隣のクルド人──「国を持たぬ民」が日本社会で暮らすということ

10月25日(日)の早朝6時50分頃、東京渋谷区のトルコ大使館前で、11月1日のトルコ総選挙の在外投票に来た人たちの間で乱闘が起きた。時事通信によれば、乱闘は断続的に発生。鼻を骨折するなど7人が重軽傷を負い、制止に入った警察官2人も負傷した。トルコ人とクルド系トルコ人の対立とみられ、同署は公務執行妨害と傷害容疑で詳しい経緯を調べる。(2015年10月25日付時事通信)

◆激化するクルド人とトルコ人の軋轢

この乱闘事件は大手マスコミでも盛大に報道されたので事件自体はご存知の方が多いだろうが、「いったいどうしてあんな騒動になったんだ?」とその理由や背景については、消化不十分な思いを抱いておられる方が多いのではないだろうか。

機動隊まで出動した、この派手な乱闘を単純化して解説すれば、トルコ国籍を持つ人たちが在外投票に大使館を訪れたのだが、そこで「トルコ人」と「クルド系トルコ人」が衝突を起こしたのだ。

我々から見ると外見ではなかなか区別しにくいが、クルド人はトルコ国籍を持っていようと独自の言語・文化を保持する民族だ。トルコでは今年6月7日に実施された総選挙(総議席数550)で、与党「公正発展党」(AKP)が第一党の285議席は確保したものの、初めて獲得議席数が過半数を下回った。

一方、公認候補を初めて擁立したクルド人の民族政党である「国民民主主義党」(HDP)は得票率13%を得て80議席を確保している。合法政党の進出もさることながらクルド人とトルコ人の軋轢は激化するばかりだ。

◆3000万人のクルド人──世界最大の「国家を持たない民族」

トルコは親日国として知られている。原発事故後の日本と原子力協定を結ぶほど、日本と仲が良い。7800万人ほどの人口を抱えるこの国には多彩な民族と宗教が混在するが、これまで西アジアでは比較的「治安の安定した」国と評価され、日本から観光で訪れる人も数多い。だが、トルコには長年に渡り頭の痛い問題がある。それがクルド人への対応だ。

A collection of photographs by the famous photographer Pascal Sebah on the occasion of the universal exposition in Viena in 1873.

クルド人。世界でおそらく最も悲劇的な歴史を背負って来たこの「国家を持たない民族」は約3000万人がトルコ、イラン、イラク、シリアなどを中心に世界中に分散しながら生活をしている。近現代史を少し紐解けばこの民族の足跡は悲哀に満ちていることがわかる。歴史と言わずとも、現在だってトルコ、イラン、イラクなどでは露骨な弾圧が加えられている。

クルド人の念願は勿論クルド人国家の設立だ。そしてそれは過去短期間ではあるけども実現したことがあった。1946年1月現在のイラン、西アゼルバイジャン州マハーバードを首都として「クルディスタン共和国」が独立を宣言する。ソ連からの援助を受けていたとはいえ、カーズィー・ムハンマド(Qazi Muhammad)を大統領とする「クルディスタン共和国」樹立はこの民族悲願の達成であった。

しかし、イラン政府(ならびに国際社会)は独立宣言から1年も経たない同年12月15日に武力で「クルディスタン共和国」を打倒する。大統領カーズィー・ムハンマドはチャール・チュラ広場で公開絞首刑となり、以降クルド人はひっそりと狩猟を中心とした生活を強いられることとなる。

しかし、西アジア、アラブ各国に広がるこの民族は独立国家の設立を諦めたわけではない。イラン・イラク戦争中には双方が相手国に居住するクルド人に支援を与え内からの弱体化を試みたのを契機に、散発的な武装蜂起がイラク、イラン両国で何度か発生した。

しかし、両国政府は自国に在住するクルド人弾圧の手を緩めることはなかった。とくにイラクでは毒ガス兵器によるクルド人爆撃が大規模に幾度も行われた。確認されている最初の攻撃は1988年3月17日ハラブジャ地方のクルド人居住地域に多量の毒ガス(マスタードガス、ブタンガスなどの混合と見られる)が撃ち込まれ、3700人の死者が出た。

また91年の第一次湾岸戦争後には欧米が「フセイン政権打倒」をイラク国内の反体制勢力に呼びかけたことに呼応する形でイラク国内での少数派シーア派と同時にクルドは蜂起するが、この時またしてもフセイン政権は毒ガス爆撃をクルド人居住地域に対して行っている。

◆沸き起こる心の発揚を抑えない硬質な闘争心に満ちた群衆の姿

90年代後半、私は出張で数日、オランダに滞在した。アムステルダムの目的地に歩いて向かっていると石畳の上を早足で迫ってくる数百人の群衆、否正確にはデモ隊に遭遇した。彼らは背格好がオランダ人ではない。「ひょっとしてクルド人か」との予想は外れていなかった。偶然にも当時少数民族問題に興味を持ちクルド、タタール、チベット、東ティモール、バスクなどの情報を集めていたこともあり、突然目の前に現れたクルド人デモ隊には、鮮烈な衝撃を受けた。

デモ隊は英語で書かれた横断幕も複数持っていたが、叫んでいる言語はクルド語だ。だから、そこで何を叫んでいたのかを私は正確には理解していないけれども、前述のような歴史を知る者として、彼らの叫びと石畳を踏み鳴らす音響には震えを覚えた。

これが沸き起こる心の発揚を抑え切れない(抑えない)硬質な闘争心に満ちた群衆の姿だと、しばし私は彼らの発するエネルギーに黙して見入っていた。

国土を持たない(実質的に歴史上も持ったことのない)分散された民族。その悲しみを私自身がしっかりと共有できているなどとは、おこがましくて言えない。そんな背景を持った人々が東京で見せた露わな姿。

ただ、騒動があった、と片付けてしまうには重たすぎる命題を私たちは示された。独立への指向、民族自決の要求は不当なものだろうか。それが末端では小競り合いや殴り合いという形で現れようが、歴史と現実から目をそむけてはならない。解決策はあるのか。国連は何をやっている。それらをこの島国の住人が少しでも知ろうとするところかしか、話ははじまらないだろう。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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新聞紙面がネットに勝っている二、三の事柄──衰退していく読者の想像力

新聞の購読者数が減っている。前年度比で2015年前半は朝日、読売、毎日、日経、産経全ての全国紙が部数を減らしている。なかでも下落幅が大きいのは朝日で前年比4%以上の落ち込みで公称発行部数は679万部まで落ち込んだ。「1千万部発行」を売り物にしていた読売も前年比1.51%で1千万部を割り込み、毎日0.61%、日経0.51%、産経0.04%それぞれ部数を減らしている。(2015年08月19日付ガベージニュース)

朝日の部数減が際立っているが、これには昨年の「吉田調書」問題が大きく関係しているだろう。読売、産経や、週刊誌、はては政治家までが「弾圧」を加えてた「吉田調書」問題。朝日は謝罪などする必要は毛頭なかったのに筋違いの謝罪をしてしまった。その反響1月あたり5万部に相当する読者離れを引き起こしたのであろう。

しかし朝日以外の他の全国紙も全て部数を減らしている。この現象はどう考えればよいのだろうか。

◆20代~40代世帯のほぼ半数が新聞購読経験なし

解かりやすく一番明確な原因は、多くの人が「新聞を読まなくなった」ことだ。殊に20代-40代の所帯では新聞の宅配を一切経験したことがない、という人が半数近くに上る。必要な情報はインターネットで得るので新聞はほとんど読まないとう人も少なくなくなってきた。

また、紙ではなく電子版の普及が部数減につながっているという分析もある。電子版の販売部数を公表しているのは日経だけだ。それによると「朝刊(紙)販売数273万2989部、朝刊(電子)販売数39万0819部」だ。朝刊購読者のうち紙と電子の併読が18万4194部で、電子単独購読者が20万6697部となっている。

つまり従来の紙誌面の7%は電子誌面に取り込めているという計算になる。ただし全国紙の中でも日経は経済に重点を置く、やや特殊な新聞だから購読者総も一般家庭というよりは、ビジネスパースンが多く、彼らが出勤途中、タブレットなどで日経誌面をチェックする姿は想像に難くない。

◆紙面を広げられないから具合が悪い

一方、他の全国紙はどうだろうか。「紙ではなくなった新聞」に私は少なからず違和感を覚えるが、これから各紙とも電子化への移行が進むのだろうか。少なくとも電子化により部数減を食い止めたい、という新聞社の意向は明確のようだ。例えば朝日のホームページで記事を読んでいると記事の半分ほどで「無料登録をして先を読む」、「ログインして全文を読む」の選択肢が表示され、何もしなければそこから先は読めない。

朝日の商売下手なところは、ある程度以上の長さの記事になると、このメッセージをどの記事にも乱用しているところだ。インターネットで記事を読もうとした人は「ケチな奴だな」と感じることだろう。

読売のサイトは朝日とは異なり一応記事の要旨はまとまった所まで掲載されていて、その後に「読売プレミアムに登録済の方、記事の続きへ」と「未登録の方、新規登録へ」のタグが表示される。

これまで新聞を購読して来なかった人たちは、このようなタグが現れたら、おそらくその関連文字を検索エンジンに入力をして、他の情報源から知りたいことの内容を確認するのではないだろうか。

長年、何があろうと新聞を朝、夕ななめ読みする習慣のついている私にとって、新聞は紙でないと具合が悪い。なぜなら電子版では新聞を広げられないからだ。私にとって新聞は「何が書いてあるか」が勿論興味の対象ではあるが「何が書かれていないか」、「この小さな記事に隠れた意味は何か」を察知するのに欠かすことの出来ない情報源だ。

◆網羅的な情報に接する体験を失いつつある若者たち

そして新聞には、興味のない記事も多数掲載されている。それに無理から目を通すことが、私には貴重な情報インプットの源泉となっている。紙の新聞であれば仕方なく1頁づつめくって読んでいくけれども、電子版になれば興味のない記事には目もくれないだろう。新聞でなくたってインターネット上の情報の取捨選択には既にそのような習い性が多くの方の身に付いていることだろう。

今後新聞は衰退してゆくだろう。新聞的な情報の価値が下がったわけではなく、網羅的な情報に接することの貴重さを経験したことのない若年層が増加するからだ。スマートフォンやタブレットから拾える情報は無限大だろうが、新聞紙を広げてそこに「書かれていない」ことから世界を想像することも、それはそれで貴重な作業だとは思うが、時代遅れなのだろうか。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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2020年にも到来する自動運転車実用化──最大障害は技術力ではなく法規制

現在、日米欧で「自動運転車」の開発が進んでいる。本稿では各メーカーの進展状況と、「自動運転車」が普及した場合、どのような変化が起きるかを述べた。変化は国々の状況により、大きく違い、地方と都市部など、国が同じでも地域によってる差が出ると予測される。

実運動の障害は、技術的な問題よりも、運転車、社会のメンタリティ、法的整備である事が判った。

以前より、「自動運転車」の開発は漏れ伝えられている状況であった。筆者も20年ほど前、本田技研の開発者より非公式ながら「あんなものは2、3年あればできる。問題なのは自動車よりインフラの整備だ」と聞いた。

今年になって突然、「自動運転車」の開発状況が公開されるようになった。今年6月に米Googleはハンドルもブレーキもない完全自動運転車「prototype」の公道走行試験を行うと発表。追いかけるようにApple社も二月にウォールストリートジャーナルが開発を報道し、8月にサンフランシスコ郊外の米軍試験基地跡地を取得し、舗装道路総延長32キロのテストコースでの疑似公道走行試験を開始。9月に入るとすぐに米当局に対して公道試験の許可を求めた。

日本メーカーも負けていない。トヨタ、日産、ホンダが自動走行車の開発を発表。10月にはトヨタが「自動運転車」が首都高を試験走行。自動車線変更に成功したと発表した。

一方、ヨーロッパではすでにボルボ、メルセデスが高速道路上に限り自動運転を実用化できるタイプを発表している。

◆自動運転車実用化で始まる生活革命

従来、自動車は二点間を移動するだけの道具であった。運転車や同乗者は移動のために車に乗り込む。同乗者であれば移動の間に寝ていようが、食事していようが好きにできたが、自動運転車では運転者も同乗者と同じように過ごす事ができる。いわば、バスや、電車に乗っているようなものだ。

新幹線などで顕著なようにパソコンで仕事をしたり、ビールを傾けているビジネスマンもみられるように、自動運転車もビジネスの場となる。しかも、電車やバスが公共施設的性質が強いのに対して、自動運転車は個人的スペース性質が強くなる。
自動運転車が実用化され、もっとも大きな影響を受けるのはアメリカだろう。良く言われるようにアメリカは自動車社会であり、通勤の主力は自動車である。若年者も16歳になれば免許を取得して自分で学校に通う。現行型であれば移動の間は運転に集中する必要があるが、自動運転であれば朝の会議の準備をするか、やり残しの宿題と格闘するかも知れない。

より大きな恩恵を被るのが車上生活者である。日本でもアメリカでも貧困層の路上生活者が問題となっているが、アメリカの場合、路上生活の前に「車上生活者」が存在する。アメリカの車上生活者はトレーラトラックに住む。トレーラーの中にバス、トイレを完備して、夫婦生活も車上で行う。地方であればこうした車を受け入れる余地はあるし、都市部でも車上生活者のために駐車場が存在する。車上生活者はなんらかの雇用が発生すれば、通勤に楽な場所に移動してそこから職場に通う。砂漠の真ん中のロードサイドショップであれば交通費はかからない。居住費がかからず、生活費も安いから、正規雇用にこだわる必要もない。

完全自動運転が実現すれば日本でも同じような状況が発生する可能性がある。地方であれば自動車を止める場所にこと欠かない。現行の乗用車の中で寝泊まりするのは苦痛が大きいが、夜眠るためのフルフラットのシートを開発するのは用意だ。そもそも、ハンドルやブレーキといった突起物もない。

現代の東京でもコインパーキングが発達して「1泊800円」などのケースがある。ここに自動車を止めて1ヶ月生活しても2万5千円程度にしかならない。ワンルームの家賃に加えて自動車を維持する価格と、自動車一台だけ維持する価格を比較すればどちらが優位か明白である。

小型乗用車でも単身者、あるいは夫婦が暮らすのに不都合はない。子連れでもワンボックス車で十分である。シャワーを浴びたければ漫画喫茶に行くか、自動車で温泉に向えばいい。

長距離出張も変わるだろう。東京大阪であれば新幹線往復一日というのも珍しくないが、「自動運転車」で夜、出発して、朝大阪について、仕事を済ませそのまま帰ってくる。新幹線より遙かに安い。社員にしても往復の自動車の中で飲もうが好きな映画を見ようが、場合によっては女性を同伴させてもなんら差し支えはないのだ。

自動運転車の発達により、物流も変化するだろう。タクシーやトラックから運転手がなくなる。Googleやappleなどのコンピュータ会社が先導している所から、車体やエンジンをOEM供給する自動車会社にも需要が発生するだろう。

◆2020年導入で足並みが揃えた日米自動車メーカー

現時点の発表だと、日米の自動車メーカーの市場投入が2020年と足並みが揃っている。他社メーカーに後れを取らない、かつ、ライバルメーカーの出方を見るため近い年代となったのだろう。

発売時期とはちがい、各社とも仕様はかなりの違いが見られる。現代のヨーロッパ車は高速道路上での運転を狙い、通常の運転装置に自動運転モードがある。ヨーロッパではドイツのアウトバーンで知られるように、高速道路での性能が重視されるためだ。五年後にどの程度まで技術力をアップさせるか興味深い。

トヨタは「自動車には運転する楽しみがある」という社是があり、手動運転機構を外すとは思えない。トヨタもすでに公道実験を成功させているところからかなりの発達が予期できる。

アメリカも高速道路は発達しているが、ヨーロッパのような高速移動は要求されない。近場へ向かう足と考えられれている。街、市街地と呼んでもよほどの大都市でない限りポツポツと郊外型店舗が並んでいる程度である。

Googleは市街地における完全自動走行を目的として、ハンドルもブレーキもない。ただし非常事態に備えて「緊急停止スイッチ」があるという。その場で完全に停止するのか、なんらかの判断で路肩に停止するかのは公表されていない。ただし、開発名とされているprototype(試験機)からして、実用型は相当の変化があると見られる。発表されている動画は日本製の軽自動車か、ベンツのスマートを思わせる小型車だ。

秘密主義のappleはコンセプト画像を発表しただけで詳細は不明だが、試験規模から考えて市街地での完全自動走行を狙っているようだ。

もちろん、最終的には、完全自動走行車が実現するだろう。技術的には問題はない。かつてホンダが「インフラの問題」と言ったように、GPSの精度も上がり数十センチの単位で自分の位置を特定できる。グーグルマップと重ね合わせれば、自分の家の前まで誘導できる。トヨタはすでに「プリウス」で「自動車庫入れ装置」を実用化した。車庫入れが終わると人間はスイッチを切ってドアを開けるだけである。

しかし、公道を自動走行している自動車を見て歩行者や、他のドライバーはどう反応するだろうか。運転手の居ないバスに乗りたがるだろうか? 自動走行車が死亡事故を起こしたら、責任は誰が取るのか? ドライバーなのか、メーカーなのか。その事故が飛び込み自殺の様な恣意的な場合はどうするのか。

法がまったくといって良いほど対応できていない。まだ、存在しない物に対応しろというのが無理であるのは当然だが、かなり妙な事態が発生するのは予期できる。

問題となるのは事故だけではない。交通規制に対応させる必要がある。あまり聞かない違反であるが「歩行者通行妨害」という交通違反がある。歩行者が信号のない道路を渡ろうと横断歩道のそばに立っている場合、自動車は一時停止して歩行者を渡らせなければならない。現実にはあまり守られないが、もし歩行者が立つ横断歩道で自動運転車がいちいち、停止していたら搭乗者は怒り狂うだろう。かといって、「歩行者通行妨害」を無視するプログラムを自動運転車に組み込むわけにはいかない。

1969年に高速道路が完成して直後、1キロでも速度超過すれば違反で、速度超過は5キロ刻みで罰則が違った。最大速度30キロ、40キロの生活道路に準じた規定である。

現在でも高速道路の速度超過の違反はあるが、30キロまでは一律の罰則であり、事実上50キロ以上でないと取り締まりはない。高速道路の完成から法が追いつくのに、50年かかっているのである。

日本に最初に登場するのはトヨタ型の自動運転モードつきの自動車となるだろう。しかし、いつかは完全自動運転車が入ってくる。

導入に備えて法を整備する必要がある。

もちろん、国土交通省が「導入を認めない」という恐れもあるが、日本国内の少子高齢化に逆行する動きとなるし、数少ない好況産業である自動車を圧迫しかねない。完全自動運転車導入の最大の障害は法規制なのだ。

(鈴木雅久)

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愚鈍なファシスト橋下徹の妄動になぜ川田龍平はすり寄り、合流したのか?

森田実『「橋下徹」ニヒリズムの研究』(2012年7月東洋経済新報社)

あの産経新聞でさえ「維新分裂『中間派』離反相次ぐ」(10月23日付)と、こんな風に報じている。

分裂状態に陥っている維新の党で10月23日、またも「中間派」の離反が相次いだ。下地幹郎元郵政民営化担当相と儀間光男参院議員は沖縄県浦添市で記者会見し、橋下徹大阪市長の新党に参加する意向を表明。吉田豊史衆院議員は離党届を出し、無所属で活動する考えを示した。(中略)

一方、松野頼久代表ら残留組は23日、代表選挙管理委員会の初会合を開き、11月末に代表選を実施する方針を確認した。「臨時党大会」は無効としており、新党組が総務省に解党届を出す動きなどがあれば、法的手段に訴える方針だ。

これに対し、橋下氏は23日、市役所で記者団に、12月18日の市長任期満了後に弁護士として新党に関与していく考えを表明。正当性を争う法廷闘争を見据え「バンバン刑事告訴していく」と意欲を示した。
※維新分裂「中間派」離反相次ぐ 新党組は24日臨時党大会 橋下氏は「引退」後も関与「バンバン訴える」(10月23日付産経新聞)

もういい加減に勘弁してくれ。本コラムであらかじめ予想しておいた通り、橋下は「政界引退」宣言を撤回して、これからも「自己顕示欲達成のためのみの迷惑行動」を止めるつもりはないと表明した。

◆会社を辞めた役員が「取締役会を開く」などと発言したら笑いもの

それにしてもこの男とその取り巻き、自分が「離党」したくせに、「離党」した党の「党大会」を開くと正気で発言しているのだから、もうとりつくしまもない。仮にあなたが某会社の役員や取締役であっても、その会社を辞めてから、「取締役会を開く」と発言したら、世間からは笑いものにされるだけだろう。

さらに辞職した後に、その会社の公印を持っていたらどうなるだろうか。10月24日現在「維新」は脱党組(橋下派)に党の通帳と印鑑を押さえられていて、政党助成金の引き出しが出来ない状態だという。

そもそも、支持もしていない政党に税金がつぎ込まれる「政党助成金」制度に私は絶対反対の立場だが、それにしても橋下のやりくちは、あまりにも低俗過ぎないか。私は法律の専門家ではないけれども、先に挙げた退職した会社員の例をお考えいただければ、奴らの行動が如何に常軌を逸しているかは多くの方に理解いただけよう。

◆馬鹿げ過ぎた現象を図る尺度は「ファシズム」を感知するセンス

「維新」に参加した議員連中は今頃全員、後悔していることだろう。まだこの先も橋下と行動を共にする、という「玉砕主義者」もいるらしいが、松野頼久をはじめとする、民主党離党後に「維新」に加わった連中や「結いの党」なる、短命にして意味不明の党経由で合流した連中も同様である。

馬鹿げ過ぎた現象ではあるけれども、橋下に対する評価や態度の示し方は、この時代にあって「ファシズム」を感知するセンスを持ち合わせているか否かを図る尺度にはなる。

橋下が大阪知事選に出馬する、という噂が流れた時点から「これは危ないで、いよいよこんな奴までがしゃしゃり出て来よる。こいつは石原慎太郎よりたち悪いで」と直感的に断ずることが出来た人はどの程度いただろうか。少数派ではあったけれども橋下の危険性と悪辣さに当初から警告を鳴らしていた人たちは確かに存在した。

◆大阪弁護士会から「懲戒」対象とされ、業務停止2か月の処分を受けたという事実は残る

一方、私の周辺ではこの人が、と思われるような人の口から「最初は見どころがある奴やと思ったのに」だとか「橋下にも言い分はあったんちゃうか」と批判の矛先がどうにも鈍い方が意外に多い。

何故なのだろうか。私は一度として奴に「これまでと違う何か優れたもの」を見い出したことはない。「この時代にあっては最も危険かつ象徴的な人物」と見立てていた。この評価の違いはテレビを視聴するか否かが大きく関わっているのかもしれない。私は全くといってよいほどテレビを見ない。だから「ハシモト」の猿芝居を目にしたり、パフォーマンスを芸能人がフォーローし、あたかも「一人前」の意見を述べているような場面に接したことはなかった。

ただひたすら新聞やネットで橋下の言動には呆れるばかり。とくに山口県光市の母子殺害事件を担当した弁護団をテレビで糾弾し、あげく懲戒請求を呼びかけるという暴挙には激烈な怒りを覚えた。そして橋下はテレビで弁護団の懲戒を呼び掛けておきながら、みずからは「それに割く時間はないと判断した」と言い逃れにもならない弁明をした。結局この行為で逆に橋下自身が大阪弁護士会から「懲戒」の対象とされ、2010年業務停止2か月の処分を受けている。充分、奴のたち悪さは理解できた。

◆川田龍平は橋下の過去を知っていながらなぜ橋下にすり寄り、合流したのか?

しかし、その後も橋下の暴走は止まらなかった。今でも止まらない。そこで、ここでは私見ではなく、橋下に合流あるいは伴走した人間を振り返る。もし可能ならなぜあなたは橋下期待を抱いたのか、あるいはすり寄ったのか。聞きたい人物は山ほどいるけれども、敢えて1人選ぶとすれば、私は川田龍平に聞いてみたい。

無所属東京選挙区から出馬した時の川田龍平にだ。その後渡辺喜美の「みんなの党」に入党するは、果ては「結いの党」を経て橋下の軍門に下った川田君、一体君は橋下のどこに惹かれ、そしてなぜ橋下の過去を知っていながらなぜ奴に合流したのだ。

無所属で出馬した川田君を支え当選させたのは、そのほとんどが現在であれば安倍や橋下を一番嫌う人たちだった(先の参議院で山本太郎を支持した人たちに重なるだろう)。これは間違いない。当時の著名推薦人の名前を見たって明らかだ、永六輔、坂本龍一、滝田栄などが川田の推薦に名を連ねていた。

政治家などしょせんそんなもんだ、ということのみを示すために君は国会議員になったのか。川田君。橋下を一度でも担いだものとして、この問には回答する義務が川田君にはある。どうなんだ?

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2020年、亡国の東京五輪──近代五輪は一貫して「政争と利権の祭典」だった

エンブレム盗作問題では、下村前文科大臣だけは首を飛ばされた。代々木の国立競技場は改修すれば使えるという声も多い中、「もう間に合わない」とあっという間に取り壊された。本当に間に合わなかったのであれば、もう2020年東京オリンピックは開催できないのではないか。

「間に合わない」のではなく、「取り壊して建てなおさないと、ゼネコンや我々が潤わない」が連中の本音だったのだ。

端から嘘でたらめの連発と金を積んで、無理矢理誘致したのが2020年東京オリンピックだという事は、この期に及んでもまだエンブレムが仕切り直され、メインスタジアムとされた競技場建設の方向性すら定まらない事実により誰の目にも明らかにされた。自民党の中からでさえ「メインスタジアム建設は不要じゃないか」という声まで出てきた。

なにが「おもてなし」だ。「福島第一原発事故の汚染は完全にブロックされていて、過去も現在も未来も健康被害は一切生じません」と空前の空手形を切った安倍の軽舌にこの島国の住民はもう慣れてしまっているけれども、犯罪的ですらあるこの虚言に疑問を呈さず「2020年東京」に票を投じたIOC理事の連中の頭の中はどうなっているのだろうか。

◆その崇高な理念とは一度も相いれることがなかった「政争・利権の祭典」

などと、泥棒に講釈をたれるような無駄をいくら語りかけても無駄であることは、先刻承知ではある。「オリンピックの精神」という一見崇高に聞こえる理念など、近代オリンピックが復活して以来単なる「戯言」に過ぎなかったし、残念ながら競技者の頂点を目指したいという純粋な思いと一度も相いれることはなかった。

まだ、世界が東西(社会主義陣営、資本主義陣営)に分かれていた時代、1980年に開催されたモスクワオリンピックを、米国カーター政権の呼びかけにより日本、韓国、西ドイツ、パキスタンなどはボイコットした。ソ連のアフガン侵攻がその理由だった。次いで1984年に開催されたロス・アンジェルスオリンピックでは、その趣意返しで東側の国々が参加しなかった。

モスクワオリンピックを日本もボイコットすることが確定しそうな時期に主要選手による政府への「抗議」が行われた。金メダル確実と目された柔道の山下泰裕や、レスリングの高田裕司などが中心となり、「政治とスポーツを分けてくれ。私たちの競技の機会を奪わないでくれ」と競技者たちは訴えた。とくに高田の涙ながらの訴えは多くの反響を呼んだが、某良心的全国紙は朝刊のコラムで「スポーツ選手が涙を見せるな」と的外れも甚だしい、政府の提灯持ち記事を書いた。

このようにオリンピックは競技者にとっては最高峰の舞台であっても、それを利用しようとする連中にとっては全く「神聖」という言葉を使うのもおこがましい「政争及び利権の祭典」である。

誘致合戦にアホほどの金を使い、IOC委員や理事の票を買い集め、大手広告代理店が裏で段取りの全てを仕切る。競技者の熱意と全く相いれない、どす黒いそろばん勘定だけが支配するのがオリンピックだ。2020年東京のドタバタを見るまでもなく、1998年開催の長野オリンピックにおける不正経理問題を見てもそれは明らかだ。当時JOC(日本オリンピック委員会)会長は西武の堤義明だったが、多額の赤字を出した長野オリンピックの経理処理に監査が入ると、何と関係書類が全て焼却もしくは紛失していたという、常識的には考えられない杜撰な事件を起こしている。

堤義明1980年代に「世界一の富豪」と米国雑誌「Forbes」で取り上げられるなど、バブル時代を謳歌したが、その後2005年に証券取引法違反で起訴され有罪が確定している。こんな人物であるのに堤は2013年からJOCの最高顧問に就任している。JOCも真っ黒だという事を如実に示している。西武グループも凋落し、西武グループの中核をなしたスーパーマーケット「西友」も米国「ウォルマート」の傘下に入り、2009年以降は売上高を官報に掲載しないほどの落ち込みぶりだ。

これらの事実が示しているのは、オリンピックに関して広告代理店が打ち上げる、綺麗ごとを並べたキャッチコピーなどは全てが虚構であるということである。金儲けと自己の利益にしか興味のない政治家や財界人が、あれこれ無い知恵を絞り「是が非でも2020年東京で」と悪あがきをしているに過ぎない。

ある若者が言った。「皆さんの中には東京オリンピックを楽しみにしている人がいると思います。でも、悪いけど順番が違う。まずは東北の被災者が全員救済されることの方が先ではないですか」と。

まったくもって同感だ。

最も簡単にして、国民に利益をもたらすのは、今からでも遅くない。「東京オリンピック」などという馬鹿げた巨大公共事業を返上することだ。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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日本より先に「一億総活躍」時代を迎えた中国「中間層」は共産党を信じているか?

スイスの金融グループ「クレディ・スイス」は10月14日、資産額で算定した場合、中国の「中間層」が世界最大の規模に達し、米国を上回る水準で成長しているとの調査結果を発表した。(2015年10月15日付CNN Money)

◆「中間層」だけですでに「一億総活躍」の中国

これによると、資産などが5万ドル(約590万円)から50万ドルにある中国の中間層は約1億900万人。2000年以降を見た場合、米国と比べ2倍の規模で中間層が拡大した。同グループは中間層と資産額を関連させた定義について、失業率などに影響される一時的な変化を避けるため収入額より重視したとしている。

クレディ・スイスによると、中国人の成人の資産額は2000年以降、1人当たり約2万2500ドルと4倍に増加。中国の総人口は現在、世界全体の約5分の1を占め、国際的な資産総額の比率は約10%とされる。また、同国の百万長者の数は2020年までに74%激増し、計230万人に到達するとも予測した。

中国の総人口は13億人余りとされているが、そのうち1億人以上が資産5万~50万ドルの「中間層」を形成している。恐るべき急激な資産の成長というしかない。大雑把に日本の10倍の人口でその1割が「中間層」、しかもそれは中国基準の「中間層」ではなくて、国際基準の「中間層」なのだ。

◆その実態は「中間層」ではなく「猛烈な富裕層」の台頭?

まだ中国国民が人民服を身にまとっていた頃、中国好きな書道の教師は「中国の銀行に100万円持って行けば潰せます」と物価の違いを話してくれた。あれはもう四半世紀以上前の話ではあるけれども、実態的に日本への出稼ぎ目的の中国人留学生に何百人も接した経験からも隔世の感は否めない。

でも、冷静に考えれば日本だって戦後30年、つまり1975年には「1億総中流社会」と呼ばれる高度成長期を迎えていたわけで、1978年に鄧小平が「改革開放路線」を打ち出し、実質的な資本主義化を進めてからの時間を考えれば、中国の経済成長に要した時間は驚嘆には値しないのかもしれない。

しかし、急激な経済成長には人件費が安く、輸出が伸び内需も右肩上がりという基本的条件が必須である。これだけの分厚い「中間層」が誕生したことは、すなはち中国の人件費が過去ほど安くはないことを意味するのであり、実際に「世界の工場」と称された製造業の工場群もマレーシアやベトナム、ビルマなどへの移転が進んでいる。人件費に限れば、製造業にとって中国で生産する「うまみ」は既に過去のものになったといっても言い過ぎではないだろう。

さらに、膨大な「中間層」と表現されるけれども、実態は「猛烈な富裕層」の誕生と考えた方がよいだろう。当然その陰には徹底して搾取の対象となる固定的貧困層の存在があり、そのしわ寄せはおおよそ内陸部や漢人以外の民族への押し付けという形で顕在化を示している。経済成長が民族問題を鎮静化することは出来ない。一部漢人とともに成長の恵沢にあずかっている人もいないわけではないが、特に新疆ウイグルや、チベット自治区での反政府行動は経済成長とともに沈静化する動きを見せるどころか、むしろ激化している。

もとより、実質的には独立を指向するウイグルやチベットでは長い抵抗の歴史があった。中国政府はこのような地区に「改革開放」後、積極的に投資を進め、また漢人の移住も促進し民族問題封じこめを図ってきた。しかし現場では観光業を中心とする一定の経済成長が見られたものの、同時に伝統文化の破壊が進行し、むしろ反政府意識は精鋭化してゆく。

日本では散発的に報道される中国国内の「暴動」、や「反政府行動」は腐敗や汚職に苦言を呈する都市部の市民の抵抗だけではなく、中国が解決することの出来ない「民族問題」を原因とするものが少なくない。そして日本で報道される「民族問題」関連の事件は発生している事件のごく一部である。

情報通信技術の発達により、反政府勢力も様々な情報発信を行うことが出来るようになった。中国国内からは勿論、国外の支援勢力を通じて現場で起こっている事件をネット上で探すことが出来る。

◆姿からでは日本人とまったく区別がつかない中国人観光客の急増

東京、大阪などの大都市や京都などの観光地を歩いていると、昨年から外国人旅行者が増えていることが実感される。それは外見から見取れる外国人旅行者の姿であって、今日中国人旅行者は黙っていれば、姿だけからは日本人と区別がつかない人が相当増えている。

まだ、中国からの海外旅行が団体でしか認められていない頃、中国からの「お客様」はたいそう賑やかだったので、直ぐにその存在に気がついたものだ。また、服装や振る舞いも日本人のそれとはかなり異なっていたからどなたでも中国からの旅行者には簡単に気が付いた。今は違う。旅慣れたためか、あるいは生活習慣にも変化があったのだろうか、往時のように大声で会話する中国人旅行者はほとんど見当たらなくなった。

過日東京に出張した際に、詳しく調べていたのに訪問先への道が分からなくなり、自動販売機で飲料を購入していた男性に道を尋ねようと声をかけたら、中国語が返ってきた。「ごめんなさい」といって退散したが、私の目がボケたのか、彼らの振舞いが変化したのか、こんな失態を演じるとは思いもしなかった。

◆急激な成長は必ず矛盾を包含する

冒頭紹介したCNNが伝える通り「中間層」の規模は米国の2倍規模だそうだ。1億人以上が「中間層」なのだから日本の総人口くらい「中間層」が中国には存在するというわけだ。

ただし、急激な成長は必ず矛盾を包含する。成長が急激であればあるほどその矛盾も大きい。日本の「高度成長」が公害や差別などを顕在化させたように、中国の経済成長も必ず大きな矛盾を近く露呈することになるだろう。明らかな形で現れるのは成長率低下による急激な不況だ。年率8%以上の成長を続けてきた中国経済は明らかな失速局面にあるので2015年度は7%台を維持するのが精一杯だろう(水増し分を除けば実態はさらに低い可能性もある)。

そして、本来社会主義や共産主義の国にあるはずのない株式市場の暴落が止まらない。上海では上場銘柄の半数以上が取引停止に陥っており、取引が続く銘柄も続落に歯止めがかかる気配はない。(私は20年ほど前から中国を社会主義、共産主義の国とは看做していない。名前だけ「共産党」という政党が一党独裁する「帝国主義国」だと考えている)

日本のバブルは「土地本位制」への信仰が崩れ去ったことに端を発したが、中国のバブル崩壊は幻想である中国共産党支配の継続が心理的に崩れ始めた時、決定的となるだろう。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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アフガニスタンの「ベトナム化」を決定づけたオバマ米大統領の無法

オバマ米大統領は10月15日、アフガニスタン駐留米軍について、当初の予定を延長して2017年以降も5500人を継続駐留させる方針を発表した。大統領は2017年1月の退任までの完全撤退を目指していたが、断念した。シリアでの過激派組織「イスラム国」(IS)戦略に続く過激派対策の大幅修正で、オバマ政権の対テロ戦略が大きく揺らいでいる。

オバマ氏は「アフガン軍はまだ十分強くない。アフガンをテロリストたちが我々の国を再び攻撃するための安全な隠れ家にするわけにはいかない」と述べ、米軍によるアフガン軍の訓練と対テロ対策の継続を強調した。

米軍は旧支配勢力タリバンと戦うアフガン軍の訓練や作戦指導などの任務で9800人を駐留させている。オバマ政権は駐留規模を漸減させ、2016年末までに米大使館警備要員約1000人を除いて撤退させる方針だった。(2015年10月15日付毎日新聞

◆パキスタンでは米軍が人を殺しても犯罪にならない?

米国にとってアフガニスタンが「第二のベトナム」となることが決定的となった。「テロとの戦い」を掲げて、非道極まる攻撃を仕掛け、無数の市民を虐殺したアフガン攻撃。それに次いで「大量破壊兵器保持疑惑」により、体制を転覆させられたイラク。アフガニスタンは「9・11」の主犯とされるウサマ・ビン・ラディン氏を匿っているという言いがかりで攻撃を受けたのだが、2011年5月ウサマ・ビン・ラディン氏が米軍によって殺害されたとされる場所はパキスタンだった。

パキスタンで米軍が人を殺して犯罪に該当しないのか。3・11後の混乱した時期とはいえ、この単純な疑問が当時どれほどこの島国の中で呈されたことだろう。

報道にある通り、米国はアフガニスタンからは早々に撤退し、イラク再建(という名のイラク石油利権の囲い込み)に専念する予定だった。しかしアフガニスタン国内ではかつて政権を担ったタリバンが復活し、実効支配地域を広めている。アフガニスタンには切り立った山岳部が多く、首都カブールは東京と同じ北緯35度だが標高は1800mを超える。最高峰ノシャック山の標高は7485mにも及ぶ。国土のほとんどは乾燥し、やせた土地で平均年齢は世界で2番目に低い48歳だ。

歴史的に外国からの支配侵略を幾度も受けたこの国は、しかしながら旧ソ連の軍事侵攻を跳ね除けた歴史も持つ。

◆米国はアフガニスタンで追い詰められる

ベトナム戦争当時、世界的に反戦運動が高まったが、まさかあれほど見事に米国が敗走すると予想できた人はどれほどいただろうか。もちろんベトナムの背後には武器の供給源となる中国やソ連があったのだけれども、戦闘員としてベトナム戦争を闘ったのはベトナム人(ベトナムは多民族国家だが主としてキン族)だけだった。

ベトナムと比べてもアフガニスタンの経済・自然状況は著しく厳しい。ジャングルもなければ年間降雨量も極端に少ない(アフガニスタンの年間降雨量は312m、日本の年間降雨量は1718m)。

このように厳しい土地に暮らす人々に散々な爆撃と最新兵器の「試し打ち」を食らわせた挙句、傀儡政権をでっち上げたが、それでも思い通りの支配を米国は打ち立てることが出来ていない。予定通りの撤退を実行すれば、またコントロールの出来ない「反米」政権誕生は自明だから、残留せざるを得ないというのが本音だ。つまり米国は追い詰められているのだ。

しかし、中東ではISという、新たな勢力が暴れまくっている。どの国からも承認される前に「イスラム国」と堂々と国家を名乗る根性は、一筋縄ではいかない背景を彷彿させて余りあるが、ISの拡大とシリア内戦にロシアが爆撃で加勢し、現地では米国とにらみ合いになっているとの情報もある。「自由シリア」勢力はアサドを撃つはずがISとの対戦も余儀なくされ、そこに米露両大国、さらにはイスラエルの思惑が交錯し、事態は混乱の極みだ。

◆米国戦争体制を切れ目なく支援する日本の「米国債」買い支え

もちろんイラク情勢だって落ち着いているはずがない。もとを辿れば米国が散々餌を与えて育てたのがサダムフセインを頂点とするバース党政権だった。イラン革命の後にはホメイニ打倒の為に巨額の資金をイラクに注入し「イラン・イラク戦争」を起こさせ、イランの弱体化を試みた。ウサマ・ビン・ラデイン氏も同様だ。サウジアラビア富豪一族出身の同氏はある時期まではCIAの資金援助を受けていたことが確認されている。

このように米国は世界のあちこちに傀儡の種を撒き、彼らが「反米」に転じるやその鎮圧に必死になっている。それは必然的に軍事費の増大を招き、米国債の増刷を余儀なくさせる結果へと帰結する。増刷された米国債の最大保有国は中国であり、日本は第2位だ。

日本は現在のところ紛争の現場に直接、足を踏み入れてはいない。けれども、既に「米国債」を買い支えることにより、経済的には米国戦争体制を援助している。皮肉なことに「緊張」が伝えられる「米中」関係の当事者、中国も同様の役割を果たしている。だから表面上どのように緊張が演出されようと、米中両国が本格的な衝突を起こす事などない。

どうあがこうと、米国は世界最大の債務国だ。アルゼンチンやインドネシア、韓国のかつての破綻(デフォルトを含む)、近いところではギリシャの経済破綻は、世界経済にとって深刻な問題視をされたけれども、「戦争をしないと自転車操業が止まってしまう」米国というシステムこそ、実は世界にとって最大の災禍であることはもっと強く認識されるべきだろう。

その「戦争自転車操業」国に「集団的自衛権」で追従するおバカさん。それが私たちの暮らすこの悲しき島国なのだ。

▼田所敏夫(たどころ としお)
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辺野古「埋め立て許可」を取り消した沖縄の自立意識は「琉球独立」へと向かう

沖縄県の翁長雄志知事が10月13日、辺野古基地建設に関する「埋め立て許可」を正式に取り消した。

「オール沖縄」選出知事として翁長氏が就任して以来、私は一刻も早く「埋め立て許可」の取り消しを行うべきだと考えていたが、自身が元自民党に所属していた関係もあっての事であろうか、9月の一時休戦を経てようやく踏み切ることになった。そもそも辺野古の「埋め立て許可」は仲井真弘多前知事が県民を裏切り、基地建設反対を反故にしたことがことの始まりだった。沖縄防衛局はそれ以前から虎視眈々と仲井真氏籠絡、埋め立て許可の強引な引き出しを露骨に狙っていて、当時の沖縄防衛局長は地元での記者との懇談の席で「ヤル前にヤルという人はないでしょう」という暴言を琉球新報の記者にスクープされた経緯もあった。

翁長雄志沖縄県知事の公式HPより

◆沖縄の意識の変化は基地問題にとどまらず、「琉球独立論」へ結びついていく

仲井真氏は中央からの恫喝、あるいは飴と鞭で簡単に姿勢を変え、県庁を市民が取り囲み書類の搬入を何度も阻止する中、姑息にも見せかけばかりの「手続き」を経て出されたのが、翁長知事によって取り消された「埋め立て許可」だ。沖縄以外の地域では地方の意思や反中央の気概が希薄化する中、この間の選挙結果だけを見ても、沖縄はもう完全に自立した意志を確立したといえよう。

「基地がないと食べていけない」、「基地は嫌だけどないと困るから」というかつての「基地経済根拠論」は既に破綻を来たしており、沖縄での大手資本や企業経営者も「基地はいらない」と公言し、先の知事選でも翁長氏が仲井真氏を圧倒した。そしてこの意識の変化は基地問題にとどまらず、即座にとはいかないだろうが「沖縄=琉球独立論」へ結びついていくのではないかと私は考えている

本土にとっての「主権回復の日」が沖縄では「屈辱の日」として毎年強く意識されるようになっていることからも顕著な通り、この島国の政府が本気で考えを改め、謝罪しない限り、沖縄との和解などあり得ない。この期に至ってまだ補助金をちらつかせ「全額を受け取って欲しい」などと舐めきったコメントを吐く政府の本音を代弁すれば「沖縄は本土の植民地でいろ」だ。

◆米軍基地さえなかったら沖縄は充分観光で食える

沖縄に行くと本土では目にしないサービスが目にとまる。その1つが免税店の存在だ。タバコや酒は買えないが有名ブランド品を扱う免税店のみをテナントとした巨大なショッピングモールが新都心といわれる、モノレール「おもろまち」駅横に立っている。国内で免税店が利用できるのは沖縄だけだ。

ラジオ沖縄を聴けば、昼間にはその日の新聞を完全な「ウチナーグチ」(沖縄語)で読み、それをバイリンガル(日本語・沖縄語)の司会者が解説をする「語学教育」番組が放送されている。本土に暮らす我々が聞いても、本格的な沖縄語で新聞を読まれるだけで、固有名詞程度しか理解することは出来ない。ましてやそれが日常会話になれば完全な異言語世界である。

沖縄の人たちは日本語を話すが、年配者を中心とした「バイリンガル」の語る沖縄語は私にとってはハングルよりも聞き取れないかもしれない。

もちろん、長きにわたるヤマトからの差別、弾圧の歴史がある。「琉球処分」とは時代が変われどこの島国の権力者たちが沖縄を見る本音をあらわした言葉として象徴的だ。

こんな腐りきった政府が支配する島国からは抜けてしまおう。「そんなこと言ったってお前達独立して経済はどうするんだよ」とまたぞろ「経済主義者」の揶揄が聞こえてきそうだが、そんな低い次元の話ではないのだ。あなたたち薄汚い連中にほとほと嫌気がさしたんだよ。東京なんかちっとも羨ましくない。沖縄には「金」では買えない自然がある。クジラが泳ぎ回る美しい海がある。

観光客だって世界中からやって来る。米軍基地さえなかったら充分観光で食えるのさ。

と、私は思うけれども、心優しい沖縄の人びとはどう考えるだろうか。

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さっそく検挙者を出した「マイナンバー」という「トラブルシステム」

数日前に役所から封書が届いた。ついにアレが来たか、と一瞬ひやりとしながら封を切ったが、心配の対象ではなかった。私の心配はいつかはやって来るであろう、あの「マイナンバー」だ。

逆に早くもというべきか、ほら見たことか霞が関では早速の摘発劇だ。(「マイナンバー」システムで収賄容疑 厚労省室長補佐を逮捕へ=産経新聞2015年10月13日)

本コラムで指摘してきたが、「マイナンバー」は行政や国家にとっては国民監視の手段でもあるが、同時に形の見えない「大型公共事業」である。従来の「ハコ物」と異なり、姿が見えない「大型公共事業」なので当面批判も浴びにくいだろう。

さらには恫喝にも似た「国民総監視」システムの完成が目的だから、警察をはじめ各省庁、政治家、そして企業群の思惑が交錯するに違いない。もちろんこんな監視システムは、まっぴら御免だし完成などして欲しくはない。

そして、これは私見だが当分「マイナンバー」は順調に稼働しないと予想する。個人に12桁の番号を割り振る作業くらいはさして困難はなかろう。だが企業に13桁の番号を割り振る作業では相当の問題に直面するはずだ。

企業は、真っ当に活動しているものばかりではない。休眠会社もあれば、実体のない「ペーパーカンパニー」も無数にある。それら全てに「平等」な扱いをしなければ、まともな企業からの突き上げを行政は食らうだろう。

さらに個人の定期預金、定額預金などを統合しようとすれば、各々の銀行で使用しているシステムは異なるので、必然的にシステムトラブルの発生が予想される。これは「マイナンバー」ほどの規模でなくともかつて、統合直後の「みずほ銀行」がシステムダウンに陥った前歴を見ても明らかだ。

おそらく、連中はそういった「システムダウン」や「システムトラブル」をしっかり視野に入れて(安定的なシステムという意味ではなく)、貸借対照表をこしらえているはずだ。「マイナンバー」は潰れるに越したことはないけれども、当面はトラブル連続での運用が進むだろう。請負会社にとってそうでなければ「旨み」が出ないし、実際にそのようにオフレコで発言している財界の大物もいるから、ほぼ間違いないだろう。

そして今肝を冷やしている人間の数はどの位に上るだろうか。厚労省の役人だけでなく、口利きをした政治家の名前も既に週刊誌記者の間では取りざたされている。「巨悪は眠らせない」と明言をはいた検察関係者がいたが、彼が存命だったらこの「巨悪」に立ち向かっただろうか。

ともあれ、これから「マイナンバー」関連の不祥事、事件が多発することを予言しておく。

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など多数

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挙句の果ての「1億総活躍」──狂気、矛盾、悪意、恫喝づくしの安倍暴走政権

時に政権は、全く不要な国務大臣をおく。政権の魂胆と知的程度が知れるその特命大臣として、今回「1億総活躍大臣」という珍大臣が誕生した。就任したのは加藤勝信だ。

安倍は「戦争推進法案」の強行で支持率が低下すると見るや、「死語」であった「アベノミクス」を無理矢理蘇生させて、またぞろ「3本の矢」を放つという。「強い経済」、「子育て支援」、「安心につながる社会保障」がそれらしい。さらにGDP600兆円を実現するのだという。そのためには1億人が総力で働いてもらわないと困るので「1億総活躍大臣」が置かれたのだろうか。

◆国民の利益にかなう施策がこれまで何ひとつ実行されていないアベノミクスの狂気

安倍の施策で国民の利益にかなう施策はこれまで何1つ実行されていない。「株価が上がった」と安倍は自画自賛しているが、買いを入れているのは半数以上が海外の機関投資家であるし、それ以上に年金原資の投入がきっかけだ。一時2万円を超えていた株価も1万8000円台を維持するのがやっとの有様。そして株価の上昇は大企業には利益をもたらしても、大多数の国民には何の利益も恩恵もない構造になっていることを庶民は実感するようになっている。

たとえ株価が3万円になろうと地方や低所得層の生活が好転する仕組みにはなっていないのだ。景気の好調は大企業に利益をもたらすが、中小企業には実感がない。一方不況になれば中小企業には真っ先にしわ寄せがやって来る。そのような「大企業一人勝ち」構造が90年代以降の「新自由主義」によって導入され、それが総体として疲弊に繋がっているのだ。

だから「強い経済」など、内容も曖昧であるけれども仮にそれが実現しても、その果実を貪るのは一部の大企業だけであるし、庶民には何の恩恵もないことをしっかりと認識しなければならない。「経済成長が生活を豊かにする」時代はとうに終焉しているのだ。

◆不安定な非正規雇用を常態化して「強い経済」「子育て支援」を唱える狂気

「子育て支援」とは結構であるが、子供たちに放射性廃棄物を食わせておいて支援も何もないだろう。だいたい「強い経済」の矛盾と通底するのだが、派遣、アルバイトといった不安定な雇用形態の中で、仮に子供が欲しいと思っても、出産をためらうのは自然な心理だろう。90年代中盤「就職冬の時代」に学校を卒業した人の中には40歳近くになっても一度も正規雇用を経験したことのない人が溢れている。

この世代は結婚自体が少なく、複数の子どもをもうけているのはごく限られた人たちだ。彼らの中には「時代」や「社会」を恨んでいる人も多い。そして職に恵まれず、結婚も果たせない自身の境遇を打開してくれる何かを期待しているのだが、多くの場合それが橋下や、安倍の支援に回ってしまうという、不幸極まりない現象がある。90年代中盤に大学を出た卒業生に昨年会った。「これだけ働いても14万にしかならへん」と愚痴をこぼす彼女は40を超えるがまだ未婚で、周りの友人も結婚している人は半数もいないという。「そやのに生活保護もらっている人が私と同じくらいやと聞いて、むっちゃ腹立ったわ」という。弱者は自分より更に弱者へ厳しい目を向ける。公務員に対しても批判的だ。かくして「選挙ではどこに入れたの?」と聞くと「自民党」という回答が返ってきた。この卒業生は決して保守的でも反動的でもないのだが、不憫な生活状況を自民党への投票行動へ結びつけてしまうところに、どうしようもない遣る瀬なさを感じたものだ。

◆「マイナンバー」導入で「安心につながる社会保障」という悪意

そして「安心につながる社会保障」という言葉にははっきりと悪意が取って見える。「社会保障」は安心して暮らすためのものだろう。それにわざわざ「安心につながる」という魂胆のありそうな接頭語をなぜつける。それは「社会保障」の内容や概念を安倍は変えようとたくらんでいるからではないのか。「安心につながる社会保障」の具体策は何だ?と安倍に聞けば「マイナンバー」を持ち出してくるに違いない。

社会保障をよりましなものにする気があれば、「社会保障の充実」というはずだ。でも安倍はそうは言わない。私が穿っているのではない。安倍は憲法ですら勝手に解釈を変えてしまう人間だ。こいつの口から吐かれる言葉の全ては最大の疑念を持って吟味されなければならないし、実際に安倍のまき散らす言葉の大半は嘘だということは、読者の皆さんに詳細な説明は要るまい。

◆「1億総活躍」は「国民総動員」に通じる恫喝

そこで冒頭の「1億総活躍大臣」だ。自民党の二階俊博総務会長は12日、金沢市内で講演し、新設された1億総活躍担当相が具体的にどのような政策を推進するのか国民に理解されていないとの認識を示した。内閣改造で入閣した地元選出の馳浩文部科学相を前に「皆さんが(担当相の役職を)不思議だなと思っている。馳さんはあんな閣僚にならなくて良かった」と述べた。

また、石破大臣は10月9日の記者会見で、1億総活躍について「最近になって突如として登場した概念だ。国民の方々には『何のことでございましょうか?』という戸惑いみたいなものが、全くないとは思っていない」と語った。石破氏は同日のTBSの番組収録でも、政権が1億総活躍社会の目標にする「GDP(国内総生産)600兆円の達成」に関して「目標は達成するためにある。華々しく数字さえ打ち上げればいいというものではない」と語った。

私が述べなくとも「お友達」から既に指摘されている。要するに訳が分からない。
しかし「1億総活躍」という言葉には「国民総動員」に通じる恫喝を感じる。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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