8月18日の記事でご紹介した通り、27日14時から「安保関連法案制定を阻止し、安倍政権を打倒するための学生ハンスト実行委員会」によるハンガーストライキが始まった。参議院議員会館近くでハンストに突入した学生4名だが、ハンスト開始直後には全国紙をはじめ、多くのマスコミや支援の学生、労働者など80名近くが集まった。そこで早速ハンスト闘争に決起した4名の学生に、「なぜハンスト闘争に立ち上ったのか」を電話で伺った。

ハンストを決行した4人の大学生(ハンスト実行委員会ツイッターより)

◆各々がやれることをやるべきだ(井田敬さん)

井田敬(上智大学2年)さんは「7月15日衆議院特別委員会採決、16日衆議院本会議通過というスケジュールの中、限定的条件のもとのハンストです。これだけで何かが変えられるとは思わないけれども、各々がやれることをやるべきだと思いハンスト参加を決意しました」と語ってくれた。

◆戦場に連れて行かれるのは私たち若者だ(木本将太郎さん)

木本将太郎(早稲田大学1年)さんは「安保法制反対、安倍政権打倒のためにハンスト参加を決めました」と極めてシンプルに決意の理由を語る。「解釈改憲で集団的自衛権が認められてしまい、『何でもあり』の状況になっています。同時代の人々に呼びかけたい。日本で若者は大変苦しい状況におかれています。大学に進学する人の中には奨学金を借りている人が多数いますが、奨学金の返済に困っている人は凄まじい数です。また、たとえ就職できたとしても、労働条件が劣悪なブラック企業は数知れずあります。安保法案が仮に成立すれば、戦場に連れて行かれるのは私達若者です」と危機感を訴える。

◆沖縄の犠牲で成り立つ日本のありように行動で意見を示したい(元木大介さん)

元木大介(専修大学4年)さんは「僕には自衛隊員の友達がいます。彼は『安保法案』に反対しています。彼が自衛隊に入った理由は3・11で自衛隊が災害時に救援活動を行っていたことに共鳴してのことでした。『安保法案』が成立すれば私の友人は、戦場に行かなければいけないかも知れなくなる。彼は戦争をしたくて自衛隊に入ったわけではないし、私も彼に戦場へは行って欲しくない。日本のありよう、とくに世界の中での日本の立場を考えてハンスト参加を決めました。また、今の日本は沖縄の犠牲があって(辺野古基地建設問題など)成り立っていると思いますが、いい加減にやめるべきだと思います。『安保法案』を何としても阻止したいと思います。仮にこの法案が成立すれば、またしても沖縄が一番の被害にあうのは明らかでしょう。この法案を審議しているのは主として『おじいちゃん連中』ですが、彼らは一切若者の意見は聞かないですね。『安保法案』が成立しても、『おじいちゃん連中』には関係ないですからね。だから行動で意見を示します」と述べた。

◆安倍政権への反対を直接的な方法で訴えたい(嶋根健二さん)

最後に嶋根健二(専修大学4年)さんにお話しを伺った。「安倍政権の安保法制審議は、違憲である『解釈改憲』をもとにしたものです。許せません。私は沖縄辺野古の運動に関わっていますが『戦後70年理想の平和』という概念は、沖縄や朝鮮を犠牲にして日本の平和を成り立たせていた「利権をもとにした平和」だと思います。このことも安倍政権に訴えたいですね。より直接的な方法で示せないかと考え、ハンストに参加することにしました」

◆体を張った4人の問題提起に賛同と連帯の意を送る!

まだハンストを始めて数時間なので皆さん元気にあふれていた。しかし40代くらい男が「安保法制賛成じゃ!」などと大声を上げて彼らに迫ってきて、一時は制止する警察官との間で数分のもみ合いになったという。「無期限ハンスト」を掲げて決起した学生達。個々が誠に見事な行動理由を語ってくれた。酷暑からややましな季節になったとはいえ「ハンスト」による体力の消耗は著しい。だが、それを支える人々の応援があれば彼らは確実に勇気づけられ、士気も高まる。彼らの決起に再び大いなる賛同と、連帯の意を送る。このハンストは様々な意味で大きな意味を持つだろう。運動の在り方へ投じられた、体を張った問題提起でもあると思う。

学生ハンスト実行委員会

[Facebook] https://www.facebook.com/Hungst.co.jp
[ブログ] http://blogs.yahoo.co.jp/hansutojitsu

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

◎決起する若者たち──8月27日、4人の学生が安倍退陣を求めてハンスト闘争へ!
◎原発・基地・戦争=「犠牲のシステム」を解体せよ!「NO NUKES voice」05号発売!
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◎フジサンケイ「育鵬社」公民・歴史教科書の採択拡大で子供の臣民化がはじまる
◎3.11以後の世界──日本で具現化された「ニュースピーク」の時代に抗す

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〈片岡さん、お元気ですか? ワシはボチボチ元気にやっております。ってゆーか、ホンマ、マジで、ここでの生活に飽きが飽きが飽きが飽きが飽きが飽きが飽きがきております。(笑)〉(筆者注:7つの飽きの右横には・・)

先日、男から久しぶりに届いた手紙は相変わらずハイテンションだった。名は引寺利明(48)。当欄で繰り返し近況をレポートしてきた暴走殺傷犯である。

引寺は2008年6月22日の朝、広島市南区のマツダ本社工場に自動車を突入させて場内を暴走し、1人を殺害、11日に重軽傷を負わせた。事件後ほどなく自首したが、その口から明かされた犯行動機は特異なものだった。

「マツダの工場で期間工として働いていた頃、他の社員らにロッカーを荒らされたり、自宅のアパートに侵入される集団ストーカーに遭い、恨んでいた」

そして引寺は裁判でも被害者や遺族に謝罪せずじまい。逆に公判廷で「ワシがマツダに黒歴史を刻んでやったでぇ!」と叫ぶなど、被害者、遺族の心情を逆撫でする言動を繰り返した。結果、集団ストーカー云々の話は妄想性障害ゆえの妄想だと認定されたが、完全責任能力を認められ、無期懲役が確定。現在は岡山刑務所で服役している。

当欄では、そんな引寺が無期懲役囚となった今も無反省の日々を過ごしていることはすでに紹介した。今回の手紙は便せん13枚に及び、2通の封書で届いたが、簡単な近況報告ののちに次のように綴られていた。

〈ここにマツダ事件から丸5年経った今のワシの気持ちを書きますので読んで下さい。〉

このあと、引寺は便せん約9枚に渡り、「今のワシの気持ち」を書き綴っているのだが、結論から言うと、引寺は今も徹底的に「無反省」だ。この手記を読めば、気分を悪くする人もいるだろう。

とはいえ、この手記が重大殺人犯の実像を知るための貴重な情報であることは間違いない。また、犯罪者の矯正の実情を窺い知れる記述も散見される。そこで、この手記を前後編2回に分け、紹介する(手記の引用は基本的に原文ママだが、「行替え」「見出し」を加えた)。

引寺から2通の封書で届いた便せん13枚の手紙

================以下、手記================

◆5年という時間の流れを遺族や被害者はどう感じとるんかのー

6月の22日でマツダ事件から丸5年が経ちました。この5年間とゆうのは、ワシにとっては長く感じました。

振り返れば逮捕後に南署での取り調べで一ヶ月ちょいかかり、精神鑑定で九州の精神病院に3ヶ月、広島の南署に戻ってから一ヶ月弱過ごし、その時に起訴された。広拘に移管されてから約3年ほど過ごした時には、弁護士に金を渡して買ってもらったロト6のくじで3等が当選してバブルとなり、その金でお菓子、パン、カップラーメンや雑誌などを買い漁り、独居房の中が小さなコンビニのようになったり、一審や二審の裁判の時には法廷で言いたい放題ブチまけたり、何人もの記者と毎日のように面会したりなど様々な出来事があり、今でも時々思い出す事がある。

ハッキリ言って今の時点においても、ワシには謝罪感情は芽生えておりません。ただ、事件から5年という時間の流れを、遺族や被害者の方々はどう感じとるんかのーと思う事はあります。

◆刑務所で精神障害の治療なんぞありゃーせん

広島地裁で行われた一審の判決日に、ワシに向かって無期懲役を言い渡した裁判長が「刑務所で精神障害を治療して治ったら、自分が犯した罪に向き合って考えて下さい」などと言っておったが、いざ刑務所に来てみると、精神障害と断定されたワシに対する治療なんぞありゃーせん。体調不良になった時に医務が薬をくれるだけで、専門医によるカウンセリングや投薬などの治療なんぞ全くない。あの裁判長は刑務所の現状なんぞ全く知らんのじゃろーのー。今でも裁判で精神障害と断定された事に対する怒りがある。

ショボイ捜査をしやがった警察、ワシをキチガイ扱いした検察や裁判所にはホンマ頭にくるぞ。その怒りのせいで謝罪感情がどっかへ飛んでいってしもーとる。結局の所、何年何十年と刑事や検事や裁判官をやっとっても、真実を見極める目なんか全く持っておらんゆーこっちゃ。事件の真相が一審の前に明らかになっていれば、ワシには精神障害なんぞ全く無い事になり、正当な裁判が行われたはずじゃ。

裁判所に関しては、裁判官には怒りがあるが裁判員に対してはそうでもない。裁判員は所詮素人じゃし、どうせ裁判官の連中にうまくのせられとるだけじゃろーけーのー、アーダコーダと言うつもりはない。

◆裁判員だったオッチャンが語った記事に笑ってしもうた

一審が終わった頃の中国新聞に、裁判員の一人だった年配のオッチャンが語った記事があり、裁判員を務めた感想についてアレコレと語った後に「また機会があれば裁判員をやりたい」と言っているのを見て笑ってしもうたで。ワシはそのオッチャンに対して、裁判員ゆーのは一人の人間が何回もやるもんじゃないんでえー、と突っ込んでやりたかった(笑)おそらくそのオッチャンは、法廷での裁判員とゆう非日常に味をしめたんじゃろーのー。ホンマ、困ったもんよ。

ワシが逮捕された後も、世間では様々な殺人事件が起こり、裁判の判決をテレビのニュースや新聞で見ていたが、1人殺害で死刑になる被告もいれば、2人殺害で無期になる被告もいる。いかに市民感覚を取り入れた裁判員裁判とはいえ、この判決のバラツキはいかがなものかと思う。マツダ事件の裁判も、真相が明らかになった上で正当な内容の一審が行われていれば、例え判決が死刑になったとしても、ワシは満足したじゃろーのー。

================以上、手記================

引寺は筆者の取材に対し、裁判で真相が明らかにならなかったことが不満であると以前からずっと主張し続けてきた。真相とは、自分がマツダで期間工として働いていた頃、集団ストーカー被害に遭ったことや、その犯人が誰だったのか、ということだ。しかし裁判では、引寺が訴える集団ストーカー被害は妄想性障害ゆえの妄想と認定され、引寺としては真相が明らかになったとは到底思えないことが反省の思いを持つことを妨げているわけだ。

それにしても、引寺が裁判で精神に障害があると認定されたうえ、裁判長から「刑務所で精神障害を治療して治ったら、自分が犯した罪に向き合って考えて下さい」と言われながら、刑務所で何の治療もされていないというのは、本当ならば日本の犯罪者矯正システムに疑念を抱かせる話である。(後編につづく)

引寺が服役している岡山刑務所

▼片岡健(かたおか けん)
1971年、広島市生まれ。早稲田大学商学部卒業後、フリーのライターに。新旧様々な事件の知られざる事実や冤罪、捜査機関の不正を独自取材で発掘している。広島市在住。

《我が暴走》
◎《05》元同僚が実名顔出しで語る「マツダ工場暴走犯の素顔」
◎《04》「死刑のほうがよかったかのう」マツダ工場暴走犯面会記[下]
◎《03》「集ストはワシの妄想じゃなかった」マツダ工場暴走犯面会記[中]
◎《02》「刑務所は更生の場ではなく交流の場」引寺利明面会記[上]
◎《01》手紙公開! 無期確定1年、マツダ工場暴走犯は今も無反省

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安倍首相が体調不良を原因として辞任するのは、もはや永田町界隈では常識だ。「週刊文春」で報じられた通り、安倍は東京ステーションホテルで吐血しており、この報道後、7月末にも吐血したようだ。「今度の吐血は、吐瀉物が半分で血液が半分。さすがに9月の総裁選までもつかどうか微妙になってきた」という全国紙記者の声も聞いた。

自民党が描くシナリオとはどんなものか。まず、現状では病状がどうあれ、病気を隠して9月に安倍が総裁選に出るのは、規定路線だ。「無投票だと『独裁だ』などと世間がうるさいから、賑やかしで野田聖子あたりを候補として出すのでしょうが、安倍が再選するのはもはや確定的ですよ」(全国紙政治部記者)

そこで、ここでは安倍が「もはや辞任しなければならないほど病状が悪い」としよう。自民党の複数の議員が「もう安倍は体がもたない」と言っているからだ。安倍は、当選して2ヶ月くらいは意地で首相をやるが、「体調不良」を理由に辞任、誰か息がかかった候補を推す「フィクサー」となるだろう。政局については、またご報告する。

◆次期総理が決断を迫られる「福島原発事故の核廃棄物処分」

さて、「原発問題」にとって「次の総理」の決定は大問題だ。まずは核廃棄物の問題。時事通信はこう伝える。

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地域振興の具体策、国に要請へ=指定廃棄物処理で―福島知事 8月23日付時事通信
東京電力福島第1原発事故で発生した福島県内の放射性物質を含む指定廃棄物を、民間の処分場(同県富岡町)で最終処分する計画をめぐり、同県の内堀雅雄知事は23日、県庁で地元の富岡、搬入路がある楢葉の両町長らと会談し、処分場の追加安全確保策や地域振興策の具体案などを提示するよう、国に要請する方針を決めた。月内にも政府に申し入れる。? 具体的には、(1)地元と結ぶ安全協定の内容(2)住民の不安緩和策(3)放射線量が低い地域に住宅などを集中させる復興拠点や、都市基盤の整備方針(4)地域振興のための交付金の規模―などを示すよう求める方針。? 内堀知事は会談後、記者団に「申し入れは計画受け入れを前提にしたものではない」と強調した。
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この富岡町では、住民たちと議論を尽くしていない。それだけでなく、「川内原発」の核廃棄物の処理の場所すら決まっていなく、固定廃棄物は敷地内の貯蔵庫にあるとされる。なお、低レベル放射性廃棄物(LLW)の処分は青森の低レベル放射性廃棄物埋設センターに集中して貯蔵することとしている。だが、これらの「放射性廃棄物」は安全なのだろうか。

たとえば火山噴火とリンクして廃棄物になんらかの「化学変化」という名の「事故」があったらどうするつもりなのか。青森とて、中間処理施設であり、最終処分場ではない。フィンランドの地下最終核処分場「オンカロ」のように、10万年後の人類に責任を押しつけるようなやりかたを、日本人はとれない。地震大国だから地下が危険に満ちているからだ。

◆不可欠なゼロベースでの「エネルギーミックス」再考

さあて、「次の総理」が、もうゼロベースから考えていただきたいのが、「エネルギーミックス」の問題だ。

ある番組でノー天気な女性ジャーナリストが「この夏がこんなに暑いのは火力発電の比率が多いからだ。火力発電に切り替えても、火力発電には火力発電の危うさがある」とコメントしていた。案外、こういう厚顔無恥な人は多いのではないだろうか。火力には確かに問題はあるだろう。だが、そうしたコメントには「原発に比べると」という枕詞が欠落している。
2030年度には、原発を10~11%に下げると経済産業省はアナウンスしている。(http://www.meti.go.jp/press/2015/07/20150716004/20150716004_2.pdf

経済産業省よ! いいか、原発をすぐにゼロにせよ。

放射能で健康になった人がいるのだろうか。原発の放射能汚染で不健康になった人はいるが。

そして今、脱原発の問題は、「前の内閣がそうしたから」として議論がまた棚上げになるのだろうか。

「次の首相」にもの申す。すぐに原発をやめて、原発の輸出もストップせよ。
あなたは、放射能だらけのフィンランドの「オンカロ」で子供を育てられるだろうか。棚あげにされるであろう原発問題には、当然、僕から見て3つめの問題「原発をなくしたら経済をどうする」という問題が残っていると思うが、これについては、また別の回でレポートしよう。

(小林俊之)

◎原発・基地・戦争=「犠牲のシステム」を解体せよ!「NO NUKES voice」05号発売!
◎731部隊を隠蔽し続ける米日の密約──近藤昭二さん講演報告
◎警察が「ぼったくり」を刑事事件化したことでヤクザのさらなる地下潜行が始まる
◎「工藤會壊滅ありき」で福岡県警が強引に人権を無視し続ける邪な理由

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8月24日午前0時50分頃、相模原市の米軍関連施設「相模総合補給廠」で起きた爆発火災事故──。事故直後の報道によれば、「米軍側の規制のため警察や消防は出火現場に近づけず」現場近くに消防車と救急車が計13台が出動したものの放水活動さえできなかったという。その後の経過情報に関しても、24日13時時点では詳細な情報が見当たらない。


◎[参考動画]相模原市米軍基地爆発(2015年8月24日mo si氏公開)


◎[参考動画]相模原・米陸軍総合補給廠で爆発火災(神奈川新聞@カナロコ2015年08月24日公開)

そこで相模原市消防署へ電話取材を行った。同消防署総務課の吉平(よしひら)氏が対応をしてくれた。

・怪我人はいないか
・相模原消防署による消火活動は行われたのか
・鎮火したか
・事故の検証は消防や警察が行うのか

を尋ねた。吉平氏によると「怪我人の報告は入っていない。詳細はわからないが相模原消防署による消火活動は行われた。現在は鎮火したと思われる。出火原因の検証などは火災現場が米軍敷地内なので、消防・警察ではなく米軍が行うことになる」そうだ。

◆沖縄であろうと首都圏であろうと、米軍基地内に手出しができない日本政府

196ヘクタールという広い敷地ながら、相模原市の住宅街に隣接する場所に位置する米軍施設内での火災(爆発?)にしては、あまりにも情報や報道が少なすぎる。そして周辺住民は不安で不安で仕方がないのではないだろうか。原因が公表されなければ、今後また同様な、いやそれ以上の火災や爆発が起こるのではないか、と心配になるのは自然な心理だ。(2015年8月24日付朝日新聞

事故原因の検証や究明が日本の行政機関によって行われないことは、相模原消防署に電話取材する前から解りきっていたが、敢えて質問をぶつけてみた。沖縄であろうが、本州であろうが米軍基地は米軍基地。その敷地内で火災や事故、爆発や核兵器の誤爆があっても、日本政府は何の手出しも出来はしないし、多くの事実が隠される。

◆日本の私有地でも米軍ヘリが墜落した現場を日本の警察は捜査できない

基地の中だけではない。2004年8月13日沖縄国際大学という明白な日本の私有地に米軍ヘリが墜落した時でさえ、初期消火以外、日本の警察は捜査に手を出す事すら許されなかった。(2015年8月14日付琉球新報

世の関心は、辺野古の基地建設問題だけに関心が集中しがちな傾向が見られる。相模原米軍基地爆発事件が示すことは、言わずもがな「米軍基地内は日本の治外法権」であるばかりでなく、周辺住民に危険が及ぶ可能性がある事故が発生しても、その実態や情報すら、日本の行政機関(いわんやマスメディア)は掴むことが出来ないという現実だ。

こういった米国と日本の関係を「主従関係」という。

日本政府は米国を「同盟関係」の国だというが、それは明らかな誤りだ。米国内で米国行政機関が強制的に立ち入ることができない「日本政府」が占有する場所は、日本大使館と日本領事館だけだ。日本は「軍隊」は持っていない(防衛省見解)から米国に日本軍基地が存在する根拠はないが、「対等な日米関係」というならば、この島国が差し出しているのと同等、もしくは等価の土地提供を日本政府は米国に行うべきだ。「対等」とはそういう実践があって初めて使える言葉だろう。しかしそのような要求は過去になされた実績はないし、未来においてもほぼ可能性はゼロに近いだろう。

◆最も身近な「戦争」の破片は米軍基地の中に眠っている

米軍基地などこの島国のどこにも必要ない。

「集団的自衛権反対」、「戦争推進法案反対」、「戦争反対」であれば、その延長戦上に「日米安保破棄」が自然に浮かび上がって来るはずだ。最も身近な「戦争」の破片は米軍基地の中に眠っている。

嘉手納基地やキャンプハンセンなど無数の基地を抱える沖縄。かつては「基地がないと経済が成り立たない」という理屈が人々を押さえつけていたけれども、美しい海・自然という人間の手では創造することが出来ない貴重な天然資源が、観光業だけで充分沖縄が自立できることを証明し、今や「基地がなければ・・・」などと言う人はごく少数派となった。

◆基地も原発も「止めるメリット」は「存在を許すメリット」よりも大きい

やってみればわかる。やらないだけだが「原発廃炉」も全く構造は同じだ。

基地があることを認めていた人たちは「経済的」理由のみによって基地の存在を肯定していた。「経済的」なうまみが無くなれば、基地は騒音を毎日振りまき、航空機やヘリコプター落下の危険性をはらむ厄介者。そして米国が戦争を起こすたびにいつ標的にされてもおかしくない存在だ。これほど危険なものはない。ただの邪魔者だ。

原発だって「再稼働したら町が活性化した」というタクシー運転手のコメントなどを新聞は紹介しているけれども、彼らには福島第一原発事故が起こったことの記憶がないのだろうか。川内原発では早速の動作トラブルが起きている。事故が怖くないのか。いつまでも「経済」、「経済」と言っているうちに事故は必ずまた起こる。目の前のちょっとした「経済」と多額の補助金中毒になった人たちは住家を失う。

馬鹿げたことはもう止めよう。原発を廃炉にしたって誰もいなくなるわけではない。「廃炉作業」が待っている。「廃炉作業」は2,3ヵ月で終わるものではない。でも廃炉にすれば永遠に「原発事故の脅威」から抜け出すことが出来る。

基地も原発も同じだ。止められる。止めるメリットは存在するメリットと比較にならない。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

◎原発・基地・戦争=「犠牲のシステム」を解体せよ!「NO NUKES voice」05号発売!
◎フジサンケイ「育鵬社」公民・歴史教科書の採択拡大で子供の臣民化がはじまる
◎『火垂るの墓』から考える──住み慣れた街に戦火が襲い、家族を失うということ

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去る8月14日、終戦70周年を前に安倍晋三首相が談話を発表した。日本国内ではテレビ放送が中断し、翌日の新聞も安倍談話に塗りつぶされた。

では、海外の反応はどうだろうか。外務省に登録されている各国在日大使館の発表、ニュースを調べてみた。言うなれば正式発表である(台湾を除く)。外報や日本のメディアとはかなり印象の異なる扱いとなっている。

安倍談話について直接取り上げている国は、オーストラリア、中国、イギリス、そして台湾の四国であった。中国のみは「厳粛な立場を取る」と表明しているが、他三国は「歓迎」であり、おおむね好評である。

他に日本関連でもっとも多かった話題が広島、長崎に関する話題でギリシャ、フィンランド、ブラジル、アメリカ、EUが何らかの形で核廃絶を訴えている。

70年談話を発表する安倍晋三首相(2015年8月14日)

他に日本と関係の深い国の最新情報を列挙すると、韓国は8月12日付けで「安倍談話に期待する」と言う意味の文章を掲載していたが、18日には削除され「光復節」(独立記念日)が最新の情報となっている。

インドネシアは最終更新が4月で日本とは無関係である。インド、最新記述は独立記念日に関するものであったが、トップページ写真は安倍首相とインド政府要人のツーショットである。マレーシア、最新は2015年の日本公立高校への留学生入学情況。ロシア、最終更新5月で大祖国戦争終結70周年。タイ王国、8月6日、大使館付き運転手募集とタイビールフェスティバル。ベトナム、2014年6月更新、中国石油掘削リグ問題、フィリピン、8月10日セネガル大統領がフィリピン来訪、となっている。

大使館の業務は駐留国に対する意思表示であるが、同時に入国証明発行、在日邦人へのサポートが大きなウェイトを占める。極端な場合、大使館HPが観光案内所となっているケースも珍しくない。となると、日本での出来事より、自国のニュースを公表するのが最優先なのだろう。

それにしても、安倍首相がこんなにあつく談話を語っているのに「語らせられている」という使役動詞を使わざるを得ないのはなぜだろうか。たとえば産経ニュースはこう伝える。

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中国外務省「いかなるごまかしもすべきではない」と批判 韓国メディアは「過去形謝罪」と報道

(産経ニュース)

【北京=川越一】中国外務省の華春瑩報道官は14日、安倍晋三首相の戦後70年談話について、「日本は当然、戦争責任を明確に説明し、被害国の人民に誠実に謝罪し、軍国主義の侵略の歴史を切断すべきだ。この重大な原則問題についていかなるごまかしもすべきではない」と批判する談話を出した。

華報道官は談話の中で、張業遂筆頭外務次官が同日、木寺昌人駐中国大使に中国側の厳正な立場を伝えたと明らかにした。

また、中国国営新華社通信(英語版)は同日、安倍首相が、日本の「侵略」「植民地支配」については直接触れず、一般論にとどめたことに不満を示し、「未来の世代は、大戦中の残虐行為について謝罪を続ける必要はないと付け加えた」と反発をにじませた。

中国共産党系の国際情報紙、環球時報(電子版)は、安倍首相が侵略を受けた国・地域に対する「お詫び」に言及した中で、「中国」が最後に列挙されたことや、これとは別に「台湾」が個別に言及されたことにも、不快感を示した。
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「お詫び」をする順番が最後だからと文句を言うメンタリティもまたものすごく幼稚だし、台湾を個別に言ってなぜ悪いのか、という突っ込みどころはあると思うが、要するに、一国の首相がスピーチライターに発注しているから「談話」も伝わらないのだろう。

「どうしようもない国の、どうしようもない政治家」と、福島の原発事故に対処した今は亡き吉田所長は言った。あまりにも諸国の心に『響かない』談話を残してかの総理は、「紙の爆弾」などを読むと、どうも辞職しそうな雰囲気だ。つぎの総理こそまともな談話をお願いしたい。

◎[参考動画]安倍晋三 70年談話【全24分】

▼ハイセーヤスダ(編集者&ライター)

テレビ製作会社、編集プロダクション、出版社勤務を経て、現在に至る。週刊誌のデータマン、コンテンツ制作、著述業、落語の原作、官能小説、AV寸評、広告製作とマルチに活躍。座右の銘は「思いたったが吉日」。格闘技通信ブログ「拳論!」の管理人。

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「お盆休戦」が明け「戦争推進法案」の参議院での審議が再開された。その中でこの法案群だけでなく、米国による日本支配の本質を看破した質問が行われた。質問者は山本太郎議員。8月19日の参議院特別委員会で岸田外相、中谷防衛相を相手に、「TPP、特定秘密保護法、武器輸出三原則の廃止、集団的自衛権発動、原発再稼働」の全てが「アーミテージ・ナイ・レポート」によるものである事を指摘し、「これだけ宗主国様に尽くしておいて、盗聴までされて、それが他の国々で共有されていて、間抜けとしか言いようがない。いつまで没落ま近な大国のコバンザメを続けるのかっていうことですよ、いつ植民地を止めるんだ、と言う話ですよ!」と言い放った。


◎[参考動画]2015年8月19日参議院安保法制特別委員会での山本太郎参院議員による一般質疑【午前と午後=約31分】

山本太郎「生活の党と山本太郎となかまたち」共同代表(2015年8月19日参議院)

私は国家を信用しない。あらゆる国家を信用しない。「もっとも幸いな場合でも国家は災いである」という先人の言葉に長年共感を抱く人間だ。だから「理想の国家」はおろか「よりましな国家」にすら期待はしていない。でも私が移住でもしなければ、死ぬまで暮らす事になるこの島国を支配する「国家」は、完全な「思考停止」に陥っている。「もっとも幸いな場合」の真逆、「もっとも不幸かつ無能な国家」により、災禍を強いられ、更には戦争まで強要されようとしている。

◎[参考資料]「今回の安保法案は、第3次アーミテージ・ナイ・レポートの完コピだ!」2015年08月20日(山本太郎HPより)

自民党や維新の連中は「自主憲法」を制定し、「普通の国」になって、核兵器を持ち国連安保理入りをしたかったんじゃなかったのか。日の丸を振って、天皇陛下万歳で時代錯誤な「富国強兵」を再度夢見ていたんじゃないのか。アジアを蔑視して、中国・朝鮮を仮想敵国に仕立て上げ、隙あらばまたぞろ「祖国防衛」を錦の御旗に100年前の繰り返し、「侵略戦争」がしたかったんじゃないのか。

しかし、私が想像する政権与党の腹の中とは裏腹に、彼らは完全に米国の「奴隷」としてのみ国民を騙し、その財産資産、安全までを差し出していることをこの答弁は余すことなく暴いている。与党席からのヤジは皆無だ。何故か?指摘されている事柄が事実ばかりだからだ。

このような「無思考植民地状態」を強化しようとする政権に、保守や右翼と言う立場の方々は怒りを覚えないのだろうか。実は私にとって政治や、国家などはどうでもよい。本音を語れば考えたくもない対象だ。でも「国を愛する」人々にはそういうわけにはいかないだろう。「売国奴」という言葉がある。嫌いな言葉の一つだが、「アメリカの要請」を安全保障(戦争推進)法案が必要になった理由の1つとして答弁を続ける安倍をはじめとした岸田や中谷の頭の中はどうなっているのだ。こいつら以上の「売国奴」がいるだろうか。

◎[参考資料]「政府が集団的自衛権行使容認のよりどころとする砂川判決こそ、米国からの指示だった!」2015年08月20日(山本太郎HPより)

◆安倍一族が受け継ぐ「米国の間諜」という血脈

安倍の祖父、岸信介は満州国で辣腕を振るい、対米戦争時にも重要な役割果たした、商工大臣であったことは良く知られている。岸は学生時代にはマルクスにも目を通していたらしいが、今ある思い付きがふと頭をよぎった。

この一族は代々「間諜(かんちょう)」ではないのか。

間諜というのは解りやすく言えば「スパイ」だ。諜報機関の優れたスパイはどのような組織にも入り込み、その中で指導的な役割まで果たしてゆく。革命や政変が起これば、元所属していた諜報機関を見切ってでも、潜りこんでいる組織の中で生き延び、また新たな間諜としての役割を帯びる。あのロシア革命だって帝政ロシアのスパイがそのまま革命を乗り切り生涯を全うしているじゃないか。

岸=安倍ラインは100年来米国のスパイではないのか。そう考えると連中の行動が全て綺麗に整理して並べることが出来る。

◆建国以来、他国を侵略し、富を奪い続ける米国

米国というのはその時の政権が打ち出す政策を「額面通り」に受け取ってはいけないややこしい性質を持つ。この文章の最初に登場した「アーミテージ」は共和党政権時代の国務長官だが、民主党オバマ政権下でも実力は変わらない。「人権外交」と言う耳触りの良い政策を掲げたジミー・カーターやニクソン政権時代に国務長官を勤め、ベトナム戦争時代から暗躍を続けるヘンリー・キッシンジャーが未だに政権に影響力を持つ、魑魅魍魎の溢れる国だ。大統領がオバマあろうが、ブッシュであろうが、ケネディーであろうが、実は大きな意味はなく彼らは単なる「象徴」に過ぎない。

多国籍企業との結託により、確立された利権、それも時には戦争すら引き起こすほどの財力と政治力が絡み合い暗闘と妥協を続けているのが米国政治の実態だ。4年に一度行われる大統領選挙は、壮大な「お祭り」であって、政策の本質的な転換や米国の「覇権主義破棄」を標榜する候補者など間違っても大統領に就任できないシステムだ。

米国は建国以来常に国内外で侵略を続けることにより国力を維持し強化を図ってきた国だ。僅か200年余りの歴史の中で「侵略して奪い儲け」ないと国が立ち行かない形を作り上げてしまった。

要するに「泥棒国家」なのだ。

「泥棒」という行為はどの国家にも通底する性質ではあるが、特にその色が濃く、それを除けばあとはハリウッドのエンターテインメント位しか残る物はない、というのが米国の本質だと私は考える。

そんな米国への追従はもう十分に果たしていると思うが、まだ足らないらしい。
「間諜」一族の暗躍はどこまで続くのだろうか。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

◎フジサンケイ「育鵬社」公民・歴史教科書の採択拡大で子供の臣民化がはじまる
◎決起する若者たち──8月27日、4人の学生が安倍退陣を求めてハンスト闘争へ!
◎安保法案強行採決!「大きな嘘」で日本政治をレイプしまくる安倍話法の本心

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「育鵬社」と目にしてもこの会社の性質をすぐに理解出来る人は少ないだろう。一方「新しい歴史教科書をつくる会」(以下「つくる会」)という名前はある程度の年齢の方なら耳にしたことがあるのではないだろうか。「つくる会」は1996年に藤岡信勝や西尾幹二が中心となり結成された「自虐史観を見直す」教科書を広めることを目的とした団体だった。西部邁、小林よしのりや大月隆寛なども名を列ね「歴史改竄」の一大運動として様々な出版物を発行した。

当時書店に行けば「つくる会」による「教科書が教えない歴史」や西尾の「国民の歴史」が平積みにされており「これはヤバイ時代になったぞ」と嫌な気分を感じた事を思い出す。

◆「つくる会」とフジサンケイ「育鵬社」の対立

「つくる会」は念願の歴史と公民の教科書を作成し2001年に文科省の検定にも合格し「新しい歴史教科書」と「新しい公民教科書」が誕生した。しかし派手なパフォーマンスと関連書籍の売れ行きの割には教育現場での採択が進まず1%にも満たなかったため、「つくる会」を全面バックアップしていたフジ・サンケイグループは独自に「育鵬社」という新たな出版社を立ち上げそこから「新しい日本の歴史」、「新しいみんなの公民」を出版し始める。

「つくる会」内部では発足当初より彼らが口汚く罵る「左翼の内ゲバ」以上の「内紛」続きで立ち上げメンバーの西尾幹二をはじめ、小林よしのり、西部邁ら多数が途中で会を離脱した。また会長職を巡っての紛争が絶えることなく離脱者が後を絶たなかった。そんな内部事情に直面し「こりゃアカンわ」とフジ・サンケイグループは判断したのだろうか「育鵬社」から実質的には「つくる会」が作成した「新しい歴史教科書」、「新しい公民教科書」とほぼ同じ内容で「新しい日本の歴史」、「新しいみんなの公民」を世に出した。

でも「つくる会」としては面白いはずがない。「著作権は『つくる会』にあり」と「育鵬社」との間で何度か折衝がもたれたものの「育鵬社」は折れなかった。

「つくる会」のHPには「育鵬社盗作問題の交渉及び全経過」というタグがあり両者がどのように交渉を行ってきたが細かく紹介されている。

その冒頭で〈「つくる会」は昨年10月以来、育鵬社による大規模な著作権侵害問題を、話し合いで解決すべく、先方との書簡のやりとりと3回の正式交渉を行ってきました。しかし、その努力の甲斐もなく、先方は「つくる会」の善意に基づく全ての提案を拒否し、交渉は決裂いたしました。従って、問題の解決は基本的には司法の手にゆだねられることになりました。〉と両者が決裂したことを認めている。

◆国家や地域社会のために生徒がどのように「ご奉公」するかを教える教科書

育鵬社「中学 新しいみんなの公民」

まあそのへんは勝手にやってくれというところだが、問題は「育鵬社」の歴史、公民の教科書の採択がどんどん進行していることだ。「つくる会」も未だに教科書を発行しているが、こちらの方は相変わらず低迷している。しかし「つくる会」にせよ「育鵬社」にせよ書かれている内容には大差ない。「育鵬社」は歴史教科書の特徴として「わが国の歴史の大きな流れを、世界の歴史を背景に、各時代の特色を踏まえて理解させ、わが国の歴史に対する愛情を深め、国民としての自覚を育てます」と書いている通り、この教科書は「皇国史観」を基に構成されている。この猛暑の中いちいち問題点を指摘していると確実に熱中症で倒れる代物だ。公民教科書も同様に「持続可能な社会をつくるために、家族、地域社会、国家、国際社会の中の自分として、集団の中でどのような役割を担えるのかを考えられます」と「個人」ではなく国家や地域社会のために生徒がどのように「ご奉公」するかを教える内容だ。

「つくる会」、「育鵬社」の教科書は東京都杉並区などがいち早く採択し、大問題になったが、来年度からは都立の中高一貫校での採択も決まった(「『つくる会』系教科書採択 都教委、中高一貫など32校」2015年7月23日付朝日新聞)。また大阪府でも四條畷市、河内長野市が、神奈川では藤沢市が採択を決めている。さらに8月には大阪市でも育鵬社教科書の採択が決まってしまった(「大阪市教委、育鵬社の歴史教科書採択 来春から使用」2015年8月5日付朝日新聞)。かねてよりこの教科書を応援していた橋下の念願成就。関西ファシズムは学校によって更に邁進させられる。

◆偏向教科書採択による「皇民化」政策

自民党「〈中学教科書7社の比較調査〉新教育基本法が示す愛国心道徳心を育む教科書を子供たちへ」

教育界への国家の介入は怒涛の勢いだ。下は幼稚園から上は大学まであらゆる教育機関に管理の強化と末端の教員の裁量剥奪、そして教育指導要領や偏向教科書採択による「皇民化」政策がなだれ込んでいる。そしてそれは明確に自民党や教育再生会議、文科省の意図に沿うものだ。自民党は「〈中学教科書7社の比較調査〉新教育基本法が示す愛国心道徳心を育む教科書を子供たちへ」(義家弘介衆議院議員のHP内のPDF=現在文部科学委員会筆頭理事・地方創生特別委員会委員)と銘打ったパンフレットを作成しており、その中で「育鵬社」「教育出版社」「清水書院」「自由社」「帝国書院」「東京書籍」「日本文教出版社」の7社を取り上げ、

・我が国の国土と歴史に対する理解と愛情を前提に、国際社会に生きる観点から記述されているか
・古事記・日本書紀など神話・伝承を通して、当時の人々の信仰やものの見方に気付かせる
・国旗国歌の尊重について具体的場面を例示しているか
・自衛隊と日米安保が果たしている役割は記述されているか

等の項目を挙げ、数値化して各社教科書の内容を評価している。そしてどの項目でも「育鵬社」は満点を得ている。同様に満点を得ているのは「つくる会」教科書を出している「自由社」だけだ。

「つくる会」が教科書を作成する過程で「歴史の専門家」がほとんど関わっていないことが問題視された。史実を知らずしかし歴史については「一家言」を持った「歴史改竄主義者」がたむろして作成されたのが「つくる会」(自由社)の歴史教科書だったわけで、史実を知らずに個人の思い込みや思想で無責任に歴史教科書を作ろうとしたので、当然のごとく「内紛」が勃発し、会の発足当時から名を連ねていた連中がどんどん離散してゆくことになった。

思想運動ではなく義務教育で行われる授業の教材をこのような「無責任」な連中が記述した教科書に任せてはならない。「育鵬社」「自由社」の教科書執筆陣はこの極端なまでに偏向した教科書で学んだ生徒が将来不利益を被っても、その責任を取ることなどあり得ない。生徒の多数はやがて大学受験を経験するだろうが、センター試験はともかく、私立大学の日本史の試験ではこれらの教科書で教えられている内容が回答としては「不正解」に該当する事が起こりうる。また海外留学を考えた際に論述式の歴史問題が出題され「育鵬社」「自由社」の教科書に忠実な記述をすれば、多くの国で「不合格」とされるだろう。

戦争推進法案審議の中で安倍はしきりに「絶対」「断じて」を連発するようになっている。官僚が書いた答弁書を読む時はそうでもないが、紙を見ないで答弁する時には同じ言葉を繰り返したり、どう考えても論理矛盾でしかない回答を繰り返すことが極めて多い。そんな時に「絶対」「断じて」を連発する。人間の行動に「絶対」なものなどあるわけがないという基礎的な行動学がこの男にはわかっていない。戦争推進法案で「日本は益々平和になる」と安倍は言う。馬鹿かおまえは。

戦争を一刻も早く引き起こそうとする安倍は戦争の惨禍に国民が巻き込まれ嘆いた時にそれこそ「絶対」に反省や謝罪、ましてや責任を取ることなどない。こんな連中が採択を推し進める教科書など「戦争準備の道具」と同義だ。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

◎「不逮捕特権」を持つ国会議員は「体を張って」安保法案を阻止できる!
◎安保法案強行採決!「大きな嘘」で日本政治をレイプしまくる安倍話法の本心
◎3.11以後の世界──日本で具現化された「ニュースピーク」の時代に抗す

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「お盆休戦」とも言われる凪(なぎ)状態の「戦争推進法案」審議が間もなく再開するだろう。それを見越して8月14日「安倍談話」が発表された。

内容は「空疎」の一言に尽きる。「反省」や「侵略」を言葉として盛り込んではいるが主語がない。「戦争推進法案」への反対が高まる中、これ以上の反対世論盛り上がりを何より警戒したのだろう。安倍は敢えて本音は封印した。だが、こんなちゃちな「言葉遊び」に騙されてはならない。15日には私費とはいえ玉串料を靖国参拝に納めた姑息な行動、そして「お盆休戦」後に国会審議で語られる言葉こそが安倍の本音だ。

反対運動の盛り上がりも勢いを増している。これまで街頭行動で姿が少なかった若者もついに街へ足を運びだした。その中で学生による注目すべき「抗議行動」が予定されている情報を得た。以下やや長いが、その「声明文」全文を引用する。

安保関連法案制定を阻止し、安倍政権を打倒するための学生ハンスト実行委員会

声明文

私たち「安保関連法案制定を阻止し、安倍政権を打倒するための学生ハンスト実行委員会」は、安全保障関連法案の審議即時停止と安倍政権退陣を求めて、8月27日より無期限ハンガーストライキを開始することをここに宣言します。
安全保障関連法案(以下、安保法案)は多数の批判と抗議を押し切って7月16日に衆議院を通過し、現在参議院で審議中です。憲法上のいわゆる「60日ルール」を含めても今国会での法案の成立は確実と言われています。

安保法案で法制化される集団的自衛権はアメリカなどの同盟国が主導する軍事行動に日本が直接参加することを許すもので、「戦争法案」としての本質は明らかです。戦後日本はアメリカと日米安保という実質的な軍事同盟を結び、東アジアにおける軍事的緊張関係の一端を担ってきましたが、安保法案の制定がかかる緊張をエスカレートさせる危険は目に見えており、先の大戦への反省を無視した愚かな行為です。またこの法案は国内の多くの憲法学者が指摘するように明白な違憲立法であり、法学上のクーデターというべきものです。まさしく安保法案は世界の民衆を分断し戦争を準備する、本来的に民衆に敵対する法律です。一切の正当性もなく、拒絶する以外にはありません。

では法案成立を阻止し、戦争を止めるために私たちは何をするべきなのでしょうか。
私たちは自らの生活に代えてでも安倍政権の戦争準備を拒否し、世界中のあらゆる戦争に加担することを拒否するという姿勢を直接行動によって示していくべきだと考えます。現在の沖縄・辺野古での反基地運動が、自らの平和を希求すると共に、基地を通じて世界の民衆が殺害されていくことを実力で拒否しているのと同様に。
私たちによるハンガーストライキは、戦争によって犠牲になりうるあらゆる人々と協力し、戦争への動員・協力を共に拒否するよう呼びかける直接行動の一過程です。そのために私たちは生命をかける覚悟でたたかいます。安保法案審議停止・安倍政権退陣に向けて共に行動しましょう!

【呼びかけ人】(ハンスト実行者は井田、元木、嶋根、木本の4名)

井田敬(上智大学2年) 元木大介(専修大学4年) 嶋根健二(専修大学4年)
木本将太郎(早稲田大学1年) 安井遼太郎(慶應大学3年) 土田元哉(慶應大学2年)
梶原康生(専修大学3年) 手塚(東京福祉大学) 坂田圭太(立正大学3年)
徳山陽一(都立産技高専5年) 匿名希望(高校2年)

本名を明かし、堂々と「無期限ハンスト」を行うというこの学生達に私は最大級の賞賛と連帯の意を表明する。彼らはいかなる「運動体」にも属さない個人の集まりだ。原発事故以降、多人数を集めるようになった運動の主催者の中には、参加者にあれこれ細かい「規制」を設けて、彼らの言う「一般人」以外を排除する団体がいくつか見られる。

◆「決起」の方法は幾らでもある

集会やデモ参加者の数がいくら増そうとも、その「質」が高まらなければ敵にとって脅威とはなりえない。この場合の「質」とは抗議対象への冷徹かつ非妥協な「怒り」の高まりであり、それに相応しい「行動」を意味する。したがって運動の継続性は勿論重要ではあるけれども、それと同時に参加者の意識の高まりと、多彩な参加者を受け入れることがまず前提として必要だ。まかり間違っても特定の団体や個人を名指しして「排除」するような運動方針が採用されてはならない。「排除の論理」は敵=国家権力にのみ向けられるべきであって、参加者への「排除」意思表明は運動体自体が硬直化、党派化してゆくことだと主催者は気が付かねばならない。「排除の論理」が破綻と敗北しか招かないことは、過去の歴史が余すところなく証明している。

そのような問題も散見される中、この猛暑の中、学生達がハンストに決起する。この行動は新鮮な問題提起と、政府に対しても無視のできない激烈な行動になることは間違いない。

1000人の指揮された統一行動よりも、一人の「個の意思」に立脚した決意が状況を切り開くことを私は経験として知っている。「安保関連法案制定を阻止し、安倍政権を打倒するための学生ハンスト実行委員会」を私は直接知らないし取材もしていない。この「声明文」を読むだけで彼らの「腹の括り方」が伝わって来る。

街頭行動へ既に参加されている皆さんが彼らを応援し、またそれぞれの方法で「行動」を展開されることを切に希望する。「決起」の方法は幾らでもある。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

◎「不逮捕特権」を持つ国会議員は「体を張って」安保法案を阻止できる!
◎安保法案強行採決!「大きな嘘」で日本政治をレイプしまくる安倍話法の本心
◎「目が覚めた」人たち──抗議行動はいろんなカタチがあっていい

 

 

世代、地域を超えた脱原発雑誌『NO NUKES voice』!第5号は8月25日発売開始!

8月11日、共産党の小池晃政議員が平和安全法制特別委員会で、自衛隊統合幕僚監部がスーダンへの追加派遣決定前に部隊配置などの資料を作成していたと指摘、「国会を無視した行動だ」と批判した。さらに中谷防衛大臣も「資料の有無を確認する」などと明確な返答を避け、委員会は中断した。共産党からデータが出たからには、中国共産党が関与しているとの噂もある。「国会の審議中に法案の内容を先取りするようなことは、控えなければならないと考えている」(中谷元防衛相)「南スーダンPKOを年明けから今度の法制に基づく運用するって書いてある。こんな検討をしているということが許されるんですか」(共産党・小池晃参院議員)「防衛省としては、法案の内容を十分に分析研究しつつ、隊員によく 理解してもらうといううえでの検討だと認識しています」(中谷元防衛相) などなど白熱している。

議論はいまも続き、右派左派ともに「首相は自衛隊を把握できていない」などと論を繰り広げているが、当の自衛隊は政府の、法案に対する無理解に頭をかかえているだろう。


◎[参考動画]2015.8.11参院安保法制特別委員会での小池晃議員(日本共産党)の質問(約16分)

◎[参考資料]小池議員が提出した「自衛隊統合幕僚監部資料」より(日本共産党HP内PDF)

自衛隊の目的は「有事」の際の対応であり、事前に想定して準備しておかないと本番で隊行動の遅れが生じる。この「有事」がたとえば「ブラジルへ派兵する」などのようにまず生じないであろうものを省き、できるだけ多く(国難に陥ることも含めて)想定と対策を練って「想定外」のことが起きないようにする。そして、本当に何か起こった場合に事前検討データを元に作戦を実行する。もっとも、なかなか「想定外」をなくすのは難しく、昨年7月、自衛隊が韓国軍に銃弾を貸して問題となったのもスーダンだ。自衛隊も、韓国軍も国際世論までは考えつかなかったらしい。

国会で検討されている以上、自衛隊ではスーダン追加派遣は「起こりうる可能性が高い」と判断する。国会で決まれば、自衛隊では国内のどの部隊を派遣するか、輸送方法も海自が担当するのか、空自になるのか、大量の内部調整が必要になる。スーダン第一次派遣では自衛隊はロシア機をチャーターしている。外国政府との胃がきしむような折衝も必要なのだ。法案が通過してから検討していてはロスが生じる。もちろん、自衛隊では「PKO法案が破棄された」想定での検討も行っているはずだ。自衛隊が通常業務を普通に行っていたら、共産党が鬼の首でも取ったように騒ぎ立てる。そもそも兵力の展開予定は国家機密である。防衛大臣も「機密だから答えられない」と、当たり前のことを返せば済むのに、自衛隊の出動条件については、答えを濁している。

たとえば、外務省のHPには、こうある。

国連PKOの基本三原則

国連PKOの活動は,失敗や挫折を経ながらも,現在は基本三原則を順守して行われています。一つ目の原則は「主要な紛争当事者の受入れ同意」です。これは,国連PKO自体が紛争当事者となってしまう事態を避けるためのものです。二つ目の原則は「不偏性」です。これは単に国連PKOが中立の立場を貫くということではなく,国連PKOは特定の紛争当事者を優遇することも,差別することもなく,その任務を実施しなければならない,ということを表したものです。文民に危害を加える紛争当事者がいれば,国連PKOは見て見ぬふりをせず,文民を保護する任務を全うしなければなりません。三つ目の原則は「自衛及び任務の防衛以外の実力の不行使」です。国連PKOにおける実力行使は,他の手段が尽くされた場合の最終手段であり,かつ国連が定める武器使用基準に従って自衛や任務遂行のために必要最低限の範囲で行われます。ここでの実力の行使は,国連憲章第2条4で禁止されている「武力の行使」には当たらないとされています。(外務省ホームページより

そう、PKOは原則的に「武力行使」にはあたらないのだ。なぜ論戦でそうしたコメントが出ないのか不思議だ。

もっといえば「なぜスーダンに自衛隊が行くのか」の議論も欠落している。防衛省のホームページにはこうある

Q3.南スーダンへ自衛隊を派遣することの意義は何ですか。

A3. 南スーダンは、長年の南北スーダン間の内戦と、和平合意の履行を経てようやく2011(平成23)年7月に独立を果たしました。しかしながら独立から3年半経過した今、国内における政治的混乱の解決が南スーダンの国造りの大きな課題となっています。豊富な資源を有する同国の平和と安定は、アフリカ全体ひいては国際社会の平和と安定のため重要であり、国際社会全体が協力して取り組む必要があります。

我が国は、国際社会の責任ある一員として、主要国と協調して、南スーダンの平和と安定に積極的に関与すべきであり、特に、UNMISSの下、施設作業などの得意分野において行う人的貢献は、国連の期待に応えながら南スーダンの平和と安定に貢献するとの観点から、大きな意義を有しています。諸外国などに自衛隊の能力を示す機会にもなり、我が国に対する信頼向上にも資するものです。(防衛省のホームページより

この騒動は海外在住の、特に軍事関係者に日本の政治家が「自国内での自衛隊の通常業務を知らない」そして「PKOについて知らない」さらには「スーダンで何が起きているか知らない」という三重のバカさ加減を世界中に知らしめることとなるだろう。政治が大きく劣化し始めたのだ。

▼ハイセーヤスダ(編集者&ライター)
テレビ製作会社、編集プロダクション、出版社勤務を経て、現在に至る。週刊誌のデータマン、コンテンツ制作、著述業、落語の原作、官能小説、AV寸評、広告製作とマルチに活躍。座右の銘は「思いたったが吉日」。格闘技通信ブログ「拳論!」の管理人。

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HIROSHIMA1945 - FUKUSHIMA2011

「いいかい遥(はるか)、さっきの質問は二度と人前でしちゃいけないよ。私達は色んな危険に囲まれているんだ。遥ももう少し大きくなれば解るだろう。だから解らないことは誰もいないところで父さんに小声で話しなさい」
私が娘にそう諭すと遥は「うん、わかった」と素直に忠告を受け入れた。

遥の質問はこうだった。
「ねえねえお父さん。なんで私達は日本語を知っているの? 友達と話すときはいつもスペイン語なのに家に帰るとどうして日本語なの? 日本ってもうないんでしょ? だれも住めなくなったって学校で教わったけど……」

遥は買い物客で賑わうエスペラント通りの市場の中で突然私に日本語で問いかけてきた。
「黙りなさい。スペイン語で話すんだ」と私は遥の耳元で呟いた。10歳の娘に私達が住んでいた国の話をする事は親の義務のようにも感じるが、難民として制限の多い生活をしている立場を理解するのに若すぎる。いずれ物事が分かるような年齢に達したら全てを話そうと思う。妻もそれに対して異論はないようだ。

◆2016年「JAPAN CHAOS」──悪夢の連鎖が始まった

KAGOSHIMA2016

2016年、山口県の岩国基地に配備されていたオスプレイが鹿児島の川内原発上空で操縦不能に陥り稼働中の原発へ墜落したのが事の始まりだった。悪夢の連鎖と言えばそうとしか言えないが、今となっては後悔すらが無意味だ。事故の前年に戦争へ向けて法整備を完了していた日本は川内原発へのオスプレイ墜落事故直後に、米国がホルムズ海峡にイランが多量の機雷をばら撒いたことを理由に日本への機雷撤去作戦への協力を要請する。「集団的自衛権」で逃げ場を塞がれていた日本政府は原発事故の対応よりも米国の要請に応じることを優先させた。その結果2011年の福島第一原発で起こった事故と比較が出来ない大惨事が発生し、急性放射線障害により九州では事故から2日以内に3万人が犠牲となった。

その後も暴走する原発事故へ有効な対策は皆無で、被害は四国、山陰、山陽から関西までに広がった。西日本からの国外避難は、一切の航空便が日本への乗り入れを停止したことにより不可能となった。事故後1週間で犠牲者の数は確認できているだけで20万人に上ったと言われている。

その事故の最中、米国からホルムズ海峡での機雷除去作戦の要請に日本政府は諾々と従った。海上自衛隊、航空自衛隊のみならず海上保安庁の巡視艇までがペルシャ湾へ派遣された。

日本国内の行政機関は実質的に破綻を来たしていたと言って過言ではないだろう。マスコミも同様で大手新聞社が朝刊の発行を行えないという第二次大戦中も例のないところまで混乱は極まっていた。私はその時、もうこの国はお終いだから逃げなければと決断していた。

日本政府が実質的に機能停止に陥った、という確定な情報が伝わってきたのは複数の海外メディアがインターネットを通じて発信したニュースによってだった。

私は妻と娘の遥とともに新潟に向かった。停泊していたロシアの貨物船の船長に多額の袖の下を渡し、取り敢えずナホトカへ向かった。貨物船の中には私たちのように日本から避難する人達があふれていて誰もが先を案じていた。

ナホトカに到着するとロシアの入国管理局は私達「避難者」の受け入れをすんなりとは認めなかった。難民申請も持たずにいきなり押しかけて来た避難民を受け入れなければならない国際法上の義務がロシアにあるわけではないから、その態度は仕方ないものであったといえる。結局ここでも入管当局と個別折衝で袖の下を渡す事ができた人達だけが入国を認められた。そうでなかった人たちの安否は判らない。

私はロシアに長期滞在するつもりはなかった。ロシア語は話せないし、この国には不安定要素が多すぎると感じていた。急ぎモスクワ行きの航空機に飛び乗りモスクワから中米の某国に向かった。この国は幸い私達を難民として受け入れてくれた。第二次大戦で日本と戦火を交えていなかったことが幸いしたのかもしれない。

今日、2024年8月15日は日本がまだあった頃、「終戦記念日」と言われた日だった。今私達が暮らすこの国は第二次大戦に参戦していなかったので、取り立てて8月15日が話題になることはない。

2016年、1億2千万近い人間が僅か数週間で放射能と戦争により国家を破滅させた「JAPAN CHAOS」は近代史の中でもまだ評価が定まっていない。私の心の中でも同様だ。遥には物心がついたら説明するとは言ったものの、それが果たせる自信はない。

◆2024年8月15日──自ら国を破滅させた愚かな民として他国で生きる

ここへ難民として住み着いて8年になる。日本を出た2016年、遥は2歳だった。家の中では日本語を使っているが、日常生活ではスペイン語だけで通している。私の家族のようにこの国へ逃れてきた日本からの難民は少なくない。しかし彼らの中には「日本への帰還、日本政府の再建」等と言った政治的行動に走るグループがいて、それはこの国の政府からは「厄介者」と危険視されている。

また、決して豊かとはいえない経済状況が続くこの国の国民は私達難民に政府から与えられる僅かばかりの「生活援助」にも不満を持っている。だから私は妻や娘に「家の外では『日本』のことは決して話題にしないように、政治的な話には関わらないように」事あるごとに言い聞かせている。私達は祖国を失った難民なのだ。しかも侵略や他国の攻撃により祖国を失ったわけではない。政権の愚策により、2度と戻れない猛烈な放射能汚染を広め、無責任な政治意識が何の利益も産まない好戦国=米国の言いなりとなり。こともあろうか原発事故の対策を放棄して米国の作戦に国力を傾注してしまった、救いがたい愚かな民族だ。

世界中のあちこちに散らばる日本系難民の苦悩はこれから果てることがないだろう。だから本音を言えば娘の遥には「日本を忘れなさい」と語ろうかとも思案している。

幸いこの国では肌の色や出身による差別は少ない。でも子供たちの間にも「日本」と言う国がどうして破滅したのかへの純粋な興味はある。遥と同じクラスで成績が優秀なフリオやフェルナンデスは遥には同情してくれているという。でも少し意地悪なメンドーサやイザベラにはからかわれることがあるらしい。

仕方ない。難民はそれらを背負って生きなければならない。クルドやパレスチナと我々は違う。自ら国を破滅させた愚かな難民なのだから。でも遥や子供が責めを負わなければならない道理はない。弁解する資格すらない私たちは贖えない罪を死ぬまで背負わねばならない。

あれだけ明確な予兆が示されていたのに、それを食い止めることができなかった。あの時代の空疎感。生物種としての衰退がこの結果を招いたのか。これから年を重ねるごとに私の心がどう変化するのか、それすら想像がつかない。

日曜日(16日)には教会に礼拝に行かなければならない。この国ではカソリックとして振る舞うことが身の安全にもつながる。私も妻も礼拝は護身術でしかないが、遥には礼拝に通うことが自然な行為になってきたようだ。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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