法外の御代51万円を請求した「CLUB Cenote(セノーテ)」事件は、ぼったくり取り締まりの大きな引き金となった。事件のすさまじさはその金額だけでない。被害者がぼったくり店で働かせられ、恐怖のあまり富士山麓の樹海まで逃走するという衝撃の事件だったのだ。

2014年12月、大手居酒屋に勤務していた32歳の男性は、歌舞伎町でひとり酒を飲んで締めのラーメンを食べ、帰宅しようと歩いていたところだった。

そこへ現れたのが客引き。「1時間4000円ですよ」と声をかけ、男性は給料を受け取ったばかりとあって懐に現金約20万円があったため「気が大きくなっていた」と入店した。時間は深夜4時だった。

歌舞伎町ーセントラル通り(撮影 小林俊之)

◆目が覚めたら、体格のいい従業員ら数名に囲まれ、監禁状態へ

入店すると、店員に勧められた1万円のシャンパンを注文してしまったが、このときすでに酔いは深く30分で居眠りをしてしまった。気付いたら、時間は正午になっていた。持っていた現金は見当たらず、この暗い店内にいた記憶も曖昧。そこにいたのは体格のいい従業員ら数名で「お客さん、51万円になります」と請求。驚いた男性が「そんな払えない」と断ると、男性を取り囲み、「金を払わなかったら帰れねえぞ」などと声を荒らげ、腹を殴り、「だったら、うちで働いて返すしかねえんだ」と威圧。監禁状態に陥り、勤務先の出勤時間も過ぎてしまった。

それまで無遅刻無欠勤だった男性には、心配した同僚から携帯電話に連絡があったが、従業員に「会社を辞めると言え」と強要され、退職を申し出た。

◆新宿区から富士山麓の樹海まで走って逃走したその距離70キロ

男性はその後、この店の職員寮だとする中野区の住居に引っ越しをさせられた。夜からはトイレ掃除や客引きを命じられたが、翌朝8時に寮に戻った男性は着替えてすぐに逃走。動揺して警察へ行くことより「富士山まで逃げれば追ってこないだろう」と思う一心だった。

到着したのは神奈川県山北町のJR東山北駅、ひたすら歩いて静岡県御殿場市に入ったが、持ち金もなく疲れ果てて座り込んでしまった。そこを静岡県警の警察官が通りがかって保護されたのだ。男性がいたのは山中で、追い詰められた人間の行動がいかに奇特なものになるかが分かった。新宿区からの逃走距離は70キロにも及んだのだ。

今年2月、警視庁は店の従業員ら5名を逮捕。「ぼったくりではない」と5人とも容疑を否認していたが、同店はオープンした昨年11月当初から高額請求などの相談が51件寄せられていた。「セノーテ」という名前は実は同じ場所で別の人間がやっていた名前で、そのまま同じ名前で営業をしていた。そのため、前の常連客も被害に遭っていたようだ。

◆セノーテのような事件は毎晩、起こっている

ぼったくり被害の情報サイトを運営する青島克行弁護士は「店側は自分から裁判を起こして請求額をとったりすることができないのを分かっていて、当日のうちにできる限り金を取りたいと思っているから過激な行動に出る」と説明する。

一方、客については「理屈では自分が正しいと分かっていても、店側の言いがかりや威圧が続くと、本当に自分が正しいのか分からなくなる。反論する気持ちも萎え、言いなりになる以外の選択肢がなくなっていく」という。

セノーテのような事件は毎晩、起こっている。法曹関係者は「とにかく店から出るのが一番。その場で金を払うのではなく、相手を刺激しないよう下手に出ながら交番に連れて行くことが大切。もしも店に交番に行くことを止められたら、何度でも『お願いです、交番に行かせてください』と懇願すること」と呼びかけているが、セノーテの極端にひどいケースのおかげで歌舞伎町への取り締まりは強硬策がとられ始めている。[つづく]

歌舞伎町ーセントラル通り(撮影小林俊之)

(小林俊之+影野臣直)

小林俊之+影野臣直!強力タッグの短期連載ルポ[全8回]
新宿・歌舞伎町ぼったくり裏事情──キャッチ目線で見た「警察の対応変化」
《1》「ぼったくり店」はどうやって生まれるのか?
《2》なぜ銀座のクラブにはゴタがないのか?
《3》メニューに金額明示があれば違法性はない?
《4》東京五輪を前に警察が浄化作戦を始動?
《5》御一人様51万円「クラブ・セノーテ」事件の衝撃
《6》ベテランキャッチが語る「ぼったくり」の世界 [近日掲載]
《7》「ガールキャッチ」復活と増えるプチぼったくり [近日掲載]
《8》警察の弾圧が盛り場の「食物連鎖」を増殖させる [近日掲載]

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「お兄さん、1時間4000円ぽっきり、追加なしで!」
男性が歩けば1度はこんな声をかけられるのが歌舞伎町だ。中にはしつこく客引きを続け、乱闘騒ぎになることもある。しかし、あまりに日常的に当たり前の光景になっていため、誰もそこに驚くことはなかった。これが長く犯罪し放題の入口になっていても、だ。

◆2015年6月歌舞伎町交番の劇的変化──民事から一転、刑事事件対応に強硬化

この執拗な客引きや勧誘は、「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」などで規制され、商店会などが防止パトロールに取り組んできたが効果はなし。そこで2013年9月1日、客引き自体を規制する「新宿区公共の場所における客引き行為等の防止に関する条例」が施行された。

これはそれまで規制されていなかった居酒屋やカラオケ店への客引きも含め、客引きそのものを規制するだけでなく、客を待つ「うろつき」「たたずみ」「たむろ」までも禁止した。

しかし、この条例は骨抜きだった。条例には罰則がなく違反しても何もペナルティがない。そのため条例施行の9月1日にもキャッチは横行するという冗談のような光景があった。ただ、キャッチの問題はこれが「ぼったくり被害」への誘いという重要なものだったため、相次ぐぼったくり被害に15年に入り、大きな変化があった。歌舞伎町交番の対応が劇的に変化したのだ。

「特に6月に入って明らかに警察の姿勢に変化がありました」
そう話すのは当のキャッチ男性、佐上俊介(仮名)。29歳でキャリアは6年、高校卒業してしばらくは無職だったが、歌舞伎町の飲食店に務める知人を通じて客引きを始めた。初の就職先がキャッチだったのだ。佐上は当初、問題のないキャバクラ店への客引きが主体だったが、すぐにより稼げる「ぼったくり店」の仕事を引き受けるようになった。
「キャッチの中でも、ぼったくりは受ける人と受けない人がいますが、自分はあまり関係なかったッス」

ぼったくり被害を生むと窓口になったキャッチは恨まれるため、被害者に追われることもあるが、佐上は学生時代にケンカ三昧の日々を送っており、怖い者なしだった。これまでぼったくり店に客を何百人と送ってきた彼だが、いまだ刑事罰を受けたことはない。

「あくまで自分は店に客を紹介するだけ。店とは関係ないッスから」
「前は、ぼったくり被害者が『4000円ぽっきりと聞いたのに、20万円も請求された』とか客が言っても、店は『客が無銭飲食をしてる』って言い張って平行線になってたんスよ」と佐上。

警察は支払いの問題に関しては民事不介入を原則としており、両者の話には入らず、『双方、よく話し合いなさい』という対応までだった。しかし、6月からは客が交番に駆け込むと、被害者をまず新宿署に連れて行き調書をとり、、飲食店に出向く。そして従業員を取り調べとして署に同行させ、最長48時間拘束するようになった。

ぼったくり被害は現在、毎月200件ほどの被害電話が新宿署にあるという。「ぼったくり」の一丁目一番地といわれる「新宿・歌舞伎町」だが、ついに捜査拒否の大義名分、民事不介入をひっくり返し、刑事事件として扱いするようになった。

◆東京五輪を前に浄化作戦が始動?──居酒屋「新宿風物語」事件

東京五輪を前に浄化作戦が再活発したという部分もあるが、目先のきっかけとなったのは2つの事件だ。

昨年12月末、居酒屋「新宿風物語」が「クレジットカードの明細、もしくは領収書があれば返金します」というメッセージをホームページ上に出した。この店はよくある暗いバーで値段の分からない飲み物を飲ませられる、いかにも「ぼったくり」なバーではなく、一見して通常の居酒屋だった。ネットの人気グルメサイトにも掲載されているほどだ。しかし、そのサイトのレビューでは客が「ぼったくり」と被害を報告。ツイッターでも領収書の写真を公開して、その異常な会計を示した。

被害者によると、同店では2時間の飲み放題1800円で客を寄せていたが、2名で入店すると広めのテーブルに案内され、二人なのに「お通し」だけで6人分の計2400円を計上された。さらに5人が座れるテーブルの席料として3780円、週末料金も5人分の3780円、飲み放題も2名のはずが5名分の9000円がチャージされた。本来、別途オーダーしたつまみ代を含め2万7000円ほどの支払いのはずが4万3000円ほど請求されたという。

これが大騒ぎとなって運営していた会社は店を閉店させ返金に応じたが、こうした一般の居酒屋でもぼったくりが横行していたことを警察が見過ごせなくなった。一部の夜遊びしている酔客ではなく、大衆が騒ぎしてメディアでも取り上げられる事件となると警察は本腰を入れるのだ。

新宿区内で焼き鳥屋を営んでいる主人によると「同様の居酒屋は他にもたくさんあった」という。
「お通しや席料と称して本来、不必要な支払いを高額請求するのは常とう手段のようになっていました。いまでも飲み放題の金額が安くても、つまみが異常に高いという店などたくさんあります」

そして、もうひとつ、51万円を請求した「CLUB Cenote(セノーテ)」事件も、ぼったくり取り締まりの引き金となった。被害者はぼったくり店で働かせられ、恐怖のあまり富士山麓の樹海まで逃走するという衝撃の事件だった。[つづく]

(小林俊之+影野臣直)

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《1》「ぼったくり店」はどうやって生まれるのか?
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上下院で総選挙が行われたビルマで、NLD(国民民主連盟)の圧勝が伝えられている。NLDを率いるのはアウンサンスーチーさんで、この選挙でNLDが圧倒的勝利を収めれば「実質的な実権者に就く用意はある」と語っている。ビルマの憲法では「外国籍を有する家族を持つ」人は大統領には就任できない(この不思議な条文は軍事独裁政権がアウンサンスーチーさんを排除するためだけに作り上げたものだ)から、彼女自身が大統領になることは今のところ出来ない。NLDの幹部を大統領に据えて、彼女は要職に就く計画だとの情報もある。

◆本当の政権交代は25年前の1990年5月の総選挙で実現したはずだった

それにしても(仮にこの選挙結果が伝えられている通りNLDの政権奪取に繋がれば)ここまでの道程、なんと険しく、長かったことだろう。1988年、母の看病のためにビルマへ戻ったアウンサンスーチーさんに政治参加の意思は希薄だった。しかし民主化勢力の強い要請により同年8月26日、シュレダゴンパゴタで50万人の民衆を前に初めて演説を行う。この伝説的演説は建国の父アウンサン将軍の娘、アウンサンスーチーさんの民主化への合流としてビルマ国内だけでなく、国際社会でも大きく報じられた。

そして迎えた1990年5月の総選挙でNLDは80%を超える議席を獲得する。本当の政権交代は25年前に実現したはずだった。しかし当時の軍事独裁政権は「選挙結果は無効」とし、当選したはずのNLD議員の身柄拘束や逮捕が相次ぐ。アウンサンスーチーさん自身も禁固を含め何度も自宅軟禁を強いられ、一時は外部との接触を一切禁止された時期もあった。

◆1998年、自宅軟禁下のアウンサンスーチーさんへのインタビューを決行した

私とかつての職場の同僚が彼女に会いに出かけたのはまさに、厳しい自宅軟禁が強いられていた1998年だった。軍事政権の独裁に対して欧米などは経済支援を控えていたので、当時の軍事独裁政権を支えていたのは主として日本だった(後にその位置は中国が取って代わることになる)。英国植民地時代に設計されたラングーン(現在は「ヤンゴン」と呼ばれている)の町並みは緑豊かであったが、経済状態の疲弊は一目瞭然だった。かつては大型商店であったろういくつものビルが廃墟となり、また老朽化していたし、外国人向けのホテルはどこもガラガラだった。欧米人の姿を目にすることはほとんどなかった(民政移管後ラングーンの町も様変わりし今では外資の投資が殺到している)。

当時、取材目当ての外国人の入国は厳しく制限されていた。私たちは大学職員だったから「観光ビザ」で入国し、彼女の自宅のあるユニバーシティ・アベニューに設けられた検問所まで歩を進めた。もちろん、いきなりそこへ向かったわけではなく、事前様々綿密に計画を立て、いくつかのパターンを想定してインタビューする場所も彼女の自宅以外の場所も用意していた。

検問所に着くと自動小銃を持った軍人が数人出てきた。責任者と思われる人物が「ここから先へは行けない、引き返せ」と英語で命じてきた。検問所周辺には軍人の他警察の制服を着た人間や私服警官もいたが、厳格なものではなく、広い通りの片側車線だけに検問は置かれていた。その先は比較的裕福な人々が暮らす住宅街でもあるので、住人は顔を確認して素通りできるようにしてあったのだろう。

検問所を守る軍人たちにとっても、こんなに正面を切ってやって来る厄介者はそうそうはいなかったのだろう。俄かに周辺が騒がしくなった。
「この先に住む知人から招待されている。先に行かせてほしい」
私がそう切り返すと、責任者とおぼしき男の口から聞き取れない声が発せられた。それと同時に肌の浅黒い4人の軍人が一斉に自動小銃を構え、銃口を私たちに向けた。
「私はビルマ人ではない。私たちが数日以内に帰国しなければ国際的なマスメディアの多くがその事を報じることになっている。国連にも連絡が入る。それでもよければ撃ってくれ」
たどたどしい英語でそのようなことを叫んだが、既に軍人の指は引き金にかかっている。向かい合う双方の緊張が高まる。

当初の計画では検問所で15分ほどねばり、そこへアウンサンスーチーさんが出て来て、「友人だ」として私たちを自宅に連れて行く。というのが第一案だった。しかし検問所でのやり取りは思ったほど時間が稼げず、思いの外、緊張が高まってしまった。軍人たちもかなり興奮している。撃たれることはないだろうが、これ以上そこに留まれば、身柄拘束の危険性は否定できない。仕方ないので私たちは第一案を放棄し、第二案に切り替えた。

アウンサンスーチーさんは自宅軟禁ではあっても監視付きながらラングーン市内の移動は認められているとの情報を得ていたので、自宅突入が失敗した時はNLDのNO.2であるティン・ウーさんの自宅へ移動し、そこへアウンサンスーチーさんに来てもらうプランだった。

ティン・ウーさんはネ・ウィン軍事独裁政権で大臣を経験するも、独裁政権とたもとを分かち、民主化運動に参加した珍しい経歴を持つ人物で、当時ビルマ国内ではアウンサンスーチーさんに次いで人気のある民主運動家だった。

幸い、ティン・ウーさん宅でアウンサンスーチーさんのインタビューは成功した。インタビュー終了後、しつこく尾行に付きまとわれたが、私たちの身柄が拘束されることはなかった。そして翌日の空港ではいったん出国手続きを終え、搭乗ゲートで待っていたところ、再び空港係員に呼び戻され、鞄の中のあらゆる記録媒体(ビデオテープ、カメラのフィルム、土産に買ったビルマ音楽のカセットテープなど)が没収された。何も策を打っていなければ、せっかくのインタビューも人目に触れることがなく、私たちの取材は記憶の中だけのものになっていた可能性もあった。

しかし、そのような事態を回避するために私たちは「運び屋」を準備していた。私たちより1日早くビルマに入り、観光客然として振る舞う同僚を準備していたのが僥倖だった。彼は気の毒なことにアウンサンスーチーさんのインタビューには立ち会えなかったが、取材を終えた私たちから主たるビデオとカメラのフィルムを受け取ると、その日の便でビルマを出国していたのだ。

そんなスパイごっこのような末に公開できたのが下記の取材映像だ。

http://www.kyoto-seika.ac.jp/freedom/aungsansuukyi/index.html

◆人々の夢を実現する

もうあれから17年が経過した。インタビューが終わりティン・ウーさん宅で休憩しながら歓談していた時、私は彼女に謝辞を述べた。
「今回はありがとうございました。何の縁もない私たちのお願いを、危険を冒して受け止めてくださり感謝の言葉もありません。私たちの計画は『素人にできるはずがない。夢みたいな話だ』と揶揄されましたが、今日こうやって成功することが出来ました」

そう私が述べると彼女はさらりとこう言ってのけた。
「とんでもありません。『私の仕事は人々の夢を実現する』ことですから」

「人々の夢を実現する」のが仕事。こんなセリフは普通軽々しく吐けるものではないし、不釣り合いな人が発語すれば、聞いている方が興醒めするだろう。しかし彼女の言葉は違った。私はそれまでの人世で感じた事のない不思議な心地よさに包まれた。「ありがとう。アウンサンスーチーさん。必ずインタビューは世界に公開します。何があっても」そう言いながら握手した彼女の掌は細かった。

彼女がビルマに帰国した1988年から27年、選挙で圧勝した1990年から25年、私たちのインタビューを受けてくれた1998年から17年。当初の彼女から変わったように見受けられる発言や行動もないわけではないが「夢を実現する」仕事はいよいよ集大成を迎えつつある。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

◎《追悼》杉山卓夫さん──「不良」の薬指に彫られた指輪のような刺青の秘密
◎隣のクルド人──「国を持たぬ民」が日本社会で暮らすということ
◎アフガニスタンの「ベトナム化」を決定づけたオバマ米大統領の無法
◎「一期限り」を公言しながら再選狙った村田前学長が同志社大学長選で落選!
◎挙句の果ての「1億総活躍」──狂気、矛盾、悪意、恫喝づくしの安倍暴走政権

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昭和天皇が崩御し、バブルの終焉とともに日本社会は全国的な不況に陥った。カネはないが遊びたい、という客たちが繁華街に溢れた。このあたりからであろうか。キャッチが風俗雑誌を切り抜き、パウチ加工したものを客の目の前でチラつかせて足を留めさせ始めたのは。客は面白いように釣れた。

◆ぼったくりの温故知新──iPadで客引きする歌舞伎町のキャッチたち

平成になると、キャッチのアイテムはさらに進化する。パソコンやアイコラを駆使し、自家製のフライヤーや小冊子を作っているキャッチもいた。そして、今やiPadを所持するキャッチが増えている。

二次元の画像だったものが、iPadの普及により三次元の動画で紹介できるのである。ネット上には、世界各国の動画や画像が氾濫している。取り放題、見放題、使い放題である。これほどの規模の宣伝媒体は、過去に存在しない。

「ウチの店ではですね。こんな娘が……」
キャッチが示すiPadの画面に、目を釘付けにする 客、客、客。ネット社会らしい、新手の客引き法である。

古典的な手法で、客から法外な料金を獲るぼったくり店。時代の先端を担うiPadを駆使し、客引きに利用するキャッチたち。まさに、『温故知新』という故事がそのまま当てはまるのが、ぼったくり店とキャッチの現状なのだ。

◆「確認しなかったのは、アナタの責任でしょ」──ぼったくり店の相場は1人最低5万円前後

歌舞伎町ーセントラル通り(撮影 小林俊之)

店側としては、きちんと「客の了解」をとっている。了解をとった以上、それは「正規のオーダー」であり、これを踏み倒せば無銭飲食だ。客さえ入店すればしめたもの。あとは売上を上げるだけである。

一例をあげれば、セットを1万円程度に設定しても、チャームやオードブル、フルーツを一品、女の子のドリンク代などを加算していく。他にも、タイムチャージなどがある。基本的に、ぼったくり店は自動延長だ。自分から帰る意志を告げないと、延長料金が発生し続ける。タイムチャージと称し、30分毎に延長料金5千円~1万円は取るだろう。

そして、これら算出された小計にサービス料40~60%。テーブルチャージ10%、ボックスチャージ10%、ミュージックチャージ10%などを累計で加算していく。当然、消費税も加算される。一番安く見積もっても、小計金額の2・5倍以上となる。(※店により若干異なる)

現在のぼったくり店では、座った時点で小計が1人最低5万円前後になるように設定されている。メニュー通り5万円の小計で計算すれば、1人あたり12万5千円。4人ならば50万円。しかも、この金額設定はメニューにきっちりと明示されているのだ。だから、違法性はないと突っ張れるのである。

「お金に余裕がないなら、オーダーをだす前にメニューを確かめればいい。女の子に料金システムを尋ねればいい。確認しなかったのは、アナタの責任でしょ」

店側の言い分である。だから、モメた客を警察に連行して払わせる、ということが可能だった。ただし、今年の6月1日からは交番にぼったくり被害客が駆け込むと、被害者、加害者ともに新宿署に連れて行かれ、刑事事件と同様の扱いを受けるようになった。くわえて弁護士が夜9時から歌舞伎町に待機、2万5千円の料金が派生するが店と交渉してくれる『歌舞伎町ぼったくり110番』が東京弁護士会によって6月26日から稼働しているなど、状況は変わりつつある。[つづく]

(小林俊之+影野臣直)

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するな戦争!止めろ再稼働!『NO NUKES voice vol.5』創刊1周年記念特別号!

11月6日、任期満了にともなう学長選挙が同志社大学で行われ、第33代学長に理工学部の松岡敬(まつおかたかし)教授が選ばれた。この学長選挙には4年前に「大学長になっても一期しか学長は勤めない」と公言していたはずの村田晃嗣(むらた こうじ)も立候補していた。

7月の衆議院平和安全法制中央公聴会で「戦争推進法案賛成」を明言し、私立大学学長としては実質的に日本の歴史上初の「戦争推進発言」を行ったファシスト村田は、同志社大学が築いてきた「リベラル」、「良心教育」の歴史を完膚なきまでに踏みにじり、同志社の名を地に落とした。

◆落選したからといって国会で大学長として行った発言の罪が消えるわけではない!

もう学長とは呼ばれなくなる村田。しかし戦争推進発言の罪は消えない

その村田が学内外の良心的な人々から強い指弾を受けながら、恥知らずにも「公約」であった「一期限り」をかなぐり捨て、厚顔無恥にも再び学長選挙に出馬した。学長選挙の候補者になるためには推薦人が必要だが、恥ずかしくも「戦争推進」を公言した村田を支持する人間が同志社大学には一定数存在していたわけだ。

しかし、声を挙げない、行動しないように見えた教職員の中にも「最後の良心」は残っていた。橋下徹同様「公約破り」を平然と行い、同志社に限らず全国の若者を戦場に送り込む最悪法に賛成の意を示した村田。大学人としては万死に値する倫理的大罪を犯しながら、その後も平然と「良心学」の講義の教壇に立っていた村田。本来は任期満了を待たずに、国会での発言直後に「打倒・追放」されるのが村田には当然の報いであったが、よくも再度学長選挙に立候補などできたものだ。奴には「戦争推進法案賛成」の引き換えに、自民党から「ご褒美」が用意されていると、私は見立てていたが、自民党から約束を反故にされたか。それとも大好きな米国(とりわけCIA)から離縁されたのか。

落選したからといって学長として国会で行った発言の罪が消えるわけでは決してない。同志社大学関係者はこの選挙結果に安堵することなく、「村田発言」への責任追及は断乎継続しなければならない。


◎[参考動画]戦争法案【賛成】公述人=公明党推薦・村田晃嗣=同志社大学学長(2015年7月13日)

◆同志社の村田打倒から大阪のファシスト橋下打倒を!

スクラップ・アンド・スクラップで間もなく崖から落ちる橋下徹(2015年10月31日おおさか維新の会 結党大会後の記者会見にて)

そして、関西ファシズムの元凶橋下とその断末魔「政治団体大阪維新の会」(政党ではない)候補の出馬する、大阪市長、大阪府知事陵選挙で、何としてもファシスト橋下=「政治団体大阪維新の会」を最終的に完全撃沈させよう。

私たちはいったいどれほど多くの貴重なものを奴に奪われたことだろうか。村田打倒から橋下打倒へ! 大阪府民、市民の皆さんの決起を強く呼びかける!

 

 

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

◎奨学金地獄と高すぎる学費──揺るぎなき教育貧困国・日本
◎沈黙する大学の大罪──なぜこんな時代に声を上げないのか?
◎「人文社会科学系学部」ではなく、まず文科省を廃止せよ!
◎福岡教育大学「粛清」事件──安倍の弾圧に過剰適応する大学の罪

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そもそもぼったくりとは、どのようなものなのか。

店の料金の設定権は店側にある。日本が資本主義国家である以上、個人や法人は経営において利潤の追求を第一の目的とする。当然、経営はボランティアではない。客を喜ばせるために、赤字経営になってはならないのだ。

まず、店を開店するにあたって投資した、敷金・礼金や不動産仲介料などの償却。毎月、支払わなければならない家賃に人件費。その他、管理費や水道・電気・ガス等の光熱費。酒代やおつまみ等の仕入れなども、大きな出費である。店のマットやトイレのタオル、カラオケがある店なら機械などのリース代。名刺代や伝票・領収書などの文具代。細かいものなどを合わせれば相当な金額がかかる。その出金を営業日数で割り、1日の最低必要経費を算出する。さらに、それを入店客数で割ったものが、最低限必要な個々の客単価となる。

◆客引きが入店に介在して、はじめて生まれる「ぼったくり被害」

何度もいうようだが、店の営業は慈善事業ではない。必要経費が1日10万円で、1日10人の客が見こめるなら、客単価は1万円以上でなければ利益は計上されない。2人の客しか入らないなら、客単価5万円以上は欲しい。1人の客しか入らないなら、客単価は(損益分岐として)10万円以上となる。銀座の高級クラブなみである。

だが、 銀座のクラブにはゴタがない。一晩で何百万円請求されても、客はぼったくりだと非難しない。銀座という土地柄なのか。歌舞伎町との格差なのか。否、客が自分の意志で店を選んでいるからである。つまり、客引き(=キャッチ、ポン引き)が入店に介在して、はじめてぼったくりが生まれるのだ。

キャッチの甘言に惑わされ、低料金だと思って店に入店する。そこで、自己の想像の範疇を超えた料金を請求されたとき、人は「ぼったくり被害に遭った」ことを認識するのである。[つづく]

歌舞伎町ーセントラル通り(撮影小林俊之)

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1991年の暴対法(暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律)成立以降、暴力団(ヤクザ)に対する社会の締め付けが強まった。指定暴力団の構成員であることがバレると銀行で個人名義の口座を開くことは出来ないし、生命保険や損害保険に入りことも許されない。さらに借家を探そうにも不動産屋が指定暴力団の構成員だとみなせば、住居の紹介すら受けることが出来ない。

たしかに、暴力団(ヤクザ)は非合法のシノギ(金儲け)を収入源にしていることはあるだろうが、こんな扱いを受けたら一般的な社会生活すらおくれなくなるのではないだろうか。仮に組織を抜けて「堅気(カタギ)」に戻ろうにも、勤務先で給与の振込先を聞かれて「銀行口座がありません」と答えれば、不審に思われるのではないだろうか。それが原因で「不採用」になりはしないか。

◆暴対法で無法化する公安警察──市民に危害を加えるのは「ヤクザ」でなく「半グレ」「チンピラ」

暴対法は過剰だと思う。公務員として身分が保証され、昼間から日がな一日乱闘の訓練ばかりしている公営組織暴力団(機動隊)とは裏腹に、民間のヤクザには犯罪を犯していなくとも、基本的生活権が認められてはいない。だからヤクザの構成員数は右肩下がりで、「シノギ」も合法的な企業体を装わなければ、即座に警察から「中止命令」を食らってしまう。

でも、「ヤクザ」はどの時代にでも、どこの国にでも必ず必要とされる、緩衝材のような存在ではないか。日本語で「暴力団」と表記すると物々しいけれども、非合法部分で社会の緩衝材的役割を果たす組織は世界を見回しても相当多くの国や地域に存在する。日本の「ヤクザ」だって、戦後の混乱期、警察力が不足していた頃は正式に警察の依頼を受けて労働争議の弾圧や治安維持に加わっていたことは動かしがたい歴史である。時に権力の走狗となり「泥仕事」を請け負うのも「ヤクザ」の役割であった。

そして、警察や総務省、法務省が広報するほど、今日「ヤクザ」は一般市民に危害を加えることはない。そりゃぁその筋の人の集まりの近くに行けば、逃げ出したくなるような独特な雰囲気はあるし、どう真似しようとしたって私如き善良な市民(?)には模倣できない雰囲気はある。だからといって彼らが「おいおっさん、なにメンチ切っとるんじゃ!」と私に絡んできた経験はない。そういう言いがかりをつけてくるのは組織の人ではなく、いわゆる「チンピラ」だ。

「ヤクザ」と比較にならない厄介な存在が一部で「半グレ集団」と呼ばれる暴対法の網にはかからない、実質上の「犯罪集団」だ。最近個人的に「振り込め詐欺」を追及していたら、その元締めがかなり有名な「半グレ」集団であることが判明した。被害拡散防止の為に警察にその旨を連絡したが、相も変わらず警察は即応しない。「貴重なご意見ありがとうございます。情報は必ず上にあげておきます」と言うばかり。いったい何を仕事にしているのだ刑事警察は。

公安警察は頼みもしなくとも、でっち上げ逮捕した人の家に令状を示す前にズカズカ窓から入って来るほど、仕事には過剰に熱心だが刑事警察の程度の低さには、毎度呆れかえるばかりである。

◆冤罪を前科とみなし口座開設を拒否する銀行の姿勢は人権侵害にほかならない

そして「暴対法」や「反社会勢力」との取引を慎重に、という流れの中でお門違いにも被害をうけるのが、「暴対法」や指定暴力団とは何の関係もなく、刑法により有罪を受けた多くの人びとだ。例えば日本には「名誉棄損」の刑事事件で逮捕、勾留された経験を持つ存命の人物が1人だけいる。190日を超える拘置所での勾留がなぜに「名誉棄損」で必要だったのか。まったくもって理解できない扱いを受けたその人は、何と銀行で定期預金を開こうとしたら断られたのだという。因みにその方が定期預金開設を申し込んだ銀行とは長年商売上も、個人的にも取引があり現在も個人名義の普通口座は保有しているという。

どうして定期預金が開設出来ないのかを銀行に尋ねたところ「総合的に判断して」と馬鹿にした答えが返ってきたそうだ。「総合的に判断して」この言葉は企業や役所が「痛いところ」を突かれて明確な回答を出したくない時に利用する常套句だ。私も3ヵ月に1度くらいの割合で取材しているとこの言葉を返される。「総合的に判断して」の裏には、必ず確信の持てない、いい加減な判断や社会には出せない裏事情がある。

上記のケースでは金融機関に義務づけられている「反社会的勢力との取引禁止」を誤解、拡大解釈して、あってはならない「無辜の市民」を「反社会勢力」と断定することにより、失礼千万な口座開設拒否という暴挙に出ている訳である。当該人物を「反社会勢力」と断定するのであれば、これまで続けてきた取引をどう説明するのだ。現在も開設されている普通預金を放置しておいてよいのか。銀行に詳細を尋ねたが納得のゆく説明は得られなかったという。

これは明らかに銀行側が「暴対法」を拡大解釈し過ぎ、金融庁の顔色を忖度し過ぎた大失態であると同時に、無原則かつ説明の出来ない恣意的な「口座開設拒否」は明らかな人権侵害問題だ。

仮に何らかの罪で服役し、刑期を終えて社会復帰した人が銀行口座を開くことが出来なければ、居住場所を見つけることが出来るだろうか。就職先を探し出すことが出来るだろうか。

有罪が確定しても、裁判で確定した刑期を刑務所で過ごしたり、罰金を払えば、その罪は償ったことになるはずじゃないのか。それでも民間社会でさらに「制裁」を受け続けなければならないというなら「法の支配」はこの島国には存在しないことを意味する。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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新宿・歌舞伎町では、今年に入り、月平均で約200件の「ぼったくり被害相談」が新宿署にかかってくる。まさに「日本一、ぼったくりの多い町」だ。

「ぼったくり店」はどうやって生まれるのか。あなたが長年勤めた会社を辞め、夢にまで見た独立を決意したとしよう。商売の基本原則は「薄利多売」である。最初の3カ月は赤字でもかまわない。「先行投資」だ「出血大サービス」だと、集客効果を上げるために盛り上げる。店が繁盛すれば値上げを考えるという、確固たる自信を持って店はオープンした。

歌舞伎町ーセントラル通り(撮影 小林俊之)

開店後の1週間は友人知人が集まり、なかなかの盛況だった。だが、10日目を過ぎたあたりからバタッと客足は遠のき、2週間目に入ったころには店内に閑古鳥が鳴いた。頭をかかえ悩んでいた、ある日、顔見知りになったキャッチが、1人の客を連れてきてくれた。

「社長。この人、どこかそのへんのぼったくりバーでボラれたらしいんですよ。あまりに気の毒だから、3万円ぐらいの予算で飲ませてやってください」

3万円といえば、この店の客単価の3倍である。思わぬ新規の客の出現に、店はホステス総出でもてなした。店内は、華やいだ嬌声で溢れかえる。客も、終始笑顔で飲んでいた。

「ごちそうさま。楽しかった、また来るよ」

気持ちよく飲めたからなのか、店側の上にも下にも置かぬサービスが功を奏したからなのか。客は満足そうに店をでた。満面の笑みで、見送るホステスたち。客はヨタヨタと千鳥足で、歌舞伎町の雑踏の中に消えていった。

「社長、どうもすんませんでした。ウチの店でゴタ(=料金トラブル)った客です。いつまでもキャッチを探して、ウロウロしているので仕事にならない。仕方がないので、良心的な社長のお店に捨てさせていただきました」

歌舞伎町ーセントラル通り(撮影 小林俊之)

キャッチは悪びれずに言った。捨てるとは、トラブった厄介な客を別な店に入れてしまうことである。客も喜んで帰ったのだから、彼の計算どおりにことは運んだ。社長の目が険しく、キャッチを睨む。「また、あんな客がいたらお願いしますよ。今度は、ちゃんとお礼はいたします」

キャッチの意に反し、思いがけない言葉が返った。この店は、客引きを使い店が生き残るべき活路を見いだしたことになる。

「わかりました。ある程度の予算は聞いておきますけど、多少は高く獲ってもいいですよ。ボクら、客の状況やサイフの中身は把握しているんで。もちろん、おとなしい客ばかりで、厄ネタ(=面倒な客)は連れてきませんから……」

キャッチは、エレベーターのボタンを押す。そして、 振り向きざまに、思いだしたようにこう言った。
「あっ、社長。ここはカード使えますよね」
「はい、もちろん」
「それなら、バッチリですよ。ただ、どんな客でも店をでるときは連絡をください」
「わかりました」

店を出た客は、ぼったくられた恨み辛みをキャッチにぶつける。だから店としては、キャッチを逃がさないといけない。

クレジットカードは、コンビニのATMで現金をキャッシングできる上、限度額さえ残っていれば店での支払いにも使える。キャッチは、ニヤッと笑ってエレベーターに乗り込んだ。かくして新たなぼったくり店が、歌舞伎町に誕生する。[つづく]

(小林俊之+影野臣直)

小林俊之+影野臣直!強力タッグの短期連載ルポ[全8回]
新宿・歌舞伎町ぼったくり裏事情──キャッチ目線で見た「警察の対応変化」
《1》「ぼったくり店」はどうやって生まれるのか?
《2》なぜ銀座のクラブにはゴタがないのか? [近日掲載]
《3》メニューに金額明示があれば違法性はない? [近日掲載]
《4》東京五輪を前に警察が浄化作戦を始動? [近日掲載]
《5》御一人様51万円「クラブ・セノーテ」事件の衝撃 [近日掲載]
《6》ベテランキャッチが語る「ぼったくり」の世界 [近日掲載]
《7》「ガールキャッチ」復活と増えるプチぼったくり [近日掲載]
《8》警察の弾圧が盛り場の「食物連鎖」を増殖させる [近日掲載]

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するな戦争!止めろ再稼働!『NO NUKES voice vol.5』創刊1周年記念特別号!

10月25日(日)の早朝6時50分頃、東京渋谷区のトルコ大使館前で、11月1日のトルコ総選挙の在外投票に来た人たちの間で乱闘が起きた。時事通信によれば、乱闘は断続的に発生。鼻を骨折するなど7人が重軽傷を負い、制止に入った警察官2人も負傷した。トルコ人とクルド系トルコ人の対立とみられ、同署は公務執行妨害と傷害容疑で詳しい経緯を調べる。(2015年10月25日付時事通信)

◆激化するクルド人とトルコ人の軋轢

この乱闘事件は大手マスコミでも盛大に報道されたので事件自体はご存知の方が多いだろうが、「いったいどうしてあんな騒動になったんだ?」とその理由や背景については、消化不十分な思いを抱いておられる方が多いのではないだろうか。

機動隊まで出動した、この派手な乱闘を単純化して解説すれば、トルコ国籍を持つ人たちが在外投票に大使館を訪れたのだが、そこで「トルコ人」と「クルド系トルコ人」が衝突を起こしたのだ。

我々から見ると外見ではなかなか区別しにくいが、クルド人はトルコ国籍を持っていようと独自の言語・文化を保持する民族だ。トルコでは今年6月7日に実施された総選挙(総議席数550)で、与党「公正発展党」(AKP)が第一党の285議席は確保したものの、初めて獲得議席数が過半数を下回った。

一方、公認候補を初めて擁立したクルド人の民族政党である「国民民主主義党」(HDP)は得票率13%を得て80議席を確保している。合法政党の進出もさることながらクルド人とトルコ人の軋轢は激化するばかりだ。

◆3000万人のクルド人──世界最大の「国家を持たない民族」

トルコは親日国として知られている。原発事故後の日本と原子力協定を結ぶほど、日本と仲が良い。7800万人ほどの人口を抱えるこの国には多彩な民族と宗教が混在するが、これまで西アジアでは比較的「治安の安定した」国と評価され、日本から観光で訪れる人も数多い。だが、トルコには長年に渡り頭の痛い問題がある。それがクルド人への対応だ。

A collection of photographs by the famous photographer Pascal Sebah on the occasion of the universal exposition in Viena in 1873.

クルド人。世界でおそらく最も悲劇的な歴史を背負って来たこの「国家を持たない民族」は約3000万人がトルコ、イラン、イラク、シリアなどを中心に世界中に分散しながら生活をしている。近現代史を少し紐解けばこの民族の足跡は悲哀に満ちていることがわかる。歴史と言わずとも、現在だってトルコ、イラン、イラクなどでは露骨な弾圧が加えられている。

クルド人の念願は勿論クルド人国家の設立だ。そしてそれは過去短期間ではあるけども実現したことがあった。1946年1月現在のイラン、西アゼルバイジャン州マハーバードを首都として「クルディスタン共和国」が独立を宣言する。ソ連からの援助を受けていたとはいえ、カーズィー・ムハンマド(Qazi Muhammad)を大統領とする「クルディスタン共和国」樹立はこの民族悲願の達成であった。

しかし、イラン政府(ならびに国際社会)は独立宣言から1年も経たない同年12月15日に武力で「クルディスタン共和国」を打倒する。大統領カーズィー・ムハンマドはチャール・チュラ広場で公開絞首刑となり、以降クルド人はひっそりと狩猟を中心とした生活を強いられることとなる。

しかし、西アジア、アラブ各国に広がるこの民族は独立国家の設立を諦めたわけではない。イラン・イラク戦争中には双方が相手国に居住するクルド人に支援を与え内からの弱体化を試みたのを契機に、散発的な武装蜂起がイラク、イラン両国で何度か発生した。

しかし、両国政府は自国に在住するクルド人弾圧の手を緩めることはなかった。とくにイラクでは毒ガス兵器によるクルド人爆撃が大規模に幾度も行われた。確認されている最初の攻撃は1988年3月17日ハラブジャ地方のクルド人居住地域に多量の毒ガス(マスタードガス、ブタンガスなどの混合と見られる)が撃ち込まれ、3700人の死者が出た。

また91年の第一次湾岸戦争後には欧米が「フセイン政権打倒」をイラク国内の反体制勢力に呼びかけたことに呼応する形でイラク国内での少数派シーア派と同時にクルドは蜂起するが、この時またしてもフセイン政権は毒ガス爆撃をクルド人居住地域に対して行っている。

◆沸き起こる心の発揚を抑えない硬質な闘争心に満ちた群衆の姿

90年代後半、私は出張で数日、オランダに滞在した。アムステルダムの目的地に歩いて向かっていると石畳の上を早足で迫ってくる数百人の群衆、否正確にはデモ隊に遭遇した。彼らは背格好がオランダ人ではない。「ひょっとしてクルド人か」との予想は外れていなかった。偶然にも当時少数民族問題に興味を持ちクルド、タタール、チベット、東ティモール、バスクなどの情報を集めていたこともあり、突然目の前に現れたクルド人デモ隊には、鮮烈な衝撃を受けた。

デモ隊は英語で書かれた横断幕も複数持っていたが、叫んでいる言語はクルド語だ。だから、そこで何を叫んでいたのかを私は正確には理解していないけれども、前述のような歴史を知る者として、彼らの叫びと石畳を踏み鳴らす音響には震えを覚えた。

これが沸き起こる心の発揚を抑え切れない(抑えない)硬質な闘争心に満ちた群衆の姿だと、しばし私は彼らの発するエネルギーに黙して見入っていた。

国土を持たない(実質的に歴史上も持ったことのない)分散された民族。その悲しみを私自身がしっかりと共有できているなどとは、おこがましくて言えない。そんな背景を持った人々が東京で見せた露わな姿。

ただ、騒動があった、と片付けてしまうには重たすぎる命題を私たちは示された。独立への指向、民族自決の要求は不当なものだろうか。それが末端では小競り合いや殴り合いという形で現れようが、歴史と現実から目をそむけてはならない。解決策はあるのか。国連は何をやっている。それらをこの島国の住人が少しでも知ろうとするところかしか、話ははじまらないだろう。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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新聞の購読者数が減っている。前年度比で2015年前半は朝日、読売、毎日、日経、産経全ての全国紙が部数を減らしている。なかでも下落幅が大きいのは朝日で前年比4%以上の落ち込みで公称発行部数は679万部まで落ち込んだ。「1千万部発行」を売り物にしていた読売も前年比1.51%で1千万部を割り込み、毎日0.61%、日経0.51%、産経0.04%それぞれ部数を減らしている。(2015年08月19日付ガベージニュース)

朝日の部数減が際立っているが、これには昨年の「吉田調書」問題が大きく関係しているだろう。読売、産経や、週刊誌、はては政治家までが「弾圧」を加えてた「吉田調書」問題。朝日は謝罪などする必要は毛頭なかったのに筋違いの謝罪をしてしまった。その反響1月あたり5万部に相当する読者離れを引き起こしたのであろう。

しかし朝日以外の他の全国紙も全て部数を減らしている。この現象はどう考えればよいのだろうか。

◆20代~40代世帯のほぼ半数が新聞購読経験なし

解かりやすく一番明確な原因は、多くの人が「新聞を読まなくなった」ことだ。殊に20代-40代の所帯では新聞の宅配を一切経験したことがない、という人が半数近くに上る。必要な情報はインターネットで得るので新聞はほとんど読まないとう人も少なくなくなってきた。

また、紙ではなく電子版の普及が部数減につながっているという分析もある。電子版の販売部数を公表しているのは日経だけだ。それによると「朝刊(紙)販売数273万2989部、朝刊(電子)販売数39万0819部」だ。朝刊購読者のうち紙と電子の併読が18万4194部で、電子単独購読者が20万6697部となっている。

つまり従来の紙誌面の7%は電子誌面に取り込めているという計算になる。ただし全国紙の中でも日経は経済に重点を置く、やや特殊な新聞だから購読者総も一般家庭というよりは、ビジネスパースンが多く、彼らが出勤途中、タブレットなどで日経誌面をチェックする姿は想像に難くない。

◆紙面を広げられないから具合が悪い

一方、他の全国紙はどうだろうか。「紙ではなくなった新聞」に私は少なからず違和感を覚えるが、これから各紙とも電子化への移行が進むのだろうか。少なくとも電子化により部数減を食い止めたい、という新聞社の意向は明確のようだ。例えば朝日のホームページで記事を読んでいると記事の半分ほどで「無料登録をして先を読む」、「ログインして全文を読む」の選択肢が表示され、何もしなければそこから先は読めない。

朝日の商売下手なところは、ある程度以上の長さの記事になると、このメッセージをどの記事にも乱用しているところだ。インターネットで記事を読もうとした人は「ケチな奴だな」と感じることだろう。

読売のサイトは朝日とは異なり一応記事の要旨はまとまった所まで掲載されていて、その後に「読売プレミアムに登録済の方、記事の続きへ」と「未登録の方、新規登録へ」のタグが表示される。

これまで新聞を購読して来なかった人たちは、このようなタグが現れたら、おそらくその関連文字を検索エンジンに入力をして、他の情報源から知りたいことの内容を確認するのではないだろうか。

長年、何があろうと新聞を朝、夕ななめ読みする習慣のついている私にとって、新聞は紙でないと具合が悪い。なぜなら電子版では新聞を広げられないからだ。私にとって新聞は「何が書いてあるか」が勿論興味の対象ではあるが「何が書かれていないか」、「この小さな記事に隠れた意味は何か」を察知するのに欠かすことの出来ない情報源だ。

◆網羅的な情報に接する体験を失いつつある若者たち

そして新聞には、興味のない記事も多数掲載されている。それに無理から目を通すことが、私には貴重な情報インプットの源泉となっている。紙の新聞であれば仕方なく1頁づつめくって読んでいくけれども、電子版になれば興味のない記事には目もくれないだろう。新聞でなくたってインターネット上の情報の取捨選択には既にそのような習い性が多くの方の身に付いていることだろう。

今後新聞は衰退してゆくだろう。新聞的な情報の価値が下がったわけではなく、網羅的な情報に接することの貴重さを経験したことのない若年層が増加するからだ。スマートフォンやタブレットから拾える情報は無限大だろうが、新聞紙を広げてそこに「書かれていない」ことから世界を想像することも、それはそれで貴重な作業だとは思うが、時代遅れなのだろうか。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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