきた。 果たして私に何ができるのか?

そんな時、五郎さんの「二倍遠く離れたら」を聴き、「部外者」の私に何ができるか、考えるきっかけをもらった気がした。2019年は「部外者」の一人として、避難を続ける人、故郷に戻る人、故郷にとどまり続ける人、様々な立場の人たちの間をとりもつ、橋渡し的なことをしたいと考えている。

最後にもう一度、までい(「ゆっくり」「ていねいに」という福島県北部の方言)に呟いてみる。「五倍大きく動いて 五倍この国を変えてみせます」。

▼尾崎美代子(おざき・みよこ)https://twitter.com/hanamama58
「西成青い空カンパ」主宰、「集い処はな」店主。

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《お詫びと訂正》

『NO NUKES voice』18号(2018年12月11日刊)掲載の中川五郎さんインタビュー(43~52頁)に誤りのあることが判明いたしました。謹んでお詫び申し上げますとともに、下記の通り訂正させていただきます。(『NO NUKES voice』編集委員会)

◎44頁小見出し、45頁中段11行目、同20行目
[誤]「花が咲く」 [正]「花は咲く」
◎46頁中段22行目
[誤]古田豪さん [正]古川豪さん
◎49頁上段21行目
[誤]「二倍遠く離れて」 [正]「二倍遠く離れたら」
◎50頁下段2行目、同19行目
[誤]「sport for tomorrow」 [正]「sports for tomorrow」

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『NO NUKES voice』Vol.18 特集 2019年 日本〈脱原発〉の条件

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◎[参考動画]日産「事実関係を確認中」 ゴーン容疑者再逮捕(ANNnewsCH 2018/12/21公開)

◆やや痛快な検裁の異見分裂

 

カルロス・ゴーン『国境、組織、すべての枠を超える生き方 (私の履歴書) 』2018年日本経済新聞出版社

おおかたの予想を裏切って、ゴーンが3回目の逮捕となった。2度の逮捕の容疑(金融商品取引法違反)の態様が、ほぼ重なるので物証捜査も終わっているはずだ、という裁判所の保釈却下に異をとなえた。というのが検察の思いきった獄中逮捕劇である。

必要以上に身柄を拘束しない欧米の司法行政から考えると、日本の訴訟運用は一見して中世的な野蛮に見えるはずだ。国際的な批判はまぬがれがたいところだろう。罪状をみとめ、へへい、悪ぅございました、ありていに白状いたしやす。とでも言わなければシャバに出してもらえない、先取り刑ということになる。

わたしも三里塚闘争で一年の未決拘留を経験した。当時は200人ちかい逮捕者がいたものだから、訴訟準備に長い時間がかかったのが直接の原因だ。千葉地裁では能力を超えているということで、3分の2近くの被告が東京地裁に移送になったものだ。

それにしても、異例づくめである。裁判所が地検特捜部の案件で公判前の保釈を認めたのは、おそらく初めてのことだろう(テレビコメンテーター弁護士の証言)。ひとつにこれは、司法取り引きの実質として、もう事実関係は日産に提供してもらったから、出たければ出てもいいですよ。という新たな地平だというのだ。

それはともかく、3度や四度の逮捕は取り調べ時間の確保とともに、被告(被疑者)への精神的な圧迫としてふつうに行なわれている。鹿砦社への言論弾圧事件では、松岡社長が半年以上の拘留で事実上の禁固刑を受けている。最近では籠池夫妻への10ヶ月以上にもおよぶ拘留、周防郁雄と言論戦を展開した笠岡和雄元松浦組組長への獄死攻撃など、枚挙にいとまがない。ともあれ、取り調べ勾留時での保釈という異例の対応をした裁判所にたいして、これまで通りにやってくれという検察特捜部の反応であることは間違いない。

◆特別背任のほうが、わかりやすい

金融商品取引法違反については、日産も同罪であるところから、いわば別件逮捕の位置付けだった可能性が高い。今回の逮捕理由である自分の企業の含み損の付け替え、横領に近い出費の強要は特別背任。つまり会社を私物化することで、会社に損害を出した汚職である。泥棒じゃないかと言われても仕方がない。

今回のゴーン逮捕がルノーと日産、さらには3菱自動車の一体化を阻止し、国家の基幹産業である自動車を他国の思いどおりにはさせないという国策捜査であるならば、もはやゴーンは完全に人質司法の手の内に入ったことになる。

身から出た錆とはいえ、個人では国家には勝てないという見本である。フランス当局もまた、エリート主義という批判をかわすために静観のかまえだ。あちらはあちらで、燃料税から内乱状態が起きているのだから、フランス民衆の行動力によるものといえよう。

◆人質司法はそれほど怖いものではない

このかん、政治政策の第一人者といわれる犯罪学者と話す機会があった。いわゆる代用監獄の人質司法について、留置場(警察署)が代用監獄となることで、自白しないと出さない取り調べは実際に行なわれているが、それは拘置所(その多くが刑務所の付属)でも同じだとわたしは思う。

むしろ留置場はヤクザや不良少年、こんな人が罪を犯すのかと思うほど普通の人も散見され、気がまぎれて愉しいところでもあるのだ。これは入ってみなければわからないことで、いきなり拘置所で警察官よりも厳しい刑務官に規則づくめの生活を強要されるほうが、ふつうの人間にはよほどショックがあるのではないか。

そして懲役生活ならばともかく、未決拘留は時間があるという意味では「すばらしい」生活でもある。源氏物語を原典で読んでみたいとか、レーニン全集を読み返してみるとかの思いつきは、ふつうの生活をしているかぎり絶対にかなわないと、わたしは思うのだ。ここはもう、ゴーンさんも前時代的な日本の司法と闘うことはあきらめて、万巻の仏典など読まれてはどうか。


◎[参考動画]保釈の可能性も… 急転!? ゴーン容疑者を再逮捕(ANNnewsCH 2018/12/21公開)

▼横山茂彦(よこやま しげひこ)

著述業・雑誌編集者。主な著書に『軍師・黒田官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)、『真田一族のナゾ!』『山口組と戦国大名』(サイゾー)など。医療分野の著作も多く、近著は『ガンになりにくい食生活――食品とガンの相関係数プロファイル』(鹿砦社LIBRARY)

横山茂彦『ガンになりにくい食生活――食品とガンの相関係数プロファイル』(鹿砦社LIBRARY)

月刊『紙の爆弾』12月号 来夏参院選敗北で政権崩壊 安倍「全員地雷内閣」

治療継続を訴えるメッセージ

もし、あなたが、いずれかのがんと診断されていて、その部位の「がん治療に抜群の実績を上げている先生がいる」と聞いたら、どうなさるであろうか。「一度診てもらおう」と考えるのは、ごく自然だろう。だが、遠路はるばるその病院を訪ねたのに、肝心の担当医が、定年退職でもないのに「辞めさせられる」と聞かされたら、あなたはどう感じるであろうか。

そんな苦悩に直面している患者さんたちがいる。本通信で何度か紹介してきた「滋賀医大病院小線源治療講座」の閉鎖も問題である。患者会のメンバーは自主的に、あるいは患者会として全国各地でチラシ配り、署名活動を展開してきたが、12月23日(日)、24日(月)の両日は滋賀医大附属病院に近い、JR草津駅前で広報・署名活動が展開される。23日午前草津駅前に患者会のメンバー31名が集まり、11時から待機患者さんが窮状を訴えた。

待機患者の月原さん

◆待機患者・月原さんの訴え

「私は奈良県在住の月原と申します。私は今から16年前に父を亡くしました。前立腺がんが骨に転移ししたことが原因で約6年半の闘病生活を経ての死です。そのため私自身前立腺がんについては、常に意識して、早め早めの取り組みをすべく定期的なPSA検査を受けておりました。今年になりPSAの数値が上昇したので、8月に生検(細胞検査)を受けた結果、前立腺がんが見つかりました。その時のショックは今もよく記憶しております。すぐに治療方法について医師から説明がありましたが、いずれも再発に不安を覚えました。そこで家内と、再発のない治療方法をインターネットなどで探した結果、滋賀医大岡本圭生先生の小線源治療にたどり着きました。早速岡本先生にメールしたら、すぐに返事がきました。『紹介書や手術時のデータを揃えなさい』。すべてそろえた日に先生に連絡したら『10月11日に会いましょう』と、これまた即返信が来たのです。

とてもお忙しい方のはずなのに、このクイックアクション。なんと患者思いの温かい先生なのかと感動しました。無事岡本先生に会え次回は12月末に具体的な治療計画を相談することになっており、『よし、これで治療してもらえるぞ』と安堵していた矢先、『入院が来年7月以降になるので確約できない』という連絡が来ました。最初何を言われているのか、意味が分からなかったのですが、滋賀医大が来年12月で岡本先生の講座を閉鎖。それに先立ち7月以降の治療を停止する、ということを知らされ、『なぜ多くの待機患者が実在するのにどうして切り捨てるような措置ができるのか。国民の税金で経営されている、国立大学附属病院にそんな勝手が許されるのか。私は一気に奈落の底に突き落とされました。

署名に応じる方々

岡本先生と寄付講座の運営会社は7月以降の治療停止は、人道上・公益上反対されていると聞いています。岡本先生が病院におられ、治療希望患者がたくさんいるのにさせない。こんなこと国立大学附属病院としてありえないことではないでしょか。また病院側は不当かつ未経験の治療を行おうとした成田医師が「後任」と宣言しています。我々患者の命をどこまで軽視するのか、憤りを感じずにはおられません。

私は岡本先生の治療を受けたい。真の健康を取り戻したい。そして同じ病気で苦しむ方々に、同じ喜びを味わってほしいと強く思います。滋賀医大の関係者の方々、何が正しいのかを胸に手を当てて考えていただきたい。患者軽視の滋賀医大ではなく、患者ファーストの岡本先生が正しいことは誰の目にも明らかです。どうか私ども全国の待機患者に新たな希望を与えてください。切にお願い申し上げます」(待機患者の月原さん)

待機患者の横田さん

◆待機患者・横田さんの訴え

「彦根の横田と申しますよろしくお願いします。私の場合ことの発端は本年10月5日に大津の医療機関で前立腺肥大の状況がわかり、血液検査の腫瘍マーカー検査の結果98.0の異常値を通知されました。至急に総合病院泌尿器科で検査治療を行うことを指示されました。その後約1月にわたり彦根の医療機関で辛い検査の日々で、MRI、CT、骨シンチの検査と続き11月2日に担当医師から検査結果を通知されました。結果は悪性度も進行度も高い、高リスクの前立腺がんの確定診断であり、膀胱へ浸潤している可能性もあり、その場合は根治の期待はできない、というものでした。検査前から私の娘からの情報を得て、岡本医師の小線源療法を希望していましたが、私の症例からは、受けてもらえるかどうかは岡本医師の判断による、とのことで、祈る思いで滋賀医大を受診しました。

11月5日診察当日岡本医師からは治療に関しては正面から受けていただきました。しかし残念なことに現医療体制に期限が決められている掲示を見て驚き、岡本医師からは「掲示してあるとおりです」というようなことを言われたのみです。治療の方針はトリモダリティー。トリモダリティーとは高リスクの場合に行われている治療法で、ホルモン治療、放射線内照射、放射線外照射を併用するもの、の明言があり当日からホルモン治療を開始していただきました。その日前までは骨への転移の恐怖感から仕事中も含め、起きている間は「死への不安」で押し潰されそうな毎日を過ごしていましたが、その日からは転移の可能性が低減されたことや、何よりも先生から『私であれば治すことができる』と言っていただきましたので心の状態は病気発覚前の状態に戻り、10月は発熱などで仕事も休みがちでしたが、それも解消しました。岡本先生を信頼し、根治の希望を託し任せるしかないと思いました。次回受診日は2月ですがその後の治療計画は白紙ですし、確実なものは何もありません。こんな状況で、現治療体制の継続を切望し、自分にできることを開始しようと患者会の署名活動を行ってきています。職場や地域の方から200人ほどの賛同署名を頂いております。どのような状況になろうとも、岡本先生に最後まで治療を受けることを望んでいます」(待機患者の横田さん)

待機患者の訴えの後、メンバーは5グループに分かれ、チラシ配り、署名活動を開始した。午前中は穏やかな天候に恵まれ、総計1216枚のチラシを配布し、419筆の署名が集まった。この日の活動には東京、名古屋、四国などからも患者会のメンバー31人が参加した。

署名する親子

◆利他で貫かれた「患者会」の活動

一方、患者会メンバーの中には、街頭活動には参加できないが、裁判などに使われる情報の整理や加工、運動方針の議論、待機患者さんとの相談窓口など、個々人の個性を活かした活動が展開されている。患者会メンバーには医師、エンジニア、元官僚や現役の大学教員、自営業とバックボーンはそれぞれだ。

しかし、治療を受けて前立腺がんを克服した患者さんたちが、待機患者さんにも治療の機会を確保しよう、自分が享受した、前立腺がん完治の喜びを「知らない誰かとも」共有したい。まったく私利がなく、利他に貫かれているのが「患者会」の特徴だろう。無私の活動に頭の下がる思いだ。

◎患者会のURL https://siga-kanjakai.syousengen.net/
◎ネット署名へもご協力を! http://ur0.link/OngR

集合した患者会メンバー

《関連記事》
◎滋賀医科大学医学部附属病院泌尿器科の河内、成田両医師を訴えた裁判、第二回期日は意外な展開に(2018年11月28日)
◎滋賀医科大学に仮処分の申し立てを行った岡本圭生医師の記者会見詳報(2018年11月18日)
◎《スクープ》スーパードクター岡本医師、滋賀医大を相手に仮処分申し立てへ!(2018年11月16日)
◎滋賀医科大学附属病院泌尿器科2名の医師を提訴した「説明義務違反事件」第1回弁論開かれる(2018年10月12日)
◎滋賀医科大学附属病院泌尿器科の背信行為 「小線源患者の会」が損害賠償請求(2018年8月2日)
◎滋賀医大病院の岡本医師“追放”をめぐる『紙の爆弾』山口正紀レポートの衝撃(2018年12月13日)

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

月刊『紙の爆弾』2019年1月号!がん患者の“命綱”を断ち切る暴挙 滋賀医大病院 前立腺がん「小線源講座」廃止工作

『NO NUKES voice』Vol.18 特集 2019年 日本〈脱原発〉の条件

今年7月、教祖の麻原彰晃(享年63)をはじめとするオウム死刑囚13人が一斉に死刑執行され、ようやく一区切りついた感のある一連のオウム真理教事件。筆者は、この歴史的な死刑執行に関し、法務省や全国各地の矯正管区に情報公開請求し、1000枚を超す関連文書を入手した。

それを見ると、オウム死刑囚13人の死刑が2度に分けて執行された舞台裏は、ずいぶんドタバタしていたことが窺えた。

法務省などから1000枚を超す文書が開示された

◆「執行相当」と決裁する押印もかすれていて……

このほど法務省や全国各地の矯正管区から、筆者に開示された文書は、「死刑執行上申書」「死刑執行上申書」「死刑執行について」「死刑事件審査結果」「死刑執行指揮書」「死亡帳」「死刑執行速報」「死刑執行報告書」など。いずれも死刑執行の決裁や死刑執行後の報告に関する重要文書だ。

それらの文書によると、7月6日に執行された麻原ら計7人の死刑は、法務省内部で「執行相当」と決裁されたのが7月3日だから、わずか3日で執行の全手続きが終了していたことになる。また、7月26日に執行された他の6人の死刑については、法務省内部で「執行相当」と決裁されたのが7月24日だから、さらに1日短く2日で執行の全手続きが終了していたわけである。

これほどスケジュールがタイトだったためか、やけに目立ったのが、書類作成上のミスだ。

たとえば、麻原に関する「死刑執行について」という文書。この文書は麻原が敢行した犯罪事実などが記載されており、法務省の矯正局と保護局の幹部職員6人が死刑執行にゴーサインを出す決裁の印を押している。しかし、そのうち保護局の畝本直美局長と磯村建恩赦管理官の印はかすれてほとんど見えず、朱肉を十分につけずに慌てて押印していたのではないかと想像させられた。

とくに畝本保護局長については、麻原のみならず、12人の信者たちに関する「死刑執行について」という文書への押印も多くがかすれており、仕事が雑であるような印象を否めなかった。

また、「死刑事件審査結果」という文書では、法務副大臣の葉梨康弘氏の混乱ぶりが目についた。7月3日に決裁した麻原ら7人の同文書については、“押印”で決裁しているのに、7月24日に決裁した残り6人の同文書については、“サイン”で決裁しているのだ。

ちなみに、「死刑事件審査結果」については、法務大臣と副大臣は“押印”ではなく、“サイン”で決裁するのが慣例だ。葉梨氏は慣れない仕事のため、最初は誤って慣例と異なる“押印”で決裁してしまったのだろう。

麻原の「死刑執行について」。保護局の局長と恩赦管理官の印がかすれている

◆名前を間違われていた人も……

さらに各文書を見ていると、いくら死刑囚とはいえ、扱われ方が気の毒に思えた者もいる。「修行の天才」と言われた井上嘉浩(享年48)だ。

というのも、「嘉」という字が手書きになっていた文書があったばかりか、死刑執行後に作成された「死亡帳」という文書では、名前が「井上嘉弘」と誤って記載されていたのだ。「弘」に二重線が引かれ、「浩」と訂正されてはいたが、いかにもぞんざいな扱いがされている印象だ。

井上の「死亡帳」。名前の漢字を間違っている

死刑執行に関する文書は、情報公開請求に対して開示される際に多くの部分が黒塗りされるのが通例だが、それは今回も同様だった。黒塗りされなかった部分でミスが相次いでいるのを見ていると、黒塗りされた部分でも多くのミスがあったのではないかと思わざるを得なかった。

政治家や法務官僚たちにとって、オウム死刑囚の生命は綿毛より軽いものだったのだろう。

▼片岡健(かたおか けん)
1971年生まれ、広島市在住。全国各地で新旧様々な事件を取材している。

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

2018年11月27日付けで下記の文章が、大阪弁護士会所属の弁護士に伝達された。

12月22日大阪弁護士会主催で開催されるパネルディスカッションの案内文書。李信恵氏がパネリストとして参加する

そのことを知った鹿砦社ならびに取材班は大いに疑問を感じたので、鹿砦社代表・松岡利康の名前で、12月6日、以下の「お尋ね」を大阪弁護士会・竹岡登美男会長宛てに送った。

─────────────────────────────────────────────

2018年12月6日
大阪弁護士会
会長 竹岡登美男 様

貴会主催《『反』差別 連続企画 第1回 今、問われる人種差別禁止法
―沖縄・部落・在日コリアンへの差別の実態を踏まえて―》
についてのお尋ね

兵庫県西宮市甲子園八番町2-1-301  
株式会社鹿砦社(ろくさいしゃ)  
代表取締役 松岡利康  
電話0798(49)5302  

               
謹啓 師走に入り何かと慌ただしくなってまいりましたが、貴会ますますご隆盛のことと心よりお慶び申し上げます。

 さて、貴会所属弁護士より標記のような勉強会(資料添付)が予定されていると聞きました。

 パネリストとして参加予定の方の中に、李信恵氏のお名前があります。小社は、李信恵氏にSNS上で執拗に誹謗中傷を受け発信が止まらなかったため、やむなく李信恵氏を被告として名誉毀損等による損害賠償請求訴訟を大阪地方裁判所(以下大阪地裁と略記します)に提訴し、争っている最中です(大阪地裁第13民事部 平成29年ワ第9470)。今月12日には原告代表者である私の尋問が行われ(李信恵氏は尋問を拒否しました)、この係争自体は、これで結審を迎え年度内の判決になるものと想像いたします。

 他方李信恵氏側は、本年3月頃、上記訴訟がほぼ結審直前になり「反訴したい」旨の意向を突如表明しましたが、裁判所は同一訴訟内での反訴は認めず、別訴を小社を被告として起こしてきており、こちらも大阪地裁で係争中です(大阪地裁第24民事部 平成30年ワ第4499号)。

 つまり、李信恵氏は、被告、原告(提訴の順番からこのように記します)として、現在大阪地裁において、2件の訴訟を係争中の身であり、その争いの内容は「名誉毀損」です。特に後者訴訟にあっては、損害賠償と共に出版物の販売差し止めを求めており、憲法21条に謳われる「表現の自由」「言論・出版の自由」の見地から極めて重大です。

 参考までに李信恵氏が関わったとされる大学院生リンチ事件(常識的に見て、リンチの現場に居て関わっていないとは言えないでしょう)についての出版物2点を同封させていただきますので、ぜひご一覧(特にリンチ直後の大学院生の顔写真を)、またリンチの最中の音声データ(CD)をご視聴になり、ご検討ください。くだんの勉強会のご案内に「人権」という言葉がありましたが、リンチ被害者の「人権」はどうなるのでしょうか? 会長のご意見をぜひお聞かせください。いや、一人の人間として──。

「人権」を大事にされる貴会、特に呼びかけ人に名がある会長におかれましては、李信恵氏がこのような状態であることをご存知でパネリストと決定なさったのでしょうか(あるいはご存知なかったのでしょうか)。ぜひお聞かせください。貴会の最高責任者である「会長」として──。

 足元大阪地裁で大阪弁護士会所属の弁護士も代理人に就任し(李信恵氏側の代理人は京都弁護士会、神奈川弁護士会所属)、係争中の民事訴訟が進行している中、大阪弁護士会が、係争中の片一方の当事者を、係争の内容と関係のある「表現」や「差別」や「人権」についての勉強会のパネリストに選ばれることは、李信恵氏から「クソ鹿砦社」「鹿砦社はクソ」などと再三再四誹謗中傷を受けた小社としては、公平な人選であるとは考えられません。

 もちろん、係争中であろうと、発言や発信は認められるべき基本的な権利であると小社も認識いたしますが、今回はまさに「表現」についての訴訟が、他ならぬ大阪地裁で係争中に、大阪弁護士会が主催して、係争の片一方の当事者を招くという、例外的なケースであると考えます。小社の代理人弁護士はじめ複数の弁護士や元裁判官の方々にお聞きしても首を傾げられましたので、私が申し上げていることは、決して特異な意見ではないと思いますがいかがでしょうか?

 大阪弁護士会が、李信恵氏の過去の訴訟について、評価の認識をされていることは分からないではありませんが、リンチや暴力事件に関与したという疑いや問題を現在李信恵氏は問われています。その訴訟が進行中に(それも2件も)大阪弁護士が(それも会長名で)李信恵氏を「差別や「人権」や「表現」が話題となる勉強会のバネラーにお招きになる行為は、原告である(別訴では被告)小社のみならず第三者が常識的、客観的に見ても「大阪弁護士会は李信恵氏を支持している」と映ります。

 上記申し上げた件をご賢察頂き12月14日(金)までに書面にてご回答いただきますようお願い申し上げます。
 
 まずは要件にて失礼いたします。 

敬白  

               

─────────────────────────────────────────────

「お尋ね」では14日までに文書での回答を依頼していた。回答期限直前になり大阪弁護士会からは「もう少し回答を待ってくれ」という趣旨の手紙が届いたので、様子を見ていたところ、以下の回答が大阪弁護士会会長の竹岡富美男氏から届いた。

竹岡富美男=大阪弁護士会会長から鹿砦社に届いた回答文書(2018年12月18日付)

 

リンチ事件についての李信恵氏の「謝罪文」。全7枚のうち最初のページ

この回答の中で、大阪弁護士会会長竹岡氏は、決定的な矛盾を露呈している。

「李信恵氏については、在日コリアンへの差別問題に関する幅広い知見と多くの経験を有する方として、パネリストにお招きしたところですが、当会は同氏が関与されるすべての訴訟を関知しているわけではありませんし、それぞれの訴訟における同氏の主張を支持、または不支持するものでもありません。」

まず、「李信恵氏については、在日コリアンへの差別問題に関する幅広い知見」を持っているかどうかはともかく「多くの経験を有する方」とある。「多くの経験」とは、何を指すのか。まったく不明確である。相応の年齢の人であれば李信恵氏でなくとも、それなりに「多くの経験」をしているであろう。ここではどのような分野で「多くの経験」があるのかが語られなければ、何の意味もなさない。このようにあいまいで、裁判であれば「却下」されることが確実な文言を竹岡氏は、自身が受任した事件で準備書面などに用いるのであろうか。

さらに、なぜ李信恵氏のプロフィールで、「元在特会会長及び保守速報に対する民事訴訟を提起して第一審・第二審で勝訴」と紹介しているくせに、「当会は同氏が関与されるすべての訴訟を関知しているわけではありませんし、それぞれの訴訟における同氏の主張を支持、または不支持するものでもありません」と逃げるのか。われわれは大阪弁護士会会長が李信恵氏の「M君リンチ事件」関与や、鹿砦社を誹謗中傷した事件を知らなかった可能性もあると考えたので、12月6日付けの「お尋ね」を送り、その中で事件番号まで示し、李信恵氏が現在被告・原告となっている事実を伝達した(CD付きの書籍を含めこれまで発刊した出版物のうち2冊を同封した)のだ。

 

リンチ事件についての李信恵氏の「謝罪文」。全7枚のうち最後のページ

であるから「当会は同氏が関与されるすべての訴訟を関知しているわけではありません」にしても、李信恵氏が「M君リンチ事件」に関与している事実と、鹿砦社との係争について大阪弁護士会が「関知」していないとの言い訳は成立しない。また、言うまでもなく弁護士は法律の専門家であるから、裁判記録の調べ方を知らないはずはない。ここまで動かぬ事実を示しているのに、「それぞれの訴訟における同氏の主張を支持、または不支持するものでもありません」などと開き直るのか。

繰り返すが「元在特会会長及び保守速報に対する民事訴訟を提起して第一審・第二審で勝訴」との人物紹介は、事実の紹介にとどまらず大阪弁護士会が数ある李信恵氏関連の訴訟の中でも、あえて抽出して人物紹介に用いているのである。この事実も竹岡氏の言を借りれば「同氏の主張を支持、または不支持するものでもありません」の対象のはずであり、そうであれば、大阪弁護士会は李信恵氏勝訴にも「必ずしも同意するものではない」との解釈も成立する。それでいいのか? そうであればその前段で述べられている「李信恵氏については、在日コリアンへの差別問題に関する幅広い知見と多くの経験を有する方」との人物評は論理的に揺らぐはずだ。

つまり、この回答にならない回答は“鹿砦社からの質問をまともに取り合っていない”と理解するほかない。消息筋の情報によれば「M君リンチ事件」は「報告事件」(最高裁が暗黙裡に裁判の方向付けを行い、書記官などが最高裁に訴訟の過程を報告する)である、との噂も聞く。「報告事件」であるかどうかはともかく、一審判決、控訴審判決とも市民感覚からは大きく乖離する内容であった。裏で“何らかの力が働いている”──取材班だけではなく、複数の法律専門家やジャーナリストらも同様の見解を明らかにした。

そして今回、本来は国家権力から独立しているはずである大阪弁護士会の人選とそれについての言い訳である。“苦しい言い訳”の見本のような低レベルな理由であるが、見方を変えれば“そうまでして”李信恵氏を使わせる“力”が、ここでも働いていると感じざるを得ない。

リンチ直後の被害者大学院生M君。会長はこの写真を見てどう思うのか?

“一体あなたたちは、何をしたいのだ!?”──正直な感想である。司法試験を通り、裁判官、検事、弁護士になった人びとを市民は普通“人より頭が良く、人物も立派な人”と見る。ところが残念ながらここ数年われわれは、従来の常識をことごとく“裏切られる”経験を重ねてきた。いや、裁判所の前では、司法に救済を求めようとしても、血の通った人間としての判断を示さず裏切られた市民のうなだれた姿を見ることが少なくない。松岡が「お尋ね」で言っているように「一人の人間として」の回答を望んだが、届いたのは事務処理的な文面だった。もう驚きはしないが、大阪弁護士会長のあまりにも低レベルで、内容を伴わない回答に、こう進言したい。

「法曹人である前に、最低レベルの常識を備えた社会人たれ」と。

(鹿砦社特別取材班)

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鹿砦社 http://www.rokusaisha.com/kikan.php?bookid=000541

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