11月7日、遂に電通に労働局による強制捜査が入った。相手の同意が必要な「調査」と違い、強制力を持った「捜査」であり、10月14日の強制調査によって電通の不当労働行為が明らかになったための処置だ。同日午後には大規模な社員集会で社長による会見が予定されていたにも関わらず、それを真っ向から無視しての強制捜査実施であったから、当局が摘発への強い意志を示したものと言える。

◆労働局の強制捜査実施で電通ブランドは失墜

ここまで来ると、労働局による書類送検はもはや確定的だから、検察がこれを受理して捜査に踏み込み、刑事事件として立件するかどうかが次の焦点となる。現在、電通経営陣はそれを回避するために必死の工作を展開しているだろう。

9月末のネット業務不正取引会見から僅か1ヶ月の間に、一流企業としての電通ブランドは完全に失墜した。圧倒的な業界トップ企業でガリバーと恐れられ、就職先としても高い人気を誇った企業のイメージが、これ程の短期間で崩壊した例は非常に珍しい。

だが、実際の電通の収益が悪化したわけではないし、市場はまだそれほど先行きを懸念しているわけではない。その証拠に、電通の株価はさほど下がっていないのだ。しかし、電通の屋台骨を揺るがしかねない最悪の事態が、早ければ来年早々に火を吹こうとしている。今回はそれを解説しよう。

◆電通社長が官邸に呼ばれ、安倍首相から直々に注意を受けていた!

10月中旬、新入社員自殺の労災認定報道で電通パッシングの嵐が吹き始めた頃、電通の石井直(ただし)社長が密かに官邸に呼ばれ、安倍首相から直々に注意を受けていた。これは電通社内から得た情報である。そして首相の注意とは、

「一連の事件によるイメージ悪化は、電通が担当している東京オリンピック業務に支障を来すおそれがある。これ以上の事態の悪化を絶対に防ぎ、一刻も早く事態を終息するように」
というものだった。

国の最高権力者からの厳命に石井社長以下幹部は震え上がり、10月18日に時間外労働時間の上限を65時間に引き下げると発表、24日には22時以降の業務原則禁止・全館消灯を決定。さらに11月1日には「労働環境改革本部」を立ち上げるなど、なりふり構わぬ対策を講じ始めた。電通社内でさえ「あまりにも場あたり的だ」と批判が出るほどの拙速ぶりには、こうした背景があったのだ。

◆安倍首相が懸念する電通のオリンピック業務とは何か?

ワールドワイドオリンピックパートナー企業

東京2020オリンピックゴールドパートナー企業

東京2020オリンピックオフィシャルパートナー企業

では、安倍首相が懸念する電通のオリンピック業務とは何か。それは今後4年間、オリンピック実施に至るまでの広報宣伝の全業務を指している。なぜなら、東京オリンピックにおける広報宣伝、PR関連業務は、全て電通一社による独占契約となっており、博報堂など他代理店は一切受注できないようになっているからだ。

最も分かりやすい例を示すと、オリンピックを支えるスポンサー企業との契約も全て、電通が独占している。表向きはJOCが窓口だが、交渉は全て電通が行なっており、省庁からの寄せ集めであるJOCは、電通からの出向者や関係者がいなければ何もできない。 そして本番までまだあと3年以上もあるのに、すでに42社もの企業がスポンサーになっているのだ。そしてその窓口は全て、電通が一社で担っている。
オリンピックスポンサーは現在、3つのカテゴリーに分かれている。全世界でオリンピックマークを使用できる権利を有する「ワールドワイド」カテゴリーには現在トヨタやパナソニックなど12社が入っており、これらは5年間で各社500億円を支払う。これとは別に、東京五輪開催決定後に新たに設けられたのが「ゴールドパートナー」(現在15社)と「オフィシャルパートナー」(同27社)で、ゴールドは約150億、オフィシャルは約60億円をそれぞれ支払うとされている。そのカネで、各社はオリンピックという呼称の使用権、マーク類の使用権、商品やサービスのサプライ、グッズ等の利用権、選手団の写真使用や様々なプロモーション展開に関する権利を手中にするのだ。

◆1業種1社限定の五輪スポンサー規約を廃止させ、42社から3870億円

まとめてみると、ゴールドスポンサーで2250億円、オフィシャルで1620億円、合計で3870億円のスポンサー料を既に集めた計算になる。このうちの電通の取り分は公表されていないが、同社の通常の商慣習からいえば全体の20%あまり、774億円相当だと考えられる。支払いは複数年にまたがるとはいえ、これだけでも莫大な収益だ。さらに、この42社のCM・新聞雑誌等の広告制作・媒体展開・各種プロモーション・イベント関連も全て電通が独占するのだから、まだまだ巨額の収益が上がる仕組みである。

ちなみに東京が五輪誘致に立候補した当初計画では、総費用を約3400億円(実施費のみ、施設建設費含まず)、国内スポンサーシップを約920億円と計算していた。しかし、五輪開催までまだ3年以上もあるというのに、電通はすでにスポンサーシップを当初予定の4倍、約4000億円も集めている。これはリオやロンドン五輪の際のスポンサーがいずれも10数社程度であったことを考えれば、ありえないほどの巨額だ。これは今までの「オリンピックスポンサーは1業種1社に限る」という規約を変更し、同業他社でも参入できるようにしたことで可能となった。IOCと交渉してその規約を廃止したのも、もちろん電通である。

◆不祥事を起こしたゼネコンのように電通が業務停止を受けたとしたら

ワールドワイドパラリンピックパートナー企業と東京2020パラリンピックゴールドパートナー企業

東京2020パラリンピックオフィシャルパートナー企業

では、なぜ電通のイメージ悪化が「オリンピック業務に支障を来す」のか。それは、今回の一連の事件でもし刑事訴追されれば、電通は官庁関係業務の指名・受注停止となる可能性があるからだ。ゼネコンなどで談合が露見すると、該当した企業は数ヶ月~数年の間受注停止処分を受けるのと同じである。そうなれば、多額の税金が投入されるオリンピック業務も「官の業務」だから、こちらも一定期間の業務停止となる恐れがあるのだ。

そして最大の問題は、ゼネコンならば、どこかが指名停止を受けても替えはいくらでもあるが、オリンピック業務は電通一社のみの独占受注だから替えが効かない。もしそのような事態になれば、関連業務が全て停止してしまうということになるのだ。その危険性を見越したからこそ安倍首相は強い懸念を示し、石井社長を呼びつけたのだろう。自身が先頭に立って誘致した五輪の失敗はとんでもない悪夢であり、それを回避するためには一刻も早く電通の不祥事を終息させなければならないからだ。

しかし、小池都知事が発表した実施費用の高騰などにより、もはや東京オリンピックのイメージは悪化し、誘致時の熱狂が嘘のように消失している。それをあと数年で挽回し、国民をもう一度オリンピック応援の熱狂に巻き込まなければならない。その役割を果たすことこそが今後の電通の最大責任であったのに、万が一業務停止にでもなれば、その計画も破綻しかねない。これはブランドイメージだけでなく、電通の収益をも大きく毀損する可能性がある、同社にとってこれまでにない危機なのだ。では具体的に、どのようなことが起こる可能性があるのか。それを次回で検証したい。

▼本間龍(ほんま りゅう)
1962年生まれ。著述家。博報堂で約18年間営業を担当し2006年に退職。著書に『原発プロパガンダ』(岩波新書2016年)『原発広告』(亜紀書房2013年)『電通と原発報道』(亜紀書房2012年)など。2015年2月より鹿砦社の脱原発雑誌『NO NUKES voice』にて「原発プロパガンダとは何か?」を連載中。

今週17日(木)衝撃の出版!『反差別と暴力の正体――暴力カルト化したカウンター-しばき隊の実態』(紙の爆弾12月号増刊)

 

商業出版の限界を超えた問題作! 全マスコミ黙殺にもかかわらず版を重ねた禁断のベストセラーが大幅増補新版となって発売開始!

 

『NO NUKES voice』第9号 好評連載!本間龍さん「原発プロパガンダとは何か?」

11月17日、鹿砦社は再び〈爆弾〉を投下することを宣言する!

 

 

7月14日に世に出した『ヘイトと暴力の連鎖』は、お陰様で大変な評価を頂き、初版が品切れとなり、増版を急がなければならなかった。『ヘイトと暴力の連鎖』は雑誌扱いのため、書店ではもうお求めになれない。まだお読みになっていない方は鹿砦社へ直接メールでお申し込み(sales@rokusaisha.com)頂くか、アマゾンでご購入頂ける(増刷分も残り僅かなので鹿砦社への直接ご注文が確実です)。

『ヘイトと暴力の連鎖』出版以降の約4カ月――。鹿砦社特別取材班はある種の〈社会病理学的行動〉ともいうべき「しばき隊」現象の分析と内実に迫るべく、特に著名人を中心とする関係当事者の言動をつぶさに検証し、多数の人物・団体に対して取材を行った。

きょう、このコラムではまだ、登場人物の具体名は明かさない。しかし取材を進めると、そこには、取材班でさえ予想だにしなかった、直視を憚られるほどの〈闇〉が実在していたことが明らかになった。正直気の滅入る取材であった。海千山千の取材班の中ですら、〈闇〉を目の当たりにして体調を崩すメンバーが出たほどだ。

しかし、われわれは知りえた事実の前で怯んでいるわけにはいかない。その結実を改めて世に問う。新たな「爆弾」の書名は、

『反差別と暴力の正体――暴力カルト化したカウンター-しばき隊の実態』(紙の爆弾12月号増刊。11月17日発売。定価950円)

である。きょうの本コラムを伝え聞けば、震え上がるであろう関係者の姿がわれわれには透視できる。取材班は〈事実〉がどこにあるのか、を当事者への取材を積み重ねることにより浮き彫りにしようと試みた。生半可な取材ではない。

そして、同時に取材班は、本来あるべき〈運動〉の姿とはいったいどのようなものであるか、を各自が模索しながら取材・執筆にあたった。

本書がその明確な回答を提示できているか否かの確信は、正直に告白すればまだわれわれにはない。しかし、『ヘイトと暴力の連鎖』を初級編とすれば、その延長線上に位置づけられる中級編としては十分な内容をお届けできる自信はある。ページ数も188ページと『ヘイトと暴力の連鎖』よりも遙かに増えた。カラーグラビアもある。

われわれは私怨や利潤、いわんやヘゲモニーなどを求めて『反差別と暴力の正体』を編纂したわけではない。まったく逆である。リンチ事件の被害者を蔑ろにし、美辞麗句をまといながら、哲学や思想、人権意識を持ち合わせず、いたずらに暴れまわり、詭弁によって自己保身を図るような「運動」への批判を通じ、あるべき社会運動や、人間の姿を、読者と共に考えたいと願う。

ひたすらその想いで生み出された『反差別と暴力の正体』を是非、お手に取って頂きたい。本書が必ずや読者を驚嘆せしめる、まさに〈紙の爆弾〉であることを予告しておく。

(鹿砦社特別取材班)

『反差別と暴力の正体――暴力カルト化したカウンター-しばき隊の実態』(紙の爆弾12月号増刊。11月17日発売。定価950円)

共和党の実業家、ドナルド・トランプが大統領となった。アメリカ国民は、米国の再生を〝政治家経験のない不動産王〟に託す博打に出る。

この米大統領選の結果で世界的に「得する人」「損する人」それぞれ明暗が分かれる。少なくとも日本のヤクザ界では「アメリカからは緊急撤退」として、リトル・トーキョーや金のロンダリングなどで「すぐに手を引こう」とシグナル、つまり号令が出ている。

オバマ米政権は2011年7月に日本の暴力団「Yakuza(ヤクザ)」を国際的に活動する犯罪組織と認定、翌年2月に経済制裁を敢行した。さらに翌12年に米政府、なかんづく米財務省は、山口組に続いて住吉会など日本の暴力団が、武器や薬物の密輸、売春、マネーロンダリング(資金洗浄)などに関与していると指摘し、これも経済制裁へと動いた。

アメリカ国内の保守派のロビイストたちは「日本からヤクザを排除できないなら2020年の東京五輪への安全な参加を保証できない」と懸念を抱いているのは事実。

「かつて司忍6代目山口組組長とJOC副会長だった田中英寿・日大理事長の2人を撮った写真が、出版社に送り付けられて海外メディアはいっせいに驚愕した。トランプは日本に『東京五輪前にヤクザをなんとかせよ』と注文を安倍晋三首相につけるでしょう」(ヤクザ雑誌編集者)

山口組系組幹部は語る。

「フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領ではないが、トランプ新大潮流は移民、とりわけ海外から来たマフィアを一掃にかかるにちがいない。イタリア・マフィア、チャイナ・マフィア、そして〝ヤクザ〟だ。オバマ大統領は、本格的にアメリカ金融から『YAKUZA』を閉め出しにかかったが、トランプ新大統領の場合は、海外からのマフィアには不動産契約をさせない、また車も持たせない政策をひそかに揉んでいるとも政策チーム内から漏れ伝わってくる。それで米国に進出している広域暴力団はいっせいに『米国で逮捕されては目も当てられない』と撤退を決め込んだのです」

裏社会に詳しい作家の影野臣直氏は「トランプの対外政策は異常だと思いますが」と前置きした上でヤクザの海外進出事情をつぎのように指摘する。
「もうドイツ、イタリア、中国、日本などのアウトローはことごとくリスト化して、入国すらさせないようになるのではないでしょうか。フィリピンもドゥテルテ政権になってから、つぎつぎに性風俗や密輸分野で海外に勢力を伸ばした連中が日本に帰ってきています」

また、いっぽうで「表面上は堅気に見える半グレをいかにアメリカに送り込んで金をロンダリングしたり、ドラッグや食糧品を密輸できるか、ヤクザは知恵のしぼりどころでしょう」とした。

一説には、日本のヤクザが海外にもっている資産は、総額で4兆円とも言われる。
前出の影野氏は言う。
「頭のいいヤクザしか生き残れない時代だということです。フィリピンでは現地政府に気に入られて島をもらったヤクザもいますし、下手を打って強制送還になるヤクザもいる。いちがいにオバマからトランプに変わったからといって黒が白に変わるような〝劇的変化〟はないにせよ、どの時代、どの国の政府にも利権に食い込むやりかたはある。裏社会でも国際的な知恵比べですよ」

韓国マフィアが今回の朴 槿恵スキャンダルで一族をゆさぶり、一儲けしたという情報もある。ヤクザたちはマレーシアやシンガポールのタックスヘイブンに再びシフトし始めた。

「トランプ政権だけに、ババよりもジョーカーを持つヤクザ」は出現するだろうか。

(伊東北斗)


◎[参考動画]How Powerful is Donald Trump – Full Documentary 2016 [HD]
ADVEXON TV 2016/06/09 に公開

東京・明治神宮外苑のアートイベント会場で木製のジャングルジム風展示物が燃え、中で遊んでいた5歳の男児が焼死した火災をめぐり、展示物を出展していた日本工業大学の学生たちやイベント主催者らに対するバッシングがインターネット上で巻き起こっている。

「白熱電球が熱くなり、おがくずが燃えるのは素人でもわかることだ。工業大学の学生が何をやっている」
「あんなのはキャンプファイヤーをやっているようなものだ」
「学生も悪いが、周りの大人たちも気づかなかったのか」

目に余る無神経さだな――と私は思う。学生や主催者のことではない。得意げに「後知恵」で、このようなバッシングをしている者たちが、だ。

火災の時に焼けたとみられるパーテーション

◆無自覚のうちに「父親」を愚弄している者たち

報道によると、燃えた木製のジャングルジム風展示物には、大量のおがくずがからめつけられていたという。火災の少し前から、学生らは白熱電球を使った投光器で展示物を照らしており、おがくずが熱せられて出火。たちまち展示物全体が炎上し、中に入って遊んでいた男児が逃げ出せずに焼死したと伝えられている。

火災時、一緒にいた父親も男児を助けようとして火傷を負ったそうだが、目の前で幼い息子が炎に包まれて焼死したのだから、これほど惨い悲劇はない。筆者が事件の2日後に現場を訪ねたところ、献花台には花とお菓子が大量に手向けられていたが、この悲劇を他人事とは思えずに胸を痛めている人がやはり世の中に大勢いるのである。

献花する女性たちと撮影する報道陣

そんな中、インターネット上で巻き起こっているのが、冒頭のような学生や主催者へのバッシングだ。筆者は未見だが、テレビでは、「大学生にもなり、白熱電球が熱くなるのも想像できなかったのか」と批判したキャスターもいたと聞く。重大な事故が起こると、後知恵で「その程度のこともわからなかったのか」と批判する醜悪な人々が大量に現れるのは毎度のことだ。しかし今回に限っては、その醜悪さは看過しがたいものがある。

なぜなら、「その程度のこともわからなかったのか」という趣旨の批判は、目の前で息子が焼け死ぬ悲劇に見舞われた父親を愚弄するものでもあるからだ。父親も学生や主催者と同様、このような惨事になることが予想できなかったからこそ、展示物の中で自分の息子を遊ばせていたのである。後知恵で学生や主催者をバッシングしている者たちは、その程度のことも想像できていないからこそ、目に余る無神経さだと私は言うのだ。

献花に来た女性とコメントを求める報道陣

◆今後は法的責任が問題になるが……

この火災では、今後、学生や主催者に刑事責任や損害賠償責任を問えるか否かということが問題になるが、学生や主催者に法的責任を問うには、注意義務違反が認められる必要がある。つまり、注意をしていれば、今回のような結果になることを予見できたのか否かや、今回のような結果になることを回避できたのか否かが問題になってくる。

今回の悲劇は実際問題、後知恵で学生や主催者を批判している者たちが思うほどには簡単に予見できるものでも回避できるものでもなかったろう。10月26日から開催されていたイベントには何万人もの人が来場しているとみられるが、この悲劇を予見し、警察や消防に通報したような人の存在は現時点でまったく確認できていないからである。

父親をはじめとする遺族たちは、まだ悲劇を現実として受け止められていないかもしれないが、最終的には学生や主催者が処罰されることなどを願うと予想される。しかし、そのためには今回の悲劇が予見できたことや、回避できたことが立証される必要があるわけだ。その過程で父親は再び、自分自身もこの悲劇を予見できず、息子を救えなかったという辛い現実と向き合うことになるだろう。

この火災には、かくも複雑で、デリケートな問題が存在するのだ。後知恵で学生や主催者をバッシングしている人たちは、悪気はないのだろうが、もう少し冷静になろう。

現場に設置された献花台に花を手向け、手を合わせる女性

▼片岡健(かたおか けん)
1971年生まれ、広島市在住。全国各地で新旧様々な事件を取材している。

米国大統領選挙で共和党のドナルド・トランプが勝利した。世界は大騒ぎになっている。無理もないだろう。選挙中にトランプが発言していた内容がそのまま政策に移されれば、米国の姿は大きく変わる。まずメキシコとの国境に「壁」が作られるという。「万里の長城」よりも長い壁を21世紀に米国は本気で建てることになるのだろうか。また、銃規制が緩和されるとこれまで以上に乱射事件は続発するだろう。女性蔑視も、チラホラとなら発言が許されるようになるのであろうか。

2016年10月9日New York Post

◆世界は現状を嫌い出している

世界は現状を嫌い出している。それは確かだろう。しかし、否定される現状との比較で「期待される将来像」はどのようなものなのだろうか。確固とした方向性やおぼろげながらも何らかの形のようなものをイメージしてトランプは大統領に選出されたのだろうか。どうも違うような気がする。

要するに「やけっぱち」なのではないか。トランプが選挙戦で語った言葉は「政策」としてではなく、「気晴らし」として多くの米国人に受け入れられたのだろう。かといって特段ヒラリー・クリントンが何等かの希望を抱ける候補者ではなかったことは、選挙結果が示す通りである。

2016年10月9日Wall Street Journal

2016年10月9日Wall Street Journal

◆理性、体面、政治能力に納まらないトランプという個性

しかしながら、やはり驚きはある。一応の理性、一応の体面、一応の政治能力といったものを選挙戦で候補者は演じるものだが、トランプの選挙戦にはそういったものは意識されてはいなかった。いや、意識していたのかもしれないが、トランプという個性は、そんな窮屈なものの中には納まらない。

ただし、大統領に就任すれば今までの独裁経営者のようなわけには行かない。就任当初こそ選挙中同様、酔った政治好きの戯言を放言しているもしれないが、周りが許しはない。米国の政治力学は議会の勢力地図だけでなく、数々の怪しげな「シンクタンク」や「研究所」を名乗る連中の思惑に大きく左右される。足元の共和党にもトランプを毛嫌いする議員は山ほどいる。それら細かい調整にトランプが長けている(耐えられる)とは思えない。

米国大統領は、民主党の大統領が就任しようと、共和党の大統領が就任しようと、その構造に変わりはない。オバマの周辺にも、「まだ生きていたのか」と思わせるヘンリー・キッシンジャーの姿が未だに垣間見られたし、当人でなくとも、その意を受けた人間が必ずホワイトハウスに役付きで侵入するのは米国の歴史の定石となっている。だからトランプにだって、多数の「シンクタンク」出身のエージェントが付く纏うことになるだろう。

2016年10月9日New York Times

◆安倍政権が強行採決した「TPP」に米国が参加しなかったら

トランプが大統領に就任することによって「日米関係」はどうなるのか、の議論が賑やかだ。当面興味深い混乱が起きる可能性はある。トランプは「TPPに反対する」と明言している点には注意を向けてもよかろう。

汚職で辞任した甘利元経産大臣が、あれほど時間を掛け、その実内容のほとんどを非公開に行っていた日米間の「TPP交渉」は一体なんだったのだろうか。国会では先日委員会でまたもや「強行採決」が行われたが、このままトランプが選挙公約を翻さず、「TPP」に米国が参加しなかったら、日本はどうするつもりなのだろう。

「米国にTPP参加を促すために大統領選挙前の議会通過が理想だった」と自民党関係者は語るけれども、衆議院の委員会でああまでして無茶な「強行採決」を行う必要はどこにあったのか、いずれ近い将来「その理由」もしくは「その無茶・無駄さ」が判明するだろう。彼らは心中クリントンの当選を願っていたのだから。

2016年10月9日CNN

いずれにしろ、誰がどこの国の大統領に就任しようとも、国政は粛々と行われるべきだ。米国大統領が、トランプであろうがヒラリー・クリントンであろうが、不幸なことにこの国の首相が安倍晋三であることに変わりはない。他国の騒動を気にしている暇があるのであれば、自国の最低最悪の政治を少しは凝視してみないか。

◆星条旗よりも寒風吹き始めた永田町の暗澹たる姿を凝視せよ

隣国韓国では朴槿恵がいよいよ追い詰められた。本コラムで以前紹介したが、朴槿恵に関しては何もここ数週間で急に世論が批判的になったわけではなく、国民の厳しい批判の目があった。支持率は20代では1%というから、実質ゼロだ。以前に比べればおとなしくなった韓国ではあるが、それでも「不正」を目の当たりにした時の国民の動きは日本の比にならない。

米国大統領選挙の結果はそれで結構(私はそもそも米国大統領選挙システム自体が全く民主的ではないと考えるので、米国大統領には全く期待を持っていない。現状をドラスティックに変える人物など、この選挙システムの上では、必ずはじき出され、選挙戦で何を主張しようが、しまいが基本似た政策の継続しか選択肢がないのが米国大統領選挙だと考える)。よその国の内政を評論することは出来ても介入することなどできないのだから。

それよりも、足元を見なければいけないだろう。「土人」発言は「差別ではない」と大臣が名言していても首を取れないのか。ずるずるではあるが憲法審査会の開会が迫る状況は穏当か。星条旗よりも寒風が吹き始めた東京永田町の暗澹たる姿を凝視せよ。


◎[参考動画]Donald Trump Wins US Presidential Election(ABC News2006年11月9日公開)

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

今年の6月に「無理矢理にAVに出演させられた」として若い女性が告発、都内の芸能プロダクションの元社長ら3人が労働者派遣法違反(有害業務就労目的派遣)などの疑いで逮捕された件がAV業界に激震を与えている。

このことで火がついた新しい動きがヤクザ界にある。AV女優の「出演する際の条件」が、「山口組分裂」で毎月のように傷害事件が勃発している抗争の「新しい火種」になりつつあるという。

「AV業界には、女優が出演する際に、本当に本人の意志なのか、確認するマニフェストの書類が膨大になった。また『~を強要しない』という文言も散見できる。ヤクザが企業舎弟として、水面下ではびこる業界としては一見して相反する〝コンプライアンス〟が求められるようになって当然『脱ヤクザ』の動きも強まります。女性の権利を守るNPOや弁護士たちが被害の声を拡大していることもあり、メーカーや女優のプロダクションには、『契約解除』の書類が続々と届くようになったのです。これでは販売のノルマが減り、売上げも激減。苦肉の策として、メーカーや女優を預かるプロダクションも『出演保証人』をつけて契約、仮に女優が出演を渋った場合にその『保証人が代償を払う』というシステムです」(AV関係者)

だがそうそう簡単に『女優がもし飛んだ(逃げた)場合に、強面のAV関係者から責任を詰められることがわかっていて保証人になる御仁は、おめでたいか、『下心』がある。

「下心だけではいいのですがライバルの組関係者がわざわざ『出演保証人』を仕掛け人として送り込んできて、揉める火種になっているケースがあるのです」(同)
どういうことか。
「もし女優の取り合いになったとしよう。女優の取り合いで不利な局面に遭っている企業舎弟がメーカーが、自分たちより有利なメーカー相手に『仕掛け人』として出演保証人を送り込む。送り込んだ『出演保証人』が殴られたり、拉致されりしたら、『どう落とし前をつけるのか」とつけこんでシェアを奪い取ることができる。そうしたヒットマンがつぎつぎと『出演保証人』として潜り込んでいるという状態」(同)

この10月9日に、和歌山県和歌山市にある飲食店で神戸山口組『四代目山健組』傘下の『五代目紀州連合会』会長らと六代目山口組『四代目倉本組』系組員が衝突し、『五代目紀州連合会』会長は殴られて死亡。山口組と分裂した神戸山口組は、分裂したとしてもこれまではうまくAV業界では「共存」してきた。メーカーが山口組で、プロダクションが神戸山口組だったしても「利益」が目的なら組んできたが、そんなことは言っていられないほど緊迫している。

「警察庁が山口組と神戸山口組を特定指定抗争団体に指定しそうなんです。これが指定されると、組員はコンビニに行くときでも監視がつく。そうした身動きがとれない状態になる前に、この抗争にケリをつけたいのが両者の本音でしょう」(ヤクザ雑誌ライター)

AVの被害者支援団体にはAV出演に関する相談が120件以上寄せられているという。この状況は実はAV女優たちにとって存外、追い風だ。

「出演したい女優たちのうち『複数の出演保証人を見つけたら、初主演作品はボーナス30万円出す』などしてAV業界サイドも必死さが伝わってくる」(AVライター)
だが、見方をかえれば、AV女優はなにか気にいらないことが撮影などで起きたときに「支援団体に駆け込んでメーカーやプロダクションを訴えれば、出演料とともに、慰謝料をもらえて二重にお得だ」と考える女優が出てくるかもしれない。

「AV女優も出演保証人も、それなりに身体検査を慎重にしないといけない。ただでさえ、出演に神経質なのに、抗争の火種となる可能性があるのは頭が痛い」とAVメーカーのスタッフ。

実際、AVメーカーの売上げは少し下がり始めた。

「もしAV女優の出演が火種になったら、警察もAV業界に目をつけていっそう暴力団関係者は締め出しを食らう。規制に規制が重なり、業界はやせ細る。もしかしてこの業界はぺんぺん草が一本も生えなくなるかも」(同)

果たしてあなたが見ているそのAV女優、『複数の出演保証人』がついているか、それとも『無保証』か。いずれにしても、ヤクザ抗争の新しい火種が、女がよがるAV業界に転がりこんだのは確かだ。

(伊東北斗)

ANN2016年10月9日

綿密に注意深く、原則的な悪事は企図され、真意とは全く異なる言辞を纏いながら5年、10年と時間をかけひたむきな準備が進められる。いかなるステップも当初は踏み外されてはならない。まだ、周りには「目」があったのだ。連中がどのように美辞麗句でその一歩を称賛し、また国際社会の一部にも同意を求める働きかけをしても、揚げ足を取られればその野望が水泡に帰す可能性だって無くはなかった。「目」はたしかに奴らの魂胆を見抜き、最大級の注意で凝視していた。

ANN2016年10月9日

◆はじまりの1992年カンボジアPKO

私が今話題にしようとしているのは自衛隊によるPKO活動だ。1992年カンボジアに送られたPKO自衛隊部隊は「日本軍が第二次世界大戦以降、武器を携行して初めて他国に足を踏み入れる」ことに対して、相当の注意と批判を覚悟していた。この場合の「注意」とはカンボジア現地で自衛隊の犠牲者を出さないことと、自衛隊による発砲により、現地での被害者を出さないことだ。もっとも私は憲法を読む限り「PKO」(平和維持活動)などという欺瞞に満ちた名前であれ「海外派兵」が認められる余地など全くないと考え、さらにPKOは本格的軍事行動解禁への一里塚と感じていたから、絶対反対の立場だった。

ANN2016年10月9日

カンボジアでPKO活動を行った自衛隊は小火器(拳銃、小銃)だけを携行し、当然のことながら「戦闘」を前提とした作戦や計画は公的には準備されていなかった。ポルポト政権下でクメールルージュが虐殺を行い収拾がつかないアジアの国、カンボジア。そのイメージが自衛隊の初「PKO」を可能ならしめた理由のひとつにはあろう。確かにカンボジア内戦は混乱を極めた。ポルポト派、シアヌーク派、ヘンサムリン派などが、時に米国、時に中国、ソ連といった大国を後ろ盾にし、隣国ベトナムでの戦争の余波もあり混乱が繰り広げられた。

ANN2016年10月9日

◆南スーダンを知らない私たち

と、カンボジアの混乱とその大雑把な衝突勢力、背後関係については、曖昧ながら語ることが出来るけれども、例えばボスニア紛争や、南スーダンの内戦、あるいはイエメン内戦の理由と勢力構成を簡略にでも説明できる人はどのくらいいるだろうか。シハヌーク殿下と言えばなんとなく顔が浮かび、ポルポト派と聞けば「虐殺」のイメージが定着してはいる。

他方どうして今、南スーダンで内戦が起こっているのか、南スーダンはいつ、どうしてスーダンから独立したのか、その背後で操る大国がどこで、どのような権益をめぐって争いが起きているのか。それらを熟知している人が一体どれほどこの国にいるだろうか。

知られていない。私だって自信をもってとても語ることはできない。地理的にも情報量も「遠い国」南スーダン。だから自衛隊の初めての「戦闘の地」となる可能性の場所として敢えて「南スーダン」は選ばれたのではないかと私は訝る。


◎[参考動画]「駆けつけ警護」判断へ 稲田大臣が南スーダン訪問(ANNnews2016年10月9日)

◆「駆けつけ警護」と「PKO参加5原則」の明らかな齟齬

ANN2016年10月24日

「駆けつけ警護」が間もなく閣議決定されるという。「駆けつけ警護」とは一体どのような行動を指すのであろうか。

防衛白書は、
いわゆる「駆け付け警護」は、PKOの文民職員やPKOに関わるNGO等が暴徒や難民に取り囲まれるといった危険が生じている状況等において、施設整備等を行う自衛隊の部隊が、現地の治安当局や国連PKO歩兵部隊等よりも現場近くに所在している場合などに、安全を確保しつつ対応できる範囲内で、緊急の要請に応じて応急的、一時的に警護するものです。

いわゆる「駆け付け警護」の実施にあたっては、参加5原則が満たされており、かつ、派遣先国及び紛争当事者の受入れ同意が、国連の活動及びわが国の業務が行われる期間を通じて安定的に維持されると認められることを前提に、「駆け付け警護」を行うことができることとしました。

これらが満たされていれば、「国家」又は「国家に準ずる組織」が敵対するものとして登場することはないので、仮に武器使用を行ったとしても、憲法で禁じられた「武力の行使」にはあたらず、憲法違反となることはありません。
http://www.mod.go.jp/j/publication/wp/wp2016/html/nc018000.html

と解説している。

ANN2016年10月24日

しかしこの防衛白書は昨年成立した「戦争推進法案」(正式には安保法制と呼ぶらしい)に立脚したものではない。ここで重要なポイントは「参加5原則が満たされており」の5原則である。外務省によると5原則とは、

1)紛争当事者の間で停戦合意が成立していること
2)当該平和維持隊が活動する地域の属する国を含む紛争当事者が当該平和維持隊の活動及び当該平和維持隊へのわが国の参加に同意していること。
3)当該平和維持隊が特定の紛争当事者に偏ることなく、中立的立場を厳守すること。
4)上記の基本方針のいずれかが満たされない状況が生じた場合には、我が国から参加した部隊は、撤収することが出来ること。
5)武器の使用は、要員の生命等の防護のために必要な最小限のものに限られること。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/pko/q_a.html#05

と定義されている。

◆「紛争当事者の間で停戦合意が成立」していない南スーダン

ANN2016年10月24日

では南スーダンでは「紛争当事者の間で停戦合意が成立」しているであろうか。してはない。戦闘は続いている。2014年に一旦政府と反政府勢力の間で停戦合意がなされたが、その後停戦合意は崩れ、首都ジェバでは今年夏からだけで300人以上が死亡している(正式な犠牲者数は不明だが戦闘が継続していることは国際的に了解されている状態だ)。

さらに7月11日~12日にかけては、すでに派遣されている自衛隊の宿営地から100mの至近距離で戦闘が行われ、自衛隊は防弾チョッキ、ヘルメットを装着し、身を低く構えていたという。岡部俊哉陸上幕僚長は7月21日の会見で、「宿営地近くでの発砲にともなう流れ弾が上空を通過しているという報告は受けていた。弾頭は日本隊を狙って撃たれたものではないとみている」と「実戦」が行われていたことを認めている。

◆7時間の南スーダン滞在で稲田防衛大臣が掌握した実情とは?

ANN2016年10月24日

稲田防衛大臣は10月8日に7時間だけ南スーダンを訪問し、「(治安が)落ち着いていることを見ることができ、関係者からもそういう風に聞くことができた。持ち帰って政府全体で議論したい」と述べている。わずか7時間の滞在で実情が掌握できるものであろうか。(治安)が落ち着いているというのであれば、南スーダンの政府関係者や、各国のNGOなどと今後の対策について、せめて意見交換くらいはしないものだろうか。

ANN2016年10月24日

私の想像だが、南スーダンの治安状況を鑑みれば「7時間以上の滞在は危険」と防衛省、もしくは政府が判断したのだろう。また、あきれたことに11日参議院の予算委員会で民進党の大野元裕議員の「戦闘ではなかったのか」との質問に稲田は「戦闘行為とは、国際的な武力紛争の一環として行われる人を殺傷しまたは物を破壊する行為」とした上で、南スーダンの事例は「こういった意味における戦闘行為ではない。衝突であると認識している」と答弁している。

稲田のこの答弁は注意深く記録され、記憶されなければならない。純粋な言葉の意味において稲田の「戦闘」の乱暴な「言葉の定義変え」は犯罪的である。どの辞書を開いたら「戦闘」の定義を「国際紛争」を前提としてのみ限定しているというのだ。国内における「戦闘」(内戦)は稲田の定義によれば、「戦闘」ではなく、すべからく「衝突」ということになる。内戦はすべて衝突?そんな馬鹿な解釈があるか。


◎[参考動画]稲田防衛大臣、「駆けつけ警護」訓練を視察(ANNnews2016年10月24日)

◆戦闘が継続している南スーダンに自衛隊を「派兵」させるという実績

要するに岡部俊哉陸上幕僚長が7月21日の会見で述べた通り、戦闘は継続している。したがってPKO5原則に照らせば自衛隊の派遣は出来ない。しかし、政権は是が非でも「駆けつけ警護」を伴った自衛隊の「派兵」実績を作りたい。どうするか。言葉の定義を曲げてしまうのだ。現状認識の議論では太刀打ちできない。屁理屈で「治安は安定している」と言い張ったところで、奴らも戦闘が継続していることはわかっている。そこで「言葉の定義変え」だ。近年政権の得意とする常套手段だ。

現状が法制や憲法に合致せずとも政策を通したい。その際法律に従うのではなく、言葉の意味を変えてしまうのだ。そうまでして奴らは何を目指しているのか。日本から距離と情報量の少ない南スーダンで。奴らは自衛隊の犠牲者が出ることをまさか期待をしてはいまいな。「国際社会のために、日本の名誉を守り平和に貢献した尊い犠牲」とか「この卑怯な暴力にひるむことなく、日本は引き続き国際社会で責任ある態度を断固として取り続けてゆく、そのためには憲法についての議論も深めなければならない。国民の皆さんの真剣な議論を期待する」などといった、予定稿が安倍の上着の内ポケットには準備されてはいまいか(錯覚か)。

奴らの策謀の本質を射抜く「目」の力が弱い。「目」はどこに行った(本当はどこに行ったのか私は何となく心当たりがあるけれど)。「目」を取り戻せ!

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

横浜市の大口病院で点滴を受けた高齢の男性入院患者2人が相次いで死亡した「点滴殺人事件」は、表面化してから1カ月以上過ぎても容疑者が捕まらない。テレビや新聞では、警察の捜査が難航している様子が伝えられているが、もうそろそろ、こんな疑問が指摘されてもいい頃だろう。この事件はそもそも、本当に殺人事件なのだろうか――。

事件の舞台となった大口病院(横浜市)

◆思い出される「あの事件」

報道によると、大口病院で点滴を受けて亡くなった2人の入院患者、西川惣藏さん(88)と八巻信雄さん(88)の体内からはいずれも医療用消毒液「ヂアミトール」に含まれる界面活性剤の成分が検出されたという。神奈川県警は何者かが注射器を使って点滴にヂアミトールを混入し、2人を中毒死させたと殺人事件とみて、捜査を展開しているとのことである。

しかし、物証は乏しく、捜査は難航。さらに事件後、ナースステーションにあった約10個の未使用点滴袋のゴム栓部分にも針で刺したような小さな穴があいていることがわかり、そのうちのいくつかからは消毒液の成分が検出され、無差別に患者を狙った犯行である可能性も浮上。そのため、動機から犯人を絞り込むこともできないでいる――。

とまあ、報道されている捜査状況を見る限り、容疑者が検挙されそうな雰囲気はまったく感じられないが、こうした情報から、私の脳裏には、かつて日本全国を騒がせた「あの事件」が蘇ってきた。1998年7月に起きた和歌山カレー事件である。

◆1998年の過ち

夏祭りのカレーに何者かがヒ素を混入し、それを食べた60人以上がヒ素中毒に罹患、うち4人が死亡した和歌山カレー事件では、当初、和歌山県警科捜研がカレーに混入された毒物を青酸化合物と誤認。これにより、無差別の大量毒殺事件という見立てで大々的に報じられ、のちに原因毒物が青酸化合物ではなく、ヒ素だったと判明しても、マスコミはその見立てを改めなかった。

そして事件発生の1カ月後、現場近くに住んでいた主婦の林眞須美(55)が事件前にヒ素を使って保険金詐欺を繰り返していた疑惑が浮上すると、マスコミは一斉に犯人と決めつけた報道を展開。結果、眞須美は無実を訴えながら死刑判決を受けたが、動機は未解明のままで、やがて冤罪疑惑が持ち上がる。そうなってからようやく、毒物に関する知識のない人間には「白い粉」にしか見えないヒ素ならば、犯人は殺害目的ではなく、「いたずら」や「いやがらせ」でカレーに混入した可能性もあるのでは・・・という疑問が指摘されるようになった。

「点滴殺人事件」とか「入院患者連続殺人事件」などと報道されている大口病院事件で、同じ過ちが繰り返されている恐れはないだろうか。

◆「傷害致死事件」の可能性

実際、大口病院事件の捜査が難航する中では、「過去にヂアミトールが人体に注入されたケースは少なく、どの程度の量を投与すると死に至るのか明らかではない」(毎日新聞ホームページ10月23日配信記事)などという報道も出始めた。それはつまり、他ならぬ犯人もヂアミトールを点滴に混入することにより、患者が死ぬとは思いもよらなかった可能性もあるということだ。本当にそうならば殺意は認定できないので、この事件は殺人事件ではなく、傷害致死事件ということになり、想定される犯人像も当然変わってくる。

もちろん、神奈川県警はそういう可能性も踏まえて、捜査を展開しているだろう。しかし、テレビや新聞の報道で「殺人事件」と決めつけられている状態と、「本当に殺人事件なのか」という疑問も提示されている状態では、警察のもとに集まる情報も違ってくる。捜査の難航が続く中、この事件を「殺人事件」と決めつけるのは、そろそろやめたほうがいいのではないか。

大口病院の正面入口の貼り紙。外来診療は現在、すべて休診中

▼片岡健(かたおか けん)
1971年生まれ、広島市在住。全国各地で新旧様々な事件を取材している。

安倍晋三と朴槿恵。この二人には共通点が多い。最大の相似要素は、ご存知のとおり世襲政治家の末裔であることだ。

安倍は農林大臣などを歴任した安倍晋太郎の息子にして、元首相岸信介の孫にあたる。
朴槿恵は元大領領、朴正煕の娘である。軍事独裁政権で民主運動家を散々弾圧したのが朴正煕であった。

両国の歴史上、朴正煕も岸信介も国民から、決して評価の高い最高権力者ではない。しかし残念かつ不幸なことに、両国は「決して評価の高くない」最高権力者よりも、さらに悪質で劣化の激しいその末裔に、再び大統領、首相の地位を与えてしまっている。

◆朴槿恵は自身の能力不足を露骨に口にしながら任期延長を主張

毎日新聞2016年10月26日

朝日新聞2016年10月24日

そして密儀でも交わしたようにこの二人は最高権力者としての任期延長を主張し始めた。

韓国の大統領任期は韓国憲法により、1期5年までで再選は認められていない。朴槿恵は10月24日「1987年に改正された現行憲法について、「韓国政治は大統領選を実施した翌日から再び次期大統領選が始まる政治体制によって、極端な政争と対決構図が日常になってしまった」と指摘。「(任期5年1期という)大統領単任制で政策の連続性が失われ、持続可能な国政課題の推進と結実が難しく、対外的に一貫した外交政策をとることも困難が大きい」と語った。 ※朝日新聞2016年10月24日 

歴代韓国の大統領で、任期半ばにここまで露骨に自身の能力不足を口にした人物は数少ない。

「大統領選を実施した翌日から再び次期大統領選が始まる政治体制」とはよく言い切ったものである。すべての政治活動は権力闘争の一端だ。しかしその中で最も強い権力を手中に収めている人物が、かような発言を行うのは、韓国の憲法が定める規定に問題があるのではなく、朴槿恵自身の政権運営能力が欠如していることを自白しているに過ぎない。

◆来年3月の党大会で党則改正を正式決定する安倍自民

2014年自民党広報

2012年自民党広報

他方、日本の憲法に首相の任期規定はないが、実質的には衆議院議員の投票により選出されるのが首相であるから、現在の議席数を鑑みれば、残念ながら自民党の総裁任期=首相任期ということになる(勿論政権交代の可能性や自民党分裂の可能性がないわけではないが)。現在自民党の総裁任期は党の規定により「2期6年」(1期3年)と定められているが、8月に安倍はそれを「延長したい」と言い始めた。

当初は党内からも異論があった。岸田外相や石破茂らが疑問や異議を唱えていたが、ついに自民党は10月26日、総裁任期について議論する「党・政治制度改革実行本部」の総会を開き、本部長の高村正彦副総裁が示した現行任期の「連続2期6年」を「連続3期9年」に延長する案を了承した。近く総務会にはかり、来年3月の党大会で党則改正を正式決定する、と発表した。 ※毎日新聞2016年10月26日 

◆状況が大きく異なる日韓首脳「任期延長」
──2021年9月まで安倍政権という日本の悪夢

2015年自民党広報

もっとも二人の目指すもの、「任期延長」は同じでも、その足元の状態は大きく異なる。目出度くも日本は大マスコミが政権批判を行わないので、「暴政の牽引車」安倍の支持率が5割以上もあるけれども、朴槿恵の支持率は10月28日現在18%だ。

相次ぐスキャンダル報道により、国民がその実情を知り得るという点で、日本のマスコミは残念ながら韓国の政権批判機能よりも格段に退行している。朴槿恵が浴びせられるスキャンダルやスクープの数に比すれば、安倍に対しての国内報道機関の批判はなんとか弱く、腰が引けていることであろうか。

そして、朴槿恵の思惑は恐らくは成就しないが、安部の模索する自民党総裁の任期延長は実現するだろう。

仮に安倍がこのまま3期目を全うすればその任期は2021年9月までとなる。悪い冗談、いや悪夢はたいがいにしてくれ。

韓国も日本も少子高齢化、経済状態・財政赤字の悪化、資本の寡占化という同様の問題を擁している。経済規模や人口は日本と異なるけれども中国、朝鮮との関係などより深刻な問題に直面する韓国にはそれでも、大きな変化を望む声が日本よりは大きくある。

2016年自民党広報

大学では学生がストライキに立ち上がり、労組が大規模なゼネストを打ったりしている(こういったニュースも日本ではほぼ報じられない。したがって日本にいるとよほど意欲がなければ隣国の実情もマスコミから知ることはできない)。

18%の支持率という死に体大統領と、是が非でも東京オリンピックを首相で迎えたい、改憲主義、好戦主義首相。不幸な時代には頭脳の貧しい指導者が似つかわしいのか。それとも最悪の時代を迎えるにあたって、この二人を最高権力者の座に導いた有権者こそが指弾されるべきなのであろうか。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

10月16日、大阪は夏の暑さが戻ったようだった。最高気温は28度。

「僕みたいな市井の人間が難しいことは解らないけど」と何度も、何度も繰り返し断った上で、内田さんは「何となく感じる気持ち悪さ」、「普通に話せるはずなのに、そうはいっていない」状況への違和感を終始紳士的に語って下さった。

内田勘太郎さん(2016年10月16日大阪にて)

◆屈指のギタリスト内田勘太郎さんと大阪で会う

内田さんとは、憂歌団のギタリスト内田勘太郎さんのことだ。次回発行『NO NUKES voice』10号のインタビューに10月16日大阪市内で応じて頂けた。憂歌団を知っている若者は少ないかも知れないが、70年代から80年代関西で(いや関西だけでなく、全国で)音楽を聴いていた人ならば知らない人はいないだろう。内田さんは世界にも名を知られたギターリストだ。

これが日本の、しかも高校を出たばかりの若者が作った曲か、と仰天半分で彼らの楽曲を聞いた記憶がある。憂歌団の楽曲は40代、いや50代くらいの齢を重ねていなければ奏でるのが不相応にも思える、ある種「老成」したかに聞こえるブルースの珠玉の数々だ。でも私より年上の彼らが実際に、楽曲を織りなし、カルピスの瓶をはめた内田さんの左手はギターが、「こうも語るんだよ」と言わんばかりに独自の味わいを70年代から奏でていた。私は観客席から内田さんの演奏を何度も聴いたことがあるけれども、直接まとまった時間お話を伺うことができる機会が訪れるとは、幸運も極まれりである。

内田さんは1995年から沖縄に住んでいる。2011年3月、初めてのお子さんをもうけた。だから「2011年3月は大変な月だった」と語っていた。いつも頭の中で幾通りもの位相が織りなされて、片意地を張るわけではないけれどもモノを深く考えている人、優しい人だなあと感じた。

10月2日熊本で行われた『琉球の風』に常連ミュージシャンとして参加していた内田さんが、打ち上げの席で(酔った勢いのためか)、「『NO NUKES voice』いいですね。何でも協力しますよ!」と鹿砦社社長、松岡に声をかけて頂いたのをきっかけにこの日インタビューは実現した。詳しい内容は『NO NUKES voice』次号でお伝えする予定なので乞うご期待!


◎[参考動画]内田勘太郎「一陣の風」(2014年「DES’E MY BLUES」より)内田勘太郎さんオフィシャルサイト 

米山隆一=次期新潟県知事(NHK2016年10月16日付記事)

◆同じ日の夜、新潟県知事選で米山隆一氏当選という「一陣の風」

内田さんのインタビューを終えて帰宅後、夜は新潟県知事選の開票が気になっていた。国政選挙や知事選でも最近大手マスコミや、通信社の事前予測は与党候補有利の報道が当たり前のようになり、信用できない。また投票行動にもその影響は及んでいるだろう。しかし、新潟は先の参議院選挙で1人区ながら、野党統一候補の森裕子がギリギリ当選している。

米山隆一さん公式ブログより

保守大国、なぜか最近ちょっとした「田中角栄回顧ブーム」もあり、選挙の行方は自公が推す森民夫が有利に思われた。ところがパソコンの画面を眺めていると、予想外に早く米山隆一に「当確」が出た。

現職泉田知事は原発に関して、全国の知事の中で最も明確に「再稼働反対」を打ち出し、それが理由で元々自民党の一部も推していたのにもかかわらず、地元経済界や議会から大いに足を引っ張られていた。足を引っ張られていたなどという表現では軽すぎるだろう。「私は絶対に自殺はしませんから、遺書が残っていても自殺ではないから必ず調べてださい」とまで発言していた。

米山隆一さん公式ブログより

5月、別件の取材で新潟に出向いたとき、泉田知事はほかの地域から評価されているのと真反対に、地元では相当な窮地に追い込まれていることを人々から聞かされていた。地元紙、「新潟日報」の泉田氏攻撃が殊に激烈だと聞いた。だから泉田氏が「出馬をしない」と表明した時にも「ああ、そこまでシビアだったんだ」と残念ながらもその理由の一端は理解できた。

一方、米山候補は出馬への準備時間も短く、繰り返すがイメージとしては「保守大国」新潟でどこまで戦えるのか、当選は厳しいのではないか、と危惧していた。しかし、米山候補は「原発再稼働を止める」ことを公約とし、新潟県内に留まらず、全国の反原発陣営の応援も取り付けた。

米山隆一さん公式ブログより

反自公統一候補であると同時に「反原発」象徴候補として全国からの支援を取り付けることに成功した。広瀬隆氏(作家)、鎌仲ひとみ氏(映画監督)、佐高信氏(週刊金曜日編集委員)、山本太郎氏(参議院議員)らが応援しているのはなるほど、と頷けたが、なんと「政治は大嫌いです」と常々発言してきた小出裕章(元京大原子炉実験所助教)氏までが応援のメッセージを寄せていた。

反自公の野党統一候補が「原発再稼働反対」を公約に知事に当選した意味は大きい。新潟県民は中越地震を忘れてはいなかった。黒い煙を上げた柏崎刈羽原発事故を忘れていなかったのだろう。

もし、インタビューの後に内田さんと飲んでいればきっとこの話題で盛り上がったに違いない。


◎[参考動画]新潟県知事選 再稼働に慎重 米山隆一氏が初当選(ANN=テレビ朝日2016年10月17日)


◎[参考動画]新潟県知事選立候補者 米山隆一氏インタビュー(kenohcom2016年10月14日公開)

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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