原爆の日が迫った8月上旬、「文春砲」が、筆者の元職場、広島県庁を直撃しました。
広島県庁といっても、いわゆる知事部局ではなく、教育委員会(写真)です。とはいえ、最近では地方教育行政法の改定などにより、教育委員会の独立性は低下。知事部局と一体化する傾向が強まってはいます。広島県も例外ではなく、知事の湯崎英彦さんが外部から一本釣りしてきた平川理恵さんが広島県初の女性教育長を2018年から務めておられます。したがって、これは知事である湯崎英彦さんの責任も重い不祥事であると理解しています。
◆「お友達NPO優遇」、故・安倍晋三さんそっくりの教育長
文春砲はその平川教育長を直撃しました。平川教育長と京都のNPО法人「パンゲア」の森由美子理事長がわたしも妻とよく行く県庁近くのベトナム料理屋で一緒に写っておられる様子の写真が掲載されました。これは誰かが密告したからとか、そういうことではなく、森理事長ご本人がSNSに載せておられることです。平川教育長も、SNSで親しげに森理事長にコメントをされている様子がうかがえます。
「文春砲」が報じた疑惑の概要は、広島に縁も所縁もないパンゲアが、なぜか平川教育長就任後、広島県教委からの受注をゼロからこの1年余りで2300万円以上にふやしていることです。それもパンゲアが県外法人のため一般競争入札の資格がないので、例外的なやり方で発注を繰り返していたのです。そして、パンゲアありきで工業高校の女子生徒によるHP作成プロジェクト事業についての話を進めていた、ということです。これらが事実なら官製談合であり、お友達を優遇したという意味では、故・安倍晋三さんそっくりです。
◆改革に現場からうずまく期待と不安・不満 平川教育長
平川理恵教育長は54歳。京都市生まれで同志社大学をご卒業後、リクルートを経て、横浜市で民間公募校長を務め、不登校生徒をゼロにしたなどの実績で有名です。2018年、湯崎英彦知事により一本釣りの形で広島県教育長にご就任されました。「こどもたちのために」がモットーで、よく現場に足を運ぶ、親御さんが教育委員会に電話をすると自ら対応されて感激した、などの声はこれまでよくうかがっています。平川教育長による改革は、NHK含むマスコミにも何度か大々的に取り上げられています。
以下は本年度の平川教育長が出された方針「八策」です。
「令和4年度 広島県教育委員会八策」
1. 広島県 教育に関する大綱「一人一人が生涯にわたって主体的に学び続け、多様な人々と協働して、新たな価値を創造する人づくり」を実現する。
2. 教育の根源は、生涯にわたって学び続けるということである。幼児児童生徒も大人も、学びの習慣を身につけ、学び上手になれるよう「学びの変革」を推し進めていく。
3. 学校や教育委員会は、「我が子・我がことであれば」を旨に、「子ども基点」を貫く。
4. 根源的な問い「生きるって何?」を主軸とした探究学習を、すべての学校に汎用させ、キャリア教育と結びつけて実践していく。
5. 現場は「教室」である。教室に行って教員とともに子どもの様子を観ながらカリキュラムを創る。指導主事は、教職員の心に火をつけ、伴走し、はしごを絶対に外さない。
6. 子どもを含め年齢や職を問わず誰もが「新しいアイデア」や「率直な意見」をなんでも言い合える「組織風土」づくりを心掛け、多様な意見からより良い判断を行う。
7. 幼児児童生徒一人ひとりの自己肯定感を大切にするため、個別最適な学びや本物の体験を重要視し、不登校対策・セーフティネットを確保する。また幼児児童生徒の人権と主体性を尊重し、教師が一方的に設定している生徒指導規定等の見直しを図る。
8. 教育公務員として、高い倫理観を持つ。とりわけ、幼児児童生徒に対する猥褻セクハラは絶対に許さず、厳しく処する。
一見すれば素晴らしいことばかりです。
他方で、「ただでさえ現場は人手不足なのに、新しいことをどんどんやられるとたまったものではない。少しは足元を固めてほしい」(元県立高校教諭)などの声もあるのも事実でした。
また、平川教育長は公立高校入試を2023年から推薦入試Ⅰと一般入試Ⅱを廃止し、一次選抜に。プレゼンテーションの比重が大きいものに改革します。これについては「出席日数に左右されないようになる」という歓迎論もあるいっぽうで、「部活も勉強も頑張らせてさらにプレゼンテーションも、というのは中学生にとっては厳しいのでは?」という親御さんからの不安もうかがいます。
◆911テロを契機に子ども同士の国際交流へ 森理事長
いっぽう「パンゲア」はその平川教育長の地元の京都市の団体。子どもたち同士の国際交流を進める事業をてがけてこられました。団体のSNSを拝見すると、とくに国際交流を通じた平和への思いはよく伝わってきます。911テロを契機に、危機感を覚えられたというお話は心に刺さります。
「ちょうどその時、私はMIT(マサチューセッツ工科大学)に仕事がありアメリカにいたのです。もうひとりの創立者である高崎も、MITで客員研究員をしていました。私達はサンフランシスコで打ち合わせがあるため、11日にUA93便に乗る予定だったのです。
ところが10日のニュージャージーの打ち合わせがずれ、3日前にキャンセルをしていました。そして、運命のあの日……。その日以来、アメリカではイスラム教の人々やアラブの人々に対して「不気味」だとか、「怖い」といった声が多く聞かれているのを見て、イラン人やイラク人の友人がいた私は危機感を持ちました。」
わたしも、そういう問題意識は当時持っておりましたので共感します。私の場合はイラク戦争反対運動、海外派兵反対運動、森理事長の場合は子ども同士の交流にとエネルギーを向けていったとおもいます。
しかし、公私の区別がつかないのはまずい。同法人のfbには以下のような記述があります。
「昨年度から、パンゲアの高崎が、広島県の平川教育長の依頼を受け、広島県教育委員会にて県立高校の科目「情報」のカリキュラム製作をお手伝いをさせて頂いていました。コロナ禍によって、教育現場でのICT利用が待ったなしとなり、現場も混乱している状況です。
そんな中で、広島県の高校生・高校教員向けにネットの使い方(ネットリテラシー)についての動画を作りました。本当は、ネットのネガティブな面だけでなく、ポジティブなICT利活用についても入れたかったのですが、まずはセーフティファーストということで、お役立て頂ければと思います。」
これは、個人的な関係に基づいて受けた仕事であることをまた自慢しておられるようにも読み取れます。
◆素晴らしい8.6平和記念式典でのあいさつも…… 湯崎英彦知事
そして、平川教育長を任命した知事の湯崎さん。わたしは、県庁マンだった2011年1月末まで彼に部下として仕えていました。彼の8月6日の平和記念式典での毎年の挨拶も素晴らしいものがあります。
「しかしながら、力には力で対抗するしかない、という現実主義者は、なぜか核兵器について、肝心なところは、指導者は合理的な判断のもと「使わないだろう」というフィクションたる抑止論に依拠しています。
本当は、核兵器が存在する限り、人類を滅亡させる力を使ってしまう指導者が出てきかねないという現実を直視すべきです。
今後、再度、誰かがこの人間の逃れられない性(さが)に根差す行動を取ろうとするとき、人類全体、さらには地球全体を破滅へと追いやる手段を手放しておくことこそが、現実を直視した上で求められる知恵と行動ではないでしょうか。」
正直、市長よりも突き刺さる演説をされる湯崎さん。しかし、今回はあなたにも筆者は元部下としてガツンと物申さざるを得ません。
◆「お代官様・越後屋・山吹の小判」から「お友達優遇」安倍型へ移行する疑獄事件の形態
旧来型の疑獄事件の典型的なパターンは、時代劇でよくある「お代官様。どうぞ。」(山吹色のものが詰め込まれた菓子折りを差し出す)「越後屋よ。お主も悪よのう。」であり、小判が札束に代わっただけです。
しかし、いまや、様相はかわってきています。安倍晋三さん・昭恵さん夫妻はお友達を優遇し、批判を浴びたことは記憶に新しいところです。晋三さんが暗殺されたことで、事件の真相の解明が極めて難しくなってしまいましたが、このことは忘れてはいけない。
そして、今回は、教育長が家族ぐるみで付き合っていたというNPO法人理事長と癒着していたというのが報道の概要です。
◆筆者も県庁マン時代に「安倍化」の危機…… 目的は手段を正当化しない
平川教育長・森理事長が進めていたこどもたちの国際交流で平和を。そのこと自体は立派なことです。しかし、目的は手段を正当化しないのです。きちんとしたチェックをしないで相手を選べばどうなるか?費用の問題だけではありません。質の問題もあります。親しい相手にはどうしても評価が甘くなる。だから事業実施にあたってはしかるべき手続きが必要なのです。
そして、筆者も「正義感」で「親しい民間人」と楽しく仕事をして、大恥をかいていた可能性が過去、ありました。筆者は、県庁マン時代から貧困問題やDV被害者支援のNPOなどの活動にも参加していました。当然、活動の延長線上で、メンバーの皆様と懇親会などということもありました。
あくまで一県民、ただし、県行政にもこうした視点が生きれば、という思いで参加しました。あるとき、上司にそのことについて「疑惑を招かないよう、気をつけろよ」という趣旨のご忠告をいただきました。
当時は30歳そこそと若かった筆者は「何を言っているのだろうか? この人は頭が固いなあ。」と反発していました。しかし、今は上司に感謝をしています。
県庁マン当時の筆者も、広島県の男女共同参画施策が当時は岡山など近県に比べても遅れていたことに危機感をいだき、県外のある女性のNPO幹部を講師とした事業を、と考えていました。年齢が上の彼女にすっかり心酔していたということもあとで冷静に考えるとあったなとは思います。あるときは、毎晩彼女と飲みに出ていたのを記憶しています。その後、その彼女が被害者女性を見下すような発言(支援者として最悪の発言、いわゆるセカンドレイプに相当する発言)をしているのをお聞してしまい、ドン引きした筆者は、彼女と距離を置くようになりました。上司が注意してくれなければ筆者は彼女に仕事上のお願いをして大恥をかいていたでしょう。
その後、さらに1年くらいしてから、筆者はあの河井案里さんと対決するために県庁を退職しました。「韓国並みにDV・性暴力被害者支援を充実させる」ことを、当時の広島の候補者ではおそらくはじめて、公約としました。選挙ではわたしは及びませんでしたが、それなりに親しい公明党の女性県議が議会で取り上げ、ワンストップセンター整備など、一定程度の前進がありました。
◎[参考資料]性被害ワンストップセンターひろしま https://www.pref.hiroshima.lg.jp/site/onestop/
特に広島3区ではそれなりの数があった筆者の票を、当時は野党に転落していた自公側に取り込もうという狙いもあったのかもしれません。しかし、とりあえずは、これでよかったのだと納得しています。今後はさらに、より良い制度にするため、自分自身が議員として全力を尽くすことができるようになりたいと考えています。
「目的は手段を正当化しない」。すべての公務員が心すべきことです。古臭すぎる日本、広島のリニューアルはもちろん必要です。しかし、民主的な手続きを飛ばしてはいけないのです。
◆広島県議会も知事のイエスマンばかり──チェック機能不在
かつての県庁マン時代の筆者は、上司がチェック機能となりました。しかし、教育長についていえば、文春の取材によれば、驚くべきことに職員には適用される倫理要綱が適用されないのです。そうなると、教育長が自ら律するか、議会にチェックしてもらうか、ということになります。
その議会はなにをやっていたのでしょうか? はっきり申し上げると「平川教育長は特定の法人と癒着しているのでは」という情報は県庁を辞めて久しいわたしのところにさえずいぶん前から届いています。ましてや県議が知らないはずがありません。情報公開させて調べれば、平川教育長が就任して以降、急にパンゲアが県(教委)の事業に登場したことくらいすぐわかります。
結局、ありていに申し上げれば、自民、公明の国政与党はもちろん、立憲民主党にいたるまで、知事のイエスマン、ということは教育長のイエスマンでもあるわけです。
なぜ、二元代表制があるのか。その意味を分かっていないか、分かっていて何もしないのか?県議会の機能不全も、今回の不祥事の背景にあると断ぜざるを得ません。
◎[参考動画]知事の湯崎さん、そしてNPOと官製談合疑惑の教育長・平川さんに執行部にガツンとモノ申す議員を さとうしゅういちIN本通り
▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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