報道によると、車検証に記載された個人情報を漏洩させたという地方公務員法(守秘義務)違反の容疑で、愛知県で逮捕起訴されていた長野県警の警察官2名が21日、愛知県警に加重収賄の容疑で再逮捕されたという。1人は車37台分の情報漏洩の見返りに現金計7万4000円を受け取り、もう1人は車25台分の情報漏洩の見返りにビール券50枚(3万8300円相当)を受け取っていた疑いがあるように報じられている。2人に情報漏洩を依頼し、賄賂を渡していたとされる警察OBの探偵業者=すでに地方公務員法違反(唆し)の罪で起訴=も贈賄容疑で再逮捕されたという。

この事件の真相が報道通りなのかは筆者にはわからないが、この事案が贈収賄事件として立件されたこと自体は「当然の流れ」と納得できる話だ。現職の警察官が職務上の立場を悪用してこのような便宜を図る場合、それが「無償」で行われるとは普通考えがたい。地方公務員法(守秘義務)違反で起訴しただけで捜査が終結したのでは、むしろ不自然だろう。同種の事件では現在、福岡県警の警察官が暴力団に捜査情報を漏洩するなどしていたとされる事件も注目を集めているが、こちらも当然、贈収賄事件として立件されている。

一方で、同種の警察官の不祥事が地方公務員(守秘義務)違反で立件されただけで、捜査が終結してしまった例も最近あった。7月8日付けの当欄で取り上げた、品川美容外科池袋院(東京都豊島区)の患者死亡事故をめぐる捜査資料流出事件である。この事件では、この患者死亡事故の主任捜査官だった白鳥陽一「元」警視庁捜査一課警部が、捜査対象である品川美容外科の顧問だった警視庁OBの中道宜昭元警部に対し、捜査資料を渡したとして地方公務員法(守秘義務)違反の罪に問われ、一、二審で懲役10月の実刑判決を受けている。捜査段階から一貫して容疑を否認する白鳥元警部は現在、最高裁に上告中だ。

と、こうした事件の概略を眺めてみただけでも、つくづくおかしな事件である。「主任捜査官」が「捜査対象」に捜査情報を漏洩したというのが事実なら、なぜ贈収賄事件として立件されなかったのか。要するに、白鳥元警部が品川美容外科側から捜査情報を漏洩させた見返りを何も受け取っていないということなのだが、それも変な話だろう。

筆者は、白鳥元警部の第一審の公判をもれなく取材したが、白鳥元警部は少なくとも一度、品川美容外科の綿引一総院長ら同美容外科の関係者たちと飲食した席で代金を払わなかったことがあるようだ。しかし、その時の店も新橋の「わたみん家」だった。ワタミグループの系列店で、つまみの中心価格帯は199~399円というお値頃感のある居酒屋である。

この店で白鳥元警部が品川美容外科の総院長や関係者たちと会食した経緯に関しては事実関係に争いがあるが、いずれにせよ、定年を間近に控えた警視庁捜査一課の現職刑事がその地位や退職金を棒に振るリスクを負ってまで捜査対象者たちに便宜を図りたくなるような会食だったとは思い難いだろう。

また、中道元警部の証言によれば、白鳥元警部は品川美容外科に対し、家宅捜索の情報も教えていたという。しかし、これもまた変な話である。なぜなら、この捜査資料流出事件が発覚したのは、警視庁が患者死亡事故の捜査進展のために品川美容外科の関係各所を家宅捜索した際、綿引総院長が使用する机の中などから捜査資料が見つかったからである。

「私が中道に家宅捜索の情報を教えたんなら、なんで、捜査資料がそんなところから出てくるんですか?」。白鳥元警部は第一審の被告人質問の最中、尋問する廣澤英幸検事にそう反論していたが、たしかにその点は疑問だろう。中道元警部が事前に家宅捜索の情報を知っていたなら、捜査資料の証拠隠滅はもっと入念にやるはずである。何しろ、元警察官なのだから。

このような不可解な疑問を抱えながら、一、二審共に有罪判決が出て、残すは最高裁のみとなった白鳥元警部の裁判。最高裁は通常、事実審理はしないが、この事件はこのまま決着させてはいけないと筆者は思っている。今後も機会あるごとに、続報をお届けする予定だ。

(片岡健)