当欄では、「冤罪疑惑」と「検事の取り調べ中の民族差別発言疑惑」を繰り返しお伝えしている2010年発生の下関女児殺害事件。一貫して無実を訴える被告人の湖山忠志氏(30)は一昨年7月に山口地裁(長倉哲夫裁判長)の裁判員裁判で懲役30年の判決を受け、今年1月に広島高裁(木口信之裁判長)で控訴を棄却されたが、現在も無罪への希望を捨てず、最高裁に上告中だ。
筆者はこの湖山氏の控訴審判決公判をスケジュールの都合で傍聴できなかったのだが、判決文が入手できたので、遅ればせながら判決内容に言及しておきたい。結論から言うと、事実関係を精査しているように見える体裁を取り繕っているものの、重要部分から目を背けた明白な不当判決だ。
この事件では、現場である女児(6歳)宅アパートの室内にあった蛇のおもちゃ、女児の遺体が見つかったアパートの建物そばの側溝付近に落ちていたタバコの吸殻から湖山氏のDNAが検出されたとされている。そして、この一見強力に見える証拠を決め手に湖山氏は第一審の裁判員裁判で有罪とされ、控訴審でもその第一審の判断が是認されたのだ。
しかし、湖山氏は事件以前、被害女児の母親と交際しており、現場室内に立ち入ったこともあった。現場やその周辺で湖山氏のDNAが見つかったこと自体は本来、犯人だと認める決め手になる事実ではない。その一方、当欄でお伝えしてきた通り、現場では別の真犯人の存在を疑わせる物証が多数見つかっているのだ。
たとえば、被害女児の遺体は上半身が裸の状態で見つかっているが、遺体のそばに落ちていた彼女のトレーナーからは湖山氏とは別の第三者のDNAが検出されていた。また、被害女児は現場アパート室内にあった布団の上で絞殺されたとみられる状況だったが、その布団からも湖山氏とは別の第三者のDNAが検出されていた。
また、現場アパート室内では、多数の指紋や毛髪が採取されていたが、その中に湖山氏の指紋や毛髪は一切含まれていなかった。一方で、身元不明の第三者の指紋は4つ、毛髪は9本も含まれていた。加えて、上記の被害女児のトレーナーからも1本、身元不明の第三者の毛髪が採取されていたのである。
ところが、これらの別の真犯人の存在を疑わせる物証の数々は、第一審判決ではろくに検証されずに捨て置かれた。そして控訴審では、59枚に及んだ判決文中、現場で湖山氏のDNAが検出された件については、いかに鑑定が信用できるかということを延々と説明しながら、より重要な場所(被害者が絞殺された布団や脱がされていた被害者のトレーナー)から採取された別の第三者の毛髪やDNAに関しては黙殺を決め込んでいるのである。
広島拘置所に面会に訪ね、湖山氏に判決への感想を改めて聞いたところ、「最初から僕を犯人と決めつけたみたいな判決。ただ、悔しいです」と絞り出すように言った。そもそも、湖山氏にはこの事件を引き起こす動機は見当たらない。第一審、控訴審共に判決では、湖山氏が交際トラブルになっていた被害女児の母親への恨みからこの事件を敢行したことにされているのだが、母親への恨みから6歳の娘を殺害したというストーリーは説得的ではない。むしろ被害女児が上半身裸にされていたことからすると、「そういう趣味」を持つ人物の犯行を疑っても良さそうなものだが、控訴審判決は「遺体にわいせつ行為をされた痕跡がない」とだけ述べ、わいせつ目的の犯行である可能性をあっさり切り捨てている。「最初から僕を犯人と決めつけたみたいな判決」という湖山氏の見方は決して外れていないと筆者も思う。
それでも湖山氏は逆転無罪への希望を捨てず、最高裁に上告中。「今は祈るしかない」という心境だそうだ。湖山氏の祈りが最高裁に届くか否か、筆者も最後まで裁判の経過を注視し、当欄でもまた適時レポートさせて頂くつもりだ。
(片岡健)
★写真は、湖山氏が逆転無罪の希望を託した最高裁。