私の若禿げ克服法──ハゲは隠さず刈り込むことで世界が変わる!

女性が化粧をはじめとした「外観」に注意を払うのは自然な身だしなみとされる。女性だけでなく、男性も近年は「スルスル肌」が好まれるようで、体毛やヒゲの脱毛までを請け負う業界が結構繁盛しているようだ。「へー」と間抜けに感嘆するまでだが、そこまで「脱毛」っていいもんなんだろうか。

◆心理的負荷を与える「脱毛現象」01──抗がん剤投与による「脱毛」現象

人為的に「脱毛」をしなくとも、深刻な心理的負荷を与える「脱毛現象」がある。1つは男性(一部女性)の「ハゲ」であり、他方は抗がん剤投与による「脱毛」だ。

抗がん剤投与による「脱毛」現象が、実は抗がん剤投与終了後に何年も継続しており、それに悩んでいる人が多数いることが最近の調査で判明している。数年たっても抗がん剤投与以前の半分も発毛が見られず、それに悩んでいる人の数が相当数に上るという。

年齢にもよるが、若年癌が増加傾向にある中で、抗がん剤投与後の女性が頭髪の様子を気にするのは無理もないだろう。だから、がんに限らず薬剤の副作用によって脱毛を強いられた人には「かつら」や「ウイッグ」が実生活の上で有効だと思う。そのような方々はただでさえ、体の調子が思わしくないのだから、少しでも心理的負担を減らし日常生活での気がかりを軽減されるのが賢い選択だと思う(もちろん、本人がそう考えれば、だが)。

◆心理的負荷を与える「脱毛現象」02──男性の「若ハゲ」

一方同様の現象でも男性の「ハゲ」の場合は少し事情が異なる。これは自分自身が経験したことなので「その寂しさ」をしっかりと噛みしめながら回顧できる。「若ハゲ」はたしかに強い心理的ストレスをもたらす。私の場合、もとは「こんなに太くてクセのある髪の毛なんか、減ればいいのに」と思うほどの剛毛かつくせ毛で、毎朝頭髪を整えるのに相当苦労していた。

「願いは叶った」のかどうか知らないけれども、まだ20を少し超えた頃、額の生え際が少し後退し出しているのに気が付いた。髪の毛全体も以前ほどの剛毛ではなくなっていて、鏡を2枚用いて頭のてっぺんを見ていると、頂上部分に生え方の薄い部分がある。

この時は、ショックだった。まだ20を少し超えたばかりで「もうハゲかい」と、何ともいえない寂しさを感じたことを今でも記憶している。ご経験のある読者の方々にはお分かりいただけようが、「ハゲ」を発見した時のショックは、「外見がカッコ悪くなる」という理由もあろうが、私の場合「ハゲ=老い」の象徴という概念があったので、この年でもう「老化」が始まったのかというショックが大きかった。外見を気にするような細かな感性を持ち合わせていない私は「ハゲ」て毛髪が薄くなった自分の姿よりも、既に老化に向かっている自分の身体に激しく動揺したものだ。

とはいえ、これといって対策は講じなかった。自然に抜けるものは仕方ない。当時でも「脱毛予防剤」や、「育毛を促す」怪しい器具は販売されていたし、アデランスをはじめとする業者の広告は派手に展開されてはいたが、それらへの関心は一度も湧いたことはなかった。

◆自然の摂理にもかかわらず、露骨に感じた「ハゲ差別」

でも、「ハゲ差別」は露骨に感じた。人の体のありようについて、ことに女性の風貌についてコメントすれば、それが否定的な内容であれ、賞賛する内容であれ「女性差別だ」とする極端にも思えるほどの「フェミニズムコード」が存在するが、男性の「ハゲ」について、直接ではなくとも、コソコソ「あの人、最近薄くなったわね、かわいそうに」と陰口を叩かれることは、深刻に当人を傷つけるのだがいまだに「ハゲ差別」についての、真剣な議論は見当たらない。

いや、「ハゲ」程度で真剣な「対応コード」など作る必要がある!などと私は思っていないけれども、気の弱い男性たちはご経験のない方々が考えられないほど「ハゲ」を悩み、その解決に膨大な投資をしている。

厚労省認可の「育毛剤」が発売されてかなり時間がたつが、あれはどれほど効果があるのだろうか。私は試したことはないので判らない(正直に言えば興味もない)。育毛剤を家で頭に振りかけるくらいなら、職場や周りの人たちに気が付かれることはないだろうが、最大の悲劇は「分かりやすいかつら」を使用してしまったケースだ。

◆出来の悪いかつらほど残酷なものはない……

自分が若年性の「ハゲ」を経験したためか、私は男性の「かつら」利用者はいとも簡単に見出すことが出来る。「あーあ高いお金を払って……」と同情を禁じ得ないのだけれども、出来の悪いかつらほど残酷なものはない。「このひと生え際見えないわ。高い金払ってかつら買ったんだろうなー。外したらこんな感じでハゲているのかなー」と意地悪い想像が勝手に膨らむ。

また、各種「増毛法」商法もいかがわしいことこの上ない。抜け毛が多くなって薄くなった頭髪の対処として、残っている1本1本の髪の毛に、根元から3本の人口毛を結びつける増毛法がある。これは残っている髪の毛が抜けない限りは1本が4本になるのでボリューム感を維持できるが、もとの1本が抜けた時は一気に4本が抜けることになり、普通の脱毛よりも頭髪減少がさらに顕著に現れる。そうなればまた仕方なく残り少ない毛髪にまたしても3本の人口毛を結びつける施術を繰り返さなければならない。でも自然毛はどんどん抜けてゆくから、いずれはこの対処法は効果を失ってします。

ああ、気の毒な我が「ハゲ」被害者よ!気に病む人たちは何百万円も出費している。

◆私の妙案──禿げを隠さず刈り込めば世界は変わる!

私ははじめこそ、気が滅入ったが、ある時、妙案を思いついた。薄毛は伸ばしてハゲ部分を隠そうとすると、とても目立つ。逆に短く髪の毛を刈り込むと思いの外目立たない。2ミリから5ミリほどの超短髪に散髪屋で刈り込んでもらうと、周囲から見た印象もほとんど「ハゲ」ではなくなる。頭髪を洗う手間も省ける。

前述のように抗がん剤投与などにより、脱毛が余儀なくされている人を除き、「ハゲ」た男性諸君! 一度超短髪をお試しあれ。かつらや、いかがわしい増毛法に吸い上げられる際限ない経費が一瞬で止められる。さっぱりして、気分が変わること間違いない。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

抗うことなしに「花」など咲きはしない『NO NUKES voice』Vol.7
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プロ野球賭博よりも道義に反する国や行政による合法「賭博行為」

プロ野球公式戦開幕を前に、選手が金銭のやり取りをしていたことが問題とされた。試合前のノックでエラーをした選手への「罰金」的な徴収から、「声掛け」担当した選手が当該試合に勝利すると各選手から集めたお金を手に入れる手法など様々な行為が指摘された。プロ野球選手が「わざと負け」たり、「わざと勝ったり」する行為に手を染めれば、それは明らかな背信行為だから指弾されたり、球界から追放されても仕方ないともいえる。

◆日常的に「賭け」を強いられる職業としてのプロスポーツ選手

しかし、彼らは職業運動家(プロスポーツ選手)なのだ。勝つか負けるかを常に争う世界は、年度ごとの予算を立てて、決算を締める商売の世界とは「仕事」への向き合い方がおのずから異なる。

例外もあるがルールが複雑になるほど優秀なスポーツ選手には、明晰な頭脳が要求される。生まれ持った肉体的運動能力の優位さだけでプロの世界では活躍できない。一流選手は皆、聡明である。と同時に彼らはデータや経験値、直感に基づいて、あるプレーに「賭ける」ことも日常的に行う。

野球の打者であれば投手の投げる球種を予測(山を張る)したり、打席の中で立つ位置を微調整したりする。この行為は経験値に依拠しているが、最後は「勘」に頼るものであり、その点で彼らは日常的に業務上である種の「賭け」を強いられることと直面せざるを得ない職業人だといえる。

◆「賭け」の要素が入り込んではならない職業としての行政

この性質と全く逆に位置するのが行政に携わる人たちの仕事だ。行政は法律なり条例に依拠し議会の決定を受けて行われる公的業務であるから、本来行政に「賭け」の要素が入り込む余地はないし、入り込んではならない。

つまり「賭け」を論じる際には前提としてまず、行為者が誰であるか、そして「賭け」と言われるものの実態がいかなるものであるかが冷静に分析されなければならない。その上で行為の正邪が判断されるべきだ。

◆公営による競馬、競輪、宝くじは合法だから「良い賭博」なのか?

そもそもなぜ「賭博」は良くない行為とされるのだろうか。宝くじは「賭け」ではないのか。競馬は「賭博」ではないのか、競輪は、競艇は、オートレースは?どこからどう見ても全て明らかな「賭博」だ。では雀荘で行われる「賭けマージャン」、「闇カジノ」、「ゴルフコンペ」という名の賭けゴルフはどうして悪行とされ時に摘発されるのだろうか。

回答は極めて簡単。「賭博」の胴元が実質的に「国」(もしくは国に準ずる団体)であればその行為は「合法化」され、私人が胴元になる「賭博」は「違法」とされるのだ。賢明な読者においては勘違いされることは無かろうけれども、決して「賭博」の内容により「合法」、「非合法」の区別が線引きされる訳ではなく、あくまでも基準は「国」(もしくは国に準ずる団体)が胴元であるかないかだけが法的には「合法」、「違法」の基準なのだ。

◆試合結果を予想するサッカーくじ(toto)は国が胴元の「賭博行為」である

「野球賭博」を司る国家的制度は今のところない。したがって野球に関する全ての「賭け」は「違法」と認定される。他方サッカーには、試合結果を予想する明らかな「賭博行為」であるtoto(サッカーくじ)が存在する。国が胴元となる賭博の中でも比較的新しいこのtotoは、明らかな賭博行為のイメージを隠ぺいするために「サッカーくじ」などという名前を付けたが、「くじ」と「賭博」は全く異質かつ相いれない性質を持つ行為であることをご理解いただくのに、多言は必要あるまい。

勝負を強いられる仕事には判断においても、プレーの選択においても「賭け」が必ず必要だ。だから(言い過ぎかもわからないけれども)勝負師にとっての「賭け」は日常的行為だともいえる。よって私はあまりプロ野球選手が小銭のやり取りをしていた行為に興味が湧かない。所詮その金は彼ら自身が稼いだ金であるし、それによって試合に緊張感が出ることはあっても「わざと負けてやろう」という動機が強く引き起こされることは稀だと考えるからだ。

◆最大の「賭博」犯罪は国がGPIFに委ねた「年金原資の投機的運用」である

むしろ関心と指弾は本来「賭博」と無関係であるはずの行政が実質的に「賭博」に手を染めていることに向かうべきではないのか。目下最大の道義的犯罪は「年金原資の投機的運用」であろう。年金の資産は2016年3月現在135兆円だと言われているが、その運用は年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)に委ねられている。しかし実際の運用はGPIF自身が行うのではなく国内外の「民間金融機関」に委ねられていることはほとんど知られていない。いわば「年金原資運用の民営化」が既に強行されているのだ。しかも委託先は国内の金融機関だけでなく「JPモルガン」、「ゴールドマン・サックス」といった海外大手の多国籍金融機関にまで及ぶ。

年金を天引きされる多くの給与所得者にとっては、青天の霹靂ともいうべき狼藉が合法的に行われているのだ。年金の運用を民間会社に任せて、損出が出たらどうするのだ?誰も責任を取りはしない。仮に運用益が出たところで「瞬間的博打に勝った」だけのことで、年金が極めて不安定な運用に委ねられている構造に変わりはない。

そして、実際に運用損は計り知れない額になるだろう。2015年7月-9月の運用損が9.4兆円との実績がある。1ドル120円前後から110円前後への円高と、今後ますます進む株安により20兆円近い運用損を予想する専門家もいる。

これが「賭博」でなくて何なのだ。

プロ野球選手の賭け事(?)はスポーツ新聞の中で報じていればいい。過剰な報道に「あら、いやだわねぇ」、「子供の夢を壊す」(本当にそんな事思っているのか?と疑問だが)と感じられる方がいるかもしれないけれども、実生活上私たちには「全く関係のない話」だからだ。

一方、年金原資を投機的に運用した結果の損益は、一部富裕層を除くほとんどの人びとにマイナスの影響を及ぼすことが間違いない。

今50歳以下の人が年金を受給できる計算が、どうしても私には出来ないのだ。私の計算が間違いであればよい。誰か安心できる「回答」を示してくれないか。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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防衛大卒業生の自衛官任官辞退倍増はなぜ当然なのか?

3月21日、防衛大学の卒業式が行われた。卒業する日本人学生419名のうち47名が自衛官への任官を辞退した。この数は昨年の25名の約倍で日本人全卒業生の1割以上にあたる。任官辞退の過去最大は1991年の94名で第一次湾岸戦争への自衛隊派兵が焦点化された年だが、それ以来最大の任官辞退者数を記録することになった。

自衛隊の志願者を巡っては、多くの高校生が受験する「一般曹候補生」の志願者数も急減しており、2015年度の全国分は前年度と比べて19%減の2万5092人で2012年の半数近くにまで激減している。解釈改憲が行われた2014年も前年比10%減だったが、前年比約20%の落ち込みは過去最大級に際立っている。

◆任官辞退は極めて自然な選択

足音や「キナ臭い雰囲気」といったレベルではなく、堂々と戦争へ向かった方向性を政権が隠すことなく進めている。憲法もへったくれもあったもんじゃない。「武器輸出三原則」は撤廃され、東大は軍事研究の解禁を宣言し、防衛省は大学に補助金を出して軍事研究を奨励し始めた。4月からは予備自衛官として船員21名の「徴用」が予算化され実施質的海上労働者の「徴兵制」が開始される。

任官を辞退(拒否と言い換えてもいいだろう)する防衛大学卒業生の数が増加するのは、極めて自然な選択と言える。今年防衛大学を卒業する学生が入学したのは2012年4月。お粗末ではあったが民主党政権時代,まだ第二次安倍政権が誕生する前だった。防衛大学入学にあたり、まさか卒業する時に、日本が「集団的自衛権」を認め、地球の裏まで米国の尻拭いに出かけて行かなければならない時代になると予想していた学生はいなかったのではないだろうか。

◆契約不履行の責めを負うべきは安倍政権

防衛大学の学生は身分を特別職の公務員とされ、授業料は免除され、給与にあたる手当が支給される。だから昔から任官辞退をする卒業生に対しては「授業料を返せ」だとか「手当を返せ」といった批判を投げつける人がいる。「税金の無駄使い」には敏感な庶民感覚に訴えやすいそれらの批判には一理ありそうで、実はとんでもない言いがかりだと思う。

特に「専守防衛」を国是にしていた時代に入学した防衛大学の学生が、政権の勝手な「解釈改憲」によって「戦地への道」を開かれてしまったからには、何を言われようと、逃げるが勝ちだ。当初の基本契約事項「専守防衛」が反故にされたのだから、契約不履行の責めを負うべきは現政権というべきである。

◆安倍訓示文の主語は誰なのか?

卒業式に出席した安倍首相は、「今月施行される平和安全法制に基づく新しい任においても現場の隊員たちが安全を確保しながら適切に実施できるようあらゆる場面を想定して周到に準備しなければならない。平和安全法制は平和な日本の強固な基盤を築くために考え抜いた結論だ」と述べたそうだ。

「現場の隊員たちが安全を確保しながら適切に実施できるようあらゆる場面を想定して周到に準備しなければならない」と安倍は紙を見ながら訓示しているが、この文章の主語はいったい誰なのだ。自衛隊員の安全確保の責任は内閣総理大臣である安倍が負うものではないのか。まさかもう「文民統制」まで安倍の中では無きものにされているのか。もしこの文章の主語を防衛大学卒業生(自衛隊員)に押し付けているとすれば、許しがたい責任逃れの極致と断言せねばならない。

滅茶苦茶な安保法制だけ作っておいてこの主語を欠く歪な文章は「お前達は現場では、自分で安全を確保してどんな状況でも、(私は知らないから)お前達がお国のためにご奉公できるように考えて、(私は知らないし、戦場へは行かないからお前達が考えて)何とか勝手にうまいことやってくれや」としか私には翻訳できない。

「平和安全法制は平和な日本の強固な基盤を築くために考え抜いた結論だ」だと。今更ながら安倍が発する言葉の含意が、事実と何百万光年も乖離していることをまたしてもご立派に披歴している。嘘をつけ!考え抜いたのはどうやって「強行採決」を通すかだけじゃなかったのか。

こんな男のこんなちゃちな理屈に、人生や、命を左右されてはたまったものではない。しかも安倍が総理の座に居座るのは長くても数か月から数年だ。安倍の気まぐれでひん曲げられた針金のように変形してしまったこの国の形は、相当な力と年月が無ければ修復不可能だろうし、下手をすれば修復どころか、いびつな形が固定化してしまい、更なる奇形化を起こす可能性が高い。

◆防衛大生は殺したり、殺されたりする人生を選択したわけではない

それでも戦禍に自衛隊員が犠牲になった時、安倍の責任が問われることは金輪際ないだろう。イラクへ派兵された自衛隊員の自殺が相次ぎその数は100名近くに上っている。実戦を経験していないはずの自衛隊員、サマワで道路建設を中心に担っていたはずの自衛隊員や輸送機の操縦や整備に関わっていただけのはずの自衛隊員から何故これほど多くの自殺者が出るのか。防衛省はその理由を隠ぺいしている。土木作業に従事していただけならば自殺を選択するようなPTSDを抱え込むであろうか。

イラク戦争への派兵で自衛隊の死者は現地では出なかった。しかし安倍の話を聞いていると、こんな男をまともに相手にしていてはたまったもんじゃない、任官なんかとんでもないと考える防衛大学卒業生の判断の方がまっとう至極だ。「自衛隊」という名の組織幹部になろうと考えていたら、米軍の尻拭いで日本と全く関係のない国に連れて行かれて殺したり、殺されたりする人生を彼らが選択したわけではないのだから。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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原稿を「叩く」──「叩く」ことは「書く」行為か? 

読者の皆さんにお読みいただいている駄文は、私が「書いた」原稿のはずである。完成した原稿はそれが書籍であれ、PC上の文章であれ文字羅列でありその意味において読む側からすればさほど大きな違いはない(私自身も感じない)けれども、「書いている」はずの私はしばらく前からいたく違和感がある。

ご想像の通り私はこの原稿をPCで「書いている」。しかし頭の中では文章を構成する頭脳を使ってはいるが、手の動作はボールペンを握って紙に文字をしたためているのでなければ、鉛筆で原稿用紙に鉛の黒色で意思を表しているのでもない。私の手はひたすらPCのキーボードを「叩いて」いる。

なるほど下書きを終えてプリントアウトしてみれば、それは紙の上に印字となって現れていて「原稿を書いた」ような気分に少しはなる。が次に原稿を「叩き」始めるとまた違和感が湧いてくる。もっともそんなことを気にしていてはこの時代全く仕事にならず、直ぐにお払い箱になることは必定なのだけれども、「書く」といいながら「叩いて」いる手の動きとの不整合に対する気持ち悪さのようなものが年々つのって来る。

これが携帯電話だと「叩く」ではなくボタンを「押す」となる。モバイルPCを持っていない私は取材先から荒っぽい原稿を携帯電話で編集者へ送ることがある。指先の不器用さと不慣れ、さらには年々進行する老眼の為に小さな画面の携帯電話をのぞき込んでボタンを「押し」ながらの作文作業は煩わしいものの、予想変換機能のお蔭で少々の原稿であればさほどの苦労なく作文することが出来る。

◆「書き殴って」いた昔より「書いている」意識が希薄になってきた

日々「書き殴って」いたのは学生時代であった。発表するあてもなく誰に聞いてもらえるはずもなく、聞いてほしいとすら思わない内面の発露をノートに「書き殴って」いた。愛用していたボールペンは指に馴染み心地よくノートの上を滑ってくれた。悶々としながら夜明けまでノートに向かい続け、指が痛くなることを気にもせず「書き殴って」いた。

その内容は忘れたし、どうでもよい。問題はあの時の「書き殴って」いたという体感が、今でも私には残っているが、逆に人様に価値もない文章をお読み頂いている今日、私には「書いている」という意識が希薄になってきていることだ。

私はひたすら「叩いて」いる。取り上げるテーマにより自分の気持ちの入り具合が異なるからキーボードを「叩く」スピードなり、個々のボタンを「叩く」圧力に多少の違いがあるのは自覚する。しかしどう考えてもこれは「書く」行為ではないのではないか、という思いが確信近く高まってきている。

◆PC文法で作文する習慣に違和感を覚えなくなっていく

例えばPC文法とでも呼ぶべき新しい文法がある。正式とされる日本語文法では段落を変える時には一文字空けて次の文章を書き始めるが、PC文法においては「一文字開け」ではなく文章と文章の間に1列の間を取るのが一般化してる。まだ分析されてすらいない数多の光線が際限なく眼球に飛び込んでくるPC画面にあっては、たしかにこの体裁の方が読みやすい。しかし正式な文法からすれば、明らかに逸脱した形態だ。小論文の試験でこの体裁の文章を書けば、それだけで大きな減点を食らうことは間違いない。

しかしそう難じながらもPCで作文をする際は私自身もPC文法で作文する習慣に違和感を覚えなくなってきている。

思えば紙に向かって書いている時も、対象がノートであるか、原稿用紙であるか、便箋であるかによって私の文体と筆圧は自然な調整が働いていた。それがPCを「叩く」ようになり、おしなべて抑揚のないものになりつつあるのではないかとの不安がある。

このことをある人に話したら「じゃあ原稿用紙に書いたらどうだ」とアドバイスを受けたことがある。たしかに試してみる価値がありそうだけれども、差し当たり迫りつつあるあれこれを前にしてPCを「叩く」前に、一度「書く」実践は未だに果たせていない。最大の課題は「叩く」ことにより出現した「原稿」がどんどん内容の薄いものになりつつあるのではないかという実感と懸念である。もちろんそこには普遍的な身体と技術の問題だけではなく、私自身の不勉強という根源的な欠落があることも承知してはいる。

「書く」代わりに「叩く」ことに象徴されるように、最新テクノロジーに依拠した生活では指の使い方が極めて単純化されるのと反比例に出来上がった作品はそれなりの体をなしているというパラドクスが支配する。

◆手を使わなければ、体を使わなければ、という不安感が増してくる

手を使わなければ、体を使わなければとの不安感が増してくる。だからリンゴを剥いてみる。どうやらまだ大丈夫そうだ。玉ねぎはどうだろう。皮をむき千切り(スライス)を試みる。トントントンとリズミカルに刻めるだろうか。どうやらまだ可動域はそれほど減ぜられてはいないようだ。大根の桂剥きを試す。ちょっと怪しい。以前よりはぎとる皮の幅が厚くなっている。皮では満足できず大根をどんどん剥いてゆく。

自動車に乗る。ドアは鍵を開けずともノブを握るだけで解錠される。エンジン始動は鍵を差し込み右側に廻し、アクセルを踏みこむのではない。電気機器のようにスイッチを押せば発動する。そうそうこの車種にあってはエンジン始動の際はブレーキを踏むのが基本だ。パーキングモードにすればどれほどアクセルを踏んでもエンジンに気化したガソリンは注がれない。安全で燃費効率が高いことは疑いがない。

自動車なんて最初から理解を超えた複雑機器でそれを操作するのに両手両足を使っていたのが片足を使うだけになった、と言えばそれまでだ。

でも怪しい。確実に自分が怪しい。「叩いている」自分と「鍵を差し込みアクセルの踏込みなし」に発動する自動車を操作する自分と「書いている」自分。この差は埋められるのだろうか。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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抗うことなしに「花」など咲きはしない『NO NUKES voice』Vol.7

「資本主義の終焉」をむかえた世界で私たちは何を立ち上げるのか?

たまたま参加したセミナーで意外な発言に接した。表題の通り「資本主義の終焉」と演者は断言した。

榊原英資×水野和夫『資本主義の終焉、その先の世界』(2015年12月詩想社)

この言葉が、たとえば反体制側の運動家の口から発せられたのであれば、何も驚きに価しない。けれども、本発言は旧大蔵官僚で「ミスター円」の異名を取った榊原英資氏によるものだから驚いた。常々「末期資本主義」や「帝国主義」といった言葉を乱発している素人の私ではなく、体制のど真ん中で金融政策に関わっていた榊原氏の発言には、腰を抜かしそうになった。

役人時代も異色なキャラクターや発言で話題になることが少なくなかった榊原氏ではあるが、その日の発言は「資本主義の終焉」との言葉だけでなく、その根拠や論旨が私の持論と酷似(否、同じとすら言える)していたのだから、極端に表現すれば「驚愕」ですらあった。

◆500年位の歴史スパンで捉えると「一つの時代」は終わった

榊原氏曰く「先進国が高い成長率を目指すのは現実的ではないし、そんな時代は終わった。安倍さんは『成長戦略』なんてまだ言ってますけど無理です。歴史を500年位のスパンで捉えると一つの時代は終わったと考えられる。産業革命以降の経済成長時代は、少なくとも先進国の中では終わった。それが解っている欧州の国々はもう高成長を前提に考えてはいない。低成長の中でどのように豊かさを維持してゆくかを考えるべき時代です」

その通りだ。もっともこの発言の前には「憲法を改正して現存する自衛隊は軍隊なんだから、ちゃんと認めるべきだ」や「最終的には法人税を下げ、消費税を20%に上げるべきだ」といった、予想を外さない発言もあるにはあった。だが、そんなものは「資本主義の終焉」宣言の衝撃に比べれば聞き飽きた常套句であり、「ああ、またか」程度にしか耳に残っていない。

驚きは体制側の人間から、禁句とも言うべき「資本主義の終焉」が発語されたことだ。昨年にわかにピケティが流行ったが、表現に多少の差異はあれ、榊原氏もピケティも私も共有している概念があった。それが「資本主義の終焉」だ。

◆「資本主義終焉後の世界」を構想し、議論すべき時代

それではその後の世界はどうなるのか、どうなるのが望ましいのか、についての議論は非常に貧弱だ。榊原氏の指摘に的確な部分も見当たったが、新しい世界を規定する概念までには程遠い。無理もない。今日一部の左翼を除き、正面切って「資本主義の終焉」などと発言する人間はいないし、そのような命題の存在すらほとんど無視若しくは否定されているのだから。

目前の具体的諸課題への個別の議論も軽視は出来ないけれども「資本主義終焉後の世界」、つまり全く新しい枠組みの世界を構想し議論すべき時代なのではないだろうか。

マルクスは指針を描いたが、その限界が現実により示された。

片方で急速に戦争化する世界に「宿命的破滅」を感じる。未来などあるものか、とやけっぱちになりながらも「資本主義終焉後の世界」を考察することの価値は高い。日頃構想したこともない高い視点から未来を考える営為は刺激に満ちた知的行為だ。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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日本共産党の学費値上げデマチラシが検察に刑事告発寸前!

この2月に大騒ぎとなった「学費の値上げデマ」について市民団体が検察に告発しそうな動きをキャッチした。東京地検特捜部にこの告発が届くにはまだ先のようだが、「参議院選挙」を睨んで告発合戦の火ぶたが切られたといってもいいだろう。この動きについては後日、詳細に伝える。

共産党の学費値上げ糾弾チラシについては、新聞でも大きく報じられた(産経新聞)が、参議院選挙を前にして、手練手管の勢力が暗躍しているようだ。

「そもそも、この日本共産党のデマのチラシは、『安倍政権が国立大学の学費を毎年値上げし、16年後に現在の年間53万円から93万円に値上げする』というもので、共産党としては、財務省の審議会が提示した、国立大学への運営費交付金の削減案に注目したものです。『仮に交付金を減らして、自己収入を増やす際、その増えた部分の全額を学費でまかなったらどうなるか』という試算を政府に出させて悪用しただけの話です。現実は、財務省審議会の提案には自民も公明も反対し、昨年11月の建議からは、学費値上げの数字は消えて、安倍政権としては例年とおり、交付金を削らないことを決議しています」(週刊誌記者)

つまり、学費の値上げ話などは、露程もないのだ。さすが、かつての石原都知事に「ハイエナ政党」と断罪された姑息な手腕やアジテーション癖はまだこの党には残っているようだ。

2月3日の衆議院予算委員会では、安倍首相がチラシを見て「まったくのデマ」「ただちに公党としては責任をもって訂正してほしい」と答弁。すると、チラシの「安倍政権が値上げ」が「安倍政権のもとで狙われる」と修正された。
修正前修正後

まさに、「ビフォーアフター」の世界だとあきれるばかり。国民が政治に不信感を持つ訳だ。国民の不安を煽って選挙へ誘導する共産党のやり口と、こんなものに振り回される馬鹿で無能な与党との競り合いは「目くそ鼻くそを嗤う」という程度のものだが、共産党は、参議院選挙では1人区はあきらめ、民主党+維新の党と連携して、与党に対抗しようという作戦のようだ。民主党と維新の党は合流して「民進党」となったが看板のすげ替えにすぎない。中身はふぬけそのものなのは時間がたつとともにわかるだろう。

『志位委員長は頭がやわらかい男です。自民を倒すためなら、柔軟に味方を作っていくのではないかな。まあ例のシールズを取り込んで票にしてしまっている時点で、彼らの手練手管は老獪だといえます』(同)

こうした動きを見ていると、共産党にはデマを平気でまく蠕動組織としての一面と、老獪な戦略家としての一面が同居している摩訶不思議な政党だ。まあ、若者が減少し、弱体化している共産党は、もはやなりふりかわっていないとも見れるが。
「そうじゃない。志位としては、忸怩たるものがあっても、民主党や維新の党と連帯しないと共産党の支持者があきれて離れていかざるを得ないと考えているのですよ」

さて、18歳と年齢が下がった魑魅魍魎、そして国民が「無関心」な争点なき参議院選挙がひたひたと近づいてくる。

(伊東北斗)

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「ナベツネ」を辞任に追い込んだ野球賭博〈闇〉のからくり《3》

「ナベツネ」こと渡辺恒雄=読売巨人球団最高顧問をも辞任に追い込んだ野球賭博──。その闇を探るべく作家・影野臣直氏が、かつて胴元をしていた男性のインタビューに成功した。タレントや有名人はなぜかくも野球賭博にはまるのか? その理由の一部始終を3回に分けて公開する。今回がその最終回。

── では、野球賭博へのヤクザの関与は?

堂本 野球賭博も博打ですから、必ずどこかの博徒が絡んでいることは確かでしょうね。まぁ、あくまでも想像ですが、関西は山口組で関東は住吉か稲川かな、という推測はできますがね。

── 噂では弘道会の名前があがっていて、巨人選手の事件が表に出たのは山口組の分裂の影響という説がでていますが、なぜなんでしょう?

堂本 ボクは、まったく関係ないと思います。だいたい、賭けたカネが払えなくて球場まで来たってことですが、行った方もバカだし、来られた方もバカですね。これは、客が野球賭博に関与していることに対して胴元のコンプライアンスが疑われる。

警察関係では名前が挙がったのは、巨人の1軍選手にコーチ、中日の有名選手やフロントの職員の関与。
中日=(イコール)名古屋=(イコール)弘道会、の式ができあがったのではないだろうか。そこから尾ひれがついて分裂の余波との話が推測される。
少々のカネを集金にキャンプにいくってのは、世間を騒がせるのを分かってやったのか。いまだ今回の事件は謎が多い。

── なぜ、巨人にいるようなスター選手がハマるんでしょうか。どうやって、巻き込んでいくんでしょう?

堂本 たぶん、他の博打が関係してると思いますよ。ボクなら麻雀とか、もっと一般的な博打から進展していったんじゃないかな、と予想します。ただ、巨人の選手だっていえば、知らなくても張らせますよ。

日本一の人気球団である、巨人の現役選手。その利用価値は莫大だという。
先発選手の近況や、監督やコーチの不仲説。
それを得れば、博打を優位に進めることができる、さまざまな情報まで入手できるのである。

堂本 野球賭博にハマるヤツって、間口の広い博打から間口の狭い賭博に入ってきますよね。たとえば、雀荘ではテレビで野球中継や競馬中継やってるじゃないですか。そんなところからはじまるんですよ。もしかしたら、ハメられている可能性も感じますよね。博打が好きなんですね、アイツらは……。

最近では、野球賭博に関与する客の年齢層が下がっているという。
客の中には学生もいるし、オレオレ詐欺で稼いだ若手の実業家モドキなども野球賭博の太い客なのだそうだ。

2020年、東京オリンピックで正式種目となる野球競技。
メジャーリーグの日本選手の流出や、WBCやプレミア12などの国際大会などの増加。
これからの野球賭博は、国際化していくのかも知れない。(了)

[文]影野臣直+[プロデュース]小林俊之

◎元胴元が語る──野球賭博〈闇〉のからくり《1》
◎元胴元が語る──野球賭博〈闇〉のからくり《2》
◎元胴元が語る──野球賭博〈闇〉のからくり《3》

小林俊之+影野臣直!強力タッグの短期連載ルポ[全8回]
新宿・歌舞伎町ぼったくり裏事情──キャッチ目線で見た「警察の対応変化。
《1》「ぼったくり店。はどうやって生まれるのか?
《2》なぜ銀座のクラブにはゴタがないのか?
《3》メニューに金額明示があれば違法性はない?
《4》東京五輪を前に警察が浄化作戦を始動?
《5》御一人様51万円「クラブ・セノーテ」事件の衝撃
《6》ベテランキャッチが語る「ぼったくり」の世界
《7》「ガールキャッチ。復活と増えるプチぼったくり
《8》警察の弾圧が盛り場の「食物連鎖」を増殖させる

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「ナベツネ」を辞任に追い込んだ野球賭博〈闇〉のからくり《2》

「ナベツネ」こと渡辺恒雄=読売巨人球団最高顧問をも辞任に追い込んだ野球賭博──。その闇を探るべく作家・影野臣直氏が、かつて胴元をしていた男性のインタビューに成功した。タレントや有名人はなぜかくも野球賭博にはまるのか? その理由の一部始終を3回に分けて公開する。今回は第2回。

── ハンデは、いつ連絡してくるんですか?

堂本 試合当日の16時~17時くらいに、直接ハンデ師から電話がきて、ハンディを知らされます。だいたい、試合がはじまる2時間くらい前かな。それから顧客に連絡し、プレーボールの受けつけの締め切りまで待つわけですよ。

ハンデ師からの連絡がくると、胴元から顧客全員に連絡がいく。客はすぐスポーツ新聞等で情報を集め、試合開始直前ギリギリに勝ちチームを決める。野球賭博にハマっている連中は、このときが最高の楽しみなのだという。

── カネの流れは、どうなっているのですか?

堂本 野球賭博は、シーズン144試合あります。その全試合、開帳されています。だいたいの1週間の流れは、金土日の3連戦の分を翌週の月曜に集金する。火水木の3連戦では、金曜に集金です。勝った客に配当を渡すのは、当日ですね。もちろん、テラを1割引いてね。

── 集金方法は? また、そのとき、払わない人はいないのですか?

堂本 もちろん、自宅や会社までいって対面で手渡しです。口座はアシがつくから使えない。もし、現金がないっていったら、『つくらせるか、貸しつけるか』ですね。 

ここで、賭博の収入だけでなく、金融としてシノギも生じる。だから家も商売も、身柄のしっかりしている人にだけしか張らせないのだ。

── この稼業に入ったきっかけは?

堂本 もともと、16歳でヤクザの部屋住みになったのですが、賭場の見習いの一つとして野球賭博を始めたのは25歳から……おいしいシノギだと思ったから、1年くらいで独立しました。それから、3、4年はやってましたね。

もともと、才覚があったのだろう。堂本氏にはタニマチ(=スポンサー)衆がいたうえに、当時は暴排条例もなく景気も良かったうえに、ヤクザがメシを食うのが楽だった時代だった。堂本氏は巨万の富を築いた。

── そんなに儲かっていたのに、なぜやめてしまったのですか。

堂本 そりゃ、摘発されたからです。最後は、なんと高校野球でパクられてしまいました(笑)。

逮捕され、堂本氏は野球賭博から足を洗った。
堂本氏は実刑にいくことなく、執行猶予を科せられ社会復帰した。

── では、同じように逮捕された、ダルビッシュの弟も胴元だったのですか?

堂本 いや、胴元は人脈がないとできないですね。彼は『中継(ちゅうけい)』と呼ばれる、客をまとめて手数料を抜く業者だったと思いますよ。胴元と違い、簡単に開業できるのが特徴です。

中継も、やってることは胴元と同じである。ただ抜ける額が、胴元には遠く及ばない。

堂本 それでも、逮捕されたときは賭けさせた金額が問題になる。いくら儲かったかは、罪状に関係ないから、ダルビッシュの弟も胴元として賭博開帳図利で起訴されるでしょうね。ま、初犯だったら、執行猶予で出てきますね。

よく人数を集めまとめて買うグループがいるが、もし捕まったら胴元でなくてもグループの代表者が逮捕される。それが、今回のダルビッシュの弟の事件ではないかという。

── ただ、ダルビッシュの弟の場合、ハンデメールが出てましたが……

堂本 ハンディは関西と関東では違うんです。だからといって、ハンデ師がメールでハンディを報せるわけがない。証拠が残るから。

ハンデ師は口頭でしか、ハンディを知らせない。そこには博徒ならではの徹底した守秘義務が守られている。

── それでは、そんなハンデ師への報酬はどのくらいなのでしょう?

堂本 胴元の仲間内でも、ハンデ師がどこの誰か知っている人は少ない。ヤクザでも大きな組織の親分か、それに準ずるクラスの幹部連だけでしょう。それくらいトップシークレットですから、ハンデ師への報酬は胴元クラスではわからないでしょうね。

ハンデ師によって、売り上げが大幅に変動するという野球賭博業界。ハンデ師は、野球賭博をシノギとする組織の命運さえ握っているといっても過言ではない。(つづく)

[文]影野臣直+[プロデュース]小林俊之

◎元胴元が語る──野球賭博〈闇〉のからくり《1》
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◎元胴元が語る──野球賭博〈闇〉のからくり《3》

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抗うことなしに「花」など咲きはしない──5年目の福島と高浜「仮処分決定」

3・11から5年。正直あの災禍に見舞われながら、一体この島国の為政者は何を学んだのだろう、と無力感に打ちひしがれた5年間であった。なにが「花は咲く」だ。あんな空疎な歌詞とメロディーで被災者や原発事故の被害者の心が癒されるとでも皆さんは本気で思っているだろうか。私はあの歌は権力者による「震災」被害隠し以外の何物でもないように感じる。抗うことなしに「花」など咲きはしない。

高台への移住を前提とした東北の復興は予想を超える困難の前に、移住を諦め、他の地域への人口流出が進んでいる。津波被害地各地、とりわけ女川町ではその傾向が顕著である。

◆動かないはずのものが動き出した──高浜原発「仮処分決定」の福音

ああ、何もできずに、何も前に進まずに5年を迎えるのか、と明るい気分になれずに悶々としていたら、福音が飛び込んできた。3月9日大津地裁(山本善彦裁判長)は高浜原発3、4号機の運転停止を言い渡す仮処分の決定を言い渡した。稼働中原発の運転停止命令は史上初であるし、仮処分の中では「原子力規制委員会」が設けた「新規制基準」が合理的なものではないとする趣旨の言及もある。

福井地裁で同様の運転差し止め仮処分の判断を下した樋口裁判長の書いた差し止め理由は、我々を良い意味で大いに驚愕させてくれたが、大津地裁山本裁判長が指摘した、「新規制基準」への疑義、稼働中原発停止の判断、はこれまでの司法判断を大きく凌駕するものであり、極めて高い評価に値する。動かないはずのものが動き出した。

◆「諦めない」活動が地殻変動を起こす

私自身、現地に数回通い、目の前で(その時は知らされなかったけれども)事故が発生していた高浜原発(4号機)をこのまま運転し続ければ、高い確率で「破局的事故」が起こっていただろう。関西電力は懲りもせず、さらに古い1、2号機の40年超えの再稼働まで目論んでいるが、頼む。頼むから日本を終わらせないでくれ!

司法は所詮、国家の一機関だ。マスコミは所詮スポンサーの言いなりだ。でも意志を持った個人や集団は違う。「若狭の原発を考える会」(木原莊林会長)はこの2年間で70回以上高浜町へ関西から通って、地道なチラシ配りを中心とする様々な取り組みを行なってきた。京都から片道2時間弱を自らハンドルを握り(多くは70歳前後の方々)は、最初誰にも相手にされない中で、罵声を浴びせられながらも「アメーバデモ」と称した数人によるチラシ配布や、地元住民との対話を続けてきた。

開始から2年、高浜町では住民の反応は全く変わっている木原代表も「楽しくないとこういう運動は続きませんから」と笑顔で手ごたえを語る。

9日大津地裁の仮処分決定は、司法判断である。しかしそれを導く筋道を作ってきたのは、このような地道な活動を諦めずに続ける人たちの活動があったからではないだろうか。一見関係なさそうでその両者はどこかで確実に結びついているように感じられてならない。全国各地で様々な運動や原発立地で闘う人たち執念の賜物だ。

相次ぐ再稼働申請、原発輸出など愕然とするような事実の前にも、全く別な地殻変動は確実に起きている。私たちはまだ負けていない。

福島および周辺の被害者のみなさんに寄り添いながら、私たちは原発全機廃炉を勝ち取るまで、絶対に諦めない。ほらここに光明があるよと示してくれた大津地裁の判断とそれを導いた多くの方々の地道な活動に深い敬意の念を示したい。追悼と哀悼をささげるべき日に、私たちは同時に「脱原発闘争」を最後まで戦い抜く決意を新たにする。

私たちは負けはしない。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

抗うことなしに「花」など咲きはしない『NO NUKES voice』Vol.7

「ナベツネ」を辞任に追い込んだ野球賭博〈闇〉のからくり《1》

プロ野球界のみならず守旧メディアの要に長年にわたり居続けた「ナベツネ」こと渡辺恒雄=読売巨人球団最高顧問をも辞任に追い込んだ野球賭博──。その闇を探るべく作家・影野臣直氏が、かつて胴元をしていた男性のインタビューに成功した。タレントや有名人はなぜかくも野球賭博にはまるのか? その理由の一部始終を3回に分けて公開する。

プロ野球史上最大の汚点と揶揄される、昭和の『黒い霧』事件から46年。ペナントレースも終わり、CSファーストステージで賑わうプロ野球界に、突然の野球賭博問題が発覚し球界を震撼させた。しかも、その渦中の人物が、名門巨人軍の現役投手だったという。それに加え、メジャーリーガーのダルビッシュ有の弟までが野球賭博に関与した疑いで逮捕された。平成の『黒い霧』事件の勃発である。
だが、一般に競馬競輪は熟知していても、野球賭博をしる人は意外に少ない。いったい、野球賭博とはどのようなものなのか。
過去に胴元を務めていたという、元業界関係者に訊いてみた。

堂本勝和(どうもとかつとも)(仮名)52歳

16歳から関西の組織に稼業入りし、主に賭博を中心にシノギを行う。39歳で野球賭博で逮捕。出所後は堅気になり、現在は建築関係の会社を経営。

堂本 まぁ、野球賭博って、簡単にいえばプロ野球の対戦カードを、どちらのチームが勝つかを当てる博打ですね。丁半博打と同じで、引き分けはありません。

── だって、野球だったら引き分けもあるじゃないですか?

堂本  試合に引き分けはあっても、野球賭博に引き分けはありません。その時のチーム状況で、強い方から弱い方にハンディキャップを与えるんです。たとえば、巨人阪神戦に張るとしますよね。われわれの上にはハンデ師というのがいて、そこからハンディを報せてもらって始めて野球賭博が開帳されます。

ハンデ師はチーム事情を徹底的に調べ上げ、適切なハンディキャップを算出する。
チーム防御率や、チーム打率に打点。また先発選手の調子の好不調から、先発ピッチャーと相手打線の相性。選手の体調の良し悪しから、球場との相性までも加味するという。

堂本 現在のチーム事情で、ハンデ師が巨人から1、5を阪神に……とでたら、試合で巨人が2対1で勝ったとしても、賭博上では2対2・5で阪神の勝ちとなるわけです。逆に3対1で巨人が勝つと3対2・5で巨人の勝ちとなるわけです。

ハンデ師は、元プロ野球選手か野球関係者など、野球に精通した人だろうと噂されている。
また、ハンディキャップは多くても少なくてもいけない。野球賭博をおもしろくするのもツマらなくするのも、ハンデ師がつけるハンディのさじ加減一つで決まるのである。

── それで、試合にかける金額はどのぐらいになるのですか?

堂本 人によって違いますね。最低は1万円から、青天井(=上限なし)まで……でも、そこは賭けるお客さんの器量次第ですよ。

── 堂本さんの賭博で、一番大きく張られた試合はどのくらいですか。

堂本 1試合に200万円賭けた豪傑がいましたね。それに、ソープの経営者や自営業者などは1試合100万とか平気で張ってきますし、そういうダンべ(=旦那衆)が多いときは1試合合計で4500万円ぐらい張ってきたかな。

しかし、4500万円すべてが利益というわけではない。
野球賭博では、張ってきた金額をIN(イン)といい、支払うべき金額とOUT(アウト)と呼ぶ。野球賭博では、勝ったOUT側から10%のテラ銭(=場代)をとる。100万円勝って受けとるカネは90万円、負けて支払うカネは100万円。差額が胴元の利益である。
だから、この日の堂本氏は勝ち側に2250万円から1割の225万円を引いた金額2025万円を支払い、負け側から2250万円を集金し、225万円もの金額が残ったことになる。

── じゃあ、胴元は絶対に損をしないじゃないですか。

堂本 いや、そうでもないですよ。たとえば、負けてる人が取り返そうと思って賭け金が上がっていくと、ちょっとこれを張らせてやろうかな、とか慈悲の心を持つでしょ。でも、負け分の金額以上のカネを1試合だけ張られて、勝ったらやめてしまう。それじゃ、困るんですよ。最低、3試合は張ってもらわないと、こっちが一方的に負けてしまう。ウチも張らせてあげたんだから……。

勝ち負け2つの選択肢しかない野球賭博。負けた金額の倍の金額を張り続け、勝った時点でやめれば絶対に負けることはない。負けているだけに熱くなり、野球賭博の盲点を突いて張ってくる客もいる。

── タチの悪い客もいるわけですね。

堂本 だから野球賭博を開帳している人は、信頼関係がある人しか張らせませんよ。それに知らない人間に張らせると、負けがこむとチンコロ(=密告)するヤツもいますからね。だから、地元の社長や自営の人などの地位のある方が多い。あるいは、サラリーマンでも家などの資産を持ってる方。ヤクザ同士なら、代紋を保証にヤクザも客になるケースもあります。

賭博は、開帳した者も客となった者も罰せられる。

地元の社長や自営業者、資産家のサラリーマンにヤクザ。彼らにとって博打は、手慰(てなぐさ)みであり、密かな楽しみでもある。 賭場が摘発されると、一番困るのは客自身なのだ。

それだけに常連は、警察などにチンコロすることはない。

── そんな顧客を、一番多いときでどれくらい抱えていたのでしょう。

堂本 だいたい20人くらいかな。質の悪い客を多く持っていても仕方がない。どれくらい質のいい客を持っているかですよ。良質の客ばかりだと3日間の3連戦で、INが3000万ぐらいあったかな。

── すべて口頭でのやり取りですよね? 負けてても、オレは勝った方に張ったなどと居直られませんか。

堂本 だから、ミスがないように全部録音してありますよ。1日最高6試合開催される、野球賭博の事務所はあわただしい。だって、試合開始直前にハンデ師から、当日行われる全試合のハンディキャップが知らされるのですから。

聞き間違えたでは、すまされない博徒の世界。たった1つのミスが、信用を著しく傷つけることになる。信用がなくなれば、顧客は去っていく。賭博の世界は厳しい世界なのだ。(つづく)

[文]影野臣直+[プロデュース]小林俊之

◎元胴元が語る──野球賭博〈闇〉のからくり《1》
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