ピョンヤンから感じる時代の風〈24〉「時代は変わる」── G7広島サミットが示した世界の現実 若林盛亮

G7広島サミットは「大成功」と議長を務めた岸田首相は胸を張った。だがそれが虚勢であり、今回のサミットを通じ「G7の悪意」、「G7の凋落」が暴露され、「G7の時代は終わった」ことを世界の前に示した。それが5月のG7広島サミットだった。

 
Bob Dylan - The Times They Are A-Changin’

60年前にボブ・ディランがつくった「時代は変る」-“The Times They Are A-Changin’”、その歌詞がそのまま当てはまる時代をいまわれわれは迎えている。

国中のおとうさん おかあさんよ

わからないことは 批評しなさんな

むすこや むすめたちは 

あんたの手にはおえないんだ

昔のやり方は 急速に消えつつある

新しいものを じゃましないでほしい

助けることができなくてもいい

とにかく時代は変わりつつあるんだから

この「国中のおとうさん おかあさん」を「G7」に置き換えればいい。とにかく時代は変わりつつあるのだ。

◆被爆地広島を怒らせた「広島ビジョン」

今回のG7サミットは被爆地、広島で行われたことが最大の「売り物」だった。

G7首脳が原爆資料館を訪れ「被爆の実態」を知っただけでも意義があるとマスコミは持ち上げた。「オバマ大統領は10分だったが、今回は40分」などと言われるが、被爆の悲惨さを伝える当時の生々しい実物資料展示室まで見たか否かは「非公開」と発表された。おそらく館内での「被爆者の声を聞く」時間などを考えれば「オバマの10分」と大差ないものだったであろう。だから資料館で何を見たかは「非公開」にせざるを得なかったのだ。単なるパーフォマンスの場とすることで広島を侮辱したと言える。

被爆地、広島では「G7初めて」となる核軍縮に向けた文書とされる「広島ビジョン」が採択された。広島への冒涜はこの文書に象徴的に示されている。

「広島ビジョン」のポイントは「全ての者の安全が損なわれない形での核軍縮」という文言が盛られたことだ。逆読みすれば「安全が損なわれるような形での核軍縮はやらない」ということだ。ロシアの核使用の危険、核軍拡の中国、「北朝鮮」の危険という「安全を損なう脅威」を煽りつつ「核抑止力の強化」を宣言した「広島ビジョン」、核軍縮に逆行するG7合意だ。

広島県原爆被害者団体協議会の箕牧智之理事長は、「広島ビジョン」がG7各国の核保有や“核の傘”による安全保障を正当化し、「核抑止」を肯定する内容だったことに「まったく賛成できない」と断言し、「ロシアの核の脅しも問題だが、ますます世界を分断させることにならないか」と懸念を表明した。

1991年から8年間、広島市長を務めた平岡敬氏は、「岸田首相が、ヒロシマの願いを踏みにじった。そんなサミットだった」「19日に合意された“広島ビジョン”では、核抑止力維持の重要性が強調されました。戦後一貫して核と戦争を否定してきた広島が、その舞台として利用された形です」と怒りを露わにした。

国内政局がらみのバイデンの「早退」で日米韓首脳会談は顔合わせ程度に終わったが、バイデンは別途、日韓首脳を米国に招き正式会談をやると公表した。ここでの主要議題はNATO並みの「核使用に関する」協議体、「日米韓“核”協議体」創設となろう。米韓はすでに“核”協議グループ創設を4月末の尹錫悦(ユン・ソクヨル)「国賓」訪米時に合意している。

この通信で何度も述べてきたことだが、わが国には「核持ち込み」「核共有」の受け入れが迫られる。すなわち「非核の国是放棄」を迫られる。

「広島の怒り」の火に油を注いだ「G7の悪意」を目撃した広島や長崎の人々、いや日本国民がそれを許さないだろう。

◆グローバルサウスを敵に回したG7

今回の広島サミットの目的の一つが、ウクライナ支援やロシア制裁に距離を置くグローバルサウスと呼ばれる発展途上国をG7側に取り込むことにあった。しかしそれは全く逆の結果をもたらした。

広島サミット後、G7に招待されたグローバルサウス諸国はいっせいに今回のG7サミットを批判した。

「ウクライナとロシアの戦争のためにG7に来たんじゃない」(ルラ・ブラジル大統領)。インド有力紙は見出しに「ゼレンスキー氏の存在に支配されたG7」の記事を配信。インドネシア紙は「世界で重要性を失うG7」との記事を、ベトナム政府系紙は「ベトナムはどちらか一方を選ぶのではなく、正義と平等を選択する」と書いた。

今回のG7広島サミットはゼレンスキー主演の喜劇舞台になった。会議直前に彼の参加が公表され、ウクライナ問題には触れたくないグローバルサウス首脳らにとっては寝耳の水、いわば「嵌(は)められた」(プライムニュース司会の反町隆史発言)恰好になった、怒りを買うのは当然だろう。また「ゼレンスキー劇場」のために、グローバルサウス首脳の発言時間も制約を受けた。「グローバルサウスの日」の日程が「ゼレンスキー劇場」のために大きく時間が割かれたからだ。グローバルサウス首脳はいわばだまし討ちにあった形になった。

「G7先進国」でかつて自分がやった植民地支配をまともに反省した国はない。英国のエリザベス女王国葬の時、あるアフリカの首脳は「彼女は生前、一度たりとも植民地支配への謝罪の言葉を述べなかった」と語った。グローバルサウスは、G7の米国式「普遍的価値観・法の支配」秩序はかつての植民地支配秩序の現代版に過ぎないことを知っている。

ウクライナ支援やロシア制裁を強要する「ゼレンスキー氏の存在に支配されたG7」で、彼らはさらにそれを痛感させられた。グローバルサウスを取り込もうとしたG7は自らの厚顔無恥ぶりをさらしただけの結果を広島で招いたと言える。

米国を筆頭とするG7諸国に対し「もうあんたらの手に負えないんだ」ということをグローバルサウスは世界に知らしめた、そんな意義を持ったとしたら、それはよいことだ。


◎[参考動画]【G7広島サミット】「ウクライナ」テーマに議論 ゼレンスキー大統領も出席

◆虚勢を暴露したウクライナ軍事支援

「戦局を変える」と鳴り物入りで宣伝された「F16戦闘機のウクライナへの供与」も内容はお寒いものだ。

まず供与されるF16は欧州諸国では旧式の余り物、いわば「在庫品一掃」の形。操縦士の訓練は3ヶ月で基礎的な離着陸、空中飛行は修得できるが、空中戦の実戦対処となると数年はかかるだろうとか、また機体の維持管理要員の訓練も数ヶ月いや数年かかるとさえ言われている。

要するに即戦力にはならない。これをゼレンスキーは「F16機の獲得は、ロシアが敗北を喫するだけとの世界からの強力なメッセージの一つ」と虚勢を張った。

こうした実戦的な意味を持たない軍事支援が「戦局を変える」と世界に虚勢を張った、ここにも広島サミットで見せた「G7の窮地」を見ることができる。

案の定、「5月反転攻勢」を叫んだゼレンスキーだが5月も終わりになって「戦車の台数が足りない」と言い訳しだした。なす術がないのが現実だろう。ロシア軍は自らの支配管轄下に置いた東部のロシア人居住地域の最前線一帯に対戦車用の2.5mの深さを持つ塹壕を延々張り巡らすなど二重三重の重厚な防御陣を構築した。欧州から最新のレオポルド型戦車が供給されたというが、いくら戦車が来ても戦車戦などとうてい無理だろう。

欧州諸国、いや米国内部からも「いつまでこんな制限のないウクライナ支援を続けるのか?」、ロシア制裁のあおりを受け穀物などの物価高騰、エネルギー難の生活苦に追い込まれた国民の怒りの声が上がり続けている。

広島サミットで華々しく打ち上げた「ウクライナ軍事支援」は線香花火に過ぎないこと、G7がやっきになってもウクライナ軍の「反転攻勢」は絵空事だと世界が知る日は遠くない。

◆バイデンの会議「早退」── 米国内の分断を露呈

今回の広島サミットは「G7の親玉」、米国の弱体ぶりをも露呈するものになった。

バイデンは、ウクライナへの「無制限の軍事支援」などで膨らむ予算確保のために、債務上限を見直す法案を議会に提出したが共和党の反対で法案が採択できない事態に陥り、これが通らないとデフォルト(債務不履行)宣言を受ける国家的危機に直面、日米韓首脳会談も後日に延ばし会議を「早退」、帰国せざるを得なかった(帰国後、妥協案成立)。さらにバイデンはG7広島訪問後に予定した公式訪問日程、オーストラリア、パプアニューギニア歴訪もキャンセルせざるを得ないという外交失態を演じ赤恥をかいた。

対ウクライナ支援を巡る米国内の意見対立、分断ぶりが、民主党と共和党の「債務上限見直し」を巡る対立として露呈、それが「米国の窮地」を世界に見せることになった。

朝日新聞の望月洋嗣・アメリカ総局長は同紙の「多事奏論」に「突きつけられる二つの正面」と題する文章を寄せた。ここにはロシアのウクライナへの「特別軍事作戦」によって中ロ「二正面作戦」を強いられた「米国の窮地」が書かれている。

「ウクライナ軍事支援は欧州に主導させ、米国も日本も中国への対応に資源を集中すべきである」とのトランプ政権下の国防総省で軍事戦略策定に関わったエルブリッジ・コルビー氏の見解を紹介。

他方でハドソン研究所のジョン・ウォルターズ所長兼最高経営責任者(CEO)の懸念「米国が(ウクライナ)支援から手を引けば、欧州は政治、経済、軍事の各面でワシントンを支持しなくなり、中国は欧州との新たな関係を模索するだろう」を紹介。

この二つの対立する見解を紹介しながら望月総局長は「米国にはもはや“二つの戦闘”に向き合う余力はない」と結論づけた。

「G7の親玉」の足下が揺らいでいる「米国の窮地」をG7首脳はじめ世界に見せるという失態も、バイデンは世界に見せた。

ボブ・ディランの「時代は変る」は最後をこう締めている。

線は引かれ コースは決められ

おそい者が つぎには早くなる

いまが 過去になるように

秩序は 急速にうすれつつある

いまの第一は あとでびりっかすになる

とにかく時代は変わりつつあるんだから


◎[参考動画]Bob Dylan – The Times They Are A-Changin’ 時代は変る

近々、日韓首脳を米国に呼びつけて広島で延期になった日米韓首脳会談が開かれる。そこでは日米韓“核”協議体創設が何らかの形で話し合われるだろう。

わが国に対する「G7の親玉」からの「非核の国是放棄」の強要は、秒読み段階に入ったと言える。これを排撃するためにも「昔のやり方は 急速に消えつつある」という時代を感じとる鋭敏な感覚と、時代の流れを読む目をしっかり持とう!

若林盛亮さん

▼若林盛亮(わかばやし・もりあき)さん
1947年2月滋賀県生れ、長髪問題契機に進学校ドロップアウト、同志社大入学後「裸のラリーズ」結成を経て東大安田講堂で逮捕、1970年によど号赤軍として渡朝、現在「かりの会」「アジアの内の日本の会」会員。HP「ようこそ、よど号日本人村」で情報発信中。

◎ピョンヤンから感じる時代の風 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=105

『抵抗と絶望の狭間 一九七一年から連合赤軍へ』(紙の爆弾 2021年12月号増刊)
『一九七〇年 端境期の時代』