二人の新チャンピオン、初戦の運命は……?
初メインイベンター、西原茉生はわずか24秒で圧勝のインパクト。
セミファイナルの政斗はムエタイの壁に跳ね返される試練の敗戦。

◎KICK Insist.20 / 9月29日(日)新宿FACE17:30~19:37
主催:VICTORY SPIRITS、ビクトリージム / 認定:ジャパンキックボクシング協会(JKA)

◆第8試合 スーパーフライ級3回戦   

JKAフライ級チャンピオン.西原茉生(治政館/2003.6.27埼玉県出身/52.0kg)
14戦9勝(4KO)4敗1分
        VS
WMC日本フライ級チャンピオン.キリョウ・シリラックムエタイ(シリラックムエタイ/茨城県出身/ 52.38→52.35→52.3→52.25kg/90グラムオーバー計量失格)
9戦3勝(2KO)4敗2分
勝者:西原茉生 / TKO 1ラウンド 24秒
主審:小林利典

「やっとメインイベントで試合が出来る。必ず自分がこの興行を盛り上げるという気持ちになりました!」という主催者発表のコメントがあった新チャンピオン西原茉生。

開始早々、両者のわずか1~2発のローキックの交錯から、西原茉生の左の三日月蹴りが的確にキリョウのレバーに突き刺すようにヒットするとわずかな間をおいて蹲って悶絶するキリョウはカウント中にレフェリーに止められる衝撃の幕切れとなった。

言われてみれば確かに肝臓にヒットしている西原茉生の三日月蹴り

わずか24秒のTKO勝利となった西原茉生

盛り上げる前に終わってしまった感があるが、見事な三日月蹴りは完全クリーンヒットでわずか24秒での勝利は見事でした。

西原茉生は勝利のリング上では「僕はまだまだこんなもんじゃないんで、ジャパンキック(協会)のチャンピオンは滅茶苦茶強いんで皆、本当に期待してください。次はもっと強い選手と戦っていくので、僕の応援とチーム治政館の応援を宜しくお願いします。」とマイクアピール。

ファンに囲まれたロビーでの記念撮影の場で話を聞くと、
「メインらしくチャンピオンらしく締められたんじゃないかと思います。」

もうちょっと観たかったという声には「そうですね。でもあれは試合前からすごい狙ってた三日月蹴りで、もう作戦ピッタリ嵌ったなって思います。」

次の目標については「特に何も決まってないですけど、RISEさんに出たいですね。それ以外にもKNOCK OUTとか盛り上がっているんで、いろいろな団体にチャンピオンとして出たいなと思います。」とファンに囲まれ、乗りに乗ったハイテンションで語ってくれました。年間MVPの候補にも上がって来そうな西原茉生は今後もメインイベンターとして登場するか期待が高まります。

西原茉生の勝利を祝うチーム治政館

◆第7試合 67.0kg契約3回戦  

JKAウェルター級チャンピオン.政斗(=黒澤政斗/治政館/1992.7.17東京都出身/ 66.9kg)
34戦18勝(5KO)13敗3分
      VS
ピラポン・ノーナクシン(タイ・サラブリー出身/ 66.35kg)67戦42勝20敗5分
勝者:ピラポン・ノーナクシン / TKO 3ラウンド 2分53秒
主審:宮沢誠

先手を打ってアグレッシブに蹴って出る政斗に対し、落ち着いた表情で鋭く重い蹴りを返して来るピラポン。徐々に距離感が狂わされていく政斗。ピラポンの蹴り易い位置は続き、第2ラウンドにはピラポンの左フックで軽いノックダウンを喫し、第3ラウンド1分過ぎには左ヒジ打ちで額を斬られるが、続行するも更に左ヒジ打ちを受けた様子が窺え、終了間際には流血が酷くなり、すぐさまレフェリーストップが掛かった。

ピラポンのウェイトの乗った左ハイキック、試練の政人

再三のピラポンの左ヒジ打ちで側頭部から流血する政人

試合後、宮沢誠レフェリーは「血がピューッと噴き出ていた!」と言い、即座にストップした様子。

政斗は控室で、「全部のタイミングで相手が上でしたね。僕ももっとタイミングを上手くなるようにと、その自分から出るところとかももうちょっと誤魔化して入れたら、もうちょっと流れが変わったのかもと思います。取り敢えず今回は相手の方が強かったというそれだけです。あとは地道に積み上げてまた勝てるように頑張ります!」
と残念な空気が漂う控室にも元気に滑舌よくハキハキと応えてくれました。

諦めない政人のパンチ、逆側だが、血が噴き出ている

 

山内ユウ、まだ攻勢ではないが、次第に距離感タイミングを掴んだか

◆第6試合 ウェルター級3回戦

JKAウェルター級4位.山内ユウ(ROCK ON/神奈川県出身/ 66.4kg)10戦5勝(3KO)5敗
     VS
後藤啓太(拳心館/新潟県出身/ 66.65kg)5戦4勝(2KO)1敗
 勝者:山内ユウ / TKO 1ラウンド 1分22秒
主審:中山宏美

後藤啓太の重さとスピードある多彩な蹴りが山内ユウをコーナーに追い詰め圧倒しつつある中、ロープ際の接近戦で山内の右フックが炸裂すると、後藤は膝から崩れ仰向けに倒れ込んでしまった。山内の鮮やかな逆転劇だった。

山内ユウはリング上でマイクを持っても泣き顔で直ぐ声には出来ず、
「普通に仕事してるとこんな応援されること無いからマジでメッチャ気持ちいいです。後藤選手マジ警戒心強くて、本当ああいう不器用な試合しか出来ないですけど、これからも一生懸命頑張るんで応援宜しくお願いします。」
と感動の結果でリングを下りた。

後藤啓太側セコンドの木村充利氏は、「後藤啓太の油断でしたね。攻めていたんだけど、これで勝つかって時にパンチ貰っちゃったんで、もう油断の一言で、勝ってる試合を落としてしまったんで勿体無かったですね。」
という残念さを語っていました。

相当嬉しかったか、耐え切れなかった山内ユウの涙

◆第5試合 ウェルター級3回戦

JKAウェルター級5位.我謝真人(E.D.O/神奈川県出身/ 66.6kg)14戦3勝(1KO)9敗2分
     VS
健吾(BIGMOOSE/千葉県出身/ 66.15kg)5戦3勝(1KO)1敗1分
引分け 0-0
主審:児島真人
副審:宮沢28-28. 小林28-28. 中山28-28

蹴りの距離から接近戦、互いに組み合うシーンが増えると健吾のヒジ打ちが繰り出されて行く。第2ラウンドには我謝の右ローキックで健吾から軽いノックダウンを奪うが、今度は健吾のヒジ打ちで我謝が左眼尻を斬られる。最終ラウンドも接近戦で我武者羅の打ち合いが続くが、打ち合いながら健吾のヒジ打ちで我謝は圧され気味に進み、ジャッジ三者とも差が付かない結果に落ち着いた。

我謝真人と健吾の打ち合いの中、健吾のヒジ打ちが我謝を襲う

◆第4試合 フェザー級3回戦

石川智崇(KICK BOX/神奈川県出身/ 56.85kg)6戦3勝2敗1分
      VS
松岡優太(チームタイガーホーク/宮城県出身/ 56.95kg)3戦2勝1分
勝者:松岡優太 / 判定0-3 (28-30. 29-30. 29-30)

蹴り中心の攻防は松岡優太の的確差が優っていく中、セコンドの「もっと蹴れ!」の声にはなかなか蹴って行かない松岡だったが僅差判定勝利となった。ただ、ジャッジ三者が揃ったラウンドは無く、もっと蹴って出れば明確な差となっただろう。

松岡優太の左ハイキックが石川智崇の鼻頭を掠める

◆第3試合 ライト級3回戦

菊地拓人(市原/千葉県出身/ 61.1kg)6戦4勝(2KO)2敗
     VS
石井隆浩(尚武会/東京都出身/ 59.8kg)2戦2敗
勝者:菊地拓人 / KO 1ラウンド 2分56秒

◆第2試合 バンタム級3回戦 

紫希士(Formed/福岡県出身/ 53.3kg)3戦3勝
      VS
九龍悠誠(誠真/神奈川県出身/ 53.55→53.52kg)4戦1勝(1KO)3敗
勝者:紫希士 / 判定3-0 (30-28. 30-29. 30-28)

◆第1試合 ミドル級3回戦

白井大也(市原/千葉県出身/ 72.8→72.75→72.5kg)4戦2勝(1KO)2分
        VS
ソムプラユン・ヒロキ(DANGER/茨城県出身/ 71.85kg)7戦2勝5敗
勝者:白井大也 / 判定3-0 (30-28. 30-28. 30-29)

《取材戦記》

キリョウは前日計量であと90グラムというところで諦めた流れ。すでにフラフラの状態で、プロモーターの八木沼氏も更なる減量は勧めなかった。命が大事。より無理を課すことはせず、体調回復に努めさせました。丸一日あったリカバリーの時間で体調回復はしたものの、弱点となるボディーへの減量の影響は脆くも浮き出てしまった試合でした。

三日月蹴りとは格闘技界では有名な蹴りで、ミドルキックと前蹴りの中間域という意味と、相手の右脇腹にある肝臓に、左足の親指の付け根の中足を当てるというピンポイントを狙った蹴り言われます。

近年はカーフキックという注目され始めた蹴りがあり、ともに蹴りに行く側の足も当たり所が悪いと自らダメージを負う恐れがあるも、ヒットすれば効果的な蹴りとなるようです。

最近、キックボクシングにおいては“回し蹴り”という言い方が少なくなった気がします。ハイキック、ミドルキック、ローキックが主で、空手では上段回し蹴り、中段回し蹴り、下段回し蹴りと言うかと思いますが、元々空手から引用した技をキックボクシング創生期から使って来たのでしょう。時代の流れで踵落とし、カーフキック、三日月蹴りへ移り流行って来ました。

というこの日の興行とは関係無い方向へズレましたが、西原茉生の三日月蹴りから脱線話となりました。

次回ジャパンキックボクシング協会興行は11月17日(日)、後楽園ホールに於いてKICK Insist 21が開催されます。フェザー級王座戴冠した皆川裕哉の初防衛戦が予定されています。目黒の伝統“防衛してこそ真のチャンピオン”を越えて数度防衛を視野に頑張る皆川裕哉の試合捌きに注目です。

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
昭和のキックボクシングから業界に潜入。フリーランス・カメラマンとして『スポーツライフ』、『ナイタイ』、『実話ナックルズ』などにキックレポートを寄稿展開。タイではムエタイジム生活も経験し、その縁からタイ仏門にも一時出家。最近のモットーは「悔いの無い完全燃焼の終活」