電力逼迫を利用した原発推進政策の問題点〈後編〉電力会社はなぜ東西連系線を強化しないのか 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)

本稿は『季節』33号(2022年9月11日発売号)掲載の「電力逼迫を利用した原発推進政策の問題点」を本通信用に再編集した全2回の連載記事です。文中での全国の原発再稼働に関する記述は、2022年8月当時の状況であること、あらかじめご了承ください。

◆動かせない理由を説明せよ

現在、新規制基準適合性審査を通過した原発は17基、そのうち1度でも再稼働した原発は10基である。残り7基は現在も運転できる状態にはない。

その7基の内訳は、東電柏崎刈羽6、7号機、日本原電東海第2、東北電力女川2号機、中国電力島根2号機、関西電力高浜1、2号機。これらはすべて安全対策工事又は特定重大事故等対処施設の工事が終わっていないか、地元合意を得ていないか、最もひどい例は電力会社の運転資格を再確認中のもの(これが東電)である。すなわち法的にも道義的にも動かせないものばかりである。

定期検査中で稼働できないものは、夏のピークだ、電力逼迫だといっても動かせるわけがない。法令上の理由で稼働できていないのに、そのツケを規制のやりすぎだとか、反原発の圧力だと、勝手な憶測をばらまいている参議院議員選挙候補や政党(選挙期間中に)の何と多いことか。さらに問題なのは、これら主張について経産省はこれ幸いとばかりに、訂正することもなく、むしろ助長するかのように、必要もない

電力逼迫注意報だ、警報だと、電力不足をあおり立てている。だが、電力逼迫を引き起こした最大の責任者は経産省だ。だから責任の目先、追及の矛先も変える必要があるというわけだ。

原発の再稼働が困難な事例のいくつかを示す。高浜4号機は6月8日から10月(いわゆる夏のピーク時の期間)まで停止する。その理由は定期検査。関電によれば「10月下旬の原子炉起動、11月中旬の営業運転再開を見込む」という。

また、高浜3号機は定検中に蒸気発生器伝熱管に損傷が見つかったため運転再開が遅れている。6月末で稼働している原発は大飯原発3、4号機。

玄海4号機は定検の終了予定を7月上旬に前倒ししてむりやり運転再開。40年超の老朽原発、美浜原発3号機は21年6月に再稼働したものの特定重大事故対処等施設が出来ておらず、

わずか4ヶ月後の10月に停止した。これを8月12日に再稼働しようとした、

漏水により延期されている。当初は10月20日が予定されていたが夏のピーク時に少しでも重ねようという意図で約2カ月前倒した。

◆地域間連携や再エネを軽視

東日本大震災後11年以上経つというのに、当時から指摘されていた問題に迅速に取り組むでもなく、漫然と時を過ごし、再生可能エネルギーへの国の投資も怠り、送電網整備の責任を怠ってきた。そのことを指摘する報道も、ほとんど見られない。

日本列島には潜在的に自然エネルギーを活用できるところがたくさんある。日照の多い地域では太陽光が、風況の良いところは風力が期待できるが、これらは消費地から離れている。発電した場所から電力を送るには、既存の送電線に接続する必要があるが、送電線は9電力がほぼ独占状態だ。

これに自然エネルギーを優先的に接続できるような体制の整備は国にしか行えないが、進んでいない。

経産省は、最悪の事態、例えば全国規模のブラックアウトをあえて起こそうとでもしているのではないか。そんないやな感じさえ、昨今の政府の無策ぶりには感じてしまう。実際にコロナ対策では、それに近いこともしている。

◆東西連系線を強化する

3月や6月の電力逼迫の注意報が出たときにも、西日本では電力不足は起きておらず余力があった。東電のエリアで不足するなら西日本から供給すれば問題は解決する。しかし、東日本と西日本では周波数が異なるため、そのまま電気を送ることができない。50サイクルの東と60サイクルの西の間には「周波数変換所」が必要になる。

その容量は現在210万kWだが、震災時に120万kWしかなかったものを増強した。これで足りるとは誰も思っていないので、今後も増強する予定だ、最終的には300万kWにするが増強には1750億円かかり2027年の完成予定。これは速やかに完成させるように取り組むべきだ。震災後の11年間に柏崎刈羽原発再稼働準備として累積1兆2千億円もつぎ込んできた東電にとっては、大した費用ではない。資金の使い道を間違ったことが、今回の逼迫に繋がっている。

日本列島は南北に延びているから、北海道と九州では気候が違う。日本中で電力の連系ができれば、どこかで逼迫が生じても必要なところに電力が送れる。設備も効率よく使えて良いことずくめだ。

電力会社に投資余力がないとしたら、公共事業として造れば良い。 「変換所」を発展させ、日本中を直流送電で繋ぐという方法だ。直流に変換すれば周波数問題は起きない。大動脈として東西直流送電線を引くことを公共投資として行えば、電力需給問題は解決できるうえ、南海トラフ地震のような大規模災害対策にもなるのである。例えば、震災以来原発につぎ込んだ5兆7000億円を使っていれば、すでにできていたはずだ。

▼山崎久隆(やまざき・ひさたか)
たんぽぽ舎共同代表。脱原発東電株主運動、東電株主代表訴訟に参加。共著に『核時代の神話と虚像』(2015年、明石書店)ほか多数。

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 なぜ日本は原発をやめなければならないのか

《報告》井戸謙一(元裁判官/弁護士)
 事実を知り、それを人々に伝える

《報告》山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
 核武装に執着する者たち

《報告》後藤政志(元東芝・原子力プラント設計技術者)
 課題は放置されたまま

《報告》森松明希子(原発賠償関西訴訟原告団代表)
 原発被害の本質を知る

《インタビュー》北野 進(「志賀原発を廃炉に!訴訟」原告団団長)
 珠洲原発・建設阻止の闘いは、民主主義を勝ち取っていく闘いだった

《対談》鎌田 慧(ルポライター)×柳田 真(たんぽぽ舎共同代表)
 東京圏の反原発 ── これまでとこれから

《報告》今中哲二(京都大学複合原子力科学研究所研究員)
「核融合発電」蜃気楼に足が生え

※          ※          ※

《回想》松岡利康(鹿砦社代表)
 創刊から10周年を迎えるまでの想い出

《墓碑銘》松岡利康(鹿砦社代表)
 お世話になりながら途上で亡くなった方への追悼記

《季節創刊10周年応援メッセージ》

 菅 直人(衆議院議員・元内閣総理大臣)
 守りに入らず攻めの雑誌を

 中村敦夫(作家・俳優)
 混乱とチャンス  

 中嶌哲演(明通寺住職)
「立地地元」と「消費地元」の連帯で〈犠牲のシステム〉を終わらせる

 水戸喜世子(「子ども脱被ばく裁判の会」共同代表)
『季節』丸の漕ぎ手をふやして、一刻も早く脱原発社会を実現しよう

 山崎隆敏(元越前市議)
「核のゴミ」をこれ以上増やさないために

 今野寿美雄(「子ども脱被ばく裁判」原告代表)
 裁判も出版も「継続は力なり」

 あらかぶ(「福島原発被ばく労災損害賠償裁判」原告)
 隠された「被ばく労働」問題を追及し、報じてほしい

※          ※          ※

《報告》なすび(被ばく労働を考えるネットワーク)
《検証》あらかぶさん裁判 原発被ばく労働の本質的問題 

《報告》北村敏泰(ジャーナリスト)
 棄民の呻きを聞け 福島第一原発事故被害地から

《講演》和田央子(放射能ゴミ焼却を考えるふくしま連絡会)
「復興利権」のメガ拠点 「福島イノベーション・コースト構想」の内実〈前編〉

《報告》平宮康広(元技術者)
 水冷コンビナートの提案〈1〉

《報告》原田弘三(翻訳者)
 COP28・原発をめぐる二つの動き
「原発三倍化宣言」と「気候変動対策のための原発推進」合意

《報告》三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
 総裁選より、政権交代だ

《報告》板坂 剛(作家/舞踊家)
   タイガー・ジェット・シンに勲章! 問われる悪役の存在意義

《報告》山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
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   甲山事件50年を迎えるにあたり
   誰にでも起こりうる予期せぬ災禍にどう立ち向かうか(下)

《報告》大今 歩(高校講師・農業)
   洋上風力発電を問う 秋本議員収賄事件を受けて

《報告》再稼働阻止全国ネットワーク
 時代遅れの「原発依存社会」から決別を!
 政府と電力各社が画策する再稼働推進の強行をくい止める

《老朽原発》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
 6・9大阪「とめよう!原発依存社会への暴走大集会」に1400人超が結集

《女川原発》舘脇章宏(みやぎ脱原発・風の会)
 女川原発の再稼働はあり得ない 福島事故を忘れたのか

《福島》黒田節子(請戸川河口テントひろば共同代表)
 浪江町「請戸川河口テントひろば・学ぶ会」で
 北茨城市大津漁協裁判で闘う永山さんと鈴木さんの話を聞く

《柏崎刈羽原発》小木曽茂子(さようなら柏崎刈羽原発プロジェクト)
 7号機再稼働で惨劇が起きる前に、すべての原発を止めよう!

《首都圏》けしば誠一(反原発自治体議員・市民連盟事務局長)
 福島原発事故の責任もとれない東京電力に
 柏崎刈羽原発を動かす資格はない!

《浜岡原発》沖基幸(浜岡原発を考える静岡ネットワーク)
 静岡県知事と御前崎市長が交代して
「一番危険な原発」はどうなるか

《島根原発》芦原康江(さよなら島根原発ネットワーク)
 政治に忖度し、島根原発2号機運転差止請求を却下
 それでも私たちは諦めない!

《玄海原発》石丸初美(玄海原発プルサーマルと全基をみんなで止める裁判の会)
 玄海町「高レベル放射性廃棄物・最終処分場に関する文献調査」受入!

《川内原発》向原祥隆(反原発・かごしまネット代表)
 私たちは歩み続ける

《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)
 原子力規制委員会を責め続けて11年
 原子力規制委員会は、再稼動推進委員会・被曝強要委員会

《反原発川柳》乱鬼龍

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◎鹿砦社 https://www.rokusaisha.com/kikan.php?bookid=000748

龍一郎揮毫
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